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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻12号

1998年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

先天性血栓傾向

著者: 高松純樹

ページ範囲:P.1028 - P.1036

新しい知見
 先天的に血栓症を好発する疾患が血液凝固因子,あるいはその制御因子の異常であることが明らかになったのはAT III欠乏症が最初であるが,最も一般的になってきたのはプロテインC・トロンボモジュリン系による血液凝固制御機構とその欠損症が発見されて以来である.事実,この発見により従来原因不明であった多くの血栓症患者の成因が明らかになった.
 しかし,1993年のDahlbackらによる活性化プロテインC(APC)レジスタンスの発見は,単に新しい血栓性疾患の成因が見いだされたのみならず,凝固第V因子の凝固系に果たす役割の重要さが改めて明らかになった.すなわち,APCレジスタンスの病因の1つが,凝固活性はまったく正常であるが,トロンビンによる活性型が不活化されない第V因子の分子異常であり,北欧ではそのヘテロ型が数千人に1人の割合で存在していることが明らかになったことである.人種差があるために,東洋人や南北アメリカインディアンではほとんど見いだされていない点もまた非常に特異的である.

技術講座 生化学

浸透圧の測定

著者: 竹立精司

ページ範囲:P.1039 - P.1044

新しい知見
 血清や尿の浸透圧の測定は体液の濃縮・希釈の傾向を知るだけでなく,高ナトリウム(Na)血症,低Na血症,視床下部-下垂体後葉系におけるADH(抗利尿ホルモン)分泌異常や,多尿あるいは乏尿が見られるときに腎での尿濃縮(または希釈)機構が正常に作動しているか否かの判定と原因の検索に用いられる.また,体液の総モル濃度が測定できることから,手術,点滴,輸血,尿量異常,下痢,嘔吐時の緊急検査として,透析室やICUなどで測定されていることも多い.
 浸透圧の測定は,血清浸透圧単独では臨床的意義に乏しいことや,尿浸透圧は比重とよく相関することから,実施していない検査室も多いが,自動分析装置の進歩により簡単・迅速かつ高精度になってきており,臨床的な有用性も高いため,日常検査にも導入する意義はあると思われる.

微生物

サイトメガロウイルスの遺伝子検査

著者: 栄鶴義人 ,   南嶋洋一

ページ範囲:P.1045 - P.1050

新しい知見
 これまで,サイトメガロウイルス(CMV)の検出はPCRでCMV特異的バンドを増幅し,アガロースゲル電気泳動後,エチジウムブロマイド染色やプロット・ハイブリダイゼーションでPCR産物の確認を行っていた.しかし,この検出法では多検体の処理ができず,また検出までに時間を要するなどの欠点がある.
 最近,PCR産物を酵素抗体法で検出するPCR-EIA(PCR-enzyme immunoassey)法が開発され,CMVについてもキット化されている(AMPLICOR CMV).

一般

尿中NAGの測定

著者: 北橋繁 ,   石田繁則 ,   巽典之

ページ範囲:P.1051 - P.1057

新しい知見
 精漿中に腎機能の指標となる尿中蛋白や酵素が予想以上に多く存在していることが明らかになってきている.NAG,シスタチンC,トランスフェリンなど局所で産生されるものや,アルブミン,低分子蛋白など血清からの移行成分からなるものなどで,射精後少なくとも1日間は蓄尿,随時尿とも高値となり,腎機能の評価としては不適である.採尿は早朝第1尿を避けて,十分な尿量で中間尿を採取することが望まれる.

免疫

抗核抗体測定法

著者: 淺沼ゆう ,   川合眞一

ページ範囲:P.1059 - P.1065

新しい知見
 抗核抗体の測定はどの施設でも行えるようになり,膠原病を診断していく過程で有用な検査として利用されている.また,従来の間接蛍光抗体法以外にELISA法などの新しい測定法が開発されつつある.しかし,抗核抗体検査には必ず一定の率で偽陽性例があり,たとえ新規の方法であっても,抗核抗体が検出されたからといって安易に診断を下すべきではない.測定方法の違いによって得られる結果も異なることがあるので,抗核抗体の検査結果を見る際には,どの測定法によって施行されているかをよく知る必要がある.

