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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術30巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

フォンウィルブランド病

著者: 尾崎由基男

ページ範囲:P.508 - P.511

新しい知見
 フォンウィルブランド病(von Willebrand disease;vWD)は第12常染色体に存在するフォンウィルブランド因子(von Willebrand factor;vWF)遺伝子の異常による遺伝性出血疾患であるが,最近の構造,機能解析の進歩,遺伝子レベルの解析で種々の病型が明らかにされるようになった.機能ドメインはvWF遺伝子の塩基配列の相同性よりA〜Dに分類されている.それぞれのドメインの機能は詳細に解析されているが,血小板の糖蛋白質(glycoprotein;GP)Ibと結合するA1ドメインや第Ⅷ因子結合部位であるD’などの異常により多様なvWDの表現形式を取る.vWDの遺伝子解析はgenomic DNAを用いて行われるようになっており,これらの遺伝子異常はmutation databaseとして構築され,インターネット上で検索可能である.

技術講座 血液

プロトロンビン時間—試薬と表記法

著者: 湯浅宗一

ページ範囲:P.513 - P.517

新しい知見
 プロトロンビン時間(prothrombin time;PT)は活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partialthromboplastin time;APTT)と並んで凝固検査のスクリーニングテストとして広く用いられている.またワルファリンカリウム服用患者のモニタリングとしても広く用いられている.
 このPTは用いる組織トロンボプラスチンによって測定値が異なることから試薬間差,施設間差を生じている.この問題を解決するために市販PT試薬にISI表示がなされており,それを基にINR(internationalnormalized ratio)表示が可能となり,試薬間差,施設間差の是正に役立っている.

病理

神経組織の標本作製法と特殊染色法

著者: 羽賀千恵 ,   秋山治彦

ページ範囲:P.519 - P.528

新しい知見
 中枢神経組織では,従来からの一般染色法や特殊染色法に加え,新しい鍍銀染色法〔改良ガリアス-ブラーク(Gallyas-Braak;G-B)法やメセナミン-シルバー(methenamine-silver;M-S)法)が考案された.また,免役組織化学染色法の改良,中枢神経関連の新たな抗体の作製により,神経疾患病理変化における特異蛋白の存在が明らかにされてきた.ここに最近の新しい知見として進行性核上麻痺や皮質基底核変性症などに出現するグリア細胞内タングルや多系統萎縮症のグリア細胞質内封入体,さらにアルツハイマー(Alzheimer)病老人斑の初期像と考えられるびまん性老人斑の染色法を紹介する.

生化学

ROC分析とカットオフ値

著者: 西野善一 ,   辻一郎

ページ範囲:P.529 - P.532

新しい知見
 さまざまなカットオフ値における感度と特異度との関連を表示するROC(receiver-operating characteristic)分析は臨床検査におけるカットオフ値の決定や複数の検査間でその相対的な有用性を比較する際に利用されている.臨床検査における偽陰性(見逃し)と偽陽性(見過ぎ)とは一方が増加すれば他方が減少する関係にあるが,カットオフ値を決定するに当たっては,偽陰性と偽陽性とがもたらす不利益の大きさをそれぞれ考慮することにより,疾病の性質に応じた基準の設定がなされるべきである.

オピニオン

「みんな一緒・生真面目」からの脱皮

著者: 大久良晴

ページ範囲:P.512 - P.512

 臨床検査技師が法的に認められて半世紀を迎えようとしています.
 そして,私たち臨床検査技師は臨床検査の専門家として医療に参加することを望んできました.臨床検査技師がプロの集団となり生体情報を科学的に分析して,分析結果に基づく病態把握を行うことは,病院勤務か否かに関係なくすべての医療関連組織で重要となります.しかし,ここで考えなければならないことは,医療に参加するための臨床検査の専門家(プロ)についてです.そして,プロ化への具体的なプロセスです.そこで,私の考えるプロとそのプロセスに必要なことを以下に述べます.

