icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻1号

1998年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

肝細胞癌

著者: 筆宝義隆 ,   大西真

ページ範囲:P.6 - P.13

新しい知見
 肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を母体として肝臓に発生する悪性腫瘍である.近年ではこれらの基礎疾患を持つ患者に対する定期的なスクリーニングの普及と,解像度が高く,高度な質的診断が可能な画像診断や,感受性・特異性の高い腫瘍マーカーの開発により,早期に発見される症例が増えてきている.また,治療法も従来の外科手術や動脈塞栓術(TAE)以外にも,侵襲の少ない内科的治療(エタノール注入療法,マイクロ波疑固療法)が急速に普及してきており,肝機能が悪くて,従来なら治療不可能な症例にも治療が可能になってきている.輸血や母子感染を契機とする肝炎ウイルス感染の予防が奏効し,肝細胞癌は将来的には減少に転じると予想されているが,今後十数年以上は依然として多くの新規症例が発生するものと思われる.

技術講座 微生物

Streptococcus milleri groupの同定

著者: 仲宗根勇

ページ範囲:P.15 - P.19

新しい知見
 “Streptococcus milleri” groupはヒトの口腔,咽頭,腸管,腟などの粘膜に常在するレンサ球菌である,1956年,Guthofによって口腔内膿瘍から分離された非溶血性レンサ球菌がS. milleriと呼ばれるようになって以来,この菌種または菌群の分類学的位置づけにはしばしば変更が加えられてきた.
 Whileyらは1991年にDNA-DNAハイブリダイゼーションによる解析からS. milleri groupはお互いに独立したS. anginosus,S. constellatus,S. intermediusの3菌種を提案し,さらに8種類の酵素活性を検出することにより,3菌種の鑑別が可能であることを報告した.現在では,Whileyらの報告した数種の酵素を含む同定キットが市販されており,臨床検査においても3菌種の分類は可能となっている.

病理

観察のポイントと撮影—電子顕微鏡の技術[2]

著者: 山崎家春

ページ範囲:P.21 - P.28

新しい知見
 通常使用されている電子顕微鏡で加速電圧を80〜120kVで使用した場合,電子線が試料切片を透過できる厚さは約300nmであり,鮮明な像が観察できる.厚い試料切片を観察するには,より高圧の加速電圧を使用することで可能になるが,像は不鮮明になる.高圧電子顕微鏡を使用し,厚みのある試料切片を撮影した後,試料切片に傾斜をつけ,角度を変えて同一場所を撮影して,その2枚の写真を並べてステレオ観察法で見ると,立体感のある像として見ることができる.この方法で,試料切片の厚さの分だけ,対象物の連続性や方向性を立体的に確認することが可能になってきている.

生理

除細動器の取り扱いかた

著者: 原正壽

ページ範囲:P.29 - P.34

新しい知見
 ようやく日本でも救命救急士制度が発足し,多くの救急救命士が活躍するようになってきた.救命救急士に最も期待されるのが,半自動除細動装置(図10)による救命処置である.半自動除細動器は,もともと米国で研究・開発された.米国では心筋梗塞による死亡率が高く,また地理的に病院が散在することから,救急搬送中の不整脈死が多いことがその理由である.日本においても生活の欧米化に伴い,心筋梗塞の発症が増加している.心筋梗塞急性期では心室細動が発生しやすく,病院に到達する前に多くの患者が不整脈で命を落とす.この装置は,心室頻拍や心室細動を自動的に感知し,除細動可能となる装置である.ただし,実際に除細動のスチッチを押すのは,救命救急士自身であり,半自動と呼ばれるゆえんである.

一般

尿試験紙の現状と問題点

著者: 下瀬雅士

ページ範囲:P.35 - P.39

新しい知見
 診療報酬点数が1996年に改定された.以下の項目が1996年度の改定の主要項目である.
 (1)医療施設の機能分担の推進

血液

サラセミアの遺伝子診断

著者: 服部幸夫

ページ範囲:P.41 - P.47

新しい知見
 先天性溶血性疾患の1つである“サラセミア”は,かつては日本人にはないと思われていたが,その確定診断である遺伝子診断により日本人にも少なからず存在することが明らかとなった.ところで,遺伝性疾患に関しては遺伝子診断の臨床検査への導入ははかばかしくない.各疾患の頻度が低いわりには種類が多く,また同一疾患でも変異が多岐にわたっているために画一的分析が難しいのがその一因である.しかし,サラセミアについては血液学的スクリーニングと簡単な遺伝子診断法により,ルーチンの特殊検査として扱える可能性がある.

