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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻10号

1999年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

手足口病

著者: 寺嶋周

ページ範囲:P.1160 - P.1163

新しい知見
 手足口病はコクサッキーウイルスA16型(CA16),エンテロウイルス71型(EV71)を主病原体とする手足に紅斑を伴う小水疱を見る(手掌,足蹠,肘・膝関節筋伸側)疾患である.また,アフタ性口内炎があり,中等度の発熱を見るが,7日以内に治癒する軽症な小児発疹疾患である.1970年来,日本でも流行を反復している.最近,EV71を主とした無菌性髄膜炎,脳炎例が散見されていた.しかし,1997年のマレーシア,1998年の台湾におけるEV71の変異株による大流行では,多くの死亡例,重症例が発生した.世界が時間的に狭くなるに従い,またウイルスの性状から,一律に軽い疾患として診ることへの警鐘であろう.合併症状への注意をより深めるべきである.

技術講座 血液

白血病診断のための染色体検査

著者: 橋本達也 ,   河治康則

ページ範囲:P.1165 - P.1173

新しい知見
 白血病の染色体異常はt(9;22)(q34;q11)やt(8;21)(q22;q22),t(15;17)(q22;q12〜21)などに代表されるが,近年,新しい染色体異常も続々と報告がなされ,1つの疾患単位として確立されようとしている.T細胞性の悪性リンパ腫ならびに好酸球増加を背景とした骨髄増殖性疾患に見られるt(8;13)(p11;q12)やt(8;9)(p11;q32)などの8p11異常1),小空胞やペルゲル様の核を有する好中球を特徴とした急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)に見られるder(17)t(5;17)(p11;p11)2)あるいはdic(5;17)(q11;p11)3)などである.
 一方,白血病へのFISH法の導入は,染色体分染法では発見できなかった小児の急性リンパ性白血病(ALL)でのt(12;21)(p13;q22)を明らかにし,また治療面においては,化学療法後ならびに骨髄移植後の微小残存病変の正確な検出を可能とした.今後,染色体検査は,白血病の発病機構の解明に向け,ますます重要な意義を持つものと考えられる.

一般

関節液の外観と顕微鏡所見

著者: 米田操 ,   高橋勝美

ページ範囲:P.1175 - P.1180

新しい知見
 近年,関節液検査は偏光装置付き顕微鏡の普及により結晶に起因する関節炎(結晶誘発性関節炎)の診断が可能となり,多くの施設で実施されるようになってきた.さらに現在では,関節液細胞学分野の進歩によって,関節液中にのみ認められる特徴的な細胞を分類することで,個々のリウマチ性疾患を鑑別診断できるようになってきている.本稿で述べる関節液の外観と細胞所見は,リウマチ性疾患を診断するうえで最も重要な診断情報であると考える.

病理

マイクロウエーブ加熱後の酵素処理法による抗原の賦活化と免疫染色

著者: 山口比呂美 ,   森吉臣

ページ範囲:P.1181 - P.1186

新しい知見
 ホルマリン固定・パラフィン切片の抗原性の賦活化は,抗原の種類・固定時間などによって賦活効果が左右される.これらの抗原側の条件に影響されず,ほぼ一定の賦活条件の処理で安定した賦活結果が得られる方法として,マイクロウエーブ加熱後の酵素処理法(MPH-ED法)が注目されている.脱パラフィン後3〜5分間のマイクロウエーブ加熱処理後に1〜3分間の蛋白分解酵素処理を行う方法で,全工程8分間以内と極めて短時間で行える.また,実際の操作は簡便であり,技師間による技術の差も出にくい利点がある.

免疫

ヘリコバクターピロリ抗体の測定法

著者: 高橋雅春

ページ範囲:P.1187 - P.1194

新しい知見
 1983年,WarrenおよびMarshallは慢性活動性胃炎患者の胃粘膜からグラム陰性らせん菌の分離培養に成功した.この菌は現在ではヘリコバクターピロリと呼ばれ,慢性胃炎および胃・十二指腸潰瘍への関与が明らかにされた.そして,抗菌剤などによる除菌治療でこれらの疾患が完治することが示された.また,本菌による慢性胃炎は胃粘膜の萎縮,腸上皮化生を惹起し,その一部は胃癌へと進行する可能性が示された.
 感染者の血中にはヘリコバクターピロリ抗体が出現し,除菌治療により菌が排除されると抗体価は低下する.今後,ヘリコバクターピロリの除菌治療が普及していく中で,本菌の存在診断および除菌治療効果判定の指標としてヘリコバクターピロリ抗体測定の有効性が期待されている.

慢性肝疾患とウイルスマーカー検査

著者: 藤野達也 ,   矢野右人

ページ範囲:P.1195 - P.1200

新しい知見
 肝炎ウイルス感染の診断は,従来,血清中のウイルス抗原,抗体を検出する血清学的方法により行われてきた.しかし,最近はPCR法の導入により微量のウイルス遺伝子を直接検出することが可能となった.さらに,遺伝子工学技術の応用により,ウイルス遺伝子の塩基配列の解析,遺伝子変異と病態の関連性などについても急速に解明が進んでいる.

