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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術29巻3号

2001年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

麻疹(はしか)

著者: 星野直 ,   黒木春郎

ページ範囲:P.220 - P.222

新しい知見
 麻疹ウイルスの感染力は既存の伝染病の中では最強とされている.感受性者であれば,小児に限らず成人でもほぼ100%の確率で感染し麻疹を発症する.急性期には白血球数,特にリンパ球数が著明に減少し,一過性に極度の免疫不全状態に陥る.その免疫不全状態は長期に及び,特に1歳以下の乳幼児,成人ではリンパ球数の正常化までに6週間以上を要し,Bリンパ球の減少はさらに長期化するとされている1).ワクチンの普及により患者数は減少したが,その根絶には至っておらず,乳児麻疹,second vaccine failureによる年長児,成人発症例の増加,修飾麻疹といった新たな問題も出現している.

技術講座 生化学

血清中ALP活性測定法

著者: 小池亨 ,   山崎浩和 ,   多田正人 ,   細萱茂実 ,   尾崎由基男

ページ範囲:P.225 - P.230

新しい知見
 ヒト血清中ALP活性測定法として,日本臨床化学会より勧告された方法が広く普及している.基質として4-ニトロフェニルリン酸を用いる場合,緩衝液の種類によりALPの各アイソザイムの活性が大幅に変動する.さらに,食事と血液型により,ALP活性値に変動が認められるとの報告がある.近年の分子生物学の進歩により,ALPの構造や遺伝子上での研究が飛躍的に発展した.また,免疫学的手法による骨型ALPの自動定量法が開発された.一方で,緩衝液の差による反応性の違いを利用する方法の報告もある.

免疫

LKM-1抗体の測定

著者: 銭谷幹男

ページ範囲:P.231 - P.234

新しい知見
 LKM-1抗体は肝腎ミクロソーム-1抗体と呼ばれる自己抗体で,2型自己免疫性肝炎の診断に有用な自己抗体である.この2型自己免疫性肝炎は抗核抗体が陰性で,LKM-1抗体が陽性を示すもので,抗核抗体あるいは抗平滑筋抗体が陽性を示すプロトタイプである1型に比し頻度は低く,わが国ではまれである.しかし,LKM-1抗体の対応抗原はシトクロム(cytochrome;CY)P450IID6であることが示され,さらにC型肝炎の5%の症例でこのLKM-1抗体が陽性を示す症例が存在することや,CYP450IID6とC型肝炎ウイルスの遺伝子には類似性を示す部分が存在することなどにより,LKM-1抗体の出現と肝障害発現の免疫応答の関連性が注目されてきた.

病理

minimal residual disease(MRD)検出法

著者: 日髙惠以子 ,   廣田雅子 ,   山内一由 ,   上野一郎 ,   戸塚実

ページ範囲:P.235 - P.240

新しい知見
 染色体転座を有する白血病では,転座の結果形成されるキメラ遺伝子が転座点近傍の癌遺伝子などを活性化して発症に関与することが明らかにされている.キメラ遺伝子の存在は病型特異的であり,この検索により白血病細胞の質的診断が可能である.さらに,ウイルムス腫瘍の責任遺伝子として発見されたWT1遺伝子はほとんどすべての白血病で発現していることが報告され,病型にかかわらないマーカーとして注目されている.また,遺伝子増幅法により残存する腫瘍細胞を高感度に検出することが可能となり,診療に応用されている.最近開発された定量PCR法は,残存腫瘍細胞量をモニターすることで治療効果の判定および再発の予測を可能にした.

血液

非特異的エステラーゼ染色

著者: 阿南建一

ページ範囲:P.243 - P.249

新しい知見
 酵素染色の1つとして用いられているエステラーゼ(EST)染色は,単球系細胞を同定する方法として単一的な非特異的EST染色(α-NBE,α-NAE)が好んで用いられる.また,顆粒球系細胞の同定に用いられる特異的EST染色と組み合わせた二重染色がある.
 細胞マーカーや免疫酵素抗体法の発達により,本染色を含む細胞化学染色法に新しい知見は見あたらない.しかし,特異的所見ならびに話題として,①二重染色の二重陽性所見は,白血病化による分化異常を意味するものであり,②急性骨髄単球性白血病(FAB;M4)において,病的現象としてときに非特異的EST染色に陰性の単球が存在(M4の10%)したり,③α-NAE染色をpH 5.8に傾けること(酸エステラーゼ染色)でTリンパ球(CD4,ヘルパーT)の証明に有用となる,などは興味ある知見といえる.ただし,②については,外国文献による知見は見あたらず,手技的なものが絡む場合も考えられるので,今後の検討課題としては重要である。