造血幹細胞移植と検査

著者: 稲葉亨 ,   藤田直久 ,   島崎千尋 ,   辻肇

ページ範囲:P.49 - P.54

新しい知見
 造血幹細胞移植の急速な普及とともに,フローサイトメトリーによるCD34陽性()細胞の測定は不可欠になりつつある.最近では内部標準ビーズを用いたCD34()細胞の絶対数測定システム(ProCOUNT,Flow-Count)が開発され,従来法に比べて測定誤差が減少することが期待される.さらに測定方法の標準化や精度管理にも目が向けられるようになってきており,フローサイトメトリーによるCD34()細胞測定は新たな変革期を迎えようとしている.

日常染色法ガイダンス 多糖類の日常染色法—単純多糖類(グリコーゲン)の染色法

α-アミラーゼによる消化試験

著者: 宮平良満 ,   岩井宗男 ,   宮本敬子 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.59 - P.61

目的
 細胞質内の糖原(グリコーゲン)を染めることを目的として古くからヨウ素反応やシッフ(Schiff)反応,そしてカルミン色素を用いた染色(ベストカルミン染色)など各種の方法が利用されてきた.その中でも糖質を過ヨウ素酸で酸化させて生じたアルデヒド基をシッフ試薬で呈色する(シッフ反応)PAS染色が現在では一般的な糖質の証明方法として活用されている.
 しかし,いずれの方法においてもグリコーゲンのみならず粘液など他の多糖類も同時に染めてしまうので,陽性物質がグリコーゲンであることを証明するためには唾液やジアスターゼ,α-アミラーゼなどの消化酵素によってその物質が消化されることを確認しなければならない.本稿では日常的に行われている各種の消化方法の中で,特にα-アミラーゼを用いた消化試験について留意点も含めて記す.

組織内血液細胞・酵素の日常染色法

ナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ(ASD)染色

著者: 松本荻乃

ページ範囲:P.62 - P.64

目的
 酵素抗体法は著しく発展し,細胞の由来や分化段階を同定することが可能となり,日常検査として広く用いられるようになっている.しかし,ナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ(ASD)染色はLederが1964年に紹介して以後,今なお有意義で,血液疾患の特殊染色の1つとして欠くべからざるものである.これは好中球系細胞(肥胖細胞も陽性を示す)に発現しているナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼを染色することにより,前骨髄球以降の好中球系細胞を同定する染色である.白血病細胞がこの染色法により多少なり陽性を示せば骨髄性白血病と確認することができるし,また,陽性芽球細胞の多寡で分化程度を知り,急性骨髄性白血病の亜分類も推測できる.

検査データを考える

肝炎ウイルスの検査結果

著者: 堤武也 ,   小池和彦

ページ範囲:P.65 - P.69

はじめに
 肝炎ウイルスとしては,A,B,C,D,E,G(?)型が現在知られている.それぞれの肝炎ウイルスについて血清学的な検査が発達し,肝炎の診断および治療方針の決定に不可欠なものとなっている.
 本稿では,その中でも日常よく遭遇し,また血清学的検査の結果の解析が病態の診断に重要であるB型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)について述べる.

検査の作業手順を確立しよう 総論

臨床検査におけるQAと検査室の認定概要

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.71 - P.75

はじめに
 本シリーズでは“検査作業書”について考えてみたい.“検査作業書”とは,各検査部門での検査に関する作業内容を文書化し,もし問題が生じた場合は,どこに戻ればその原因が解明できるかがわかる内容のものである.各検査部門ではこのような文書を準備する必要がある.それを整備することは病院機能評価における検体検査部門の「検査の標準作業書」の有無への対応と,さらに国際的に作業が進められている「検体検査に関する検査システムの標準化」で扱われる検査室での作業内容や検査室の認定などへの対応につながるからである.
 すでにその例として,検査センター(登録衛生検査所),会社の研究部門や検査部門,あるいは工場などでの作業書がある.しかし,病院の検査部門ではこのような文書の準備は十分ではない.検査法それ自体のマニュアルに追加して,どのような手順で検査業務を行うのかという作業手順についての内容をまとめておくべきである.担当者しかわからないようなやりかたや,わからないとすぐメーカーに聞くというようなやりかたは改善する必要がある.そして,作業中に問題が生じたら,どのように対処するのか,あるいは何が不備だったのかなどが解析できるような作業手順書を整備すべきである.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・1

