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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術30巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

糖尿病

著者: 原納優

ページ範囲:P.324 - P.330

新しい知見
 糖尿病におけるインスリン抵抗性の意義:従来血糖とインスリン不足の両面から糖尿病を理解・管理してきたが,第三の側面としてインスリン抵抗性の意義が明らかにされた.糖尿病予備軍・生活習慣病においては,この抵抗性を早期に検出し,食事・運動療法を中心に正常化を目指す.糖尿病の進展,合併症においても,抵抗性は内皮細胞機能,血流,血圧,dyslipidemia(血中脂質異常),血小板,NO産生にも関与し,重要な役割を果たしている.薬物により安易に血糖,脂質,血圧をコントロールするのではなく,インスリン感受性を正常に保つ努力をしつつ,代謝コントロールする姿勢が極めて重要である.

技術講座 病理

ヘマトキシリン・エオジン染色で見られる褐色顆粒の性状と鑑別〔Ⅰ〕

著者: 河又國士 ,   大友幸二

ページ範囲:P.331 - P.338

新しい知見
 悪性黒色腫はメラニン色素産生能を持つ,メラノサイト(melanocyte)に由来する悪性腫瘍である.その悪性度は高く比較的早期からリンパ節や遠隔臓器に高率かつ広範に転移し,極めて予後不良の腫瘍である.メラニン色素の含有量もまちまちで,無色素形成性の悪性黒色腫(amelanotic melanoma)もある.
 従来,その確定診断にDOPA反応が用いられた.しかし,ホルマリン固定で酵素活性を失い,パラフィン切片が使用できなかった.近年,免疫学的検索法が発展しHMB-45,NSE(neuron specific enolase,神経細胞特異的エノラーゼ),S-100蛋白,ビメンチンなどの抗体が導入された.さらに上皮性・非上皮性,リンパ腫関連抗体の駆使により日常検査のパラフィン切片で,確定診断が可能になった.

一般

色素法を用いた尿蛋白定量法

著者: 伊瀬恵子 ,   大澤進 ,   野村文夫

ページ範囲:P.339 - P.343

新しい知見
 尿蛋白定量法は,尿中に出現する蛋白が多種多様であるため測定法により反応性に差が生じる問題点が指摘されてきた.これを改善すべく種々の測定法が開発されてきた.現在,分析装置にも導入することが可能である色素法を採用する施設が増加している.しかし,比濁法と比べて蛋白種間差か少ない色素法にも,いまだBJPや低分子蛋白の反応性が低い測定法が存在している.これを認識したうえで,各施設の目的にあった測定法を選択することが重要である.

座談会 21世紀の検査を考える・4

21世紀の遺伝子検査の展望

著者: 宮地勇人 ,   加藤享子 ,   横田浩充 ,   増川敦子 ,   高木康

ページ範囲:P.361 - P.374

 遺伝子検査はこれからの検査として嘱望されている.遺伝子解析研究の成果は診断に意義のある遺伝子情報と検出のための技術革新をもたらし遺伝子による検査,診断を可能にした.オーダーメイド医療が展望されるなかで遺伝子検査の果たす役割は大きいが,遺伝子検査がどれだけ医療機関や臨床に定着するのか,どれだけの施設・機関が実施できるのかは未定である.必ずしも自施設で実施できるとは限らないが,対象疾患に最適の検査の選択やその検査の依頼方法を知ることは,遺伝子検査の適正利用を担う検査室にとっては重要な作業となる.今日,どのように遺伝子検査が実施されているかに始まり,院内検査と外注検査のすみ分け,そしてこれからの遺伝子検査を担う人材の育成までが語られる.

ラボクイズ

問題:細胞診【2】

ページ範囲:P.344 - P.344

3月号の解答と解説

ページ範囲:P.345 - P.345

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・16

染色体8.染色体核型記載法・4

著者: 田村高志

ページ範囲:P.346 - P.347

in situハイブリダイゼーション法の記載法
 種々のDNA配列が単離され,さらに検出する蛍光色素やその技術の開発によって染色体解析のための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法が著しく発展した.これに伴いFISH法を用いた染色体分析結果の報告についても命名法が必要となった.表にin situハイブリダイゼーション(ISH)による記載法に用いる記号と略語を示す.

