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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻3号

1999年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

血友病

著者: 滝正志

ページ範囲:P.208 - P.212

新しい知見
 最近の臨床的な進歩は,血友病治療に使用される第VIII因子製剤,第IX因子製剤の安全性が高まったことである.血漿由来の製剤においては,ドナースクリーニング法の改善,加熱処理などのHIV対策により新たなHIV感染は防止されており,C型肝炎などの輸血後肝炎についてもドナースクリーニングの改善,ウイルス不活化処理などにより安全性の高いものとなった.遺伝子組換え法で製造されたリコンビナント製剤においては,第VIII因子製剤では臨床的な有効性が確認され,さらに安全性の向上のためアルブミン無添加製剤の治験が行われている.リコンビナント第IX因子製剤は現在治験中であるが,製造全工程中でヒトおよび他の動物由来の血漿・血清はいっさい使用せず,最終産物にアルブミンを添加せず,ウイルス感染の側面からさらに安全な製剤と考えられる.
 血友病に対する根本的な治療法である遺伝子治療に関しては精力的な研究が行われているが,発現率,発現持続時間など臨床応用までにはいくつかの問題がある.これらを解決して,将来,安全で効果的な遺伝子治療が実施されることを望みたい.

技術講座 微生物

炭酸ガス培養法

著者: 三澤成毅

ページ範囲:P.215 - P.222

新しい知見
 炭酸ガス培養法については,ガス発生袋を用いた培養法が頻用されているが,近年では触媒や水の添加の不要なものが開発され,より簡便に検査に用いることができるようになった.発育に炭酸ガスを要求する菌はあらゆる種類の材料から検出される可能性がある.日常検査では,検出が比較的高率な材料や,材料の外観や塗抹検査所見から使用範囲を決めておく必要がある.また,用いる培地や培養期間,観察のタイミングにも注意が必要である.呼吸器系材料では血液寒天培地とチョコレート寒天培地を炭酸ガス培養するのが望ましい.

生理

危険な不整脈の鑑別法

著者: 深谷眞彦

ページ範囲:P.223 - P.228

新しい知見
 頻拍性不整脈の興奮旋回路の診断法
 頻拍性不整脈の多くはリエントリー性不整脈である.心房粗動や持続性単形性心室頻拍などの興奮旋回路を詳細に検討することは,カテーテルアプレーションなどによる治療時に必要である.興奮旋回路の検討は,臨床心臓電気生理検査(EPS)で,X線透視下に種々の多極カテーテル電極を複数本心腔内に挿入して,多くの部位の電位を記録することで行われている.最近は,1本で64極(8極×8スプライン)というバルーン・カテーテル電極もある.このようにして得られる多点同時の心腔内電位は,単にポリグラフに表示されるだけでなく,コンピュータによるいろいろな解析処理が可能で,最近は専用機器を用いて複雑な興奮旋回路の同定が行われるようになってきている.このようにして,例えば通常型の心房粗動は,右房内の三尖弁輪を前縁とし,上大静脈と下大静脈を結ぶ分界櫛および下大静脈冠状静脈洞に至るEustachian弁・縁のラインを後縁とする領域を,興奮が右室側から見て反時計方向に旋回(右房自由壁側を下行,心房中隔側を上行)する頻拍であることが明らかになっている.さらに最近,electroanatomical mappingという新しい診断機器も登場している.

日常染色法ガイダンス 金属・無機物の日常染色法

水銀の染色法—岡本,妹尾,奥村のジフェニルチオカルバジド法

著者: 植嶋輝久

ページ範囲:P.229 - P.229

目的
 水銀の組織化学的証明法として,硫化水銀や塩化第一スズを用いる方法がいくつか考案されている.1944年に発表された岡本,妹尾,奥村の方法は水銀の鋭敏な色彩沈殿反応を応用したものである(直接法).

検査データを考える

劇症肝炎における肝機能検査成績の解釈

著者: 上杉成人 ,   永井孝三 ,   賀古眞

ページ範囲:P.237 - P.243

はじめに
 劇症肝炎は20年前には救命率20%以下と致死率の高い疾患であった.しかし,治療法の改善により10年前には30%近い救命率となり,最近では血漿交換に加え,人工肝(膜濾過透析法),インターフェロン(interferon;IFN)-シクロスポリン(ciclosporin;CS)療法などの導入により約40%とさらに向上している.
 そうはいっても,劇症肝炎の中でも急性型といわれる脳症発現までの期間の短い症例では,救命率の改善が著しいものの,発症から脳症発現まで10日以上経過する亜急性型の症例ではいまだに救命率が15%と低く,治療に難渋している.劇症肝炎の発生率は輸血の際のHBs抗原スクリーニング導入以来年々減少しており,肝炎ウイルス感染予防知識の浸透とともに減少した感がある.

