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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術28巻11号

2000年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

ANCA関連血管炎

著者: 簑島忍 ,   有村義宏

ページ範囲:P.1300 - P.1304

新しい知見
 抗好中球細胞質抗体(ANCA)は顕微鏡的多発血管炎やウェゲナー肉芽腫症などの系統的壊死性血管炎や特発性半月体形成性腎炎の血清中に認められる.ANCAは間接蛍光抗体法により、好中球細胞質が均一に染色されるC-ANCAと,核周辺の細胞質が強く染色されるP-ANCAに大別され,さらに好中球細胞質中の対応抗原の違いにより,数種のサブタイプに分けられるようになった.臨床的に重要なのは,好中球細胞質のアズール顆粒中のmyeloperoxidase(MPO)に対する抗体であるMPO-ANCAと,proteinase 3(PR3)に対するPR3-ANCAである.これらのANCAが陽性である血管炎群をANCA関連血管炎という.
 ANCA関連血管炎では,ANCAが存在することにより引き起こされる好中球を介しての毛細血管を主体とした細・小血管の壊死性血管炎という共通した病理組織所見を有し,臨床的には急速進行性腎炎症候群や肺出血などの全身の血管炎を呈する予後不良の疾患群である.ANCAはこの疾患群の病因・病態に関与していると考えられ,血清学的指標として利用されるようになった.

技術講座 一般

尿中赤血球形態情報の考えかた—標準化に向けて

著者: 油野友二

ページ範囲:P.1305 - P.1310

新しい知見
 尿中赤血球形態情報は,血尿の由来鑑別の1つの情報として有用である.今年改訂されたJCCLS尿沈渣検査法指針提案GP1-P3において均一赤血球・変形赤血球という用語の統一がなされた.

病理

消化管EMR検体の処理

著者: 松林純 ,   大橋健一 ,   小池盛雄

ページ範囲:P.1311 - P.1314

新しい知見
 消化管の隆起性病変に対する高周波を使用した内視鏡的切除はポリペクトミーと呼ばれ,わが国では丹羽により1968年に初めて施行された.その後,平坦な病変に対して1984年,多田らによりstrip biopsy法が開発された.近年では内視鏡的粘膜切除術(endoscopicmucosal resection:EMR)と呼ばれ,食道・胃・大腸の小病変に対して一般的に広く行われている.特に食道表在癌に対するEMRは,外科的切除と比較して治療後のQOLが非常に良好であり,その適応もしだいに明確にされ,手技的にも確立された治療法となった.今後の症例のさらなる蓄積と高度な臨床的,病理学的検索が望まれるところである.

微生物

NCCLS法(M2-A7,M7-A5,2000)による耐性菌の検出—[2] グラム陰性菌を中心に

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.1315 - P.1323

新しい知見
 2000年1月に出版されたNCCLS文書に記載されているグラム陰性桿菌の薬剤感受性検査の新知見としては次のようなものがある.
 ①ディスク法,希釈法ともESBLs産生株の推定試験と確認試験が設定された.②P. aeruginosa,その他のブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌の薬剤感受性解釈の基準が設定された.③V. cholerae,H. pylori,Neisseriaの測定法が設定された.

免疫

髄液オリゴクローナルバンドの検出

著者: 新井雅信 ,   中津雅美

ページ範囲:P.1325 - P.1330

新しい知見
 髄液のオリゴクローナルIgGバンド(OCGB)への関心は高いが,オリゴクローナルIgMバンド(OCMB)やオリゴクローナルIgAバンド(OCAB)はどう考えられているのだろうか.
 OCMBをOCGBと類似の方法で検討すると,多発性硬化症(MS)患者の28%で陽性であり,急性増悪期で慢性期より高率であった.MS以外に中枢神経内感染症でも38%で陽性であった(Sindic CJM, et al:JNeurol Sci 124:215,1994).別の報告ではOCMBはMS患者の55%に陽性であったという.

日常染色法ガイダンス 特殊染色法

免疫染色のこつ

著者: 鴨志田伸吾 ,   堤寛

ページ範囲:P.1331 - P.1336

はじめに
 酵素抗体法が,病理学,細胞診断学,血液学といった形態学の領域において果たす役割は大きい.再現性かつ特異性に優れ,しかも美しい免疫染色標本を提供することは,臨床検査技師の使命の1つである.そして,この技術そのものが正確な形態学的診断に結びつくことを常に念頭に置くべきである.本稿では,免疫染色に関するコツや具体的な注意点を述べる.

