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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術26巻9号

1998年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

心不全

著者: 後藤葉一

ページ範囲:P.728 - P.733

新しい知見
 最近10年間の心不全に関する新しい知見として,第1に,神経・体液性因子の重要性が認識されたことが挙げられる.すなわち,交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が心不全の病態の進展・増悪に深く関与していることが明らかにされた.第2に,これに関連して,慢性心不全治療において,アンジオテンシン変換酵素阻害薬や交感神経β受容体遮断薬が患者の長期生命予後を改善することが示された.第3に,急性心不全に関しては,急性心筋梗塞に対する再灌流療法,ホスホジエステラーゼ阻害薬などの新しい心不全治療薬,経皮的心肺補助装置や補助人工心臓の開発などにより,治療成績が向上したことが挙げられる.

技術講座 生化学

血中トロポニンIの測定法

著者: 高木康

ページ範囲:P.735 - P.740

新しい知見
 急性心筋梗塞の生化学診断指標としては,従来酵素とそのアイソザイムが利用されていた.しかし,酵素・アイソザイムは多くの組織に存在しているため,診断特異性には限界があった.一方,最近の免疫技術の進歩は著しく,特異性の高いモノクローナル抗体作製や化学発光をはじめとする検出系の開発により,免疫学的手法を用いた心筋構成成分の測定が可能となった.心筋トロポニンI(cTnI)は骨格筋トロポニンIとアミノ酸組成が異なる部位があるため,特異抗体が作製しやすく,この特異抗体を用いた高感度迅速測定系が開発された.血中cTnIの上昇は心筋傷害を特異的に反映し,しかも心筋梗塞早期から発症後10日前後まで異常高値となる.

免疫

血清補体価(CH50)測定法

著者: 岩田進

ページ範囲:P.741 - P.746

新しい知見
 補体価測定は,補体が抗原抗体複合体に関与して組織損傷を引き起こす性質を利用して,抗ヒツジ赤血球抗体でヒツジ赤血球を感作し,補体によるヒツジ赤血球の損傷(溶血)の度合いにより測定してきたが,ヒツジ赤血球には個体差があったり,希釈など操作が煩雑で問題がある.このヒツジ赤血球の代わりにリポソーム(人工脂質二重膜)を利用した方法が確立された.
 ジニトロフェニル基(DNP)を固定したリポソーム表面上に抗DNP抗体が反応すると,補体が活性化しリポソーム膜が損傷される.すると,リポソーム内にあるグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G-6-PDH)が基質中のグルコース-6-リン酸(G-6-P)およびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)と反応する.するとNADがNADH(還元型)になり,このときの吸光度変化から補体価を求める.

血液

血球計数の精度管理

著者: 巽典之 ,   津田泉 ,   田窪孝行 ,   日野雅之

ページ範囲:P.747 - P.755

新しい知見
 血球計数は基本臨床検査の1つであり,その計測性能は全自動型血液分析装置の進歩で格段と向上している.その結果,血液分析装置の精度管理は管理用血液により校正と管理が同時に行いうる現状にある.さらに内部精度管理法,なかでもX-R管理法が普及し,外部精度管理法も充実し,精密性と正確性の高い測定値を提供できる環境にある.

一般

尿中赤血球の見かたおよび類似物質との鑑別法

著者: 田中佳

ページ範囲:P.757 - P.767

新しい知見
 近年,尿中有形成分の自動分類装置(フローサイトメトリー法,パターン認識法)が実用化され,これらは赤血球の粒度分布などから出血の由来の情報をも提供する.尿沈渣鏡検は従来のようにスクリーニング的な位置づけから,尿定性試験や自動分類装置で篩い分けした後の必要な検体だけを確認する検査に変わりつつある.急に異常検体に遭遇しても正しい鑑別ができるよう,技師の知識と経験はさらに必要とされている.

生理

小児領域における腹部超音波検査—腹痛症例に対する有用性を中心に

著者: 野坂俊介 ,   黒木一典 ,   石川徹 ,   桜井正児 ,   永江学

ページ範囲:P.769 - P.777

新しい知見
 超音波検査(US)は,その簡便性と非侵襲性から,小児腹痛症例に対する画像診断において必要不可欠な検査法の1つである.目標臓器が小さい小児では高周波探触子を使用できることが利点として挙げられる.一方,USの欠点としては,所見が再現性に乏しいことや,画像の良し悪しが術者に依存することが挙げられる.最近の知見としては,カラードプラやパワードプラを用いることにより血流情報を正確に知ることが可能になったことが挙げられる.

