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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術30巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

胆道閉鎖症

著者: 星野健

ページ範囲:P.228 - P.233

新しい知見
 胆道閉鎖症はしばしば「先天性胆道閉鎖症」という表現がされることがある.以前は本邦でもこの呼び名が通常であったが,この疾患の基礎的臨床的研究が進むにつれ,疾患の本態は「先天性」のものというよりもウイルス感染などの何らかの炎症によって後天的に惹起されるものという考えが主流になっている.したがって欧米でもcongenital biliary atresiaという言葉は使われず,単に「biliary atresia」と表記されるようになっている.
 胆道閉鎖症患児の生存率は肝臓移植の導入により,飛躍的に向上した.本邦では主に生体部分肝移植が施行されているが,その総数は千数百例に及んでいる.移植後の生存率は3年生存ですでに80%を超えており,移植を受けなければおそらく生存率0%であることを考えれば,移植医療は胆道閉鎖症の予後を飛躍的に改善せしめた,といえよう.またドナーについても重篤な合併症を起こしたものは現在まで1例も認めていない.これは欧米の手術成績を上回っており,わが国における生体肝移植医療水準の高さを物語っている.しかし,胆道閉鎖症の成人症例などは,生体肝移植では適当なドナーがみつけられない場合が多く,脳死からの臓器提供が極めて少ない昨今の状況を一刻も早く改善させる必要がある.

技術講座 免疫

ヒスタミン遊離試験

著者: 伊藤節子

ページ範囲:P.235 - P.241

新しい知見
 アレルギー疾患における原因抗原の同定は治療を行ううえで不可欠なプロセスである.抗原診断には,詳しい問診により原因と推定された抗原に対する特異的な免疫反応の証明と,その抗原回避による症状の消失ないし改善,および誘発試験または負荷試験による症状の再出現の確認が必要である.ヒスタミン遊離試験は好塩基球上の抗原特異IgE抗体に抗原を反応させることにより遊離されるヒスタミンを測定するものであり,in vitroの検査でありながら,単に血清中のアレルゲン特異IgE抗体を測定するのに比べてより生体に近い反応として,抗原診断における有用性が期待されている.

生理

心エコー図検査に必要な胸部単純X線写真の読影法

著者: 八木橋国博 ,   黒木一典 ,   岡本英明 ,   中島康雄

ページ範囲:P.243 - P.253

新しい知見
 胸部単純X線写真は古くからある検査法で,1枚の写真に心循環系に関する情報以外に胸部全体の変化,ひいては全身状態の情報までもが含まれている.胸部単純X線写真は心エコー図を施行する前に撮影されていることが多く,実際にエコーを施行する前にその写真を見ておくことは病態を理解するうえで有用である.ここでは,主に心大血管系の疾患について単純写真の読影方法および代表的症例を呈示する.

血液

赤血球酵素の測定—ピルビン酸キナーゼ,グルコース-6-リン酸脱水素酵素を中心に

著者: 岡田真一 ,   藤井寿一

ページ範囲:P.255 - P.259

新しい知見
 赤血球酵素異常による遺伝性溶血性貧血は,赤血球機能を保つうえで重要な酵素の質的ないし量的な異常により起こる疾患である.ピルビン酸キナーゼ異常症とグルコース-6-リン酸脱水素酵素異常症の頻度が高く,われわれが発見した赤血球酵素異常症はこの二種で全体の82%を占める.従って,赤血球酵素異常症の診断にあたってはピルビン酸キナーゼとグルコース-6-リン酸脱水素酵素活性の測定が重要となる.その他,解糖系,五炭糖リン酸回路,グルタチオン代謝・合成系,ヌクレオチド代謝に関連した約15種の酵素の異常によるものが見出されている.赤血球酵素異常症の病因の78.9%はミスセンス変異に基づく変異酵素の産生によるが,プロモーター領域の変異,ナンセンス変異,塩基欠失,塩基挿入ないしエクソン-イントロンジャンクションの塩基置換による異常スプライシングによる例もある.

