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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻13号

1999年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

インフルエンザ

著者: 武内可尚

ページ範囲:P.1462 - P.1469

新しい知見
 (1)1997年,香港でトリ型インフルエンザウイルスA(H5N1)がヒトに感染し,18人中6人が死亡した.1999年2月と3月に,やはり香港でトリ型インフルエンザウイルスのA(H9N2)に2人の幼児が感染した.トリ型インフルエンザウイルスに対してはヒトはレセプターを持たないとされてきたが,mixing vesselとされるブタを介さなくともトリ型インフルエンザウイルスにヒトが直接感染することがあり得るという事実をつきつけられた.その機序の解明と今後の監視が重要である.
 (2)A型インフルエンザウイルスを15分で迅速診断できるキットが発売された(Directigen Flu A).臨床的有用性が極めて高い.

技術講座 微生物

グリコペプタイド耐性菌と検査法

著者: 小森敏明 ,   藤田直久 ,   池康嘉

ページ範囲:P.1471 - P.1479

新しい知見
 耐性菌が全世界的に問題になっている.その中でもグリコペプタイド耐性菌が注目されている.グリコペプタイド系抗生物質の1つであるバンコマイシン(VCM)は,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の特効薬として注目され,最後の切り札と呼ばれてきたが,近年,耐性を持った細菌が出現してきた.その細菌とは腸球菌とブドウ球菌である.VCMに耐性を持った腸球菌は欧米では院内感染原因菌として急増している.また,MRSAにもVCM治療に対して耐性を持った株が見つかっている.わが国においてもグリコペプタイド耐性菌が散見されるようになり,耐性菌の発見が遅れると院内感染が拡大する恐れがある.迅速かつ正確な同定と報告が必要になってきている.

免疫

HIV-1,2抗体測定法

著者: 山下順香 ,   柴田弘俊 ,   出口松夫

ページ範囲:P.1481 - P.1487

新しい知見
 現在,わが国で市販されているHIVスクリーニング試薬の固相抗原は,主にリコンビナント抗原や合成ペプチドが用いられている.その中でもHIV抗体を2つの抗原でサンドイッチすることにより検出する測定法は,IgG,IgA,IgM型HIV抗体の検出が可能であることから,ウインドウピリオドが20〜30日と抗体測定法の中では最も短い.しかし,アメリカやヨーロッパではさらにウインドウピリオドを短くするために,HIV抗体の検出と同時にp24抗原も検出できる試薬が開発され,すでに市販されている.それによりウインドウピリオドはおよそ15〜25日に短縮されている.また,確認検査においてもリコンビナント抗原や合成ペプチドを使用したstrip immunoblot assayが開発・市販されており,ウインドウピリオドは現行のスクリーニング検査と同じ20〜30日に近づきつつある.

血液

白血球ペルオキシダーゼ染色法

著者: 亀井喜恵子

ページ範囲:P.1489 - P.1494

新しい知見
 ペルオキシダーゼ酵素,特にミエロペルオキシダーゼは,血液細胞の中でも骨髄系(顆粒球系)細胞の一次顆粒内(アズール顆粒)に多く存在するが,リンパ球系細胞には存在しない.急性白血病など形態的に鑑別の難しい芽球細胞の増殖する疾患では,ペルオキシダーゼ酵素の有無で細胞鑑別が容易になる場合が多い.現在,広く利用されている急性白血病の病型分類法の1つであるFAB分類では,芽球細胞のペルオキシダーゼ反応が3%以上陽性か否かで,骨髄性かリンパ芽球性かに分類する第一歩が始まる.したがって,ペルオキシダーゼ反応の結果は極めて重要な要素となる.

病理

共焦点顕微鏡の扱いかた

著者: 小山田正人 ,   小山田ゆみ子

ページ範囲:P.1495 - P.1501

新しい知見
 共焦点顕微鏡(共焦点レーザー走査顕微鏡)は,従来の蛍光顕微鏡の延長線にあるが,蛍光顕微鏡が持ち得なかった優れた性能を備えている.共焦点顕微鏡は,小さな励起光スポットで走査し,光検出器の前の共焦点位置にピンホール絞りを置くことによって,焦点面以外の迷光を取り除く.これにより,光軸方向の解像度が飛躍的にアップし,厚い試料でも鮮明な蛍光像が得られるようになった.また,CTスキャンによって人体の断画像が撮れるように,共焦点顕微鏡によって細胞の断層像がとらえられ,三次元構造の再構築ができるようになった.

