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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻6号

1999年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

全身性強皮症

著者: 無量井泰 ,   佐々木毅

ページ範囲:P.524 - P.532

新しい知見
 全身性強皮症は古くから膠原病や全身性自己免疫疾患の1つとして知られている.事実,ほかの疾患に認められない自己抗体(抗Scl-70抗体,抗セントロメア抗体)が検出される.そこで病因・病態解明のため,これらの自己抗体の存在意義が追究されている.抗Scl-70抗体の抗原は核蛋白であるDNAトポイソメラーゼIで,これはDNAの超らせん構造をときほぐす酵素である.このDNAトポイソメラーゼIがネコレトロウイルスやサイトメガロウイルスと共通構造を有することが明らかとなり,これらのウイルスに対する交差反応性により抗Scl-70抗体が出現する機序が推察された.しかし,これらのウイルスが全身性強皮症の病因となるのか,これらの自己抗体が病状にどのように関係するのかは,まだ明らかではない.
 近年,男児を出産した女性の全身性強皮症患者皮膚や末梢血よりY染色体DNAが検出された.慢性移植片対宿主病の皮膚病変が全身性強皮症と類似していることが知られており,胎児由来の細胞が母親に移行し,疾患を引き起こす可能性が示唆されている.しかし,男性や妊娠歴のない女性の患者も存在する.強皮症の病因追究は続いている.

技術講座 病理

穿刺吸引細胞診による乳腺乳頭状病変の鑑別診断

著者: 石原明徳 ,   上森昭 ,   北村隆司

ページ範囲:P.533 - P.542

新しい知見
 乳腺穿刺吸引細胞診は,乳癌の増加に伴い,近年,急速に普及している検査法である.従来の細胞の読みが中心であった診断方法に加え,細胞出現パターンの解析や免疫組織化学的技法を駆使し,積極的に組織型を推定することによって診断精度が向上し,より詳しい検査情報を臨床に提供できるようになった.
 乳腺疾患の組織診断において鑑別診断が難しいものの1つに乳頭状病変がある.細胞診でも鑑別診断が難しく,過小評価や過大評価になりやすい領域である.しかし,今日では細胞学的知見が蓄積され,精度の高い診断法が確立されつつある.

一般

日常検査で行う糞便中の寄生虫検査

著者: 宮原道明

ページ範囲:P.543 - P.548

新しい知見
 糞便内の寄生虫卵検査法は,大きく直接塗抹法と集卵法に分けられるが,検査精度を高めるためには,遠心沈殿法,なかでも各種虫卵を効率よく検出できるTween80・クエン酸緩衝液法を実施することが望ましい.糞便中には虫卵のみならず,幼虫や成虫を見いだすこともある.幼虫としては,糞線虫の幼虫が重要であり,寒天平板培養法の検出率が最もよいとされている.成虫としては,回虫虫体や広節裂頭条虫および無鉤条虫の片節を見ることがある.

生化学

尿中ヒト絨毛性性腺刺激ホルモンの測定法

著者: 藤澤美朗

ページ範囲:P.549 - P.552

新しい知見
 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hGG)は,妊娠時にヒト胎盤絨毛細胞から分泌される性腺刺激ホルモンである.hCGは妊娠時に大量に分泌されるため,妊娠の早期診断,流産および子宮外妊娠などとの鑑別や,胞状奇胎などの絨毛性疾患,胃癌,肺癌などの異所性hCG産生腫瘍においても増加することより,これらの診断や管理に利用されている.
 hCG検出について問題となるのは,感度と特異性である.hCG測定用試薬には,定性用と定量用があるが,定性用試薬の感度は20mI]U/ml付近である.また特異性については,サブユニットの相同性からαサブユニットのみならずβサブユニットについても類似している黄体化ホルモン(LH)との交差反応性が問題となっていた.

日常染色法ガイダンス 金属・無機物の日常染色法

クロムの染色法

著者: 鷲見和

ページ範囲:P.555 - P.557

目的
 クロム化合物の中で,ヒトに対して障害を及ぼすのは主に6価のクロムで,6価のクロムの強い酸化作用が障害の主因と思われる.したがって,組織内ではほとんどのクロムは3価になっている.クロムの急性障害としては,皮膚びらん,アレルギー性皮膚炎などが知られている.3価のクロムは,毒性とは反対に,クロム含有耐糖因子としてインスリンの働きに関与している.クロムの化合物の種類にもよるが,一般にクロムの排泄は非常に速い.
 組織に沈着したクロムを検出し,組織内のクロムの局在を明らかにするのが目的である.組織中のクロムの局在を知ることは,クロムの毒性や耐糖能発現のメカニズムの解明などに不可欠である.

