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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻5号

1999年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

クッシング症候群

著者: 大村昌夫 ,   西川哲男

ページ範囲:P.422 - P.433

新しい知見
 クッシング症候群は慢性的な糖質コルチコイド過剰により種々の症状を示す症候群で,ACTH産生下垂体腫瘍とコルチゾール産生副腎腫瘍が主な原因である.ACTH産生下垂体腫瘍の診断はMRIにより飛躍的に向上したが,MRIで発見できない微小下垂体腺腫の診断には海綿静脈洞採血によるACTH測定が有効である.その治療は経蝶形骨洞手術(Hardy手術)が主流であるが,ガンマナイフによる治療も試みられている.副腎が原因のクッシング症候群は,従来から知られている副腎腫瘍のほかに,ACTH非依存性大結節性副腎皮質過形成や原発性副腎皮質結節性異形成という結節性過形成病変が多数報告されるようになっている.また,コルチゾールが低値にもかかわらず,クッシング症候群と同様の臨床症状を示すコルチゾール過敏症症候群1)や,潜在的な糖質コルチコイド過剰がありながら臨床症状に乏しいプレクリニカルクッシング症候群2)が話題となっている.

技術講座 一般

尿中Tamm-Horsfall糖蛋白の定量

著者: 杉本佳代 ,   芝紀代子

ページ範囲:P.435 - P.441

新しい知見
 タム-ホルスフォール糖蛋白(Tamm-Horsfall glycoprotein;THP)は健常人尿中蛋白の主たる構成成分であり,尿円柱の基質となる.尿細管障害が起こると尿中THP量は増加する.近年,THPは尿結石との関連についてネフロカルチン(nephrocalcin),ウロポンチン(uropontin)などの尿中蛋白とともに注目されている.THPを含むこれらの蛋白は結石形成の抑制,具体的には結石の核形成,結晶成長,凝集を抑制する.しかし,おもしろいことにTHPはイオン強度が高く,pHが低いと逆に結石形成を促進する.健常人尿中においてシュウ酸やカルシウムが過飽和であるのにもかかわらず,結石形成が起こらないのはこれら蛋白の存在のためであるが,それが何かの機序で結石ができてしまう.尿結石患者が増加している今日,この機序解明が急がれる.

免疫

腫瘍マーカーの分子微細多様性

著者: 桑原正喜 ,   有吉寛

ページ範囲:P.443 - P.452

新しい知見
 腫瘍マーカーには,その分子構造あるいは存在様式などによる分子多様性が認められ,多くの場合,それは腫瘍マーカーの臨床的有用性を鈍らせることとなっている.この解決のために新たな抗体の開発など努力がなされている.その一例が血中存在様式の違いによる多様性を示すPSAで見られる.すなわち,PSAのfree型の分別測定を可能としたことにより,PSA低値例の前立腺癌と前立腺肥大症の鑑別あるいはPSAの偽陽性率を低下させることが可能となり,より有用性が高まるものと期待される.
 また,分子多様性に新たな臨床的有用性が認められた唯一の例がAFPである.そして,このことを臨床利用可能としたのはレクチンとの親和性を利用した電気泳動法であり,さらには最近開発されたLBA法(本文中参照)である.LBA法は専用装置を用い,全自動でLCA反応性AFPの測定が可能であり,AFP分子多様性の臨床利用がさらに進むことが期待されている.

血液

血球表面マーカーの検査

著者: 東克巳

ページ範囲:P.453 - P.461

新しい知見
 リンパ球サブセットに対するマルチ表面マーカー解析が行われ,ヒト末梢血の免疫系の複雑なことが明らかにされつつある.
 例えば,T細胞の中のヘルパーT細胞はIL-2やINFγを放出して細胞性免疫に関与するTh1細胞と,IL-4などのサイトカインを産生して体液性免疫に関与するTh2細胞が存在することが確認され,それぞれの機能に関する研究が展開されている.

