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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻10号

1998年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

自己免疫性肝炎

著者: 中沼安二 ,   片柳和義

ページ範囲:P.830 - P.836

新しい知見
 肝炎ウイルスがほとんど出そろい,1993年に肝炎ウイルスマーカー陰性の自己免疫性肝炎(AIH)の存在が確立された.国際AIH研究グループや厚生省「難治性肝炎」調査研究班が中心となり,AIHの診断基準(表1〜3)が提唱されたが,それは記述的な診断基準とスコア化による診断基準からなる.
 わが国でのAIH症例が国際AIHグループの診断基準に照らし合わせて検討された結果,C型肝炎ウイルス(HCV)関連マーカーが陰性のAIH症例では,確診例が54%,疑診例が42.5%となり,この診断基準の有効性が指摘されている.

技術講座 生化学

潜在基準値の考えかたと統計処理法

著者: 細萱茂実 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.837 - P.842

新しい知見
 臨床検査における標準化の一環として,1995年にNCCLSより“基準範囲”の概念と設定法に関する指針が公告された.その内容は,従来のいわゆる“正常値”のとらえかたや設定法に誤解や混乱が多くみられた状況を配慮し,“基準値”を改めて再考したものとなっている.本指針で再定義された内容が普及するに伴い,基準範囲に対する考えかたも標準化されつつある.ただし,基準範囲の設定に関する処理過程のすべてが明確になったわけではなく,基準標本群の抽出法や標本に含まれる外れ値の除外法また統計処理法など,実践上の課題がいくつか残されている.それらの問題に具体的に対処するための手法の1つが潜在基準値抽出法である.その原理は多項目検査データを利用して外れ値を除外する考えかたであり,従来から提唱されていた概念を統計学的理論とデータ解析技術を駆使して実用化した手法である.

低コリンエステラーゼ血症の遺伝子解析法

著者: 須藤加代子 ,   前川真人

ページ範囲:P.843 - P.849

新しい知見
 1987年,ヒトコリンエステラーゼ(ChE)のcDNA,1990年にはその遺伝子(ゲノムDNA)の構造が明らかにされ,本酵素の遺伝子異常の解析が可能となった.日本人に特有な変異が報告され,頻度の高いG365R,L330I変異は(ミスマッチ)PCR後の制限酵素処理により判定可能となった.欧米,日本ともに10%以上の頻度で見いだされるK変異(A593T)も同様に簡易測定法が開発された.これらは検査室で十分測定可能である.

血液

プロテインCおよびプロテインS

著者: 西岡淳二 ,   登勉 ,   鈴木宏治

ページ範囲:P.851 - P.857

新しい知見
 プロテインC凝固制御系は,プロテインC,プロテインS,プロテインCインヒビターおよびトロンボモジュリンの発見以来,生理的に重要な血液凝固制御系であることが明らかにされるとともに,それらの先天性異常症が血管内凝固制御系の破綻をきたし,多くの症例で血栓症を発症することから,臨床的にも重要であることが実証されてきた.さらに,近年,欧米で新しいプロテインC凝固制御系の異常症(APC-レジスタンス)が発見され,V因子の分子異常症(Arg506→Gln)であることが明らかになった.この異常症は欧米白人に極めて多く,静脈性血栓症患者全体の15〜20%,患者の家族,親戚に血栓症患者がいる場合には約50%,健常人でも2〜4%は本疾患の素因を有すると報告されている.わが国においてもこの異常症の存在が検討されたが,日本人には認められていない.
 一方,最近,血管内皮細胞上に新しい細胞膜結合型プロテインCレセプター(EPCR)が発見された.EPCRは血管内皮細胞に特異的に発現され,特にプロテインC凝固制御系が有効に機能していないと考えられてきた大血管において顕著に発現され,トロンビン・トロンボモジュリン複合体によるプロテインCの活性化反応を促進する分子であることが明らかになった.

微生物

β-ラクタマーゼの分類

著者: 石井良和

ページ範囲:P.859 - P.866

新しい知見
 β-ラクタマーゼは従来,基質特異性,分子量,等電点,抗体との反応性などをもとに分類されていた.しかし,以前,広域スペクトルを有するセファロスポリナーゼとして分類されていたProteus velgarisのβ-ラクタマーゼは,構造遺伝子のDNAの塩基配列が決定されると,実はペニシリナーゼに分類されるべきであることが明らかとなった.また,第三世代セフェム系抗菌薬を分解する基質特異性拡張型β-ラクタマーゼも構造遺伝子の塩基配列の決定から,ペニシリナーゼの一種が突然変異を起こしたものであることが明らかとなった.このように,β-ラクタマーゼを分類する場合,基質特異性や生化学的性状のみを参考に分類するのは危険で,β-ラクタマーゼのアミノ酸配列をもとに分類すべきであると考えられている.

