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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻11号

1998年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

急性肺血栓塞栓症

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.930 - P.938

新しい知見
 疫学的に見て,臨床上有意な肺血栓塞栓症のわが国の発生頻度は米国の1/50と考えられる.米国での年間発生数は50〜60万人とされ,1/50でも相当な患者数になる.わが国でも発症2時間以内に死亡する症例が8%の頻度で見られ,発症即死亡に至るような致死性急性肺血栓塞栓症が,欧米に近い相対的頻度で発症することが明らかになった.治療の第一選択薬は従来どおりヘパリンであるが,急性肺血栓塞栓症は新鮮血栓が肺動脈を閉塞する疾患であり,発症初期の血栓溶解療法が有効である.それゆえ,早期診断・早期治療の必要性が高まった.今後ますます問題になる疾患だけに,本症の理解と認識が臨床の現場で要望されてきている.

技術講座 生理

トレッドミル負荷心電図のとりかた

著者: 國島友之 ,   武者春樹

ページ範囲:P.939 - P.949

新しい知見
 運動負荷試験による心筋虚血誘発には多種の日内変動要因が関与し,従来より午前中に心筋虚血変化が誘発されやすいと報告されているが,必ずしも一律ではなく,施行時間により多様な反応を認める.また,心室頻拍や心室細動の発生直前にT波の微小変化が交互に現れる現象(T wave alternans)が報告されている.これは,非侵襲的な運動負荷(エルゴメーター負荷)・心房ペーシング・薬物負荷で心拍数を110拍/分以上に安定させた状態でのT波の1心拍ごとの面積を周波数解析し,周期性を検討するもので,突然死の可能性を示唆するものとして注目されている.同様に標準12誘導心電図における最大QT間隔と最小QT間隔の差(QT dispersion)も心室再分極過程の不均一性を反映し,突然死を誘発する心室頻拍や心室細動などの重症不整脈の発生の指標と注目されている.近年,運動負荷試験中のQT dispersionの変化が心筋虚血の影響を受けることが明らかになってきており,今後の検討が望まれる.

一般

胃液の一般検査

著者: 島田勇

ページ範囲:P.951 - P.957

新しい知見
 胃癌や胃・十二指腸潰瘍の診断・治療技術の進歩に伴い,胃液検査は減少傾向にあるといえる.しかし,一方で従来と違った観点で胃液検査を実施しているケースもある.
 胃液検査の主要項目である酸度測定では,古くから行われてきたテッペル・ミカエリス法などのpH指示薬による呈色滴定法に代わって,pHメーターまたはpHスタットによる方法が推奨されている.

免疫

ベンスジョーンズ蛋白の測定法

著者: 藤田清貴

ページ範囲:P.959 - P.966

新しい知見
 ベンスジョーンズ蛋白(Bence Jones protein:BJP)は,56〜60℃の熱処理で混濁し,100℃付近で再溶解する特異な熱凝固性を示す蛋白質で,多発性骨髄腫などの悪性疾患で出現する頻度が高い.最近,BJPが腎糸球体に沈着し,結節性病変などの腎機能障害を起こすL鎖沈着症(light chain deposition disease;LCDD)が注目されている.その中には検出感度の高い免疫固定電気泳動法でしか検出できないBJP例もあり,BJP測定法の選択,および臨床医との情報交換を十分に行わないと,これらの病態は見逃される危険性がある.

病理

細胞診の精度管理

著者: 谷口恵美子 ,   覚道健一

ページ範囲:P.967 - P.972

新しい知見
 色調の表現には色相,彩度,明度の3つの要素が必要である.これらの要素を数値化したものが,1972年に国際照明委員会で制定されたLab表色法である.Lの値を明度指数といい,100から0までの範囲の値で表される.abの値をクロマティクネス指数(色質指数)といい,±の符号を有する数値である.つまりL値は色の明るさの度合いを表し,数値が100に近くなると白に近づき,0に近くなると黒に近く濃い色となる.a値とb値はその組み合わせで色相と鮮やかさの関係を表し,a値は緑と赤の関係,b値は黄色と青の関係を示す.