絵で見る免疫学 基礎編・28

ヒトの免疫機構に対抗するB型肝炎ウイルス

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.348 - P.349

HBV肝炎における細胞性免疫と体液性免疫
 B型肝炎ウイルス(HBV)が肝細胞に感染してB型肝炎が発症するのは,Tリンパ球を主とする細胞性免疫によって肝細胞障害が惹起されるからである.HBVが侵入すると樹状細胞がこれを捉え,異物としてMHCクラスⅠがHBVのペプチド断片を提示する.これをTH2が認識し樹状細胞は高度に活性化する.活性化した樹状細胞上のMHCクラスⅠに提示されたHBVのペプチド断片を認識したナイーブT細胞は活性化してCTL(第28巻第11号参照)へと分化成熟する.CTLはHBV感染肝細胞上のMHCクラスⅠに提示されたHBVペプチド断片を認識し,これを殺す.B型肝炎はCTLがHBV感染肝細胞をHBVごと破壊する機構で説明される.一方,HBVの可溶性抗原,例えばHBV表面抗原を捕らえたナイーブB細胞はTH2の刺激を受け,B細胞を形質細胞へと導き,HBV表面の抗体を産生し,血中のHBVはこの抗体によって中和され排除される.B型肝炎は宿主の細胞性免疫と体液性免疫の機構によって感染後そのほとんどが一過性の肝炎で治癒される(図1).しかし,時には死亡率の高い重症な肝炎になる.同じウイルスにもかかわらずこの病態の違いは,宿主の免疫応答の違いによるものとされていた.
 HBVはDNAウイルスと異なり,感染肝細胞内での複製に際して,RNAウイルスのように逆転写過程を介して増殖している.

オピニオン

臨床検査技師として歩んで

著者: 山中亨

ページ範囲:P.350 - P.350

 変革する医療事情の中で当然臨床検査を取り巻く環境も様々な変化を呈している.近年,この時代をどう生き残るかという戦術の提案をよく見掛けるが,歴史的考察から現代に至る過程を解析することが必要であり,反省なくして明日はないと考える.

検査データを考える

咽頭粘液から検出された肺炎球菌

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.375 - P.381

はじめに
 微生物検査の成績を解釈するには①その検査がどんな目的で行われたか,②患者側の背景因子,③検出菌の病原的意義などから総合的に判断しなければならない.例えば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は健常人から検出されることはないので,この菌が検出されれば結核と診断される.しかし,検査の段階で検体の取り違えなどが起これば,結核でない患者から検出されることもあり得る.結核菌が検出され,その患者の臨床症状や,レントゲン所見などからも結核が疑われて初めて結核と診断されよう.万一,検査結果が患者の臨床的背景と一致しない場合には,さらに問診の範囲を広げ,繰り返し検査をすることや,必要に応じ他の検査の追加も必要になる.
 結核菌は結核患者のみしか検出されない重要な病原菌であるが,今回のテーマである肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)はもともと健常人が保有している細菌である.肺炎球菌が血液や髄液など本来無菌の検体から検出された場合は,起炎菌である可能性が強いが,咽頭粘液より検出された場合の解釈は難しい.

臨床検査に必要な統計処理法・28

SN比を用いた検査法の性能評価—感度の違いを考慮した信頼性の比較

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.383 - P.387

はじめに
 測定法の信頼性に関する特性は,主に精密さと正確さが評価される.しかし,免疫化学分析法の一部のように標準化が達成されていない場合は,測定法によって正確度に差が認められ,精密度を単純に比較することができない.また,変動係数(CV%)を用いても,測定濃度域により精密度は一定せず1),この観点からも検査法の性能を単純比較することは困難である.
 これに対して,測定法の感度と誤差との比を用い,測定法の性能を評価する考えかたがある.感度とは目的物質の量に依存する測定法の信号(signal;S)の大きさであり,一方目的物質以外の要因が測定値に与える影響が誤差(noise;N)である.感度と誤差は比例的に増減することが一般的で,感度を上げると誤差も大きくなってしまうことが多い.そこで,感度と誤差との比すなわちSN比を用いて,試験・測定方法の性能を比較しようとする方法である.通信工学の分野では広く用いられている指標であるが,臨床検査法の性能評価にも応用ができる.

けんさアラカルト

医療現場で役立つ応対・接遇のマメ知識

著者: 鈴木範孝

ページ範囲:P.390 - P.391

はじめに
 臨床生理学的検査や,採血検査業務などの医療現場では,様々な心理状況をもった患者さんと接し,細心の注意を払った業務が遂行されます.しかし,ちょとした応対の不備で第一印象を悪く解され,気まずい思いや検査の遂行に支障を来してしまうことがあります.本稿ではこのような状況を回避するために知っておきたい応対のエッセンスについて紹介します.

