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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻12号

1999年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

老人の貧血

著者: 大田雅嗣

ページ範囲:P.1362 - P.1367

新しい知見
 高齢者の貧血の原因を考える場合,その大部分がいわゆる老人性貧血,続発性の貧血であるのは事実であるが,近年,血液異常に伴い発見される骨髄異形成症候群(MDS)の発症率の上昇が注目されており,おろそかにできない疾患である.MDSの治療はいまだ困難を極めており,病態の進行度に応じた治療法の確立が望まれる.MDSについては,多能性造血幹細胞のクローナルな異常が考えられ,さまざまな遺伝的要因,遺伝子発現の異常が観察されている.最近ではウィルムス腫瘍遺伝子(WT-1)の発現の程度とMDSの病態の進行度が密接な関連を有することが明らかにされ,MDSの治療の進歩に寄与するものと期待されている.

技術講座 微生物

糸状菌の検査

著者: 阿部美知子 ,   鉢村和男 ,   内山幸信 ,   久米光

ページ範囲:P.1369 - P.1375

新しい知見
 糸状菌の検査に関する新しい知見は,それほど多くない.近年,国内外の研究室レベルではアスペルギルス,ペニシリウム,輸入真菌症の起炎菌のいくつかについて遺伝子学的検査法であるハイブリダイゼイション法,PCR法などが検討され,臨床材料からの直接検出あるいは菌種同定を可能としているが,実用化はまだで,市販キットも存在しない.最近になって国内の2,3の検査所で受託検査が行われるようになったところである.
 真菌の感受性検査は,酵母様真菌については検査法がほぼ確立され,わが国では世界に先がけて検査キットが市販された.しかし,糸状菌の感受性検査についてはいまだ方法が確立されていない状況である.

生化学

血清総蛋白・アルブミンの測定法

著者: 林富士夫 ,   久保田浩司 ,   村本良三 ,   斎藤憲祐 ,   大澤進

ページ範囲:P.1377 - P.1382

新しい知見
 アルブミンの測定法は用いる色素(BCGやBCP)により,その反応特異性に違いが見られるのが現状である.この違いは特に低アルブミン血症で著明に現れるため,臨床家の間では低アルブミン血症の診断や治療の際,その効果の確認に混乱が生じている.臨床では肝硬変患者の治療法として分岐鎖アミノ酸薬の治療法が確立され,その効果判定に血清アルブミンが利用されており,正確な測定値の報告が望まれている.国際的な血漿蛋白の標準物質であるCRM470にはアルブミンが含まれるため,これを共通標準として各測定法の正確さの評価が行われた結果,各測定法の問題点が明確になった.
 総蛋白測定法はビウレット法が正確な方法として利用されているが,検体盲検を測定していない.最近,検体盲検を測定できる2試薬系測定試薬が市販された.

血液

アンチトロンビンIII測定法

著者: 雨宮憲彦

ページ範囲:P.1383 - P.1387

新しい知見
 従来使用されているアンチトロンビンIII(ATIII)活性測定法はヘパリン存在下におけるATIIIのトロンビン即時阻害活性を測定している.しかし,この測定法ではATIII活性の10〜20%にヘパリンコファクターII(HCII)の影響を受けていることを指摘されており,正確なATIII活性値を反映しているとはいえなかった.
 最近,HCIIの影響を受けない合成基質を利用したATIII活性測定法が相次いで開発された.1つはHCIIが阻害しない活性化凝固第X因子(F Xa)を用いた方法であり,もう1つはNaCl希釈液の濃度を変えることにより,HCIIの影響を受けず真値のATIII活性が測定できる方法である.

リンパ球の形態異常の分類と考えかた

著者: 近藤弘 ,   秋山利行 ,   巽典之

ページ範囲:P.1389 - P.1396

新しい知見
 リンパ球の形態異常の分類に関して,近年,各種精度管理調査の結果などから,その分類方法に混乱が生じていることを懸念する声が寄せられている.特に,一部でリンパ球の形態異常を規定する1つの細胞区分として,異常リンパ球という新しい分類名称が提唱されたことが,その要因となったものと推測される.これらの分類では,リンパ球を正常リンパ球,異常リンパ球,異型リンパ球と区分しているものの,その分類基準が不明瞭であり,さらに学術的な検討および関連学会における論議が必要であろう.

