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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術28巻6号

2000年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 倉田義之

ページ範囲:P.520 - P.523

新しい知見
 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)診断に現在しばしば用いられているPAIgG測定法は,感度,特異性とも低く,ITPの診断には使えない.そのため,ITPを特異的に診断する検査法の開発が待たれていた.最近開発された網状血小板(RP)測定法は血小板の動態を解析するうえで非常に有用な検査法である。血小板減少を示すITPや再生不良性貧血(AA)でRPを測定すると,ITPでは非常に高値,AAでは正常範囲と明瞭に両疾患を区別することができる.また血中のトロンボポエチン(TPO)を測定してみると,逆にAAで非常に高値,ITPでは正常よりやや高い程度という成績が得られる.RPとTPO両測定法のITPやAA診断における感度,特異性はいずれも80%以上と満足すべきものである.このことより,RPとTPOを同時に測定するとITPとAAの鑑別は非常に容易かつ正確となる.

技術講座 生化学

尿ステロイド一斉分析によるステロイド代謝異常症の検出

著者: 本間桂子

ページ範囲:P.525 - P.532

新しい知見
 尿ステロイド一斉分析は,ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)により多数の尿中ステロイド代謝物を一度に分析する方法で,種々のステロイド代謝異常症の診断に有用であることが知られている.近年,汎用型GCMSの普及により,本法を日常検査に取り入れることが可能となった.著者らは,欧米でよく用いられているスキャン法ではなく,より感度に優れる選択的イオンモニタリング法を用いた尿ステロイド(69種)一斉分析法を確立し,血中ステロイド測定のみでは診断困難な新生児21-hydroxylase欠損症や副腎腫瘍の症例について,本法により確定診断可能であることを確認した.

一般

尿中成分排泄量の測定

著者: 渡辺信子

ページ範囲:P.533 - P.537

新しい知見
 最近,自動分析機の性能が向上し,普及してきたこと,バーコードラベルを使用したサンプリングシステムが取り入れられるようになったことで,件数の多くない尿中成分測定の自動化も急速に発展している.
 シングルマルチ式の汎用型自動分析機は多項目同時測定が可能である.そのため,緊急対応にも適しており,使用法の工夫で1台の装置で血清と尿の測定が可能であることなどの利点がある.

免疫

c-erb B-2の測定と臨床病理学的意義

著者: 木藤孝 ,   菅野康吉

ページ範囲:P.539 - P.542

新しい知見
 ヒト化した抗ErbB-2モノクローナル抗体が乳癌の治療薬として最近欧米で相次いで承認されており,近い将来,わが国でも臨床応用されると思われる.この治療薬はc-erbB-2が過剰発現している進行再発乳癌患者に対するものであるため,c-erbB-2測定検査はこの治療対象を決定するうえで,必要不可欠とされている.

検査データを考える

尿蛋白

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.555 - P.558

はじめに
 免疫グロブリンは抗体であり,その基本構造は重鎖(heavy chain)と軽鎖(light chain)が1対ずつ結合した二量体から成る(図1).重鎖はγ,α,μ,δ,εの5つのクラスに,一方軽鎖はκ,λの2つのタイプからなる.重鎖と軽鎖とのN末端110アミノ酸残基は可変部と呼ばれ,複雑な抗原構造に応じてアミノ酸配列を変えて,1対1に抗原に特異的に結合し除去,処理して生体の恒常性を維持している.言い換えれば,無数の可変部の異なる抗体がこれと対応する産生細胞(多クローン)から分泌されており,この理由から電気泳動上γ分画が幅広い不均一な荷電のピークとして観察される.
 多発性骨髄腫,原発性マクログロブリン血症(クラスはIgM),リンパ腫など,免疫グロブリン産生細胞が腫瘍性に増殖すると,可変部の構造が均一な成分が産生され,電気泳動上γ分画を中心に,シャープなピークとして観察される.単一のクローンから産生されていることから,これをモノクローナル蛋白(M蛋白)と呼んでいる.

