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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術27巻9号

1999年08月発行

雑誌目次

病気のはなし

遺伝性黄疸

著者: 足立幸彦 ,   石原知明

ページ範囲:P.1066 - P.1072

新しい知見
 Gilbert症候群は日常診療においてしばしば遭遇し,ビリルビンUDPグルクロン酸転移酵素遺伝子〔bilirubin UDP-glycosyltransferase(;UGT1A1)遺伝子(UGT1A1)〕の変異を検索することにより遺伝子診断が行われている.UGT1A1は基質特異性のあるエクソン1Aと共通エクソン2〜5からなり,エクソン1Aの上流にTATAボックスを含むプロモーター領域が存在する.UGT1A1の解析は,患者末梢血白血球から得たgenomic DNAから各エクソンのPCR増幅を行い,ダイレクトシークエンシングで塩基配列を決定する(図2).Gilbert症候群患者の中にもUGT1A1の遺伝子異常を見いだせない症例や,健常者でもUGT1A1の遺伝子異常を認める症例が一部存在する.Gilbert症候群の診断のための遺伝子変異の検索は重要ではあるが,発症には他の要因がさらに加わっている可能性があり,これらの症例をどのように取り扱うかが今後の課題である.

技術講座 生化学

血清PSA測定におけるF/T比の臨床的意義

著者: 栗山学

ページ範囲:P.1073 - P.1076

新しい知見
 血清PSA測定によって前立腺癌を診断する際に問題になっているのは,PSAが癌特異抗原でないため,良性前立腺疾患において軽度上昇例が存在することである.
 一方,PSAはプロテアーゼの一種であるため,大部分の血中PSAはプロテアーゼインヒビターと結合していることがわかってきた.さらに非結合型PSA(freePSA)の全PSAに占める割合は,前立腺癌症例のほうが他の良性前立腺疾患に比して低率であることも判明している.

生理

末梢血管領域の超音波検査法

著者: 高田裕之 ,   戸出浩之

ページ範囲:P.1077 - P.1083

新しい知見
 超音波装置の発達は目覚ましいものがあり,毎年のように新しい技術や機能が導入されている.最近の話題の1つにtissue harmonic imaging法がある.従来の超音波画像は,送信周波数の整数倍のいくつもの周波数成分を持つ受信波により作られているが,このうち,主に送信周波数の2倍の周波数成分で画像を構築する方法がtissue harmonic imaging法である.これによりノイズが少なく分解能のよい画像が得られるため,今まで記録不良とされていた症例でも質の高い画像が得られ,各領域での急速な応用が進んでいる.

一般

疥癬の検査

著者: 篠永哲

ページ範囲:P.1085 - P.1088

新しい知見
 疥癬の治療薬には,硫黄剤,安息香酸ベンジル,クロタミトン,γ-BHCなどがあるが,一般に使用されているのはクロタミトン10%軟膏(商品名:オイラックス)である.使用法は,頸部より下の全身に塗布し,24時間後に入浴して洗い落とし再塗布する.これを5日間繰り返せばよいとされているが,実際には10〜14日間の塗布が必要である.γ-BHCは有機塩素系の殺虫剤であるが,国内では,製造・販売が禁止されている.しかし,ノルウェー疥癬のような重症の疥癬に著効を示すので,欧米では盛んに使用されている.1%含有白色ワセリン軟膏を頸部より下の全身に塗布し,6時間後に洗い落とす.1週間後に同じ処置を行う.製造は病院の薬剤部で行い,医師の責任で使用しなければならない.殺ダニ効果は高いが,幼児,高齢者,精神疾患のあるヒトへの使用はできるだけ避け,過剰塗布をしてはならない,
 最近,疥癬治療の経口薬として,フィラリアの予防,治療薬であるイベルメクチンが注目されている.内服薬なので手間がかからない,治療効果の発現が早い,患者にとっても快適であるなどの利点があり,米国などで効果を上げていると報告されている3)が,国内では入手困難である.この他,疥癬治療のための投与基準が確立されていない,副作用やヒトに対する毒性も不明であるなど,問題も残っている.