検査データを考える

慢性骨髄性白血病の検査値の動き

著者: 高橋直人

ページ範囲:P.1343 - P.1346

はじめに
 慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia;CML)は末梢血における好中球系細胞の著増(しばしば数万/μl以上),巨大脾腫,貧血で特徴づけられる疾患である.最初の数年は慢性に経過し,無治療の場合,平均3.5年で急性転化(blastic crisis;BC)する.BC後は治療に抵抗性となり,死の転帰をとる.BC時の白血病細胞形質の解析により,好中球系のみでなく,リンパ球系や赤芽球系,巨核球系の急性転化も報告されている.これはCMLが多能性幹細胞の異常に由来することを示唆しており,白血病化は多能性幹細胞の段階で起こると考えられる.骨髄染色体分析によりCMLの95%以上の症例でフィラデルフィア染色体(Philadelphia染色体;Ph染色体)を認める.Ph染色体とは,第9染色体の長腕と第22染色体の長腕が相互転座することにより生ずる派生22番染色体のことである(図1).この転座により9番染色体上のABL遺伝子と22番染色体上のBCR遺伝子が再構成され,BCR-ABL融合遺伝子が形成される.BCR-ABL融合遺伝子が作る210kDa蛋白は強いチロシンキナーゼ(tyrosine kinase)活性を有し,これがCMLの腫瘍性増殖に本質的な役割を果たしていると考えられている.

絵で見る免疫学 基礎編・10 細胞の生と死・1

殺しのライセンス—CD40とCD40Lの重要性

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.1348 - P.1349

はじめに
 体内に病原体が侵入すると,これを殺すために免疫系が作動する.免疫系,すなわち生体防御系は,“自己には傷をつけることなく,外部からの侵略者のみを狙撃せよ!”と,狙撃者に対して極めて困難な命令を下す.この難事に従事する狙撃者,すなわち細胞傷害性T細胞(cytotoxic Tlymphocytes;CTL)は,“殺しのライセンス”を持ったもののみが従事するとAntonio Lanzavecchiaが記したユニークな説を紹介する1)

臨床検査に必要な統計処理法・10

統計的立場から見た基準範囲の設定—解析対象の明確化と解析手順の適正化

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.1361 - P.1365

はじめに
 基準範囲は,健常者の検査値の95%が含まれる範囲であり,検査成績を臨床的に解釈する際の基本的尺度の1つである.基準範囲の定義や設定法については,NCCLSの指針でその内容が明確化され,国際的にも標準化が進められつつある.ただし,基準標本群の抽出や,標本に含まれる外れ値の除外法,また用いる統計手法の選択など,詳細については不明瞭な部分も残されている.これらの課題は,統計学を用いた現象解析においてたびたび遭遇する一般的な問題としてとらえることもでき,ここでは基準範囲の設定にかかわる諸問題を統計学的な観点から再考する.

ラボクイズ

問題:平衡機能検査【4】

ページ範囲:P.1338 - P.1338

9月号の解答と解説

ページ範囲:P.1339 - P.1339

オピニオン

病理検査から見た医療の質の向上

著者: 山本格士

ページ範囲:P.1324 - P.1324

 現代の医学・医療は,化学の著しい進歩に合わせ日進月進している.その内容はますます高度化し,“今日の研究は明日の実用化へ”といわれるように,その発展には目を見張るばかりである.
 そもそも病理学の中で,光学顕微鏡や電子顕微鏡による病理組織診断に優る診断法は,癌診断という面に限ってみれは他にないであろう.しかしながら,従来の形態観察のみでは補うことのできなかった分野の研究が,分子生物学的研究で明らかにされた.その歴史はまだまだ浅く,1970年代後半からの蛍光抗体法の発案に始まって,免疫組織化学の研究・開発がどんどん進められ,フェリチン抗体法,酵素抗体法が相次いで開発された.そして分子生物学,遺伝子工学のめざましい発展に伴い,近年ではin situ hybridization(ISH),さらにin situ PCR法によって癌関連遺伝子や染色体異常の証明など基礎的研究の成果が臨床に応用されるようになった.これらの検索は組織発生,分化,発癌過程,悪性度など通常の組織学的検索と異なった方向からの情報を提供するものであり,この分野の進歩は今後疾病の基礎研究のみならず,悪性度診断,鑑別診断や治療にも大きな影響をもたらすものである.

けんさアラカルト

検診超音波検査と腎疾患

著者: 鈴木康義

ページ範囲:P.1337 - P.1337

はじめに
 検診業務における超音波検査は今や必須なものとなってきており,逆にいえば,超音波のない検診やドックは意味のないものになりつつある.当科でも当院の検診センターや他病院のドックの超音波検査で発見されて紹介されてくる偶発腎癌は年に20〜30例を超えており,治療成績の向上にも結びついている.

