icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術29巻7号

2001年06月発行

雑誌目次

増刊号 病理組織・細胞診のための日常染色法ガイダンス

染色目的による染色法の選択

著者: 松谷章司 ,   斉藤信昭

ページ範囲:P.624 - P.628

1.基本となる日常染色法

ヘマトキシリン・エオジン染色

著者: 河又國士

ページ範囲:P.630 - P.637

目的
 光学顕微鏡を用いて病理組織学的診断を行うには,細胞および組織構造の形態的全体像をよく理解する必要がある.このため,細胞や組織の構成要素を平均的によく表現できるヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain, HE染色)が利用されている.
 よく染色されたHE染色標本では,ヘマトキシリンで細胞核が濃青紫色から藍色に,軟骨基質,粘液の一部,石灰化巣,微生物の一部,好塩基性物質なども青紫色から淡青色に染まる.一方のエオジンでは細胞質,種々の線維成分,赤血球や好酸性物質,顆粒などが淡赤色から濃赤色に,コントラストよく染め分けられる.また一部の成分は両者の色調をとるものもある.単純な染色のわりに構成要素を濃淡の差で表現し,多くの情報を提供する.日常の病理組織学的検査に必須の染色で,この染色なしでの病理診断はあり得ないところから,一般染色または普通染色という.

2.結合組織の日常染色法 a)膠原線維の染色法

アザン染色

著者: 大塚俊司

ページ範囲:P.640 - P.643

目的
 アザン染色(Azan stain)は,本来マロリー(Mallory)が考案した酸性フクシンを用いる膠原線維染色法〔マロリー染色(Mallory stain)〕をハィデンハイン(Heidenhain)が改良したもので,アザン・マロリー染色(Azan-Mallory stain)ともいう.これは酸性フクシンの代わりにアゾカルミンGを使用したもので,マロリー染色と同様に,膠原線維,細網線維などをアニリンブルーで青色に,筋線維や細胞核などをアゾカルミンGで赤色に染める.膵ランゲルハンス島などの細胞内分泌顆粒,硝子滴変性,線維素などの病的産物を染め出す点においても効果的な染色法である.
 しかし,アザン染色はマッソン染色(Massonstain)に比べ,染色に長時間を要すること,およびオレンジGの染色性が劣っているなどの難点が多く,現在では,マッソン染色が多く用いられている.

マロリー染色

著者: 大塚俊司

ページ範囲:P.644 - P.646

目的
 マロリー染色(Mallory stain)は,マロリーが1905年に考案した染色法で,酸フクシンとアニリンブルー・オレンジG混合液により染色する方法であり,筋線維と膠原線維の鑑別に有用である.また,細胞内の分泌顆粒,分泌物,硝子様物質なども染色される.現在では,後にハイデンハイン(Heidenhain)が改良した染色法〔アザン・マロリー染色(Azan-Mallory stain)〕が広く用いられている.マロリー染色は原法では染色に長時間を要するが,ここでは短時間で染色可能な方法を紹介する.

マッソン・トリクローム染色

著者: 野村利之

ページ範囲:P.647 - P.650

目的
 線維性結合組織は生体内に広く分布し,膠原線維,細網線維,弾性線維の3種の線維に分類される.この中の膠原線維,細網線維を選択的に染める代表的な染色法がマッソン・トリクローム染色(Masson-trichrome stain)である.
 マッソン(Masson,1929年)がマロリー(Mallory)の原法(Mallory stain)とワンギーソン染色(van Gieson stain)を加味して考案した方法で,核をヘマトキシリンで黒く染め,膠原線維をアニリンブルーで青く,その他の細胞質,筋線維などを酸性フクシンで赤く染める3色染色法(trichrome stain)である.

b)弾性線維の染色法

エラスチカ・ワンギーソン染色

著者: 髙田多津男

ページ範囲:P.651 - P.653

目的
 エラスチカ・ワンギーソン染色(elastica-van Gieson stain)は,組織内における各種の結合組織,特に線維性結合組織である弾性線維成分と膠原線維成分を染め分ける染色法である.数ある結合組織染色法の中でも,色合いの美しさの点で群を抜いている.ピクリン酸の黄色と酸フクシンの赤色によるコントラストが優れた診断効果を発揮する.結合組織は身体の中で臓器あるいは細胞を支持し,その保存に重大な役割を担っているので,そのバランスが崩れているような状態のとき,例えば心筋梗塞における心筋の線維化などの症例では,その染色効果は抜群である.また,血管炎における弾性線維の状態や肺線維症における弾性線維と膠原線維の状態を鏡検し診断するに当たり,有用な染色法となる.

エラスチカ・ゴルドナー染色

著者: 髙田多津男 ,   大崎博之 ,   中村宗夫

ページ範囲:P.654 - P.657

目的
 エラスチカ・ゴルドナー染色(elastica-Goldner stain)は,組織内における各種の結合組織,特に線維性結合組織である弾性線維成分と膠原線維成分を染め分ける染色法である点では,エラスチカ・ワンギーソン染色(elastica-van Giesonstain)となんら変わらない.
 しかしながら,その色調はまったく異質のものであり,全体に青色調が強い.つまり,エラスチカ・ゴルドナー染色では,膠原線維が緑青色,細胞質が赤色調に,また弾性線維は黒紫色調に染色される.

レゾルシン・フクシン染色

著者: 舘林妙子 ,   篠田宏

ページ範囲:P.658 - P.661

目的
 レゾルシン・フクシン染色(resorcin-fuchsinstain)は弾性線維の確認に用いられ,通常,結合線維染色法であるエラスチカ・ワンギーソン染色(elastica-van Gieson stain)に利用されることが多い.
 弾性線維(エラスチン)は,詳細は不明であるが,プロリン,グリシンに富む黄色の線維状糖蛋白(70kDa)で,低分子球状蛋白のプロエラスチンとして細胞から分泌され,トロポエラスチンを経てエラスチンとなる.さらに,このエラスチンの表面に酸性の糖蛋白(ミクロフィブリル)である10nm径の原線維(フィブリリン)が強固に結合して弾性線維を成している.これらは通常,強い酸性を示すカチオン(陽荷電物質)を有するため,アルコール存在下の酸性色素(特にcationic dye)に選択的に染色される.また,鉄塩の存在やクロム化によって好塩基性を示し,塩基性色素(レゾルシンの有無に無関係)に染色される.エラスチンの明らかな特徴は,煮てもゲラチンを作らず,エラスターゼにより消化される点である.

c)細綱(好銀)線維の染色法

渡辺鍍銀法

著者: 布施恒和

ページ範囲:P.662 - P.666

目的
 渡辺鍍銀法の目的は,結合組織の線維成分の主体をなす細網線維(reticulum fiber)と膠原線維(collagen fibber)を染め出すことである.
 細網線維は膠原線維の亜型であるcollagentype IIIと考えられ,一般的に走行の形態から格子状線維,また銀親和性が高いことから好銀線維(argyrophil fiber)と呼ばれている.これは脾,肝,リンパ節などの網内系に多く存在する緻密で繊細な線維で,細網状〜格子状に配列している.この線維の走行状態は未分化な悪性腫瘍の鑑別(上皮性か,非上皮性か),間質性肺炎,脾炎,肝炎における線維化の進行状態の把握に極めて重要である.したがって,細網線維を明瞭に染め出す鍍銀法は病理組織学的診断に不可欠な染色法の1つとなっている.

N・F—渡辺変法

著者: 布施恒和

ページ範囲:P.667 - P.671

目的
 好銀染色は,結合組織の線維成分の主体をなす膠原線維,細網線維を染め出すのが目的である.特に細網線維は一般的に格子状線維,好銀線維と呼ばれ,脾,肝,リンパ節などの網内系に多く存在している.
 この線維の走行状態は未分化な悪性腫瘍の鑑別(上皮性か,非上皮性か),間質性肺炎,脾炎,肝炎における線維化の進行状態の把握に極めて重要であり,日常の病理検査に不可欠な染色法となっている.

PAM染色

著者: 岡本京子

ページ範囲:P.672 - P.675

目的1)
 腎糸球体は図1に示すように複雑かつ有機的な毛細血管毬で,基底膜の外側は上皮細胞に覆われ,内側は内皮細胞と毛細血管を支えるメサンギウムで構成されている.メサンギウムはメサンギウム細胞と,細胞間を埋めるメサンギウム基質とからなっている.図2は係蹄壁の模式図を示す.通常,ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain)は上皮細胞,基底膜が一緒に染まるので,基底膜そのものの変化を確実にとらえることはできない.しかし,PAM染色(Periodicacid-methenamine-silver stain;過ヨウ素酸メセナミン銀染色)は基底膜そのものが染まるので,基底膜という用語を用いて所見を述べることができる方法である.同じ基底膜を染めるPAS反応(periodic acid Schiff reaction;過ヨウ素酸シッフ反応)との相違点は,膜性腎症のときに見られる基底膜ならびに外側に向かって,ほぼ直角に出ている小さい棘状の小突起(spikes)をクリアに染め出すことである(電顕写真,図3).

ジョーンズPAM染色

著者: 則松良明 ,   中国恭美

ページ範囲:P.676 - P.678

目的
 PAM染色(periodic acid-methenamine-silverstain;過ヨウ素酸メセナミン銀染色)は,ゴモリ(Gomori)によるグリコーゲンおよびムチンのクロム酸・メセナミン銀染色をもとに,ジョーンズ(Jones)が1953年,腎糸球体の特殊鍍銀法として考案,1957年に発表した方法である.
 通常の鍍銀染色法では染めることができない細線維(基底膜;コラーゲンtype IV)を検出することが可能であり,特に糸球体腎炎の病理学的診断には欠かせない染色法である.

3.線維素の日常染色法

ワイゲルト法

著者: 鳥居良貴 ,   山本格士

ページ範囲:P.680 - P.682

目的
 ワイゲルト法(Weigert method)は,血漿中に含まれるフィブリノゲン(fibrinogen)が凝固・析出した線維素(フィブリン,fibrin)をはじめ,漿膜・粘膜・肺などで種々の炎症に伴う滲出物や,膠原病,リウマチ性肉芽腫,アレルギー性疾患の血管壁,およびその周辺に限局性に見られる線維素様変性,また播種性血管内凝固(disseminatedintravascular coagulation;DIC)症候群における微小血管内の線維素血栓などを染め出す染色法である.
 本染色法の原理は,組織内細菌染色のグラム染色(Gram stain)とほぼ同様である.機序ははっきり確立されていないが,塩基性色素溶液と酸性媒染剤であるルゴール液を作用させるとレーキが形成され,組織に沈着すると考えられている.しかし,線維素や類線維素に特異的な組織化学的反応ではない.

