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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術31巻10号

2003年09月発行

雑誌目次

増刊号 包括医療と臨床検査

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.863 - P.863

 昨今の医療をめぐる保険制度のなかで,包括化が進み,病院経営に大きな影響を与えている.臨床検査の領域においても,保険点数がマルメの状態で計算されるようになった.

 従来DRG/PPS(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System)という包括化医療の1つの手段が欧米を中心に行われてきた.これについてはわが国に導入することが厚生労働省を中心にここ数年検討されてきた.しかし,厚生労働省の検討では必ずしもDRG/PPSがわが国の医療で医療費を削減するのに有効なシステムであるといえない結果となった.したがって,現在はこれに代わってDPC(Diagnosis Procedure Combination)という包括医療システムがわが国で導入されつつある.

第1章 総論―包括医療とは 1.包括医療の概念

1)日本の医療経済

著者: 河合忠

ページ範囲:P.867 - P.872

 はじめに

 人間社会の歩みは3つの大きな波に譬たとえられている.第一の波は長く続いた農業社会,第二の波は欧州で起こった産業革命以後の近代化を突き進んだ産業社会,そして第三の波は20世紀の終わりから始まった産業文明に対する反省と反発から,集団の時代から個人をより尊重する時代であり,21世紀に入ってその波はさらに大きくなりつつある.まさに人間社会にとって大きな転機に突入しているが,医療の分野も例外ではない.

 わが国における医療の変革にインパクトを与えている主な要因としては,①急速な少子高齢化,②低迷する経済状況,③医療技術の進歩,および④国民の意識の変化が挙げられる(図1).

2)アメリカにおける DRG/PPS

著者: 福田順一

ページ範囲:P.873 - P.877

 はじめに

 1983年(昭和58年)ニューヨーク市で開催された第35回米国臨床化学会(American Association for Clinical Chemistry;AACC)で,初めて展示されたSPOT(satellite and physician's office testing)機器が注目を集めたが,同時にDRG(後述)という聞き馴れない言葉が会場を飛び交っているのに気が付いた.わが国の臨床検査業界でDRGという言葉を耳にし始めたのもこの頃からであった.以来20年が経過し,DRG/PPS(後述)の全貌と評価は既に明らかになっているが,DRG/PPSと検査サービスとの関連についてはあまり触れられていない.1993年,日衛協創立25年記念招待講演で,米国臨床検査所協会(American Clinical Laboratory Association;ACLA)のホープSフォスター女史がこれについて解説されたが,両者を併せ,最近までの動向を含めて紹介しご参考に供したい.

3)DPC

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.878 - P.881

 はじめに

 最近,新たに国から提示された包括医療のなかにDPCがある.これは疾患別の支払い方式の包括システムであり,特定機能病院の入院医療費について本年4~7月にかけて導入されたものである.DPCは名前を変えてはいるが旧DRG/PPS(Diagnosis Related Group and Prospective Pay-ment System,疾患別関連群包括支払い方式)に類似した包括医療方式である.いずれにしてもわが国にDRG様の包括医療は進展する可能性がある.このような包括医療がもし導入されれば臨床検査はかなりの影響を受け,特に臨床検査を実施している現場の臨床検査部門ではそれに的確に対応せざるを得ない状況にある.ここではDPCとその対応について私見を述べる.

4)医療の質の確保―病院機能評価を中心として

著者: 大道久

ページ範囲:P.882 - P.885

定額支払下の医療の質の確保

 今後の医療費の支払方式は,出来高払いから定額支払へ移行してゆく必要があることが,かねてから叫ばれている.先般,特定機能病院にDPC(Diagnosis Procedure Combination)による支払方式が適用され,この方向は急速に現実味を帯び始めているといえよう.定額支払方式には,無駄を省いた効率的な医療を行う動機付けが働く一方で,必要な検査や薬剤投与が行われなくなるなど,医療の質に問題が起こる可能性が指摘されている.今後の医療においてその質の向上は重要な課題であるが,定額支払下での医療については,特段に質の確保に留意されなければならない.

 今回実施になったDPCにせよ,先行して試行されている急性期包括支払方式(いわゆる日本型DRG/PPS)にしても,定額支払いを受ける医療に病理診断を含む検査は包括されており,適切な検査・診断の実施には十分な検討と留意が求められる.特に病理診断は,医学的診断において重要な意義を有するにもかかわらず従来から医療費における評価が不十分であり,病理医の確保などが困難な病院が少なくないなか,今後の定額化の流れのなかで,その実施がさらに困難になるのではないかと危惧される.

5)特定機能病院の診断群分類別包括評価制度の導入について

著者: 矢島鉄也

ページ範囲:P.886 - P.892

 はじめに

 2003年(平成15年)4月1日から,特定機能病院に新しい診療報酬の支払い方法が導入されました.ただし,実施まで猶予期間を3か月間設けておりますので,すべての特定機能病院が新しい支払い制度になったのは7月です.

 特定機能病院の一般病棟は従来の出来高による支払い方式から包括評価による支払い方式になりました.これは,特定機能病院の機能を適切に評価し,その機能にふさわしく良質で効率的な医療を提供するという観点から,「診断群分類」を活用した新しい包括払い制度を導入するものです.

2.包括医療と臨床検査

1)マルメ検査項目と保険点数

著者: 関口仁

ページ範囲:P.893 - P.904

 はじめに

 臨床検査の診療報酬点数に包括化(いわゆるマルメ)が初めて導入されたのは今から22年前の1981年(昭和56年)4月からである.それ以前は出来高,つまり保険点数×実施数=検査室の収入であり,俗にいう「検査室ドル箱時代」であった.医師が検査を依頼すればするほど検査室の収益は上がり病院経営の増収につながっていた.

 国民医療費の推移(図1,厚生労働省資料より)を見ると,1970年度に約2兆5千億円であった医療費は5年後の1975年度には約6兆5千億円,1980年度には約12兆円と,毎年約1兆円ずつ増加していた.

 当時の厚生省(現,厚生労働省)は,増え続ける医療費を抑制する1つの手段とし,検体検査に対する包括化を実施することとなった.その後,診療報酬が改定されるたびに包括項目が拡大・強化され,検査室運営が圧迫されてきたことは周知の通りである.

 一口に包括化といってもさまざまな包括化が絡み合っており,すべてを理解したうえで検査を依頼し,実施することは不可能に近いことである.同じ検査項目でも病院の機構によっては,外来で実施した場合と入院で実施した場合で受ける包括が異なり,算定できる保険点数が違うことも少なくない.

 本項では,2002年度医科点数表の解釈1)に基づき,包括検査項目(マルメ検査項目)と診療報酬(保険点数)の関係についてできるだけ具体的な数値を用い説明したい.

2)包括されない臨床検査

著者: 森三樹雄

ページ範囲:P.905 - P.907

 はじめに

 医療法がめまぐるしく改正され,2003年4月より82の特定機能病院で包括評価のために診断群分類(DPC:Diagnosis Procedure Combination)が行われることになった.そのため診療では包括される項目と出来高払いのため包括されない項目とに分類される.特定機能病院以外の一般病院では従来どおりの出来高払い制で請求できる.診断群分類については2002年7月~10月に特定機能病院から収集した退院患者26.7万人分の診療内容および診療報酬請求に関するデータに基づき診断群分類を専門家が臨床的観点から検討して決めたものである.特定機能病院で一般病棟の入院患者は,傷病名などが診断群分類(DPC)に該当する場合には包括評価される.このように特定機能病院では,一般病棟の入院患者の検査は包括化される.