日常染色法ガイダンス 核酸の日常染色法

メチル緑・ピロニン染色

著者: 岩原実

ページ範囲:P.977 - P.980

目的
 核酸にはデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)があり,蛋白質と同様に生命にとって必須の物質である.この2つの核酸は,ともにリン酸・ペントース・窒素塩基が結合したヌクレオチドの線状重合体である.この核酸を切片上で証明したり鑑別する方法としては,メチル緑・ピロニン染色(ウンナ・パッペンハイム法)が一般的に行われている.
 その原理の詳細は明らかではないが,核酸に含まれるリン酸基が好塩基性であることに由来し,塩基性色素であるメチル緑とピロニンの混合液で各々の核酸の重合度,すなわち分子の大きさで染め分けていると考えられている.つまり,DNAは高度に重合して巨大分子となっているためメチル緑に染色性を示し,RNAは低分子の重合状態にあるためピロニンで染色される.

内分泌細胞(細胞内顆粒)の日常染色法—膵島細胞の染色法

ヘルマン・ヘルストローム法

著者: 広井禎之 ,   河合俊明

ページ範囲:P.981 - P.983

目的
 ヘルマン・ヘルストローム法は,膵ランゲルハンス島D細胞を染め出すことを目的として施される.

検査データを考える

中性脂肪高値例

著者: 藤巻祐子 ,   寺本民生

ページ範囲:P.991 - P.996

はじめに
 血清脂質は主としてコレステロール,中性脂肪,リン脂質,遊離脂肪酸の4種類からなる.このうち,コレステロールエステルや中性脂肪は疎水性が強く血漿中に溶存できないため,リポ蛋白という安定した形を形成する.リポ蛋白は中心部にコレステロールエステルや中性脂肪を有し,表面に両親媒性脂質(遊離型コレステロール,リン脂質)とともにアポ蛋白を配置することにより,血漿中に安定した形で存在する.したがって,リポ蛋白はあらゆる脂質を有することとなる.リポ蛋白は含有する脂質の割合によって密度が異なり,この性質を利用して超遠心分離することで,カイロミクロン,超低比重リポ蛋白(very low densitylipoprotein;VLDL),中間比重リポ蛋白(レムナント,intermediate density lipoprotein;IDL),低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL),高比重リポ蛋白(high density lipoprotein;HDL)の5種類に分けることができる.
 本稿では,特に中性脂肪が高値を示す場合を論ずるが,中性脂肪を主とするリポ蛋白はカイロミクロン,VLDLおよびレムナントである.したがって,ここではこれらのリポ蛋白の代謝異常を星する疾患群を扱うことにする.

検査の作業手順を確立しよう 免疫化学(血清)検査・3

腫瘍マーカーの検査

著者: 阿部正樹

ページ範囲:P.997 - P.1002

はじめに
 腫瘍マーカーとは,腫瘍細胞またはその存在に反応した非腫瘍細胞が産生する物質で,それを組織,体液,排泄物中に検出することにより,腫瘍の存在,性状,広がりを知るための目印である1).この腫瘍マーカー研究の歴史は癌特異性が高く,早期診断に役だつ物質の追求であった.このため,腫瘍マーカーの検出には感度の高い測定系が要求され,その測定法も化学反応に始まり,寒天ゲル内沈降反応を経て赤血球凝集反応,ラジオイムノアッセイ(radioimmunoassay;RIA)法へと発展してきた.現在ではRIA法と比較して,施設,廃棄物などの制約が少ない酵素免疫測定(enzyme immunoassay;EIA)法を中心に,蛍光免疫測定法,ラテックスを用いた比濁・比朧法やカウンティングイムノアッセイ(counting immunoassay;CIA)法,ドライケミストリー法および化学発光反応を利用したより高感度な測定法が普及している.また,これらの測定法の進歩とともに,分析装置についても開発,改良が重ねられ,自動化による処理能力と精度の向上が進んでいる.
 本稿では,病院の検査室での腫瘍マーカー測定における作業手順と注意事項について考えてみたい.検査の全体的な流れを図1に示した.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・10

セルコンタミネーション

著者: 白田忠雄 ,   桑克彦

ページ範囲:P.1003 - P.1006

はじめに
 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験法のうち,セルコンタミネーションについて,東芝TBA-200 FRを例に示す.

ラボクイズ

問題:腹部超音波【2】

ページ範囲:P.974 - P.974

9月号の解答と解説

ページ範囲:P.975 - P.975

オピニオン

もっと大きな世界へ

著者: 上田國寛

ページ範囲:P.950 - P.950

第3の鍵
 私が臨床検査の現場を離れて4年経つ.この間臨床検査は,高まる総医療費抑制の嵐の中で苦しい歩みを続けているように見受けられる.日本経済全体の落ち込みも激しく,将来への展望はどうも芳しくない.一方,あと2年余でやってくる新世紀に,何か新しい医療の風を期待する向きもある.“遺伝子の世紀”,“予防医学の世紀”,“福祉の世紀”などの語が耳に入ってくる.“遺伝子”が臨床検査医学のこれからのフロンティアであり,臨床検査医の将来が“予防医学”にあることは明らかである.ここでは,臨床検査技師の未来を開く鍵として,3番目の“福祉”を取り上げてみよう.