ピアスのPTAH法

著者: 髙田多津男 ,   大崎博之 ,   中村宗夫

ページ範囲:P.683 - P.685

目的
 リンタングステン酸ヘマトキシリン染色(phosphotungstic acid hematoxylin method;PTAHmethod)は,各種の顆粒あるいは線維素,筋線維,神経膠線維などを染める染色法である.特に結合織の中での筋線維,とりわけ横紋筋の染め分けが見事である.
 また,軟骨や骨が黄褐色に染まるので,気管支周辺の病変においては,骨形成の状態を知る染色法としても使用可能である.さらに,腎疾患でよく遭遇する糸球体内の沈着顆粒などもよく染め分けられて鑑別診断の補助とすることができる.そのうえ,中枢神経疾患における神経膠線維と結合織の鑑別にも応用できる染色法として高く評価されている.

AFIPのPTAH法

著者: 髙田多津男 ,   大崎博之 ,   中村宗夫

ページ範囲:P.687 - P.690

目的
 日常染色法の中でヘマトキシリンは,頻繁に使用されている.一方,組織内の他種類にわたる物質がヘマトキシリンと親和性を示すのも事実である.線維素,類線維素もその例外ではない.
 AFIPの染色法はアメリカのArmed ForcesInstitute of Pathologyという,全米はもとより世界的にも有名な研究施設で開発された染色法で,その実用的価値に対しては高い評価を受けている.このことから,染色法の名称もAFIPの方法と呼ばれている.AFIPの染色法はリンタングステン酸ヘマトキシリン染色(phosphotungsticacid hematoxylin method;PTAH method)といえるもので,線維素,類線維素,横紋筋を中心に,細胞核,糸粒体,神経膠線維,膠原線維,軟骨基質,骨などを染め分ける.

4.多糖類の日常染色法

PAS反応

著者: 宮平良満 ,   岩井宗男 ,   宮本敬子 ,   九嶋亮治 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.692 - P.694

目的
 PAS反応(periodic acid Schiff reaction)は,糖質を過ヨウ素酸で酸化して生じたアルデヒド基をシッフ(Schiff)試薬で赤紫色に呈色する反応で,多糖類を証明するうえで最も代表的な染色方法である.
 多糖類は通常,組成の違いから単純多糖類(グリコーゲン)と複合多糖類(粘液,アミロイド,核酸,糖脂質,その他)に分けられるが,組織および細胞診断学的にも多糖類を検出する目的で各種の染色法が利用されており,それぞれの染色方法に応じて陽性所見を示す多糖類の種類や色調も異なる.本稿では日常染色として主にグリコーゲン検出を目的として利用されているPAS反応について留意点も含めて記す.

ベストのカルミン染色

著者: 宮平良満 ,   岩井宗男 ,   宮本敬子 ,   九嶋亮治 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.695 - P.697

はじめに
 グリコーゲンは肝臓や筋肉をはじめ,さまざまな組織細胞中に存在するが,各種疾患などにおいて,それを証明するため,いくつかの染色方法が利用されてきた.その中でも現在ではα-アミラーゼなどによる消化試験も含めて,PAS反応(periodic acid Schiff reaction)が一般的な糖質の証明方法として主に活用されている.
 一方,古典的な方法で,最近ではあまり利用している施設は少ないものの,グリコーゲンの代表的な染色としてベスト(Best)のカルミン染色(Carmine stain)がある.

α-アミラーゼによる消化試験

著者: 宮平良満 ,   岩井宗男 ,   宮本敬子 ,   九嶋亮治 ,   岡部英俊

ページ範囲:P.698 - P.700

目的
 細胞質内の糖原(グリコーゲン)を染めることを目的として,古くからヨウ素反応やシッフ反応(Schiff reaction),そしてカルミン色素を用いた染色〔ベスト(Best)のカルミン染色(Carminestain)〕など各種の方法が利用されてきた.その中でも糖質を過ヨウ素酸で酸化させて生じたアルデヒド基をシッフ試薬で呈色する(シッフ反応)PAS反応(periodic acid Schiff reaction)が現在では一般的な糖質の証明方法として活用されている.
 しかし,いずれの方法においてもグリコーゲンのみならず粘液など他の多糖類も同時に染めてしまうので,陽性物質がグリコーゲンであることを証明するためには唾液やジアスターゼ,α-アミラーゼなどの消化酵素によってその物質が消化されることを確認しなければならない.

アルシアン青染色

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.701 - P.703

目的
 アルシアンブルーは酸性粘液多糖類のカルボキシル基,あるいは硫酸基と結合して酸性粘液多糖類を染め出す.pH2.5の染色液では,カルボキシル基や硫酸基を有する酸性粘液多糖類を染め,pH1.0の染色液では硫酸基を有する酸性粘液多糖類のみを染める.このように,アルシアン青染色(Alcian blue stain)では染色液の水素イオン濃度によって染色される酸性粘液多糖類が異なってくる.酸性粘液多糖類はカルボキシル基を有するヒアルロン酸と硫酸基を有するムコイチン硫酸,コンドロイチン硫酸,ケラト硫酸,ヘパリンなどに分類されている.組織成分から見ると,酸性粘液多糖類は腺上皮細胞から分泌される粘液,軟骨,肥満細胞の顆粒,細胞膜表面のsurfacecoat,結合織や支持組織の細胞間物質として生体に広く存在している.したがって,アルシアン青染色陽性を示す腫瘍細胞は,これらの組織成分を発生母地とする腫瘍細胞の由来の推定や腫瘍細胞の粘液の証明など,鑑別診断の一助となっている.
 また,組織化学的な酸性粘液多糖類の鑑別方法は酵素の基質特異性を利用して,酸性粘液多糖類を消化後にアルシアン青染色を行う.その染色性の有無から酸性粘液多糖類を推定し,詳しく分類するときにも用いられる.

アルシアン青pH2.5-PAS重染色法

著者: 羽山正義 ,   百瀬正信 ,   石井恵子

ページ範囲:P.704 - P.707

目的
 アルシアン青pH 2.5-PAS重染色法(Alcianblue pH2.5-periodic acid Schiff stain;AB-pH2.5-PAS stain)は,酸性基と近接水酸基の両者を同一切片上で検出する方法である.本法で検出対象となる主な組織内物質としては,上皮性粘液細胞の分泌するシアロムチンやスルフォムチンなどの糖蛋白質,間質組織の構成成分として存在するコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸あるいはケラタン硫酸などのプロテオグリカンである.糖蛋白質は粘液細胞の分泌するムチンをはじめ,刷子縁,II型肺胞上皮,線毛上皮などのapicalplasma membraneで特に発達している糖衣(glycocalix=cell coat)や基底膜の主要構成成分であり,プロテオグリカンは結合組織,軟骨,滑膜,椎間板,心弁膜,大動脈壁,臍帯などに特に存在する.
 病理組織診断におけるこの重染色法は,これらの組織から発生する腫瘍組織がそれぞれの組織に特有な形質を受け継ぐ可能性が高いことから,上皮系の腫瘍で腺癌が疑われる場合の腫瘍細胞の含有するムチンの検出や刷子縁の有無の確認のために行われる.同時にPAS染色(preriodic acid Schiff stain)によって染色される基底膜の所見から腫瘍細胞の浸潤程度の確認にも利用される.

高鉄ジアミン・アルシアン青pH2.5重染色法

著者: 羽山正義 ,   百瀬正信 ,   小野謙三

ページ範囲:P.708 - P.712

目的
 高鉄ジアミン・アルシアン青pH 2.5重染色法(high iron diamine-Alcian blue pH 2.5 stain;HID/AB pH 2.5 stain)は,同一切片上で酸性ムコ物質のカルボキシル基と硫酸基を同時に検出することを目的とする方法である.すなわち,主として上皮性粘液細胞の分泌する粘液に存在するシアロムチンとスルフォムチンの鑑別や,間質組織の構成成分であるプロテオグリカンを,硫酸基を有するコンドロイチン硫酸,ヘパラン硫酸およびケラタン硫酸などと,硫酸基を有しないヒアルロン酸とに識別するのに用いられる.
 ところで生体内の酸性ムコ物質は,粘液細胞の分泌するムチン,刷子縁,II型肺胞上皮,線毛上皮,乳腺導管上皮,頸管円柱上皮などの膜に特に多く見られ,surface coatやfuzzy coatなどと呼ばれる糖蛋白質と,結合組織,軟骨,滑膜,椎間板,心弁膜,大動脈,臍帯などに存在するプロテオグリカンに分類される.これらの多くはカルボキシル基または硫酸基,あるいは両者を含有するため,アルシアンブルーなどの塩基性色素により検出することができる.

コロイド鉄染色(モーリイ変法)

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.713 - P.716

目的
 コロイド鉄染色(colloid iron stain)は酸性粘液多糖類を染める染色法である.酸性粘液多糖類が鉄イオンとの間に親和性があることは古くから知られていた.本染色は酸性粘液多糖類に結合したコロイド状の水酸化第二鉄がフェロシアン化カリウムと反応としてプロシアブルーを生成する化学反応を利用するものである.この反応はヘイル(Hale)反応と呼ばれ,Fe2+とは反応せずにFe3+と鋭敏に反応するため,Fe3+に対する特異性が高いとされている.
 一方,生体内で鉄はその大半は蛋白質などと結合して仮面鉄の形で存在しているため,鉄イオンとして遊離しているものは少ないとされている.このことから,鉄イオンを染め出すことによって間接的に酸性粘液多糖類を染め出す反応原理であるが,生体中で遊離鉄イオンの分布が少ないことから,本染色の陽性部は酸性粘液多糖類である確率が高くなることになる.ただし,肺などに見られるヘモジデリンを貪食した組織球は塩酸フェロシアン化カリウムと直接反応して偽陽性所見を示すものがある.これを除外するため,コロイド鉄液と反応させず,塩酸フェロシアン化カリウム液の操作から,反応させたコントロール切片で陽性部分が酸性粘液多糖類とは異なるものであることを確認しなければならない.