検査の作業手順を確立しよう 生化学検査・4

免疫電気泳動

著者: 野口昌代 ,   大竹皓子

ページ範囲:P.244 - P.250

はじめに
 GraberとWilliamsの免疫電気泳動(immunoelectrophoresis;IEP)法は,寒天ゲルを支持体とする電気泳動法と,二次元平板免疫拡散法とを組み合わせた蛋白質の定性的な分析法である1,2)(図1).
 この方法は,抗原抗体反応による特異性を利用して判別するため,電気泳動では同じ易動度の分画に含まれる複数成分を個別に同定できる特徴があり,沈降線の形状,増減を正常血清を対照として総合的に蛋白異常を判読する.特に,免疫グロブリン異常症の検索には不可欠の方法であり,monoclonal protein(M蛋白)の同定,型判定,尿中Bence Jones蛋白(BJP)の有無や,その型を判定するうえで重要な検査法である.

機器性能の試験法 自動分析装置の性能確認試験法・15

セル内温度の経時変化

著者: 吉本茂

ページ範囲:P.253 - P.258

はじめに
 臨床化学検査領域の自動分析装置において,恒温槽内の温度表示はほとんどの機種で可能であるが,セル内温度を表示できる装置はない.また,検体の分注から結果の出力まで反応温度の経時変化を考えると,一般的には37℃の恒温槽の中でセルは加温されていて,検体,試薬,攪拌のための撹拌棒などが順次反応セルに入っていくため,セル内の溶液温度はその都度変化している.さらに,その変化のしかたは機種の特性により多種多様である.このような背景の中での反応中のセル内温度は,反応速度を大きく左右する因子であり,特に酵素測定の正確性を高めるうえでも,その温度特性を知ることは分析条件の測光開始時間を決定するに当たり極めて重要なことである.
 セル内温度の確認法は,温度計の挿入が不可能なフローセル内反応液温度の確認をすることを目的として,pH指示薬を用いる方法1,2)が1976年から実際の温度測定として試みられた.この方法を改良し,多点測光方式の自動分析装置に応用して“pH指示薬を用いたセル内温度モニター法3)”を日本臨床化学会機器専門委員会が試験法として提示したので,その方法に基づき,日常検査でよく使用されている自動分析装置について,セル内温度の経時変化について解説する.なお,表現している温度(℃)は絶対温度ではなく,吸光度から計算により求めた換算温度(calcurated temperature)3)のことである.

ラボクイズ

問題:好酸球増多症【4】

ページ範囲:P.232 - P.232

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.233 - P.233

オピニオン

患者になってみて

著者: 林譲

ページ範囲:P.213 - P.213

 1996年の夏に年齢からくる疲労とはちょっと違う易疲労感,動悸,寝汗などの変調に循環器科を受診,早々に心エコー検査を受け,重度僧帽弁閉鎖不全症との診断を受けました.“別に緊急性はないが,現在の医療技術から弁修復術も選択肢に加え,手術をする方向で考えてみてはどうか”と説明がありました.内容はよく理解できましたが,やはり“手術”となると,それにかかる期間,その間の仕事のこと,危険率の問題や家族,そして親のこと,挙げればきりがないほど考えなければならないことが浮かんできて非常に悩みました.しかし,結果としては手術を決断するまでにあまり時間を必要としませんでした.
 手術をすると決めてからは,手術目的で紹介された某医科大学附属病院を翌年3月に受診し,胸部外科の先生からも,一刻も早く,余病がなく,心機能も保たれ,体力のある現時点での手術を奨められ,4月の桜の花が咲き誇る時期に検査入院,そして手術と,今まで悩んだことは,あっという間に現実となっていきました.

けんさアラカルト

臨床検査技師と海外医療活動

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.234 - P.235

はじめに
 「海外で医療活動をする」ということを,自分の身において考えられたことはありますか?おそらく,「漠然とした夢としては持っているけれど……」と答えられる方が多いのではないでしょうか.実際,自分が「海外で医療活動をする」というはめに陥るなど,誰も想像できないことでしょう.実は私がそのはめに陥ったのは1967年9月の,私が当天理よろづ相談所病院に就職したその年のことでした.当時,日本はまだ固定相場制で,1ドルの為替レートが360円で,われわれ庶民が海外に出るなどまだまだ夢のような時代でした.そのころ,当院ではアフリカのコンゴ共和国に毎年医療スタッフを派遣しており,私はその第3回目の隊で6か月間赴任しました.以降,1972年にはラオス共和国へ3か月,1993年にはJICA(日本国際協力事業団)のプロジェクトで,ケニア共和国へ1年,1996年は大阪大学微生物病研究所の方々とバリ島に約1週間,そして1997年12月には日本国際医療団の仕事でタイ王国へ1週間行って参りました.このような経験を踏まえ,海外医療に関する情報をお示しします.

