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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術29巻1号

2001年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

全身性炎症反応症候群(SIRS)

著者: 平山陽 ,   平澤博之 ,   松田兼一

ページ範囲:P.6 - P.10

新しい知見
 生体が侵襲を受けそれに対する反応として腫瘍壊死因子(TNF),インターロイキン-1(IL-1),IL-6などの炎症性サイトカイン(inflammatory cytokine)が産生され,それらが吸収され全身を循環し,炎症反応を引き起こしている状態が全身性炎症反応症候群(SIRS)である.SIRS状態の生体は一方でそれに相対する反応としてIL-1 receptor antagonist(IL-1 ra),IL-4,IL-10などの抗炎症性サイトカイン(anti-inflammatory cytokine)を産生してバランスを保ち,生体のホメオスターシスを維持しようとする.この反応をSIRSに対して,compensatory anti-inflammatory response syndrome(CARS)と呼ぶ.そして,このSIRSとCARSが混在している状態をmixed antagonistic response syndrome(MARS)と称している.
 SIRSの治療としてanti-inflammatory cytokineを投与し,人工的にCARSを発症させようとする治療も検討されてきている.

技術講座 微生物

微生物検査の精度管理

著者: 柳沢英二

ページ範囲:P.13 - P.20

新しい知見
 染色液の染まり,分離培地の発育状況,同定培地および同定キットが正しく菌種を同定できるか,薬剤感受性試験が管理限界値内か,また個人差を最小限にするために染色結果および分離培地の菌量のとらえかたなどの精度管理を各施設で監視する必要がある.

輸血

交差適合試験の実際

著者: 田中真典

ページ範囲:P.21 - P.28

新しい知見
 「輸血療法の実施に関する指針」(厚生省医薬安全局,1999年,以下指針)には輸血業務全般にわたって実行すべき事項が明記されている.この中で,輸血前検査についてもABO・Rh型検査の適正な実施および37℃反応性の臨床的に意義のある不規則抗体の検出,緊急時のO型赤血球成分輸血の許容,乳児の輸血検査,交差適合試験省略の条件,検体の採取時期とダブルチェック,患者および供血者の検体保存の必要性などが具体的に示されており,日常業務での実践が求められている.

生化学

近赤外法による血中グルコース測定法

著者: 村山幸市

ページ範囲:P.29 - P.32

新しい知見
 近赤外分光法による血中グルコース測定法は,近赤外線の高い生体透過性を利用した方法であり,従来の市販装置による透過法とファーバーなどを用いる無侵襲での測定が可能である.得られた近赤外スペクトルをケモメトリックス法のうちのPLS検量モデルを用いることにより,試薬を必要としない血中グルコース測定が可能である.

一般

尿沈渣中寄生虫および虫卵の見かた

著者: 石井克彦

ページ範囲:P.33 - P.39

新しい知見
 かつてはわが国でも多数の感染者が見られた寄生虫感染症は,衛生環境の整備および国民の衛生思想の向上などにより極端に減少し,地域差はあると思われるが,特に都市部における日常検査では,蛔虫症および蟯虫症を時折り経験する程度になってきた。
 その反面,依然として諸外国には寄生虫が多数存在し,海外渡航者の増加や輸入食材の摂取,さらにペットの輸入増加により,わが国ではかつて見ることが少なかった寄生虫感染症,いわゆる“輸入寄生虫症”に遭遇する機会が増えてきた.その中で,尿沈渣鏡検時に出現する寄生虫鑑別の重要性が高まってきた.

絵で見る免疫学 基礎編・13 細胞の生と死・4

死のプログラム(その2)—アポトーシス機能の異常

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.42 - P.43

死のレセプターと死のリガンド
 細胞にはあらかじめ死のプログラム,すなわちアポトーシスの機構が設定されており,多くの細胞は,このプログラムが実行されて死に至る.このアポトーシスの過程は,細胞の種類,生物の種類,誘発の要因によらず同じ過程をたどる.その過程とは,アポトーシス誘導である死のシグナルの受容,細胞内へのシグナル伝達,すなわちDNase(DNA分解酵素)を活性化する一連のカスパーゼの活性化であり,そして最後に核の断裂化である.アポトーシス誘導のシグナル受容は,細胞表面上に発現されているFas(CD 95とも呼ばれる)によって細胞内に伝達される.Fasに死のシグナルを伝達するのは,死を宣告するFasリガンド(FasL)である.
 例として,CTLについて述べる(図1).まず,CTL表面上のTCRが,感染細胞表面のMHC I抗原を認識する.CTLは,細胞が外来抗原により感染されていることを認識すると,TCRからFasLに死のシグナルの伝達を指令する.FasLは,感染細胞表面に発現されているFasから死のシグナルを伝達する.また,もう1つのパスウェイがあり,CTLが感染細胞のMHC I抗原を認識すると,CTLは感染細胞にパーフォリンをふりかけて感染細胞に孔をあけ,そこからグランザイムを注ぎ込んでアポトーシスを誘導する.