メタクロマジーを利用する方法(トルイジン青染色)

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.717 - P.721

目的
 酸性粘液多糖類はアニリン系塩基性色素と反応してメタクロマジー(異調染色)を起こす.例えば,トルイジンブルー水溶液で多くの組織成分は青色に染まるが,粘液や軟骨などは色素が本来有していない赤色調が出現して赤紫色に染まる.
 メタクロマジー自体は古くから知られていて,エールリッヒ(Ehrlich)は「ある色素で組織学的要素を染める場合,要素が色素溶液とは異なった色調で染色される」と定義している.溶液中でもメタクロマジーはアニリン系塩基性色素と酸性基を有する高分子化合物の間で起こり,最大吸収波長が長波長側にずれることが確認されている.病理組織学においてはメタクロマジーを起こす物質はコンドロイチン硫酸,ピアルロン酸,ヘパリンなどの酸性粘液多糖類や核酸,アミロイドなどがある.

5.アミロイドの日常染色法

アルカリ・コンゴー赤染色(プチトラー・スウィート法)

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.724 - P.727

アミロイドとは何か
 アミロイドは初めは類殿粉様の多糖類と考えられていたが,近年になって,X線回折によりβ構造を示し,電子顕微鏡でアミロイド細線維と呼ばれる線維状の蛋白を主成分とすることが明らかになってきた.現在では,アミロイドはこれらの特徴を有する蛋白物質の総称となっている.
 アミロイドの生成機序はよくわかっていないが,種々の生体反応の結果として前駆蛋白が特異な性質を示すアミロイド蛋白に変化するといわれている.このため,アミロイドを構成する蛋白成分は由来する前駆蛋白によって異なり,免疫グロブリンL鎖(κ鎖・λ鎖),血清アミロイドA(serum amyloid A;SAA)蛋白,プレアルブミン(トランスサイレチン),カルシトニン,プロラクチン,β2-ミクログロブリンなどが前駆蛋白としてわかっている.

ダイレクトファーストスカーレット染色

著者: 田村邦夫

ページ範囲:P.728 - P.730

目的
 ダイレクトファーストスカーレット染色(direct fast scarlet stain;DFS stain)は本来,木綿染料であるが,病理組織染色においてはアミロイドを染める.コンゴー赤染色(Congo redstain)とほぼ同様の染色結果を示し,偏光所見も同様の偏光色を示す.皮膚アミロイドやアミロイド苔癬にコンゴー赤染色は染まりが悪く,DFS染色はこれらによく染まるといわれている.また,染色液の調製が簡単で短時間に染められることや,分別の難しさがなく,膠原線維などの共染が少なく,個人差の少ない安定した染色結果が得られる点で,アミロイド染色法としてはまずは試みるべき染色法である.
 ただ,DFS染色はアミロイド染色法の中では新しく,広く知れわたっていないこともあって知見が十分に得られていない面がある.したがって,DFS染色で個々の陽性部でアミロイドかどうかの確認が求められる場合は,隣接切片でコンゴー赤染色を行って再確認し,さらに免疫組織化学的検索を行ってアミロイド蛋白を同定し,陽性部の信憑性を確かめたほうがよいと思われる.

チオフラビンT染色

著者: 高橋保 ,   森木利昭

ページ範囲:P.731 - P.733

目的
 チオフラビンT染色(thioflavine T stain)はヴァサー(Vassar)とカリング(Culling)によって1959年に報告された方法で,蛍光色素のチオフラビンT(thioflavine T)を用い,アミロイドを蛍光顕微鏡下に検出する方法である.染色機構は明らかにされていないが,光顕的な検出法としては最も感度が高く,特異性も比較的高い方法である.
 チオフラビンTは色素自体が蛍光物質であり,蛍光色素が光エネルギーを吸収したときに基底状態にあった電子が励起され,不安定な励起状態に遷移する.この電子がエネルギーを失い,もとの基底状態に戻るときに放出する光が蛍光である.組織内には弾性線維のように自家蛍光を発するものやアミロイド以外の組織成分ともチオフラビンTは結合することが知られており,他の染色法と対比しながら判定しなければならない.

6.組織内血液細胞の日常染色法

ギムザ染色

著者: 松本荻乃

ページ範囲:P.736 - P.738

目的
 ギムザ染色(Giemsa stain)は,細胞質,特に顆粒の性状,核クロマチンパターンなどの観察に適しており,種々系統の,各成熟段階の細胞を区別する目的で,血液や骨髄などの塗抹標本の染色として極めて有用な染色法である.骨髄やリンパ節などの造血組織の薄切切片にも同様の目的で従来から用いられてきた.
 染色にはいくつかの方法があるが,その中ではパッペンハイム(Pappenheim)が提唱したメイ・グリュンワルド(May-Grünwald)液とギムザ(Giemsa)液を用いたギムザ二重染色法は,骨髄組織標本でも塗抹標本の染色に匹敵するほど良好な結果が得られ,広く行われている.

ナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ染色

著者: 松本荻乃

ページ範囲:P.739 - P.741

目的
 酵素抗体法は著しく発展し,細胞の由来や分化段階を同定することが可能となり,日常検査として広く用いられるようになっている.しかし,ナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼ染色(naphtol AS-D chloroacetate esterasestain;ASD stain)はレーダー(Leder)が1964年に紹介して以後,今なお有意義で,血液疾患の特殊染色の1つとして欠くべからざるものである.これは好中球系細胞(肥胖細胞も陽性を示す)に発現しているナフトールAS-Dクロロアセテートエステラーゼを染色することにより,前骨髄球以降の好中球系細胞を同定する染色である.白血病細胞がこの染色法により多少なり陽性を示せば骨髄性白血病と確認することができるし,また陽性芽球細胞の多寡で分化程度を知り,急性骨髄性白血病の亜分類も推測できる.

ペルオキシダーゼ反応

著者: 日野浦雄之 ,   片岡寛章

ページ範囲:P.742 - P.744

目的
 ペルオキシダーゼ(peroxidase)は過酸化物(過酸化水素など)の存在のもとに基質を酸化する酵素であり,骨髄系細胞のほとんどのものに存在するといわれている.なかでも好中球や好酸球などに多く含まれている.しかし,リンパ球系細胞や幼若赤血球には存在しないという点から,ペルオキシダーゼ反応(peroxidase reaction)はこれら両者の細胞鑑別に応用されてきた.したがって,各成熟段階にある顆粒球系の細胞が陽性所見を示すため,白血球ペルオキシダーゼ反応は白血病(特に骨髄性白血病)に際して,腫瘍細胞の鑑別に有益な酵素染色法として広く利用されている.
 本反応は従来,骨髄の塗抹標本に対して行われてきた.組織標本に対しては各種の免疫組織化学的染色法の普及により,現在ではあまり汎用されていない.したがって,組織標本(各臓器の凍結切片)においては,詳しい細胞形態の観察が困難であるため,陽性所見による顆粒球系細胞の多寡を識別するにとどまるのが現状である.

ナディ反応

著者: 日野浦雄之 ,   片岡寛章

ページ範囲:P.745 - P.748

目的と原理
 日常染色法として診断に利用される血液細胞のオキシダーゼには,チトクローム・オキシダーゼとDOPA・オキシダーゼの2種類があることが知られている.
 オキシダーゼ反応(oxidase reaction)の染色目的は,骨髄性細胞とリンパ球性細胞との鑑別にある.したがって,顆粒球系細胞が陽性所見を呈することより,オキシダーゼ反応の染色目的はペルオキシダーゼ反応(peroxidase reaction)と同意義と解釈しても差し支えなく,その広義の反応原理もペルオキシダーゼ反応と同様である.

7.組織内病原体の日常染色法 a)一般細菌の染色法

レフレルのメチレン青染色

著者: 阿部美知子 ,   町田大輔 ,   市川つわ ,   久米光 ,   亀谷徹

ページ範囲:P.750 - P.752

目的
 感染症の診断のための病理組織標本の染色法としては,グラム染色(Gram stain)が最も代表的な染色法であるが,その他ギムザ染色(Giemsastain)や,推定される病原体によっては抗酸菌染色および真菌の染色などの特殊染色がある.
 メチレン青染色(methylene blue stain)は組織内の抗酸菌以外の細菌の有無を証明するために施行される最も簡便な染色法である.本来無菌的である臓器組織内に,病理組織学的に細菌が証明されることは,細菌感染症の診断において最も信憑性が高い.同様の目的で病理組織の培養検査も行われるが,培養検査では検出された細菌がすべて臓器組織由来とは限らず,場合によっては汚染菌が分離される危険性もある.

グラム染色(マッカラム・グッドパスチャー変法)

著者: 市川つわ ,   町田大輔 ,   阿部美知子 ,   久米光 ,   亀谷徹

ページ範囲:P.753 - P.755

目的
 組織内の病原体を証明する代表的な方法としてグラム染色(Gram stain)がある.グラム染色はグラム陽性菌とグラム陰性菌の識別が目的であり,ワイゲルト法(Weigert method),ハッカー・コン法(Hucker-Conn method),マッカラム・グッドパスチャー法(MacCallum-Goodpasture method),ブラウン・ブレン法(Brown-Brenn method),ブラウン・ホップス法(Brown-Hopps method),テイラー法(Taylor method)など種々の方法がある.いずれの方法もグラム陽性菌はクリスタルバイオレット(またはゲンチアナバイオレット)で染色後,ルゴール液で媒染してから分別しており,濃青色に染色されるが,グラム陰性菌はケルンエヒトロート,サフラニン,塩基性フクシンなど種々の赤い染色液で染めている.したがって,それぞれの染色法の相違は,グラム陽性菌の染めかたは同じであるが,グラム陰性菌や組織背景の染めかたの違いによるものであるといえる.
 グラム陽性菌と陰性菌の細胞壁には化学的構成成分に著明な差が見られ,これを利用してクリスタルバイオレット・ヨードの複合体が菌体内に残るか否かでグラム陽性菌,または陰性菌と呼んでいる.

b)抗酸菌の染色法

チール・ネルゼン染色(変法)

著者: 市川つわ ,   町田大輔 ,   阿部美知子 ,   久米光

ページ範囲:P.756 - P.759

目的
 結核は過去の病気と思われがちだが,近年,結核罹患率減少の鈍化や,逆に患者が増加傾向にあることが問題になっている.そのような中で結核菌の同定は日常の診断・治療を行ううえで重要な検査の1つである.
 結核菌は代表的な抗酸菌であり,この仲間にはほかに非結核性抗酸菌(非定型抗酸菌),らい菌などがある.抗酸菌は脂質に富んだ堅牢な細胞壁を有するために染色されにくいが,染色液に媒染剤として石炭酸を加えることにより染色される.また一度染色されると,酸やアルコールなどに抵抗性で脱色されにくいという特性(抗酸性)がある.