日常染色法ガイダンス 組織内血液細胞・酵素の日常染色法

ペルオキシダーゼ反応

著者: 日野浦雄之 ,   片岡寛章

ページ範囲:P.781 - P.783

目的
 ペルオキシダーゼ(peroxidase)は過酸化物(過酸化水素など)の存在のもとに基質を酸化する酵素であり,骨髄系細胞のほとんどのものに存在するといわれている.なかでも好中球や好酸球などに多く含まれている.しかし,リンパ球系細胞や幼若赤血球には存在しないという点から,ペルオキシダーゼ反応はこれら両者の細胞鑑別に応用されてきた.したがって,各成熟段階にある顆粒球系の細胞が陽性所見を示すため,白血球ペルオキシダーゼ反応は白血病(特に骨髄性白血病)に際して,腫瘍細胞の鑑別に有益な酵素染色法として広く利用されている.
 本反応は従来,骨髄の塗抹標本に対して行われてきた.組織標本に対しては各種の免疫組織化学的染色法の普及により,現在ではあまり汎用されていない.したがって,組織標本(各臓器の凍結切片)においては,詳しい細胞形態の観察が困難であるため,陽性所見による顆粒球系細胞の多寡を識別するにとどまるのが現状である.

中枢神経系の日常染色法—神経細胞の染色法

ニッスル染色

著者: 阿部寛 ,   園上浩司 ,   水谷喜彦 ,   須田耕一

ページ範囲:P.785 - P.787

目的
 中枢神経系の主たる細胞は神経細胞で,大きさと形は多種多様である.神経細胞の突起には樹状突起と軸索突起の2種類がある.神経細胞の細胞質と樹状突起では,塩基性タール色素で多くのニッスル物質が染め出される.このニッスル物質は電顕的には多くのリボソームを伴った粗面小胞体の集合体であり,化学的にはリボ核蛋白質(ribonucleoprotein)である.ニッスル染色は神経細胞の核や病変で変化するニッスル物質を塩基性タール色素(クレシル紫,トルイジン青,メチレン青など)で特異的に染め出すのが目的であり,神経病理学では基本的な染色法の1つである.最近では髄鞘をルクソール・ファースト青で,神経細胞のニッスル物質をクレシル紫で同時に染め出すクリューバー・バレラ染色に代用される傾向にある.
 本稿では,ホルマリン固定,パラフィン切片で一般的に行われるクレシル紫染色液によるニッスル染色について述べる.

検査データを考える

細菌性髄膜炎の治療と感受性検査

著者: 中村明

ページ範囲:P.789 - P.793

はじめに
 細菌性髄膜炎は,抗生物質による化学療法の進歩した今日においてもなお生命の危険や後遺症が心配される,小児科領域における代表的な重症感染症である.
 近年,欧米においては予防法に大きな進歩があり,その疫学にはドラスティックな変化が現れている.すなわち,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型コンジュゲートワクチンの導入による小児期インフルエンザ菌性髄膜炎の激減である.この結果,細菌性髄膜炎罹患年齢の中央値は乳児期から20歳台まで大きくシフトしている.

検査の作業手順を確立しよう 免疫化学(血清)検査・1

蛋白成分の定量検査—免疫比濁(比朧)法による免疫グロブリン,CRPの検査を中心に

著者: 森下芳孝

ページ範囲:P.795 - P.799

はじめに
 日常の臨床検査におけるIgG,IgA,IgMおよびCRP定量には,個々の蛋白(抗原)とその抗血清(または抗体を感作したラテックス粒子)との抗原抗体反応によって生成した抗原抗体複合物およびそれらの凝集塊(両者を合わせて複合物とする)に光を照射し,透過光の減少〔見かけ上の吸光度(吸光度とする)の増加〕の度合いを測定する免疫比濁法(turbidimetricimmunoassay;TIA法)やラテックス凝集比濁法(latexaggulutination immunoassay;LIA法),そして一定方向への散乱光強度を測定する免疫比朧法(nephelometric immunoassay;NIA法)が一般的に用いられている.
 本稿では検体の採取から結果報告までの一連の作業(図1)の中で発生する問題点や対処法などを明確化し,検査を行ううえで知っていなければならない必要事項について述べる.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・8

サンプル容量

著者: 飯塚儀明 ,   桑克彦

ページ範囲:P.801 - P.804

はじめに
 前報1)に引き続き,日常検査に用いる生化学用自動分析装置の性能確認試験法のうち,サンプル容量について,東芝TBA-200FRを例にして示す.