微生物

チール・ネールゼン染色とその評価

著者: 日暮芳己 ,   奥住捷子

ページ範囲:P.251 - P.255

新しい知見
 抗酸性染色法には加温染色のチール・セールゼン染色,冷式染色のキニヨン染色および蛍光法がある.前2者を用いた場合,結核菌は青色の背景に赤色の桿菌として染色され,蛍光法では黄橙色または赤橙色に染色される.チール・セールゼン染色およびキニヨン染色では抗酸菌以外の菌も染色され,結核菌以外のMycobacterium spp.,Nocardia spp. やCryptosporidium, Isosporaのシストなどが染色される.
 結核菌は空気感染により感染が拡大するために,結核症の活動分類が従来のX線所見重視から結核菌検査の結果をさらに重要視するようになり,特に抗酸菌塗抹検査陽性患者の扱いは重要である.

絵で見る免疫学 基礎編・15

モノクローナル抗体とその応用(その2)

著者: 高木淳 ,   玉井一 ,   隈寛二

ページ範囲:P.258 - P.259

デノボ経路とサルベージ経路(図1)
 DNAの最小単位は,5個の炭素原子からなる糖(リボース;ribose)の1番目の炭素原子に塩基(base)が結合したヌクレオシド(nucleoside)である.その塩基は,A(アデニン),G(グアニン),C(シトシン),T(チミン)の4種類のいずれかである.さらにその5番目の炭素原子にリン酸が結合したものをヌクレオチド(nucleotide)という.したがって,DN(デオキシリボ核酸)はヌクレオチドが重合したものである.
 ヌクレオチドは2つの経路で生合成される.デノボ経路(新規合成経路;de novo pathways)とサルベージ経路(再利用経路;salvage pathways)である.デノボ経路は,代謝前躯体であるリボース-5-リン酸とアミノ酸,CO2,NH3を素材として,ヌクレオチドを生合成する.サルベージ経路は核酸(DNAやRNA)の分解によって放出された遊離の塩基やヌクレオシドを再利用し,TK(thymidine kinase)とHGPRT(hypoxanthine guanine phosphoribosyl transferase)という2つの酵素を用いてヌクレオチドを生合成する.

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・3

細胞2.細胞周期と細胞死

著者: 田村高志

ページ範囲:P.260 - P.262

細胞周期とは
 細胞は規則正しい周期を経て分裂・増殖していく.細胞が分裂してから次の分裂が終了するまでのサイクルを細胞周期(cell cycle)と呼ぶ.細胞は細胞周期の間にDNAを複製して2個の娘細胞へ遺伝情報を正確に伝えていく.細胞周期にはこのDNA複製を行う合成期(synthesis;S期)と,その前のDNA合成準備期(gap 1;G1期),後の細胞分裂準備期(gap 2;G2期)の2つの過程があり,細胞分裂期(mitosis;M期)へと続く.すなわち,細胞周期はG1→S→G2→M→G1の順にサイクルを回る(図1).
 M期は前期(prophase),中期(metaphase),後期(anaphase),終期(telophase)の4つに分かれている.M期には染色体の凝縮(chromosomecondensation)が起こり,その染色体が赤道面に並び,中心体から伸びてきた紡錘糸に引っ張られて,それに続く細胞質分裂によって2つに分かれる.M期は細胞周期の中で最も活動しているように見られるが,細胞周期全体から見るとごく短い時間(約0.5〜1時間)である(細胞分裂については次回解説する).

