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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻8号

1999年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

多発性硬化症

著者: 原英夫

ページ範囲:P.966 - P.970

新しい知見
 わが国での多発性硬化症(MS)の頻度は欧米に比べ低く,臨床的にも視神経と脊髄の障害が強い例が多いことが特徴である.吉良ら1)は,日本人のMSを,視神経と脊髄に主病変が限られるアジア型(視神経脊髄型)MSと,それ以外の中枢神経系に多巣性に病変を有する西洋型MSに分け,両者の臨床的,免疫遺伝学的特徴を検索した.特に,HLA-A,B,G,DR,DQ,DP抗原遣伝子の各アリルの抗原頻度を上記の2つの型について調べたところ,アジア型MSは,HLA-DPB10501と有意に相関し,一方,西洋型MSはコーカシア系白人のMSと同様に,HLA-DRB11501と有意に相関していることを報告している.
 MSの原因としては,自己反応性のT細胞,特に髄鞘の構成蛋白を認識する自己反応性T細胞が髄鞘を破壊し,脱髄を引き起こしていると考えられている.山村ら2)は,NK細胞がこの自己反応性T細胞に対し調節的に作用し,MSの発症に抑制的に働く可能性を報告している.

技術講座 生化学

酵素サイクリング法による高感度測定法の原理

著者: 美崎英生

ページ範囲:P.973 - P.980

新しい知見
 臨床検査の医療における役割はますます大きくなっている.“患者にやさしい無侵襲あるいはそれに近い検体の微量化”,“結果がリアルタイムに出る迅速性”,“ベッドサイドで検査ができる簡便性”の要望が強い.その中で簡便な高感度測定法の役割は大きい.酵素サイクリングはその技術の1つとして,特に血液検体の多量採取が困難な乳幼児や小児,老人の検査(微量の血液を数百倍に希釈して測定),あるいは測定感度不足のため正確な測定ができていない物質の測定には期待が大きい.また,感染症の目視検査による迅速対応は重要である.酵素サイクリング法は数倍から数万倍程度の感度で測定が可能である.現在,酵素サイクリングを利用した検査薬としては総胆汁酸,ケトン体,カルニチン分画定量,リゾレシチン,羊水ホスファチジルグリセロールの測定系が開発された.さらにアンモニアや糖尿病関連物質などの微量物質の測定への応用が期待される.

血液

von Willebrand因子測定法

著者: 藤村吉博 ,   西田幸世 ,   八木秀男 ,   櫻井嘉彦

ページ範囲:P.981 - P.990

新しい知見
 von Willebrand因子(vWF)には2つの重要な機能があり,1つは血液凝固第VIII因子と結合し複合体を形成することにより,VIIIのin vivo proteolysisに対して防衛的に働く,すなわち血漿中でのVIIIの安定化を担うキャリア蛋白質としての性質,もう1つは傷害を受け,内皮細胞下組織が露出した血管壁に血小板が粘着・凝集する一次止血において分子糊として働く作用である1).後者の反応は血管内皮細胞下組織のコラーゲンや,血小板膜糖蛋白質GPIbα,そしてGPIIb/IIIaとの結合反応が主軸となる.
 このように,多くのリガンドと結合するという特性のゆえに,vWFの機能測定にはさまざまな方法が考案されている.

生理

先天性心疾患の心エコー図法

著者: 小山耕太郎

ページ範囲:P.991 - P.997

新しい知見
 先天性心疾患の発生頻度は出生時およそ1%である.1998年の日本の出生数(推計値)は120万人であったので,この年12,000人が先天性心疾患を持って生まれたと推定できる.このうち約1/3が新生児期,乳児期に治療を必要とする.また,1/2の患者は一生のうちどの時点かで治療を受けなくてはならない.わが国における先天性心疾患の手術数は年間約8,000例で,その成績は近年著しく向上している.手術治療が不可能な疾患はほとんどなくなり,手術後の患者は確実に増加している.しかし,手術を終えた患者も大半が医学的な追跡を必要としており,先天性心疾患の診療は小児期に限定されたものではない.実際,いくつかの施設で成人先天性心疾患の診療部門が開設されている.

