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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術29巻13号

2001年12月発行

雑誌目次

病気のはなし

ビタミンK欠乏症

著者: 白幡聡

ページ範囲:P.1426 - P.1431

新しい知見
 ビタミンKの“K”はドイツ語で凝固を意味するKoagulationの頭文字に由来する.このことから想像されるようにビタミンKは長い間,止血ビタミンと考えられていた.しかし,その後,ビタミンKを必要とする蛋白が血液凝固因子以外にも次々と発見され,最近,特に老人や閉経期女性の骨粗鬆症との関連が注目を集めている1).骨の代表的ビタミンK依存性蛋白であるオステオカルシン遺伝子をノックアウトしたマウスでは骨の石灰化の成熟が抑制されることも明らかにされた.また,わが国では世界に先駆けてビタミンK製剤が骨量減少改善薬として認可されている.このような状況に伴い,ビタミンK欠乏症とは“ビタミンKの投与によって改善されるビタミンK依存性蛋白の減少症”という新しい定義が採択されつつある.

技術講座 血液

血液検体の保存と検査値の変化

著者: 金村茂

ページ範囲:P.1433 - P.1439

新しい知見
 臨床に役立つ検査結果は,適切な血清分離と検体の保存があって始めて達成できるものである.今まで発行されてきた臨床検査に関する各種書物には,酵素活性検査の検体保存凍結が安定であると記載されているものが多いが,われわれの実験結果では,CK,ALT,アルドラーゼの保存は冷凍よりはむしろ冷蔵保存が安定であることがわかった.

一般

尿沈渣中の異常細胞の見かた

著者: 一柳好江 ,   平光幹彦 ,   餌取文昌 ,   山田鉄也

ページ範囲:P.1441 - P.1447

新しい知見
 一般検査では尿検査のスクリーニングとして,短時間に的確な情報を提供することが求められている.そのためには採尿方法,尿の外観,投与薬剤,尿定性検査,生化学検査結果などを念頭に置き,尿沈渣の鏡検に臨むべきである.近年,どの分野においてもEBM(evidence based medicine)が盛んに謳われているが,尿沈渣検査においても同様であり,いろいろな情報を基に成分を同定することが大切である.異型細胞を検出することは悪性腫瘍の早期発見につながり,臨床的に大きな意義がある.しかし,炎症や結石症,ウイルス感染,放射線や薬剤治療などの物理的・化学的影響により,良性細胞が異型性を示すことがあるので注意する必要がある.異型細胞の良性・悪性を鑑別するには,核の大きさ,クロマチンの増量の有無,核形の不整,集塊状の出現などいくつかのポイントがあるが,尿中に出現する正常な細胞像を把握したうえで様々な角度から細胞を観察すること,さらに細胞診との連携も必要である.

病理

神経内分泌細胞の同定法

著者: 阿部寛 ,   和田了

ページ範囲:P.1449 - P.1452

新しい知見
 神経内分泌細胞は神経細胞と内分泌細胞の両方のマーカーを共有する細胞として認識される.病理学的な同定法としては,古典的にはグリメリウス(Grimelius)法あるいはマッソン・フォンタナ(Masson-Fontana)法が有名である.しかしながら,近年の免疫組織化学的染色の急速な進歩により,細胞含有ホルモンを免疫組織化学的に検出することに加え,細胞の構成要素に対する免疫組織化学的染色法も次々と広まり,特に後者は従来のグリメリウス法とともに神経内分泌細胞に対するスクリーニング的な同定法としても有効である.

絵で見る免疫学 基礎編・24

免疫学のスターたちとその誕生

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.1458 - P.1459

 過去2年間紙面で活躍してきた免疫学のスターたち(細胞)を紹介する.
 2種類の白血球(T細胞,B細胞)と顆粒球(好塩基球,好酸球,好中球),マクロファージの前駆体である単球(単核球とも呼ばれる),および赤血球,血小板はすべて骨髄に生まれた造血幹細胞から分化・成熟した兄弟である.すなわち,造血幹細胞はすべての血液細胞に分化する.さらに,造血幹細胞は,骨髄球系前駆細胞と共通リンパ系前駆細胞に分化する.骨髄系前駆細胞は顆粒球と単球に分化し,共通リンパ系前駆細胞はB細胞とT細胞に分化する.

