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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術28巻12号

2000年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

高脂血症—血漿リポ蛋白質代謝から見た病態

著者: 横山信治

ページ範囲:P.1394 - P.1403

新しい知見
 1.現在得られている動脈硬化予防の臨床的証拠
 (1)この10年,LDLを低下させることは,動脈硬化性の心血管病発症の危険性を低下させることが証明されてきた.
 (2)トリグリセリドを低下させることが,同様の効果があるとの証拠が徐々に固まりつつある.

技術講座 微生物

MRSAの遺伝子型別

著者: 満田年宏

ページ範囲:P.1405 - P.1413

新しい知見
 分子生物学的手法の究極は原因菌の複数の遺伝子の配列を決定し,その中で疫学マーカーとして有用な特定領域を対照群に合わせて比較検討する手法である.しかし,実際はコストと労力の面から研究用の試薬段階でとどまっている.プラスミド型別,コアグラーゼ遺伝子型別1),プロテインA(spa)遺伝子型別2,3),PCR-RAPD法4),Ribopriner法,パルスフィールドゲル電気泳動法などがこれまで登場してきた.今後は増幅断片長多型解析(amplified fragment length polymorphisms;AFLP)法などが改良され組み合わされるであろう5,6).AFLP法では100以上のバンドが検出されるため,その多型性に関する検討と自動化用の試薬・機器の開発が望まれる.

生理

呼吸機能検査の進めかた

著者: 福原俊明

ページ範囲:P.1415 - P.1420

新しい知見
 呼吸機能検査の方法は現在ほぼ確立されたものであり,ここで示されている検査法は今後も継続して行われていくと予想される.今後は予防医学を重視する見地から,疾患の症状が出る前に注意信号として検出できる検査方法が開発されることが望まれる.例えば,肺気腫のような慢性閉塞性疾患は,喫煙を早期にやめれば病状の進行は阻止できるため,異常の早期発見が重要である.クロージングボリュームや,V25,V25/V50が末梢気道病変の指標になるとされているが,必ずしも喫煙量との相関がはっきりせず,さらに確実で鋭敏な方法が開発されることが望まれる.

一般

糞便内原虫検査

著者: 木俣勲

ページ範囲:P.1421 - P.1429

新しい知見
 下痢性疾患の原因となる原虫には,古くから知られている赤痢アメーバ,ランブル鞭毛虫やイソスポーラに加えて,最近話題になっているクリプトスポリジウム,サイクロスポーラおよび微胞子虫などがある.
 また,これらの原虫による疾患は,発展途上国を中心とした地域への旅行者下痢症や,免疫不全状態に随伴する下痢症として,さらに飲料水や食品を介する集団下痢症として注目されている.

病理

脳大切片作製

著者: 長谷川富淑

ページ範囲:P.1431 - P.1434

新しい知見
 現代は“脳の時代”といわれており,さまざまな神経疾患における脳組織の病理形態学的検索が必要とされており,それに伴って可能な限り美しい組織標本作製の重要性はますます増大している.脳組織の標本作製にあたっては,その解剖学的構造が複雑であるという臓器特異性と,多彩な特殊染色を必要とする細胞特異性のため,特に大脳半球全体が1枚のプレパラート上に載った,いわゆる大切片を作製する必要が生じることがある.こうした大切片を作製する際には,固定,薄切から染色に至る個々のステップで,適切な条件を工夫する必要がある.

検査データを考える

ペニシリン耐性肺炎球菌感染症

著者: 桑原正雄 ,   藤上良寛

ページ範囲:P.1435 - P.1440

はじめに
 肺炎球菌は呼吸器領域や耳鼻科領域感染症の重要な病原菌であり,急性気管支炎,急性肺炎,慢性気道感染症の急性増悪,中耳炎,副鼻腔炎などを引き起こすことで知られている.また,小児科領域では化膿性髄膜炎の起炎菌としても重要で,インフルエンザ菌とともに高頻度に見られる.
 肺炎球菌は以前からβ-ラクタム剤に高い感受性を示し,耐性化しにくい菌であった.ところが,本菌に対して最も有効とされたペニシリンG(PCG)に対する耐性化が1970年頃から海外で報告され始めた.南アフリカ,スペイン,ハンガリーなどでは早期から耐性株が高頻度に分離され,大きな問題となっていた1).わが国においては,ペニシリン耐性肺炎球菌の出現は1980年代初め頃とされているが,本耐性菌による感染症例の報告は1988年の化膿性髄膜炎が最初であった.最近では明らかに増加しており,臨床的に遷延したり,反復する肺炎球菌感染症では耐性菌を強く疑い,検査を進めることが必要である.