病理

免疫組織化学染色における抗体の浸達深度

著者: 広井禎之 ,   鳥潟親雄

ページ範囲:P.999 - P.1006

新しい知見
 細胞診標本の細胞集塊における免疫組織化学染色の判定には,抗体の浸達深度を考慮する必要がある.また,免疫電顕の標本作製に際しても抗体の浸達深度は重要な問題である.細胞診標本にp53蛋白免疫組織化学染色を施し,細胞集塊に対する抗体の浸達深度を共焦点走査レーザー顕微鏡により検索した.その結果,LSAB法で一次抗体,室温,60分間,ビオチン化二次抗体およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン,室温,30分間の染色条件のものでは,抗体の浸達深度は平均10.06μmであった.一次抗体,4℃,1晩,ビオチン化二次抗体およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン,室温,3時間のものではいずれも最深部まで抗体が浸透していた.今まで漠然としていた免疫組織化学染色における抗体の浸達深度が,現代のハイテク技術により画像と数値で明確に表されるようになった.これにより,正確な評価が可能になると思われる.また,共焦点レーザー走査顕微鏡による抗体の浸達深度計測は,細胞診における免疫組織化学染色技術や免疫電顕技術の発展に寄与するものと思われる.

日常染色法ガイダンス 生体色素の日常染色法—メラニンの証明

漂白法(過マンガン酸カリウム-シュウ酸法)

著者: 清水幹雄 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.1011 - P.1013

目的
 メラニンは淡黄色から褐色の顆粒状色素で,腸から吸収されたフェニルアラニンより生合成される.正常組織の皮膚,眼球,中脳,毛髪などに存在する.皮膚の代表的疾患である色素性母斑と悪性黒色腫がメラニン色素産生腫瘍として挙げられる.
 漂白法(過マンガン酸カリウム-シュウ酸法)は酸化剤である過マンガン酸カリウムで,フェノール環の結合鎖を切断することによりメラニン色素を酸化液中に溶出させ,還元されて組織に残った二酸化マンガンをシュウ酸で還元して無色とする方法で,メラニン色素を証明するうえで最も代表的な染色法である.

脂質(脂肪および類脂質)の日常染色法

ズダンⅢ染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.1014 - P.1016

目的
 脂肪は脂肪溶剤によって抽出される複合体の総称で,中性脂肪,リン脂質,糖脂質などに分類される.
 中性脂肪の多くは,貯蔵型脂肪として皮下,腸間膜,大網などの脂肪組織を構成する.脂肪は脂肪変性,つまり異常に増加したり,通常では見いだされない組織に出現することがあり,これらの脂肪を証明するために用いられる.腫瘍で脂肪が細胞内に出現することから,脂肪肉腫の診断根拠としても用いられる.また,パラフィン標本ではアルコールやキシレンに溶出してしまうため染色することができないので,ホルマリン固定した組織の凍結切片を用いて,これらの脂肪を証明する.

検査データを考える

溶血性貧血と赤血球形態異常

著者: 浜田恭子 ,   高橋功

ページ範囲:P.1017 - P.1022

はじめに
 貧血の原因は赤血球の産生低下,破壊亢進,失血に大別される.溶血性貧血とは赤血球の破壊亢進(赤血球寿命の短縮)によって生じる貧血の総称であり,“先天性”と“後天性”とに大別されるが,その成因はさまざまである.
 表1に溶血性貧血の成因別分類を示したが,“赤血球自身の異常によるもの”と“赤血球以外の異常によるもの”とに大別され,前者のほとんどは先天性疾患で占められる.ただ,赤血球膜異常である発作性夜間血色素尿症は後天性疾患に分類される.1975年に研究班により溶血性貧血の診断基準が設定された.しかし複雑であることから,1990年に“厚生省特定疾患特発性造血障害調査研究班”から,より簡明な診断基準が提示された(表2).

検査の作業手順を確立しよう ホルモン検査・2

non-RIAによる検査

著者: 青野悠久子

ページ範囲:P.1023 - P.1028

はじめに
 ホルモンは生体のホメオスターシスの維持に必要な種々の微量活性物質の一部として,極めて重要であり,現在主要なものは日常検査として簡単に測定されている.1959年,BersonとYalow(アメリカ)らによるインスリン測定の発表に始まった放射性免疫測定法(radioimmunoassay;RIA)はその後,ホルモンや微量物質の測定に用いられ,生理学,内分泌学の著しい進歩に貢献してきた.以来,イムノアッセイの課題は高感度化,特異性が高いこと,分析操作の簡便迅速化であり,事実,これらは著しい発展を遂げ,日常検査へ本格的に導入されている.
 しかし,RIAは放射性物質の廃棄,検査施設の整備など問題があり,臨床の現場では,非放射性免疫測定法(non-isotopic immunoassay;non-RIA)が望まれ,開発された.わが国では1983年,日常検査としてnon-RIAによるジゴキシンの測定が始まり,1984年には甲状腺関連項目の測定法が出現,1986年には世界で初めてのnon-RIAによる全自動免疫測定分析機ES-600が登場した.以後non-RIAのホルモン測定に関しては自動分析機による測定が一般的となっている.