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・12

染色体4.染色体構造異常

著者: 田村高志

ページ範囲:P.1456 - P.1457

構造異常とは
 生殖細胞の染色体になんらかの原因によって切断(breakage)が起こり,その切断の大部分は修復機構によって元どおりに修復される.しかし,修復されずにその断片(fragment)が消失したり,誤って他の染色体と再結合することによって構造異常(structural abnormality)が生じる(図1).構造異常には様々な種類がある.

検査データを考える

骨代謝マーカー

著者: 牧田和也 ,   太田博明

ページ範囲:P.1469 - P.1472

骨代謝マーカーの新たな保険取得
 骨代謝マーカーとは,骨代謝動態の基本である骨形成能ないし骨吸収能を血液や尿を用いて評価する指標の総称であり,表1のようなものが挙げられる.すなわち骨代謝マーカーは,骨形成マーカーと骨吸収マーカーの2つに大別される.また骨形成マーカーは骨形成を担う骨芽細胞機能を,骨吸収マーカーは骨吸収を担う破骨細胞機能をそれぞれ反映するものと考えられている.
 これらのうちで,骨形成マーカーの1つである血清骨型アルカリフォスファターゼ(bonespecific alkaline phosphatase;BAP)が骨粗鬆症や癌の骨転移を含めた骨代謝異常で保険適応を既に取得している.さらに1999年12月からは骨吸収マーカーの代表である尿中デオキシピリジノリン(deoxypyridilloline;DPD)とI型コラーゲン架橋N-テロペプチド(type I collagen crosslinked N-telopeptide;NTx)が骨粗鬆症でそれぞれ保険適用が認められている.そして,主に骨粗鬆症と診断された患者の骨代謝動態の評価および治療効果判定に用いられるようになっている(表2).

臨床検査に必要な統計処理法・24

正確さの伝達に伴う測定誤差の制御—校正の適正化により測定誤差は減少できる

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.1473 - P.1477

 はじめに
 標準的測定法と標準物質から構成される測定体系(measurement system)において,適正に校正された測定法によって得られた測定結果が,上位の水準の標準に関連づけられ得る性質をトレーサビリティといい,逆に計量学的に最高位の標準から測定結果に向かう連鎖は校正の階級段階(calibratioll hierarchy)で示される.この体系の中で,表示値を有した標準物質はキャリブレータとしての機能を持ち,標準測定操作法と適正な伝達プロトコールにより,下位の測定標準を校正する役割を有する.その際に,ある特定のレベルで測定標準に表示された値は測定の不確かさに関連し,これは校正の階級段階における,より上位のすべての測定標準と測定操作法から受け継いだ不確かさを含む.この体系に整合性のとれた(トレーサブルな)測定結果を得るためには,検量線の設定とそれを用いて推定される測定値の精確度に関し,測定法の誤差や標準物質の使用法などが与える影響について,十分に理解し適正に管理する必要がある.
 ここでは,特に校正の計量学的な扱いについて,主に回帰分析の立場から考える.

ラボクイズ

問題:抗原の免疫学的測定【3】

ページ範囲:P.1454 - P.1454

11月号の解答と解説

ページ範囲:P.1455 - P.1455

オピニオン

医師と技師の協同による臨床検査の再構築を

著者: 手塚文明

ページ範囲:P.1432 - P.1432

検査科はどこへ
 臨床検査が将来も医学・医療の中で不可欠のものであることは論を待たないけれど,その内容と形態は大きく様変わりしようとしています.高騰を続ける総医療費の抑制策が「検査」を直撃し,検査の採算性は明らかに縮小傾向であることが拍車をかけているようにみえます.最近,いろいろな学会で「期待される臨床検査の将来」と題したシンポジウムの企画が目立つようになりましたが,多くの議論が,病院内検査部門で働く者にとって,自らの存続に危機感を募らせます.
 検査科は「診療科にとって利便性の良い形態を整えているのか?」,また「病院経営のうえで高い採算性を見込めるのか?」.もしそうでなければ,全面的な外注化,プランチラボ化あるいはFMSの導入となり,これまでのような検査部門は病院内から撤退を余儀なくされかねない情勢です.

