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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術28巻4号

2000年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

結核

著者: 山岸文雄

ページ範囲:P.320 - P.324

新しい知見
 結核の感染は,結核菌を排菌している患者が,咳やくしゃみで飛散した飛沫の中に含まれている結核菌を別の人が吸入することにより生じる.液体成分は速やかに蒸発し,飛沫の核となっていた結核菌だけが残り軽くなるため,なかなか落下せずに空中に浮遊する.これを吸入して感染する.結核感染は,以前は“飛沫感染”と表現されていたが,液体成分を含むものでは落下速度も速く,また大きすぎるため肺胞まで到達できない.水分が蒸発し,結核菌だけとなったものを吸入することにより感染が生じるので,“飛沫核感染”あるいは“空気感染”と呼ばれている.

技術講座 生理

頸動脈超音波断層検査法

著者: 加藤健 ,   水野兼志

ページ範囲:P.327 - P.330

新しい知見
 頸動脈Bモードエコー法は脳血管疾患の病型診断,治療法の選択,ならびに予後の推定に用いられており,脳における血管障害の指標として有用である.このうち,内膜中膜複合体厚(intima-media complex thickness;IMT)は最近の研究では高脂血症,冠動脈疾患の重症度との関連も報告され,全身の動脈硬化の進展度を把握するうえで重要である.また2型糖尿症でも有意に肥厚し,その年齢より20歳以上の健常者と同程度と報告されるばかりでなく,糖尿病より軽症の糖負荷試験境界型であっても,高インスリン血症を有する者ではIMTがすでに糖尿病患者と同程度の肥厚を有することが明らかにされており,高血糖以外の動脈硬化危険因子の存在が指摘されている.
 このように,この数年の間に頸動脈Bモードエコー法を用いた臨床研究の結果,次々に新知見が報告され,IMTの測定は動脈硬化の発症,進展原因を疫学的側面から解明するうえで極めて信頼性が高いことが再認識されつつある.

生化学

尿中微量蛋白の測定法

著者: 岡田茂 ,   中村利弘 ,   星野忠

ページ範囲:P.331 - P.337

新しい知見
 尿中微集アルブミンや尿中微量トランスフェリンの測定は主に糖尿病性腎症の早期発見や病期の鑑別,予後推定の指標として利用されている.また,尿中α1-ミクログロブリンや尿中β2-ミクログロブリンの測定は尿細管障害を把握するために利用され,これら尿中微量蛋白を組み合わせて測定することが腎機能障害の程度を知る指標として臨床的に不可欠となっている.
 測定法に関しては,従来RIA法により測定されてきたが,近年の免疫化学的分析法および自動分析機器の目覚ましい進歩により尿中微量蛋白の測定も可能となった.

病理

凍結標本作製法—術中凍結標本の作製と応用

著者: 篠田宏 ,   桑尾定仁 ,   岡安勲

ページ範囲:P.339 - P.347

新しい知見
 術中凍結切片による迅速病理組織診断は,ほとんどの場合,ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色のみで行われてきたが,近年では,より精度の高い迅速病理診断に対応するために特殊染色および免疫染色の併用が盛んに行われてきている.これはクリオスタットの全体的な性能の向上によるものである.迅速診断の件数増加に伴って,また新たな問題もクローズアップされてきた.すなわち“バイオハザード”である.手術中の迅速検体にはウイルス性肝炎などの感染を合併している場合も多いことより,常にバイオハザードに対する防止対策をたてておく必要性が生じてきた.
 近年のクリオスタットには,バイオハザード対策が施された機種があり,紫外線ランプによる照射,消毒液(ホルマリン,グルタールアルデヒドなど)による噴霧,洗浄などの機能を持たせている.ただし,バイオハザードに対する基本思想は,作業後の消毒であるので,標本作製中の事故および感染防止については,検査技師みずからが対応しなくてはならない.