病理

簡便なアンモニア銀液の作製方法

著者: 二反田隆夫 ,   楢原真二 ,   吉田愛知 ,   吉田浩己 ,   丸山征郎

ページ範囲:P.1069 - P.1077

新しい知見
 現在,病理組織診断において神経系線維,細網線維(および膠原線維),基底膜および真菌類の染色に用いられている鍍銀法が組織染色に応用されたのは,1904年,Bielschowskyが神経原線維を鍍銀染色で染めたのが最初である1〜4)
 組織染色に使われ始めたころの鍍銀法は染色結果が不安定であった.そのために,染色性の安定した鍍銀法の開発を目的とした染色法の改良と,いろいろな調製条件のアンモニア銀液が考案・工夫されている5)

日常染色法ガイダンス 内分泌細胞(細胞内顆粒)の日常染色法—下垂体細胞の染色法

PAS・オレンジG染色

著者: 広井禎之 ,   冨永晋 ,   舘亜矢子 ,   河合俊明

ページ範囲:P.1081 - P.1084

目的
 PAS(periodic acid Schiff)・オレンジG染色は脳下垂体の特殊染色で,下垂体前葉の内分泌細胞をPAS染色とオレンジGにより染め分けることを目的としている.

生体色素の日常染色法—消耗性色素(リポフスチン)の証明

シュモール反応

著者: 清水幹雄 ,   舟橋明美 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1085 - P.1087

目的
 生体内色素の中で,リポフスチン(消耗性色素)は自己貪食過程で発現し,変性したミトコンドリアやその他の細胞内小器官,グリコーゲン,脂肪滴などがリソソーム内で分解され,脂質と蛋白質とが重合したリポ蛋白の酸化により形成される.
 ヘマトキシリン・エオジン染色では,細胞質に黄色から褐色顆粒として認められ,この色素は老化現象とともに増加し,飢餓や栄養不良,内分泌障害,慢性消耗性疾患,薬剤の長期投与などの場合に,脳神経細胞や内臓諸器官の実質細胞に強い沈着を示す.

検査データを考える

補体寒冷活性化現象

著者: 上田一仁 ,   清水章

ページ範囲:P.1089 - P.1092

はじめに
 日常検査で血清補体価を測定していると,しばしば低補体価の症例に出会う.同時に測定したC3,C4蛋白量も低下傾向にあれば,生体内で補体系を活性化するような免疫複合体を持った自己免疫疾患,あるいは肝機能障害による補体系蛋白の産生不全などが疑われる.一方,血清補体価が測定感度以下,あるいは極めて低値であるのに対し,C3,C4蛋白量が基準範囲内である症例も存在する.C3,C4以外の補体系蛋白の欠損症を除くと,このような症例はほとんどが補体寒冷活性化現象(cold-dependent activation of serum complement;CDAC)を示す症例である.CDACとは,全血あるいは血清を低温に放置することで試験管内で補体系が活性化され,血清補体価が低下する現象である.
 近年,この現象を示す症例の大部分がC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)に感染していることが明らかになった.一方,HCV感染患者でクリオグロブリン血症が高頻度に認められることが報告され,ともに低温で生じる現象であることから検索してみると,両者は強く関連していることが明らかになった.また,HCV感染でリウマトイド因子(rheumatoid factor;RF)が高頻度に検出されることが報告されており,これらの現象はHCV感染に伴う自己免疫現象の一部であると考えられる.