絵で見る免疫学 基礎編・11 細胞の生と死・2

殺し屋の足跡—NK細胞(natural killer cell)

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.1444 - P.1445

はじめに
 殺し屋には,消すべき標的を間違いなく探り出し,素早く始末する実行力が要求される.そのためには確実な手がかりが必須である.その手がかりとは,標的細胞の表面に発現しているMHCI分子である.MHC I分子のもとには,CTL(細胞傷害性T細胞)ともう1人の殺し屋であるNK細胞が様子を探りにやってくる.
 CTLは骨髄で産生され,胸腺における“生と負の選択”や末梢における“高度に活性化された樹状細胞”に活性化されるなど殺し屋になるための厳しい訓練を受け,やっと1人前に成長する.一方,もう1人の殺し屋であるNK細胞は同じリンパ球に分類され,骨髄でも産生されるが,主に腸や肝臓にある造血幹細胞で産生される.しかし,その生い立ちは不明なところが多い.

臨床検査に必要な統計処理法・11

臨床的有用性の評価—疾患に対する感度・特異度・予測値

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.1457 - P.1460

はじめに
 目的とする疾患群と非疾患群の判別効率を指標として臨床検査の有用性を評価する考えかたがある.疾患に対する感度と特異度,それらを組み合わせたROC曲線(receiver operating characteristic curve;受信者動作特性曲線)による臨床的有用性の評価である.また,検査成績に基づく目的疾患の存在確率を指標とする予測値の考えかたもある.これらは簡便な指標ではあるが,用いる標本の性質によって,解析結果をそのまま単純に使用できないなどの留意点もある.臨床的有用性の評価には多くの考えかたがあり,評価法によってそれぞれの特徴を有するが,ここでは最も基本的な概念としての感度・特異度・予測値,またROC曲線について取り上げる.

ラボクイズ

問題:呼吸機能検査【1】

ページ範囲:P.1442 - P.1442

10月号の解答と解説

ページ範囲:P.1443 - P.1443

オピニオン

臨床微生物専門技師

著者: 長沢光章

ページ範囲:P.1404 - P.1404

 臨床微生物検査の領域は,日和見感染症,耐性菌を含む新興・再興感染症,原虫,ウイルス抗原・特異抗体,毒素の検出,環境,保菌者検査など多岐にわたってきています.その反面,医療経済政策の強化によって検査室の見直しが進み,長い技術的修練を必要とする臨床微生物検査技師の確保にとって厳しい状況となっています.
 このような状況に対応するためには,従来からの結果報告だけではなく,付加価値の高いデータを提供するために,臨床支援システムの構築,臨床検査技師の意識改革,知識および技術の研鑚が必要であると思います.

けんさアラカルト

手軽にできるTDMシミュレーション

著者: 田島裕

ページ範囲:P.1466 - P.1468

 薬物によっては治療濃度域の狭いタイプのものがあり,実際に患者の体内での濃度を確認しながら治療を続けなければならないことが多々ある.一連のこのような操作はTDM(therapeutic drug momitoring)と呼ばれており,近年盛んに行われるようになってきたが,真の“TDM”とは,ただ単に「患者から採血して薬物濃度を測定すれば事足りる」というような簡単なものではない.つまり,TDMを行うに際しては,(確かに薬物の血中濃度を知ることは,非常に重要なことではあるが)測定と同時にシミュレーションを行って,患者固有のパラメーターを(実測値から逆算して)得ておくことが極めて大切な作業なのである.
 例えば,心不全の患者では循環血漿量が増加しているので,体重あたりの分布体積は増大するし,肥満者では,体重あたりの分布体積を下方修正しなくてはならない.また,(当然のことながら)臓器の機能が低下しているのであれば(例;肝不全,腎不全),半減期は延長することが多いが,どの程度延長しているのかについては,(TDMを行わずに)事前に知ることができない.また,薬剤を投与してから血中濃度がピークに達するまでの時間が遅れていたり,半減期の延長が認められた患者の場合には,(他の検査で突き止められていなくとも)薬剤の吸収・分布過程,あるいは臓器の機能に異常がある可能性があり,これに気づかないと用量を誤ることがある.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