日常染色法ガイダンス 組織内血液細胞・酵素の日常染色法

ナディ反応

著者: 日野浦雄之 ,   片岡寛章

ページ範囲:P.1209 - P.1212

目的と原理
 日常染色法として診断に利用される血液細胞のオキシダーゼには,チトクローム・オキシダーゼとDOPA・オキシダーゼの2種類があることが知られている.
 オキシダーゼ反応の染色目的は,骨髄性細胞とリンパ球性細胞との鑑別にある.したがって,顆粒球系細胞が陽性所見を呈することよりオキシダーゼ反応の染色目的は,ペルオキシダーゼ反応と同意義と解釈しても差し支えなく,その広義の反応原理もペルオキシダーゼ反応と同様である.

脂質(脂肪および類脂質)の日常染色法

ナイル青染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.1213 - P.1215

目的
 脂肪は脂肪溶剤によって抽出される複合体の総称で,中性脂肪,リン脂質,糖脂質などに分類される.
 中性脂肪の多くは,貯蔵型脂肪として皮下,腸間膜,大網などの脂肪組織を構成する.脂肪は脂肪変性,つまり異常に増加したり,通常では見いだされない組織に出現することがあり,これらの脂肪を証明するために用いられる.腫瘍で脂肪が細胞内に出現することから,脂肪肉腫の診断根拠としても用いられる,また,パラフィン標本ではアルコールやキシレンに溶出してしまうために染色することができないので,ホルマリン固定した組織の凍結切片を用いて,これらの脂肪を証明する.

検査データを考える

抗リン脂質抗体症候群

著者: 鏑木淳一

ページ範囲:P.1219 - P.1222

はじめに
 血清中の抗核抗体の測定は,膠原病各疾患の診断・病型分類・治療方法の選択・予後の推定に有用である1).例えば,抗二本鎖DNA抗体は,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)の疾患標識抗体であり,また抗Sm抗体は腎症を伴うSLEに検出される.一方,リン脂質に対する抗体は従来,血清梅毒反応生物学的偽陽性(biologically false positive serologic tests for syphilis;BFP-STS),ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulants;LA)により測定されてきたが,その対応抗原の詳細な性状・臨床的意義は不明であった.
 しかし,1980年代からカルジオリピン・ホスファチジルセリンなど陰性荷電を有するリン脂質に対する抗体が,酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)で特異的に測定されることが可能となった.これにより,主にSLEを対象とした履歴研究から,本抗体陽性例の臨床像が集積され,“抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)”という疾患概念が確立された2〜4).さらに1990年以降,抗リン脂質抗体が反応する抗原は多様であることが明らかにされてきた.

検査の作業手順を確立しよう 一般検査・2

尿中有形成分検査

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1223 - P.1228

はじめに
 尿中有形成分検査には,現在,従来からあるいわゆる尿沈渣検査と尿中細胞数を専用分析装置を用いて測定する自動分析法とがある.検査前工程と検査後工程に関しては,前回の尿試験紙法によるスクリーニングと基本的には同じである.検査内工程については従来の尿沈渣検査と自動分析法とで手技上,若干の差異はあるが,基本的な考えかたは同じである.

機器性能の試験法

尿定性試験測定装置の性能確認試験法

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1229 - P.1234

はじめに
 尿定性試験測定装置には,現在,大量検体処理用完全自動型分析装置から小型のポイント・オブ・ケア用半自動分析装置まで,多種多様の機種が各社より発売されている.各製品は目的に応じて微視的に見れば多少の差異はあるものの,測定原理や特性・性能に関しては基本的にほとんど大差ない.
 最近の自動分析装置の例に漏れず,これらの尿定性試験測定装置はいずれもブラック・ボックス化しており,ユーザー側で性能(精度)にかかわる部分の微調整はほとんどできないようになっている.尿定性試験測定装置の場合,測定装置よりも試薬である尿試験紙による影響のほうが強いため,装置と尿試験紙を切り離して別々に考えることは困難である.

ラボクイズ

問題:平衡機能検査【1】電気眼振図

ページ範囲:P.1202 - P.1202

8月号の解答と解説

ページ範囲:P.1203 - P.1203

オピニオン

臨床検査技師の職域拡大

著者: 菊池正幸

ページ範囲:P.1164 - P.1164

はじめに
 近年,病院を取り巻く経営環境は,医療法改正や診療報酬の改定でさらに厳しさが増している.この変化は検査室の環境の変化でもある.また,将来における日本版診断群別定額支払い方式であるDRG/PPSの導入に向けての試行が行われ,その結果,医師はEvidence-Based Medicineを実践するために検査をツールとして考えている.このような環境の中で,臨床検査技師の長期展望について改めて考えてみると,医療人として患者さんの生命,健康を守る使命感と,社会人として後進の雇用確保と社会的身分向上を目指すという使命感から導き出されることは,チーム医療への積極参加を意識した「職域を拡大する環境」作りである.この職域拡大を行うには,臨床検査技師は旧体制から脱却し,みずから変革意識を持って,できる検査技師(Specialist,Expertだけでなく)から,できた検査技師(Specialist,Expert,Management)を目指す必要がある.