尿潜血の検査法

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1097 - P.1103

新しい知見
 現在,尿潜血検査はほとんどが尿試験紙法で行われている.尿潜血試験紙はアスコルビン酸による偽陰性が問題となっていたが,最近では各社製品とも影響を回避する工夫が施されており,尿沈渣赤血球数との相関もよくなってきている.あるメーカーの尿潜血試験紙を用いて検討してみたところ,血尿を見落とす率は1%以下であり,スクリーニング検査として満足できるものであった.しかし,尿潜血試験紙にはメーカー間差,製品間差,ロット間差があり,統一化がなされていないという問題点が残っている.今後,これらを解決すること,日常検査においては試験紙の検定を含めた日々の精度管理の徹底と普及が望まれる.

病理

自動染色機による適正な細胞診パパニコロウ染色のしかた

著者: 都竹正文

ページ範囲:P.1089 - P.1095

新しい知見
 パパニコロウ(Papanicolaou)染色は,細胞診の形態観察用に考案された染色法である.1942年にパパニコロウがScienceに発表した原法に墓づいて使用されていた.その後,染色時間や染色液の微調整を行った各種の改良法,変法が試みられている.これらの方法は原法と大きな差はない.また,各施設においても,より良い染色結果が得られるように改良して使用されている.
 染色方法も,細胞診材料の増加および仕事の能率化を図って,自動染色機を用いて染色を行っている施設が増えてきている.しかし,その染色試薬については基本的に変わることはなく,核染色にはヘマトキシリン,細胞質の染色にはOG-6,EA-50の各液が使用される.

日常染色法ガイダンス 金属・無機物の日常染色法—鉄の染色法

ベルリン青染色

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.1113 - P.1115

目的
 ベルリン青(Berlin-blue)染色は,3価の鉄イオン(組織中では主にヘモジデリン)を染色することにより鉄代謝異常などによる組織への鉄の沈着や局在を証明するのに用いられている.
 体内の鉄の総量は4,000mg前後で,その2/3は赤血球ヘモグロビン(hemoglobin)やミオグロビン(myoglobin),チトクロームC(cytochrome C)など生命維持に必要なものとして存在し,残りの1/3は貯蔵鉄として組織にフェリチン(ferritin)あるいはヘモジデリン(hemosiderin)として存在している.鉄の動態としては,食餌あるいは貯蔵鉄より1日30mg程度の鉄が血清鉄となり,骨髄での赤芽球生成に利用される.また,分解された赤血球ヘモグロビン鉄などは再利用される.

脂質(脂肪および類脂質)の日常染色法

ズダン黒B染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.1116 - P.1118

目的
 脂肪は脂肪溶剤によって抽出される複合体の総称で,中性脂肪,リン脂質,糖脂質などに分類される.
 中性脂肪の多くは,貯蔵型脂肪として皮下,腸間膜,大網などの脂肪組織を構成する.脂肪は脂肪変性,つまり異常に増加したり,通常では見いだされない組織に出現することがあり,これらの脂肪を証明するために用いられる.腫瘍で脂肪が細胞内に出現することから,脂肪肉腫の診断根拠としても用いられる.また,パラフィン標本ではアルコールやキシレンに溶出してしまうために染色することができないので,ホルマリン固定した組織の凍結切片を用いて,これらの脂肪を証明する.

検査データを考える

糖尿病性ケトアシドーシス

著者: 小林功

ページ範囲:P.1133 - P.1137

はじめに
 糖尿病はインスリンの作用不足により引き起こされる持続的な高血糖を主徴とし,一連の代謝異常を伴う症候群ということができる.高血糖の持続によりもたらされる臨床像は,無症状のものから口渇,多飲,多尿,体重減少などが認められる場合まで多彩である.さらに極端な場合には,糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧,高血糖状態をきたし,意識障害が出現し,昏睡に至り,放置すると死亡する.
 一方,代謝異常が持続すると,糖尿病に特有な合併症が出現する.糖尿病性神経障害,網膜症,腎症などがそれに相当し,進展すれば視力障害から失明,腎不全,下肢の壊疽などがしばしば認められるようになる.さらに全身の動脈硬化症などの原因になる1〜3)

検査の作業手順を確立しよう 一般検査・1

尿試験紙法によるスクリーニング検査

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1139 - P.1142

はじめに
 尿試験紙法は簡便で,いつでもどこでも誰でも実施可能であるため,安易に取り扱われる傾向にある.尿試験紙法に精度管理は不要と考えている管理者もいるようであるが,単純な検査ほど検査結果のバラツキは大きい.特に目視法は判定個人差が顕著で,検査技師その人個人の経験や知識,技量が直接反映するといっても過言ではない.