Laboratory Practice 生化学:精査と治療に生かす検査データ

慢性膵炎

著者: 渡辺伸一郎

ページ範囲:P.351 - P.353

はじめに
 慢性膵炎は食生活の欧米化やアルコール摂取量の増加などにより近年増加傾向にある.
 慢性膵炎は,持続的な炎症やその遺残により膵の線維化,実質の脱落などの慢性変化を生じ,膵外分泌・内分泌機能の低下を伴う病態である.図に典型的な慢性膵炎の臨床経過を示したが,病気の進行の程度により代償期,移行期,非代償期の三つの病期に分ける1).代償期では膵機能は比較的よく保たれ,膵炎の急性再燃や頑固な腹痛がみられ,一方進行して非代償期になると腹痛はむしろ軽減し膵外分泌・内分泌機能の低下(消化吸収障害と膵性糖尿病)がみられるようになる.このため症状や検査所見もこの病期によって異なる.

血液 骨髄塗抹標本の見かた 異常細胞の見かた・3 リンパ球系の異常

2.数の異常と形態異常 形質細胞の異常(2)

著者: 中竹俊彦

ページ範囲:P.354 - P.359

はじめに
 Bリンパ球系の異常は,①Bリンパ球になるまでの段階で腫瘍化したもの(急性・慢性リンパ性白血病),さらにBリンパ球から以降に②二次的(反応性)に生じた異常,および分化の最終段階で③形質細胞の本質的な異常,すなわち腫瘍性に起こった病態に分けて考えることができる.
 成熟Bリンパ球は,備えられた性質に対してリンパ節で特異的な抗原刺激を受けると,主に血液を経由して骨髄へ回帰して定着(ホーミング)し,その分化と成熟を支持する骨髄の支持細胞の働き(インターロイキン6;IL-6)を受けて,形質細胞へと分化・成熟する.代表的な分化の異常は多発性骨髄腫で,前回の「形質細胞の異常(1)」として解説された.

トピックス

ドミノ肝移植

著者: 勝野伸介 ,   笠原群生 ,   江川裕人 ,   田中紘一

ページ範囲:P.405 - P.407

はじめに
 わが国における肝移植は,脳死移植が容認されていなかった時期に生体肝移植という形で開始され,2001年には1,000例を超えた.一方,1997年に脳死移植法が制定され,1999年にわが国初の脳死肝移植が施行されたがようやく10例を超えたところである.そのため少ない臓器を有効利用するために脳死肝移植において生体肝移植での技術を生かして1つの肝臓を2人の患者に移植する分割肝移植が実施されている1)
 ドミノ肝移植もまた臓器を有効利用するために考案された術式である.本術式は家族性アミロイドポリニューロパシー(familial amyloidotic polyneuropathy;FAP)の症例が肝移植を受ける際に摘出される肝臓を利用する術式である.

GLP-1

著者: 立石カヨ子

ページ範囲:P.407 - P.409

はじめに
 GLP-1(glucagon-like peptide-1,グルカゴン様ペプチド-1)は食後に血中に分泌される消化管ホルモンで,GLP-1は最も強力なインクレチン(incretin,ブドウ糖によるインスリン分泌を増強する腸管から分泌されるホルモン様物質)として注目されている.

さい帯血幹細胞移植

著者: 藤林由佳 ,   原宏

ページ範囲:P.409 - P.410

はじめに
 血液悪性腫瘍,先天性免疫不全症,先天性代謝異常症,造血不全症〔再生不良性貧血,ファンコニー(Fanconi)貧血,MDSなど〕などでは,従来より骨髄移植による治療が行われていた.しかし,このような移植治療を受けるには,HLAの一致した骨髄提供者が必要であり,そのために骨髄バンクが設けられ,大いに役立ってきた.しかし,骨髄バンクでは,健康な人から骨髄をいただくために,患者と提供者との間の連絡,打ち合わせ,全身麻酔の安全性確保のための検査,入院が必要であり,提供者の健康,都合が最優先されるために,移植治療の最適の時期の移植ができるとは限らなかった1)
 その後,さい(臍)帯血にも相当の造血幹細胞の存在することが確認され,さい帯血を凍結保存しておけば,移植治療の最適の時期にさい帯血移植による治療が可能なことから,さい帯血の保存数が増加するにつれて,しだいにさい帯血移植が行われるようになってきた2,3)