検査データを考える

高クロール血症

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.285 - P.287

はじめに
 血清あるいは血漿中のクロール(Cl)濃度は,ナトリウム(Na)およびカリウム(K)とともに電解質検査としてセットで測定される.しかし,臨床的には血清Clの異常自体が症状を呈することはないが,生体の酸-塩基平衡を知る1つの指標としては極めて重要である.
 生体内には平均33mmol/kg体市でClが存在する.その分布は血漿に13.6%,組織間液に37.3%,結合組織内に17.0%,骨に15.2%,体腔液に4.5%,細胞内に12.4%の割合である.すなわち,その約90%は細胞外液に存在している.図1に細胞外液の代表である血清中の電解質組成を示した.血清中の陽イオンの大部分はNaである.また,陰イオンはClが最大であり,ついで重炭酸(HCO3),蛋白である.

臨床検査に必要な統計処理法・15

単回帰分析の多次元への拡張—多変量解析法[2] 重回帰分析の考えかた

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.289 - P.292

はじめに
 一般に,回帰分析の目的は2通りある.一方は特定の変量を他の変量で予測しようとする場合で,他方は特定の変量に対して他の変量がどの程度関連しているのかを検討する場合である.いずれも,解析の日的となる特定の変量(y)を目的変量と呼び,予測または説明のために用いる変量(x)のを説明変量という.ここで,目的変量を説明変量の線形式y=f(x),すなわち線形回帰式で表すことが一般的であるが,説明変量が1つの場合を単回帰分析と呼び,xとyの関係は一次回帰式y=b0+b1x1で表される.説明変量が2つ以上,p個の場合は重回帰分析と呼ばれ,目的変量と説明変量の関係は重回帰式y=b0+b1+x1+b2x2+…+bpxpで表される.重回帰分析は一見難解に見えるが,基本的には単回帰分析の多変量データへの拡張である.多種類の情報を一度に扱うことが多い医療情報解析の分野では,比較的多用される多変量解析法の一手法である.

ラボクイズ

問題:呼吸機能検査【2】

ページ範囲:P.256 - P.256

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.257 - P.257

オピニオン

学校心臓検診の問題点

著者: 信岡祐彦

ページ範囲:P.223 - P.223

学校心臓検診の始まり
 学校心臓検診は,昭和48年(1973年),学校保健法施行規則が一部改正され,学校心臓検診を行うことが義務づけられたことで体系化されました.当初は地域ごとに独自の方法,独自のシステムで行われていましたが,その後,検診のシステムや実施項目についての統一が図られ,現在,学校心臓検診は全国どの地域においても心電図検査を中心とした方法を用いて実施されています.また,学校生活を中心とする日常生活の指導については,心臓病管理指導表が作成され,これをもとにして心疾患児童の管理指導を行う体制が整ってきています.

けんさアラカルト

糖尿病療養指導士(CDE)の認定試験—臨床検査技師とCDEとの関係

著者: 鈴木節子

ページ範囲:P.224 - P.224

はじめに
 わが国において糖尿病療義指導士(CDE)制度が構築されつつある.昨年,認定機構が発足し,臨床検査技師が看護婦(士),管理栄養士,薬剤師,理学療法士などと一緒に認定試験受験対象者となっている.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

子宮頸部(6) 子宮頸部扁平上皮癌の細胞診

著者: 都竹正文 ,   手島英雄

ページ範囲:P.263 - P.265

微小浸潤扁平上皮癌
 子宮頸部の微小浸潤扁平上皮癌(microinvasivesquamous cell carcinoma)は微小浸潤を示す扁平上皮癌である(図1;矢印).
 子宮頸癌取扱い規約(1997年,改訂第2版)では,微小浸潤とは癌細胞の間質内浸潤を組織学的に確認することができ,かつ浸潤の深さが表層基底膜より計測して5mmを超えず,またその縦軸方向の広がりが7mmを超えないものとされている.本病変は臨床進行期ではIa期に分類される.なお,さらに浸潤の深さが3mmを超えないものをIa 1期,それ以外のものをIa 2期と定めている.

血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・1 赤芽球系の異常

2.数の異常と形態異常 赤芽球の減少と形態異常

著者: 大畑雅彦

ページ範囲:P.266 - P.269

形態学的所見(図1)
 図1から特徴ある所見を2つ挙げることができる.第1に核の濃染した赤芽球系細胞が観察されないこと,第2に中央にある強い好塩基性の細胞質を有した異常な巨大細胞が認められる点である.この巨大細胞は,細胞質の好塩基性の程度,核のクロマチン構造や核小体の形状から巨大前赤芽球と判断できる.本症例は小児で,血小板数の著減を指摘され,骨髄穿刺を施行した症例である.中央の巨大細胞の判別が診断的プロセスのポイントとなる.