臨床検査に必要な統計処理法・6

測定誤差の分類と測定値の統計学的扱い—測定誤差を適正に評価し制御するために

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.559 - P.562

はじめに
 施設内精度管理(IQC)や施設問精度評価(EQA)の目的は,管理試料や患者検体の測定値から分析法の状態を推測し,無視できない測定誤差を制御することである.また,分析法の精密さ・正確さ評価の目的は,同様の測定値から信頼性に関する性能を客観的に知ることである.両者とも具体的な対象は目的成分の測定に伴う誤差であり,計測論の立場から測定誤差の概念を明確にしておくことが重要となる.ここでは,定量検査における測定誤差と誤差要因を分類し,精度管理や性能評価を実践するうえで基本となる統計的な考えかたを整理する.

日常染色法ガイダンス 中枢神経系の日常染色法—神経原線維およびその突起の染色法

ボディアン染色(神経原線維染色)

著者: 石塚裕子 ,   小川浩美

ページ範囲:P.543 - P.546

はじめに
 神経細胞は細胞体(核周部)とこれから出る突起とからなる.細胞体内には通常1個の細胞核と,一般細胞に見られるような種々の形質が含まれている.神経細胞には,これらの一般的構造のほかに,細胞形質の中に神経細胞の持つ特異的構造として挙げられる2つの要素,すなわちNiss1物質と神経原線維が含まれている.

絵で見る免疫学 基礎編・6

免疫グロブリンの種類と機能(2) 抗体の機能

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.548 - P.549

 抗体はFc部分の構造の違いで5つのアイソタイプ(isotype),すなわちIgM,IgA,IgD,IgG,IgEに分類され,各々は独自の機能を持っている.

ラボクイズ

問題:筋電図・神経伝導検査【3】

ページ範囲:P.550 - P.550

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.551 - P.551

オピニオン

大転換期にある院内検査室

著者: 青木哲雄

ページ範囲:P.524 - P.524

 病院には臨床検査室があって,臨床検査を行うことは当然の姿であった.それが,この頃様子が変わってきている.ブランチ・ラボ,FMS,協同事業運営方式,試薬リース,全面外注検査等々,アウトソーシングの波が姿を変えつつ迫っている.アウトソーシングは避けて通れるものでなく既成の事実となり,検体検査はこれをうまく活用すべきとの考えかたが強い.最近では,外部委託ができる業務については法律での規制でなく,省令での規制に緩和しようとのことで,病院における臨床検査室の必置義務を格下げしようとした動き,また改正労働者派遣法の施行により,検体検査の実施に向けての臨床検査技師の派遣は可能との動きがある.これらは関係団体が反対をしており,アウトソーシングが経済効果をねらっての導入に走り過ぎていることと合わせると,誰もが行く先を懸念しているところである.本来,アウトソーシングは自施設で持ち合わせない専門性を契約のもとで効果的に活用するものであると考える.
 さて,これらの波にどのように乗って,院内検査室をどのように変えていくか,これは言われて行うものてなく,自分たちが先行して取り組んでいくべきものと考える.

けんさアラカルト

CLEIA法によるインスリン定量法

著者: 金子礼子 ,   渡辺直樹

ページ範囲:P.547 - P.547

 これまで血中インスリン濃度は,RIA(radio immunoassay)やEIA(enzyme immunoassay)で測定されてきたが,最近,感度の上昇や測定時間の短縮を目的に,化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescentenzyme immunoassay:CLEIA)が開発された.本法では,化学発光を検出系に用いており,測光部分はフォトカウンターだけの簡略な構造となっている.そのため,比色法のような光源が不要であり,迷光やノイズの影響が少なく,高感度かっ迅速な測定が可能となる.
 筆者らが基礎的検討を行ったアルカリホスファターゼを標識酵素として用いたCLEIAでも,再現性,希釈直線性,検出感度および従来法(EIA)との相関性に関し,良好な結果が得られた1).特に,検出感度は従来法に比べ約100倍向上していた.しかし,その際問題となったのは,メーカー側の基礎データでは血清,血漿の両者で測定可能とされているにもかかわらず,血漿での測定値が血清のそれに比べ低値を示した点である(図).これまでも,標識酵素にアルカリホスファターゼなどの金属酵素を用いた場合には,抗凝固剤であるEDTAが阻害作用を示すことが知られている2).しかし,EDTA濃度と,アルカリホスファターゼに対する阻害作用との関係に関しては,いまだ不明な点が少なくない.