総論

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.77 - P.80

機器性能試験法のシリーズを始めるに当たって
 臨床検査はその目的から,迅速にデータを臨床に届けるために,各種の分析機器が活用されている.これらの機器には最新の技術が応用されている.また,操作性などからコンピュータ化され,さらにブラックボックス化が進んでいる.ややもすると,分析内容やその過程が観察できないまま結果が出てくることにもなる.信頼性のある測定結果を得るには,測定原理や試薬性能などの理解以外に,機器の特性や性能について把握できていることが必要になる.
 このシリーズでは検体検査用の代表的な機器について,その性能を確認するための実践的な試験法とその具体例を示す.

ラボクイズ

問題:骨髄像

ページ範囲:P.56 - P.56

'97年12月号の解答と解説

ページ範囲:P.57 - P.58

オピニオン

真のチーム医療を目指して

著者: 家入蒼生夫

ページ範囲:P.14 - P.14

 “オピニオン”として依頼された原稿を書いたわけですが,オピニオンというより自分自身あるいはわれわれの施設・部署への課題としての意味が強いものになりました.
 小生,同じ施設内での異動で内科(内分泌)から臨床検査の仕事に携わるようになって以来,4年余りが経過致しました.表題の“真のチーム医療を目指して”は,初めからの行動指針であり,行動目標でした.

けんさアラカルト

保健所勤務検査技師の役割

著者: 海老沢三枝子

ページ範囲:P.20 - P.20

 一昨年(1996年)6月,当保健所管内学校給食施設の献立のメニュー約40種類について,病原性大腸菌O157の検査を実施した.実施の動機は,5月に岡山県で病原性大腸菌による食中毒の集団発生があり,小学生2名が死亡したことからである.
 当保健所では,給食関係の検査はこれまで未実施であり,“保健所としてこの機会に実施しよう”と意見が一致した.実施に当たりわかったことであるが,給食施設でも大腸菌O157への不安は大きく,検査を行ってほしいという意向が強くみられた.大腸菌O157の検査は初めての試みであったが,県衛生研究所の指導を受けてスムーズに進めることができ,また研修会で腸管出血性大腸菌O157感染症の概要を知ることができ,大いに役だった.

トピックス

出血性大腸菌O157腸炎の超音波像

著者: 渡辺智裕 ,   冨田周介 ,   藤堂彰男 ,   簔輪和士 ,   岩崎信広 ,   曽我登志子 ,   田村周二 ,   杤尾人司 ,   森本義人 ,   黒川学

ページ範囲:P.81 - P.83

はじめに
 腸管出血性大腸菌の発見の契機となった食中毒事件は1982年に米国オレゴン州で発生した.この食中毒の推定原因食はハンバーガーで,Rileyら1)がEscherichia coli O157:H7による出血性大腸炎として初めて報告した.わが国においても,1996年の夏,全国で腸管出血性大腸菌O157:H7による感染者が多発し,大きな社会問題となった.O157腸炎が既存の腸炎と大きく異なる点は溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome;HUS)と意識障害などの重篤な合併症の存在である.
 O157腸炎は通常,便からの培養法または便からのPCR(polymerase chain reaction)法においてO157を直接検出することにより診断されている.ほかに,抗O157抗体を用いた血清診断も臨床応用されつつある.また最近,O157腸炎の内視鏡所見および組織所見に関する報告が散見されるが,内視鏡所見からは虚血性腸炎との鑑別が困難とするものが多い2〜5).一方,O157腸炎の超音波像についての報告はほとんどなされていないが,超音波検査は非侵襲的で,かつ簡便であり,O157腸炎の診断に有用であると考えられる.