生理

末梢神経伝導の検査法

著者: 今井忠彦 ,   向井照二

ページ範囲:P.867 - P.875

新しい知見
 最近の重要な話題は,新しい刺激装置である磁気刺激装置が開発されたことである.その原理は,コイルないし8字型の刺激装置で1.5テスラの磁場を加え,頭皮上運動野を刺激するものである.下行性の運動神経伝導を検討するものとして初めに応用されたが,脊髄神経根を刺激し,末梢神経近位部の検査にも多数の研究が報告されている.従来,神経伝導検査は主に四肢の末梢部で施行し,近位部はF波などで間接的にしか反映されなかった.しかし,今後臨床応用が進むものとして期待される.また,より高圧の電気刺激装置も開発され,背部表皮上からの刺激で安定して筋活動電位を得られるようになった.刺激の持続時間は短く,心配される疼痛は起こらない.
 通常の神経伝導検査では,髄鞘病変,すなわち脱髄に対して感度が高いのに比べて,軸索障害の情報は少ない.従来から,軸索膜の刺激閾値を調べることによって軸索の機能を見る方法が紹介されていたが,手技が難しかった.条件刺激と試験刺激を組み合わせて,複合筋活動電位を記録して,運動神経の興奮閾値をそれぞれ調べる方法も開発された.しかし,刺激装置,記録装置が特殊で,市販されていないため,普及には至っていない.

日常染色法ガイダンス 組織内病原体の日常染色法—真菌の染色法

グロコット染色

著者: 布施恒和

ページ範囲:P.879 - P.883

目的
 病理組織学的に真菌症を診断するには,組織内の菌体の確認と微細構造を把握して,真菌を的確に同定することが重要である.
 グロコット染色はカンジダ,アスペルギルス,クリプトコッカス,ムコールなどの真菌,ニューモシスティス・カリニなどの原虫と他の染色法で染色されにくい放線菌,ノカルジアなどの原核真菌類も染め出す染色法である1〜4).特に菌体の膜成分を明瞭に染色するため,菌の特徴的構造の把握は容易となり,菌種の同定には不可欠な方法である.

線維素の日常染色法

ワイゲルト法

著者: 鳥居良貴 ,   山本格士

ページ範囲:P.884 - P.886

目的1)
 ワイゲルト(Weigert)法は,血漿中に含まれるフィブリノゲン(fibrinogen)が凝固・析出した線維素(フィブリン;fibrin)をはじめ,漿膜・粘膜・肺などで種々の炎症に伴う滲出物や膠原病,リウマチ性肉芽腫,アレルギー性疾患の血管壁およびその周辺に限局性に見られる線維素様変性,また播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)症候群における微小血管内の線維素血栓などを染め出す染色法である.
 本染色法の原理は,組織内細菌染色のグラム(Gram)染色とほぼ同様である.機序ははっきり確立されていないが,塩基性色素溶液と酸性媒染剤であるルゴール液を作用させるとレーキが形成され,組織に沈着すると考えられている.しかし,線維素や類線維素に特異的な組織化学的反応ではない.

検査データを考える

クレアチニンクリアランス

著者: 堀尾勝 ,   福永惠 ,   折田義正

ページ範囲:P.887 - P.891

はじめに
 糸球体濾過量(glomerular filtration rate;GFR)は腎不全の程度および進行速度を評価するうえで臨床的に重要な指標である.GFR測定は,糸球体で自由に濾過され,尿細管で代謝・輸送を受けない物質のクリアランスとして測定される.イヌリン(分子量5,200)はこの条件を満たしており,国際的にもイヌリンクリアランス(Cin)がGFR測定の原法である.しかし,イヌリンはわが国では検査試薬としてヒトへの使用が認可されておらず,測定法も煩雑で日常検査法としては普及していない.臨床的には内因性クリアチニンクリアランス(Ccr)が簡便なGFR測定法として広く利用されている.Ccrの検査値を読むということは,GFRをどう評価するのかということと同義である.しかし,クレアチニンは理想的なGFR物質ではなく,Ccr測定はクレアチニン測定法,蓄尿法に伴う誤差を含んでいる.このため,CcrがGFRに一致しないこともまれではない.Ccrの限界を知ったうえでGFRを評価することが重要と考えられる.