ファイト法

著者: 大塚俊司 ,   鈴木慶治 ,   川津邦雄

ページ範囲:P.760 - P.763

目的
 ファイト法(Fite method)は,らい菌(Mycobacterium leprae)など抗酸性が結核菌より弱い場合,あるいは結核菌(Mycobacterium tuberculosis)でも病巣が陳旧化し,菌の活動性が低下している場合など,チール・ネルゼン染色(Ziehl-Neelsen stain)では菌体が十分に染色されにくい際にも良好な染色性を示す優れた方法である.また,本来グラム陽性を示すノカルジア(Nocardia)は,陳旧化した病巣ではグラム陰性を示すため,グラム染色での証明が困難になるが,弱抗酸性を示すことから,グロコット染色(Grocottstain)などにより菌体を証明し,補助的に本法を行うことにより菌を同定することができる.

オーラミン・ローダミン蛍光染色

著者: 鈴木慶治 ,   高橋順子 ,   堀口日出子 ,   椎津稔 ,   矢島幹久

ページ範囲:P.764 - P.767

目的
 オーラミン・ローダミン染色(Auramine-Rhodamine stain)は蛍光色素を用いた抗酸菌染色法であり,病理組織標本,細菌塗抹標本のいずれに対しても行われる.蛍光顕微鏡による鏡検で,菌体が暗い背景に明るく光って観察され,低倍率で広い範囲を効率よく検索できる特徴を持っている.代表的な抗酸菌染色であるチール・ネルゼン染色(Ziehl-Neelsen stain)と比較して,本染色法の菌検出率の高さを指摘する報告がある1〜3)
 抗酸菌の大きな特徴の1つに,酸またはアルカリに対して抵抗性を持つことが挙げられる.他の一般細菌の細菌表面の化学的組成が親水性物質であるのに対して,らい菌,結核菌などの細胞壁は,ろう様物質であるミコール酸でできていると説明されている.この物質が存在するため,抗酸菌染色では石炭酸溶液に溶かした色素を使用し,加温染色する.染色後,抗酸菌は塩酸アルコールで洗っても,他の細菌と異なり脱色に抵抗する特性を有している.

c)真菌の染色法

グロコット染色

著者: 布施恒和

ページ範囲:P.768 - P.772

目的
 病理組織学的に真菌症を診断するには,組織内の菌体の確認と微細構造を把握して,真菌を的確に同定することが重要である.
 グロコット染色(Grocott stain)は,カンジダ(Candida),アスペルギルス(Aspergillus),クリプトコックス(Cryptococcus),ムーコル(Mucor)などの真菌,ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)などの原虫と,他の染色法で染色されにくい放線菌(Actinomyces),ノカルジア(Nocardia)などの原核真菌類も染め出す染色法である1〜4).特に菌体の膜成分を明瞭に染色するため,菌の特徴的構造の把握は容易となり,菌種の同定には不可欠な方法である.

グリドリー染色

著者: 田口勝二

ページ範囲:P.773 - P.776

目的
 組織標本で真菌症を診断するためには,病巣組織内から真菌要素を検出する必要がある.また,真菌は細菌より大きく形態に特徴があることが多いので,標本上で病原真菌の菌種の推定が比較的容易である.グリドリー染色(Gridley stain)は組織標本上で真菌を染めるのに適した方法の1つである.
 本染色法は,真菌の細胞壁の主成分であるキチンなどの多糖体をクロム酸で酸化し,生じたアルデヒド基をフォイルゲン(Feulgen)液またはシッフ(Schiff)液を用いて呈色する.その後,アルデヒド・フクシンで弾性線維を,またメタニールイエローで背景を染めることにより,組織構築と菌要素を見やすくした方法である.

d)HBs抗原の証明

オルセイン染色

著者: 林湯都子 ,   打越敏之

ページ範囲:P.777 - P.779

目的
 B型肝炎ウイルスのHBs抗原を染める.弾性腺維染色法のオルセイン(Orcein)に酸化操作を加えることによりHBs抗原が染まるようになったのは志方(1974年)以来である.
 またウィルソン(Wilson)病,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis;PBC)など,他の肝疾患での銅の検出にも有用である.

ビクトリア青染色

著者: 林湯都子 ,   打越敏之

ページ範囲:P.780 - P.781

目的
 B型肝炎ウイルスのHBs抗原と弾性線維を染色する.

e)Helicobacter pyloriの証明

ワルチン・スターリ法

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.782 - P.784

はじめに
 ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)は1983年,オーストラリアのワレン(Warren)とマーシャル(Marshall)によってヒトの胃粘膜より分離培養された,らせん状グラム陰性桿菌である.H. pyloriは胃炎,消化性潰瘍との関連が示唆されており,さらに胃癌,MALTリンパ腫などとの関係についても議論されている.H. pyloriの一般的な存在診断法は表に示すとおりである.それぞれの検査には長所,短所があり,複数の検査法を組み合わせて判定することが一般に行われている.
 組織形態学的にH. pyloriを同定する染色法としては,ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain,HE染色),ギムザ染色(Giemsa stain),ワルチン・スターリ法(Warthin-Starry method)などがある.その他に蛍光法のアクリジン・オレンジ法(acrysin-orangemethod),抗H. pylori抗体(DAKO社,ダイアヤトロン社などから市販されている)を用いた免疫組織学的検索法などが利用される.

8.内分泌細胞(細胞内内分泌顆粒)の日常染色法

フォンタナ・マッソン染色

著者: 當銘良也

ページ範囲:P.786 - P.789

目的
 フォンタナ・マッソン染色(Fontana-Massonstain)は,マッソン1)がフォンタナのアンモニア銀液を用いて虫垂のカルチノイドを染色したことに始まる.カルチノイド腫瘍のような内分泌細胞の検索にも用いられるが,腫瘍組織では陽性率が低いため,今ではメラニンやリポフスチンなどの証明法として用いられることが多い.クリプトコックス(Cryptococcus)は,ジフェノールを含む培養液で培養すると菌体自身が持つフェノールオキシダーゼによってメラニンを形成することが知られ,病理組織学的にはフォンタナ・マッソン染色で陽性2,3)となり,他の酵母様真菌との鑑別に有用とされている.

グリメリウス染色

著者: 當銘良也

ページ範囲:P.790 - P.792

目的
 好銀(argyrophil)細胞染色のうち広く用いられているのがグリメリウス染色(Grimelius stain)である.グリメリウス染色1,2)は,低濃度の硝酸銀水溶液に浸し,吸着した銀イオンを還元剤で還元沈着させる方法である.神経内分泌顆粒の検索のために用いられ,カルチノイドなどの内分泌腫瘍の検索,その他腫瘍の内分泌方向への分化を確認するために行われることが多い.本法は,染色の安定性や過染性の点から多くの検討が行われているが,過染のない安定した方法はなく,これから多くの検討を要する染色法である.

ヘルマン・ヘルストローム法

著者: 広井禎之 ,   河合俊明

ページ範囲:P.793 - P.795

目的
 ヘルマン・ヘルストローム法〔Alcholic silvernitrate method for argyrophil cells, especially D(α1)cells of the pancreas(Hellerström & Hellman)〕は,膵ランゲルハンス島D細胞を染め出すことを目的として施行される.

アルデヒド・フクシン染色

著者: 広井禎之 ,   河合俊明

ページ範囲:P.796 - P.800

はじめに
 アルデヒド・フクシン染色(aldehyde fuchsinstain)は多彩な染色態度を示し,情報量の多いのが特徴である.しかしながら,使用する色素による染色態度のバラツキ,染色液の状態などによる背景の共染など,技術的に難しい染色の1つと考えられている.
 本稿では一般的に病理検査室で行われているアルデヒド・フクシン染色と,染色液,染色結果の安定した笠原,川島らによるブソラッチ(Bussolati)とバッサ(Bassa)らの方法の改良法について,染色技術を中心に解説する.

鉛ヘマトキシリン染色

著者: 冨永晋 ,   広井禎之 ,   河合俊明

ページ範囲:P.801 - P.803

目的
 鉛ヘマトキシリン染色(lead-Hematoxylinstain)は,ソルシア(Solcia,1969年)らにより特定の内分泌細胞を染めるために用いられるようになった方法である.鉛ヘマトキシリン陽性の内分泌細胞は膵ランゲルハンス島D細胞(ソマトスタチン産生),脳下垂体前葉好塩基性細胞のうち副腎刺激ホルモン(ACTH)産生細胞などである.病理学領域では膵ランゲルハンス島D細胞を染色することを目的として使われることが多い.

PAS・オレンジG染色

著者: 広井禎之 ,   冨永晋 ,   舘亜矢子 ,   河合俊明

ページ範囲:P.804 - P.807

目的
 PAS・オレンジG染色(periodic acid-Schifforange G technique;TRIPAS)は脳下垂体の特殊染色で,下垂体前葉の内分泌細胞をPAS染色とオレンジGにより染め分けることを目的としている.

アルデヒド・チオニン染色

著者: 広井禎之 ,   舘亜矢子 ,   冨永晋 ,   河合俊明

ページ範囲:P.808 - P.811

目的
 アルデヒド・チオニン染色(aldehyde thioninestain)は,バジェット(Paget)らによりアルデヒド・フクシン染色(aldehyde-fuchsin stain)の改良法(アルデヒド・フクシン染色とほぼ同様の染色態度をとり,退色しない色素)として考案された染色法である.
 アルデヒド・チオニン染色は膵ランゲルハンス島のB細胞のほか,下垂体前葉好塩基性細胞の一部〔甲状腺刺激ホルモン(TSH),黄体化ホルモン(LH),卵胞刺激ホルモン(FSH)産性細胞〕などを染め出す.