けんさアラカルト

ミャンマー国・ハンセン病対策基礎保健サービス改善プロジェクト—その1

著者: 鈴木慶治

ページ範囲:P.518 - P.518

 1996年の「らい予防法」廃止,「謝罪要求と違憲国家賠償請求」提訴,2001年5月11日の熊本地裁判決,同23日の小泉首相の控訴断念声明と続き,ハンセン(Hansen)病患者さんに対する人権侵害の歴史が,新聞・テレビなどのマスコミで報道され関心を持たれた方も多いと思われる.日本全国に13か所の国立療養所と2か所の私立療養所があり,約4,400人の元患者さんが生活している.現在,療養所入所者は高齢化し,多磨全生園所入所者の平均年齢は74歳を超え,100歳になる元患者さんもいる.新患者さん発生数は日本全国でここ数年10名以下,新患者さんの年齢も半数以上が60歳以上である.ハンセン病は日本においては過去の病気となりつつある.
 世界保健機関(WHO)は1991年5月の第44回世界保健総会で「2000年末には,公衆衛生問題としてのハンセン病を制圧する」決議を行った.ハンセン病患者を人口1万人に対し1人以下のレベルまで減少させるという目標を設定,これが達成されれば,ハンセン病はもはや公衆衛生上の問題ではなくなるとした.しかし,2000年1月までで24か国が目標未達成であり,ミャンマー国でも2003年末までに,このWHOの定めた基準の達成を目指してハンセン病制圧キャンペーンを展開している.

ラボクイズ

問題:細胞診【3】

ページ範囲:P.534 - P.534

5月号の解答と解説

ページ範囲:P.535 - P.535

絵で見る免疫学 基礎編・30

補体(1)

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.536 - P.537

 補体は抗体による細菌の食作用や抗体の細菌破壊など,抗体分子の抗菌作用を補足することから補体と呼ばれた.補体は約20種類の異なる蛋白質から成り血液と細胞外液を循環している.その成分の大部分は,免疫応答や侵入した細菌によって活性化されるまでは不活性化状態にある.補体は1つの因子により活性化すると次々と連鎖反応が誘導され別の補体系蛋白質を次々と活性化する.一連の補体連鎖反応において,1つの前躯体蛋白質(C4,C2,C3など)から大きい断片(C4b,C2b,C3bなど)と小さな断片(C4a,C2a,C3aなど)の2つの断片が生じる.大きい断片は直接細菌の表面または細菌表面に結合している補体成分と結合し,次の蛋白分解過程に作用する.小さい断片は血中で炎症反応の伝達物質として作用する.
 補体が活性化される経路には以下に述べる3通りあるがいずれもC3転換酵素を産生する.補体が活性化されると,細菌表面を覆い食細胞による食作用を促進し,食細胞の動員そして最終的には細菌表面に大きな補体複合体である膜強襲複合体(membrane-attack complex)を形成し細菌膜に孔を開けて殺す(図1).

見開き講座 分子細胞遺伝学への道しるべ・18

染色体10.染色体異常の臨床(2)性染色体異常症候群

著者: 田村高志

ページ範囲:P.538 - P.539

性染色体と性分化
 染色体には常染色体(autosome)のほかに性に関係するX染色体とY染色体の2本の性染色体(sex chromosome)がある.女性はXX,男性はXYの組み合わせの構成となっている.
 性決定にはY染色体上の睾丸決定因子(testisdetermining factor;TDF)が関与している.このTDFとして1990年SRY(sex-determiningregion of Y chromosome)遺伝子がY染色体短腕末端の偽常染色体領域(pseudoautosomalregion;PAR)の近位側にマッピングされた(性決定・分化に関与するいくつかの遺伝子が常染色体からもクローニングされている).Y染色体を持つ個体はSRY遺伝子産物が未分化性腺を精巣へと誘導し,精巣のセルトリ(Sertoli)細胞からは抗ミューラー(Müller)管ホルモンが分泌されミューラー管が退縮する.一方,ライディッヒ(Leidig)細胞からはテストステロンが分泌されウォルフ(Wolff)管が発達して男性型へと分化する.Y染色体を持たない個体では,そのままミューラー管が発達して女性型へと分化する.

検査データを考える

高尿酸血症と痛風

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.541 - P.546

尿酸とは
 炭素と窒素による環状構造2つから成る,プリン環と呼ばれる構造がある.尿酸はプリン環の3つの炭素原子が酸化した化合物(図1-a)で,2,6,8-トリオキシプリン(2,6,8-trioxpurine)とも呼ばれる.プリンは,糖やリン酸とともに核酸を構成する塩基の一種である.核酸を構成する塩基にはプリン塩基と,六角環状構造を持つピリミジン塩基とがある.プリン塩基としてはアデニンとグアニンとの2種が,ピリミジン塩基にはシトシン,チミン,ウラシルがある.尿酸は分解されてアラントインになるが,霊長類では尿酸を分解するウリカーゼが欠損しているので,尿酸がプリン体の最終代謝産物(図2)となる.
 尿酸は,ナトリウムイオンが多い血液中や細胞外液中では98%が陰イオン化し,尿酸ナトリウム(図1-b)として存在している.この陰イオン化する性質のため,尿酸は弱酸性を示す.