検査の作業手順を確立しよう 免疫化学(血清)検査・2

自己抗体の検査

著者: 三上恵世

ページ範囲:P.893 - P.899

はじめに
 生体内では絶えず自己認識を行いながら免疫学的恒常状態を維持しているが,これらの反応が一定以上に進行しないように多重の調節機構が存在する.
 しかし,なんらかの原因により調整機構が破綻をきたすと,過剰な免疫反応が起こり,大量の“自己抗体”が産生されたり,自己反応性T細胞などの活性化により,種々の自己免疫疾患の病像がつくられていく(図1).

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・9

試薬容量

著者: 飯塚儀明 ,   桑克彦

ページ範囲:P.901 - P.902

はじめに
 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験法のうち,試薬容量について,東芝TBA-200FRを例にして示す.

ラボクイズ

問題:よく見られる衛生動物【2】

ページ範囲:P.876 - P.876

8月号の解答と解説

ページ範囲:P.877 - P.877

オピニオン

Customer's Satisfaction

著者: 玉井誠一

ページ範囲:P.850 - P.850

 “財政逼迫のもとでの良質な医療提供”という課題を世界中の医療従事者が担っている,といってよい時代になりました.アメリカだけでなく,ヨーロッパの病院でも,企業経営領域での流行語である“Customer's Satisfaction”を目標として,医療のリストラが進行しています.一方,現在の日本の医療界では,この標語が“Patiellt's Satisfaction”と言い直され,広まっています.
 ところで,医療におけるcustomerとは何でしょうか.customer=patientでしょうか.最近私が読みましたGary B.Clark著『Systematic Quality Management』では,病院検査部の目標とするCustomer's Satisfactionのcustomerの範囲に関して,患者ばかりでなく,医師,看護婦,事務員などの病院関係者とともに,実際に検査部の業務に従事している臨床検査技師なども,検査部にとってのcustomerであるとしています.経営学,特にマーケティングの領域でのcustomerの定義との違いはともかくとして,私はこのClark氏の考えかたの健全さに感心しています.

けんさアラカルト

トロンボモジュリンの測定とその臨床的意義

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.858 - P.858

はじめに
 近年の医学・生物学領域の進歩,さらにはそれを応用した臨床検査の発展はめざましく,次々と新しい検査項目が実際の臨床の場に導入されている.血栓・止血領域における臨床検査は特にその進歩が著しく,凝固系・線溶系・血小板の活性化の分子マーカーが次々と臨床応用されている.専門外の者がこれらすべてを理解するのは困難というのが現状と思われる.本稿で紹介するトロンボモジュリン(TM)も,ややもすると多くの血栓・止血分子マーカーの中の単なる一項目として扱われる危険性があるが,血管内皮細胞障害マーカーとしてユニークかつ有用な位置づけがされるべきものである.以下,簡単に概説したい.

トピックス

低体温療法における脳内NO3とアミノ酸の動態

著者: 原克子 ,   高橋伯夫

ページ範囲:P.904 - P.906

はじめに
 低体温療法は,1943年,Fay1)によって重症頭部外傷患者の治療に試みられて以来,数々の優れた脳保護作用が報告された.1980年以後,低体温の脳保護効果は代謝抑制によるために,より低い低体温療法が求められた結果,合併症の頻度が増加し,危険な治療法とし一時中断された経緯がある.しかし,1989年にBustoら2)により33〜34℃のmild hypothermiaにより著明な脳保護効果があることが確認されて以来,脳損傷に対する有効な治療法と位置づけられている.
 本稿では,当院での重症脳障害患者における脳低体温療法時の一酸化窒素(安定な代謝産物としてNO3)と興奮性アミノ酸の動態と,脳内におけるそれらの物質の作用機序につき考察する.

AOAC Internationalとその活動

著者: 倉田浩

ページ範囲:P.906 - P.908

はじめに
 およそ生物系の分析科学を主業とする者でAOACInternationalの名を聞いたことがない人はいないと思う.Journal of AOAC Internationalの目を通さずには分析検査のリーダーは務まらない.しかし,実際にそれを発刊している機関がどのような組織を持ち,活動をしているのか,毎年1回行われる総会に出席しないと実態はなかなか把握できないであろう.会員になっていなければなおさらのことである.この機関は,いわゆる学会でもなければ公的機関でもなく,やはり1つの協会というべきか,AOAC Internationalに必ず「The Scientific Association Dedicated toAnalytical Excellence」と併記されている.優秀なる分析技術に献身する科学協会という意味で,大部分の分析技術関係者のボランティア活動からなっている.業務の中心は,開発技術者によって新しい分析法がつくり出された場合に,第三者の機関によって共同試験,審査を計画的に行い,その性能を第三者的に承認(validation)する仕事で,医薬理農と広範囲にわたる分野の検査技術が対象となっている.

