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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻6号

1998年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

多血症

著者: 新倉春男

ページ範囲:P.514 - P.521

新しい知見
 多血症(赤血球増加症)はエリスロポエチン(Epo)と密接なかかわりを持っている.近年,EpoおよびEpo受容体の構造が明らかになり,また,Epoの微量測定が日常検査で可能となったことから,一次性と二次性多血症の鑑別が容易となった.家族性多血症において,Epo受容体の異常が赤血球増加の原因であることが証明されたことは最近のトピックスの1つである,また,高酸素親和性の異常ヘモグロビン症による多血症が50種以上発見されており,原因不明の多血症が分子生物学的レベルでさらに解明されるものと期待される.真性多血症は慢性骨髄増殖性疾患の1つで,腫瘍としての性格を持つ病態である.異常クローンを撲滅させる治療が理想的であるが,治療法は潟血以外に確立されておらず,今後の重要な研究課題である.

技術講座 生化学

動脈血ケトン体比(AKBR)測定の意義および測定法

著者: 加藤眞三 ,   福田正彦 ,   玉井博修 ,   早川富夫 ,   加野象次郎 ,   渡辺清明 ,   石井裕正

ページ範囲:P.523 - P.528

新しい知見
 ミトコンドリアは細胞内でATPを産生し,呼吸をつかさどる重要な細胞内小器官であり,その機能は細胞の生命力を表す.ミトコンドリアにおけるATP産生能はミトコンドリアの酸化還元状態により規定され,この酸化還元状態が肝臓内のアセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸の比に反映される.これを臨床的に応用して動脈血のこれらのケトン体比(AKBR)を測定することにより肝臓のミトコンドリア機能を測定しようとする試みがなされ,注目されている.

病理

消化管の病理組織検体に対する遺伝子診断

著者: 安井弥 ,   田原榮一

ページ範囲:P.529 - P.534

新しい知見
 食道癌と胃癌・大腸癌では組織型が異なるが,遺伝子異常に関しても共通したものとそれぞれに特徴的なものとが存在する.さらに,これらの異常が癌の発生・進展のどの週程に関与するのかも明らかになってきた.遺伝子異常の多くは,ホルマリン固定パラフィン包埋された病理組織検体において検出することができる,それにより,病理診断の補助としての鑑別診断や悪性度診断のみならす,前癌性病変の癌化の可能性や遺伝性腫瘍の同定についての重要な情報を得ることができる.

日常染色法ガイダンス 組織内病原体の日常染色法—HBs抗原の証明

オルセイン染色

著者: 林湯都子 ,   打越敏之

ページ範囲:P.545 - P.547

目的
 B型肝炎ウイルスのHBs抗原を染める.弾性染色法のオルセインに酸化操作を加えることによりHBs抗原が染まるようになったのは志方(1974年)以来である.
 またウィルソン病,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)など,他の肝疾患での銅の検出にも有用である.

内分泌細胞(細胞内顆粒)の日常染色法

フォンタナ・マッソン染色

著者: 當銘良也

ページ範囲:P.549 - P.552

目的
 この染色法は,マッソン1)がフォンタナのアンモニア銀液を用いて虫垂のカルチノイドを染色したことに始まる.カルチノイド腫瘍のような内分泌細胞の検索にも用いられるが,腫瘍組織では陽性率が低いため,今ではメラニンやリポフスチンなどの証明法として用いられることが多い.クリプトコッカスは,ジフェノールを含む培養液で培養すると菌体自身が持つフェノールオキシダーゼによってメラニンを形成することが知られ,病理組織学的には,フォンタナ・マッソン染色(FM法)で陽性2,3)となり,他の酵母様真菌との鑑別に有用とされている.

検査データを考える

血小板機能異常症の検査所見

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.535 - P.540

血小板機能異常症とは何か
 血小板機能異常症とは1個1個の血小板の機能がなんらかの原因で低下ないしは亢進している病態をいう.
 血小板は止血に重要な血球であるので,血小板機能低下があるときは,止血が困難となり出血傾向をきたす.一方,血小板機能亢進があるときは,逆に血栓症になりやすい.

検査の作業手順を確立しよう 血液検査・2

血液形態(白血球・赤血球・血小板)検査

著者: 武内恵

ページ範囲:P.553 - P.557

はじめに
 長年,血球形態検査は塗抹標本を用いて顕微鏡で分類する方法(用手法)が一般的であった。近年,白血球分類は初期スクリーニングとしてはフロー方式の全自動測定法が主流となりつつある.フロー方式の自動測定法の原理は機種により多岐にわたっている.そのほかの方法としては,塗抹標本を用いる点で用手法と同様であるが,分類を自動で行うパターン認識法(半自動)がある.つまり,人の頭脳に近い細胞識別情報をあらかじめ自動分類装置に入力,記憶させておき,その情報と分類したい細胞の情報を比較することで細胞の分類を行う方法である.また血球形態検査には白血球分類だけではなく,赤血球,血小板の形態観察も含まれる.以上,3法が血球形態検査法として実際に施行されている.そこで,これら3法の業務を比較しながら形態検査の作業手順を号えてみたいと思う.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・6

試薬プローブおよびスターラープローブのキャリーオーバー

著者: 白井秀明 ,   桑克彦

ページ範囲:P.559 - P.563

 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験法のうち,試薬プローブおよびスターラープローブのキャリーオーバーについて,東芝TBA-200FRを例に示す.