生化学

カテコールアミンの測定

著者: 眞重文子

ページ範囲:P.261 - P.267

新しい知見
 臨床検査におけるカテコールアミンの測定は,全自動カテコールアミン分析計の供給によって,簡便・高精度に実施できるようになった.今や,第2世代全自動分析計の時代である.この改良型は,「3バルブ/3カラム」方式の新カラムスイッチング方式を取り入れ,薬物干渉の低減を図り,ポストラベル反応条件と蛍光検出器に改良を加え血漿中ドーパミンも十分測定できるように改良している.同じ反応原理をプレカラム誘導体化法で採用して15分で分析できるスピードタイプ自動分析計も供給されている.
 一方,組み合わせタイプのHPLC(high performance liquid chromato graphy)では,除蛋白機能とカチオン交換機能を有する前処理カラムとセミミクロカラムを用いたHPLC法が注目されている.このセミミクロカラム法は,分析時間が短い,ピークの理論段数が高い(シャープであり),高感度である,さらに容離液が少なくてすむという優れた性質を有している.

オピニオン

環境ISO 14001の認証取得に向けて

著者: 村山正行

ページ範囲:P.234 - P.234

はじめに
 医療法人豊田会刈谷総合病院は2000年2月に環境ISO 14001の認証を取得しました.その導入経緯と認証取得に向けての取り組みおよび病理科臨床検査技師として現場で取り組んだ内容について紹介します.

けんさアラカルト

臨床検査業務とクリニカルパス

著者: 丸山千和子

ページ範囲:P.254 - P.254

当院のクリニカルパス1)
 クリニカルパス(以下,パス)は,医療従事者用のものと患者用のものとがあるが,当院のパス表は横軸に時間的経過をとり,縦軸に各種の処置,教育・指導などの項目をとって,各担当者が患者に施されている処置を全体として把握し,その患者に行われる医療が何を目指し,そのとき,どの段階にあるのかが一目瞭然に判るようになっている.パスは,担当者が変わっても,同じ水準の医療を保証する,一種のマニュアル(標準化)のようなものである.
 当院においても,検査はパス優先で行われ,検査結果の報告は,パス表で定められた期日までに行われる.医師が検査結果の返ってくる日数を考えて,次の診療日程を決定するのでなく,パス表で診療日程が決まるとそれに合わせて検査が行われる.

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・15

染色体7.染色体核型記載法・3

著者: 田村高志

ページ範囲:P.268 - P.269

構造異常の切断点とバンドによる記載
 染色体構造異常の記載には簡略方式と詳述方式の2つの表示法がある.簡略方式は染色体異常の切断点のみで表記し,構造異常の種類を表す記号の後に異常染色体をカッコの中に記述する.切断点はバンド表示によって記し,関与した染色体の順に記述する.切断点と切断点の間にはセミコロン(;)を用いない.
 詳述方式は構造異常をバンドの構成により記述する.簡略方式で用いた表記法はそのまま適応されるが,切断点のみで記述していたカッコの中に染色体すべてを表記する.このとき切断の表記にはコロン(:)を,切断と再結合とはダブルコロン(::)を用いる.また,矢印(→)は“〜から〜まで”を示す.さらに染色体の末端は“ter”を腕記号の後に付ける.短腕の末端は“pter”,長腕の末端は“qter”となる.動原体の記述が必要なときには“cen”を用いる.

絵で見る免疫学 基礎編・27

免疫応答とワクチン

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.276 - P.277

 胸腺で成熟したT細胞や骨髄で誕生したB細胞でまだ抗原と遭遇していないリンパ球をナイーブリンパ球という.このナイーブT細胞は食細胞表面上に提示された抗原情報を受け取り活性化され(前号図2参照),CTLに分化したT細胞は感染細胞を破壊する細胞性免疫能を得て,ヘルパーT細胞に分化したT細胞はマクロファージおよび抗原特異性を持ったB細胞を活性化する.活性化した抗原特異性を持ったB細胞が特定の抗原に遭遇する確率は極めて小さいので,効果的に特異的な抗原と出会うためにヘルパーT細胞はB細胞を活性化させ形質細胞へと分化させるとともにこのB細胞のクローンを増殖させる.1個のナイーブB細胞から3〜5日間に同じ特異性を有する娘クローンが約1,000個生まれる.適応免疫反応の出現までに感染から数日かかる理由である.