検査の作業手順を確立しよう 免疫化学(血清)検査・4

感染症マーカーの検査

著者: 島英明

ページ範囲:P.1093 - P.1098

はじめに
 感染症の診断においては,その原因となる細菌あるいはウイルスを同定することが最も確実である.しかし,疑われる原因菌によっては時間的,手技的な問題から,日常検査においては免疫血清学的に抗原あるいは抗体の検出を行うことにより診断の補助に利用することも多い.
 本稿では,当院で行っているHBV(B型肝炎ウイルス)マーカー,抗HCV(C型肝炎ウイルス)関連抗体(HCV抗体)の検出,および梅毒検査について実際の例を挙げ,感染症検査における検査手順について述べる.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・11

サンプルのクロスコンタミネーション

著者: 白田忠雄 ,   桑克彦

ページ範囲:P.1099 - P.1101

はじめに
 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験法のうち,サンプルのクロスコンタミネーションについて,東芝TBA-200 FRを例に示す.

ラボクイズ

問題:好酸球増多症【3】

ページ範囲:P.1078 - P.1078

10月号の解答と解説

ページ範囲:P.1079 - P.1079

オピニオン

移植と臨床検査—移植をtriggerにして脱皮・独立

著者: 浅利誠志

ページ範囲:P.1037 - P.1037

 脳死患者からの臓器移植法案が成立するまでの過去10年間,大阪大学では移植開始に備え多数の移植医師が海外留学,動物実験および移植ネットワーク作りなどに多大なる時間と労力を費やしてきました.毎年交わす年賀状には,「今年こそ移植開始!」という言葉を何回見たことでしょう.常に前向きな医師らの真摯な姿勢は,怠惰な私に“我を忘れる根気とその道に生きんとする努力”というエネルギー源を与えてくれました.一方,そのころ検査側では,移植が開始されると面倒な検査が増えてシンドインチャウカ?(訳:肉体的,精神的に疲れるのでは?)……と受け身な姿勢でした.しかし,移植に命をかけ,自称“必殺仕掛人”といっておられる髭のS教授に私はうまく誘導されて,いつの間にか所属長の理解のない状態で移植検査に全面協力する立場になっていました.それから,複数の仲間が協力し,我を忘れてから約7年,移植検査体制としての人員補充が遅れがちであること以外は,技術的に焦ることもなくほぼ準備は整いました.他施設から見ると「大学病院だから当然」と思われる方が多いでしょうが……実際はどうして,どうして.封建的制度の大河が脈々と流れ,そして大学病院の掟の森が続く中を,立場の弱い技師たちが誰にも頼らず移植検査の細道を築き上げることは容易なことではありませんでした.

けんさアラカルト

ウイルス検査に用いる長期間使用可能な赤血球浮遊液の調製法

著者: 持田恭

ページ範囲:P.1066 - P.1067

 ウイルス検査を行うとき,生理食塩水またはリン酸緩衝液(phosphate-buffered sodium;PBS)で調製した赤血球浮遊液が使用されている.一度調製した赤血球浮遊液は,日を変え,3回から4回,検査ごとに赤血球浮遊液を混ぜて使用すると1週間後には溶血を起こし,検査に使用できなくなり,新鮮な血球が必要となる.そこで,より長期間,使用が可能で,しかも検査成績(赤血球の凝集性)に悪影響を与えない浮遊液の調製法について検討した.
 その結果,図に示したように生理食塩水またはPBSに,最終濃度が0.15%ウシ血清アルブミン(bovine serum albimin;BSA)と1%グルコース(0.99%)になるようにBSAとグルコースを加えたところ,日を変えて週に2回ないし3回,検査のたびに赤血球浮遊液を穏やかに混ぜて使用しても,約1か月間溶血することなく,しかも検査成績〔HA(hemagglutinating activity,赤血球凝集活性)価,HI(hemagglutination inhibition,赤血球凝集抑制)抗体価などの赤血球凝集性〕に支障がない結果(表1,2)が得られたので,ここに紹介する.