一般

一般検査における髄液細胞の見かた

著者: 大田喜孝

ページ範囲:P.349 - P.357

新しい知見
 中枢神経系感染症の中でも細菌性髄膜炎はかつて予後不良の疾患とされ,大量の抗生剤投与で細菌を死滅させているにもかかわらず,その約30%が死に至り,生存しても約半数に聴力障害や麻痺などのなんらかの後遺症を残していた.1988年,Tuomanen1)は抗生剤による病原細菌の破壊が脳に強い炎症をもたらすことを見いだした.すなわち,抗生剤で粉々になった大量の細菌断片で免疫系が混乱に陥り,多量の炎症性サイトカインが放出されるとともに,おびただしい数の白血球が脳脊髄液腔に呼び寄せられ,脳に侵入しようとする.その結果として血液脳関門は壊れ,脳は激しい炎症を起こして膨張するというものである.1990年以降,米国で小児の細菌性髄膜炎に対し抗生剤とステロイド系抗炎症剤の併用投与が開始されるとともに死亡率は5%に低下し,後遺症も劇的に減少した.このように,髄膜炎発症のメカニズムとその治療法が確立されつつある現在,重要となるのは,いかに早期に発見し,早期に治療を開始するかである.中枢神経系感染症診断のために,まず取りかかりとして実施される髄液一般検査の果たす役割は極めて大きい.

絵で見る免疫学 基礎編・4

細胞性免疫と体液性免疫—TH1/TH2とサイトカインの相互作用

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.358 - P.359

サイトカイン
 サイトカイン(cytokine)とは,好中球,好塩基球,好酸球,マクロファージ,T細胞,B細胞など免疫反応に関連する細胞から分泌され,これらリンパ球の増殖と分化を互いに調節し合う可溶性低分子最蛋白質である.ここで述べるのは,インターロイキン(interleukin;IL),インターフェロン(IFN)と,腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor;TNF)である.

日常染色法ガイダンス 生体色素の日常染色法—ホルマリン色素の証明

漂白法—ベロケイ法・カルダセウィッチ法

著者: 清水幹雄 ,   清水道生

ページ範囲:P.363 - P.365

目的
 固定液の特徴として,酸性固定液は核あるいは線維成分の固定によいが,細胞質成分の固定には悪く,塩基性固定液はほぼその逆といわれる.日常使用される固定液としては,特殊な目的以外はpH3〜5の酸性ホルマリンが多い.
 血液の多い脾臓,肝臓,骨髄あるいは出血巣の著明な組織を酸性ホルマリンで固定すると,ホルマリン色素と呼ばれる褐色ないしは黒褐色の微細な菱形の結晶または結晶様顆粒が細胞の内外に見られる.これは組織内に溶解しているヘモグロビンと作用してできたメトヘモグロビン(ヘマチン)と考えられている.

金属・無機物の日常染色法—銅の染色法

パラジメチルアミノベンチリデンロダニン法

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.366 - P.367

目的
 本法は銅染色の中でも好成績を示す方法の1つであり,パラジメチルアミノベンチリデンロダニン(p-dimethylamino-benzylidenerhodanine)と銅が結合し,呈色反応を示す.しかし,酸性溶液中で,銅,銀,水銀,金,白金,パラジウムと反応し,アルカリ溶液中ではほとんどの重金属と反応するとされている.このため,他の重金属の染色法も必要に応じて鑑別に用いるべきである.
 通常,人体においては全身に微量の銅が存在し,特に脳,肝,腎に多い.また,胎児や新生児などの肝臓にも多量に含まれている.

検査データを考える

血清鉄と血清鉄結合能

著者: 高後裕 ,   鳥本悦宏

ページ範囲:P.389 - P.393

はじめに
 血清鉄と血清鉄結合能は,日常汎用されている鉄代謝関連の検査項目で,貧血の鑑別診断や鉄過剰症が考えられる際に行われる検査である.

臨床検査に必要な統計処理法・4

患者試料を用いた分析法問比較による正確さの評価—相関性試験に伴う統計的諸問題と対処法

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.395 - P.399

はじめに
 多数の患者試料を用いた2種類の分析法間の相関性試験は,正確さを総合的に評価するための手段として広く実施されている.相関性試験の内容は,統計学的に2変量データへの回帰分析の適用であるが,実際に取り扱うデータは統計学的な前提を必ずしも満足するものではない.実はこのことが,不適切な統計手法の適用や誤った結果の解釈など,実践の場における少なからぬ混乱の原因となっている.ここでは,それらの問題点を整理するとともに対処法について考察する.

