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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻2号

1999年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

筋萎縮性側索硬化症

著者: 大矢寧

ページ範囲:P.108 - P.114

新しい知見
 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は,人工呼吸による長期生存などで病理学的に広汎な変性をきたす症例が認められ,疾患の多様性が明らかになった.今日では在宅人工呼吸器療法が普及しつつあり,また,さまざまな薬の臨床試験が行われている.家族性筋萎縮性側索硬化症の一部にSOD-1(Cu/Zn-SOD)の変異が見つかり,球脊髄性萎縮症ではアンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート数増加が認められた.

技術講座 一般

結石分析

著者: 原弘

ページ範囲:P.117 - P.126

新しい知見
 結石は溶解性の低い生体成分の体内濃度が高まり結晶化することにより形成される.しかし,必ずしも生体成分のみが結石の成因となるわけではない.ときとして本来治療に使用された薬物自体が結石の構成成分となる場合がある.再発防止のためには薬物治療の方針を変更する必要があり,結石中の薬物を同定することは臨床的に重要である.結石を赤外分光分析法で測定し,いずれの生体成分とも一致しないスペクトルが得られた場合は薬物結石を疑うべきである.こうした場合は患者の投与薬物を結石と同様に分析し,得られたスペクトルを結石のスペクトルと比較してみることが必要である.もちろん薬物自体ではなく,その代謝物が結石となりうる場合もありうる.
 現在までにトスフロキサシン(抗菌剤),ケイ酸(ケイ酸マグネシウム;制酸剤),サルファ剤,トリアムテレン(利尿剤)などで薬物を含む尿路結石が発生することが報告されている.

生化学

高カルシウム血症とその検査

著者: 山上啓子 ,   稲葉雅章

ページ範囲:P.127 - P.134

新しい知見
 高カルシウム(Ca)血症の診断と治療において,血漿Ca濃度に加え,骨代謝に関連するホルモンや骨代謝マーカーの測定は大きな意味を持つ.1991年に副甲状腺ホルモン(PTH)受容体がクローニングされ,Ca受容体(CaR)は1993年にクローニングされている.CaRは細胞外Ca濃度を感知し,細胞内にその情報を伝達するが,副甲状腺だけではなく,甲状腺C細胞や腎組織にも発現している.家族性低Ca尿症高Ca血症(FHH)はCaRの感受性低下により発症することが明らかにされた.

免疫

β2-ミクログロブリンの測定

著者: 渡辺信子

ページ範囲:P.135 - P.141

新しい知見
 β2-ミクログロブリン(β2-m)についての知見ではないが,最近注目されているα1-ミクログロブリン(α1-m)について紹介する.α1-mは分子量33,000,糖質21.7%を含む糖蛋白で,主に肝臓で合成される.β2-mと同様,低分子蛋白で,腎糸球体基底膜で濾過され,近位尿細管でほとんどが再吸収され,異化されるので尿細管障害の指標として用いられる.β2-mと異なる点は,血中に増加する疾患が少ないこと,尿中での安定性が高く,pHの影響を受けないことである.よって,尿細管障害の指標として用いる場合は除外因子が少なくなることや,尿pHを考慮する必要がなく,データの信頼性が高まるなどの利点になっている.測定法もβ2-m同様,RIA法,EIA法,LIA法が確立されており,いずれβ2-mに代わる検査になっていくのかどうか注目したい.

微生物

サルモネラの検査法

著者: 犬塚和久

ページ範囲:P.143 - P.150

新しい知見
 サルモネラ属菌はわが国で最も多い食中毒原因菌であるが,肉類摂取の多い欧米ではさらに多く,食中毒の40〜80%を占めている.2,000種を上回るサルモネラ血清のうち,1989年以降,わが国ではS.Enteritidisによるサルモネラ症が急増して問題になっている.WHOがサルモネラ症の分離状況を調査した結果,世界的な流行になっていると警告している.欧米での研究報告を見ると,S.Enteritidisの感染源は鶏卵であり,従来から指摘されていた卵殻表面の汚染よりも,卵殻内(いわゆるin egg)が原因と指摘されている.産卵する鶏の卵巣や卵管に無症候性に本菌が定着することが原因とされている.

日常染色法ガイダンス 金属・無機物の日常染色法—カルシウムの染色法

コッサ染色

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.151 - P.153

目的
 組織に沈着したカルシウム塩を検出することが目的である.カルシウム塩は骨,歯以外の組織では通常溶解した状態で存在するが,加齢や病的状態(腫瘍,炎症,血中カルシウム濃度が高い状態など)で組織に沈着することがある.カルシウム塩としてはリン酸塩が多いが,リン酸炭酸塩あるいは炭酸塩も存在する.
 石灰化物はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色でヘマトキシリンに濃染するため,比較的容易に認識されることが多いが,他の沈着物との区別が難しい場合や,沈着量が少なく,HE染色上,同定が困難な場合などにはカルシウムに対する染色を行う.