日常染色法ガイダンス 細網(好銀)線維の日常染色法

渡辺鍍銀法

著者: 布施恒和

ページ範囲:P.1505 - P.1509

目的
 渡辺鍍銀法の目的は,結合組織の線維成分の主体をなす細網線維(reticulum fiber)と膠原線維(collagen fiber)を染め出すことである.
 細網線維は膠原線維の亜型であるcollagentype IIIと考えられ,一般的に走行の形態から格子状線維,また銀親和性が高いことから好銀線維(argyrophil fiber)と呼ばれている.これは脾,肝,リンパ節などの網内系に多く存在する緻密で繊細な線維で,細網状〜格子状に配列している.この線維の走行状態は未分化な悪性腫瘍の鑑別(上皮性か,非上皮性か),間質性肺炎,脾炎,肝炎における線維化の進行状態の把握に極めて重要である.したがって,細網線維を明瞭に染め出す鍍銀法は病理組織学的診断に不可欠な染色法の1つとなっている.

検査データを考える

甲状腺機能異常

著者: 畑直成

ページ範囲:P.1513 - P.1517

はじめに
 甲状腺機能検査は甲状腺の働きを調べるもので,ホルモンを測定することにより,甲状腺疾患の病態を知るうえで重要な手がかりとなる.同じ甲状腺疾患でも,治療前と治療中では甲状腺機能が変わるので,その解釈には薬剤投与の有無などについて注意が必要である.甲状腺機能検査の中で,一般によく用いられるTSH(thyroid-stimulating hormone;甲状腺刺激ホルモン),free T4(free thyroxin;FT4),free T3(free triiodothyronine;FT3)について述べる.これらの3種類のホルモンは,お互いに関連し変動するので,組み合わせて測定すると甲状腺機能の解釈だけでなく,測定系への非特異的な干渉の有無や,珍しい病気の発見につながることがある.

検査の作業手順を確立しよう 遺伝子検査・3

遺伝子検査に用いられる主な電気泳動

著者: 宮西節子

ページ範囲:P.1519 - P.1523

はじめに
 核酸は隣り合ったヌクレオチドのリン酸基と糖の水酸基がリン酸ジエステル結合した分子で,二本鎖DNAでは中性緩衝液中でリン酸基に由来する強い陰性荷電を持つ.そのため,電場では陽極に引かれて泳動される.このとき分子ふるい効果のある支持体中を泳動すれば,分子の大きさ(長さ)に応じて泳動速度が変化し,小さい分子では速く,大きい分子では遅く泳動される.
 本稿では臨床検査で頻用されるDNAの電気泳動法について紹介する.

機器性能の試験法

EIA法による免疫成分測定装置の性能確認試験法

著者: 福村幸仁

ページ範囲:P.1527 - P.1536

はじめに
 エンザイムイムノアッセイ(enzyme immunoassay;EIA)は,“酵素免疫測定法”ともいわれ,簡潔に表現すれば酵素反応と免疫(抗原抗体)反応を組み合わせた標識免疫測定法の総称である(図1).以前はラジオアイソトープを利用したラジオイムノアッセイ(radio immunoassay;RIA)が主流であったが,現在ではEIAが広く普及し,微量物質の測定に欠くことのできない重要な検査法の1つとなっている.EIAとひと口にいっても,蛍光を利用したFEIA(fluorescent enzyme immunoassay),化学発光を利用したCLEIA(chemiluminescent enzyme immunoassay),またSyva社が開発した競合法EIAを用いたEMIT[エミット](enzyme multiplied immunoassay technique)もすべてEIAに含まれる.最近は,より高感度な測定法を求めて,CLEIAやRIAと原理が同じであるCLIA(chemiluminescent immunoassay:非EIA)や,電気化学発光といわれているECLIA(electrochemiluminescence immunoassay:非EIA)などの化学発光を原理とした高感度な測定法が主流になりつつあるのが現状である.現在広く普及しているEIAを原理とした分析装置を表1に示す.

ラボクイズ

問題:女性のホルモン異常【5】

ページ範囲:P.1502 - P.1502

11月号の解答と解説

ページ範囲:P.1503 - P.1503

オピニオン

臨床検査技師のめざすもの

著者: 橋本洋

ページ範囲:P.1470 - P.1470

はじめに
 バブルの崩壊とともに医療ビッグバンが訪れようとしている.1991年以降,医療費の伸びがGNPの伸びを上回る勢いであること,21世紀初頭より高齢少子化が予測されることなど,現行の医療構造の抜本的改革が求められている.
 今,われわれ臨床検査技師は,問われている問題点を真摯に受け止め,検査技師としてどう対応すべきなのか,何をめざしていくべきなのか,机上ではなく行動を伴わせる時期を迎えている.

