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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻8号

1998年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

ヘリコバクター感染症

著者: 井本一郎 ,   田口由紀子 ,   足立幸彦

ページ範囲:P.624 - P.630

新しい知見
 従来,胃・十二指腸疾患はストレスや喫煙などにより発生すると考えられていたが,ヘリコバクター・ピロリの発見により,胃炎,消化性潰瘍,胃癌などの疾患が感染症の側面を有することが明らかとなった.本菌の除菌により胃粘膜の炎症は軽減し,潰瘍の再発率は著明に低下する.しかし,除菌後一部の症例に逆流性食道炎や十二指腸びらんが発生することが報告されている.非侵襲的な検査法として,13C尿素呼気試験が感度,特異性ともに高く有用とされている.予防と治療を兼ねたワクチン療法はホットな話題であるが,現時点では動物モデルを用いた実験段階にとどまっている.

技術講座 生化学

検量用酵素標準物質(検量用ERM)の使いかた

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.635 - P.644

新しい知見
 血清酵素の活性値は,用いる測定法の試薬条件(基質の種類・濃度,緩衝液の種類・濃度・pH,活性化剤や補酵素の有無など)により異なる.そこで測定値の互換性を確保し,有効に臨床で使ってもらうために基準になる測定法が専門家集団により取り決められた.これが日本ではJSCC常用基準法である.そして,この測定法の能力を伝えるために酵素標準物質(ERM)が設定された.日常検査法の測定値はこのERMあるいは試薬キット固有に使われる検量用ERMを通して,JSCC常用基準法の測定値に合うようにする(これをトレーサビリティをとるという).これができる日常検査法がJSCC標準化対応法,その試薬系がJSCC標準化対応試薬である.日常検査では,該当する検量用ERMと精度保証(QA)用試料でトレーサビリティを維持する.

血液

トロンボモジュリンの測定

著者: 井手章子 ,   丸山征郎

ページ範囲:P.645 - P.649

新しい知見
 トロンボモジュリン(TM)は生体内でトロンビンを凝固酵素から抗凝固酵素へと変換する内皮細胞上の膜蛋白である.内皮細胞が障害されると血中に可溶性のTMが出現するので,この可溶性TMの測定は血管内皮細胞の障害の程度を知る1つの指標となりうる.また,合成TMをDICの治療として用いる試みが進行中である.現在,臨床第Ⅱ相が進行中で,数年すれば実用化されるであろう.現在までの動物実験や治験の結果では,高い有効性が認められている.また,もともと生体内に存在する物質なので,生体機能を応用した薬剤といえ,臨床サイドからも期待が持たれている.

免疫

エバネセント波を利用した免疫測定法—CRP・HCVを中心に

著者: 大槻隆明

ページ範囲:P.651 - P.657

新しい知見
 エバネセント波を扱う科学を近接場光学といい,この学問の応用分野はこの数年の間に急速に進歩し,需要が伸びている.
 エバネセント波とは,光を物質に照射するとき物質表面に発生する表面波のことで,そのパワーは表面から光の波長以内の領域(近接場領域)に集中している.このエバネセント波を使うことにより,微細構造の観察や加工,大容量光メモリなど幅広い応用が考えられている.

微生物

インフルエンザ菌の薬剤感受性検査

著者: 草野展周

ページ範囲:P.659 - P.667

新しい知見
 Haemophilus influenzaeは比較的耐性菌が少なく,従来,臨床で問題になっていたのはβ-ラクタマーゼ産生株やCP耐性株などであり,その頻度も低いものであった.比較的頻度が高く,臨床分離株の10〜20%を占めるβ-ラクタマーゼ産生株については,β-ラクタマーゼ阻害剤とペニシリン系薬剤の合剤が有効であった.しかし,1990年代後半よりβ-ラクタマーゼ非産生ABPC耐性であるBLNARの増加がみられるようになり,従来,耐性菌が認められなかった第三世代セフェム系抗菌薬に対しても耐性を示す株が分離されるようになっている.また,ニューキノロン系抗菌薬の臨床での使用量の増加に伴って,ニューキノロンに対する耐性株の分離も報告されており,今後,注意が必要になってきている.

生理

超音波による虫垂炎の描出法

著者: 荒木一郎 ,   上野敏男

ページ範囲:P.669 - P.676

新しい知見
 急性虫垂炎の診断はこれまで主として症状や診察所見,白血球数に頼ることが普通で,医師の力量に負うところが多かった.近年,CTや超音波による客観的な画像診断が可能となり,正確に虫垂炎を把握できるようになってきた.また抗生剤の進歩により,虫垂炎の手術適応の再考が行われ,カタル性虫垂炎は保存的に治療する方向となってきている.この意味で超音波は虫垂炎の診断のみならず,手術適応の決定にも重要な役割を果たしつつある.最近はカラードップラー法による血流シグナルの量が炎症の程度と相関するという報告がみられ,将来,虫垂炎の病期判定にも応用される可能性が出てきている.

