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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術29巻2号

2001年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

赤白血病

著者: 八田善弘 ,   大島年照

ページ範囲:P.98 - P.101

新しい知見
 赤白血病の発症機序はまだ不明な点が多い,それは本症の発症に急性白血病としての性格と同時に赤芽球の分化障害,増殖という複雑な機転が絡み合っているためと推測される.急性白血病としての解析は普遍的な染色体異常の解析が嚆矢になりうる.3番染色体と5番染色体の転座t(3;5)は頻度は多くないものの,急性骨髄性白血病のうち急性前骨髄性白血病を除くすべての型に認められ,中でも赤白血病に多いといわれている.この転座では3q25.1上のMLF1遺伝子と5q34上のNPM遺伝子の異常が疑われたが,両遺伝子の融合やNPM遺伝子の再構成は認められなかった1).以上より,赤白血病を含む急性骨髄性白血病の発症にかかわる新たな遺伝子が3q25.1,5q34の近傍にあることが予想される.一方,赤芽球の分化からみた研究では,Cullらの細胞株の研究において,エリスロポエチン受容体遺伝子の変異で赤白血病の増殖が早まることが示された2),すなわち,この系ではエリスロポエチンは分化誘導に働き,増殖を抑制していたが,エリスロポエチン受容体遺伝子の変異でその制御がはずれたことを示唆している.このように,白血病の発症と赤血球の分化の両面から,赤白血病の発症機序が解明されつつある.

技術講座 血液

血液凝固因子測定法

著者: 岡村啓子 ,   中谷英徳

ページ範囲:P.103 - P.109

新しい知見
 血液凝固反応には内因系と外因系の反応があるといわれ,教科書などでは並列して記述されてきた.しかし,生体内で起こる凝固反応は外因系経路が主流であり,血液凝固の開始反応には組織因子(tissue factor;TF)と活性化第VII因子(Vlla)が細胞表面あるいはリン脂質上でTF-Vlla複合体を形成して第IX因子や第X因子を活性化し,凝固力スケード反応を始動することや,第IX因子とMgイオンの凝固開始反応における重要性が明らかにされた.それとともに現在のPT,APTTの測定法では第IX因子活性が正しく反映されていないのではないかと考えられ,アッセイ法の改良が望まれている.また,可溶性組織因子を用いた血中Vllaを直接測定する方法が開発され,心筋梗塞,脳梗塞,糖尿病患者などにおいて血中Vllaの増加が凝固亢進状態に関係していること,血中Vllaの増加が血清脂質とは独立した血栓性疾患のリスクファクターであることなどが明らかにされた,これまで,凝固因子の測定の多くは因子量が低下する病態の診断・鑑別を目的に行われてきたが,血栓性疾患ハイリスク群患者の過凝固状態を早期に把握するという点から,簡便なVlla測定系の開発は重要である.

微生物

ノカルジアの検査法

著者: 矢沢勝清 ,   三上襄

ページ範囲:P.111 - P.119

新しい知見
 ノカルジアの属の同定は細胞壁成分の分析などの化学的分類により進められるので,客観的に,かつ比較的短時間で同定が可能である.しかし,種の同定はカゼインなどの分解能や糖からの酸産生などを調べるため煩雑で,判定までに長時間を要する試験も必要とする.筆者らが開発した薬剤感受性によるノカルジアの同定法は簡単で,判定までに短時間ですみ,生理生化学的性状による同定とよく一致する有用な方法である.
 近年,微生物の遺伝子レベルでの分類・同定が盛んになってきている.特に,16S rDNAの塩基配列のデータが蓄積され,データベースも充実してきたため,16S rDNAの塩基配列の相同性による同定も行われるようになってきた.