9.中枢神経系の日常染色法

ニッスル染色

著者: 阿部寛 ,   園上浩司 ,   水谷喜彦 ,   須田耕一

ページ範囲:P.814 - P.816

目的
 中枢神経系の主たる細胞は神経細胞で,大きさと形は多種多様である.神経細胞の突起には樹状突起と軸索突起の2種類がある.神経細胞の細胞質と樹状突起では,塩基性タール色素で多くのニッスル物質(Nissl substance)が染め出される.このニッスル物質は電顕的には多くのリボソームを伴った粗面小胞体の集合体であり,化学的にはリボ核蛋白質(ribonucleoprotein)である.ニッスル染色(Nissl stain)は神経細胞の核や病変で変化するニッスル物質を塩基性タール色素(クレシルバイオレット,トルイジンブルー,メチレンブルーなど)で特異的に染め出すのが目的であり,神経病理学では基本的な染色法の1つである.最近では髄鞘をルクソール・ファーストブルーで,神経細胞のニッスル物質をクレシルバイオレットで同時に染め出すクリューバー・バレラ染色(Klüver-Barrera stain)に代用される傾向にある.
 ここでは,ホルマリン固定,パラフィン切片で一般的に行われるクレシルバイオレット染色液によるニッスル染色について述べる.

ナウタ染色

著者: 阿部寛 ,   園上浩司 ,   柿沼千早 ,   水谷喜彦 ,   須田耕一

ページ範囲:P.817 - P.819

目的
 ナウタ染色(Nauta stain)は,神経線維の切断や薬物中毒などによる軸索の変性と神経原線維変化を主体とする老人斑などを選択的に染め出す染色法である.
 種々の変法があるが,ここではパラフィン切片で行うことができるギラリー(Guillery),シーラ(Shirra)とウェブスター(Webster)のナウタ変法(modified Nauta method)について述べる.

ボディアン染色(神経原線維染色)

著者: 石塚裕子 ,   小川浩美

ページ範囲:P.820 - P.823

はじめに
 神経細胞は細胞体(核周部)とこれから出る突起とからなる.細胞体内には通常1個の細胞核と,一般細胞に見られるような種々の形質が含まれている.神経細胞には,これらの一般的構造のほかに,細胞形質の中に神経細胞の持つ特異的構造として挙げられる2つの要素,すなわちニッスル物質(Nissl substance)と神経原線維(neurofibrils,neurofibrillen)が含まれている.

ルクソール・ファースト青染色(クリューバー・バレラ染色)

著者: 春日好幸 ,   小川浩美

ページ範囲:P.824 - P.827

はじめに
 クリューバー・バレラ染色(Klüver-Barrerastain)とは,種々の成書によると,1953年にクリューバーとバレラにより考案された髄鞘染色であるとされているが,現在では,髄鞘(myelinsheath)および神経細胞内のニッスル物質(Nisslsubstance,またはニッスル小体)同時染色法の慣用染色名として用いられていると筆者らは理解している.

ホルツァー染色

著者: 髙椋充

ページ範囲:P.828 - P.830

目的
 中枢神経系(central nervous system;CNS)になんらかの破壊が起こると,その修復は間葉系と星状膠細胞によって行われるが,CNSでは前者は乏しいので,後者による修復が重要となる.膠細胞性修復過程において膠線維は星状膠細胞によって産出され,破壊された組織を補う.正常でも年齢が進むにつれ,脳の部位によって見られるが,種々の病的機転,特に慢性疾患の場合,膠線維の増生(fibrous gliosis)が強く起こる.ホルツァー染色(Holzer stain)は,このような反応性に増えた星状膠細胞の突起膠線維を鮮やかに染め,病巣を明瞭に示すのが特徴である.

10.核酸の日常染色法

フォイルゲン反応

著者: 岩原実

ページ範囲:P.832 - P.835

目的1〜5)
 核酸の主たる機能は遺伝情報の伝達である.すなわち,細胞に必要な蛋白の合成ならびにアミノ酸の結合に指示を与える物質である.核酸にはデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)の2種があり,前者は主に核内で蛋白と複合体を形成し,染色体(クロマチン)として存在する.後者は細胞質内でリボソームとして粗面小胞体を形成,さらには核小体内にも存在している.
 フォイルゲン反応(Feulgen reaction)は,パラフィン切片上でDNAを特異的に証明する方法で,フォイルゲン(Feulgen,1924年)によって考案された.この原理は,DNAの構成要素である2-デオキシリボースのアルデヒド基に塩基性色素のパラローズアニリンを結合させるものである.2-デオキシリボースのアルデヒド基は,DNAの加水分解によりプリン塩基を遊離させることで切片上に露出される.これをシッフ(Schiff)液中のパラローズアニリンで呈色させる.

メチル緑・ピロニン染色

著者: 岩原実

ページ範囲:P.836 - P.839

目的
 核酸にはデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)があり,蛋白質と同様に生命にとって必須の物質である.この2つの核酸は,ともにリン酸・ペントース・窒素塩基が結合したヌクレオチドの線状重合体である.この核酸を切片上で証明したり鑑別する方法としては,メチル緑・ピロニン染色〔methylgreen-pyronine stain(ウンナ・パッペンハイム法;Unna-Pappenheim method)〕が一般的に行われている.
 その原理の詳細は明らかではないが,核酸に含まれるリン酸基が好塩基性であることに由来し,塩基性色素であるメチルグリーンとピロニンの混合液で各々の核酸の重合度,すなわち分子の大きさで染め分けていると考えられている.つまり,DNAは高度に重合して巨大分子となっているためメチルグリーンに染色性を示し,RNAは低分子の重合状態にあるためピロニンで染色される.

11.脂質(脂肪および類脂質)の日常染色法

ズダンIII染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.842 - P.844

目的
 脂肪は脂肪溶剤によって抽出される複合体の総称で,中性脂肪,リン脂質,糖脂質などに分類される.
 中性脂肪の多くは,貯蔵型脂肪として皮下,腸間膜,大網などの脂肪組織を構成する.脂肪は脂肪変性,つまり異常に増加したり,通常では見いだされない組織に出現することがあり,これらの脂肪を証明するために用いられる.腫瘍では脂肪が細胞内に出現することから,脂肪肉腫の診断根拠としても用いられる.また,パラフィン標本ではアルコールやキシレンに溶出してしまうため染色することができないので,ホルマリン固定した組織の凍結切片を用いて,これらの脂肪を証明する.

オイル赤O染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.846 - P.847

目的
 「ズダンIII染色」の項(842〜844ページ)参照.

ズダン黒B染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.848 - P.849

目的
 「ズダンIII染色」の項(842〜844ページ)参照.

ナイル青染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.850 - P.851

目的
 「ズダンIII染色」の項(842〜844ページ)参照.

四酸化オスミウム酸固定によるパラフィン切片での染色

著者: 畔川一郎

ページ範囲:P.852 - P.853

目的
 「ズダンIII染色」の項(842〜844ページ)参照.

12.生体色素の日常染色法 a)胆汁および胆汁色素の染色法

グメリン法

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.857 - P.860

目的
 グメリン法(Gmelin method)は胆汁色素(bile pigment)を証明するための染色法の1つである.
 胆汁色素は,化学的にはヘム(heme)の直鎖テトラピロール誘導体(図)で,ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain)標本上ではビリルビン(bilirubin)とヘマトイジン(hematoidin)に区別されているが,組織化学的反応は類似し,化学的にも同一物であると考えられている.

ホール法

著者: 栁田美樹 ,   芳賀美子

ページ範囲:P.861 - P.863

目的
 ホール法(Hall method)は胆汁色素(bile pigment)を染め出す染色法である.
 胆汁色素は血色素由来の色素(hematogenous pigment)であり,ヘモグロビンのヘム(heme)の異化による黄褐色の胆赤素(ビリルビン,bilirubin)と,胆赤素を酸化してできた緑褐色の胆緑素(ビリベルジン,biliverdin)がある.それらは細胞内または間質に沈着する.

スタイン法

著者: 栁田美樹 ,   芳賀美子

ページ範囲:P.865 - P.867

目的
 スタイン法(Stain method)は胆汁色素(bile pigment)を染め出す染色法である.
 胆汁色素は血色素由来の色素(hematogenous pigment)であり,ヘモグロビンのヘム(heme)の異化による黄褐色の胆赤素(ビリルビン,bilirubin)と胆赤素を酸化してできた緑褐色の胆緑素(ビリベルジン,biliverdin)がある.それらは細胞内または間質に沈着する.

b)メラニンの証明

漂白法(過マンガン酸カリウム・シュウ酸法)

著者: 清水幹雄 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.868 - P.870

目的
 メラニンは淡黄色から褐色の顆粒状色素で,腸から吸収されたフェニルアラニンより生合成される.正常組織の皮膚,眼球,中脳,毛髪などに存在する.皮膚の代表的疾患である色素性母斑と悪性黒色腫がメラニン色素産生腫瘍として挙げられる.
 漂白法(過マンガン酸カリウム・シュウ酸法)は酸化剤である過マンガン酸カリウムで,フェノール環の結合鎖を切断することによりメラニン色素を酸化液中に溶出させ,還元されて組織に残った二酸化マンガンをシュウ酸で還元して無色とする方法で,メラニン色素を証明するうえで最も代表的な染色法である.

c)ホルマリン色素の証明

漂白法(ベロケイ法,カルダセウィッチ法)

著者: 清水幹雄 ,   清水道生

ページ範囲:P.871 - P.873

目的
 固定液の特徴として,酸性固定液は核あるいは線維成分の固定によいが,細胞質成分の固定には悪く,塩基性固定液はほぼその逆といわれる.日常使用される固定液としては,特殊な目的以外はpH 3〜5の酸性ホルマリンが多い.
 血液の多い脾臓,肝臓,骨髄あるいは出血巣の著明な組織を酸性ホルマリンで固定すると,ホルマリン色素と呼ばれる褐色ないしは黒褐色の微細な菱形の結晶または結晶様顆粒が細胞の内外に見られる.これは組織内に溶解しているヘモグロビンと作用してできたメトヘモグロビン(ヘマチン)と考えられている.

d)リポフスチンの証明

シュモール反応

著者: 清水幹雄 ,   舟橋明美 ,   藤田美悧

ページ範囲:P.874 - P.876

目的
 生体内色素の中で,リポフスチン(消耗性色素)は自己貪食過程で発現し,変性したミトコンドリアやその他の細胞内小器官,グリコーゲン,脂肪滴などがリソソーム内で分解され,脂質と蛋白質とが重合したリポ蛋白の酸化により形成される.
 ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain,HE染色)では,細胞質に黄色から褐色顆粒として認められ,この色素は老化現象とともに増加し,飢餓や栄養不良,内分泌障害,慢性消耗性疾患,薬剤の長期投与などの場合に,脳神経細胞や内臓諸器官の実質細胞に強い沈着を示す.