ラボクイズ

問題:腹部超音波

ページ範囲:P.542 - P.542

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.543 - P.543

オピニオン

プロの道を目指して

著者: 芝紀代子

ページ範囲:P.522 - P.522

 きっかけが人生を組み立てている,と私は思う.私は35年前に薬科大学を卒業したが,そのとき,薬科大学の教授をしていた叔父が,「将来薬剤師も臨床検査が必要になる時代が来るから勉強しておいたほうがよい」と,東京大学医学部附属病院検査部生化学に見学生として奉公に出された.もちろん,臨床検査についてまったく習っていないので,ちんぷんかんぷんである.意地悪っぽい技師が,「あの人何しにきているのか」と,じろじろ見られてもどうしてよいかわからない.窮状を救ってくれたのが,足立把(ゆずか)さんであった.実習生の彼女はお昼休みに,『臨床検査法提要』を広げて,1つ1つの項目について,測定法,正常値,臨床的意義などを丁寧に教えてくれたのである.私は意地悪っぽい技師がどの程度の実力なのか判断することができない悔しさで,猛勉強をした.女の意地である.
 東京医科歯科大学医学部附属病院検査部生化学の助手になったのは今から30年前である.当時の検査部はマイナーなところなので,本腰を入れて臨床検査をやるという医師がいなかったのが,私が採用になった理由である.教えた経験がないので,ともかく恥をかきたくないという一心で猛勉強をした.女の見栄である.

けんさアラカルト

血中レプチン濃度測定法の確立とその応用

著者: 村口正宏

ページ範囲:P.541 - P.541

 肥満遺伝産物であるレプチンは脂肪組織で産生される分泌蛋白質で,摂食抑制やエネルギー消費の亢進により肥満を抑制する作用を持つ.また,レプチン受容体は脳内の視床下に発現しており,レプチンが神経内分泌調節あるいは生殖機能調節に関与していることも明らかとなってきている.筆者らはレプチンの血中濃度が肥満に起因する各種疾患の診断や治療において意義あるものと考え,酵素免疫測定法(enzyme linked immullo)sorbent assay;ELISA)による血中レプチン濃度の測定系を確立した.
 ELISAを作製するには特異的な抗体が必要であり,抗体を作製するためには数mgの抗原が必要である.筆者らはレプチンのような微量生理活性物質に対する抗体を作製する場合,まず免疫抗原として遺伝子組換蛋白質を発現する.最初にレプチン遺伝子をヒト脂肪細胞cDNAライブラリーからクローニングし,大腸菌に組換型レプチンを発現させた.この大腸菌からレプチンを精製し,マウスおよびウサギに免疫して抗体を作製した.これらのモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体を用いてレプチンのサンドイッチELISAを作製したところ,図1に示した標準曲線が得られた.

トピックス

薬剤耐性白血病細胞の検出

著者: 小林広幸

ページ範囲:P.567 - P.570

はじめに
 造血器腫瘍の一部は骨髄異形成症候群から白血化した症例のように初めから抗腫瘍剤に反応せず,また化学療法により寛解した症例も多くは数年以内に再発し,同一薬剤のみならず多種類の抗腫瘍剤にも抵抗性(多剤情耐性)となり不幸な転帰をとる.また,同じ病型でも個々の症例で,特に再発時には治療反応性が異なることが多い.したがって,症例ごとに特定の抗腫瘍剤に対する治療反応性をあらかじめ検査できれば,感受性のある薬剤を選択したり,耐性となった薬剤を避けることにより,無用な副作用を未然に防ぐことができる.
 急性白血病が治療に抵抗性を示す主な要因として,①白血病細胞の抗腫瘍剤に対する感受性の低下(細胞性薬剤耐性),②化学療法と化学療法の問の白血病細胞増殖速度の増加(増殖能亢進による薬剤耐性),③薬物動態学的な薬剤耐性,に分けて考えるとよい.各要因に対する検査法として,①に対しては耐性の分子マーカーの検討,薬剤感受性試験,②に対しては骨髄検査による白血病細胞の推移,増殖や分化の分子マーカーの検討,③に対しては薬剤の血中および細胞内濃度の測定などが挙げられる.このうち,①と②においては,腫瘍細胞の側に原因が求められ,腫瘍細胞を生化学的・分子生物学的に解析することによって,薬剤耐性の分子機構を明らかにすることが可能である.