けんさアラカルト

嫌気性菌検査の現状

著者: 国広誠子

ページ範囲:P.1448 - P.1448

 嫌気性菌感染症には,毒素を産生する有芽胞嫌気性菌による感染症と無芽胞嫌気性菌が中心の嫌気性菌と通性菌の混合感染症とがあるが,圧倒的に多いのは後者で,膿瘍や壊死を起こす化膿性感染症が主体である.
 嫌気性菌検査は日数や経費を要し,嫌気性菌のみによる感染よりも通性菌との混合感染が多いため,嫌気性菌検査を行わなかったり,不十分である場合も多い.そのため,わが国の臨床疫学的報告では嫌気性菌感染症に関する情報は多いとは言い難い.また嫌気性菌の検出率は,検査材料の選択,採取方法,輸送・保存方法,使用する分離培地によっても左右される.これら嫌気性菌検査の現状をふまえ,嫌気性菌検査の問題点や質の向上のための検査法について述べる.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

子宮体部(3) 子宮内膜の上皮性腫瘍

著者: 都竹正文 ,   平井康夫

ページ範囲:P.1462 - P.1464

子宮内膜癌
 子宮体癌取扱い規約(改定第2版,1996年3月)では,子宮内膜の上皮性悪性腫瘍には子宮内膜癌(endometrial carcinoma)がある.子宮内膜癌は子宮内膜に発生する癌腫で,子宮内膜の悪性腫瘍のうちでは最も頻度が高い.

血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・3 リンパ球系の異常

2.数の異常と形態異常 悪性リンパ腫の白血化(1)

著者: 清水長子

ページ範囲:P.1466 - P.1468

はじめに
 悪性リンパ腫はリンパ細網組織に原発する非上皮性腫瘍である.
 病理組織学的には,非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin's lymphoma;NHL)とホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma;HD)とに大別される.

トピックス

炭疽菌の検査法

著者: 牧野壯一

ページ範囲:P.1489 - P.1491

 1世紀以上前に病原菌として世界で初めて分離された炭疽菌は,人畜共通感染症,炭疽の原因菌である.炭疽菌は比較的容易に芽胞として大量精製可能のため,常に生物兵器の有力候補として恐れられてきた.すなわち,人為的に起こりうる伝染病であり,米国での郵便物による一連の炭疽菌騒動はその危険性を不幸にも実証してしまった.このような現状で炭疽への警戒は不可欠となったが,わが国では炭疽の検出法は十分知られていない.そこで,海外や筆者の研究室で行っている方法を紹介する.炭疽への備えになれば幸いである.

医療と情報化社会

著者: 里村洋一

ページ範囲:P.1491 - P.1493

電子カルテの登場
 最近はIT革命などと過激に表現されますが,情報化社会の到来が予言されてから,20年以上もの年月が経っています.それが改めてIT(information technology,情報技術)と呼ばれ,にわかに流行語となったのには理由があります.安価なパソコンとインターネットのおかげでコンピュータが家庭にまで普及することになったからでしょう.電話やラジオ,自家用車などが普及した時と同じく,新しいメディアが身近になったとき,生活環境の革命が起こります.ITもそのようなものの1つであると社会が認知したからだと思います.
 しかし,大学の研究室や,工場の製造過程,先進企業のオフィスなどでは,ずっと前からコンピュータが主役を務めてきました.医療も全く蚊帳の外ではありません.CTはコンピュータ技術の成果ですし,心電図の自動診断は医療情報学の初期の研究成果として,実用に供されています.その後にも,臨床の現場,特に画像検査などの分野で,コンピュータの活動は目覚ましいものがあります.