Laboratory Practice 臨床編 臨床検査はどう利用されているか

遺伝子検査の課題—ゲノム時代を迎えて

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.1350 - P.1351

病気と遺伝子との関係
 ヒトゲノムの解読を進めてきた日米欧などの国際共同チームは,ヒトゲノムの概要版が完成したことを2000年6月26日に発表した.ゲノムの全解析は3年以内に完全に完了すると予想されている.しかし,遺伝子の機能の研究はまだ始まったばかりである.遺伝子間の錯綜した関係,制御機構の複雑さ,研究手段の倫理的な制約などを考えると,遺伝子の機能の解明は極めて困難である.
 遺伝子解析技術の進歩に伴って,病気と遺伝子との関係の研究も急激な展開を見せている.遺伝因子が病気にどの程度関与するかを調べるために,遺伝子が同じで養育環境もほぼ同じの一卵性双生児の病気の一致率と,遺伝子の半分は違うが養育環境は同じの二卵性双生児の病気の一致率,さらには養子によって養育環境が異なる一卵性双生児の病気の一致率を比較する研究が進められている.その結果,臨床的に遺伝傾向が認められていた病気,例えばII型糖尿病(中年以降に発症する糖尿病)で遺伝子の役割が大きいことが確認されただけでなく,多くの病気の発症に遺伝因子が関与していること,結核でさえ遺伝因子の関与が認められることが明らかにされた.

血液 骨髄塗抹標本の見かた

骨髄液中に見られる正常細胞・6 その他の細胞(その2)

著者: 清水長子

ページ範囲:P.1352 - P.1353

はじめに
 本稿では,前回に引き続き骨髄液中に認められるその他の正常細胞について述べる.
 特に他の細胞と間違いやすいものを写真とともに解説する.

病理 細胞像からここまでわかる

呼吸器(3) 腺癌

著者: 堀内啓 ,   荒井政和 ,   松谷章司

ページ範囲:P.1355 - P.1357

腺癌の臨床的特徴,分類
 腺癌は肺癌の約30%を占める.肺の末梢領域に好発し,喫煙との関係は不明である.男女比は約2:1で発症年齢は扁平上皮癌よりやや若い.
 肺の腺癌は管状構造,乳頭状構造を示すか,これらの構造がなくとも上皮性の粘液を産生する悪性腫瘍と定義されており,改訂WHO分類(1999年)では,腺房(管状)腺癌,乳頭腺癌,細気管支肺胞癌,粘液産生性充実癌,混合型腺癌,特殊な腺癌(胎児型腺癌など)に分類される.粘液産生性充実癌は,旧WHO分類では大細胞癌に分類されていた腫瘍である.本稿では,これらの中で頻度が高い,乳頭腺癌,細気管支肺胞癌を中心に解説する.

微生物 細菌培養陰性例への対応

肺炎症例の微生物検査(1)

著者: 渡辺彰

ページ範囲:P.1358 - P.1360

はじめに
 2000年3月,筆者らは日本呼吸器学会から市中肺炎診療のガイドライン1)を提案した.ガイドラインは,細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別診断を強調した(図1)が,肺炎症例に対してどのように対応すべきかを臨床医の立場から考えてみたい.

トピックス

日本版DRG

著者: 神津仁

ページ範囲:P.1375 - P.1378

はじめに
 アメリカは外科の国だ.メイヨークリニックの礎を作った大メイヨーは,メス1本で多くの患者を治療したといわれる.内服薬は民間療法に毛の生えたようなものしかなく,とても内科医が活躍するような時代ではなかった.メイヨークリニックに内科のディビジョンが置かれたのは,かなり後のことだ.今日でも,心臓手術や脳神経外科をはじめとして肥満の外科治療や美容外科,移植治療に至るまで,多くの手術が行われている.また,フロンティアの国として実験的な試みも多い.その見返りとしての手術の失敗も少なからずあって,しだいに医療に対する厳しい目が患者側から注がれることになった.
 1960年代までは,アメリカといえども“パターナリズム(神父が信者に対して教え諭し,正しい道へ導いていく関係)”で,患者にとっては“おまかせ医療”であった.しかし,受けている医療の中身がわからない,医療費が非常に高く,対価に見合った医療を受けているのかという疑問が湧き上がり,医療訴訟が激増してくる.そうした中で,しだいに患者の意識は変化し,消費者保護運動のたかまりと相呼応した医療の中のコンシューマリズム(消費者運動)が台頭してきた.「患者の権利宣言」や「インフォームド・コンセント」もその一環である.こうしたムーブメントに押されて,病院側の意識改革も進んだ.