日常染色法ガイダンス 組織内病原体の日常染色法—抗酸菌の染色法

オーラミン・ローダミン(Combination)蛍光染色

著者: 鈴木慶治 ,   高橋順子 ,   出倉善四郎 ,   矢島幹久

ページ範囲:P.462 - P.465

目的
 オーラミン・ローダミン染色は蛍光色素を用いた抗酸菌染色法であり,病理組織標本,細菌塗抹標本のいずれに対しても行われる.蛍光顕微鏡による鏡検で,菌体が暗い背景に明るく光って観察され,低倍率で広い範囲を効率よく検索できる特徴を持っている.代表的な抗酸菌染色であるチール・ネルゼン法と比較して,この染色法の菌検出率の高さを指摘する報告がある1〜3)
 抗酸菌の大きな特徴の1つに,酸またはアルカリに対して抵抗性を持つことが挙げられる.他の一般細菌の細菌表面の化学的組成が親水性物質であるのに対して,らい菌,結核菌などの細胞壁は,蝋様物質であるミコール酸でできていると説明されている.この物質が存在するため,抗酸菌染色では石炭酸溶液に溶かした色素を使用し,加温染色する.染色後,抗酸菌は塩酸アルコールで洗っても,他の細菌と異なり脱色に抵抗する特性を有している.

金属・無機物の日常染色法

鉛の染色法

著者: 鷲見和

ページ範囲:P.466 - P.468

目的
 鉛を含むガソリンや塗料がわれわれのまわりから姿を消して以来,鉛の環境汚染や鉛中毒の問題はほとんど耳にすることがなかった.しかし,鉛中毒によく似た症状が最近見いだされ,調査の結果,中国でつくられた漢方製剤に高濃度の鉛,水銀,ヒ素などが検出されたと一部の新聞に報じられた.
 無機鉛はヒトの呼吸器や消化管から吸収され,血液中から肝,腎,筋肉などの軟部組織に取り込まれ,さらに安定蓄積部位としての骨組織に沈着する.軟部組織のうち,大動脈,肝,腎に高濃度の蓄積が見られる.一般に鉛の排泄は遅く,ヒトの生物学的半減期は約10年といわれている.鉛による健康障害は,貧血,末梢神経炎,尿細管障害などが知られている.

検査データを考える

息切れから発症する疾患

著者: 谷合哲 ,   東條尚子

ページ範囲:P.491 - P.494

はじめに
 息切れあるいは呼吸が苦しいという訴えで外来を受診する人が時折り見かけられる.このような症状を呈する疾患は,呼吸器疾患以外にも数多くあり,その診断においては経過,合併する症状などが極めて重要である.呼吸器疾患でもこのような症状を主とする疾患があり,呼吸機能検査が診断にとって重要な決め手となることがある.
 本稿ではそのような疾患のうち,代表的な疾患について検査成績を中心に,診断の手ががり,その手順などを解説する.

検査の作業手順を確立しよう

血液ガス検査

著者: 下村弘治

ページ範囲:P.495 - P.500

はじめに
 血液ガス検査は,救急医療の中で欠くことのできない検査であり,全科にわたるあらゆる疾患で実施され,救急外来ではもちろん,検査室,手術室,ICU,CCU,人工透析室,新生児室などで利用されている.主に呼吸・循環状態の把握および酸・塩基平衡異常の判定に必須の検査である.数多くの検体検査の中で最も迅速性,正確性が要求される検査の1つである.血液ガス分析では,動脈血のpH,炭酸ガス分圧,酸素分圧を測定し,合わせてこれらのデータから計算できる生理的情報〔重炭酸イオン,ベースエクセス(BE)など〕を算出して利用している.血液pHの基準範囲を見てもわかるとおり,生体では非常に狭い範囲にコントロールされており,正確性が要求される理由がここにもある.また,しばしば致死的である患者もおり,その検査結果によって随時に患者の管理が行われていることを検査担当者は忘れてはならない.
 現在,血液ガス分析機は全自動化されており,キャリブレーションは標準ガスボンベによる方式が一般的であるが,近年ガスボンベ不要(ボンベレス)の機種も出現している.また,カートリッジ式で分析が行われるもの,さらに小型化したポータブルタイプまである.いずれの機種も血液を機械に注入するだけで結果は1〜2分間で得られる.血液ガス分析において正確性を左右する因子は検査前(採血から測定までの過程)に多くあるといってよい.