ラボクイズ

問題:腹部超音波【5】

ページ範囲:P.378 - P.378

3月号の解答と解説

ページ範囲:P.379 - P.379

オピニオン

臨床検査の今,何が大切か

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.325 - P.325

 臨床検査が医学の中の重要な一部門として参画してから今日まで大きな進展を遂げてさたことは疑いありません.しかし,同時に近年,この分野をめぐる環境の変化によって,極めて不透明かつ厳しい状況に置かれつつあることも関係者にはひしひしと感じられるところです.
 さて,客観的にその事態を分析すると,一昔または二昔前と比べて,構成人員は数も増えましたが,粒も揃ってきたと見て間違いありません.それでも昔に比べてどうも威勢がよくないのは,外圧が厳しくなったばかりでもないようです.活性低下の理由は種々あるでしょうが,ある程度把握し考えたうえで対処していかなければなりません.

けんさアラカルト

臨床検査技師の教育のありかた

著者: 佐川輝高

ページ範囲:P.362 - P.362

はじめに
 医療における制度改革,教育における高等教育改革,2つの潮流の中で臨床検査技師教育においても待望のカリキュラム改正が行われることとなりました.今回のカリキュラム改正では,医療・検査技術の急速な発展に対応するとともに,規制緩和という方向づけのもとに“大綱化”が行われることとなります.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

子宮頸部(1) 正常組織・細胞

著者: 都竹正文 ,   手島英雄

ページ範囲:P.368 - P.369

子宮腟部のコルポ像(図2)
 コルポスコープ(子宮腟部拡大鏡,図1)を用いた正常子宮腟部像である.肉眼的に中心部は赤く見え(矢印①),外側は白く見える(矢印②).赤く見える部分を子宮腟部ビランと表現するが,粘膜が欠損する“真のビラン”ではなく,1層の高円柱上皮で被覆されているためにビラン様に赤く見える“偽ビラン”である.
 外側は重層扁平上皮で構成されるために白く見える.両者の境界部分を移行帯(transformation zone)と呼び,扁平上皮化生(squamous metaplasia)が生ずる部分である(矢印③).

微生物 細菌培養陰性例への対応

下痢症の微生物検査

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.370 - P.371

症例
 23歳の男性,大学生.既往歴に特記すべきものはない.3週間インドを旅行し,2日前に日本に帰国した.帰国後より,下痢(水様性),発熱(38.2℃),激しい腹痛が出現したため外来を受診した.初診時の検査は末梢血白血球数10,700/μ1,CRP2.5mg/dlの異常値を認めたが,肝機能・腎機能はすべて基準範囲内であった.便潜血反応は陰性であった.初診時に提出された便培養では有意な腸管感染菌は検出されなかった.インド旅行中にも数回下痢が見られ,持参した抗菌薬をときどき内服していたとのことである.

血液 骨髄塗抹標本の見かた

骨髄液中に見られる正常細胞・1 顆粒球系細胞

著者: 大畑雅彦

ページ範囲:P.372 - P.375

はじめに
 顆粒球系細胞1〜5)判別のポイントは,細胞質顆粒の特徴と核構造およびその形状である.成熟段階順に典型的な細胞像の特徴を概説するが,成熟は連続的であり,移行形の細胞も存在することは念頭に置く必要がある.
 図1は好中球系細胞の成熟と形態学的特徴をイラストにまとめたものである.

トピックス

臨床に役だつ遺伝子検査

著者: 上野一郎 ,   宮西節子 ,   柴田宏 ,   亀子光明

ページ範囲:P.401 - P.407

はじめに
 遺伝子は生物界において物質の合成,修飾,輸送,代謝などに関与する蛋白質を制御している根源的な物質であると同時に,ときには変異を伴いながら次世代に伝播される性質を持った物質である.全世界的規模で進められているゲノムプロジェクトは,2003年にヒト遺伝子(約30億塩基対)について全塩基配列の解読を完了し,今後,疾患と責任遺伝子との照合,遺伝子の変異や多型,機能に関する研究に焦点が移されていくと考えられる.医学はこうした進歩の恩恵をいち早く受け,感染症,遺伝病,腫瘍など広範多岐にわたる遺伝子検査が,パワフルな臨床診断の1つとして臨床検査室に登場してきた.しかし,遺伝病などの遺伝子検査は病因に直結するものであり,得られた情報は本人のみならず親,兄弟,親類にまで影響を与えるため,一方では遺伝医学に関する正しい知識の普及とプライバシー保護の確立が強く求められている.
 遺伝子検査は年々技術革新を見ているが,各詳細はそれぞれの専門書に譲ることにし,本稿では,臨床診断に役だち,現在注目されている遺伝子検査とその留意点について簡単に紹介する.