3)必須基本検査

著者: 桑島実

ページ範囲:P.908 - P.911

 はじめに

 日常初期診療ではインタビュー(問診)による病歴聴取と診察所見が最も重要な情報源となり,これらの所見のみで8割近くの疾患の診断が推定できるとされている.ただし,病歴と診察による情報は主観的で診察医の能力,経験,状況に左右されやすいという問題点がある.一方,臨床検査から得られる情報には客観性と計量性がある反面,身体全体や時間経過からみて部分的,断片的である.患者の全体像を客観的に把握するには,インタビューから得られる情報と身体所見に加え基本になる臨床検査をいくつか組み合わせ活用することが望ましい1,2).そこで必要になるのが必須基本検査または「基本的検査」である.すなわち,日常初期診療に不可欠な,いつでも,どこでも,どのような初診患者に対しても容易に適用できる最小限度の検査である.

 実際の診療過程では,インタビューと診察の所見を基に迅速に結果が得られる比較的簡便な「基本的検査」を必要に応じ選択し,診察所見と検査所見を総合的にみて,どの系統の疾患ないし病態かを推定し,仮の診断を行う.次に患者の問題点を明確化し,問題解決に必要な臨床的観察と並行して臓器系統別の第一次スクリーニング検査を行い診断を得る.さらに必要ならば診断確定のための検査を追加するというように進める(図).

4)包括医療への検査室の対応

著者: 髙橋伯夫

ページ範囲:P.912 - P.915

 はじめに

 わが国で包括医療の話題といえば,特定機能病院に適応されたDPC(Diagnosis Procedure Com-bination)が思い起こされるが,既にさまざまな分野で包括化はなされており,なかでも臨床検査項目の包括化(マルメ)はその先駆けであったともいえる.医療費の高騰を抑制すべく躍起になった厚生労働省が打ち出した策である.“薬漬け,検査漬け”という言葉がマスメディアで流れ,まるで「日本の医療が悪い」と印象づけるような風評が流れたが,現実には,世界一の長寿を誇る日本人の健康は単に遺伝と環境要因だけではなく木目の細かい,しかも安価な医療によってもたらされたものである.“……漬け”があったとしてもごく限られた部分であろう.

 いずれにしても,現在の国民医療費は先進国のうちでは決して多いほうではないが,急速な高齢化により医療費が高騰し,他方では少子化によって保健医療費を賄う能力が低下することを考えれば医療費の抑制策を前倒しで進めるべきとの結論に至るのは至極当然であり,その目玉となるのが包括医療である.現在のDPCは入院医療で限定された項目において実施されているが,将来は外来患者,手術などにも適応されるであろう.したがって,包括医療に対する検査室での対策は当面と究極的な方針の両面から検討する必要がある.

5)包括医療時代に生き残る検査

著者: 北村聖

ページ範囲:P.916 - P.919

 はじめに

 日本の医療制度は,従来の出来高払い医療から,臨床検査の「マルメ」の時代を経て,いよいよ包括医療の時代に入っていく.その最大の理由は,医療費の増大に歯止めをかけることにあるが,もともとの原因は,少子高齢化社会の到来にあることは周知の事実である.従来の出来高払い制度は,検査をはじめ,処置,投薬に至るまで必要性が少しでもあれば行うといういわば「過剰医療」の方向へいく制度であった.そのなかで,臨床検査は,必要性を明示することが比較的容易なものであり,多くの検査が行われ「検査漬け医療」と揶揄される時代もあった.一面,その頃は検査が利益を生んだため多くの医療施設で検査室・検査部が整備され,また人的な側面からも優秀な検査技師が養成された.

 「マルメ」の時代は,基本的には出来高払いであり,検査部の整備や人的援助もあったが,反面,医療経済の考えなくしては検査部運営はなりゆかない状況を作り出した.検査部長,検査技師長は病院運営に深くかかわることを余儀なくされるようになってきた時代であった.

 そして,いよいよ包括医療の時代に入っていく.本年度からは大学病院と特定機能病院だけの極めて限られた部分での導入であるが,今後,大病院を中心により広く包括医療が取り入れられていくであろうと予想される.本稿ではそのような大きな波が押し寄せたときに,臨床検査はどうなるか,近未来を推定してみたい.

3.検査部での対応

1)自動分析検査はどうあるべきか

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.920 - P.923

 はじめに

 臨床検査の発展の歴史は,自動化学分析装置の開発と発展に代表される.用手法を自動化し,多数の検体を精密に,迅速に測定することを可能にした.これで主として血清中の生化学成分の定量検査が日常的にどこの検査室でも容易に実施できるようになった.装置の多機能化,検査情報システム(laboratory information system;LIS)や病院情報システム(hospital informatin system;HIS)とのネットワーク化,搬送ラインとの接続などによるトータルシステムとして組み立てられてきている.さらに専用自動分析装置として,尿検査,血液検査,免疫検査などが開発され,検査室はこれらの自動分析装置を必要な分だけを配置し,これらを用いた検査業務がルーチンワークの大部分を占めている.

 自動分析装置の発展は,装置メーカーの技術の努力によるものであるが,併せて検査室による患者情報を用いた精度管理手法の構築,試薬メーカーによる酵素的分析法の開発など,日本での固有の技術をも生み出した.

 これらの自動分析装置を用いた検査は,登録衛生検査所の台頭を余儀なくしたことから,試薬代の二重価格の存在やサービスのしかたなどにおいて,もはや病院検査室では少なくとも経済性においては,太刀打ちできなくなった.医療の効率化や経済性が求められる今日,自動化した病院検査室は,アウトソーシングの格好の的になっている.言い換えればそれだけ機能分化し,測定という過程だけについては,専門職種に取って代われるものになったということでもある.

 技術の発展の歴史においては,いずれも似たプロセスを経る.すなわち信頼性の向上と効率化により達成されたものは,次なる新しい領域を創出しなくはならないということである.臨床検査の生化学成分の定量検査は,まさしく医療分野において初めて達成された技術の発展の成果であり,次なる領域へ歩みだす布石である.

 ここでは自動分析検査のこれから行う新しい検査について,医療での役割分担をターゲットとした内容を中心にまとめた.

2)特殊検査の対応のしかた―免疫検査を中心に基本的な考えかた,院内検査と外注への振り分けの基準

著者: 金光房江

ページ範囲:P.924 - P.930

 はじめに

 2003年4月より,82の特定機能病院(大学病院,国立がんセンター,国立循環器病センター)のうちの一般病棟の入院医療において,包括評価の診療報酬点数(1日当たり)が適用される包括医療がスタートした.実際にすべての医療機関が揃ったのは7月1日だが,これによって実施以後の入院患者様の90%程度が包括評価の対象となった.ここで包括評価となるのが入院基本料,検査,画像診断,投薬,注射,1,000点未満の処置であり,手術,麻酔,放射線治療,指導管理,1,000点以上の処置,リハビリテーション,内視鏡検査などは出来高評価だ1).臨床検査はこの包括医療によって検査点数はもちろんのこと,検体管理加算,も包括化の中に入ってしまった.検査部門はそれでなくても近年の検査点数のまるめや包括化で肩身が狭い思いをしているが,消費部門へと転落したことによりコスト管理が最重要課題となった.このような状況のなかで,まったく分が悪い特殊検査について,検査室はどのように対応すればよいのであろうか.免疫検査を中心に基本的な考えかた,院内検査と外注への振り分けの基準について考えてみたい.