子宮頸部(4) HPV感染の細胞診

著者: 都竹正文 ,   手島英雄

ページ範囲:P.1446 - P.1447

はじめに
 HPV(human papilloma virus;ヒト乳頭腫ウイルス)が子宮頸癌の発癌過程に深く関与していることは,今日広く受け入れられている.特に前癌病変においては,細胞診でHPV感染を診断することが可能である.koilocyte,parakeratocyte(dyskeratocyte),smudged nucleus,giantcell,2核あるいは多核細胞の出現をもって細胞診断がなされている.
 HPVにはおよそ90種類があり,うち子宮頸癌と特に関係があるとされるタイプは16,18,33,52,58型であり,これらのタイプが前癌病変で確認された場合は厳密な臨床管理,フォローアップが必要である.HPVは前癌病変の90〜95%に確認されている.尖形コンジローマからはHPV6,11型が確認されているが,このタイプのHPV型は発癌には関与しないとされている.図1に見られる腟壁の白色の隆起性病変(←①)および子宮腟部の白色上皮層(←②)が尖形コンジローマの病変で,いわゆるSTD(sexulally transmitted disease;性行為感染症)として臨床的に扱われる.この病変からは癌化しない.治療はレーザー蒸散術,凍結療法や抗DNA療法などが考慮される.

血液 骨髄塗抹標本の見かた

骨髄細胞密度の評価(低形成・正形成・過形成)

著者: 西村敏治 ,   松谷章司

ページ範囲:P.1448 - P.1451

はじめに
 骨髄は全身に分散し,全重量1,600〜3,700g1)(体重の約5%に相当)の臓器である.骨髄組織は造血系細胞,脂肪細胞,血管,神経,網内系細胞などから構成されている.通常は約1/2が造血細胞で占められている(年齢,部位,栄養状態によって異なる).需要に相応して骨髄内の造血能力は5〜10倍にもなるといわれている1).顆粒球系や赤芽球系の構成比も種々の病態で変化し,また白血病細胞など腫瘍性細胞により置換され,本来の造血系が低形成性となることがある.
 造血系細胞には顆粒球,赤芽球,巨核球の3系統があり,顆粒球系や赤芽球系は血球同士が比較的集団をつくる形で分布している.赤芽球はマクロファージを中心に特に密な小集団(赤芽球島)を形成する傾向にある.

微生物 細菌培養陰性例への対応

結膜炎の微生物検査(1)

著者: 大石正夫

ページ範囲:P.1452 - P.1453

症例
 24歳,女性.2〜3日前より左目に異物感と流涙が始まり,充血も出現した.眼脂はほとんどなぐ,瘙痒感もない.眼瞼の腫脹と熱感も現れたので眼科を受診した.
 眼瞼結膜には充血と濾胞が認められ,球結膜充血も見られた.

生化学 精査と治療に生かす検査データ

前立腺癌

著者: 飯泉達夫

ページ範囲:P.1454 - P.1456

はじめに
 前立腺癌は欧米においては男性の癌死の原因の第1位または2位を占める最も問題とされる癌の1つである.わが国においては,その発生数は欧米の1/4〜1/3とされているが,高齢化とともに前立腺癌患者の発生数は増加しており,増加率は固形腫瘍の中で第1位である.したがって,前立腺癌の早期診断および治療の方法は今後臨床においてその重要性を増すものと思われる.

トピックス

血球計数検査の臨床的許容限界

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.1473 - P.1478

はじめに
 末梢血血球計数の測定はCBC(complete blood cellcount)と呼ばれ,血液疾患をはじめ健康診断でも行われる血液検査の代表的な基本的検査である.白血球数(WBC)・赤血球数(RBC)・血小板数(PLT)などの血球数のほかに,ヘモグロビン濃度(Hb)・ヘマトクリット(Ht)・赤血球恒数(MCV・MCH・MCHC)など13項目以上を30秒から1分間という短時間で測定可能である.近年,CBCと同時に白血球百分率(5分画;DIFF)と網赤血球(RET)も同時に測定可能な多項目自動血球計数器も開発されている.
 CBCは基本的な検査であるので,どこでも,いつでも同じような検査結果が得られるような精度管理や標準化の設定が重要である.また,未梢血に出現している血球を測定するという生血を調べる検査のために保存がきかず,その正確性・精密性には即時性が要求される.