絵で見る免疫学 基礎編・14

モノクローナル抗体とその応用(その1)

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.122 - P.123

はじめに
 5〜6個の抗原決定基を有する抗原を免疫すると,産生される抗体は,抗原分子上の各々の抗原決定基や,異なった親和性,そしてクラスやサブクラスが存在するため,産生される抗体は1〜5×107個のレパートリーを持つと推定される(本誌28巻5号,8号本欄参照).単一の細胞に由来する同じ細胞の群をクローンといい,形質細胞(抗体産生細胞)の場合,すべてにおいて同じ抗体を産生する細胞群をいう(図1).したがって,形質細胞の単一のクローン(モノクローン)を得,これを培養すれば,均一な抗体が得られる.しかし,正常の形質細胞を培養する培養系は存在しない.

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・2

細胞1.細胞はいろいろな形に分化する

著者: 田村高志

ページ範囲:P.124 - P.125

生物は1個の細胞から始まる
 ヒトの身体は約60兆個の細胞からなる.最初は1個の受精卵から発生し,細胞分裂を繰り返す.その細胞増殖段階でつぎつぎと分化した細胞を生み出していく.それぞれの細胞は同じ遺伝子を持っているが,遺伝子の発現調節によりさまざまな細胞へと分化し,多数の細胞がそれぞれ固有の働きを持ち,形態も機能も分化している(図1).分化した細胞の種類は200種類を超え,よく似た性質や機能を持つ細胞同士が集まって組織を形成する.数種類の組織は立体的に配列して器官を構成する.
 それぞれの組織における細胞では機能の異なる構造蛋白質や機能蛋白質が合成される.例えば,赤芽球ではグロビン,胃の細胞ではペプシノゲン,結合組織ではコラーゲン,筋肉ではミオグロビンなどの特異的な蛋白質が合成される.

検査データを考える

γ-GTP(GGT)とALPの乖離例

著者: 池田斉

ページ範囲:P.145 - P.147

はじめに
 γ-GTP(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)とALP(アルカリホスファターゼ)は,肝・胆道系の閉塞性障害のマーカーとして利用されることが一般的である.両者は胆道閉塞,胆汁うっ滞性肝障害,肝癌などで上昇する.しかし,γ-GTPはアルコールで誘導されるため,ALPとは別の挙動を示す場合も多い.一方,ALPは肝臓のほか,骨,胎盤,小腸由来のものがあり,通常5種類のアイソザイムが存在することが知られている.したがって,それらの臓器に異常のある場合,それぞれの病態を反映してALPのみが増加しγ-GTPは正常である場合がある.
 以下,実際の症例を紹介しながら記述する.

臨床検査に必要な統計処理法・14

多項目検査データによる病態判別—多変量解析法[1] 判別分析の考えかた

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.149 - P.154

はじめに
 一般に,鑑別診断は疾病の分類体系への同定のプロセスともいえる.例えば,検診の結果ある部位に腫瘍が見つかったとき,次の段階としてはそれが良性か悪性かの判別を行う.その際,同じ部位の腫瘍についての良性・悪性の診断が確定した多くの症例に関する検査成績などに基づき,新たな患者の対応するデータから,どちらに属するのかを推測するという過程がとられる.この例のように,複数の群についての既存の観測データを利用し,新たなデータがどの群に属するのかを,なるべく分類の誤りが小さくなるように判別することを目的とした手法を判別分析と呼び,観測特性が多項目データからなる場合,多変量解析法の代表的な一手法である.ここでは,判別分析の基本的な考えかたと適用例について,1変量と多変量のそれぞれを用いて2群を判別するケースを取り上げる.