診断薬に用いるラテックス粒子

著者: 竹村守

ページ範囲:P.1378 - P.1381

はじめに
 医療応用を目指した生体機能高分子材料の開発およびその臨床応用の進歩は日進月歩であり,新規医用高分子材料が次々に登場している.医用高分子材料は医療用ディスポーザブル製品,人工臓器,医薬,診断薬などに代表されるように著しい進歩を遂げてきた.ラテックス粒子も高分子材料合成技術の進歩により,粒子径,粒子形状を精密に制御するとともに,粒子表面に特異的な機能を付与することも可能になった.これらの特性を活かしたラテックス粒子の医学領域における応用は,抗原・抗体の結合担体,細胞の識別剤,細胞分離単体,クロマトグラフィー用担体など広範囲に実現されている.

リアルタイム血漿分離装置

著者: 渡野達朗

ページ範囲:P.1381 - P.1383

はじめに
 今日,臨床化学領域における自動化の進歩は,多項目・微量分析を可能にするとともに,高速分析を可能にした.その結果,コンピュータ化の急速な進歩とともに迅速化が進んでいる.そのことは診療支援体制の確立にも大いに機能している.さて,医療の場で迅速検査体制を構築する場合,それは患者サービスや効率化の観点からも,いかに診療現場にタイムリーに検査結果の報告ができるかどうかが重要な課題である.
 迅速検査体制や診療前検査体制は,近年では多くの医療機関で実施されているが,臨床化学領域や免疫検査における検査材料は,ブィブリノゲンが失われていることと,血液凝固時に崩壊する血小板成分の汚染などの問題はあるものの,人為的変性を受けておらず,ほとんどの化学成分が自然の状態のまま存在しているなどの理由から血清試料の利用が一般的である1).しかし,血清試料を得るためには十分な凝固時間と遠心操作が必要となり,遠心操作というバッチ的処理は,今日の自動化などによる検査結果の迅速報告における1つの障害となっている.採血から分析に至るまでの時間を短縮するためには,凝固促進剤や血漿の利用などが効果的であるが,遠心操作を伴うために要する時間的問題がある.

今月の表紙

蠟様円柱と上皮円柱

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1342 - P.1342

症例:外科,69歳,男性
診断:食道癌術後

検査じょうほう室 病理:病理標本に見られる不思議な現象

酵素抗体法での陽性所見と物質の産生

著者: 広井禎之

ページ範囲:P.1366 - P.1367

はじめに
 肝臓癌の肝病理組織標本でα-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)の酵素抗体法(光学顕微鏡レベル)を行い,癌細胞の細胞質に陽性を認めました.癌細胞がAFPを産生していたといいきれるでしょうか?
 答えはノーです.

輸血:輸血検査と血液型の謎

抗血小板抗体の臨床的意義と検査法

著者: 森田庄治 ,   柴田洋一

ページ範囲:P.1368 - P.1369

はじめに
 ヒトの血小板膜表面には,ABO型,HLA型(human leukocyte antigen;ヒト白血球抗原),HPA型(human platenet antigen;ヒト血小板抗原),自己抗原などが存在する.輸血や妊娠などが契機となってこれらの膜表面に存在する抗原に対する抗体が産生される.一般に輸血検査の領域で用いられる抗血小板抗体とは,同種免疫によって産生される同種抗体の総称の意味で使われる.
 以下に抗血小板抗体を理解するための基本的知識と,その臨床的意義および検査法について概説する.

けんさ質問箱

Q 24時間クレアチニンクリアランスの正常域

著者: 堀尾勝 ,   H.O.

ページ範囲:P.1384 - P.1385

 臨床検査法提要に基づいて24時間クレアチニンクリアランスの正常域を設定していますが,高値に出ることが多く,医師からの問い合わせがしばしばあります.血清値が0.8mg/dlと0.9mg/dlといった具合いに測定誤差の範囲でも,計算すれば約1割違っていることになりますので,上限をはっきり設定すべきかどうか悩んでいます.異常低値には意味があっても,異常高値にはそれほど大きな意味がないと思うのですが,いかがでしょうか

Q Fisherの直接確率計算法

著者: 棟近雅彦 ,   H.N.

ページ範囲:P.1386 - P.1387

 Fisherの直接確率計算法をわかりやすくご教示ください.Z

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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