検査データを考える

薬剤誘発性不整脈

著者: 吉野秀朗

ページ範囲:P.573 - P.577

はじめに
 薬剤誘発性不整脈の発生機序としては,薬剤によって引き起こされる心筋障害に伴う場合と抗不整脈薬の副作用(催不整脈作用)として発生する場合とが考えられる.

検査の作業手順を確立しよう ホルモン検査・1

RIAによる検査

著者: 小林久江 ,   若林克己

ページ範囲:P.579 - P.582

はじめに
 RIA法(放射免疫測定法,radioimmunoassay)によるホルモン検査は非常に多くのキットが開発され,日常検査として取り扱われている.また,測定しているのはホルモンでもその目的は腫瘍マーカーである場合も少なくないので,注意が必要である.
 RIA法の場合は,RI〔放射性同位元素,radioisotope(ほとんどが125Iであるが)〕の取り扱いという,ほかの臨床検査とは異なる点もあるが,本質的には免疫測定法であるので,放射線の知識と抗原抗体反応の利点を上手に運用して,高感度,高特異性の測定方法として利用したい.

機器性能の試験法 電解質測定装置の性能確認試験法・1

選択性(Na,K)

著者: 高橋勝幸

ページ範囲:P.583 - P.587

はじめに
 わが国において電解質測定は,イオン選択電極法が主流となっている.ここ10年間に,その性能は飛躍的に進歩し,現在では生化学自動分析装置や血液ガス測定装置に組み込まれ,臨床検査業務の効率化に大きく寄与し,臨床サイドへも貴重なデータを提供している.
 本稿においては,イオン選択電極にとって極めて重要な選択性の原理について解説した後,イオン選択電極の選択性試験について解説したい.

ラボクイズ

問題:尿沈渣【1】

ページ範囲:P.560 - P.560

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.561 - P.562

オピニオン

今,臨床検査技師がなすべきこと

著者: 牧瀬淳子

ページ範囲:P.553 - P.553

はじめに
 厳しい医療情勢の中,病院を取り巻く経営環境の変化は臨床検査部門にも大きな影響を及ぼし,ブランチラボ,FMS導入を余儀なくされようとする施設が増加しつつある.このような環境の中で,臨床検査技師の存在価値を高めるために“何をなすべきか”は,それぞれの病院で真剣に取り組んでいかなければならない課題である.
 今後の臨床検査技師のありかたとして,1つは臨床側へのサービス(臨床支援)と,もう1つは患者サービスがあると考える.近年,検体検査部門では自動化・搬送システムの導入・システム化が進んできたが,このために臨床検査技師を減らすのではなく,空いた時間をほかの検査や,検査室から外へ向けた業務に,みずから積極的に広げていく姿勢が必要であると思われる.

けんさアラカルト

塗抹検査の見直し

著者: 郡美夫

ページ範囲:P.558 - P.558

 微生物検査室の役割は,感染症を疑う患者検体から起炎菌を推定あるいは決定し,治療に役だつ抗菌剤を選択するための情報を臨床側に提供することにある.そして,これらの情報が患者の診断と治療に役だってこそ,検査を実施した意義がある.
 起炎菌の検索に当たって,培養という手段のみに頼った検査法では,どうしても最終報告までに数日を必要とし,その時点で患者の転帰が決まっていることもまれではない.今後は,培養中心の検査法から迅速検査を積極的に取り入れた感染症診断法へと比重を移す必要がある.