3)POCT

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.931 - P.934

 はじめに

 臨床検査の発達は,新米の医師でもベテラン医師でも同じように質の高い検査データを大量かつ迅速に活用できることを可能とし,診療レベルの向上に寄与した.一方で検査をすれば儲かるという時代を経験し,われわれはそれに甘んじてきた.しかし,医療費抑制の波が押し寄せ,今,検査の真価が問われる時代となった.このようななかでベッドサイドや診察の場での検査,POCT(point-of-care testing)が再び注目されるようになってきた.POCTは,血液ガス,電解質,尿検査,血糖検査などを中心に普及しているが,今後さらに拡大し検査の在りかたを変えるであろう1~4).本稿では包括医療の流れのなかで,POCTが果たす役割,そして今後の検査の在りかたを考えたい.

4)リアルタイム検査

著者: 高木康

ページ範囲:P.935 - P.937

 日本の医療はこの数年で劇的に変化してきている.DRG/PPSやクリニカルパスなどの医療の標準化が提唱され,根拠に根差した医療(evidence based medicine;EBM)や情報開示など,患者が主役の医療へと変化してきている.特に,包括医療は高騰する医療費と医療の標準化のうえから重要であり,経済的・効率的医療の実践のために重要であると考えられている.これは全医療費の10%前後を占める臨床検査についても効率的な検査,診療に直結する検査の実施が強く望まれるようになってきている.

 本稿では包括医療における検査部の対応としてのリアルタイム検査について,その理論と有用性について解説する.

5)感染症検査の効率化

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.938 - P.940

 はじめに

 感染症は急性疾患であり,患者を救命するためには迅速な診断と適切な治療が必要である.このような特性から,臨床検査が診療に大きな役割を果たすことができる疾患の1つである.包括医療制度では検査効率が厳しく評価され,臨床の役に立たない検査は依頼されなくなると予想される.現在の微生物検査は培養法を中心とした検査体系によって行われているが,検査の迅速性や得られる情報の精度に疑問が投げかけられている.ここでは感染症に関して包括医療制度では臨床に評価される感染症検査について検討した.

6)臨床検査技師の業務拡大

著者: 三村邦裕

ページ範囲:P.941 - P.946

 はじめに

 長引く不況による厳しい経済状況と少子高齢化は,医療を取り巻く環境を大きく変化させようとしている.1961年に制定された日本の医療保険制度は平均寿命や健康寿命を延長させ世界最高をもたらした.しかしながら現在,世界に誇る国民皆保険が医療費高騰によって崩れようとしている.このようななか,政府は「構造改革」「規制緩和」「医療費抑制」という政策から医療提供体制の見直しや診療報酬のマイナス改定など医療制度改革を順次行ってきている.今後も患者の立場に立った効率的な質の高い医療の提供や健康的な生活の質を高めるための保健医療サービスの提供を目指し改革がなされていくものと思われる.

 臨床検査は医療のなかで診療の担い手として発展してきた.しかし近年,病院検査部の不要論まで飛び出し臨床検査をめぐる環境は非常に厳しい状況である.現にここ数年の間に病院経営上からいくつかの大病院においてブランチラボ化,FMS(facility management system)化が行われてきている.このような状況において臨床検査技師としてなんらかの方策を講じる必要性が生じてきた.

 一方,全国臨床検査技師教育施設協議会の2000年の調査によると臨床検査技師養成施設から病院,診療所などの医療機関に就職した者は51.2%であった.その他は検査センターをはじめ検診事業施設,臨床検査機器などの関連企業であった.以前は,ほとんどの卒業生が病院検査室に就職していたが年々減少傾向にあり,病院への就職が厳しくなってきている.これらのことから臨床検査技師として付加価値を付けたり,業務拡大を行い臨床検査技師としてのアイデンティティーを社会に打ち出さねばならない必要性も生じてきた.

 臨床検査の知識を医療ばかりでなく他の分野に活用することも国民の健康を保持・増進させることにつながり臨床検査技師としての重要な使命である.そこで臨床検査技師の持つ豊富な知識や技術を活用し,臨床検査ばかりでなく他の分野にも進出できるような業務拡大の方法があるかを考える.

4.検査経費のコストダウン方策

1)収支計算に代わる業務判断資料

著者: 近清裕一

ページ範囲:P.947 - P.950

 はじめに

 今進んでいる医療改革は構造改革であり,組織の改革から業務マニュアルの変更を含む意識改革が必要である.医療産業の活性化と転換のために市場原理を働かせ消費者・患者の意識を高め,診療報酬の改正により適正価格で医療の質の向上を進めている.新医療のシステムを理解して,その改革に積極的に取り組むためには,組織の体質を変えていかなければならない.

 従来は薬剤部と臨床検査部門とはそれぞれが独立した収入があり収益部門であったが,実施料が減少し段階的に診療報酬に包括化され,今は,部門単独のレセプト収入はなくなっている.つまり,臨床検査は診療に大きな影響を持つ支援部門であるにもかかわらず単独報酬のない,部門収支計算ができない環境となった.その環境にあって管理運営を行う,新しいマニュアルを創らなければならない.そこでは臨床検査の直接のユーザである医師と看護師のニーズを満足させる運営形態を確立して臨床との信頼関係を作り,新医療体制や地域医療に質の高い,利用価値のある運営を確立させる必要がある.

 また,臨床検査の単独収入が不透明になり,従来行われていた部門別の収支に従った作業の判断基準が不可能になっている.従来,病院の経理は‘丼勘定'であり今後は企業的経営やITソフトにより部門別の投資効果は明確に判断しなければ,検査部門内の運営管理体制の目標指数であった利益率,業務安全率,労働分配率が‘収入'を対象としているため評価されなくなった.そこで,新しい環境下,臨床検査部の内部の運営管理とコストを的確に評価できる新しい資料を創らなければならない.考えるポイントは2つ.1つは従来行ってきた臨床への貢献度・利用価値の再検討である.一方,経済的には,検査部運営コストが全病院経費の一部として的確であるか運営管理が正確に判断されることである.従来,行ってきた部門収支計算ではなく,検査部内の運営コストの正当性を判断できる資料が必要である.

2)機器・試薬代 (1)大学病院検査部の立場から

著者: 石橋みどり

ページ範囲:P.951 - P.954

 はじめに

 医療機関別包括医療制度(diagnosis procedure combination;DPC)の実施により,検査部門はさらに明らかな消費部門に転じ,収支はいっそう厳しい状況を迎えた.導入後の経過が短く,今後どのような問題が出てくるのかわからないなかでの手探りのスタートではあるが,改めてより経済的な検査部の運営が求められる.消耗品をはじめ,機器,試薬のコストダウン方策としてどのようなことが挙げられるのかを大学病院検査部の立場で,われわれの施設での今までの経緯を含め,考察してみた.

2)機器・試薬代 (2)民間総合病院の立場から

著者: 村田哲也 ,   瀬古義雄 ,   上森昭

ページ範囲:P.955 - P.958

 はじめに

 現代医療における臨床検査の役割と重要性についてはここで改めて述べる必要もない.しかしながらこの数年の間,医療収入や医療保険点数からみて,臨床検査部門には強い逆風が吹いてきている.さらに,来るべき包括医療の時代に向けて,各施設における臨床検査部門はこれまで以上のコスト管理と精度管理を迫られてきている.

 本文では当院の現状を紹介し,当院における検査部(中央検査科)の機器・試薬代に関するコストダウン対策の実情と将来展望について,試薬リースのコスト計算を含めて述べる.そして最後に,院内検査室の生き残りについても,コスト面以外からも一言述べさせていただきたい.