一般

尿試験紙検査法

著者: 鳥山満

ページ範囲:P.1397 - P.1404

新しい知見
 尿定性試験紙における検出感度と濃度表示値のメーカー間差は,長年にわたり懸案となっていたにもかかわらず,いまだ解決に至っていない.しかし,最近,これを是正する動きが本格化してきた.1998年,わが国の臨床検査の標準を定める代表的機関である臨床検査標準協議会(Japan Committee for Clinical Laboratory Standards;JCCLS)は,尿定性・半定量試験紙の標準化を定める検討を常任委員会で決定し,「尿試験紙検討委員会」が発足した.目的は市販試験紙の検出感度,濃度表示値のメーカー間差を解消するためである.今回は臨床的意義の高い蛋白,ブドウ糖,潜血について検討し,指針する予定である.本委員会では,JCCLS加盟学会・団体および関連学会・団体の意見を参考にし,さらに世界の動向との整合性を高め,より臨床的に有用な検出感度,濃度表示値の設定とメーカー間の統一化を図る考えである(医学検査48:298-302,1999).

日常染色法ガイダンス 組織内病原体の日常染色法—真菌の染色法

グリドリー染色

著者: 田口勝二

ページ範囲:P.1405 - P.1408

目的
 組織標本で真菌症を診断するには,病巣組織内から真菌要素を検出する必要がある.また,真菌は細菌より大きく形態に特徴があることが多いので,標本上で病原真菌の菌種の推定が比較的容易である.グリドリー染色は組織標本上で真菌を染めるのに適した方法の1つである.
 本染色法は,真菌の細胞壁の主成分である中性多糖体のキチンをクロム酸で酸化し,生じたアルデヒド基をフォイルゲン液またはシッフ液を用いて呈色.その後,アルデヒド・フクシンで弾性線維を,またメタニール・イエローで背景を染めることにより,組織構築と菌要素を見やすくした方法である.ムーコルなど,菌種によっては菌要素の染色性が弱く,観察に適さない欠点も指摘されている.しかし,この染色性の強弱も菌種の1つの特徴であり,対照や他の染色法を併用することにより,菌種の推定の一助になる.

脂質(脂肪および類脂質)の日常染色法

四酸化オスミウム酸固定によるパラフィン切片での染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.1409 - P.1410

目的
 脂肪は脂肪溶剤によって抽出される複合体の総称で,中性脂肪,リン脂質,糖脂質などに分類される.
 中性脂肪の多くは,貯蔵型脂肪として皮下,腸間膜,大網などの脂肪組織を構成する.脂肪は脂肪変性,つまり異常に増加したり,通常では見いだされない組織に出現することがあり,これらの脂肪を証明するために用いられる.腫瘍で脂肪が細胞内に出現することから,脂肪肉腫の診断根拠としても用いられる.

検査データを考える

高ナトリウム血症

著者: 浅野博 ,   松尾収二

ページ範囲:P.1421 - P.1424

はじめに
 血清ナトリウムが高値であった場合,まず採血時に輸液のラインと同側から採血しなかったか(あるいはラインから直接採血しなかったか)を疑うべきである.また,抗凝固剤にはナトリウムを含むものがあるため,適切な抗凝固剤(採血管)を使用したかどうかもチェックが必要である.
 高ナトリウム血症が見られる場合,ナトリウムの過剰,または脱水が考えられる.一般に血清ナトリウムはナトリウムの出納状態よりも,水分の出納状態をよく反映する.つまり,高ナトリウム血症の多くが脱水によるものである.ただし,後述するように,ナトリウム過剰投与による医原性の高ナトリウム血症も臨床上しばしば見られる.