生化学 精査と治療に生かす検査データ

肺癌

著者: 児玉哲郎

ページ範囲:P.270 - P.272

はじめに
 肺癌は難治癌の1つであり,今なおその5年生存率は20%程度と低い.肺癌には多彩な組織型が見られ,主として扁平上皮癌,腺癌,小細胞癌,大細胞癌の4大組織型に分類され,その生物学的性状も異なるが,治療法の面からは大きく小細胞癌と,それ以外の組織型を一括して非小細胞癌に分類される.肺癌の中でも小細胞癌は機能性腫瘍(functioning tumor)の代表として知られており,クッシング(Cushing)症候群やADH(antidiuretic hormone=vasopressin)分泌不適切症候群(syndrome of inappropriate secretion ofADH;SIADH)などが見られる.そのため,診断・治療における臨床検査の役割は少なくない.

トピックス

ハーモニックイメージング法

著者: 廣岡芳樹 ,   後藤秀実 ,   伊藤彰浩 ,   橋本千樹 ,   丹羽克司 ,   早川哲夫

ページ範囲:P.293 - P.298

はじめに
 近年,末梢から投与可能な超音波造影剤の開発が進んでいる1).わが国では,一昨年,レボビスト(田辺製薬,日本シェーリング)が発売され,循環器,腹部領域などにおいて精力的にレボビストを用いた超音波検査の研究がなされている.
 ハーモニックイメージング法は,これら超音波造影剤の造影効果を,効率よく画像化するために開発された手法である.一方,超音波を送信したときに組織からハーモニック成分が発生することは以前から知られていたことである2〜4).筆者らは,超音波造影剤を使用せずにハーモニックモードで観察することの有用性について報告してきた5〜7).本稿では,超音波造影剤を使用しないハーモニックイメージング法(ティッシュハーモニックイメージング法)と造影ハーモニックイメージング法について述べる.

輸血検査の自動化

著者: 加藤俊明 ,   石丸健 ,   池田久實

ページ範囲:P.298 - P.302

■輸血検査の現状
 マスコミなどで異型輸血が報じられるたびに,院内における輸血管理体制のありかたが厳しく問われている.厚生省は一昨年,最近の輸血療法の進歩と医療現場の現状などを踏まえ,11年ぶりに輸血療法法に関するガイドラインを改訂し,「輸血療法の実施に関する指針」として発表した1).これによると,血液型や交差適合試験を担当する検査技師の配置は24時間体制が望ましいと,人的体制の整備による輸血検査精度の向上を求めている.しかしながら,現実の医療環境を考えると,輸血検査部門における人的な補充は決して容易ではなく,いかにして現行人員で指針に基づく輸血検査の24時間体制に取り組むか,苦慮しているのが実情であろう.
 従来より,輸血検査は他の臨床検査とは異なった專門性が要求されてきた.その原因の1つとして,輸血検査の手技に起因した問題点が上げられる.交差試験をはじめとして,輸血検査の多くが試験管内の微細な赤血球凝集反応を目視判定するものであり,その判定や解釈には知識と経験を要するため,日頃,輸血検査に携わらない技師にとって,輸血後,やり直しのきかない輸血検査は技術的にも精神的にも大きなストレスとなる.また,判定後の凝集像をそのまま保存できないことから,検査精度の信頼性を客観的に確認できないという点もある.このため,以前からこれらに対応した輸血検査の自動化と効率化が強く望まれてきた.

シトルリン血症とその遺伝子診断

著者: 小林圭子 ,   安田智嗣 ,   山口直喜 ,   佐伯武頼

ページ範囲:P.302 - P.304

はじめに
 尿素サイクルの律速酵素であるアルギニノコハク酸合成酵素(argininosuccinate synthetase;ASS)の異常は,シトルリン血症(citrullinemia)を引き起こす.Kobayashiらが1999年に論文発表した新規遺伝子SLC 25 Al3の発見1)は,筆者らのこれまでの提唱2)「シトルリン血症は異なる病因に基づき2病型に分類される」を確定的なものにした.その結果,シトルリン血症は,①ASS遺伝子自体の異常に起因する古典型シトルリン血症(CTLN1)と,②SLC 25 A13遺伝子の異常に基づき,肝臓特異的にASS蛋白質が低下する成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)とに明確に定義づけられ(表),いずれも遺伝子診断が可能となった.特にSLC 25 A13変異の遺伝子診断は,これまで酵素学的診断しかできなかったCTLN2において飛躍的な進展をもたらしている.
 本稿では,2病型のシトルリン血症を区別し,それぞれの遺伝子診断の現状と最近の知見を紹介する.