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・1

分子細胞遺伝学とFISH法

著者: 田村高志

ページ範囲:P.44 - P.45

分子細胞遺伝学の概念と現状
 ヒトゲノムプロジェクトは,一昨年22番染色体,それに引き続き昨年21番染色体についても塩基配列の解読が終了した.ゲノム解析技術の急速な発展に伴い,新規の遺伝子やDNAマーカーが次々にクローニングされてきた.染色体解析技術も分子生物学的技術の進歩に伴い,これらの恩恵を受けて従来の染色体検査を補う形で分子細胞遺伝学として発展し,染色体検査への応用が拡大された.
 染色体検査の幕開けは,1956年のTjioとLevanによる染色体数の報告であり,第2期黄金時代は1970年代のQバンドをはじめとする各種分染法による詳細な解析技術の進歩によりもたらされた.近年の分子生物学的技術を用いた解析法,すなわち分子細胞遺伝学的手法は第3期黄金時代といってもよい.

検査データを考える

抗凝固療法中の患者の検査値の動き

著者: 腰原公人 ,   新井盛夫

ページ範囲:P.75 - P.79

はじめに
 血管内において血液は常に流動性を保持しているが,血管内皮細胞が損傷を受けると,同部位に限局して止血血栓が形成される.そして,損傷部位が修復されると,形成された血栓は溶解し,局所の血流はもとに戻る.血小板,凝固因子,凝固制御因子,線溶因子,血管内皮細胞は複雑に関与し合い,恒常的に血液の流動性を保っている.
 しかし,凝固・線溶系の不均衡,炎症による内皮細胞傷害,動脈硬化による血流の乱れ,血液粘度の増加などが生じた場合には,病的な血栓を形成することがある.そして,血流が途絶えることによって起こる梗塞,流れを求めて発生する静脈瘤,線溶系に歯止めがかからずに生じる出血など,さまざまな二次的な病態を引き起こす結果となる.

臨床検査に必要な統計処理法・13

病態別検査データの比較—いわゆるt検定は万能ではない

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.81 - P.86

はじめに
 目的とする特性に関する疾患群と非疾患群の比較,男女別の比較,治療前後での比較など,2つの集団の間で特性値の比較が問題となる機会は多い.これら2群の差を客観的に判断するために,統計学的な有意差の検定が用いられる.頻用される手法がいわゆるt検定であるが,やみくもに統計ソフトのt検定を適用し,その結果を鵜呑みにするだけでは,誤った結論を導いてしまう危険性がある.有意差の検定法にはいくつかの種類があり,扱うデータの性質によって適切な手法を使い分ける必要がある.ここでは,各種検定法の中で,2つの母集団の平均値の差を検討するケースを取り上げ,統計学的な仮説検定の方法について考える.

ラボクイズ

問題:腹部超音波【7】

ページ範囲:P.40 - P.40

2000年12月号の解答と解説

ページ範囲:P.41 - P.41

オピニオン

検査データと付加価値

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.11 - P.11

“付加価値”という言葉を使うことは本当はおかしなことである
 “付加価値”というと,あたかも二次的産物のように聞こえるが,検査は本来,固有の能力を持っている.われわれが単にそれを引き出せないだけである.われわれはこれまで正しいデータを迅速に報告することに一生懸命であった.それはそれで価値あることであるが,検査の値段が下がり,単に検査をするだけでは存在価値が低くなってきた.怠慢のつけが回ってきているのである.やっと当たり前のことに取り組もうとしているのである.
 私は,“付加価値”とは,検査が有する能力を引き出すこと,すなわち臨床的意義を示し,診断や治療に益することとしたい.具体的にはインターフリテーションを付すること,コンサルテーションに応じることである.