検査の作業手順を確立しよう 遺伝子検査・2

DNA診断

著者: 三浦俊昭 ,   玉造滋

ページ範囲:P.1425 - P.1432

はじめに
 近年,遺伝子操作法を使用した臨床検査試薬が用いられるようになった.遺伝子操作法の進歩,自動化および簡便化は,一部の専門家にしか行えなかった手法を身近なものとした.本来の意味でのDNA診断とは,遺伝病の診断などに代表されるような,疾患の原因遺伝子の塩基配列を解析することによって診断を行うことを指すと思われがちだが,感染症の起因菌やウイルスなどの核酸をターゲットにして検出する診断法も,DNA診断の1つとして位置付けることができる.
 本稿では現在,臨床応用されキット化が進んでいるPCR(polymerase chain reaction)法を用いた体外診断用キット(アンプリコア®)の抗酸菌およびC型肝炎ウイルスの定性検出キットを取り上げ,その操作手順を説明していきたい.現在は増幅以降の工程が全自動になっている機器もあるが,マニュアル操作が多い用手法のキットが最も基本になる.

機器性能の試験法

血液凝固測定装置の性能確認試験法

著者: 鈴木節子 ,   国分まさ子

ページ範囲:P.1433 - P.1438

はじめに
 血液凝固測定装置(以下,測定装置)は,血液中に存在する凝固線溶機能に関与する成分(凝固線溶関連因子,凝固線溶過程での産生物質,凝固線溶関連因子の分解物質)を測定するために開発された装置を指し,成分の生理的な機能(活性値)あるいは成分の量(蛋白などの抗原量)を測定する.
 測定装置の性能は,原則的には測定原理に基づいて精密な測定装置が構築され,用手法時代と比較し再現性などの精度は極めて改善されている.そして,複数の製造会社により測定工程,検知機能,演算システムなどが独自に開発されている.しかし,その独自性,すなわち特性のために,ことに生物試料から調製される試薬を用いる検査の場合は,同一名の検査でありながら測定装置間差を生ずる結果を招いている.また,装置の多様性に加えて測定試薬も複数社で開発されているため,試薬と,装置との組み合わせによる施設間差も問題となっている.したがって,測定装置導入に当たっては,測定装置の性能(特性および精度)を確認して目的に合った装置を選択し,導入後は導入時の性能を維持するための管理が必要である.

ラボクイズ

問題:肝機能検査【2】

ページ範囲:P.1416 - P.1416

10月号の解答と解説

ページ範囲:P.1417 - P.1417

オピニオン

病院の方向性と臨床検査技師の在りかた

著者: 佐藤喜一

ページ範囲:P.1368 - P.1368

 現在,日本の病院が直面している問題は次の4つではないだろうか.
 (1)医学の急速な進歩(高額医療機器の消耗戦のような状況)

けんさアラカルト

ホルター心電図の意義と応用

著者: 岸田浩

ページ範囲:P.1418 - P.1419

 ホルター心電図法とは,携帯型心電計を用いて日常生活時の行動中に長時間連続記録ができ,アナラィザーで高速解析する検査法である.ホルター心電図は,不整脈・虚血性心疾患・心不全などの疾患の診断,病態生理,重症度評価,治療方針ならびにその効果判定,予後などに有用性が認められている.
 ホルター心電図の判読で問題になるのは,ST偏位(下降)の判読であり,無症状の状態で認められる運動時のST下降を虚血性所見と判定するかどうかである.この場合には,ホルター心電図装着の適応が何であるのかを知ることが大切であり,患者の基礎疾患や既往歴の情報が必要である.すでに左室肥大や左脚ブロックなどによるST下降を示す例では,体動によるST偏位を認め,また運動によるST下降の増強が無症状のまま発現することがしばしばある.したがって,ホルター心電図所見の判読には,この装置を十分理解している者が行うことが重要である.このような心電図所見の臨床的意義を調べるには,心エコー図検査,冠動脈造影検査や核医学検査などが必要であり,ST偏位を認める例では,あらかじめ臥位,側臥位,立位,あるいは過呼吸時の心電図を記録しておくとその判読に参考になる.