わが国におけるクラミジア・トラコマチス感染症

著者: 廣瀬崇興

ページ範囲:P.407 - P.413

はじめに
 クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)感染症は性的接触により伝播して感染する性感染症(sexually transmitted diseases;STD)の代表的な疾患である.本稿では,わが国のそれに関する疫学および臨床などと,特に検査法を中心に概説する.

輸血と高カリウム血症

著者: 伏見了 ,   高階雅紀

ページ範囲:P.413 - P.415

はじめに
 外傷および手術などにより出血し,ヘモグロビン濃度が低下した場合に輸血が必要となる(通常はヘモグロビン濃度7.0g/dlが目安).輸血用血液製剤は日本赤十字社から医療機関に供給されるが,1994年の赤血球製剤の供給量は約120万lにも及んでいる1)(図1).このように輸血はかなり一般的な医療行為であるが,1996年4月と12月に日本赤十字社から輸血の適応を厳密にすること,赤血球製剤に対し放射線照射をすること,あらかじめ予定された手術においては自己血輸血の実施も考慮することを明記した「輸血用血液による輸血後移植片対宿主病(GVHD;graft versushost disease)について」の緊急安全性情報が発表された(No.96-01,No.96-5-2).
 GVHDとは赤血球製剤中にわずかながら混入しているリンパ球が受血者の身体組織を攻撃するもので,輸血1〜2週間後に発熱,紅斑が出現し,肝臓障害,下痢などの症状が続き,最終的には汎血球減少症を呈し,ほとんど致死的な経過をたどるものである2).わが国においては1993〜1996年の3年間に放射線未照射赤血球製剤の輸血によりGVHDの発症が38例報告されている(緊急安全性情報No.96-5-2).

今月の表紙

ガラス円柱[2]

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.326 - P.326

症例:外科,48歳,男性
診断:食道癌術後

けんさ質問箱

Q 疥癬の検査法

著者: 大滝倫子 ,   N.Y.

ページ範囲:P.380 - P.382

 当院は253床の老人病院です.従来より疥癬疑いの患者さんの鏡検をKOH法で行っています.最近,検体の採取を含めての検査を依頼されることが増えてきました.検体の採取法,鏡検法についてご教示ください.

Q 末梢血液像で好酸球高値の場合のアルカリホスファターゼ染色

著者: 桑島実 ,   T.I.

ページ範囲:P.382 - P.383

26歳,女性.白血球数15,000/μ1,LDH713IU/l,ヘモグロビン11.0g/dl,血小板数22万/μ1で,好中球アルカリホスファターゼ染色のオーダーがありました.しかし,血液像で好酸球が57%と増加しており(分葉核球17%,リンパ球22.0%,単球3%,好塩基球0.5%),アルカリホスファターゼ染色で好酸球と好中球の区別がつきません.桿状核球と分葉核球(アルカリホスファターゼ陰性の)を全部カウントし,好酸球と好中球の比率から補正してデータとしましたが,NAPスコア101,陽性率51%と低値を示しました.このような方法でいいのでしょうか.好中球が低値の場合はアルカリホスファターゼ染色の目的から考えると,この検査を行う意義はないのでしょうか.

検査じょうほう室 一般:一般検査のミステリー

赤痢アメーバ—出逢いと再会

著者: 田中浩平

ページ範囲:P.384 - P.385

 赤痢アメーバ症は,これまで細菌性赤痢とともに法定伝染病に指定されていたが,昨年4月1日の感染症新法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)の施行により,一般の医療機関で治療を行う4類感染症となり,細菌性赤痢(2類感染症)とは区別されることになった.
 赤痢アメーバ症は人獣共通寄生虫症であり,またランブル鞭毛虫症などとともに男性同性愛者に多い性行為感染症(STD)としても知られている.今回,筆者が経験した2例の赤痢アメーバ症について“出逢いと再会”と題し紹介する.

輸血:輸血検査と血液型の謎

血液型の抗原活性に影響を及ぼす因子

著者: 永尾暢夫

ページ範囲:P.386 - P.387

はじめに
 LandsteinerがABO血液型を発見して以来,血液型の判定には既知の抗体と被検血球を反応させる血清学的方法が広く用いられてきた.その方法で調べる血液型の抗原活性は,同じロットの抗体を用いても,被検者により異なることがある.その原因には,遺伝子の量効果(dosage effects)と位置効果(position effects),あるいは被検者の年齢などが考えられている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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