トピックス

コクシジオイデス症

著者: 紺泰枝

ページ範囲:P.1103 - P.1106

はじめに
 コクシジオイデス症(coccidioidomycosis)は輸入真菌症(imported mycosis)の1つであり,コクシジオイデス(coccidioidis)そのものは日本国内には棲息していないが,外国で感染した者が帰国や来日で発症,あるいは感染地域からの輸入物資の取り扱いなどによって発症する.現在,輸入真菌症の対象となるのはコクシジオイデス症,ヒストプラズマ症(histoplasmosis),ブラストミセス症(blast mycosis),パラコクシジオイデス症(para-coccidioidomycosis)およびマルネッフェイ型ペニシリウム症(penicilliosismarneffei)の5疾患である.このうちコクシジオイデス症の原因菌であるコクシジオイデス・イミチス(Coccidioidis immitis)はあらゆる病原真菌の中で最も危険な真菌といわれている.それは培養で生じた分節型分生子のわずかな吸入(10個以内)で感染が成立することである.これは感染した分節型分生子に対する生体側の細胞反応が極めて弱いためとされている.
 筆者は1994年に前腕の皮疹から診断されたコクシジオイデス症の1例を経験した.本症については外国の成書1),宮地2)の総説に詳しい.

DICにおけるサイトカインの役割

著者: 岡嶋研二

ページ範囲:P.1106 - P.1108

はじめに
 サイトカインは細胞間情報伝達において複雑なネットワークを形成し,細胞社会の統合に重要な役割を担っている.したがって,これらのサイトカインのネットワークの乱れは,多くの病態形成の原因として重要である.
 本稿では,DIC(disseminated intravascular coagulation:播種性血管内凝固異常)におけるサイトカインの役割について述べる.

耐熱性デヒドロゲナーゼ

著者: 松川寛和 ,   岡治 ,   藤田剛

ページ範囲:P.1109 - P.1111

はじめに
 生体成分の分析に酵素が利用されるようになって,早や半世紀になろうとしている.化学法に代わり,分析機に優しく特異性の高い酵素的測定法は,臨床化学分野の検査試薬では今や主流の分析法といっても過言ではない.酵素的測定法で利用される酵素の中でも,オキシダーゼ(酸化酵素)と並んで汎用される種々のデヒドロゲナーゼは,光学的シグナルへ変換するデバイスとして最も重要な酵素群である.
 近年,検査試薬の製品形態は凍結乾燥試薬から“分析機器にすぐに使用できる調製済み試薬”である液状試薬へと進化した.液状試薬の普及に伴い,デヒドロゲナーゼに対して新たな性能が要求されている.一般的に,液状試薬には長期間の溶液保存に耐えうるよう,熱に安定な耐熱性デヒドロゲナーゼが選択されることが多い.しかし,単に熱に安定で,長期間の溶液保存に耐えうる安定性のみならず,基質・補酵素など他の構成成分と組み合わせたときの測定範囲・測定時間・測定精度の向上や,共存物質の影響回避・バラツキ抑制など,検査薬としての基本的性能を高める酵素であることが重要となる.液状試薬用デヒドロゲナーゼに要求される条件を表にまとめる.

けんさ質問箱

Q 腸管出血性大腸菌O157の遺伝子検査法

著者: 河野緑 ,   保科定頼 ,   町田勝彦 ,  

ページ範囲:P.1112 - P.1114

O157の感染経路の追求に遺伝子検査法が利用されたと報道されましたが,検査法についてわかりやすくご教示ください.

Q 検査結果の保存法

著者: 永江学 ,  

ページ範囲:P.1115 - P.1115

血液検査の結果はフロッピーディスクに保存し,いつでもわかるようにしておけば,カルテに入れる必要はないのでしょうか.また,心電図やエコーの保存法についてもご教示ください.

今月の表紙

喀痰の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.1080 - P.1080

 症例 慢性関節リウマチ,慢性C型肝炎,シェーグレン症候群と診断され,間質性肺炎を発症した60歳の女性.ステロイド剤,免疫抑制剤の投与を受けており,呼吸不全のため気管切開術が行われた.38.2℃の発熱,臨床検査で白血球増加,好中球増加,CRP増加があり,感染症が疑われ,起炎菌検出のため,10月4日,経気管吸引痰(transtrachial aspiration;TTA)が提出された.
 写真1:挿管チューブからの吸引痰.肉眼所見は粘稠性,淡黄色を呈し,Miller & Jonesの分類では“P1”に分類された.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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