トピックス

サイクロスポーラ症

著者: 井関基弘 ,   木俣勲

ページ範囲:P.563 - P.565

はじめに
 サイクロスポーラ症は新興感染症(emerging infectious diseases)の1つとして注目されている.病原体は腸管寄生性の原虫で,主症状は下痢である.途上国を中心に世界に広く分布している1).1997年の夏,青年海外協力隊員でネパールの小児病院の検査室で臨床検査技師として仕事をしている小田容子さんから手紙がきた.「ネパールでは子供の下痢症が多く,クリプトスポリジウム感染はしばしば見られる.最近,ドクターからサイクロスポーラのことについてよく聞かれるので,この病気のことや検査法に関する文献を送ってほしい」とのこと.早速,手持ちの文献をいくつか送ってあげた.彼女は大変熱心で,1998年7月の帰国までに多数の下痢便についてサイクロスポーラとクリプトスポリジウムの検査を実施し,その結果を1998年8月に幕張メッセで開催された第9回国際寄生虫学会に発表している.そのデータは後で紹介しよう.私はお土産にサイクロスポーラの生の標本を頂戴した.

自動血球分析装置による造血幹細胞の検出

著者: 山根孝久 ,   山村亮介 ,   大藏仙子 ,   太田健介 ,   日野雅之 ,   巽典之

ページ範囲:P.565 - P.569

はじめに
 主として造血器悪性腫瘍に対して,治癒を目的として大量化学療法およびその支持療法として造血幹細胞移植が施行される1〜4).大量化学療法(あるいは放射線療法の併用)により骨髄は廃絶され,造血幹細胞移植が施行されなければ汎血球減少が遷延し,患者は出血,感染により死に至る.造血幹細胞移植はこの汎血球減少の時期を短縮させることを目的に施行される.造血幹細胞移植は提供者により,①同種移植(血縁者あるいは非血縁者),②自家移植(患者自身)に分かれ,その造血幹細胞提供の場によって,(a)骨髄移植(骨髄血),(b)末梢血幹細胞移植(末梢血),(c)臍帯血移植(臍帯血)に区分される.特に末梢血幹細胞移植の場合には,採取検体に含まれる造血幹細胞数が移植後の造血回復期間に強くかかわってくる.
 本稿では自動血球分析装置を用いた造血幹細胞の迅速・簡便な検出法について概説する.

3D超音波の原理

著者: 望月剛

ページ範囲:P.569 - P.572

はじめに
 医用画像診断において,3次元(3dimension;3D)表示はもはやものめずらしい表示法ではなくなったといっても過言ではない.おそらく読者の方々で医学関係の学会誌や雑誌で生体臓器の3D画像を一度も見たことのない方はむしろ少数であると思われる.これはコンピュータ技術の急速な進歩によるところが大きい.また,画像構築のアルゴリズムにも革新的な研究がなされ,生体臓器を短時間に,よりリアルに表示することが可能となっている1〜3).現在,図1のような3D表示が可能な超音波診断装置がすでに発売されている.しかし,そのような技術がわれわれの身近になればなるほど,それらの画像の持つ特徴を正しく理解し,臨床面でのそれらの有用性を明確にすることが極めて重要である.
 そこで,本稿ではまず3D表示の原理を,特に超音波を用いた3D画像構築法について述べる.これは超音波エコーデータを用いるために,X線CTなどの放射線画像データの場合と異なる画像構築法がなされているからである.次に臨床応用の現状を紹介し,筆者の独断と偏見によるところが多いが,3D表示の有用性について触れる.

けんさ質問箱

Q 臨床検査技師の業務と法規

著者: 田中幸子 ,   中村賢 ,   H.T.

ページ範囲:P.591 - P.592

 臨床検査技師の業務と法規との関係について,下記の2点についてご教示ください.
 1.検査を目的として胃液,十二指腸液などを分割採取する場合の行為を以下のように大別した場合,すべてが臨床検査技師の行為として違法になるのでしょうか.

Q 便潜血反応の検査方法と臨床的意義

著者: 久野豊 ,   M.M.

ページ範囲:P.592 - P.594

 私の検査室では便潜血反応は,免疫法はOCヘモディア「栄研」,化学法はヘマテストII「バイエル三共」を使用しています.結果として免疫法,化学法とも陽性の場合,どういうことがいえるのでしょう.便潜血反応の検査方法別に,その臨床的意義をご教示ください.

今月の表紙

咽頭粘液の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.554 - P.554

 症例 患者は24歳,女性.38℃の発熱と咽頭痛を主訴として耳鼻咽喉科外来を受診した.急性扁桃炎と診断され,起炎菌検査のため,スワブに採取された咽頭粘液が提出された.
 材料の外観と塗抹検査:スワブに付着した粘液は淡黄色を呈し,悪臭は認められなかった.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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