ラボクイズ

問題:女性のホルモン異常【2】

ページ範囲:P.778 - P.778

7月号の解答と解説

ページ範囲:P.779 - P.779

オピニオン

検査技師業務の法的規制と問題点

著者: 鈴木伸子

ページ範囲:P.734 - P.734

はじめに
 臨床検査技師の誕生から47年の歴史を顧みると,昭和27年に日本衛生検査技術者会が名古屋市で結成され,以後,全国的に検査技師身分法の制定に関する運動の輪が広まり,昭和33年4月,第28回衆議院本会議で技師法案が立法化された.また,同年4月,第1回国家試験が実施された.その後,昭和41年4月に日本臨床衛生検査技師会(日臨技)総会で技師法改正3か年計画案が提案され,①名称免許を業務免許に改める,②医師の指導監督を医師の指示に改める,③生理検査,耳朶採血,消化液採取の医療行為の一部業務拡大,④教育年限を高卒3年以上かつ厚生大臣免許とする,の4項目が採択され,時代に即応して法改正運動がさらに大きく全国的なものとなった.さらに第16回通常国会において「臨床検査技師,衛生検査技師等に関する法律」が成立,昭和46年9月,臨床検査技師と名称が改正された.しかしながら,4年制大学教育制と業務制限については残念ながら実現しなかった.そこで日臨技は,関係団体との協力と理解を得ながら,平成4年に「法改正推進活動本部」を設置,4年制大学教育国家資格・業務制限についての運動を開始した.

けんさアラカルト

キャピラリー電気泳動法の応用

著者: 宇治義則 ,   岡部紘明

ページ範囲:P.756 - P.756

 キャピラリー電気泳動法(capillary electrophoresis;以下CE)は,基本的には電気泳動法でありながらクロマトグラフィー的な面も合わせ持つ分析法である.電気泳動法はセルロースアセテート膜などの担体と各種染色法を併用した膜電気泳動法が,またクロマトグラフィーは高速液体クロマトグラフィー(highperformance liquid chromatography;HPLC)として臨床検査領域では汎用されている.これらとCEの大きな違いは,CEは支持体に微細なキャピラリーカラムを使用する無担体電気泳動(カラムは再生利用可能)であること,HPLCが多量の溶離液を必要とするのに比べ,n1レベルの電解液量,数n1の試料のみで分析が可能であることなどである.したがって,分析コスト低減が叫ばれる今日,臨床検査領域にとっては願ってもない分析法といえる.
 CEの汎用機器はアメリカを中心に上市され,今までにアミノ酸,蛋白質,糖質,核酸,生理活性物質,薬剤,ビタミン,遺伝子診断などの分析法が数多く報告されている.

トピックス

小児細菌性髄膜炎の現況

著者: 黒木春郎 ,   上原すゞ子

ページ範囲:P.805 - P.807

はじめに
 細菌性髄膜炎は小児科領域における最も重要な疾患の一つである.本稿では細菌性髄膜炎の現況について,基本事項から現在の課題までを医療の実地に沿って展開していきたい.
 初めに筆者らが最近経験した症例を提示し,いくつかの検討をしたい.

klotho遺伝子と個体老化

著者: 黒尾誠

ページ範囲:P.807 - P.809

はじめに
 老化の分子機構の解明は,医学・生物学に残された最大の未解決課題の1つであり,その重要性は万人の認めるところであろう.老化とは「加齢に伴う個体の生理機能の劣化」と定義されるが,あまりに広範な現象を含むので,その分子機構の解明といっても具体的にどのようなアプローチを用いればよいかが問題である.個体老化の分子機構に迫る有力な方法として最近成功をおさめたものの1つに,ヒト早老症候群の原因遺伝子の解析がある.早老症候群とは,若年のうちからさまざまな老化の徴候(白髪禿頭,白内障,皮膚の萎縮,動脈硬化,悪性腫瘍,骨粗鬆症など)を呈して,早期に死亡してしまうまれな遺伝性疾患の総称であり,その原因遺伝子の解明によって老化の分子機構を探る手がかりが得られつつある.
 最近,筆者らはまったく独自のアプローチによって,ヒトの老化によく似た多彩な表現型を示す新しい老化モデルマウスを開発した1).これはトランスジェニックマウス作製中に導入遺伝子の挿入突然変異によって偶然得られた系統で,さまざまな老化の表現型が常染色体劣性遺伝を示すミュータントである.筆者らはこのマウスを,ギリシャ神話の生命の糸を紡ぐ女神の名にちなんでklothoと命名した.本稿ではklothoマウスの老化モデルとしての有用性と,その原因遺伝子の同定について述べる.