13.金属・無機物の日常染色法 a)カルシウムの染色法

コッサ染色

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.878 - P.880

目的
 組織に沈着したカルシウム塩を検出することが目的である.カルシウム塩は骨,歯以外の組織では通常溶解した状態で存在するが,加齢や病的状態(腫瘍,炎症,血中カルシウム濃度が高い状態など)で組織に沈着することがある.カルシウム塩としてはリン酸塩が多いが,リン酸炭酸塩あるいは炭酸塩も存在する.
 石灰化物はヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain,HE染色)でヘマトキシリンに濃染するため,比較的容易に認識されることが多いが,他の沈着物との区別が難しい場合や,沈着竜が少なく,ヘマトキシリン・エオジン染色上,同定が困難な場合などにはカルシウムに対する染色を行う.また,カルシウムはイオン化しにくい非水溶性の状態(いわゆる仮面カルシウム)で存在することもあるが,これを確実に検出するためには顕微灰化法が用いられる.

b)鉄の染色法

ベルリン青染色

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.881 - P.883

目的
 ベルリン青染色(Berlin blue stain)は,3価の鉄イオン(組織中では主にヘモジデリン)を染色することにより鉄代謝異常などによる組織への鉄の沈着や局在を証明するのに用いられている.
 体内の鉄の総量は4,000mg前後で,その2/3は赤血球ヘモグロビン(hemoglobin)やミオグロビン(myoglobin),チトクロームC(cytochrome C)など生命維持に必要なものとして存在し,残りの1/3は貯蔵鉄として組織にフェリチン(ferritin)あるいはヘモジデリン(hemosiderin)として存在している.鉄の動態としては,食餌あるいは貯蔵鉄より1日30mg程度の鉄が血清鉄となり,骨髄での赤芽球生成に利用される.また,分解された赤血球ヘモグロビン鉄などは再利用される.

c)銅の染色法

パラジメチルアミノベンチリデンロダニン法

著者: 金子伸行

ページ範囲:P.884 - P.885

目的
 本法は銅染色の中でも好成績を示す方法の1つであり,パラジメチルアミノベンチリデンロダニン(p-dimethylamino-benzylidenerhodanine)と銅が結合し,呈色反応を示す.しかし,酸性溶液中で,銅,銀,水銀,金,白金,パラジウムと反応し,アルカリ溶液中ではほとんどの重金属と反応するとされている.このため,他の重金属の染色法も必要に応じて鑑別に用いるべきである.
 通常,人体においては全身に微量の銅が存在し,特に脳,肝臓,腎臓に多い.また,胎児や新生児などの肝臓にも多量に含まれている.

d)鉛の染色法

キレート法(ロジゾン酸法,ジチゾン法,Br-PADAP法)

著者: 鷲見和

ページ範囲:P.886 - P.888

目的
 鉛を含むガソリンや塗料がわれわれのまわりから姿を消して以来,鉛の環境汚染や鉛中毒の問題はほとんど耳にすることがなかった.しかし,鉛中毒によく似た症状が最近見いだされ,調査の結果,中国でつくられた漢方製剤に高濃度の鉛,水銀,ヒ素などが検出されたと一部の新聞に報じられた.
 無機鉛はヒトの呼吸器や消化管から吸収され,血液中から肝,腎,筋肉などの軟部組織に取り込まれ,さらに安定蓄積部位としての骨組織に沈着する.軟部組織のうち,大動脈,肝,腎に高濃度の蓄積が見られる.一般に鉛の排泄は遅く,ヒトの生物学的半減期は約10年といわれている.鉛による健康障害は,貧血,末梢神経炎,尿細管障害などが知られている.

e)水銀の染色法

岡本,妹尾,奥村のジフェニルチオカルバジド法

著者: 植嶋輝久

ページ範囲:P.889 - P.889

目的
 水銀の組織化学的証明法として,硫化水銀や塩化スズ(II)を用いる方法がいくつか考案されている.1944年に発表された岡本,妹尾,奥村の方法は水銀の鋭敏な色彩沈殿反応を応用したものである(直接法).

f)クロムの染色法

触媒法,キレート法

著者: 鷲見和

ページ範囲:P.890 - P.892

目的
 クロム化合物の中で,ヒトに対して障害を及ぼすのは主に6価のクロムで,6価のクロムの強い酸化作用が障害の主因と思われる.したがって,組織内ではほとんどのクロムは3価になっている.クロムの急性障害としては,皮膚びらん,アレルギー性皮膚炎などが知られている.3価のクロムは,毒性とは反対に,クロム含有耐糖因子としてインスリンの働きに関与している.クロムの化合物の種類にもよるが,一般にクロムの排泄は非常に速い.
 組織に沈着したクロムを検出し,組織内のクロムの局在を明らかにするのが目的である.組織中のクロムの局在を知ることは,クロムの毒性や耐糖能発現のメカニズムの解明などに不可欠である.

14.特殊染色法

蛍光抗体法(腎生検)

著者: 大塚俊司 ,   松本光司

ページ範囲:P.894 - P.896

目的
 蛍光染色とは,物質が光や熱によって刺激を受け,そのエネルギーを吸収することにより光を発するという蛍光の原理を利用した染色法である.蛍光抗体法による検索は,腎炎の診断および発病の解明という点から,光顕的,電顕的な検索とともに重要な情報を与えてくれる方法の1つである.例えばIgA腎炎,ループス腎炎をはじめとする免疫複合体腎炎では,その成因を考えるうえで欠くべからざる方法である.

酵素組織化学(筋生検)

著者: 岩本宏文

ページ範囲:P.897 - P.903

ゴモリのトリクローム染色
 1.目的
 ゴモリ(Gomori)のトリクローム染色(Trichrome stain)は酵素染色法でないが,筋生検の検索になくてはならない染色法で,ヘマトキシリン・エオジン染色(Hematoxylin-Eosin stain)で確認できる構造のほかに,大まかな筋線維のタイプ分け,ラッグドレッドファイバー(ragged red fiber. ミトコンドリア異常,写真2),ネマリン小体(nemaline rod,写真3)などの封入体の存在(sarcoplasmic body)などの検索ができ,非常に有用な染色法である1)

酵素抗体法

著者: 鴨志田伸吾 ,   堤寛

ページ範囲:P.904 - P.909

目的
 酵素抗体法は,従来の特殊染色では検出できなかったホルモン,酵素,免疫グロブリンをはじめとした血漿蛋白,細胞骨格蛋白,腫瘍マーカー,病原体,増殖細胞マーカー,癌遺伝子関連抗原,ホルモン受容体など数多くの抗原物質を特異的に証明する.そのため,機能形態学的診断だけでなく,悪性度の指標や治療方針の決定に一歩踏み込んだ判断が可能となる.現在では使用可能な抗体数は飛躍的に増加し,またより高感度な手法が次々と開発されており,酵素抗体法の利用価値はいっそう高まっている.

免疫染色のこつ

著者: 鴨志田伸吾 ,   堤寛

ページ範囲:P.910 - P.915

はじめに
 酵素抗体法が,病理学,細胞診断学,血液学といった形態学の領域において果たす役割は大きい.再現性かつ特異性に優れ,しかも美しい免疫染色標本を提供することは,臨床検査技師の使命の1つである.そして,この技術そのものが正確な形態学的診断に結びつくことを常に念頭に置くべきである.本稿では,免疫染色に関するコツや具体的な注意点を述べる.

15.細胞診の日常染色法

パパニコロウ染色

著者: 原田弥生 ,   川岸克博 ,   牛島友則

ページ範囲:P.918 - P.924

目的
 パパニコロウ染色(Papanicolaou stain)は細胞診の基本的な染色法であり,上皮性細胞の形態観察用に考えられた染色である.特徴としては以下の5点が挙げられる.
 (1)アルコールによる湿固定のため,クロマチンの染色性が良好である.

ギムザ染色

著者: 原田弥生 ,   川岸克博 ,   牛島友則

ページ範囲:P.925 - P.929

目的
 細胞を種々の色調に染め分けるロマノフスキー(Romanowsky)効果のあるギムザ染色(Giemsa stain)は,血液細胞や,その他非上皮性腫瘍を判断するのに適した染色法である.細胞診では液状検体,穿刺材料,リンパ節や組織のスタンプにパパニコロウ染色(Papanicolaou stain)と併用して行われる染色法である.検体を塗抹後すぐに乾燥固定し,スライドグラスに貼り付けてしまうので染色中の細胞剥離が少ない,細胞が大型化するので細胞内の顆粒の観察に適する,染色時間が短いので術中迅速診断に有用などの利点を持ち,日常の細胞診になくてはならない基本的な染色法である.
 血液塗抹標本の普通染色には核の染色性に優れたギムザ染色と顆粒の染色性に優れたメイ・グリュンワルド染色(May-Grünwald stain)やライト染色(Wright stain)が一般的である.

PAS反応

著者: 川岸克博 ,   牛島友則 ,   原田弥生

ページ範囲:P.930 - P.933

目的
 PAS反応(periodic acid Schiff reaction)は多糖類の染色法であり,粘液やグリコーゲンを染色する.多糖類を過ヨウ素酸で酸化し,生じたアルデヒド基に後述するシッフ(Schiff)試薬を作用させ,赤色に呈色させるというものである.