3)外注化のメリット・デメリット

著者: 眞重文子

ページ範囲:P.959 - P.963

 はじめに

 1950年以降,臨床検査は分析法の驚異的な進歩と自動化によって,医療の発展と病院経営に多大な貢献をなしてきた.そして,社会的には,検査が身近なものとして普及し,検査の大衆化が進んだ.このような社会状況のなか,国民医療費は増加の一途を辿り,2001年度のそれは31兆円を超え,医療費抑制が国家社会の重要課題となり,検査費の抑制も一段と激しい状況となった.

 日本における登録衛生検査所(以下,検査センター)の発展は世界に類をみないが,企業間の過当競争が検査の低コスト化につながり,検査点数の引き下げに拍車をかけてきたことは否めない事実である.現在,病院検査部は,アウトソーシングのターゲットにさらされており,その波は高機能病院まで押し寄せている.佐守友博氏はこの現状を,“起こってはならない大規模高機能病院における検査部のアウトソーシングが起こり始めた”と警告し,“検査センターが踏み入れてはいけない領域に踏み入ったのか,あるいは病院検査室が手を離していけない領域を手放したのか”と将来を憂慮されている1).しかし,現実はそれ以上に混迷していた.国立大学医学部附属病院長会議常置委員会では「国立大学附属病院の医療提供機能強化を目指したマネージメント改革について(提言)」で,国の基幹病院である彼らの病院に「ブランチラボも検討するように」と提言したのである.愕然とせざるをえない.

 現在保険適用の検体検査項目だけでも800種類以上に上る.現在の多種多様な臨床からの要望に応えるには院内検査だけでは不可能に近い.外注検査を活用しながら院内検査の充実を図り,臨床の要望に応えるということが本来の姿と思われる.

 外注化のメリット・デメリットの判断は,病院の規模,病院経営者の方針(医療の選択),病院検査部が持つ力などによって判断が違ってくる.精度管理も十分できていない検査室や,検査件数がさほど多くない施設では,大手の検査センターに任せるほうが経済的にも精度的にもよい場合もある.このように,一律に論じられないので,本稿では,中~大規模病院を対象に外注検査のメリットとデメリットについて解説する.

4)ブランチラボのメリット・デメリット―臨床検査技師本来の業務に立脚した視点から

著者: 矢澤直行

ページ範囲:P.964 - P.967

 はじめに

 現場の意向とは無関係にそれは突然やってくる.大学病院の臨床検査部がブランチ化されることは,病院検査部の危機と呼ばれている.一方,会社から見れば,ブランチラボの権利を勝ち得たことは大いなる発展であろう.物事を評価する場合に,何をメリット,デメリットと採るかは,その立場によって大きく異なることはいうまでもない.ここではブランチラボの展開が大学病院の臨床検査部の管理運営や臨床検査技師の在りかたに与える影響という観点から,何がメリット,デメリットかを考察したい.

 当院では病院設立の計画段階から大幅に外部委託を取り入れる方針で,多くの部門が外部委託となった.臨床検査部も検体検査をブランチラボに託す形で2001年4月の開院を迎え,現在に至っている.このブランチラボの準備段階から現運用までの経験を基に,私見を述べる.

第2章 各論―疾患の診断治療のために最小限必要な検査

1.脳梗塞・脳出血

著者: 木村友美 ,   内山真一郎

ページ範囲:P.971 - P.977

 はじめに

 脳血管障害の治療,管理に当たっては,神経症候の的確な把握とともに,各種の補助検査を駆使して,脳卒中の病型や原因を正確に診断する必要がある.脳血管障害には多くの病型や原因が存在し,鑑別すべき疾患も多い.

 1990年に提唱された米国NINDS(National Institute of Neurological disorders and Stroke)の脳血管障害分類第3版1)(表1)が現在,最も普及した臨床病型分類と考えられる.

 特に脳梗塞においては,血栓溶解療法や脳保護療法などの超急性期治療法,抗血栓療法などの急性期治療法などの検討が進むにつれ,臨床病型(アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞,その他の脳梗塞)の鑑別が重視されるようになった.脳卒中診断のアルゴリズム2)を図1に示す.

2.気管支喘息

著者: 茆原順一 ,   植木重治

ページ範囲:P.978 - P.981

 はじめに

 以前,気管支喘息の概念は①可逆性の気道閉塞,②気道の反応性亢進という二点が中心であった.しかし,安定期においても気道上皮の炎症が観察されることや,Th(helper T cell,ヘルパーT細胞)1/Th2リンパ球の存在,気道リモデリングが気道過敏性の発現に関与することなどが明らかになってきた.これらの研究結果を受けて,最近の定義では気道の慢性炎症が強調されている(表1).現在,気管支喘息の罹患率は増加傾向にあり,小児の6%程度,成人では3%程度と考えられている.気管支喘息診断にたどり着くうえで最も重要なのは,丁寧な問診と診察であり,場合によっては重症度や病型まで診断ができるので包括医療において重要性を増すと考えられる.患者は発作性の呼吸困難,喘鳴,息苦しさ,咳発作を訴え,特に夜間・早朝に出現しやすく,起座呼吸を呈する.さまざまな間隔の無症状期をはさんで発作が出現し,しばしば誘因(気道感染,アレルゲンや刺激臭への曝露,薬剤,精神・肉体的ストレス,天候,アルコール,月経など)が存在する.初診時の問診は特に重要なので,喘息症状用の問診票を作っておき,あらかじめ患者に記入しておいてもらうことも1つの方法である.

3.インフルエンザなど感冒関連疾患

著者: 星野直 ,   黒崎知道

ページ範囲:P.982 - P.985

 はじめに

 感冒関連疾患(かぜ症候群)は,上気道の炎症を主体とした急性呼吸器疾患の総称で,日常診療において最もありふれた疾患の1つに数えられる.しかし,その原因病原体はウイルスを主体に,細菌からマイコプラズマ,クラミジアまで多岐に渡り,特にウイルスの血清型は200種類を超えるとされ(表1),正確な病因診断を下すことは容易ではない.その一方で,抗菌薬や抗ウイルス薬の適応となる疾患は限られているため,時間的に制約のある外来診療のなかで,数多くの原因病原体のなかから,治療対象となる疾患を選別しなくてはならない.特に,疾患群別包括支払い方式(diagnosis-related groups/prospective payment system;DRG/PPS)が導入された場合には,医療費全般の削減が求められるため,検査にも効率化が求められる.本稿では,その点を踏まえ,インフルエンザを含む感冒関連疾患について,診断・治療を進めるうえでの検査の要点を述べる.

4.肺炎

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.986 - P.990

 はじめに

 疾患群別定額払い制度(Diagnosis-Related Groups/Prospective Payment System;DRG/PPS)は医療費の削減を目的とした新しい医療費支払い制度であり,既に米国において導入され,多くの批判を浴びている制度でもある.日本でも毎年増大する医療費の削減を目的として本格的に導入されようとしている.DRG/PPSでは治療に対して支払われる金額が疾患と重症度によって定額化されるため,治療に要する総費用が少ないほど病院の収益が上がるシステムである.このためにDRG/PPSが導入されると,入院期間は短縮し,高価な治療薬が敬遠され,検査も項目と回数が減少するなどの変化が予想される.また入院期間を無駄に延長させないために院内感染に対する予防策が重視されると考えられる.一方で,病院評価のための機構が制度化されつつあり,医療費の削減が医療の内容を低下させることは許されない状況にある.このようにDRG/PPSは病院や検査室にとって厳しい制度であることを最初に認識する必要がある.