好中球と血液凝固

著者: 村上和憲

ページ範囲:P.810 - P.811

はじめに
 血栓・止血といえば,血小板による一次止血とフィブリン形成による二次止血があるが,好中球も血液凝固に重要な関与をしている.本来,好中球は細菌などの異物を貪食・処理する白血球であり,リソソーム中には異物の処理に必要なさまざまな蛋白分解酵素が含まれているが,それが過剰に産生・放出されると内皮細胞を傷害し,抗凝固能を低下させてしまう.近年,好中球によるさまざまな組織傷害が注目されている.

赤ワインの抗酸化能

著者: 杉田収

ページ範囲:P.812 - P.813

はじめに
 フランス南部の街,ツルーズの住民と,北アイルランドのベルファーストに住む人たちの冠動脈性心疾患を比較する調査研究から,ワインの効能が浮かび上がった.フランス南部の人たちの飲酒量は,アルコールにして1日平均45gであるのに対して,北アイルランドの人たちは1日平均20gと半分以下であった.そして,飲酒量の多いフランス南部の人たちの冠動脈性心疾患が少なかった1)
 カリフォルニアの赤ワインを用いて,Frankelら2)はワインに含まれる有効成分の分析を行い,それがクエルセチン(quercetin)に代表されるポリフェノール類であることを明らかにした.そして,そのポリフェノール類が低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL)の酸化を防御することを証明した.

演題電子化による新しい学会プレゼンテーションの試み

著者: 布引治 ,   真崎武 ,   土橋康成 ,   野田定

ページ範囲:P.814 - P.815

はじめに
 近年,パソコン,インターネットなどの情報処理および伝達装置の発展にはめざましいものがある.特にインターネットは世界中にクモの巣のようにはりめぐらされたコンピュータネットワークで,これまで大学や公共機関を中心に発達してきたが,最近では家庭で利用する人も増え,急速に大衆化しつつある.また,テレパソロジーに代表される病理細胞顕微鏡画像のデジタル化の進歩により1,2),たいへん良好な画像をあらゆるところへ簡単に伝送することが可能となり,パソコンモニター上でかなり精細な顕微鏡画像を供覧することが可能となった.これにより細胞診断学においてもインターネットを利用したスライドカンファレンスや細胞画像を取り入れたCD-ROMの供覧など,電子化を利用した学術活動が行われている.
 そこで,日本臨床細胞学会近畿連合会はこれらマルチメディアの流れを学会に取り入れるべく,インターネット,パソコンを利用した学会演題電子化を試み,新しい時代に向けた学会活動を模索した.電子演題とは,ポスター示説演題などを電子化し,インターネット電話回線を通じ,演題をインターネットホームページとしてWebブラウザより供覧する新しいプレゼンテーションの試みである.

けんさ質問箱

Q 心室瘤とST上昇

著者: 石田秀一 ,   林田憲明 ,   Y.M.生

ページ範囲:P.819 - P.821

急性心筋梗塞を起こした後の患者に,例えばLAD#6の梗塞後胸部V1〜V6でSTが上昇したままの心電図は結構みられます.このような場合は心室瘤ができている可能性があるといわれますが,心室瘤ができると,なぜSTは上昇したままになるのでしょうか.

Q 交差適合試験の術式

著者: 佐藤千秋 ,   渋谷温 ,   H.N.生

ページ範囲:P.822 - P.823

交差適合試験における新鮮凍結血漿,濃縮血小板血漿の術式をご教示ください.

今月の表紙

糞便の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.780 - P.780

 症例 7歳の男児.腹痛,嘔吐,発熱(38℃),下痢(水様性)を主訴として小児科を受診.患者は発病後4日目に入っており,近医で抗生剤を処方されていた.急性細菌性胃腸炎を疑い,糞便が提出された.糞便はスワブの色が淡黄色にみえる程度の少量であった.
 分離培養 BTB乳糖寒天培地,SIB寒天培地,SS寒天培地,TCBS寒天培地,CCDA寒天培地,セレナイト培地に糞便を接種.CCDA寒天培地は35℃,2日間,ダイアカンピロパック®により炭酸ガス培養を,その他の培地は35℃で通常の好気培養を行った.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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