トピックス

最近の抗結核療法

著者: 山岸文雄

ページ範囲:P.1442 - P.1444

はじめに
 1986年(昭和61年)に結核医療の基準が改定され,初回標準治療方式が採用された.この治療方式は,軽症例にはイソニコチン酸ヒドラジド(INH)およびリファンピシン(RFP)の2剤併用療法を6〜9か月間,中等症以上の症例にはINH・RFP・ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)の3剤併用療法を6か月間,次いでINH・RFPの2剤併用療法を3〜6か月間行うのを標準とするものである.この治療方式は,初回からINH・RFPを含む強力な処方であり,治療期間の短縮を含め,わが国の結核医療の標準化,適正化に大きく貢献してきた.
 一方,世界的には治療初期の2か月間にピラジナミド(PZA)を加える初期強化短期療法が広く標準治療方式として受け入れられており,WHOも標準治療方式の1つとして“結核の化学療法,国の結核対策のためのガイドライン”の中で勧告1)している.

健常人のミトコンドリアCK

著者: 星野忠

ページ範囲:P.1444 - P.1446

はじめに
 creatine kinase(EC 2.7.3.2;CK)は,Mサブユニット(骨格筋型)とBサブユニット(脳型)から構成される二量体で,通常,CK-MM,CK-MB,CK-BBの3つのアイソザイムが存在する.これらCKアイソザイム測定の臨床的意義は,心筋梗塞や進行性筋ジストロフィー症をはじめとする筋疾患などの指標として利用されている1).このほかに,悪性腫瘍や心疾患患者に見いだされるミトコンドリア由来のCK(mitochondrial CK;m-CK)が確認されている2,3)
 最近,豊田ら4)は,健常成人の新鮮血清中から全例(346名)にm-CKが検出されたことを日本電気泳動学会で報告し,健常人におけるm-CKの存在について論議を呼んだ.

β3アドレナリン受容体変異と肥満

著者: 家入蒼生夫

ページ範囲:P.1447 - P.1450

はじめに
 肥満とは遺伝素因と環境因子の複雑な相互作用の結果として,エネルギー摂取が消費を上回り,体内に余分な脂肪が蓄積される状態である.また,病的な状態を意味する肥満症とは,標準体重の20%を超える過体重者のうち,医学的見地から減量療法が必要な場合と定義される.肥満度は,BMI 〔body mass index;体重(kg)/(身長(m)2〕と呼ばれる指数を用いるのが一般的である.肥満が糖尿病,高脂血症,高血圧,動脈硬化症など生活習慣病をきたすことから,近年,わが国を含めた先進国で医学的にも社会的にも問題となっている.しかし,臨床的にはBMIが正常範囲の非肥満者であっても,内臓肥満と呼ばれる状態をきたすと,肥満症と同様の問題を生じることが指摘されている1)
 最近,肥満に関して,あるいは脂肪細胞(組織)の機能に関して,分子レベルで新しい事実が次々と明らかにされ(肥満の分子生物学,adiposcience)2,3),その病態生理学的解明が進んでいる.

けんさ質問箱

Q ベロ毒素非産生性病原性大腸菌陽性の場合の対応

著者: 渡辺治雄 ,   M.U.

ページ範囲:P.1452 - P.1454

 給食課職員の便培養検査でベロ毒素非産生性の病原性大腸菌が陽性に出ました.対応はどうすればよいのでしょうか.

Q Ivy法による出血時間測定

著者: 松野一彦 ,   K.T.

ページ範囲:P.1454 - P.1455

 出血時間の測定はIvy法で実施していますが,人によってメスの切り傷の深さを同じにしても,最初の血痕が1cmになる人とそうでない人がいます.よい方法があればご教示ください.

今月の表紙

糞便の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.1376 - P.1376

 症例 患者は22歳男性.東南アジアに旅行.帰国後4日目に水様性下痢が出現したため,内科を受診.発熱はない.下痢症起炎菌検査のため,糞便が提出された.
 材料の外観:糞便は黄褐色の下痢便.血液の混入は認められなかった.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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