トピックス

尿中微量アルブミンとクレアチニンを同時に測定する試験紙法

著者: 木庭敏和 ,   中村玲子 ,   伊藤機一

ページ範囲:P.262 - P.264

■微量アルブミンとは
 試験紙法など通常の尿蛋白定性検査では検出できない(15mg/dl以下)が,健常人よりも多量のアルブミンが尿中に出現する状態を微量アルブミン尿(microalbuminuria)という.微量アルブミンを測定する主な意義は,糖尿病性腎障害の早期診断とその進展予知である.
 微量アルブミンの簡易測定法1)には,ラテックス凝集阻止法,金標識コロイド免疫測定法,蛋白誤差反応に基づく方法などが各社から発売されている.しかし,これら従来の簡易法では,微量アルブミン単独の測定はできるが,クレアチニンを同時測定し,この検査として重要なアルブミン指数を求めることはできなかった.

IgM型梅毒トレポネーマ抗体検査法とこれからの抗体検査

著者: 出口松夫

ページ範囲:P.264 - P.266

はじめに
 従来より,抗体検査による感染症の診断は採血時期の異なる2種類の血清(ペア血清)を用いて行われている.しかし,この方法では診断までに数週間を必要とすることから,単一血清による迅速診断法の開発が望まれていた.
 梅毒の血清学的診断法もペア血清を用いて行われてきたが,1968年にScottiらは臍帯血中のIgM型Treponema pallidum(TP)抗体,その翌年にJulianらは成人血中のIgM型TP抗体を梅毒トレポネーマ蛍光抗体吸収〔fluorescent treponemal antibody absorption(FTA-ABS)〕法で測定し,その有用性を報告した.その後も次々とIgM型TP抗体測定法が新たに開発され,梅毒の迅速診断法としての研究がなされてきた.1980年代にはわが国においても詳細な検討が行われ,梅毒病期の推測や治癒判定に有用であるとの報告がなされている.しかし,十分な治療を行ったにもかかわらず,IgM型TP抗体の消失を見ない症例や未治療の早期梅毒においてIgM型TP抗体が検出されない症例なども報告されている.

けんさ質問箱

Q メトヘモグロビン血症の検査方法

著者: 大庭雄三 ,   A.T.

ページ範囲:P.267 - P.268

 チアノーゼが主訴で,心エコー・心電図に異常なし.血液ガス所見では酸素濃度が低く,赤血球数・ヘモグロビンともに高度の低下を示しています.おそらくメトヘモグロビン血症ではないかと思われますが,確定診断のためにはどのような検査を行えばいいのでしょうか.

Q MRSEの院内感染対策

著者: 加藤大典 ,   花木秀明 ,   平松啓一 ,   K.I.

ページ範囲:P.269 - P.271

MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)の院内感染予防が取り上げられておりますが,MRSE(methicillin-resistant Staphylococcus epidermidis)に関しての対策とその現状についてご教示ください.

今月の表紙

胸水(膿胸)の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.214 - P.214

 症例 患者は62歳,女性.1995年にSLEと診断.1998年7月,咳嗽出現,SLEに伴う間質性肺炎の増悪が疑われたため入院.ステロイド剤と免疫抑制剤の長期間投与を受けていた.CTで左肺底部に異常あり,胸部超音波の検査で胸水と判明.エコー下穿刺で膿性の胸水が得られ,膿胸と診断.起炎菌検査のため胸水が提出された.このときの患者の体温は37℃.
 材料の外観と塗抹検査:胸水(写真1)は膿性,灰白色であるが,わずかに褐色調を帯び,強い粘稠性があり,悪臭は認めなかった.胸水のグラム染色(写真2)では多数の白血球のほか,木の根のように分枝したグラム陽性桿菌が少数認められた.

解答

ページ範囲:P.316 - P.317

〔微生物学〕
1-a,2-c,3-d,4-b,5-d,6-a,7-b,8-e,9-c,10-e,11-b,12-d,13-b,14-c,15-e,16-e,17-b,18-a,19-c,20-a,21-c,22-d,23-c,24-b,25-e,26-d,27-b,28-c,29-d,30-c,31-d,32-a,33-e,34-a,35-b,36-d,37-c,38-b,39-e,40-a,41-e,42-d,43-b,44-e,45-d,46-c,47-a,48-a,49-b,50-e,51-e,52-c,53-c,54-d,55-a,56-e,57-a,58-b,59-d,60-d,61-b,62-d,63-c,64-e,65-d,66-a,67-d,68-b,69-e,70-c
〔寄生虫学〕
1-c,2-e,3-a,4-b,5-b,6-d,7-a,8-e,9-c,10-b

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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