臨床検査に必要な統計処理法・30

検査値の臨床的および技術的変動の識別と制御—検査データの客観性を表す統計学的手法の活用

著者: 細萱茂実

ページ範囲:P.547 - P.549

はじめに
 臨床検査の目的は,疾病の診断・治療・予防に役立つ客観的な検査データを提供することにある.臨床検査データの特徴の1つはその客観性にあり,それを保証するためには技術的および臨床的な両面への配慮が必要である.まず,技術的客観性を保証することは,まさに臨床検査室の責任でもある.すなわち,本来の検査値に影響を与える可能性のある,分析段階またその前後段階で生ずる誤差要因の存在とその影響の程度とを常にチェックし,適正な結果が得られるように管理していかなければならない.また,検査値が臨床的に有用であるためには,結果解釈の基準となる健康状態における生理的変動について理解し,目的疾患に対する検査値の動態を事前に熟知しておく必要がある.これら前提は当然な内容ではあるが,その着実な実践が検査結果活用の基本となる.
 一方,ある現象が起こる頻度を科学的・客観的に取り扱う学問が統計学であるともいえる.しかしながら,客観性を重視する臨床検査の領域において,統計学が必ずしも十分に活用されているとはいい難い状況がある.技術的信頼性や臨床的有用性を,統計学的手法を駆使することで適正に評価し,真に役立つ検査データを積極的に提供し活用していくことは臨床検査の使命でもある.

トピックス

アミリン

著者: 三家登喜夫

ページ範囲:P.567 - P.569

 内分泌腺の1つである膵ランゲルハンス(Langerhans)島(膵ラ島)には4種類のホルモン分泌細胞が存在する(表1).この中のβ細胞は,食事などにより血糖値(血中グルコース濃度)が上昇するとインスリンを追加分泌し(少量のインスリンは基礎分泌として持続的に分泌されている)血糖値は常に一定に保たれている.アミリンはこのβ細胞からインスリンとともに分泌されている生理活性様ペプチドであり,2型糖尿病患者の膵ラ島に沈着しているアミロイドの主要構成成分であることよりその成因の1つとして注目されている物質である.

プロカルシトニンの測定法

著者: 藤野正裕 ,   米田孝司 ,   片山善章

ページ範囲:P.569 - P.570

はじめに
 プロカルシトニン(procalcitonin:PCT)はペプチドホルモンであるカルシトニン(calcitonin)の前駆体で,従来とはまったく異なる特徴を持った,新しいタイプの炎症マーカーとして1992年にNylenら1)により初めて報告された.その後,臨床においてもさまざまな疾患について研究が行われ,最近では感染症および敗血症の診断に有用であるとの報告が多数なされるようになってきた2〜5)
 本稿ではPCTの測定法を中心にその臨床的意義についても述べる.

シアリルS型アミラーゼ

著者: 森山隆則

ページ範囲:P.571 - P.572

はじめに
 アミラーゼ産生腫瘍の表現型は,基本的には唾液型アミラーゼが中心である.近年,免疫化学的方法によるアミラーゼアイソエンザイムの分画定量が可能な時代となっているが,ここでは電気泳動においてのみ明らかにされるシアリルS型アミラーゼについて述べる.

検査センター悲話・秘話・疲話

第3話 血清(漿)分離とデカンテーション

著者: ラボ検査研究会

ページ範囲:P.540 - P.540

今困っていることのひとつは,生化学や免疫血清学的検査に用いる血清や,凝血学的検査やホルモン検査に用いる血漿を分離して,別の試験管に移し替え(デカンテーション)して提出してくれるユーザーが少ないことである.検査センターにとって,ユーザーでの正しい検体採取と,血清(漿)分取は正しいデータを返すあるいは返してもらうためのお互い遵守すべき事項ということができる.しかし,医師の卒後教育や検査センターにおける営業担当者の教育が不足しているため,検査項目が少なかった頃の悪習慣がそのまま残り正しいデータを得るうえでの弊害となっている.