機器性能の試験法 電解質測定装置の性能確認試験法・2

選択性(Cl)

著者: 高橋勝幸

ページ範囲:P.1029 - P.1033

はじめに
 前号に引き続き,イオン選択電極(ion selective electrove;ISE)のクロール(Cl)の選択性確認試験法について解説する.
 Cl電極は,Na,K電極に比べ,種々共存イオンに対しての選択性が劣っているとされ,日常検査においてもしばしば不当高値を出現することが多い1).したがって,調べる共存イオンは,Na,K電極の選択性を確認する場合より多くなる.

ラボクイズ

問題:腹部超音波【4】

ページ範囲:P.1008 - P.1008

6月号の解答と解説

ページ範囲:P.1009 - P.1009

オピニオン

在宅医療と臨床検査技師

著者: 神津仁

ページ範囲:P.971 - P.971

 在宅医療という言葉が一般的になって久しいが,その実態についての理解はまだまだの感がある.特に,病院関係者の間でやりとりされる医療情報の中では,在宅医療に関する情報を目にする機会は乏しく,病院の玄関を出たらプッツリと患者さんのことは忘れてしまう,という病院勤務の医療スタッフの特性によって,いまだにカヤの外のことと思っている方々が多いのではないだろうか.
 かくいう私でさえ,勤務医時代はとても多忙で,病棟医長と医局長と教育医長を兼任していた時代には,病棟のこと,医局のこと,学会のこと,論文のことなどで頭がいっぱいで,次々と仕事をこなしていくほかはなく,また続々と入ってくる入院患者さんのことで手いっぱいの状態だった.社会的に話題になっている本の1冊も読めればいいのだが,そんな余裕もなく,病院を出て家に帰れば,少しのプライベートタイムを,TVを見たりビールを飲んだりと,勝手気ままに過ごすのが精一杯で,退院後に患者さんがどんな生活をしているか,どんな苦労をしているかなど,思いもかけなかったというのが本当のところだった.ただ,私の専門が神経内科という診療科だった特殊性から,神経難病の患者さんが自宅に帰られても継続的に往診を依頼されて(プライベートな時間を割いての診療だが)多少とも携わったことから,他科の医師よりは院内から院外へと目が向いていたといえるだろう.

けんさアラカルト

特殊健康診断と特定業務健康診断との違い

著者: 北村邦昭

ページ範囲:P.998 - P.998

 職域では種々の健康診断を実施しています.その内容を表に示しました.その中に,特殊健康診断や特定業務健康診断(特定業務従事者の健康診断)と呼ばれる健康診断がありますが,健康管理担当者でさえ,それらの区別がつかない者がいます.特殊と特定という言葉が紛らわしいので混同してしまうのでしょうか.健康管理の担当者でさえ混同するのですから,皆さんの中で区別のつく方は少ないのではないでしょうか.
 日本における健康診断は,職域での労働安全衛生法などに基づくものと地域での老人保健法によるものとの2本の柱となっています.老人保健法による基本健康診査は,受診者全員に実施する検査と医師の判断により選択的に実施する検査とからなっています.

トピックス

病気モデル動物

著者: 寺内康夫

ページ範囲:P.1049 - P.1050

はじめに
 ヒトの病気の多くは多因子疾患と考えられる.個々の遺伝子の異常やその組み合わせが個体にどのような遺伝的感受性を形成し,どのような環境要因の負荷が加わって疾患が発症するのかという全体像を明らかにすることが大切となる.この点で,計画的な遺伝子のかけ合わせや環境因子の負荷を行うことはヒトでは不可能であり,動物モデルを用いた個体レベルでの解析が有効である.実際には,個々の候補遺伝子のトランスジェニックマウス,ノックアウトマウスの作製,またそのかけ含わせにより,多因子病としてのヒトの病気を再構成し,その発症過程や病態の分子機構を解明するというアプローチが行えるようになった.また,既知の自然発症モデル動物の遺伝子マッピングにより,ヒトの病気の分子機構解明への重要な手がかりが得られる可能性もある.
 本稿では発生工学を用いて作製されたモデル動物を中心に概説する.