アルシアン青染色

著者: 川岸克博 ,   牛島友則 ,   原田弥生

ページ範囲:P.934 - P.936

目的
 アルシアン青染色(Alcian blue stain)は酸性粘液多糖類の染色法で,細胞診では上皮性粘液,特に胸・腹水中の反応性中皮細胞と粘液産生腺癌細胞との鑑別に使用されることが多い.アルシアン青染色は,塩基性色素と糖質内の酸性基とのイオン結合を利用する染色法である.フタロシアニン系の塩基性色素であるアルシアンブルーが陽性に荷電し,糖質内の酸性基であるカルボキシル基や硫酸基が陰性に荷電し,両者がイオン結合することにより酸性粘液多糖類が青く染色される.

細胞診における酵素抗体染色法

著者: 牛島友則 ,   川岸克博 ,   原田弥生

ページ範囲:P.937 - P.941

目的
 酵素抗体染色法は細胞形態を保持しつつ個々の細胞レベルでの生化学的性質を表現する手法である.この手法は臨床検査や研究にさまざまな形で応用されている.細胞診業務で日常行っている体腔液中に出現する悪性細胞の検出(carcinoembryonic antigen;CEA)を例に,キットを使って簡潔,短時間で行う手技について説明する.

豆知識

一般的に使われているヘマトキシリンの種類と組成

ページ範囲:P.638 - P.638

 ヘマトキシリン染色のメカニズム:ヘマトキシリン自体はわずかにマイナスに荷電した色素であり,無色または淡褐色の結晶である.酸化剤などを加えて酸化ヘマテインにすると,マイナスに荷電するが,この酸化ヘマテインは生体成分と強く結合できる化学的官能基がない.そこで陶土類(硅酸アルミニウム)や鉄ミョウバンなどの媒染剤を加えてミョウバンレーキや鉄レーキを作ると,それらの電解質の影響を受けて色素はプラスに荷電し,生体内のマイナスの性質を有する部位(細胞核,他)と結合し,青紫色に染められる.
 ヘマトキシリンの種類は多種多様であるが,一般的に使われているヘマトキシリンを分類し記載する.

ヘマトキシリンの木(Haematoxylon campechianum L.まめ科)

ページ範囲:P.643 - P.643

 日本臨床細胞学会のシンボルマークはヘマトキシリンの葉であり,元獨協大學第一病理学教室教授の山田喬先生がデザインされたものである.ヘマトキシリンの木は西インド諸島,中央アメリカのメキシコ湾側に原産するマメ科で高さ7〜10mの常緑小喬木である.葉は3〜4対の小葉から成る羽状複葉で,葉腋には鋭い刺(とげ)がある.花は淡黄色,花弁は5筒でほぼ同形,倒卵形,腋生の穂状花序の上に出て,芳香を発する.原木の辺材は白色で,芯材は紅褐色または紫褐色を呈し,染料木材のうちで最も重要なものである.
 この木の芯材をきざんで屋内に積み,水をかけて時々切り返しながら2〜4週間発酵させると,紫色を帯びた黒褐色となる.これを水で煮出して染料を抽出し,60℃以下で水分を蒸発させると,材の重量の約15%程度に当たる黒褐色のエキスが得られる.このエキスの成分がヘマトキシリン(Haemtoxylin,C16H14O6)で,最初にこの色素を組織染色に使ったのは,ワルダイヤー(Waldeyer,1863)であるとされている.

分別の効果

ページ範囲:P.646 - P.646

 通常軽く水洗した後,0.5〜1%アルコールに浸して分別を行うが,図にその原理を示す.細胞(核と細胞質)全体を濃く染めて,酸(H)に浸すと,細胞質に結合していたレーキと水素イオン(H)とが交換し,その結果細胞質の部分の色が抜ける.しかしあまり長時間浸すと,核に結合していたレーキも水素イオンと交換してしまい色が落ちてしまう.

日常使用する規定液,モル液の一覧表

ページ範囲:P.661 - P.661

発癌性のある色素

ページ範囲:P.671 - P.671

 1864年頃,ドイツでコールタールを蒸留して新型の色素(コールタール色素=アゾ色素)が作られた.1895年にレーン(Rehn)が,フランクフルトのフクシン(赤い色素)の生産工場の従業員に高い確率で膀胱癌患者が発生しているのを報告した.その後,スイスの染料工場からも同じ報告が出,色素の製造に関係があるらしいと考えられた.当時はアニリンを扱っていた工場で発生したため“アニリン癌”と命名された.これが色素と発癌性との関係を示唆する最初のエピソードである.
 1971年に労働安全衛生法が発令,施行され,製造中止となったが,それまでの色素工場では,種々の色素の合成法の中間原料にベンチジン,2-ナフチルアミンなどが使用されていた.これが発癌物質として作用することを1938年にHueper WCが証明した.日本では京都の友禅染めの職人がベンチジン系アゾ色素であるダイレクトディープブラックという色素を使い,その液を付けた筆を舐めながら描いていた.この職人の中から膀胱癌患者が出た.この色素が体内に入り,腸内細菌により,アゾ結合が外れてベンチジンが分解産物として発生し体内に取込まれ,尿中に排泄されることが原因ではないかと考えられている.

アジ化ナトリウム(チッ化ナトリウム NaN3)の毒性

ページ範囲:P.678 - P.678

 アジ化ナトリウムの用途は多い.身近な検査室内では血清などの試薬の防腐剤,ペルオキシダーゼ阻害剤など日常的に使用されている.ほかにも,アジ化ナトリウムの有する爆発性から車のエアバッグや航空機のパラシュートを膨張させるための起爆剤に使われてもいる.また銅や鉛と反応してさらに爆発性の高い重金属のアジ化物をつくることから,これにより検査機器の廃液ドレーンが清掃中に爆発したという報告もある.
 その毒性については,シアン化ナトリウムに匹敵すると言われる.具体的に,最小致死量は1.2〜2.0g(1989),最大耐量は0.15gと報告されている.主な中毒症状は嘔吐,著しい低血圧,痙攣,頻脈,次いで徐脈,心室細動である.

染色反応に及ぼす非緩衝ホルマリンの影響

ページ範囲:P.690 - P.690

 通常,ホルマリン固定液は10倍希釈の局方ホルマリン水溶液を利用する.しかし,ホルマリン自体の,強い組織凝固収縮作用のために,組織表面が,固く硬化した層を作り,ホルマリン濃度,固定時間によっては,組織の深部への浸透が思わしくないことがある.長く固定液に浸漬した組織では,核の染色性が低下し,通常のヘマトキシリンでは染まりが悪いことがあり,このような場合には,ワイゲルト(Weigert)の鉄ヘマトキシリンで30分間程度染色するとよい結果が出ることが多い.また,核酸自体が断片化し,核外に溶出し,フォイルゲン反応,メチルグリーン・ピロニン染色に代表される核酸染色にも支障をきたすことになる.局方ホルマリン固定後,アルコール(特にメタノールは,ある程度のホルマリン色素の除去や,子宮などの硬化組織を軟らかくする)に入れておけば,染色性の低下は防止できるが,緩衝ホルマリンを用いて,染色性の低下を防ぐ方法もある.

虫から色素?(カルミン色素)

ページ範囲:P.694 - P.694

 現在病理組織標本の染色に用いられている色素の大半は工業的に得られる色素である.これらの合成に際しては出発物質としてアニリンやその誘導体が用いられているため慣行的にアニリン色素または,タール色素と呼ぶ.一方,植物や動物から採れる色素(天然色素)がある.植物から採れる色素の代表としては,ヘマトキシリンがよく知られている.
 ところで意外と知られていないものに虫から得られるカルミンという色素がある.この色素は中央アメリカや南アメリカの砂漠地方のサボテンに寄生するエンジ虫の雌虫の体に含まれる紅色の色素から得られるもので,主成分はカルミン酸とアルミニウム,カルシウム,蛋白質などから成っている.

染色液と公害

ページ範囲:P.712 - P.712

 病理検査室で用いられる溶液のなかには,有害とされるものが少なくない.ギル(Gill)のヘマトキシリンの塩化第二水銀をはじめ,各種染色に用いられる硝酸銀,劇薬として位置付けられるアンモニア,塩酸,硝酸など数え上げるときりがない.
 ホルマリン液でさえも浄化せずに下水へ流すと,目,鼻の粘膜を刺激する異臭騒ぎを引き起こしかねない.また,脱灰液中のギ酸や,硝酸などは,金属腐食性を有することから下水パイプを腐食する可能性がある.環境問題を配慮し,自施設で中和する(できる限り,水に近い状態に戻す)ための処理を行う病院・企業も増え,また回収業者に委託をするようになってきている.まずは,危険とされる試薬(液)の成分を的確に把握し,その廃液処理のマニュアルを作成するなどして,職員全員が,自覚することが大切である.

メタクロマジー

ページ範囲:P.721 - P.721

 組織切片を染色する場合,ほとんどの組織はその染色液の有する色と同じ色に染色されるのが普通で,これをオルトクロマジー(オルトは正,クロムは色の意味)と言う.酸性粘液多糖類(粘液,軟骨基質),アミロイドなどをトルイジンブルーやチオニンなどの塩基性色素で染色すると,色素の色とは異なった,赤紫色に染まる.このように色素本来の色と異なって染色されることをメタクロマジー(メタは異意味)と呼ぶ.
 色素の色調は,色素の濃度,共存する無機塩の濃度,温度などの多くの要因で変化する.他に,コンドロイチン硫酸,ヘパリン,ピアルロン酸を含む組織などもメタクロマジーを示す.

色出しの効果

ページ範囲:P.730 - P.730

 ヘマトキシリン染色液は酸性なので,核染や酸を用いた分別のままでは染色部位は赤褐色を呈し,しかも色素が退色しやすい.ヘマトキシリンはpH指示薬に用いられるようにpHにより色が変化する.
 ヘマトキシリン水溶液のpHと色調
 pH 4-5-6-7
 色 黄色 紫色
酸(H)が残っていると,結合したレーキがまた水素イオン(H)と交換してしまい退色する.そこで水洗や中和によりpH値を高くすると,核は青色を呈し,またレーキが強く結合し安定化する.