ラボクイズ

問題:寄生虫【1】

ページ範囲:P.278 - P.278

2月号の解答と解説

ページ範囲:P.279 - P.279

検査データを考える

血尿—蛋白尿との関連

著者: 水井理之 ,   猪阪善隆 ,   今井圓裕

ページ範囲:P.293 - P.297

はじめに
 正常人でも尿中にわずかに赤血球が出現するが,これが生理的範囲を超えて赤血球を混じている状態を血尿(hematuria)と称す.血尿は蛋白尿とならんで腎泌尿器疾患を発見する手がかりとなる重要な症候のひとつである.尿の色調の変化で患者自身が血尿に気づく場合もあるが,尿検査によって尿潜血反応陽性を指摘され,血尿が発見される場合もある.血尿は泌尿器科的疾患による血尿と内科的疾患による血尿に分けられるが,その起こる比率はおよそ7:3である.本稿では,血尿の検査方法から疾患の鑑別までの流れと,最後に蛋白尿との関連について述べる.

臨床検査に必要な統計処理法・27

実験の効率化と最適条件の推定—実験計画法[2] 多因子計画と応答曲面分析

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.299 - P.304

はじめに
 実験計画法は,その実験で取り上げる因子の数により,一因子実験,二因子実験,多因子実験などに分けられる.多因子実験は2つ以上の因子を同時に取り上げる実験で,各因子の水準のあらゆる組み合わせを実験するものを要因実験といい,これは要因の主効果と交互作用効果のすべてを推定できる.一方,直交表実験は要因実験の一部実施法であるが,実際上は無視し得る多因子交互作用を考えず,少ない実験で効率的に要因の効果を推定する方法である.また,酵素反応などの最適条件を探索する場合に有効な方法として,応答曲面の推定が行われるが,これも実験計画の応用である.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

呼吸器(11)肺アミロイド結節

著者: 堀内啓 ,   荒井政和 ,   松谷章司

ページ範囲:P.270 - P.271

臨床的特徴
 アミロイドーシスには全身性のものと局所性のものとがあり,本稿で取り上げる肺アミロイド結節は局所性アミロイドーシスの一種である.本疾患では,肺あるいは気管支壁に,単発あるいは多発性の結節状のアミロイド沈着が見られるのが特徴である.臨床的には,成人に多く,胸部X線で単発あるいは多発性の結節影を呈し,そのため,種々の肺腫瘍との鑑別が問題となる.大きさは直径1〜4cmのものが多く,年余にわたり緩徐に増大する.約10%では血清あるいは尿中に単クローン性の免疫グロブリンが検出される.生化学的には,沈着しているアミロイドは,AL型のアミロイド蛋白であることが大部分である.

血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・3 リンパ球系の異常

2.数の異常と形態異常 形質細胞の異常(1)その2

著者: 大畑雅彦

ページ範囲:P.272 - P.275

参考となる検査所見・2(図19〜27)
 1.生化学的所見(表5)3)
 1)M蛋白
 M(monoclonal)蛋白量に相関して血清総蛋白量は増加する.しかし,M蛋白の出現しないBJP型MMやM蛋白量の少量であるIgD型MM(multiple myeloma)では総蛋白の増多は通常観察されない.
 M蛋白量は,総蛋白にM蛋白の属する蛋白分画の比率を掛けて算出する.日常検査には免疫グロブリンの定量が用いられることが多いが,病勢または治療効果の判定には参考値程度と考えたほうがよい.

トピックス

blaIMP遺伝子

著者: 中野忠男 ,   平松和史 ,   犀川哲典 ,   那須勝

ページ範囲:P.309 - P.311

はじめに
 近年,MRSA(methicillin resistant Staphylococcus aureus)をはじめ,PRSP(penicillin resistant Streptococcus pneumoniae),ESBL(extended spectrum β-lactamase),BLNAR(β-lactamase negative ampicillin resistant),VRE(vancomaycin resistant Enterococcus)など新たな耐性菌が次々に報告され,今また緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)やセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)などのグラム陰性桿菌で多剤耐性菌の増加が注目を集めている.このような菌は複数の耐性機序が複雑に絡み合っていることが多く,遺伝子の解析がその機序を解きほぐす手掛かりとなっている.