今月の表紙

ウイルス感染細胞

著者: 今井宣子

ページ範囲:P.240 - P.240

 症例:小児科,10歳,男児.
 診断:白血病.同種骨髄移植後,無菌室にて経過観察中.

検査じょうほう室 一般:一般検査のミステリー

尿沈渣中に認められた細長い奇妙な細胞

著者: 川辺民昭

ページ範囲:P.278 - P.279

はじめに
 尿沈渣中にはさまざまな細胞が出現しますが,ときに「おや,これは何だろう」と判定に困る場合があります.そして,あまり見慣れないものを認めたとき,何かおかしいと感じたときが,臨床的に重要なケースであることも多いように思われます.
 そのような例の中から,尿沈渣を契機に診断された扁平上皮癌の2例について述べます.

生理:心電図検査のスキルアップ

心電図右側胸部誘導の記録

著者: 土居忠文

ページ範囲:P.280 - P.281

はじめに
 心電図検査では,一般に標準12誘導を記録するが,ときには右側胸部誘導(図1)などの追加補助誘導を記録しなければならない場合がある.これは,臨床に価値ある情報を提供するために,検査技師が記録時に独自の判断で行わなければならないことが多い.
 今回は右室梗塞,右胸心や,幼児,小児などにおいて診断の助けとなる右側胸部誘導の記録について述べる.

病理:病理標本に見られる不思議な現象

X染色体のはなし

著者: 高山英次

ページ範囲:P.282 - P.284

はじめに
 「なぜ,雌雄(男女)両性が必要か?」という質問に,「子孫を残すため」であるとか「遺伝子の多様性を生み出すため」とかいった,いかにも頭のよい小学生のような答えを聞くことが多いように思う.子孫を残すためであるならば無性生殖(単個体だけからの分裂による繁殖)で,遺伝子の多様性獲得のためであるならば同型配偶子の接合で,あるいは雌雄同体でもこれらの目的は全うされる.むしろ子孫を残すためや遺伝子の多様性を生み出すためならば,無性生殖や雌雄同体のほうが合理的であるかもしれない.なるほど植物では雌雄別個体であるコケ類や裸子植物からより進化した被子植物が雌雄同体である.ところが動物では,脊椎動物でも無脊椎動物でも,それぞれで最も進化的に高等であるとされる哺乳類や昆虫類は雌雄別個体である.カタツムリも雌雄同体とはいえ,2個体での有性生殖(配偶子の接合による繁殖)の際には一方の個体が雌性,もう一方の個体が雄性として振る舞う.魚類では成体になってから性転換する例もあれば,爬虫類では受精後の胚発生過程の環境によって個体の性決定がなされる例も知られる.そして,哺乳類や昆虫類では受精と同時に雌雄どちらか一方の性が決定され,発生過程でこの決定が変更されることはない.動物では進化的高等化に伴って,性がより発生の早い段階で決定する仕組みになっているようである.

けんさ質問箱

Q 肝機能異常患者に見られるCK上昇

著者: 前川真人 ,   A.Y.

ページ範囲:P.273 - P.274

 慢性肝炎患者でGOT,GPTが上昇すると,CKも上昇し,基準値の3〜4倍になる例が見られます.試薬はJSCC勧告法に対応した試薬です.患者には臨床的に心疾患はなく,CK上昇に関与するような薬剤も特に服用していません.また,肝機能異常を示す患者の中にもそのような傾向がときどき見られます.なぜCK上昇を示すのか,ご教示いただきたく存じます.

Q 精液検査における染色率

著者: 市川恵子 ,   K.I.

ページ範囲:P.275 - P.277

 精液検査ではエオジン液を使用した染色率という項目があるとうかがいました.染色液の組成,具体的な検査法などについてご教示ください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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