けんさアラカルト

髄液成分の基準範囲

著者: 和田玲子

ページ範囲:P.1524 - P.1525

はじめに
 脳脊髄液(以下,髄液)は脳室およびクモ膜下腔を満たし,軟膜を介して中枢神経系に接している.このため,髄液成分の変化は脳および中枢神経系のさまざまな機能や異常を反映する.
 近年,自動分析装置の普及などにより測定可能な項目は増加しているが,髄液成分の新たな項目についての基準範囲の設定は,健常者からの検体採取が困難なことからその報告は少ない.

トピックス

睡眠障害の脳波

著者: 宮本雅之 ,   平田幸一 ,   宮本智之

ページ範囲:P.1537 - P.1541

はじめに
 睡眠障害は多種多様に存在し,その病態の把握は睡眠障害の診断と治療を行っていくうえで重要である.睡眠障害の分類には,1979年のAssociation of Sleep Disorders Centers(ASDC)とAssociation for the Psychophysiological Study of Sleep(APSS)の分類(ASDC-APSS分類)1),1991年のInternational Classification of Sleep Disorders(ICSD)2)がある.ASDC-APSS分類では睡眠覚醒障害の診断として,①不眠症群,②過眠症群,③睡眠覚醒スケジュールの障害,④睡眠随伴症に分類したのに対し,ISCDでは睡眠異常(内因性睡眠障害,外因性睡眠障害,概日リズム睡眠障害),睡眠時随伴症,内科/精神科的睡眠障害,提案検討中の睡眠障害に分類している.
 これらの診断は,患者からの問診,睡眠日誌などをもとに進められるが,実際の患者の主観的な訴えのみでは十分な情報が得られないこともしばしばある.患者の睡眠のプロフィールを把握し,睡眠の質と量を客観的に評価するために神経生理学的検査,すなわち脳波や終夜睡眠ポリグラフィー(polysomnography;PSG)の施行が必要となる.

自己免疫性溶血性貧血の機序

著者: 亀崎豊実 ,   梶井英治

ページ範囲:P.1541 - P.1544

はじめに
 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolyticanemia;AIHA)は赤血球に対する自己抗体の産生と,それに伴う赤血球の破壊(溶血)により生じる貧血の総称である.その診断は赤血球に結合した抗赤血球自己抗体や補体の証明によりなされ,凝集反応に基づいた血清学的手法である直接クームス試験が広く用いられている.

COX-2と胃潰瘍

著者: 小島利周 ,   佐藤貴一 ,   菅野健太郎

ページ範囲:P.1544 - P.1547

はじめに
 WarrenとMarshallにより1983年に発見された胃内のグラム陰性桿菌Helicobacter pylori(H. pylori)は,上部消化器疾患についての概念に変革をもたらし,潰瘍は感染症として認識されるようになってきた.一方,非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)は,これまでのさまざまな検討より,プロスタグランジン(prostaglandin;PG)合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase;COX)を抑制することにより胃潰瘍を惹起させることが明らかになっている.
 今回は,COXについて概説し,胃におけるCOX-2の意義について述べる.

けんさ質問箱

Q 先天性眼振の検査

著者: 鈴木衞 ,   古屋正由 ,   S.H.

ページ範囲:P.1549 - P.1550

 先天性眼振について,検査上の特徴などをご教示ください.また,先天性眼振があっても“めまい”は感じないと聞いたことがありますが,もし他の疾患があって“めまい”を感じたとき,その検査データをどう読んだらいいのでしょうか.

Q Bウイルス病とは何か

著者: 棚林清 ,   向井鐐三郎 ,   山田章雄 ,   K.O.

ページ範囲:P.1551 - P.1552

 感染症で“強制隔離”分類されるBウイルス病についてご教示ください.伝染病予防法の新しい分類では,アメリカ合衆国などと比較してどう違うのでしょうか.

今月の表紙

血液培養の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.1480 - P.1480

 症例 患者は脳出血で,意識レベルが低下した,寝たきりの69歳女性.気管切開,膀胱内カテーテルを留置しているが,血管内カテーテルの留置はない.ときおり肺炎を併発するので,感染予防のためアンピシリン/スルバクタム合剤(ABPC/SBT)を使用している.38℃台の発熱を認めたため菌血症を疑い,8月6日,血液培養が行われた.
 菌発育とグラム染色:BCボトル(コロンビアブロス)が1本提出されたため,3日目までは嫌気性菌検査のためそのまま培養,その後BCBスライドを装着して培養した(写真1).その翌日,ボトル内の培地には変化が認められなかったが,BCBスライドのチョコレート寒天培地の部分に薄い膜のように菌の発育が観察された.写真2aはボトルの内容をグラム染色したものである.

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「検査と技術」第27巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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