MRSA陽性患者の取り扱いかた

著者: 奥住捷子 ,   米山彰子

ページ範囲:P.1478 - P.1480

はじめに
 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococcus;VRE),緑膿菌などの多剤耐性菌は,健康な人に付着してもほとんどの場合病原性を示さない.しかし,易感染患者が感染すると有効な薬剤が少ないので注意が必要であるといわれている.MRSAが検出される症例は,①MRSAを検出し本菌による感染症を発症している患者(いわゆるMRSA感染患者),②MRSAがいずれかの部位から検出されるが感染症を発症していないMRSA排菌患者(いわゆるMRSA保菌患者),そして③MRSAの保菌職員に分類される.
 MRSAの感染経路は一般的に接触感染である.患者の検査材料から検出されるのは呼吸器系検体,特に喀痰からが多く,医療従事者の保菌部位は鼻腔や咽頭に多く,手あれなど皮膚に炎症のない場合に一過性の付着として手指にも見られる.そのため,感染防止の基本は,手洗いが肝要とされており,感染の媒介者とならないよう手洗いや手掌の消毒などが推奨されている.感染防止は,多くのヒトが正しい認識を持って対処していても,たった1人の不注意で感染が拡大し破綻することがある.

胆石は予防できるか

著者: 大久保昭行

ページ範囲:P.1480 - P.1481

わが国の胆石の疫学
 胆石の発生には,遺伝因子のほかに,生活習慣が大きく影響する.
 日本人の胆石も最近の生活習慣の変化を反映して,コレステロール結石が半数以上を占めるようになった.厚生省の国民生活基礎調査によると,わが国の胆石保有表数は,1979年は390万人,1983年は680万人,1984年は875万人,1990年は980万人に増加し,1993年以降は1,000万人を超えたと推定される.

動脈硬化とクラミジア

著者: 尾内一信

ページ範囲:P.1481 - P.1483

はじめに
 現在,ヒトに感染し,病気を起こすクラミジアとしてはChlamydia trachomatis, C.psittaci,そしてC.pneumoniaeの3種類が知られている(図).今回話題となるクラミジアは,このうちのC.pneumoniaeである.C.pneumoniaeは1985年頃からヒトの呼吸器感染症の起因菌として報告され始め,その後世界中で呼吸器感染症の重要な起因菌として認められ現在に至っている.
 さて,動脈硬化症との関連については,1988年,Saikkuら1)が虚血性心疾患と本菌抗体保有との関連を報告して以来,虚血性心疾患との関連についても注目されている.動脈硬化症のリスクファクターとして喫煙,高血圧,糖尿病,高脂血症が有名である.しかし,心筋梗塞患者の約30%はこのようなリスクファクターを持ち合わせていないのである.往年の黒人プロテニスプレーヤーのアッシュ選手も,冠動脈バイパス手術の輸血時に感染したエイズで死亡したが,彼は運動もよくし,高脂血症や喫煙などリスクファクターを何ひとつ持っていなかった.したがって,C.pneumoniaeが新しいリスクファクターとなる可能性も十分考えられる.

今月の表紙

扁平上皮(良性異型)

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1414 - P.1414

 症例:婦人科,50歳,女性.
 診断:子宮頸部癌,放射線療法中.

検査じょうほう室 輸血:輸血検査と血液型の謎

不規則抗体って何?

著者: 鈴木由美

ページ範囲:P.1462 - P.1463

はじめに
 不規則抗体とは,赤血球抗原に対する同種抗体のことで,なぜ不規則かというと,Landsteinerの法則によるABO血液型に対する抗Aあるいは抗B抗体(免疫グロブリンクラスは主にIgM)を規則抗体と呼び,それ以外の血液型抗原に対する同種抗体を不規則抗体としているからである.
 不規則抗体には,主に輸血歴や妊娠歴の既往のある人から検出される免疫抗体と,なんら明らかな免疫刺激のない人から検出される自然抗体とがある.

寄生虫:寄生虫は面白い

パラサイト・シングル

著者: 赤尾信吉

ページ範囲:P.1464 - P.1465

はじめに
 紀元2000年ともなり,若い世代では多様な生活現象が見られる.パラサイト・シングル,パラパラなどの言葉が誌上に見られる.

けんさ質問箱

Q 甲状腺ホルモン関連検査の不一致例

著者: 小林功 ,   桑原敦志 ,   E.K.

ページ範囲:P.1469 - P.1471

 甲状膜ホルモン関連検査でTSH感度以下,FT3高値,T3高値,FT4感度以下という検査結果が出てきました(ダイナボットマキシムによる測定).このようなデータを示すことがありうるのでしょうか.それとも検査上の間違いなのでしょうか.もし検査上の間違いであれば,どのような原因が考えられるでしょうか。

Q 詐聴を疑う患者のみわけかた

著者: 石神寛通 ,   Y.K.

ページ範囲:P.1471 - P.1472

 聴力検査では聞えるのに聞こえないといったり,その逆の場合,すなわち詐聴を示す患者さんがときどきみられます.詐聴をみわけるにはどのようにすればいいのでしょうか.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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