 しかし診療を確実・迅速に進めるためには臨床検査は不可欠であり,DGR/PPSにおいても臨床検査の重要性は変わることはない.しかし診療への有用性から検査項目が再評価され,診療に有用で利用価値が高い検査は存続し,診療に貢献しない検査は大幅に減少すると予想される.本稿では肺炎(特に市中肺炎)を例としてDRG/PPSにおける臨床検査について考察してみた.

5.肺結核

著者: 佐々木結花

ページ範囲:P.991 - P.995

 はじめに

 肺結核の診断は容易にみえ実は容易ではない.呼吸器症状を有した患者に対し,胸部単純X線写真撮影を行い,異常影を有した場合喀痰抗酸菌塗抹培養検査を3日間連続して施行し診断に至る,という流れが結核診断の基本であり,簡素なものの,施行が遅れたり,有意な結果が出ず診断に苦慮する場合も認められる.

 現在,わが国では肺結核患者は減少しているとはいえ,2001年には新登録患者は約28,000人であり1),世界的にみて中程度に蔓延している国である.空気感染する疾患であり,診断までの期間が長期であるほど院内感染が生じるばかりではなく,患者の生活環境周囲の人々,通院中に接触する不特定多数の人々に結核感染を拡大することから,包括医療が施行されても,検査内容にはポイントがあると考えられる.今回,診断に至るために必須の検査を中心に報告する.

6.慢性閉塞性肺疾患

著者: 谷合哲 ,   柳澤勉 ,   大玉信一

ページ範囲:P.996 - P.1000

 はじめに

 国民医療費の総額は1999年度には30兆円を超えて2001年度にはおよそ31兆円となっている.このままこの制度を続けていけばさらに伸び,国民所得に占める割合がますます高くなり,どこまでが許容範囲であるかが問題になってくる.今後さらに進歩してくる診断法や治療法,あるいは高齢化による医療費の増加に対して,早晩医療費の抑制が起こってくることになるであろう.

 医療費抑制の議論で必ず問題になるのは,医療の質を落とさずに,医療費をいかに抑制するかの問題である.その1つの方法として,疾患ごとに包括的な医療費を設定して,無駄な医療費を節減し,必要にして十分な医療が受けられるようにすることが提案され,一部において試行されている.慢性閉塞性肺疾患においても包括医療を行うとすれば,診断および治療法の決定のための臨床検査も,時期に応じて無駄を省き,必要にして十分な検査の在りかたが要求される.

 疾患単位における包括医療といっても,初期の診断確定のための検査,類似疾患との鑑別,疾患の程度の判定,合併症の有無,治療方針決定のための検査などがある.治療段階に入っても治療による副作用の有無,治療効果の判定,合併症出現の判定,リハビリテーション段階での検査など,時期に応じて必要な検査がある.包括医療により萎縮し医療の質を落とすことなく,無駄のない検査をすることが求められる.

7.気管・気管支および肺の原発性悪性新生物および続発性悪性新生物

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.1001 - P.1005

 はじめに

 気管・気管支または肺の原発性悪性新生物または続発性悪性新生物に含まれる疾患は他種多彩であるが,このうちで肺癌が大部分を占めることは疑いない事実であるので,本稿では単にこれらを肺癌と呼称することにする.

 日本における原発性肺癌の死亡数は1998年に年間5万人を越え,胃癌を抜いて癌死亡の第1位になった.この数はなおも増加傾向にあり,現在の日本人の15~20人に1人が肺癌で死亡する計算になる1)

 肺癌のうち最も多いのは腺癌であり,扁平上皮癌,小細胞癌,大細胞癌と続く.治療・予後の観点から,肺癌は小細胞癌とその他の非小細胞癌とに分けて論じられることが一般的である.また,肺癌の進行度は,TNM分類(tumor node metastasis classification)(表1)2)にしたがってstage I,II,III,IVに分類される(表2).このように肺癌における臨床検査は,組織診断(質的診断)と病期診断(量的診断)とに区別され,それぞれに行うべき検査内容とその流れも大きく異なってくる.

8.急性心筋梗塞

著者: 原政英 ,   犀川哲典

ページ範囲:P.1006 - P.1010

 はじめに

 近年,わが国においても食生活の欧米化に伴い虚血性心疾患や脳血管障害などの動脈硬化性疾患による死亡率が急速に増加している.急性心筋梗塞は不安定狭心症・心臓突然死と合わせて急性冠症候群として循環器救急医療の重要な対象疾患である.これらの胸痛患者の来院に際しては,速やかな診断とリスク層別化による適切な初期治療方針の決定が求められる.

 昨今,包括医療の導入により日常診療もこれまでのいわゆる「出来高方式」の診療体系からの見直しを余儀なくされている.すなわち入院期間の短縮,検査項目・回数の削減,高額な治療薬の他剤への変更などが行われることが予想される.しかしながら,診療上合目的である限り,臨床検査の必要性は従来となんら変わるところはないと考えられる.本稿ではこのような現状をふまえて急性心筋梗塞に対する臨床検査の進めかたについて考察してみた.

9.心不全

著者: 杉浦哲朗

ページ範囲:P.1011 - P.1015

 はじめに

 心不全とは「心機能低下のため心臓から拍出される血液量が減少し,末梢組織が必要とする酸素および栄養分の供給が不十分となった状態」と定義される.心不全は各種器質的心疾患末期にみられる共通の病態であるが,発症の時間的経過および心機能低下に対する代償機転が異なることにより急性心不全と慢性心不全に分類される.日常診療で心不全を疑った場合,基礎心疾患の確定診断とその重症度を評価し,適切な治療方針を決定する必要がある.包括医療が心不全診療に取り入れられる時代においては,臨床医は正確な問診と身体所見を得て,迅速に確定診断ができるよう検査を選択することが重要である.

 本稿では,一般外来で最初に何をすべきか,優先される検査は何かを急性心不全と慢性心不全に分けて概説する.

10.不整脈

著者: 岩永史郎

ページ範囲:P.1016 - P.1020

 大学病院などの特定機能病院に入院する急性疾患患者に対する診療報酬包括支払い制度が本年度から導入された.従来,施行した検査,行った治療,投与した薬剤,使用した医療材料などに対して個々に支払いが行われる出来高払い制度が採用されていた.しかし,新しい制度では,DPC(Diagnosis Procedure Combination)という1,860の診断群分類から入院中に最も医療資源を投入した診断および処置名を選択することによって,医療費支払額が決定される.支払額は診断群相対係数と機関別調整係数により補正され,また,輸血,手術,1,000点以上の処置は別に請求できるが,基本的にはDPCに従って1日当たりの報酬額が決まり,これに在院日数をかけることによって,入院中の総報酬額が算出される(注).慶應義塾大学病院でも2003年7月から包括支払い制度を導入したが,DPCで選択した分類以外に治療が必要な合併症がある症例や高額の医療材料を必要とする症例で,出来高払いよりも支払額が減少した.このため,入院の適応,検査方針,治療方法の選択などの点で早急な対応が必要と考えられている.循環器領域では特に,高齢者の心不全や血管内エコーを行った経皮的冠動脈インターベンションなどで,最大30%を超える減額となった.以下,診療報酬包括支払い制度のもとでの不整脈の診療について考察する.

 注)在院日数が長くなると,1日当たりの診療報酬は減額される.