酵素標準物質(ERM)

著者: 亀井幸子

ページ範囲:P.908 - P.910

はじめに
 光カードや電子カルテの時代がくれば,初めての病院でお世話になるような事態になっても,病歴や家族歴は言うに及ばず,今までどんな医療を受け,どんな薬を飲み,どんな検査データを持っているかなどの医療情報を,そのまま利用してもらうことができるのだろうか.
 情報を生かして無駄を省くためには,情報が標準化されていなければならない.血液化学検査の中では,酵素項目の施設間差が最も著しかった.日本臨床化学会(JSCC)の活動を中心にした酵素の検査値の施設間差解消の流れの中で,要となる酵素標準物質(enzymereference material;ERM)が1997年11月から供給されるようになった.

診療支援としてのコンサルテーションサービス

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.910 - P.913

コンサルテーションは検査室の当然の仕事
 検査項目は多種類に及び,1人の医師がすべての検査を理解できる時代ではなくなった.当然,検査の使いかたやデータの読みかたについて聞きたいだろうし,苦情を言いたいときもあるだろう.どんな業種でも物を売れば,これを使う人に疑問が生じることは当たり前である.顧客の要望,満足を満たすカスタマーズ・サティスファクション(Customer's Satisfaction;CS)を考えたとき,コンサルテーションを受けることは検査室の当たり前の業務である.このコンサルテーションは検査の有効活用へとつながり,診療を支援するというよりも診療の一部を担うという気概で取り組むべきである.

副腎アンドロゲンの生理的意義

著者: 浜野久美子

ページ範囲:P.913 - P.915

副腎アンドロゲンの今・昔
 副腎アンドロゲンとは,デヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone,以下DHEA)およびその硫酸抱合型のデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(dehydroepiandrosterone sulfate,以下DHEAS)およびアンドロステンジオンの総称である(図).いずれも臨床上なじみの少ないステロイドホルモンであり,これまでは男性ホルモンの前駆体としてのみ位置づけられてきたが,最近になって副腎アンドロゲンが医学の分野のみならず,世間一般において,いわゆる“若返りの妙薬”としてメラトニンと並んで注目を浴びるようになった.米国ではドラッグストアの店頭で,ビタミン剤同様に健康増進のため購入する光景が見られているという.そこで,副腎アンドロゲン,主としてDHEAについての知見を簡単にまとめ,ヒトにおける生理的意義について考えてみたい.
 ヒト副腎皮質からは,コルチゾールに代表される糖質コルチコイド,アルドステロンを中心とする鉱質ステロイドに加えて副腎アンドロゲンが分泌されている(図).DHEAS血中濃度にいたってはコルチゾールの10倍以上に達するにもかかわらず,その同定以来半世紀以上経つ現在まで,副腎アンドロゲンの生理的意義については未知の部分が多かった.

けんさ質問箱

Q ALP高値の男児

著者: 伊藤寿美子 ,   川崎理一 ,  

ページ範囲:P.917 - P.920

気管支喘息で入院中の男児,テオフィリン6.8,ALP9,330IU/lで高値以外,生化学,血算すべて正常です.抗てんかん剤服用中の子どもたちもALPが高値になることがありますが,その機序についてご教示ください.また,この男児はどんなことが考えられるでしょうか.

Q リウマチ(SLE,膠原病)と蛋白分画との関係

著者: 松野容子 ,   田中浩 ,  

ページ範囲:P.920 - P.923

一般開業医から「リウマチ患者はγ-グロブリンが高値を示すのではないか」との問い合わせがあり,「蛋白分画の中のγ-グロブリンのみではなく,アルブミンやα,α2など他のデータも参考に判断していただきたい」と参考文献なども添えて返事を差し上げたのですが,なかなか納得していただけません.適切なご教示をお願いいたします.

今月の表紙

喀痰の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.878 - P.878

 症例 インスリン非依存性糖尿病で治療中の54歳,男性.悪寒,発熱(38.5℃)などの感冒様症状が出現したため,市販感冒薬を服用したが改善せず,発熱(38.5℃),咳・痰の増加,軽度の胸痛,呼吸困難も出現したため内科を受診,胸部X線写真で肺炎像を指摘され緊急入院.起炎菌検出のため喀痰が提出された.
 写真1 患者の喀痰.肉眼所見はMillar & Jonesの分類では「P2」に分類された.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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