ラボクイズ

問題:尿沈渣【4】

ページ範囲:P.120 - P.120

1月号の解答と解説

ページ範囲:P.121 - P.121

オピニオン

検査室が生き残るために

著者: 東野健一

ページ範囲:P.102 - P.102

 社会保障制度の両輪といえば,国民皆年金と国民皆保険である.国民皆保険制度は昭和36年に確立し,すべての国民を公的な医療保険制度で平等にカバーするという原則である.すなわち,国民がいつでも,どこでも,誰でも医療サービスを受けることができるすばらしい制度である.しかし,約40年経過して時代が変化し,少産少子・高齢化,老人医療費(65歳以下の5倍)の高騰などにより,この制度に歪みが生じてきた.
 そこで1997年,医療保険制度を中心とした医療制度の抜本的改革に関する提案書が厚生省と,当時の与党3党から提案公表された.両案の内容は,ほぼ同じで,医療供給制度,薬価制度,診療報酬,高齢者医療制度の4つの見直しを行うことであった.そうした状況の中て,わが国の医療,病院経営は刻々と変化しつつあり,検査室を取り巻く環境にも変化が訪れようとしている.この変化を素早くキャッチすることが1つの生き残りの条件であると思う.

けんさアラカルト

キャピラリー電気泳動法による血清微量蛋白成分の測定法

著者: 渭原博 ,   戸谷夏子

ページ範囲:P.110 - P.110

 現在,血清蛋白分画の測定は日本電気泳動学会が定めた標準操作法(1966年)に基づきセルロースアセテート膜を支持体にして行われている(CAE法).その後,標準操作法に電気浸透の低い支持体の選択,および染色液の改良がなされたが,CAE法では血清蛋白をアルブミンとα1-,α2-,β-,γ-グロブリンに5分画するにとどまった.この間,欧米ではアガロース電気泳動法が普及し,5分画に加えプレアルブミン,α1-酸性糖蛋白,α1-アンチトリプシン,ハプトグロビン,トランスフェリン,補体,IgA,IgM,IgGの同定も行われた.近年,臨床検査用の全自動キャピラリー電気泳動装置(Paragon CZE 2000)1)がベックマン・コールター社によって開発され,筆者らの検査室でもルーチン検査に導入した.しかし,CZE法は高い分離能を有するはずなのだが,Paragonでのプログラムは5分画報告となっており,上述の微量蛋白成分の検出が疎かであった.微量蛋白成分は免疫ネフェロメトリー法で別測定とされているので,Paragonで定量分析が可能なら多大のメリットが期待できると考えた.

Laboratory Practice 血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・1 赤芽球系の異常

2.数の異常と形態異常 赤芽球の増加と形態異常

著者: 大畑雅彦

ページ範囲:P.126 - P.129

形態学的所見(図1)
 著しく大型で多核の赤芽球の増生が見られる.多核赤芽球は各成熟段階で観察される.また核・細胞質の成熟解離,いわゆる巨赤芽球様変化も観察される.赤芽球系細胞の形態異常は,細胞質の異常と核の異常に大別されるが,図1からはその両力の異常が認められる.しかし,本例の血球異常は赤芽球に限って見られ,顆粒球系や巨核球血小板系細胞の異常は認められない.

病理 細胞像からここまでわかる

呼吸器(5) 大細胞癌

著者: 堀内啓 ,   荒井政和 ,   松谷章司

ページ範囲:P.130 - P.132

大細胞癌の臨床的特徴と分類
 大細胞癌は,腫瘍が特定の分化傾向を示さず,扁平上皮癌,小細胞癌,腺癌の特徴的所見を欠く悪性上波性腫瘍であり,他の組織型に分類することが不可能な,分化傾向を失った癌に対するゴミ箱(wastebasket)的な診断名といえる.したがって,生検で大細胞癌と診断されても,他の組織型の低分化成分を見ている可能性はあり,手術材料で特徴的な分化像が見つかれば,他の組織型に分類されることもまれではない.
 肺癌取扱い規約では,大細胞癌を粘液形成型と粘液非形成型に分類し,腫瘍細胞内に粘液が認められても,管腔形成がなければ腺癌とはしないが,WHO分類では,強拡大2視野中に5個以上粘液を持つ腫瘍細胞があれば腺癌に分類される.また,肺癌取扱い規約では,大細胞癌の中に巨細胞型という亜型を設けているが,WHO分類では巨細胞癌は大細胞癌とは別の項目で取り扱われている.WHO分類では,大細胞癌の亜型として,large cell neuroendocrine carcinoma, basaloidcarcinoma, lymphoepithelioma-like carcinoma,clear cell carcinoma, large cell carcinoma withrhabdoid phenotypeが記載されている.