 不整脈を有する患者に行われる診断と治療のプロセスは,不整脈の種類によって大きく異なる.不整脈患者は動悸,欠滞,失神,めまいなどの症状で外来を初診するか,健康診断で施行された心電図で不整脈を指摘されて紹介されることが多い.いずれであっても,外来でまず十分な問診を行って緊急入院の必要性を評価する.緊急入院させる必要がないと判断される場合,外来で自然発作中の心電図を標準十二誘導心電図検査やホルター長時間心電図(ambulatory Holter ECG monitoring)検査などで検出するように試みる.発作中の心電図記録が不整脈診断の決め手となるが,不整脈が非持続性で,発作の頻度が低い場合には発作中の心電図を記録することが困難である.

11.胃潰瘍・十二指腸潰瘍

著者: 川口実

ページ範囲:P.1021 - P.1025

 はじめに

 DRG/PPS(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System)が取り入れられようとしている.その目的の1つは医療費の削減であり,もう1つの目的は不必要な検査・投薬の規制である.

 臨床医の立場からいえば,どのような疾患でも患者一人一人それぞれ病態が異なり,画一的な検査・治療はありえない.しかしながら,その最大公約数的な診断・治療はある.この最大公約数的な部分を中心として,これに各病態に応じた診断・治療を加えた包括的医療となることを期待する.

 DRG/PPSはアメリカでは入院患者に対し適応されている.消化性潰瘍の場合,多くは入院を必要としない.また出血や症状が強く入院が必要となる場合でも多くは入院前に内視鏡検査を行い,診断が確定してから入院となる.外来の診断・治療にかかる費用が出来高払いで済むのならば現在の診断・治療が大きく変わることはない.

 しかしDRG/PPSが日本でどのように行われるのか明らかではないので,本論文では外来,入院にかかわらず胃潰瘍・十二指腸潰瘍全般について無駄な医療を省き,効果的な最善な医療を行うという立場から述べることとする.

 なお,胃潰瘍,十二指腸潰瘍はその病態においてかなりの違いがあるが,診断法,治療法においては共通点が多く,また一般に両者を合わせ消化性潰瘍と称していることから,今回は併せ述べることとする.

12.胃の悪性新生物

著者: 笹島雅彦 ,   瓜田純久 ,   三木一正

ページ範囲:P.1026 - P.1032

外来初診から確定診断まで

 外来初診で胃悪性腫瘍(胃癌およびその他の非上皮性腫瘍)を疑う場合には,自覚症状を訴えての受診と,なんらかの一次スクリーニングを経て紹介される場合とがある.

1 . 胃悪性腫瘍の自覚症状,身体所見

 胃悪性腫瘍特有の自覚症状はなく,上腹部不快感,上腹部痛,食欲不振といった一般的な上腹部症状を主訴に受診することが多いが,早期癌では無症状のことも少なくない.進行癌症例では嘔吐,吐血,体重減少,タール便を呈することもあるが,これも胃悪性腫瘍に特異的なものではない.

13.潰瘍性大腸炎―手術なし

著者: 遠藤克哉 ,   遠藤到 ,   樋渡信夫

ページ範囲:P.1033 - P.1038

 はじめに

 わが国においても,特定機能病院で包括医療が始まった.近い将来には,一般病院にもこの制度が運用されるだろう.これにより,治療に対して支払われる費用は,疾患と重症度によって定額化される.そのため,病院側は入院期間を短縮し,必要最小限の検査や治療で対応するようになるであろう.

 本稿では,外科手術には至らない程度の潰瘍性大腸炎症例に対する診断から治療について,包括医療の立場から述べてみたい.

14.大腸癌

著者: 濵中裕一郎 ,   末廣寛 ,   日野田裕治

ページ範囲:P.1039 - P.1042

 はじめに

 大腸癌は結腸および直腸に生じる上皮性悪性腫瘍を指す.このうち結腸癌は年々増加傾向にあり,わが国の人口動態統計によると過去20年間の死亡率増加は前立腺癌に次ぐ第二位である.さらに2015年には胃癌・膵癌を凌ぎ,予測死亡率は肺癌・肝癌に続く第三位になるであろうと予測されている1)

 食事や嗜好の改善など発癌・増殖にかかわる因子を制御目的とする一次予防については未解決な問題も多く,目下のところ大腸癌初期治療のためには早期診断(二次予防)が重要視されている.早期大腸癌の98%は根治可能であり,進行癌であっても遠隔転移がなければ根治可能なことが少なくない.

 大腸癌占拠部位は直腸・S状結腸癌が約70%(各々40%と30%)を占め,残りの30%のうち盲腸・上行結腸癌で20%弱を占めている(図1).

 胃癌に準じ大腸癌も壁深達度によって早期・進行癌に分類される.粘膜下層までに留まるものを早期癌,それより深く進展するものを進行癌とし,リンパ節転移の有無は問わないと定義されている.早期癌のうち粘膜内癌は組織学的には高分化腺癌であるが,膨張性発育をするため転移がみられず,臨床的には良性の性格を示すという特徴がある2).粘膜下層に浸潤した時点で転移の危険性が増大するため深達度診断は重要である.

15.慢性肝炎および肝硬変

著者: 須永雅彦 ,   野村文夫

ページ範囲:P.1043 - P.1047

 包括医療では,医療費の削減のため,疾患に対して支払われる金額が定額化される.したがって入院期間は短縮し,高価で必要がない検査は削られるであろう.その一方で病院評価によるランク付けが制度化されつつあり,医療内容の質の低下は許されない.したがって検査項目の再評価によって診療に貢献しない検査項目は大幅に減少するであろう.いかに診療に役立つ検査を,効率よく行うかが求められる時代になりつつある.

 留意点を挙げると,①検査,画像診断は,自覚症状,他覚所見から必要項目を選んで,段階を踏んで,必要最小限の回数で実施する,②結果が治療に反映されない検査は,研究的,健康診断的とみなされ保険請求は認められないので注意する,③算定条件(対象,回数,診療録の記載など)が規定されている検査には,実施に際し注意する,などである.特に診療および他の検査から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者以外に対しての腫瘍マーカー検査が実施されているケースがあり,要注意である.

 本稿では慢性肝炎,肝硬変の診断治療のために必要最小限な検査について考案してみる.

16.胆石症

著者: 真治紀之 ,   越智浩二 ,   小出典男

ページ範囲:P.1048 - P.1053

 はじめに

 日本人の胆石症の保有率は10~15%あるといわれており,食生活の欧米化により増加の傾向にある.女性,40歳代以上,肥満傾向にある人に多いとされており,年齢が高くなるほどその保有率も高くなる.

 胆石症の典型的な症状としては胆石発作といわれている上腹部に突然起こる激しい発作性の痛みがある.脂肪分の多い食事(てんぷら,中華料理など)あるいは卵黄など,胆囊を急激に収縮させるような食物を食べてから数十分~数時間後に突然上腹部痛,右季肋部痛が出現するのが特徴である.痛みは右肩や右背部・肩甲骨間に放散したり,嘔気・嘔吐さらに黄疸を伴うこともある.胆石に伴う合併症としては,このような痛みのほかに,急性胆囊炎,肝機能障害,急性胆管炎,急性膵炎などが挙げられる

 黄疸,発熱や悪寒などを伴う際には胆囊炎,胆管炎,膵炎などの合併を疑う.腹痛・発熱や黄疸などの症状を来す総胆管結石や肝内結石症では早急な内視鏡的または外科的治療を要する.

 しかし,胆石を持っている人すべてに必ずしもこのような症状が出現するというのではなく,無症状に経過し,検診などでの腹部超音波検査で偶然に胆石が発見される人も少なくない.