機器性能の試験法 測定装置の性能確認試験法

HPLC

著者: 雲類鷲雄一 ,   桑克彦

ページ範囲:P.1143 - P.1148

はじめに
 現在HbA1Cの測定法は,HPLC(high performance liquid chromatography,高速液体クロマトグラフィー)と免疫法が主流である.免疫法は,汎用自動分析装置で測定される場合が多く,この場合,装置の性能は,性能試験法として確立されている.しかし,HPLCによる方法は,専用測定系として組み立てられているため,装置の性能を確認するには,個々に固有の性能試験法を設定しなくてはならない.そこで,ここでは,HbA1C分析専用HPLCの測定性能を確認する方法について,HLC 723Ghb V(東ソー(株))を例に,実稼働状態を想定した方法について示す.

ラボクイズ

問題:よく見られる衛生動物【4】

ページ範囲:P.1120 - P.1120

7月号の解答と解説

ページ範囲:P.1121 - P.1121

オピニオン

超音波検査士への期待と将来展望

著者: 遠田栄一

ページ範囲:P.1084 - P.1084

 1985年に第1回目の試験が実施された超音波検査士認定制度も今年で14年目を迎え,臨床検査技師の間ではすっかり定着した感がある.超音波検査の普及に伴う件数増加と生き残りを意識した先行投資も手伝ってか,受験者の数は年々増加の一途を辿っており,既資格取得者は4,000名を超えようとしている.
 超音波検査士認定制度は,日本超音波医学会が超音波検査の優れた技能を有するコメディカルスタッフを専門の検査士として認定・公示することを目的に設立された.学会が“検査士”に求めているのは超音波検査の実務能力,すなわち実際に探触子を操作して検査を行い,その所見を報告書として作成できる十分な知識・技術能力であり,膨大な検査件数をこなすための労働要員として期待しているわけではないとのことである.しかし,検査室を取り巻く環境の悪化に伴い,アルバイトを目的に資格取得を目指す輩も一部にはいると聞く.実技試験がないため,技能を正確に判定できない試験制度にも問題があるが,取得者側が襟を正さないと,せっかくの制度も有名無実となる可能性がある.

けんさアラカルト

院内感染の動向

著者: 富沢真澄

ページ範囲:P.1096 - P.1096

 院内感染とは,基礎疾患を有する患者が病院内で別な感染症に罹患することであり,最近の医療技術の進歩,および治療としての抗菌剤の充実に伴い,高齢者,免疫機能の低下した易感染を有する患者が増加し,それらの患者においては院内感染症を併発する危険性が高く,ときには重篤な状態が生じる.院内感染は,一般細菌,結核菌では医療従事者を介しての患者間での感染,ウイルス感染では医療行為中の針刺し事故による医療従事者の感染が問題となっている.1996年(平成8年)4月より診療報酬として院内感染予防対策費が認められ,病院での院内感染対策の充実が図られている.
 一般細菌による院内感染としては,MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌),緑膿菌,Serratia, VRE(バンコマイシン耐性Enterococcus属)などが問題となる原因菌である.日本では1980年代よりMRSAが増加傾向を示し,現在に至っている.MRSAは多剤耐性であること,除菌に苦労することなどから治療に難渋するため,MRSAの増加が問題となり,MRSAの減少のための努力がなされている.

トピックス

パラフィン切片による悪性リンパ腫のマーカー診断

著者: 国仲伸男 ,   渡司博幸 ,   涌井重勝 ,   宮内潤 ,   藤本純一郎

ページ範囲:P.1122 - P.1126

はじめに
 悪性リンパ腫は,リンパ組織のリンパ球から発生するさまざまな特徴を持った腫瘍の総称である.大きく非ポジキンリンパ腫とポジキンリンパ腫に分類されるが,各々をさらにその特徴に基づいて細かく分類する試みがなされており,その分類法は近代医学の進歩に伴って大きく変遷してきた.
 悪性リンパ腫の診断にあたっては,形態的特徴に加えて腫瘍細胞が発現するマーカー抗原の種類を同定することが重要であるが,その検査方法としては各抗原に特異的な抗体を用いた腫瘍組織の免疫染色が最も一般的に用いられている.この検査方法に用いることができる標本としては,大きく分けて新鮮凍結切片とパラフィン切片があるが,それぞれ長所・短所がある.新鮮凍結切片と比較して,パラフィン切片の場合には標本作製過程で抗原が変性し,本来持っていた抗体との反応性が消失してしまう場合があり,使用できる抗体が限定されてしまう欠点がある.しかし,一方でパラフィンブロックはごく一般的な病理標本の保存法であるとともに,半永久的な保存が可能であるため,過去の症例について随時解析できるという大きな利点がある.さらに近年,パラフィン切片で染色可能な抗体が次々と樹立され普及してきたことや,いったん変性してしまった抗原の抗体との反応性を電子レンジを用いた熱処理によって回復する技術の確立などにより,パラフィン切片を用いたマーカー解析の重要性が増してきた.