けんさアラカルト

質量分析による臨床検査

著者: 清水章

ページ範囲:P.984 - P.985

 質量分析(mass spectrometry;MS)は病気の診断に大きく寄与している.これまで,MSはガスクロマトグラフィー(GC)と接続し,多くの代謝物の測定に使われてきた.なかでも有機酸代謝異常症の研究と診療に果たした役割が大きい.GC-MS分析では分子を誘導体化し低沸点化合物にして測定するので,分析対象となる物質は限られていた.しかし,1990年ごろから分子を壊さないソフトイオン化MS法が普及し始め,分析対象となる分子の範囲が広がった.ソフトイオン化MS法の中で,エレクトロスプレーイオン化MS法(ESIMS)が最も汎用されている.
 ESIMSでは難揮発性分子を測定することができ,HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の溶出液中の物質を分析するのにも適している.ESIMSによると,蛋白質分子中の数か所が荷電されて,複数の多価イオンが質量数/電荷として測定され,低質量域で精度の高い分析がなされる.また,HPLCをタンデムMS(MS/MS)に接続し,フラグメントイオンを分析することにより,ペプチド混合物のままで短時間にアミノ酸置換を明らかにすることができる.通常,約10pmolで明瞭なスペクトルが得られ,さらに,キャピラリーカラム先端にポリマー系あるいはシリカ系逆相樹脂を充填し,カラムを分析系に直結させ感度を上げると,10-15〜10-18mol量での分析が可能である.

トピックス

オルニチン脱炭酸酵素(ODC)とヒトがん

著者: 前川真人

ページ範囲:P.1007 - P.1008

 オルニチン脱炭酸酵素(ornithine decarboxylase;ODC)は図1のようにポリアミン生合成の第1段階であるオルニチンからプトレッシンへの変換を触媒する酵素である.プトレッシン,スペルミジン,スペルミンはポリアミンと呼ばれ,細胞の増殖と分化に必須であるが,一方毒性も高いことから,ポリアミンの生合成・分解に重要な役割を持つ酵素はいずれも代謝回転が速く,複雑な調節を受けている.ODCも反応生成物であるポリアミンによって負の調節を受けている.実際には,アンチザイムやアンチザイムインヒビターなどの存在が知られており,ODCレベルはかなり複雑に,かつ微妙に調整されている1)
 さて,ODCは上記のポリアミン合成に重要な酵素であることから,細胞増殖の生物学的マーカーと認識されており,1つのがん関連遺伝子といえる2).動物実験ではODC活性はがん化の引き金になるとともに腫瘍の進展の初期の段階に関与していることが示されている.また,臨床のヒトがん組織(乳がん,肝細胞がん,胃がん,大腸がんなど)においてODC活性の上昇が観察されている.これらの所見はODCの活性および蛋白量の増加から調べられてきた.また,がん組織におけるポリアミンの定量も行われ,正常組織に比べての増量が観察されている.

結核の罹りやすさは遺伝子によって決まるのか

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.1009 - P.1009

 マウスにおけるMycobacterium avium complex,M. lepraemurium,Leishmania donovani,Salmonella typhimuriumなどの感染に羅りやすさは,網内系細胞だけに発現するnatural-resistance-associated macrophage protein 1(Nramp 1)遺伝子の影響を受けていて,Nramp 1の169番目のアスパラギン酸がグリシンに変わると感染に対する抵抗性が変わることが,ノックアウトマウスを用いた実験で明らかにされている.ヒトについても,結核菌への感染しやすさに遺伝子の影響があることが,人種差1,2)や双生児研究法3,4)などによって示されていたが,結核菌に対する感受性を決める遺伝子は同定されていなかった.マウスのNramp 1遺伝子に対応するヒトのNRAMP 1遺伝子は,染色体の2q35に位置づけられており,多型の存在が知られている.最近,Bellamyらは西アフリカのガンビアにおいて,410例の成人の肺結核患者(喀痰塗抹陽性)と人種的にマッチさせた417例の健常者を対象に,NRAMP 1の型と結核に対する感受性との関連を調べ,その結果を報告した5)