 また,以前は胆石があると胆囊癌が発生しやすいといわれていたが,現在では胆石と胆囊癌とは直接の因果関係につい否定的な意見が多く,胆石による二次的な要因が胆囊癌の発症に関与していると考えられている.無症状の胆石症に癌が合併する頻度は1~2%と胆石のない人と比べそれほど高いわけではない.しかし,高齢になるに従って胆囊癌合併の頻度は高くなり,胆囊の形態的・機能的異常は胆嚢癌合併の危険因子となるので,手術をしない場合は定期的な超音波の検査が必要となる.

17.膵臓の疾患

著者: 渡辺伸一郎

ページ範囲:P.1054 - P.1058

I.急性膵炎(acute pancreatitis)

急性膵炎の診断

 急性膵炎はなんらかの原因によって膵内で膵酵素の活性化が起こり膵臓自身が消化される,いわゆる「自己消化」によって起こる急性の炎症性疾患である.軽症の浮腫性膵炎から中等症・重症の出血性壊死性膵炎まであり,重症例では膵局所の炎症にとどまらず全身の重要臓器障害(呼吸不全,循環不全,腎不全,播種性血管内凝固症候群)を起こして死の転帰をとることも少なくない.

 成因としてはアルコール性が約40%と最も多く,次いで特発性(原因不明)25%,胆石性20%である.その他,腹部外傷,膵管造影,手術,高脂血症などがある.

 主な臨床症状は上腹部痛,悪心・嘔吐,発熱,黄疸,腹部膨満感などである.重症例ではショック,呼吸不全,腎不全など多臓器不全(multiple organ failure;MOF)による諸症状が出現する.

 急性膵炎の臨床診断基準1)を表1に示した.①腹痛・圧痛,②膵酵素上昇,③画像所見異常の3項目中2項目以上を満たし,他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する.ただし,慢性膵炎の急性発症(急性増悪)も急性膵炎に含める.急性膵炎と診断されれば原則として入院加療となる.入院後は48時間以内に,表2に示す急性膵炎の重症度判定基準2)に準じて重症度の判定を行い,その重症度に応じた最適な治療を行う.

18.関節リウマチおよび他の炎症性多発性関節症

著者: 大田俊行

ページ範囲:P.1059 - P.1064

 はじめに

 日本では少子高齢化の傾向に歯止めがかからず,これを反映した医療費のさらなる増大が危惧されている.増え続ける医療費に対処するため全国82の特定機能病院において2003年4月より入院患者に対する診療報酬の包括評価(診断群分類,DPC;Diagnosis Procedure Combination)が順次実施されてきている.

 骨粗鬆症や変形性関節症(osteoarthritis;OA)などの骨・関節疾患は60歳以上での罹病率が高く,健康保険および介護保険制度の健全な維持を阻害する一因として問題視されてきている.このうちOA(関節の構成要素の退行変性により,軟骨の破壊と骨・軟骨の増殖性変化を来す疾患,軽度の滑膜炎を伴う)は60歳以上の約7割(約1,500万人)に程度の差はあれ出現するとされる.一方関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)の罹病率はOAほど多くないが,20歳~30歳代の女性を中心に増加してきており現在70万人程度の患者がいると推定されている.このほか,多関節に痛みや炎症を認める疾患は全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus;SLE)や全身性硬化症などの膠原病疾患,ライム病や急性B型肝炎などの感染症,痛風や偽痛風などの代謝異常による関節炎がある(表1).これらの関節症状をもたらす疾患を正確にしかも迅速に診断し,最善の治療を行うためには注意深い問診および身体的検査(関節所見および関節外所見)を行った後に考慮すべき疾患を絞る必要がある.次に絞られたいくつかの疾患のなかから最も妥当な疾患を選出するために必要な検査を選択すべきである.このように,本当に必要な検査項目を選択することによって的確な診断が得られる一方で無駄となる検査が減少することが期待できる.以上の診察技能を医師が日頃から心がけ実践すれば,包括医療のなかでの臨床検査の重要性・必要性は今以上に高まると予想される.

 本稿では主に外来で臨床医が遭遇するであろう炎症性多発関節症(表1)の診断を進める手順,必要な基本的検査,診断を絞り込むための検査,治療経過を追うための検査などについてリウマチ診療を担当する医師の側と臨床検査部に勤務する医師の両者の立場を踏まえて考えてみたい.

19.膠原病およびその類縁疾患

著者: 大島久二

ページ範囲:P.1065 - P.1069

 はじめに

 入院包括医療に対応した膠原病の診断治療では,効率よく臨床検査を行うことが重要である.この包括医療に使用される診断群分類(diagnosis related group/prospective payment system;DRG/PPS)に対応した検査のガイドラインが日本臨床検査医学会から提示されており,本稿ではこのガイドラインに即して包括医療における最小限の検査について述べる.

20.アレルギー性鼻炎

著者: 斎藤洋三

ページ範囲:P.1070 - P.1074

 はじめに

 アレルギー性鼻炎はIgE依存性アレルギー疾患で,発作性反復性のくしゃみ,水性鼻漏,鼻閉を三主徴とする.この三主徴を鼻粘膜の過敏性症状としてとらえ,類似の症状を呈する好酸球増多性鼻炎と血管運動性鼻炎を加えた包括的用語として鼻過敏症という病名もある(図1).診断基準は後述するが,主題のアレルギー性鼻炎については,しばしばアレルギー素因を持ち,局所肥満細胞増多,局所好酸球増多,時には血中好酸球増多,粘膜の非特異的過敏性亢進などの特徴を持つ.好発時期から通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に大別され,前者はハウスダスト(チリダニ)アレルギー,後者は花粉症で代表される.しばしばアレルギー性副鼻腔炎を合併し,鼻腔だけでなく副鼻腔のアレルギーも含める意味で鼻アレルギーという用語もある.ただし保険診療ではアレルギー性鼻炎の病名が用いられる.ちなみに花粉症という病名は保険病名にはない.筆者の関与する医療統計データではアレルギー性鼻炎は耳鼻咽喉科診療所の外来患者の第一位,時に第二位を占め,耳鼻咽喉科以外の診療科で扱われていることも少なくない.

 最近の動向の1つとして,従来は小児のアレルギー性鼻炎のほとんどが通年性で,原因アレルゲンはハウスダストであったものが近年,花粉症の低年齢化で小児の花粉症を診ることも少なくない.しかもそのほとんどにハウスダストアレルギーが合併している.ペットアレルギーも増えてきた.花粉症と関連した口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome;OAS)も注目されている.詳細は後述するが,アレルギー検査項目の選択に際しての留意点の1つである.

 花粉シーズンには,アレルギー性鼻炎の病名で扱われるアレルギー検査で特に免疫検査がこの時期に集中する.アレルギー性鼻炎の原因アレルゲンはハウスダスト(チリダニ)とスギ花粉で,これは全国的傾向である(図2)1).ただし北海道ではスギに代わってシラカンバが重要花粉となっている.そこで花粉症では地域特性があることも留意しておきたい.

 以上のような現況をふまえ,本稿では既に作成されている「鼻アレルギー診療ガイドライン」2)に基づき,筆者の経験による私見3)も交えて,アレルギー性鼻炎の診断のための検査,原因アレルゲンの検査,治療のための検査,経過観察,治療効果の評価のための検査などにまとめて解説する.