中枢神経系の日常染色法—神経原線維およびその突起の染色法

ナウタ染色

著者: 阿部寛 ,   園上浩司 ,   柿沼千早 ,   水谷喜彦 ,   須田耕一

ページ範囲:P.155 - P.157

目的
 ナウタ染色は,神経線維の切断や薬物中毒などによる軸索の変性と神経原線維変化を主体とする老人斑などを選択的に染め出す染色法である.種々の変法があるが,ここではパラフィン切片で行うことができるGuillery, Shirra and Websterのナウタ変法について述べる.

検査データを考える

急性膵炎

著者: 深津俊明

ページ範囲:P.177 - P.181

はじめに
 急激な腹部激痛をきたし,開腹手術を含めた緊急処置を必要とするのが急性腹症である.急性膵炎は急性腹症として,しばしば遭遇する疾患である.しかし急性膵炎の臨床経過はさまざまで,比較的軽症で自然に治癒する症例から,発症が急激で死に至る重症例まであり,患者の病態と成因,重症度を迅速かつ的確に把握し,治療方針を早期に決定することが必要となる.

検査の作業手順を確立しよう 生化学検査・3

電気泳動法による検査

著者: 橋本寿美子

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに
 電気泳動法は微量の試料で,蛋白質を変性させることなく,容易な技術で分離分析を行うことのできる検査法の総称である.なかでも血清蛋白分画法は,各分画値の増減や泳動像を観察することにより,数多くの病態解析に有用な情報を提供してくれる検査法である.電気泳動法は血清蛋白分画のほかに,各種酵素に見合う基質反応を行うことで各種アイソザイム分画,脂質染色を行うことにより,リポ蛋白分画を検索することができ,さらに免疫反応を行う免疫電気泳動法,免疫固定電気泳動法などさまざまな応用がなされる.また,最近ではDNA解析の手段としても電気泳動法が用いられるなど,将来的にも応用範囲の広い分析技術である.
 血清蛋白分画法は最近,わが国では全自動電気泳動装置を用いる施設が増加し,用手法を用いる施設は少なくなっているが,本稿では日常臨床検査として実施されている用手法蛋白分画について,検体の採取から結果報告までの一連の作業の中で発生する問題点や対処法などを明確にし,検査を行ううえで知っておかなければならない必要事項,保存,輸送など,標準的作業手順について述べる.業務の全体的な流れを図1に示す.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・14

測定温度の正確さ

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.187 - P.193

はじめに
 臨床検査室では生化学的,免疫学的,血液学的検査について多種多様な自動分析装置により日常検査を実施している.いずれの検査も,主たる分析反応は一定に制御された温度で行われている.実際の反応は反応容器(吸収セル)内で実行される.それが一定の温度に保持されるのは,装置内の循環恒温槽に浸漬させた状態で稼働しているからである.
 しかし,日常の稼働状態での循環恒温槽内温度を反応容器内へ伝導する時間は約10分程度であり,両者の温度が厳密なレベルで平衡にならないことが多い.ここでいう“測定温度”とは反応の場の温度を指す.すなわち,反応容器内の温度をいう.

ラボクイズ

問題:腹部超音波【3】

ページ範囲:P.158 - P.158

1月号の解答と解説

ページ範囲:P.159 - P.159

オピニオン

臨床検査技師教育に思う

著者: 加藤亮二

ページ範囲:P.115 - P.115

 日本における医療技術者教育は看護教育に代表されるように近年著しく変わろうとしています.臨床検査技師教育においても昭和33年に衛生検査技師法が法制化されたのち,およそ半世紀の年月を経て専門学校,専修学校,3年制短期大学教育から4年制大学教育へと変革されつつあります.
 この背景には医学の進歩に伴う専業(専門)化,多様化する国民のニーズへの対応が考えられていますが,前者では,ここ数年に分子生物学に代表される新しい医科学が急速に発達し,時代に対応した新検査技術の習得が急務となっています.後者では激動する医療情勢の中で,迅速かつ正確な検査データの供給と安価な検査ならびに患者と向かい会う検査が求められております.