機器性能の試験法 血液ガス測定装置の性能確認試験法・2

PO2,PCO2

著者: 福永壽晴

ページ範囲:P.501 - P.508

はじめに
 生命維持のために必須な呼吸の状態,すなわち,肺におけるガス交換機能は動脈血の酸素分圧(PO2)および炭酸ガス分圧(PCO2)を測定することにより評価される1〜3).また,PCO2はpHとともに酸-塩基平衡障害の評価にも重要な指標となっている.血液ガスは緊急時に測定されることが多く,その結果は直ちに治療に反映される.したがって,これらの測定装置の測定精度を確保することは極めて重要となる.電極法によるPO2およびPCO2の測定は前号でも述べたように,高度のエレクトロニクス技術の導入によりブラックボックス化されており,結果に誤差の混入があっても容易に発見できないのが現状である.
 今回はpHに続き,PO2とPCO2(いずれも電極法)における装置の概略および特性や性能について解説し,誤差の混入と発見,精度の維持と評価について検討する.

ラボクイズ

問題:女性のホルモン異常【4】

ページ範囲:P.474 - P.474

4月号の解答と解説

ページ範囲:P.475 - P.475

オピニオン

精度管理調査結果が示すもの

著者: 大西重樹

ページ範囲:P.434 - P.434

はじめに
 “精度管理,精度保証”.臨床検査技師にとって何回となく耳にする言葉である.それは正確な知識に裏付けされた検査実施および管理・確認作業であり,最も基本的な作業の1つであるが,その業務をルーチン業務の1つとして実施できていない施設が少なからず存在する.
 免疫血清の分野でこの問題を考えてみると,平成9年度日本臨床衛生検査技師会(日臨技)主催の精度管理解析結果を見ても,同じ試薬・同じ機器を使用している群で約10%の施設が2SDからはずれる結果を報告している.

けんさアラカルト

乾燥濾紙血を用いたペプシノゲン(血液検査項目)の測定

著者: 鈴木明

ページ範囲:P.476 - P.477

はじめに
 従来から濾紙血による検査は小児のクレチン病などの発見に用いられてきていましたが,近年は形を変え,また受診者の手間を省くために,広域に郵送検診として行われるようになってきました.今まで一般的に行われてきた検査項目は,肺がん(喀痰)検査,子宮がん検査,大腸がん(便潜血)検査など,検査材料として自己採取が可能な検査項目に限られ,血液による検査項目については行われていませんでした.しかし,近年では分析技術の進歩により,かなり微量の血液で検査が可能となったこともあり,濾紙に浸み込ませた血液を抽出し検査することが検討され,一部ではすでに実用化されています.受診者自身が指頭採血を行い,濾紙に血液を浸み込ませ,これをサンプルとして検査機関に郵送する方法です.現在,当センターでは濾紙血での検査項目としてペプシノゲン(PG:胃がん検査),PSA(前立腺がん検査),HbA1c(糖尿病検査),HBs抗原・HCV抗体(肝炎検査)をはじめとして,スクリーニングとして価値のある検査項目の検討を行っています.
 本稿では当センターが乾燥濾紙血を用いた検査として最初に検討を行ったPGの測定についての測定方法および検討内容について紹介します.

トピックス

電極によるヘパリンの測定

著者: 田島裕

ページ範囲:P.479 - P.482

はじめに
 近年,ヘパリンなどのポリアニオンに応答する電極が開発され,応用面での関心が寄せられている1〜6).この電極は,血中のヘパリン濃度を簡便に測定するために考案されたものであり,発生した電圧からヘパリン濃度を直接求めることができるが,硫酸プロタミンと中和滴定する形で,その濃度を測ってもよい6).従来までは,ヘパリンの濃度(力価)は血液凝固を介した方法で測定するのが一般的であったが,本法は原理的に大変興味深いので,以下に簡単に紹介する.