覚醒剤(乱用薬物)の検査法

著者: 江原和人

ページ範囲:P.1126 - P.1129

はじめに
 覚醒剤1)は中枢興奮薬の一種であり,大脳皮質に作用して精神的機能を亢進し,疲労感および睡気を除去し,作業能率の一時的な向上が認められる.しかし,乱用によって依存性を生じ,幻覚,妄想,人格変化などをきたす.急性中毒などにより死に至る.覚醒剤弊害のために,わが国では「覚醒剤取締法」によりその使用や所持が禁止されているが,現在でも不法な製造や密輸があとを絶たない.覚醒剤としては,メタンフェタミン(metamphetamine;MA),アンフェタミン(amphetamine;AP)およびその塩類が指定されているが,取締法では原料10種(エフェドリン,フェニル酢酸など)も規制の対象としている.
 日本における覚醒剤の乱用はMAがほとんどである.摂取後,その代謝物であるAPとともに尿中に排泄されるため,血液中,尿中の両物質を測定することが覚醒剤摂取を証明することになる.近年,救急医療における中毒患者や不法薬物常用者が増加している2).当院の行政解剖覚醒剤検出例からも救急医療受診歴や精神疾患既往歴のある陽性者の比率が高くなっている3).このような背景から,三次救急医療や精神医療の現場において,覚醒剤検査は他の薬物検査と同様に中毒患者における臨床診断に不可欠であり,早期の検査・治療による覚醒剤乱用防止が必要である.

アメリカ糖尿病学会の新しい診断基準

著者: 荻原典和

ページ範囲:P.1129 - P.1132

糖尿病とは
 糖尿病という疾患は,エジプト時代から確立されていたと思われるほど歴史は深い.大量の尿を排泄し,口渇,やせ,全身の倦怠感,ついには死に至る不治の病いとして知られていた.インスリンが発見され,死の恐怖から解放されてからいまだ100年もたたない.インスリンが発見され,死ぬことから免れても高血糖状態が持続することで合併症が発生し,慢性疾患として現在も苦闘は続いている.
 しかし,糖尿病という病気は,最近“生活習慣病”と呼ばれ,生活習慣によってはすべての人が糖尿病という病態になりうるとの誤解がある.しかし,PimaIndian(30〜64歳の51%)などの多発種族でも糖尿病の罹患率には限界があり,すべての人が糖尿病になってしまうわけではない.やはり,糖尿病と非糖尿病の両者の素質の間には明らかな差異がある.暴飲暴食の生活をしていても,すべての人が糖尿病になってしまうわけではないのである.

けんさ質問箱

Q 血糖値の日内変動

著者: 平田昭彦 ,   富永眞琴 ,   K.A.

ページ範囲:P.1149 - P.1151

 糖尿病で入院治療中の患者さんですが,初日と2日目のAM7:30の血糖値が約50mg/dlも(なかには100mg/dlも)違う人がいます.病院食以外は食べておらず,本人も自覚していて運動量も特に変わりはありません.どういうことが考えられるでしょうか.なお,当院では血糖値は自動分析機で検査しておりますが,採血から測定までの時間が4時間ぐらいかかっています.
 初日 7:30(90mg/dl)10:00(100mg/dl)11:00(107mg/dl)

Q 生鮮類を新鮮に見せるための発色法

著者: 落合芳博 ,   S.K.

ページ範囲:P.1151 - P.1153

 冷凍マグロを新鮮に見せるために一酸化炭素(CO)を注入するという記事を新聞で読みましたが,CO注入により赤く発色するメカニズムをご教示ください。

今月の表紙

糞便の検査

著者: 小栗豊子 ,   三澤成毅

ページ範囲:P.1119 - P.1119

 症例 患者は53歳,男性.9月中旬,激しい下痢を主訴として内科を受診.下痢症起炎菌検査のため,糞便が提出された.
 材料の外観:糞便は黄褐色の水様便.血液の混入は認められなかった.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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