α2マクログロブリン欠乏症とその背景

著者: 狩野有作

ページ範囲:P.311 - P.313

はじめに
 生体では血液凝固,線溶,炎症反応などの過程で,多くの蛋白分解酵素(protease)が関与している.それらの反応は阻害因子である蛋白分解酵素阻害蛋白(protease inhibitor)により,制御され平衡が保たれている.
 α2マクログロブリン(α2 macroglobulin;α2M)は血中に最も多く存在するprotease inhibitorで,単球・マクロファージ系の細胞などで産生される分子量720,000の糖蛋白である.α2Mは主要なprotease inhibitorとしての機能の他に,免疫抑制作用1)やインターロイキン6(IL-6)2)および成長ホルモン3)の輸送蛋白(carrier protein)としての生物学的作用がある.さらに,癌細胞の浸潤・転移を抑制する機序も報告されている4)

リアルタイムPCR法によるCMV定量検査

著者: 後藤美江子

ページ範囲:P.313 - P.316

はじめに
 サイトメガロウイルス(cytomegalovirus;CMV)感染症は,免疫不全者,特に胎児,臓器移植,後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS)などの患者に重篤な病態を引き起こし,その診断・治療は急を要す.CMVの種々の検査法を表1に示している.その中で免疫不全者を対象としては現在,好中球を検体とした免疫染色を応用したCMVアンチゲネミア法(CMV-Ag法)の数値が診断および経過観察の検査法として普及している.一方,分子生物学的手法の発展に伴い,CMVの遺伝子検査法によるウイルス定量検査の有用性が種々報告されている1〜4).当院ではTaqManプローブ法を用いたリアルタイムPCR法を利用しているが本稿では自験例を示しながら検査法の特徴を概説し,CMV定量検査の有効利用を考察する.

今月の表紙

Brugada症候群

著者: 佐久美哲也 ,   桜井庸晴 ,   永江学

ページ範囲:P.260 - P.260

 【解説】55歳,男性.ブルガダ(Brugada)症候群の心電図である(図1).不完全右脚ブロックとV1〜V4誘導で0.1mV以上のST上昇を認める.特に,V1,V2誘導ではcoved typeのST上昇を認める.

けんさ質問箱

Q クリプトスポリジウムの抗酸性染色

著者: 井関基弘 ,  

ページ範囲:P.280 - P.281

 ある本によると,チール・ネルゼン染色(抗酸菌染色)でクリプトスポリジウムのオーシストが染まるということですが,その原理を教えてください.

Q 尿沈渣中への脂肪成分の出現機序

著者: 油野友二 ,  

ページ範囲:P.281 - P.285

 尿沈渣中に出現する脂肪成分,例えば卵円形脂肪成分,脂肪円柱,脂肪の付着した白血球,移行上皮,尿中に浮遊する脂肪球などは,重篤な腎障害で出現するといわれておりますが,どのような代謝過程で尿中に出現するのかご教示ください.

検査じょうほう室 寄生虫:寄生虫は面白い

伝技師とフグ三昧

著者: 赤尾信吉

ページ範囲:P.287 - P.289

 友人の島内技師に案内されたのはフグ鍋店であった.自称,“釣り技師”である伝はしばしば釣行でフグを釣り上げることがある.多くは放流するが,大物は近くの寿司屋で調理してもらい,冷酒を味わっている.今宵は名物博多フグである.そこで読者諸兄姉とフグについて学んでみようと伝は考えた.

生化学:おさえておきたい生化学の知識

耐糖試験の新しい判定基準

著者: 伊藤千賀子

ページ範囲:P.290 - P.292

はじめに
 日本糖尿病学会(以下,学会)では1995年に委員会を設置して糖尿病診断基準値の再検討に入っていた.その間1997年には米国糖尿病学会(American Diabates Association;ADA)1)から,翌年WHO2)から,それぞれ糖尿病の新しい分類と診断基準が提案された.ADAは米国医療の現状から空腹時血糖値(fasting plasma glucose;FPG)のみ行うために,FPGの基準値を140mg/dlから126に引き下げた.一方,WHOはFPGの基準値はADAと同様に引き下げたものの経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test;OGTT)の重要性を認めOGTT2時間値(2-hPG)は従来と同様に200mg/dlとした.1982年に学会が基準値を作成した時は日本人の75g法のデータはまったくなく,国際比較上の理由からWHOの提案を受け入れた.その後17年間に多くのデータが蓄積され,それを基に日本人にとって糖尿病診断基準としてFPG126mg/dlが妥当なものか否かも検討可能になった.先ず,2-hPGとFPGとの関連や合併症頻度から新基準値設定の経緯と根拠について述べる.

海外だより

セカンドオピニオン

著者: 椎名奈津子

ページ範囲:P.306 - P.307

 今回の海外だよりは,アメリカではよくみられる“セカンドオピニオン”の使われかたと,癌告知を含めた検査結果の報告について,紹介したいと思います.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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