ヒ素中毒

著者: 佐野憲一 ,   村上正孝

ページ範囲:P.1051 - P.1053

はじめに
 ヒ素(As)は古くから知られた化学物質で,自然界に広く存在し,従来より木材防腐剤,農薬殺虫剤などに利用されてきたが,一方では,その毒性によって,世界各地で飲料水汚染による中毒事件や非鉄金属精錬所など,産業現場での中毒事故の発生が繰り返されてきた.わが国でもヒ素中毒の報告は多く,1955年に食品中毒として発生した「ヒ素ミルク事件」や1973年,宮崎県土呂久地区のヒ素鉱山における「ヒ素中毒公害認定」はヒ素の毒性の怖さを教えるものであった.また,不幸な事件として,1998年7月,和歌山市で起こった亜ヒ酸混入による「ヒ素入りカレー事件」は記憶に新しいところである.
 ヒ素は周期表でVb族に属し,原子番号33,分子量74.92の半金属であって,自然界では地殻中に金属ヒ素単体,鶏冠石(As4S4),雄黄(As2S3),硫ヒ鉄鉱(FeAsS)などとして存在する1).また,食品中にも存在し,特に魚介類や海藻中には高濃度のヒ素が検出されている.近年はガリウムヒ素(GaAs)やインジウムヒ素(InAs)など,化合物半導体の原材料として電子産業界での需要が増加している.ヒ素は微量元素として生長促進作用に関与する必須金属であるとされているが,ヒ素の毒性評価も生体内でのヒ素の存在形態や食品中での化学構造が明らかになるにつれて,ヒ素の化学形態によってその毒性に著しい違いがあることが明らかになってきた(代表的なヒ素化合物を表1に示す).

低分子ヘパリン

著者: 櫻川信男

ページ範囲:P.1053 - P.1055

はじめに
 ヘパリンは血中のアンチトロンビン(antithrombin;AT)と複合体を形成して,第Xa因子やトロンビンなどのセリン蛋白分解酵素を阻害し,強力な抗凝固作用を発現する.一方,抗凝固性が強力なことから出血傾向をもたらし,また血小板凝集を惹起して血小板血栓の出現をもたらすが,その反面,血小板減少を惹起して,さらに出血傾向をもたらす.ほかに脂質系へも影響を及ぼして不整脈をもたらすこともある.
 以上のごとく,重要な抗凝固薬であるヘパリンの臨床上の欠点を削除すべく工夫されたものが低分子ヘパリン(low molecular weight heparin;LMWH)である.LMWHは工業的には亜硝酸や過酸化水素などを用いるchemical depolymerization法や,ヘパリチナーゼなどの特異酵素によるenzymatic depolymarization法でheterogenousな未分画ヘパリン(Unfractionated heparin;UFH)(分子量1,000〜10,000)から作製される.今日では世界で7種類ほど入手可能であり,それぞれの精製法で処理されて平均分子量が4,500〜6,500となり,後述する抗凝固性の特徴の第Xa因子/第IIa因子比率も1.9:1〜20:1と異なる1)

新しい肝炎ウイルスTTV

著者: 坂本穣 ,   赤羽賢浩

ページ範囲:P.1056 - P.1058

はじめに
 最近,Nishizawaらにより,輸血後肝炎患者から分離されたTTウイルス(TTV)が,新しい肝炎ウイルスの候補として注目されている.

けんさ質問箱

Q 肝疾患は画像診断(超音波検査)だけで確定診断が下せるか

著者: 鈴木通博 ,   飯野四郎 ,   A.M.

ページ範囲:P.1037 - P.1040

 超音波検査を始めて3年になりますが,肝硬変などの肝疾患は画像診断のみで確定診断が可能なのでしょうか.

Q 感染性心内膜炎におけるvegetationの発生機序

著者: 木下真弓 ,   黒坂きょう子 ,   山口洋 ,   S.K.

ページ範囲:P.1040 - P.1043

 感染性心内膜炎の際に心エコーで描出されるvegetationは治癒すると消失するのでしょうか.また,発症後どのくらいで形成されるのでしょうか.

今月の表紙

尿の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.972 - P.972

 症例 患者は36歳,男性.排尿痛を主訴として泌尿器科外来を受診.急性尿道炎の疑いで,起炎菌検査のため尿が提出され,特に検査すべき菌種としてNeisseriagonorrhoeaeが指示されていた.
 材料の外観と塗抹検査:尿は約15ml,淡黄褐色,弱いスリガラス様の混濁が見られ,白い沈殿物が認められた.尿の一部を遠心して得られた沈渣より標本を2枚作製し,1枚をレフレルのアルカリ性メチレン青で単染色し,もう1枚をグラム染色した.写真1の左は単染色,右はグラム染色の鏡検像である.単染色では好中球の原形質内に多数の双球菌が認められ,細胞外にはごく少数見られる程度であった.グラム染色でグラム陰性双球菌と判定された.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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