in situ RT-PCR法

著者: 渡辺純 ,   亀谷徹

ページ範囲:P.482 - P.485

はじめに
 細胞や組織におけるメッセンジャーRNA(mRNA)の発現を見る方法としてノーザンブロット(Northernblot)法がある.この方法で検出できないような微量なmRNAに対しては逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reversed transcription-polymerase chain reaction;RT-PCR)法が用いられる.これは,まず逆転写酵素によりmRNAから相補的DNA(cDNA)を合成し,これを鋳型として耐熱性DNAポリメラーゼを用いたPCRを行い,標的分子を増幅することにより検出する方法である.これらの方法は感染症,腫瘍,遺伝性疾患などの検査に導入され,検査室レベルですでに実用化されつつある.
 しかし,これらの方法では組織をすりつぶして核酸の抽出が行われるため,いろいろな成分が混じりあっている細胞や組織検体では,実際にどの細胞が目的のmRNAを発現しているのかを知ることはできない.そこで,細胞・組織の形態を保存したまま,切片上でmRNAの発現の局在を検出するin situハイブリダイゼーション(in situ hybridization;ISH)法が考案された.これは,切片上で核酸プローブを標的分子とハイブリダイゼーションさせることにより,目的のmRNAを検出する方法である1)

尿検査における前処理装置としての自動尿分取装置UA-ROBO 600

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.485 - P.488

はじめに
 近年,検体検査領域においてバーコード対応タイプの測定機器が増加している.特に検体搬送システムを導入する場合,バーコードを貼付した検体を用いることは必須である.血液を検体として検査を行う部門では,患者ごとにバーコードを貼付した採血管を供給する採血管準備システム1)が普及しつつある.しかし,尿検査領域では尿カップからバーコードを貼った先の尖ったスピッツに尿を分取しなければならないため,用手法に頼っているのが現状である.
 UA-ROBO 6002,3)は上記の機能を搭載した尿自動分取装置4)である.本稿では,装置の概要および性能について紹介する.

結核の集団発生

著者: 和田雅子 ,   吉森浩三

ページ範囲:P.488 - P.490

はじめに
 日本では結核罹患率は欧米諸国と比較すると約4倍と高く,結核患者の大多数はかつて結核高蔓延時代に青春時代を過ごした60歳以上の高齢者であり,若年齢層ではほとんどが未感染である1).国民も結核はすでに過去の病気と思っており,長期間咳や痰が続いても医療機関を受診しないことや,結核患者が減少するに従い医師が結核を診察する機会が少なくなり,診断の遅れや誤診などが集団感染を起こす原因になっている.大阪の産院での感染事件では直接患者と接していない新生児が感染し,粟粒結核を発病した.この事件は菌の毒性と非感染者の感受性についての問題を新たに提起した事件である.また,某老人ホームでの集団感染事件は,従来すでに感染している者は新たに感染しないとされているドグマを否定する出来事である.エイズの患者において再感染が高率に起こっていることが報告されているが,高齢者でも細胞性免疫の低下が起こり,再感染が起こると考えなければならないだろう.
 このように,結核感染をめぐる状況はかつて想像もできない変化が起こっていることを受け止め,感染防止対策を立て直さなければならない.

けんさ質問箱

Q 脳波,ABRが適正に検査できない場合の対処法

著者: 稲垣真澄 ,   N.S.

ページ範囲:P.512 - P.514

 脳死の判断を行うために脳波とABRのオーダーが出ますが,検査室にはレスピレーターなどの設備がないため,ポータブルで検査に行かなければなりません.一方,病棟にはシールドルームがなく,脳波,ABRの波形に交流が混入し,検査結果の判断に支障をきたしています.このような場合,どう対処すればいいのかご教示ください.

Q 尿中電解質の測定意義と解釈

著者: 鈴木誠 ,   M.Y.

ページ範囲:P.514 - P.516

 尿中電解質を測定する意義と,その解釈のしかたについて,具体例を挙げてご教示いただければ幸いです.

今月の表紙

気管支洗浄液の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.442 - P.442

 症例 患者は56歳,男性.半年前,肺アクチノマイセス症と診断され,ペニシリンの投与を受け軽快.外来で経過観察中であったが再発,入院.起炎菌検索のため,気管支洗浄液が提出された(12月2日).
 材料の外観と塗抹検査:気管支洗浄液はピンク色(血液混入)で,白色の沈殿物があり,粘稠性を帯びていた(写真1).ドルーゼを疑う顆粒や,悪臭は認められなかった.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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