けんさアラカルト

輸血による最近の感染症

著者: 岩崎博道 ,   上田孝典

ページ範囲:P.1216 - P.1217

はじめに
 近年,わが国では海外旅行が日常化したほか,留学生をはじめとする外国からの移住者の増加も著しい.このような国際化に伴う人々の動きが活発となったことにより,供血者の生活環境はしだいに多様化し,供血時に感染している可能性のある病原体にも特殊なものが含まれることに注意を要する時代となった.さらに,これまでは知られていなかった新しいウイルスの輸血感染に関しても,近年注目されている.

トピックス

デング熱,デング出血熱の実験室内診断—ウイルス遺伝子検査を中心に

著者: 福永利彦 ,   只野昌之

ページ範囲:P.1239 - P.1244

はじめに
 デング熱およびデング出血熱(Dengue fever/Dengue hemorrhagic fever;DF/DHF)は東南アジア,アフリカ,中南米,および南太平洋地域における公衆衛生上重要な熱帯病である.かつてはわが国でも本症の流行が見られたが,現在は輸入感染症に限られる.起因病原体は4つの血清型からなるデングウイルスで,フラビウイルス科に属する.また,本ウイルスは主にネッタイシマカ(Aedes aegypti)という熱帯に広く生息する蚊によって媒介される.このことから,節足動物媒介性ウイルス(Arbovirus)にも分類されている.自然界における本ウイルスの生活環はヒト-カ-ヒトのサイクルで伝播するが,ヒト以外の哺乳類にはほとんど感染しないと考えられている.したがって,人口密度が高く,媒介蚊が発生しやすい衛生環境の悪い地域が本症の流行地になりやすい.本症に対するワクチンは開発途上にあり,予防法は蚊に刺されないようにするなどの消極的な方法のみである.
 本症の実験室内診断法は大きく分けて,抗体の測定とウイルス分離およびウイルス遺伝子の検出によって行われる.抗体の測定としては補体結合(complement fixation;CF)試験,赤血球凝集抑制(hamagglutination inhibition;HI)試験が古くから用いられている1)

希釈して測定することができない検査

著者: 田島裕

ページ範囲:P.1244 - P.1246

はじめに
 検体の量が不足していたり,測定値が著しく高値を示した場合には,検体を希釈して再測定し,得られた数値に希釈倍率を乗じて“元の値”を推定することがよく行われている.ただし,この方法は決して“万能”ではない.希釈して測定してはいけない検査項目もあるのである.その代表例が“フリーT4(FT4)・フリーT3(FT3)”であるが,以下に理由を示して解説する.

HIV急性感染症状

著者: 安岡千枝 ,   安岡彰

ページ範囲:P.1246 - P.1249

はじめに
 ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiencyvirus;HIV)感染初期において,50〜90%の症例1)で急性レトロウイルス症候群(acute retroviral syndrome)と呼ばれる急性感染症状を呈するといわれているが,その症状がインフルエンザなど他の疾患の症状に類似する非特異的なものであるために,HIV感染患者でこの時期が特定できる割合は多くなく,これらの患者のうち受診する割合は25%ともいわれる.しかし,当施設発足後1年足らずのうちに,約10例の急性感染症状を呈したHIV感染患者を経験した.
 本稿では急性レトロウイルス症候群で見られる臨床症状,検査所見について述べたい.

けんさ質問箱

Q 臨床検査技師が取得できる資格

著者: 今井正 ,   N.M. ,   H.S.

ページ範囲:P.1250 - P.1252

 現在行っている検体検査,生理検査以外に,臨床検査技師が取得できる資格にはどのようなものがあるのでしょう.例えば,内視鏡技師,透析技師,眼底検査・聴力検査を行う技師,また認定輸血検査技師や細胞診スクリーナーなど,できるだけ多くの資格の種類とその取得方法についてご教示ください.

Q LDL-コレステロール直接測定法

著者: 飯塚儀明 ,   桑克彦 ,  

ページ範囲:P.1252 - P.1255

 高脂血症の指標の1つとされているLDL-コレステロールが今までのように計算で出すのではなく,酵素法で直接測定できるようになったそうですが,直接測定した値と計算値との間に差はないのでしょうか.また,トリグリセリド(TG)との兼ね合いはどうなのでしょうか.

今月の表紙

大動脈弁(心内膜炎)の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 症例 患者は感染性心内膜炎と診断された51歳,男性.大動脈弁および僧帽弁閉鎖不全治療のため人工弁置換術が行われ,起炎菌検査のため手術中に採取された大動脈弁と僧帽弁の一部が提出された.
 材料の外観:大動脈弁はもろく崩れやすくなっていたが,僧帽弁は形状をとどめていた.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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