小児の散発下痢症における小型球形ウイルスの重要性

著者: 林志直 ,   片山佳奈子 ,   吉田勲 ,   加藤玲 ,   尾形和恵

ページ範囲:P.570 - P.572

小型球形ウイルスとは
 小型球形ウイルス(Small round Structured virus;SRSV)とは,電子顕微鏡観察を行うと表面に突起状の構造を持った直径約30nmの)胃腸炎起因ウイルスの総称である(図).1968年10月に米国オハイオ州の小学校で胃腸炎の集団発生があり,患者糞便から免疫電子顕微鏡法(immune electron microscopy;IEM)により検出されたノーウォークウイルス(Norwalkvirus)が最初の報告例1)である.
 SRSVは組織培養系,動物感染実験系が確立されていないため,その性状は不明な点が多かった.しかし,1990年にノーウォークウイルスの遺伝子クローニングが行われ2),SRSVの分類上の位置づけが明確にされた.SRSVは全長約7.7kbの一本鎖(+)RNAウイルスであり,遺伝子末端の一部が重なった3個の読み取り枠(open reading franne;ORF)が存在する.2番目のORF由来である分子量60〜70kDaの主要構造蛋白質を1種類のみ持つことが特徴であり,カリシウイルス科に属する.

薬剤費削減の新たな試み—細菌検査に関連して

著者: 田島裕

ページ範囲:P.573 - P.575

はじめに
 抗菌薬を世界一多量に消費している国は,ほかならぬ日本であり,人口当たりで比較すると米国の約4倍に達するという(世界的な標準使用量に対しては10倍程度).この理由については,多くの評論家からいくつか指摘されているが,最大の原因は“出来高払い制”という日本独特の保険支払い制度にあるとされており,“新薬ほど薬価が高い”という薬価制度のありかたも,薬剤費の膨張に拍車をかけている.すなわち,医療機関は“高価な新薬を多用すればするほど,多くの利潤を得ることができる”という,“利益誘導”をかけられているのである.
 加えて,近年は分子生物学の進歩が著しく,医学部のカリキュラムはその方面の知識の伝授に多くの時間を割かなければならなくなり,古典的な微生物学や薬理学の教育は,(実際の臨床活動には必須な知識であるのにもかかわらず)ますます貧弱なものになってきているのが現状である.卒後の研修でも,十分に教育的な人材に遭遇できるとは限らず,この方面の知識は,多くの医師にとって“自己学習”で習得せざるを得ないものとなった.こうした“基本的な知識の欠如”・“教育の衰退”も,今後の医療問題を考えるうえでは大きな問題であろう.言い換えると(このことは,感染症の分野に限ったことではないが),“専門外の人間に,どうやって必要最低限の知識を効率よく伝授するか”ということが,さしあたっての課題ではないかと考える.

けんさ質問箱

Q 副甲状腺ホルモンの測定法

著者: 佐藤幹二 ,  

ページ範囲:P.577 - P.578

最近は副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)といえばintact PTHが主流のようですが,過去に測定されていたC-PTHをintact PTHに換算するような方法,式などはあるのでしょうか.

Q decoy cellとは何か

著者: 西国広 ,   藤利夫 ,   渡邊友宏 ,  

ページ範囲:P.578 - P.579

本誌25巻8号(1997年7月号)の技術講座“尿中良性異型細胞の見かた・考えかた”の661頁の写真4の説明で,ウイルス感染細胞(おとり細胞,decoy cell)とあります.では,decoy cellとはウイルス感染細胞そのものを指すのでしょうか.すなわち,ウイルス感染相胞=decoy cellなのでしょうか.腎上皮細胞が変性し,核の濃縮された細胞をdecoy cellと呼ぶと説明している教科書もありますが.

今月の表紙

糞便の検査

著者: 小粟豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.548 - P.548

 症例 7歳の女児.37.5〜38.8℃の発熱あり.下痢(1日10回程度,血便)と腹痛を主訴として小児科を受診.急性出血性腸炎の起炎菌検査を目的として糞便が提出された.患者の糞便は淡褐色の水様便に血液の混入が認められる程度で,新鮮血様のものではなかった.
 分離培養 BTB乳糖寒天培地,SIB寒天培地(Escherichia coli Ol57検査用),SS寒天培地,TCBS寒天培地(Vibrio検査用),CCDA寒天培地(Campytobacter検査用),セレナイト培地(Salmonella増菌用)に糞便を接種.CCDA寒天培地は35℃,2日間,ダイアカンピロパック®により炭酸ガス培養を,その他の培地は35℃で通常の好気培養を行った.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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