脳死判定の誘発脳波における諸問題—短潜時体性感覚誘発電位(SSEP)と聴性脳幹反応(BAEP)

著者: 浦崎永一郎

ページ範囲:P.1010 - P.1012

はじめに
 脳死判定においては全脳死,脳幹死いずれの概念でも,延髄機能消失の他覚的判定が重要である.誘発電位を脳死判定の補助手段として利用する試みは多く,特に聴性脳幹反応(brainstem auditory evoked potentials;BAEP)と,短潜時体性感覚誘発電位(shortlatency somatosensory evoked potentials;SSEP)が広く臨床応用されている.しかし,これら誘発電位の脳死パターンは報告者によって異なり,また臨床的に脳死と判定されても誘発電位上は一見矛盾する結果が得られることがある.あるいは昏睡患者では,いわゆる脳死パターンの所見をとることはないのかという点についても検討を要する.本稿ではこれらの問題点を明らかにし考察を加える1〜3)

MALTリンパ腫

著者: 神山隆一

ページ範囲:P.1012 - P.1014

はじめに
 MALTリンパ腫とは,Isaacsonら1)により提唱されたmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)といわれる粘膜関連リンパ組織に発生する悪性リンパ腫の一型であり,現在その発生機序や進展,治療をめぐって注目を浴びているリンパ腫である.
 一方,MALTとは生体防御や粘膜免疫に関与しているリンパ組織で,外来抗原の侵入門戸にあたる消化管や気道・肺,唾液腺,泌尿生殖器などの粘膜に通常,後天的に形成されるリンパ装置である.したがって,生理的に存在する腸管の集合リンパ小節や孤立リンパ小節はnativeなMALTといえる.

救急処置のABC

著者: 野田聖一 ,   湯浅英樹 ,   明石勝也

ページ範囲:P.1014 - P.1016

はじめに
 救急蘇生法とは,生死にかかわる重篤な傷病者を救命するために行われる手当や処置であり,心肺蘇生法(cardio-pulmonary resuscitation;CPR)と止血法が含まれる.心肺蘇生法は,1961年にSafarが心肺停止では呼気吹き込み人工呼吸と胸骨圧迫心臓マッサージの組み合わせが有用であることを提唱した1)ことに始まり,その手技と理論は幾多の変遷を経て今日に至っている.すなわち,傷病者が呼吸停止,心停止,もしくはこれに近い状態に陥ったとき,人工的操作や処置を行って呼吸や循環を補助し,蘇生を図ることである.心肺蘇生法には,表に示すように気道確保から集中治療までが含まれるが,医療器具や救急医薬品を用いることなく,一般市民が行うことのできる基本的な救命処置を一次救命処置(basic life support;BSL)といい,一次救命処置を含めて医師,または看護婦や救急救命士が医師の指導下に,医療器具や救急医薬品などを用いて行う高度な救命処置を二次救命処置(advanced life support;ALS)という.
 本稿では,基本的な救命処置を中心に,心肺蘇生法の意義と現況,実際について述べたい.

けんさ質問箱

Q 膀胱洗浄液中の細胞診

著者: 佐竹立成 ,   夏目園子 ,   西川英二 ,   S.O.生

ページ範囲:P.986 - P.988

自然尿中の細胞と膀胱洗浄液中の細胞とは,出現する細胞の種類が異なり,その見かたも異なると思います.膀胱洗浄液中の移行上皮癌grade 0〜1の判定のしかたをご教示ください.

Q クラミジア抗体の検査法

著者: 宮下修行 ,   松島敏春 ,   M.H.生

ページ範囲:P.988 - P.990

クラミジア抗体の検査法についてご教示ください.また,陽性の数値と症状の相関性についてもご解説いただければ幸いです.

今月の表紙

喀痰の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.958 - P.958

 症例 60歳男性,門脈圧亢進症術後経過観察中の患者.肝硬変が悪化し肝性脳症と診断された.慢性腎不全,高アンモニア血症を呈し腹水を認めた.37.6℃の発熱,呼吸困難,胸部痛,血痰が出現したため,肺のCT検査をしたところ,肺炎が疑われ,起炎菌検出のため喀痰が提出された(7月11日).
 写真1:患者の喀痰.肉眼所見は粘稠性の強い鮮血を含む血痰で,Miller & Jonesの分類では“M2”に分類された.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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