けんさアラカルト

間質性肺炎と新しいマーカー

著者: 永江尚人 ,   長田篤雄

ページ範囲:P.54 - P.55

間質性肺炎の分類
 間質性肺炎は,肺胞壁(間質)を病変の主座とする線維化形成肺炎である.線維化の原因物質などから多くの疾患に分類されるが,主な疾患としては発症原因不明の特発性間質性肺炎,膠原病性間質性肺炎,および薬剤性間質性肺炎などがある.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

子宮頸部(5) 子宮頸部異形成—上皮内癌の細胞診

著者: 都竹正文 ,   手島英雄

ページ範囲:P.46 - P.47

はじめに
 子宮頸部の異形成(dysplasia)は炎症性とも腫瘍性とも,また良性とも悪性とも判断しかねる扁平上皮の異型病変を呼び,境界病変として位置づけられている.異形成は病理組織学的に上皮の各層において細胞成熟過程の乱れと核の異常を示す病変である.すなわち,極性の消失,多形性,核クロマチンの粗大顆粒状化,核形不整,異常分裂を含む核分裂像が見られるのを特徴とする.異形成はその程度により軽度(mild=slight),中等度(moderate),高度(severe)に分けられる.
 子宮頸癌取扱い規約(1997年10月,改定第2版)では異形成(dysplasia)-上皮内癌(carcinomain situ)は子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia;CIN)として取り扱われており,軽度異形成(mild dysplasia;CIN 1),中等度異形成(moderate dysplasia;CIN 2),高度異形成(severe dysplasia;CIN 3),上皮内癌(carcinoma in situ;CIN 3)に分類されている.本規約ではHPV感染による細胞異型であるコイロサイトーシス(koilocytosis,koilocytotic atypia)は軽度異形成に含まれる.高度異形成と上皮内癌はCIN分類ではCIN 3として包括されている.

微生物 細菌培養陰性例への対応

不明熱の微生物検査(1)

著者: 小林芳夫

ページ範囲:P.48 - P.49

はじめに
 不明熱を呈するにもかかわらず,細菌培養陰性例の疾患として腸チフスを取り上げ,症例提示をして解説するのが本稿の趣旨である.腸チフスは患者から得られた各種検体を正しく検査すれば,チフス菌が陰性に終始することはない疾患である.ここでは筆者が川崎市立川崎病院に勤務中に遭遇した症例を提示する.

血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・1 赤芽球系の異常

2.数の異常と形態異常 赤芽球の増加と小型化

著者: 西村敏治 ,   松谷章司

ページ範囲:P.50 - P.52

はじめに
 異常骨髄像には数(量)の異常,または形態(質)の異常,あるいは両者が同時に見られる場合がある.赤芽球の数の異常(過形成)は赤芽球の絶対数の増加とともに,成熟段階の比率の異常,形態的には核形の異常,赤芽球の大型化・小型化,赤芽(血)球の染色性の異常など多彩な像が見られる.

トピックス

循環器疾患とマグネシウム

著者: 佐々木正太 ,   寺川宏樹 ,   松浦秀夫 ,   茶山一彰 ,   大島哲也 ,   神辺眞之

ページ範囲:P.65 - P.69

はじめに
 マグネシウム(Mg)は,生体内でカルシウム(Ca),カリウム(K)およびナトリウム(Na)に次いで豊富に存在する陽イオンであり,細胞内ではKに次いで多い.その生理活性は多岐にわたり,細胞内各種リン酸化反応の補酵素として働き,細胞膜透過性維持にも関与することが知られている.したがって,Mg代謝の異常は細胞機能や生体機能の調節に障害をもたらすこととなる.近年,虚血性心疾患,不整脈,本態性高血圧症,糖尿病などの循環器疾患,もしくはその危険因子となる病態においてMg欠乏の関与が想定されている.しかしながら,体内Mgバランスの臨床的な指標はなく,その判定は困難である.臨床上は簡便に血清総Mgが測定されるが,実際の生理活性を持つ血清イオン化Mgについての報告は少ない.また,体内Mgの99%以上は細胞内に分布している.

歯周疾患と血清CRP値

著者: 小川由紀子 ,   吉田幸恵 ,   今木雅英

ページ範囲:P.69 - P.70

はじめに
 血清C反応性蛋白(C reactive protein;CRP)は,代表的炎症マーカーであるが,口腔疾患との関連性については興味深いものがある.本稿ではCRPと口腔疾患の中で,長期間持続的に炎症を引き起こしている歯周疾患との関連性についての疫学的知見を紹介する.