トピックス

ノーウォークウイルスとサッポロウイルス

著者: 中田修二

ページ範囲:P.564 - P.567

はじめに
 ノーウォークウイルス(Norwalk virus;NV)とサッポロウイルス(Sapporo virus;SV)はヒトに急性胃腸炎を引き起こすウイルスの1つである.これまで“ヒトカリシウイルス”と呼ばれてきた一群のウイルスは,新しい国際分類によりNVおよびSVと呼ばれることとなった.歴史的に見ると,かつてはその検出頻度は低く,また臨床的重要性もそれほど高くないと考えられてきた.しかし,近年,検出法として感度の高い分子生物学的手法が導入されたことにより,医療レベルのみならず,公衆衛生レベルでの重要性が明らかとなってきた.
 本稿では,NVとSVに関するウイルス学的特徴,新しい国際分類,臨床的特徴および最近の診断法について解説する.

CPT(電流感覚閾値)検査法

著者: 藤田志保 ,   山本纊子

ページ範囲:P.567 - P.569

はじめに
 ヒトの体性感覚には触覚,温度覚,痛覚,圧覚,深部感覚などがある.これらにはそれぞれ感覚受容器があり,そこには脊髄後根神経節内に存在する双極細胞の末梢端が分布している.双極細胞の中枢側は後根より脊髄に達し,それぞれの感覚系はその後2つの神経細胞を経て中心後回に達する.そして,中心後回の感覚野において認知が行われる.
 この中枢に走行していく末梢神経の種類には,直径が5〜15μmの太さで伝達速度が30〜50m/secの速さの神経線維であるAβ線維と,伝導速度が12〜30m/secと少し遅く,直径も1〜5μmと細いAδ線維,さらに伝導速度が0.1〜2.5m/secと非常に遅く,直径も0.4〜1.5μmの細いC線維とがある1).Aβ線維は有髄神経であり,触覚,圧覚をつかさどり,Aδ線維も有髄神経であり,温覚や痛覚(速い)をつかさどる.また,C線維は無髄神経であり,痛覚をつかさどっている(表).

日本検査血液学会発足

著者: 巽典之

ページ範囲:P.570 - P.571

 本学会(The Japanese Society for LaboratoryHematology,略称:JSLH)は血液検査学に関する研究の進歩・発展を図ることを目的として結成されたものであり,学術集会の開催・会誌発行・講習会などの学術活動や血液検査の標準化などを当面の事業としている(図).
 本学会が結成された背景としては,米国を中心とした国際検査血液学会,欧州を中心とした欧州検査血液学会があり,アジアに同様の組織が求められていたことがある.それらの学会は,それぞれ“LaboratoryHematology”,“J Clin Lab Hematol”といった定期学術刊行物を発行している.他方,臨床病理学という検査を総括できる分野はあるものの,それに飽きたらず専門性を尊重した学会,例えば臨床化学会,臨床微生物学会,臨床細胞学会,臨床生理学会などがあることから,血液検査を重点的に討論する場を持ちたいとの要望が多く寄せられていたことも設立の契機となっている.このことから,日本臨床病理学会血液専門部会および日本臨床衛生検査技師会血液班の方々が中心となり,約3年の準備の後,設立に至った経緯がある.慶應義塾大学川合陽子先生が設立までに非常な努力されたことは特筆に値する.

今月の表紙

ガラス円柱[3]

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.537 - P.537

症例:整形外科,60歳,男性
診断:リウマチ性関節炎,慢性腎炎,慢性腎不全(非透析状態)

けんさ質問箱

Q 尿検査に用いる防腐剤

著者: 松田儀一 ,  

ページ範囲:P.572 - P.573

 尿糖,尿蛋白,C-ペプチド,微量アルブミンなどの検査に影響のない防腐剤についてご教示ください.現在までは尿は冷暗所に保存していますが,尿糖は低下していると思われます.

Q シッフ液の廃棄法

著者: 斉藤信昭 ,   A.O.

ページ範囲:P.574 - P.575

 病理でPAS染色を行うときに使用するシッフ液はどのように廃棄したらいいのでしょう.他の施設での現状も併せてご紹介ください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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