検査じょうほう室 血液:知っていれば見落とさない

凝固検査における体温補正の必要性(その1)

著者: 福田篤久 ,   石田浩美 ,   久保田芽里 ,   小島義忠

ページ範囲:P.550 - P.551

プロローグ
 「技師長!!今,手術中の頭の患者やけど……止血にものすごく手こずったんで術前検査の結果を見たけど,まったく凝固系に問題は無いのや.あのデータ本当に信用できるの……?」
 とある日の夕方,普段はニコニコしている当時の副所長が不機嫌そうな顔をちらつかせながら,しかも手術着のまま検査室に飛び込んで来られた.

生化学:おさえておきたい生化学の知識

血清シスタチンCの臨床的評価と基準値設定

著者: 山本英明 ,   伊藤喜久 ,   赤司俊二

ページ範囲:P.552 - P.555

はじめに
 血清シスタチンC(cystatin C,以下Cys-C)は糸球体濾過率(glomerular filtration rate;GFR)を表す新しい臨床検査として注目を集めている.Cys-Cは分子量13 kDaの塩基性蛋白質でpos-γ-trance蛋白とも呼ばれており,システインプロテイナーゼインヒビターの一種である.Cys-Cは全身の臓器,組織の有核細胞で産生されており,コードする遺伝子およびそのプロモーターはハウスキーピングタイプであるため,細胞内外の環境変化にほとんど影響を受けないで一定の産生量で細胞外液中に分泌され,短時間のうちに腎糸球体から濾過されて,そのほとんどが近位尿細管より再吸収され異化されることが知られている1)

一般:一般検査のミステリー

下痢便から検出される大腸菌

著者: 大西健児

ページ範囲:P.556 - P.558

下痢原性大腸菌? 病原[性]大腸菌?
 大腸菌(Escherichia coli)はヒトの腸の常在菌である.したがって,下痢便からは病原性を有しない大腸菌も検出される.しかし,ここでは下痢の原因となる一群の大腸菌,すなわち下痢原性大腸菌について述べることとする.
 この下痢原性大腸菌はかつて「広義の病原[性]大腸菌」あるいは単に「病原[性]大腸菌」と呼ばれていたことがあり,現在の腸管病原性大腸菌(enteropathogenic E.coli,すなわちEPECのこと,以前は「狭義の病原[性]大腸菌」あるいは単に「病原[性]大腸菌」と呼ばれていたこともある)との間で用語の混乱がみられていた.そのため,最近は下痢原性大腸菌のように呼ばれることが多い.

けんさ質問箱

Q 聴性脳幹反応テストの再現性

著者: 三鍋博史 ,   戸田由香 ,   岡田健 ,  

ページ範囲:P.559 - P.561

 聴性脳幹反応(auditory brainstream response;ABR)テストは再現性に優れた検査ですが,時に再現性に乏しいことがあり波形の判定に困ることがあります.アーチファクトは十分に除去できているのですが,どのような原因が考えられるでしょうか.対策も併せて教えてください.

Q ANP,BNP測定の意義とその解釈

著者: 錦見俊雄 ,  

ページ範囲:P.561 - P.563

 ANP(atrial natriuretic peptide,心房性ナトリウム利尿ペプチド),BNP(brain natriuretic peptide,脳性ナトリウム利尿ペプチド)は同時に検査を出されることが多いのですが,その測定意義と解釈,特にANPに比べてBNPが異常に高くなる場合について教えてください.またこの異常高値は緊急検査の対象になりますか.

今月の表紙

乳腺超音波[1]

著者: 永江学

ページ範囲:P.563 - P.563

 【解説】図1は36歳女性の乳腺超音波像である.乳腺は肥厚し乳腺内に低エコー部が混在する像として認められる.また,この低エコー像の大きさはほぼ同じくらいである.本性例は豹紋状の乳腺症例である.乳腺症の好発年齢は35歳から50歳であり,閉経後には急激に減少する.注意点としては限局的なこの様な像を認めた時には,腫瘤を形成しない非浸潤性乳癌を念頭に置かなければならない.
 図2は36歳女性の乳腺超音波像である.乳腺内に内部無エコーで境界明瞭な腫瘤を認める.腫瘍の後方エコーの増強と外側陰影も認められる.嚢胞の症例である.組織学的には乳腺症の一部であり,大部分が乳管の拡張によるものである.嚢胞に対する超音波診断の信頼性は極めて高い.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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