ジアミノベンチジン,その発癌性の問題

ページ範囲:P.741 - P.741

 ベンチジンは染料の中間原料として製造され,側鎖に各種の置換基を付けることで多様な色素が合成されていた.日本の染料業界が戦後の復興期であった1954〜1955年の2年間にベンチジンを大量に生産し中国に輸出していた.この時,既に急性・亜急性ベンチジン中毒による膀胱炎が多数の従業員に認められていた.同時期の1954年にケース(CaseRAM)によって疫学的に染料工場で使用されるベンチジンの発癌性が報告されている.それによると膀胱癌の発生率は,一般の人と比較して19倍と高率であった.しかし癌発症までの潜伏期間が1〜45年(平均約20年)と非常に長く,当時はあまり意識されていなかったようである.当時ベンチジンの製造がさかんだった和歌山県内では,約120人の職業性膀胱癌が発生したという悲しい歴史がある.
 そのほかホジキン(Hodgkin)病や多血症の治療薬としてクロルナファジンが北欧を中心に使用されたことがある.これはベンチジンのNにCH2CH2Clを付けた構造の物質で,これを投与するとホジキン病は治るが後に二次的膀胱癌が多数発生してしまい,使用禁止となった.

ホルマリンピグメント

ページ範囲:P.748 - P.748

 長期にわたり,ホルマリンに保存した組織には,しばしば褐色調の結晶状粒子の沈着をみることがある.組織内に溶解しているヘモグロビンにホルマリンが作用し,メトヘモグロビンとして,組織構造にかかわらず,沈着したものである.通常,ホルマリン液のpHが6.0以上ならば生じてはこないが,pH3.0〜5.0に至ると,その沈着が目立ち,組織標本観察時にはやっかいな産物となる.沈着の起こる時期は,各臓器によりまちまちで一概には言えないが,脾臓などは沈着が早い臓器で,1か月で出現するといわれる.この色素の除去法としては,カルダセウィッチ(Kardasewitsch)法とベロケイ(Verocay)法の2つが代表的である.
 処理を行っても組織内の他のほとんどの物質や色素に影響がない(マラリア色素だけは例外).処理後,よく流水水洗を行わないと,その後に染色したヘマトキシリン,エオジンの色調が変化して,よい結果が得られなくなってしまうことがあるので注意を要する.

封入剤のいろいろ

ページ範囲:P.789 - P.789

 封入剤としては,通常,非親水性のものが用いられている.以前使用されていたカナダバルサム,ビオライトは弱酸性のため,染色標本の退色を招くことがあった.現在多くの種類(マリノール,エンテランなど)がある.これら封入剤の屈折率は,1.52〜1.57とほぼ一様だが,利用する側にとって,その粘度が重要である.組織標本は,薄い切片であることから,薄く,また,細胞診標本においては,薄いものから厚みのある標本まであることから,厚くどちらにも耐え得るものが理想的である.最近では,ある程度の厚みのある標本に使用でき,硬化速度も速いものができている.
 一方,水溶性の封入剤は,その使用頻度が低いこともあり,グリセリンをリン酸緩衝液で薄めて,使用の都度作製するために,常に濃度を一定にできにくいことや,硬化しやすいため,保存に注意が必要である.市販されているものは,長期の保存が可能で,原液でも十分その用途をなし,蛍光抗体法や,脂肪染色における写真撮影の際にも,問題とならない利点がある.

酵素標識法

ページ範囲:P.816 - P.816

 抗体に酵素を標識する方法はいくつかの方法があるが,以下の条件を満たすものでなければならない.①酵素や抗体の活性低下を起こさせないこと,②標識複合体の組成が明らかであること,③結合(架橋)が安定であり,かつ長期間の保存に耐えられること,④操作が簡便で容易に標識抗体が得られること,などである.しかしながらこれらの条件を完全に満たすものはないとされ,標識効率や標識複合体による検出能の点で著しく異なっているのが現状である.したがって,用いる酵素や測定の種類によって酵素標識法を選択することが必要である.
 酵素1分子と抗体1分子とから成る標識複合体は,組織切片に浸透しやすいので酵素免疫組織化学に向いており,他方抗体1分子に多くの酵素分子が結合した標識複合体は,酵素や抗体の活性が損なわれない限りEIA法に適している.これまでに開発されてきた酵素標識法は,大きく分けて3種に分類することができる.第一の酵素標識法は,酵素と抗体とを化学結合によって結びつける方法であり,グルタールアルデヒド法や過ヨウ素酸酸化法などが含まれ,糖蛋白質を扱うのに大変便利なものとなっている.第二の酵素標識法は,“非標識架橋”とも呼ばれ,標識に用いる酵素に対する抗体を用いる方法で,酵素活性を損なわない抗酵素抗体と酵素とを結合させ複合体とし,この複合体と別の抗原抗体複合体との間を抗体に対する抗体により架橋する方法である.

pH値と共染

ページ範囲:P.835 - P.835

 染色液中でプラスに帯電したレーキは,塩基性色素と同じ挙動を示すと思われるが,塩基性色素のpHによる選択性は図のようである.
 低いpH領域(2.5未満)では,リン酸基のあるDNAなどに富む核は染まるが,その他は染まらない.pH値が多少高くなるとカルボキシル基に富む部分も染まり,いわゆる共染となる.したがって,特定の部位を選択的に染めるには,染色液のpH値に注意する必要がある.弱酸領域では核・細胞質ともに染まり,共染となるが,pH値を低くすると,核のみが選択的に染色される.

リポフスチン

ページ範囲:P.873 - P.873

 リポフスチンは生体内色素の1つで,別名消耗性色素,または老化色素とも呼ばれる.これは黄褐色顆粒状の色素で,蛋白質と脂質から成る複合体であり,老化脳の神経細胞,心臓や肝臓など多くの組織の細胞中に認められる.萎縮した心臓,肝臓などでリポフスチンの沈着が著しい場合臓器の割面が褐色に見えることから,褐色萎縮と呼ばれる.またリポフスチンは特に神経細胞や,心筋などに加齢とともに沈着の程度がよく相関していることから老化の形態学的指標の1つとされている.組織切片上で,リポフスチンの褐色色素は,核をヘマトキシリンで染めるだけで,対比染色をしないほうがわかりやすい.
 リポフスチンは皮膚などに沈着してシミなどの原因になる.このリポフスチンは過酸化脂質より作られるので,過酸化脂質を低下させる働きのあるビタミンEを多く摂ることにより予防に役立つかもしれない.ちなみにビタミンEは小麦胚芽油などの植物油に豊富に含まれている.

抗体の保存

ページ範囲:P.892 - P.892

 酵素抗体法に用いられる抗体は,主にIgGと言われる.酵素抗体法に用いられるIgG(抗体)のほとんどが,ウサギより得たポリクローナル抗体(あるいは抗血清とも言う)とマウスの融合細胞(ハイブリドーマ)から得たモノクロナール抗体との2種である.これらのポリクロナール抗体やモノクロナール抗体は,溶液の中で存在している状態では安定であるのに対し,凍結や融解を繰り返すと失活していく.しかし,稀少な抗体や高価な抗体でやむを得ず抗体を長期間保存する場合には,抗体およびキットに添付されている文書,Specification sheetやInstructionsに記載されている保存方法で保存することが望ましく,希釈せず原液のまま分注し凍結保存することが望ましい.凍結保存の温度としては,-20℃もしくは-80℃に大別される.
 この場合,抗体により至適希釈倍率を考慮し,解凍・融解の操作が最小限で済むように工夫する必要がある.現在市販されている精製抗体の容量は1mlないし0.5mlである.例えば1mlの精製抗体が100倍希釈で使用できる抗体の場合,10μl入りと100μl入りとを作製するが,10μlをできるだけ多く作製することが望ましい.また,市販されている抗体の多くには,防腐剤としてアジ化ナトリウムが添加されているが,その記載がない場合は,0.1%のアジ化ナトリウムを添加後保存することが肝要である.

細胞質染色

ページ範囲:P.924 - P.924

 種々の酸性色素の使用により多染性(polychrome)の効果が得られるのがパパニコロウ(Papanicolaou)染色の特長である.性質の異なる細胞質にどの酸性色素が結合するかは,その色素分子の大きさと細胞質の構造の“疎密”が大きく関与していると考えられている.すなわちアザン染色と同じ染色原理と考えられる.
 細胞質を染色する酸性色素の分子の大きさは,の順になる.この3種の酸性色素の中で,最も分子の小さなオレンジGが構築の密で,密度の高い物質(角質,ヒアリン物質,他)に結合しやすい.そして構築の疎の部分には大小いずれの色素も入り込んで結合するが,一般的に小分子の色素ほど分子運動が活発で,細胞質との間に安定したイオン結合が起こりにくい.一番大きな分子のライトグリーンイエローは構築の疎な部分に入り込むと,移動性が小さいので強く結合することになると考えられる.分子の大きさが中間に位置するエオシンYは染色過程で中間の挙動を示すと予想される.

架橋

ページ範囲:P.933 - P.933

 固定とは,蛋白またはペプチドが不溶化することであり,架橋(cross-linkage)を原理とする方法と,凝固沈殿(precipitation)を原理とする方法とに大別される.前者には,アルデヒド,カルボジイミド,パラベンゾキノンなどが含まれ,後者には,アルコール,アセトン,酸などが含まれる.固定力と形態保持は架橋剤である前者が,高分子蛋白質の抗原性の保持については凝固沈殿剤の後者が優れている.
 ホルムアルデヒドの蛋白質架橋による固定とは,主にホルムアルデヒドが蛋白と反応することであり,一般に活性水素を含む側鎖に作用する.ホルムアルデヒドは水溶液中では水和化し,メチレングリコールの形で存在している.このメチレングリコールと蛋白分子中の遊離アミノ基とが反応し,活性ヒドロキシメチル群が形成される.さらに活性ヒドロキシメチル群は,他の活性水素と凝結反応を生じ,ポリペプチド鎖間のメチレン結合を生じることで固定される.ホルムアルデヒドはまた,二硫酸塩を2つのスルフヒドリル基に置換し,これがホルムアルデヒドに反応してメチレン結合に関与する.遊離アミノ基がイオン化している場合(R-NH3)は,ホルムアルデヒド分子との反応がないので,ホルマリン固定液のpHは,アミノ基のイオン化度が低いアルカリ性での条件下となる.

緩衝液一覧表

ページ範囲:P.942 - P.943

1.0.1mol/l酢酸塩緩衝液 pH 3.6〜5.6
・原液
 A:0.2mol/l酢酸
  氷酢酸(99〜100%,比重1.050〜1.054)11.5mlに蒸留水を加え1,000mlとする

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?