日常染色法ガイダンス 生体色素の日常染色法—胆汁および胆汁色素の染色法

グメリン法

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.677 - P.680

目的
 グメリン法は胆汁色素(bile pigment)を証明するための染色法の1つである.
 胆汁色素は,化学的にはヘム(heme)の直鎖テトラピロール誘導体(図)で,ヘマトキシリン・エオジン染色標本上ではビリルビン(bilirubin)とヘマトイジン(hematoidin)に区別されているが,組織化学的反応は類似し,化学的にも同一物であると考えられている.

組織内病原体の日常染色法—HBs抗原の証明

ビクトリア青染色

著者: 林湯都子 ,   打越敏之

ページ範囲:P.681 - P.682

目的
 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)のHBs抗原と弾性線維を染色する.

検査データを考える

心電図の読みかた

著者: 榊原雅義 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.683 - P.688

はじめに
 心臓は袋状の臓器で,その壁の大部分は組織学的に特殊な構造を持つ筋肉層(心筋)から構成されている.この心筋の興奮によって発生した電気(活動電流)を身体の表面から記録したものが心電図である.本稿では心電図波形の意味と波形を変化させる要因および基本的な不整脈の心電図を中心に述べる.

検査の作業手順を確立しよう 血液検査・3

凝固検査

著者: 鈴木節子 ,   国分まさ子

ページ範囲:P.689 - P.696

はじめに
 凝固検査の作業手順を考えるに当たって,個々の検査の測定原理,反応工程に伴う測定条件は測定方法ごとに定められ,同一測定項目であっても異なる部分があるので,それらについては成書にゆだねることとし,本稿では,スクリーニングで頻繁に行われている最も基本的なプロトロンビン時間(prothrombin time;PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time;APTT),フィブリノゲン測定で代表される凝固の反応終末点をフィブリン析出でとらえられる検査方法を対象とし,全自動測定装置で測定する場合について述べる.
 一口に全自動測定装置といっても,機構的には各社で独自に開発されているため,測定原理および検出原理が異なるものもあり,取り扱いも独自のものがある.ここでは,検体採取から検査結果報告までの測定工程,測定に使用する機器・試薬の管理など共通する部分の作業上の対応について概略を記す.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・7

試薬の分注混合能および試薬プローブの水希釈

著者: 野中百合子 ,   桑克彦

ページ範囲:P.697 - P.699

はじめに
 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験のうち,試薬の分注混合能および試薬の水希釈について,東芝TBA-200FRを例にして示す.

ラボクイズ

問題:好酸球増多症【2】

ページ範囲:P.700 - P.700

6月号の解答と解説

ページ範囲:P.701 - P.701

オピニオン

免疫化学測定系選択の考えかた

著者: 笠原和恵

ページ範囲:P.632 - P.632

 平成9年度日本医師会・第31回臨床検査精度管理調査から新測定装置コードが設定されました.この新コードは,(社)日本分析機器工業会医用分析機器委員会案を日本医師会精度管理検討会が,一部修正し決定したものです.(社)日本臨床衛生検査技師会(日臨技)平成10年度精度管理調査もこのコードを採用し準備を進めていますが,共通コードの採用は相互の調査結果の比較のみならず,機器・試薬選択に関する有効な情報となるでしょう.この新コードは測定原理,機種特性などの解析も可能な大・中・小分類より成っているからです.コードの改定に際し,私は改めて免疫測定系の多彩な測定原理・機器の仕様に瞠目し,選択の重要性を提起するしだいです.

けんさアラカルト

医療機能評価と臨床検査

著者: 岩﨑榮

ページ範囲:P.702 - P.703

 「国民が適切で質の高い医療を安心して喜んで受けることは,医療を受ける立場からは無論のこと,医療を提供する立場からも等しく望まれている.」これはわが国で病院を評価する団体として1995年に設立された日本医療評価機構の設立趣旨の冒頭の言葉である.
 質の高い医療とは,一般的には品質(Quality)の良い医療を意味する.

トピックス

HELLP症候群

著者: 寺尾俊彦

ページ範囲:P.710 - P.713

はじめに
 HELLP症候群とは,1982年,Weinsteinらが,妊娠中にhemolysis(溶血),elevated liver enzymes(肝酵素上昇),low platelets count(血小板低下)をきたす29例の症例を発表し,その頭文字をとって名づけた症候群である(表1).多くは妊娠中毒症に併発し,血管内血液凝固症候群(disseminated intravascular coagulopathy;DIC)を合併して予後不良となり,母体死亡や児の周産期死亡を引き起こすこともある重篤な症候群である.

バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)とヘテロVRSA

著者: 花木秀明 ,   平松啓一

ページ範囲:P.713 - P.717

■バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現
 バンコマイシンはグラム陽性菌に強い抗菌力を有する薬剤として,1950年代から臨床使用されてきた.しかし,臨床で40年以上使用されてきたにもかかわらず,黄色ブドウ球菌はこの薬剤に対して耐性を獲得することはなかったため,耐性菌の出現しにくい薬剤として汎用されてきた.わが国では,1981年に消化管殺菌剤として承認されたが,1991年にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Samphylococcus aureus;MRSA)感染症治療薬の静注剤として承認された.MRSA感染症の拡大に伴い,バンコマイシンの使用量が増大したことは,バンコマイシン耐性菌の出現と関係する可能性がある.
 1996年,バンコマィシン耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-resistant Staphylococcus aureus;VRSA・Mu50株)が当教室で検出された.このMu50株は,約1か月間にわたってバンコマイシンの投与を受けたにもかかわらず,症状の改善が認められないばかりか,徐々に悪化傾向にあった生後4か月の乳児の術後縫合部位膿瘍から純培養的に分離されたMRSA株である1〜3)

ストレス・マーカー

著者: 古屋悦子

ページ範囲:P.717 - P.721

■ストレスとは
 H. Selyeが医学部の学生であったとき,そこにいる患者はみな病気に見える(all patients look sick)といって笑われたが,Selyeはすべての患者の示す共通の症状「食欲なく,体重は減少,生気なし」に目を向け,まさに病気である症候群(the syndrome of just being sick)とした.すなわち,個々の疾患に特異的な症状(鑑別診断)ではなく,非特異的な共通項に目を向けていた.
 その目をもって,後に動物実験で,Selyeはいかなる有害刺激に対しても,それが肉体的なものであろうと精神的なものであろうと,その種類に関係なく生体が反応して示す共通の症状(副腎皮質の肥大・機能亢進,胸腺・リンパ組織の萎縮,胃・十二指腸潰瘍の発生)を発見した.Selyeは,生体に加わる各種の有害刺激(ストレッサー)に応じて体内に生じた歪みをストレスとした.ストレッサーが加えられたときの生体の反応を,上記臓器の変化とともに時間経過でとらえ,初期の警告反応期(ショック),抵抗期(適応状態)を経て,さらにストレッサーが過剰であったり,長期にわたると疲弊期となり,ときに死に至るとし,それを全身適応症候群(general adaptation syndrome)とした.

けんさ質問箱

Q 尿沈渣成分の卵円形脂肪体と粘液糸

著者: 堀田修 ,   北村洋 ,  

ページ範囲:P.704 - P.707

尿沈渣成分のうち,卵円形脂肪体と粘液糸についてご教示ください.卵円形脂肪体はネフローゼ症候群に重要な成分と聞いていますが,その発生機序にまで言及した成書は見当たりません.また,粘液糸は日臨技標準化法のテキストにも載っていません.粘液糸の発生機序,成分,臨床的意義についても教えていただければ幸いです.

Q 多臓器不全の発生要因

著者: 北原光夫 ,  

ページ範囲:P.707 - P.708

多臓器不全の発生の重要な鍵はどこにあるのでしょうか.できればO157による溶血性尿毒症症候群(HUS)との比較でご教授いただければ幸いです.

今月の表紙

糞便の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.631 - P.631

 症例 慢性関節リウマチ治療のため他院でステロイドの投与を受けていた49歳の女性.7月29日,疝痛様の腹痛および水様性下痢を主訴として救急車で救急外来を受診.下血もあるため消化器内科に入院となり,急性細菌性胃腸炎を疑い糞便が提出された.糞便は赤褐色の水様便.
 分離培養:BTB乳糖寒天培地,SIB寒天培地(E. coliO157検査用),SS寒天培地,TCBS寒天培地(Vibrio検査用),CCDA寒天培地(Campylobacter検査用),セレナイト培地(Salmonella増菌用),4%食塩加アルカリ性ペプトン水に糞便を接種.CCDA寒天培地は35℃,2日間,ダイアカンピロパック®により炭酸ガス培養を,その他の培地は35℃で通常の好気培養を行った.

追悼

笠原副会長のご逝去を悼む

著者: 岩田進

ページ範囲:P.633 - P.633

 (社)日本臨床衛生検査技師会の笠原和恵副会長が1998年4月25日未明,67歳の生涯を閉じられた.
 4月21日の入院からわずか4日目にしての訃報は,あまりにも突然で大きな驚きでした.その前の週まで元気に技師会の仕事をされており,21日に入院,翌日には意識が薄れ,そのまま黄泉へと足早やに旅立ちをされてしまいました.残念というほかに言葉がありません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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