緑茶の抗腫瘍効果

著者: 松島正浩

ページ範囲:P.70 - P.73

はじめに
 日本人の泌尿生殖器癌(膀胱癌,前立腺癌)の発生率,死亡率は欧米諸国のそれと比較して,1960年代頃までは大変低く,1/10以下であった.ただし,欧米諸国へ移民した日本人に対する疫学的調査によると,移民l世では日本人のそれと同じであるが,2世,3世と世代が変わると,しだいにそれは欧米人の頻度と同様になる1).日本に住む日本人もこの30年間で泌尿生殖器癌の発生率,死亡率は急増し,欧米化の一途を辿っている.これらの現象は発癌の危険因子から分析してみると,日本人の食生活に起因していると考えられる.すなわち,移民2世,3世はその食生活が急速に欧米化し,動物性蛋白質,脂肪の摂取が多くなる.わが国においても,戦後の食生活は欧米化の一途を辿り,和食の良さを忘れてしまった.すべての発癌に共通していることであるが,日本人の食生活の欧米化により日本人の発癌も欧米化しつつあるのが現状である.喫茶の習慣は長い歴史があり,多くの薬効が報告されている.さらに最近では,茶の抗腫瘍効果が報告されるようになった2〜6)
 本稿ではN-butyl-N-(hydroxybutyl)nitrosamine(BBN)によるラット膀胱発癌に対する緑茶の抗腫瘍効果を検討し,さらに抹茶,ほうじ茶,ウーロン茶,紅茶についてもその効果を検討し,茶葉全体の抗腫瘍効果について解説する.

今月の表紙

移行上皮

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.53 - P.53

 症例:小児科,6歳,男児.
 診断 非定型麻疹.

検査じょうほう室 寄生虫:寄生虫は面白い

親父とビール腹(疹)

著者: 赤尾信吉

ページ範囲:P.58 - P.59

親父の腹に葡行疹が!
 伝技師が敬愛する憲一郎親父の腹は日頃の生活を物語るように見事なビール腹だ.あるべきはずの臍の凹みもなく,痕跡化した臍なのだ.その臍らしき箇所より一筋の赤い葡行疹が15cmほど下腹に向かって走っていた.親父は驚いて伝技師に「これは何だ」と見せた.よく見ると,葡行疹の先端部は水イボのようになり,小水泡が形成されている.水泡を小針で破ると約0.01〜0.1μlの体液が得られ,この穿刺液を弱拡大(10×10)で鏡検すると尾部が旋回した幼虫(体幅80〜105μm,体長6.5〜8.5mm)が検出されたのだ.
 これはホタルイカに寄生する施尾線虫目幼虫type Xであることが判明した(図1).本虫の生態,生活史は不明で,ヒトにはホタルイカの生食により感染する.主な症状としては腹部の皮膚葡行疹が多く,まれに前眼房寄生例がある.葡行疹は生食1〜3週間後に紅斑性浮腫が起こり皮疹となる.もう1つは腸閉塞で,食後5〜6時間を経て起きる.この症状は腸アニサキス症と誤診するので注意が必要である.幼虫摘出後は無症状となり,紅斑も暫時消失する.ヒトでは成虫にならず,今後の生活史の解明が期待される.ホタルイカ以外にハタハタ,タラ,ホッケなどの内臓からも検出されている.終宿主は鳥,海産哺乳類が考えられる.伝技師によると,血液検査値では好酸球が増加し,臓器侵入の場合も増加する.

免疫:日常検査の中での新発見

偶然に見つかるM蛋白血症

著者: 橋本寿美子

ページ範囲:P.60 - P.61

はじめに
 M蛋白(monoclonal protein)血症は血漿蛋白の電気泳動以外にも,さまざまな臨床検査の異常をきっかけとして偶然に見つかる場合が多い.そこで,これらの異常を検出する機会の多い検査部門で仕事をしている技師の方々の,いつもとは違った角度から,M蛋白検出につながる異常値を考える力を育てていくために,その注意点を述べてみたい.

一般:一般検査のミステリー

意図的異物混入による尿検査の攪乱

著者: 伊藤機一 ,   三宅一徳

ページ範囲:P.62 - P.64

はじめに
 尿検体は長期臥床患者などを除き,一般にトイレという“密室”で採取される.そのため意図的に尿検体に何かが加えられる可能性があり,このことが検査を攪乱させ,検者に無駄な労力を費やさせている.実際,どのような事例があるか,自験例をまじえて述べてみたい.

けんさ質問箱

Q フリーPSA・コンプレックスPSA測定の有用性

著者: 石橋みどり ,   K.I.

ページ範囲:P.87 - P.89

 前立腺特異抗原であるフリーPSAとコンプレックスPSAの同時測定の有用性についてご教示ください.

Q 超音波検査のデータ管理と機器の精度管理

著者: 佐々敏 ,   C.S.

ページ範囲:P.89 - P.91

 超音波検査のデータ管理の方法をご教示ください.具体的にはどのようなソフトを使えばよいのでしょうか.また,超音波検査機器(特に腹部)の精度管理の方法も教えてください.当院ではファントムは高価なため使用していません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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