冠動脈のMRA検査

著者: 渡邊祐司 ,   田淵隆 ,   光井英樹 ,   森本規義 ,   中田和明 ,   熊代正行 ,   清野隆 ,   永山雅子

ページ範囲:P.1493 - P.1495

はじめに
 冠動脈のMRA(magnetic resonance angiography)は,MRを用いて冠動脈を非侵襲的に描出する方法である1〜3)
 冠動脈は,大動脈や腸骨動脈に比べ細く,冠動脈主幹部の直径は3〜5mmで末梢に向かうに従い先細る.さらに,冠動脈は心拍動,呼吸運動により常に動いている.このためMRで冠動脈を描出するためには,心拍動と呼吸運動を停止させた状態でデータ収集を行う必要がある.このため冠動脈のMRAは,MRAの中で最もチャレンジングな領域である.

自己免疫性溶血性貧血の自己抗原

著者: 亀崎豊実 ,   梶井英治

ページ範囲:P.1495 - P.1500

はじめに
 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolyticanemia;AIHA)は,自己赤血球に反応する抗体を産生し,溶血を引き起こすことによって生じる貧血の総称である.その本態は,免疫寛容の破綻に由来する抗赤血球抗体の産生であり,抗体産生にかかわる赤血球膜自己抗原の同定は,AIHAの診断,病型分類に重要であるばかりでなく,AIHA患者への輸血液選定における判断基準を明らかにし,病態特異的治療の開発への重要な鍵といえる.
 本稿では,近年明らかになってきているAIHAにおける自己抗原,すなわち自己抗体の認識抗原と自己反応性T細胞の認識する抗原エピトープについて,その概要を紹介したい.

今月の表紙

ワムシ

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.1453 - P.1453

 症例:小児科,14歳,男性.
 診断:ネフローゼ症候群.

けんさ質問箱

Q 悪性リンパ腫の免疫表現型診断

著者: 元井信 ,   A.T.

ページ範囲:P.1479 - P.1481

 悪性リンパ腫については新しいREAL分類ができましたが,ルーチン業務でどう対応したらよいのか,できればチャート方式で具体的にご教示ください.また,免疫染色(CD染色)における悪性リンパ腫の分類についてもご教示いただければ幸いです.

Q 顆粒の役割と機能

著者: 榎本康弘 ,   Y.M.

ページ範囲:P.1481 - P.1483

 好中球にはなぜ一次顆粒と二次顆粒が出現するのでしょうか.また,単球やリンパ球にもアズール顆粒がありますが,その役割I,機能と,形態的な違いについてご教示ください.

検査じょうほう室 輸血:白血球検査あれこれ

肩のこらないHLA(2)

著者: 皆森久美子 ,   秋田真哉 ,   荒木延夫

ページ範囲:P.1484 - P.1486

プロローグ
 ──陽も西に傾き,「今日も忙しかったね」とうなずき合っていた矢先,うなずきをため息に変える合図のように,検査室に電話のベルが鳴り響きました.ある病院の小児科医からの相談の様子.気持ちと体を仕事モードに切り換え直し,メモを片手に電話口に向かう担当者,聞けば,「生後2か月のベビーのHLAタイピングをお願いしたいが,ついては提出サンプルはどのようにしたらよいか?」とのこと.詳しく事情を聞いていくうちに,“これはやりがいがありそうだ”と決意を新たにしたとか,しないとか──.
 「白血球検査について」シリーズ第2回は,HLAタイピング検査の実際を一般的な検査,特殊な検査,最新の検査などの紹介を交えて,お話しします.

海外だより

ペンシルバニア大学病院,細胞病理検査室の1日

著者: 椎名奈津子

ページ範囲:P.1460 - P.1461

 今回の海外だよりは,私の職場の1日をお知らせしたいと思います.ペンシルバニア大学病院の細胞病理検査室はとても規模が大きく,業務分担がしっかりしているので,現在では細胞検査士(CT)の仕事はほとんどスクリーニングのみになっています.

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「検査と技術」第29巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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