生理 この症例をどう読むか

ENG検査における視刺激検査の意義

著者: 中村正 ,   那須隆

ページ範囲:P.133 - P.135

症例提示
 患者:64歳,女性.
 既往歴:高血圧,糖尿病にて加療中.

トピックス

感受性検査の迅速化

著者: 町田勝彦

ページ範囲:P.137 - P.141

はじめに
 現在の細菌検査室で行われている薬剤感受性検査の多くは,発育した集落から菌液を作製した後に,MicroScan Walk a way, VITEC 2, MIC 2000,センシタイターなどの微量液体希釈法や昭和ディスク法,3濃度ディスク法,E-テスト法などのディスク法にて測定され,病原細菌に対する有効な抗生物質の判定と選択が行われている.測定時問は最も早いVITEC 2システムで6時間を要し,他の方法では18時間が必要であるとされている.薬剤感受性検査の迅速化は,適正な抗生物質の選択を早期に行うことができ,薬剤費の節約に有効であるとされるために,その実現が強く求められている.本稿では現在国内で開発された,または開発中の薬剤感受性検査法について触れ,筆者らが開発中の酸素電極を用いる方法について述べる.

小規模病院におけるイントラネットの活用

著者: 井沖浩美 ,   片岡浩巳

ページ範囲:P.141 - P.144

はじめに
 インターネットでは,電子メールやファイル転送,WWW,リモート接続など,TCP/IPを利用したアプリケーションを活用できる.この技術を企業や細織内のシステムに利用する方法がイントラネットである.この方式の利点は,従来のネットワーク方式では不可能であったWindowsやMacintoshなどの異なるOSのマシンを同じネットワークで接続できることや,開発や保守の容易性,使用する機器の低価格化と設定の簡易化などが挙げられる.
 本稿では,イントラネット方式を用いて施設内のネットワークを自主構築した国立療養所東高知病院の事例を紹介する.

今月の表紙

空胞変性円柱

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.136 - P.136

 症例:眼科,55歳,男性.
 診断:糖尿病性網膜症,糖尿病性腎症.

けんさ質問箱

Q 小児の起立性調節障害の検査

著者: 菊池豊 ,   M.N.

ページ範囲:P.155 - P.156

 小児外来で起立性調節障害を検査する場合,どのように検査するのがよいのでしょうか.また,心電計にはRR間隔解析機能が付いておりますが,それを活用することはできるのでしょうか.

Q 肝疾患時のGOT/GPT<1の解釈

著者: 飯田眞司 ,  

ページ範囲:P.156 - P.157

 急性肝炎および肝損傷の初期にはGOT>GPTが普通ですが,交通事故の患者が搬送された際,CT上に肺と肝の損傷を認め,事故後1時間の生化学検査でGOT 639 GPT>1.044,LDH>1,564(フジドライ5500で検査)でした.「肝炎ウイルスの抗原・抗体価」(『検査と技術』23:638,1995)にはGOT/GPT<1とありますが,この場合,GOT/GPT<1をどう解釈したらいいのでしょう.尿蛋白,BUN,血中クレアチニンとの相関もあまりないと思いますが,それはどうしてでしょう.

検査じょうほう室 輸血:輸血検査と血液型の謎

不規則抗体スクリーニング検査

著者: 鈴木由美

ページ範囲:P.158 - P.161

はじめに
 不規則抗体スクリーニングは,各々の検査の特徴を理解したうえで,いくつかの方法を組み合わせて行う.方法を図1および図2に示す.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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