けんさアラカルト

ストレスと血液凝固

著者: 松尾武文

ページ範囲:P.142 - P.142

 ストレスとは,個人に対する強い緊張を生じる出来事に代表される心理的なひずみやホメオスタシスの乱れをもたらす有害な作用と定義され,日常生活でもしばしば体験する出来事である.
 平成7年(1995年)1月17日未明に発生した阪神・淡路大震災は震源地に近い淡路島北淡町をはじめ,阪神地区に甚大な人的・物的被害をもたらした.同時に地域住民は強いストレスを経験した.ストレスを客観的に評価することは困難である.よく用いられているアメリカ精神医学会の精神障害の診断・統計マニュアル(1987年版)の6段階の評価によれば,急性ストレスの中で破局的ストレスに該当するものは子供の死,配偶者の自殺,壊滅的な自然災害が相当する.今回の地震で,多くの住民が破局的なストレスを体験した.

トピックス

レセプター異常症(小児科領域)

著者: 田原卓浩

ページ範囲:P.165 - P.168

はじめに
 細胞が細胞外からの情報(シグナル)を認識して,その情報を細胞内へと伝える役割を担う蛋白質をレセプター(receptor,受容体)と総称している.
 レセプターの概念が提唱されたのは,薬理学者のLangleyの時代(1878年)で,はるか昔のことであるが,その実体化へ向けての第一歩はクラーレの研究において薬物の結合する物質をreceptive substanceと呼んだことと考えられている1).そして,1960年代に放射性物質で標識されたリガンド(レセプターに結合する物質)の開発が契機となってレセプターが実体化され,レセプターの精製・遺伝子の分離・構造決定・機能の解明へとさまざまなレセプターに関する基礎的研究が進められ,次々に新たな事実が明らかにされつつある.

熱画像診断の現状と問題点

著者: 芝田宏美

ページ範囲:P.168 - P.171

はじめに
 1993年,熱画像検査は臨床検査技師の業務として,法的に認められた.そして同年,3年間という年月をかけた熱画像検査法診断基準が完成した.あれから6年,診断基準の浸透,機器の発展とともに,熱画像検査は著しく普及し,多くの学会で熱画像検査に関する報告も増えた.しかしここ数年,診断基準とはかけ離れた撮影条件の報告が見られることが多くなった.過去に,アメリカサーモロジー学会は,環境基準設定を持たなかったために,結果の正確性に欠け,診断基準の確立ができなかった経緯がある.
 本稿では,アメリカの失敗を繰り返さないためにも,現在見られる環境条件設定とその問題について述べ,正しい測定・診断について解説も加える.そして,近年,改正されつつある診断基準についても補足を加える.

日臨技学会初の試み“ニューメディアカンファレンス”

著者: 厚味高広 ,   鈴木茂孝

ページ範囲:P.171 - P.174

はじめに
 近年のLAN(local area network,構内情報通信網),WAN(wide area network,広域情報通信網),ISDN(integrated services digital network,サービス統合ディジタル網)など,コンピュータネットワークのインフラが整備されてきたこととその利用コストの低下により,インターネット利用人口は依然増加の傾向を辿っている.また,各施設でも稼働しているコンピュータシステムをインターネットに接続するケースが増えており,以前に比べるとインターネットがより身近な存在になってきた.
 日本臨床衛生検査学会でも最近のインターネット事情を反映して,1997年より,インターネットを積極的に利用しようという取り組みがなされている.

けんさ質問箱

Q 病原性大腸菌に関する報告のしかた

著者: 坂本雅子 ,   本田武司 ,  

ページ範囲:P.194 - P.197

 病原性大腸菌O157が近年話題になっています.病原性大腸菌の検査キットとしては,デンカ生研の免疫血清混合1〜8と,単品約40種が市販されていますが,検査の報告を行う場合,どの程度の報告(例えば,①下痢原性大腸菌などという形で報告する.②ETEC,EIEC,EHEC,EPECなどで報告する.③O157,O111,O128などの血清型で報告する)をしたらいいのでしょうか.また,便以外の尿や膿から分離されたE. coliで,病原性大腸菌に血清型と凝集を起こした場合の報告のしかたなどについてもご教示ください.

Q 心房粗動とは何か

著者: 池田隆徳 ,   山口徹 ,   F.S.

ページ範囲:P.198 - P.200

 心房粗動(1:1伝導)について,上室頻拍との相違などと併せてご教示ください.

今月の表紙

胸水(膿胸)の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.154 - P.154

 症例 患者は68歳男性,1995年に非ホジキンリンパ腫(IV期)と診断された.1998年10月2日に呼吸困難が出現したため,内科を受診.体温は37℃.胸部X線で左胸腔内に胸水貯留が疑われ入院.胸腔穿刺により膿性の胸水が得られ,膿胸と診断された.起炎菌検査のため,胸水が提出された.
 材料の外観と塗抹検査:胸水(写真1)は灰白色,膿性.粘稠性は弱く,漿液性に近い.悪息は認めなかった.胸水のグラム染色(写真2)では融解した多数の白血球のほか,グラム陽性レンサ球菌が多数認められた.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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