脳手術後の脳血管攣縮

著者: 渋谷肇 ,   林成之

ページ範囲:P.83 - P.86

はじめに
 脳血管は通常,髄液で満たされたクモ膜下腔にあるが,脳動脈瘤破裂などでクモ膜下腔に大量の血液が流入した場合,3〜14日で脳血管攣縮が発生する.脳血管攣縮は脳血管撮影上,血管径の狭小化として認められ,脳循環時間の遅延もみられるが,可逆性の変化で,数日から1,2週間の時間経過とともに血管径,脳循環時間も正常に戻ることが多い.脳血管攣縮が発生すると,その血管の支配領域に脳虚血症状がみられるが,その程度は無症候性のものから非可逆性の脳梗塞に陥るものまであり,特にクモ膜下出血術後の予後を決定する重要な因子となっている.脳血管攣縮の発生頻度は,一般的に出血量の多い重症例に多く,約50〜70%といわれ,そのうち重症化するものが約30%程度みられる.現在でも脳血管攣縮の発生原因はわかっておらず,根本的な治療法は確立されていないため,予防法として早期のクモ膜下腔血腫除去や,大量補液によって循環血液量を増加させる対症療法が行われている.重度の脳血管攣縮が起こってしまった場合,攣縮血管に対する唯一直接的な治療法は,脳血管内手術による経皮的血管形成術や超選択的な血管拡張薬の動脈内注入である.
 本稿ではクモ膜下出血術後の脳血管攣縮について,検査法,治療法の要点を述べる.

結核治療のガイドライン

著者: 山岸文雄

ページ範囲:P.86 - P.88

はじめに
 1986年(昭和61年)に結核医療の基準が改定され,初回標準治療方式が採用された.この治療方式は,軽症例にはイソニコチン酸ヒドラジド(INH)およびリファンピシン(RFP)の2剤併用療法を6〜9か月間,中等症以上の症例にはINH・RFP・ストレプトマイシン(SM),またはエタンブトール(EB)の3剤併用療法を6か月間,次いでINH・RFPの2剤併用療法を3〜6か月間行うのを標準とするものである.この治療方式は,初回からINH・RFPを含む強力な処方であり,治療期間の短縮を含め,わが国の結核医療の標準化,適正化に大きく貢献してきた.
 一方,世界的には治療初期の2か月間にピラジナミド(PZA)を加える初期強化短期療法が広く標準治療方式として受け入れられており,WHOも標準治療方式の1つとして勧告している.

喘息死

著者: 冨田尚吾 ,   秋山一男

ページ範囲:P.88 - P.90

はじめに
 近年,喘息患者数は年々増加しており,小児のみならず成人領域でも問題となってきている.現在,児童の有病率は5〜6%,成人では約3%という数字である.実際の数値に直すと,成人で300万人,小児で100万人ぐらいの患者がいる.このような有病率の増加以外に,さらに大きな問題として,喘息死という問題がある.厚生省の統計によると,わが国の喘息死亡率は40〜50年前よりかなり低下し,1980年代に入り安定してきており,ここ十数年では年間全人口10万人当たり約5人程度の死亡率を認めている(図1).この数字は欧米の人口10万人当たり2人前後の死亡率と比較すると,まだまだ高いと考えられる.1989年度の厚生省成人喘息実態調査では,成人気管支喘息患者における年間の喘息発作死亡率は約0.3%,すなわち1,000人に3人が発作で死亡している1).実数での喘息死は毎年約6,000人(図2)といわれており,この数字は,例えば子宮癌,乳癌,白血病で亡くなる方よりも多い数字で,必ずしも低いとはいえない.さらに問題なのは,5〜34歳までの若年層での喘息死が最近増加しつつあることである(図3)2).なぜ喘息死は減らないのか,喘息死を減らすにはどうすればよいか,わが国の喘息死の現状をもとに考えてみたいと思う.

狭心症患者のCRP上昇と心筋梗塞の予知

著者: 谷川直 ,   橋本賢一

ページ範囲:P.90 - P.91

はじめに
 最近,狭心症患者においてCRP(C-反応性蛋白)が上昇している場合,心筋梗塞の発症や突然死の頻度が高いという報告1〜3)がある.
 本稿ではECAT(the European Concerted Actionon Thrombosis and Disabilities)狭心症研究グループの報告を中心に解説する.

けんさ質問箱

Q 血漿の溶血活性

著者: 平野武道 ,  

ページ範囲:P.93 - P.96

補体の溶血活性測定時,ACD液に採血された血漿に溶血活性が認められます.そのメカニズムについてご教示ください.

Q 心電図のflat T波とnegative T波

著者: 兼本成斌 ,  

ページ範囲:P.96 - P.98

心電図でみられるflat T波とnegative T波出現のメカニズムとその原因(いろいろあるとは思いますが)についてご教示ください.

今月の表紙

髄液検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.55 - P.55

症例
 小児科外来より,39℃台の発熱,激しい頭痛と嘔吐を主訴とする5歳の男児から採取された髄液が届けられた.
 写真1 髄液は著しく白濁していた.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?