今月の表紙

WPWとPseudo VT

著者: 岩田由香里 ,   桜井庸晴 ,   永江学

ページ範囲:P.382 - P.382

 【解説】上段の心電図は,心拍数200〜300bpm,RR間隔は不規則で,P波が認められないwide QRS頻拍である.下段は頻拍停止後の心電図で,PQ短縮とデルタ(⊿)波が認められWPW症候群である.上段のwide QRS頻拍は,房室解離や心室捕捉は認められず,RR間隔が不規則で最も速い心拍で300bpmもあり,洞調律時の⊿波の極性と同じであることから発作性の心房細動がkent束を順行伝導して起こる偽性心室頻拍である可能性が高い.

検査センター悲話・秘話・疲話

第1話 検査センターの法的要件とそれに絡む問題点

著者: ラボ検査研究会

ページ範囲:P.388 - P.389

 検査センター(衛生検査所)を開設しようとする時は,所在地の都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市,または特別区の区域にある場合においては,市長または区長)の登録を受けなければならない.登録の人的要件は,管理者と精度管理責任者を置くことで,両者とも相応の経験のある医師もしくは検査技師を置くこと,管理者が検査技師の場合は,そのセンターの検査業務全般を指導監督する医師を置かねばならないとされています.

 登録項目としては,微生物学的検査,血清学的検査,血液学的検査,病理学的検査,寄生虫学的検査,生化学的検査の6業務があり,検体の多寡にかかわらず登録業務の数だけで1〜3人の技師を置くという基準が設けられているだけです.

検査じょうほう室 輸血:白血球検査あれこれ

肩のこらないHLA(4)

著者: 秋田真哉 ,   皆森久美子 ,   荒木延夫

ページ範囲:P.392 - P.393

プロローグ
 ――「君も落とし穴に落ちたね.」したり顔の先輩A氏から,そんな冷静なセリフを聞いた私は少々慌てました.というのも「それはおもしろいね.」と続き,にわかに活気づく検査室を思い浮かべていたのに…….
 「白血球検査について」シリーズ第4回は,過去のシリーズからちょっと外れてコーヒーブレイク.マニュアル化された検査プロトコールのなかで,つい見落とされがちな落とし穴を,今回と次回の2回に分けて,血清学的検査編と遺伝子検査編でご紹介したいと思います.

病理:病理標本に見られる不思議な現象

組織固定の重要性

著者: 冨永晋 ,   広井禎之

ページ範囲:P.394 - P.396

はじめに
 病理組織標本作製における固定とは,組織中の蛋白を変性凝固させ,細胞内に含まれる酵素による自発的破壊(自己融解)あるいは細菌の繁殖に伴う腐敗(異種融解)を防ぐ操作のことを指します.病理組織標本作製の第一段階は固定であり,その重要性は皆が認めるところです.今回は,組織固定の重要性について具体例をまじえ解説します.

生理:脳波検査のスキルアップ

脳死判定時の脳波記録における留意点

著者: 橋本修治

ページ範囲:P.398 - P.400

はじめに
 日本で,脳死は,脳幹と大脳両者(全脳髄)の機能が不可逆的に停止した状態と定義されている.現在のところ,脳死判定において,大脳機能の停止を確認する手段は脳波のみである.判定を間違わずに行うために,正確な脳波記録が要請されている.脳波記録は,多くの施設で技師の仕事とされているため,脳死判定における技師の役割は重要である.
 以下に,脳死判定時の脳波記録について,重要なポイントを記載する.

けんさ質問箱

Q 耳朶穿刺で少量しか採血できない場合の出血時間の信頼性

著者: 田中由美子 ,   M.Y.生

ページ範囲:P.401 - P.402

 ランセットで耳朶を穿刺して出血時間を測定する時,教科書などでは最初の血液が直径1cm程度になるようにと書かれてあります.少ししか出血しなかった場合その出血時間の成績は信頼できるのでしょうか.

Q 骨粗鬆症と骨代謝マーカーの使いかた

著者: 中塚喜義 ,   K.I.生

ページ範囲:P.402 - P.403

 骨粗鬆症における骨代謝マーカーの測定が行われています.骨粗鬆症の診断,治療,予後観察における各マーカーの使い分け,データの読みかた,治療方法について教えてください.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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