21.甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症

著者: 家入蒼生夫 ,   沼部敦司

ページ範囲:P.1075 - P.1079

 わが国の包括医療制度は,まず大学病院の本院など特定機能病院等全国82施設で,入院医療を対象にDPC(Diagnosis Procedure Combination)により導入された.DPCでは,疾病の分類を14桁の番号を用いて,主要診断群(2桁),傷病名(4桁)以下,入院目的,年齢,手術の有無,処置の有無・内容,副傷病,重症度(意識障害の有無)を表記する.疾患の分類システムは,死因統計を目的に構築された国際分類ICD-10を基にしているので,今回の“最も医療資源を費やした傷病名”分類にそぐわない面が既に指摘されており,早い時期に今回の結果をみながら見直しが行われると思われる.

 甲状腺機能亢進症は,DPC分類最初の6桁は10-0140で,手術のない場合,ある場合(K462,バセドウ病甲状腺全摘・亜全摘術),その他の手術のある場合の3種類に区分されている.

22.甲状腺の悪性腫瘍

著者: 高野徹 ,   中田幸子 ,   網野信行

ページ範囲:P.1080 - P.1084

甲状腺悪性腫瘍―最小限の検査でいかに診断・治療をしていくか

 甲状腺癌は他の臓器の癌とは全く臨床経過が異なる.簡単にいうと,致死的ではないが経過が長く,再発が非常に多い.したがって他の癌で行われているような化学療法,放射線外照射療法を行うことは稀である反面,一生涯に及ぶ経過観察が必須である.つまり患者の罹病期間が非常に長いことになり,無駄な検査を積み重ねれば患者の医療費はたちまち高騰する.また甲状腺腫瘍自体非常に頻度の高い疾患(成人の約10%)であり1),近年の超音波検査の普及によって精密検査を必要とする症例数は激増している.このような現状から,甲状腺腫瘍においてミニマムな検査で診断および経過観察をするということがいかに重要かということが理解していただけるであろう.

23.糖尿病

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.1085 - P.1090

外来で糖尿病を疑ったときに必要な検査

1 . 糖尿病が疑われる場合

 有病率の高い疾患である糖尿病は臨床のさまざまな場面で疑われる.糖尿病に特有で典型的な口渇,多尿,多飲,体重減少,全身かん怠感などの症状を呈して外来を訪れるものも時にはありうるが,むしろ稀である.外来を訪れる患者の多くは検診などで糖尿病が疑われ,そのために受診することが多く,症状は全くないほうがむしろ多い.また,腎症や網膜症が既に存在しその症状のため外来を受診するなど,自覚症状があったとしても合併症の症状の場合もある.フルンケルやカルブンケルなど感染症の重症化があり,その易感染性の背景に糖尿病の存在が疑われることもある.また,虚血性心疾患などがありその背景にあるリスクの1つとして糖尿病が疑われることもある.

24.高脂血症

著者: 芳野原

ページ範囲:P.1091 - P.1095

 はじめに

 高脂血症とは,脂質〔原則としてコレステロールとトリグリセリド(triglyceride;TG,中性脂肪)〕の血中レベルが正常以上に高値を示す病態である.近年,わが国においては食生活の欧米化とモータリゼーションの発達により,高脂血症とともに,高血圧,糖尿病,痛風,肥満などに代表される生活習慣病が増加し,大きな社会問題となりつつある.いずれの病態もリスクファクターと呼ばれ心筋梗塞の発症率の上昇をもたらすこととなるが,疫学的に最も心筋梗塞の発症との因果関係が明らかなリスクファクターは血中コレステロール,特に低比重リポ蛋白(low density lipoprotein;LDL)-コレステロールである.また,最近では高TG血症についても冠動脈疾患のリスクファクターとして重要視されている.

 このように高脂血症の診断は医療施設受診者の健康管理のうえで必須の項目である.

 しかるに医療費の削減を目的とした新しい医療費支払い制度である疾患群別定額払い制度(Diagnosis-Related Groups/Prospective Payment System:DRG/PPS)がわが国にも導入され,血中脂質に関する臨床検査もこのシステムに基づいてなされることになる.このシステムはわが国でも毎年増大する医療費の削減を目的として本格的に導入されつつあり,ここでは治療に対して支払われる金額が疾患と重症度によって定額化されるため,当然,治療に要する総費用が少ないほど病院が儲かることになる.このためにDRG/PPSが導入されると,各施設とも入院期間は大幅に短縮し,高額な治療薬,検査,の使用頻度が低下し,経費の安い薬剤や検査手段の使用が主流となる.さらに臨床検査についても項目が選択され,その回数が減少することになる.しかし高脂血症の診断を確実,迅速に進めるためにも脂質に関する臨床検査は不可欠であり,DRG/PPSにおいても血中脂質の検査の重要性は変わることはない.しかし高脂血症の診療の有用性から(さらには動脈硬化進展の危険度の判定についての必要性から)検査内容が再評価され,診療に有用で利用価値が高い検査は存続し,診療内容に直接貢献しない検査は見直されなければならない.高脂血症診断と検査のポイント(保険適応)については衛藤によるごく最近の総説があり1),またDRG/PPS対応の脂質についての臨床検査については既に中谷による詳細なガイドラインがあるので参照されたい2)

25.高血圧症

著者: 保嶋実

ページ範囲:P.1096 - P.1102

 はじめに

 高血圧は頻度の高い疾患で,高齢化がその傾向に拍車をかけている.1977年に米国合同委員会(Joint National Committee;JNC),翌年には世界保健機関/国際高血圧学会(World Health Organization/International Society of Hypertension;WHO/ISH)から高血圧診療のガイドラインが発表され,国際的に高血圧診療の標準化が図られた.その後いずれも新たな研究成果に基づいて数年毎に改訂されており,2003年にはJNC7(2003年)1)とWHO/ISHのヨーロッパ版ともいえるヨーロッパ高血圧学会(European Society of Hypertension;ESH)と心臓学会(European Society of Cardiology;ESC)のガイドライン(2003年)2)が相次いで発表された.わが国でも高血圧診療の指針として両者のガイドラインが利用されてきたが,人種,生活様式や習慣,心血管合併症の種類とその頻度,さらには医療組織などの相違により,その活用の限界が顕在化し,独自のガイドラインの作成が長年にわたって求められてきた.2000年に日本高血圧学会(Japanese Society of Hypertension;JSH)から現時点での高血圧の標準的な治療を目指して高血圧治療ガイドライン2000年版(JSH2000)が発表され3),さらに2002年に老年者高血圧治療ガイドラインの改訂版も発表されて現在利用されている4).近々にJSH2000の改訂版が発表される予定となっている.

 高血圧の最終的な治療目標は,脳,心,腎,末梢血管および眼底などの標的臓器の障害および心血管疾患の予防とその進展の防止にある.したがって,血圧値とともにこれらの標的臓器障害の存在とその程度を評価することが高血圧の重症度診断に必須であり,治療方針の決定および予後の判定の重要な手段となる.一方,高血圧の大部分は現在の診断方法では単一の原因を特定できない,いわゆる本態性高血圧症であるが,10%未満の頻度で原因が明らかな二次性高血圧が存在する.二次性高血圧は若年発症,重症,治療抵抗性かつ進行性である反面,根治可能なものもあり,その発見と診断の臨床的意義は極めて高い.ここでは,わが国のガイドラインに基づき高血圧の診断と治療における臨床検査の指針について述べる.

26.蛋白尿,血尿

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.1103 - P.1108

 はじめに

 尿中には血清,腎尿路,生殖器由来のさまざまな蛋白が混在存在している.蛋白尿は総蛋白,あるいは個別成分が基準範囲を超えて尿中に排泄される生理,病的状態と定義される.一方,健常者では1日尿中に104~105個の赤血球が排泄されている.血尿は赤血球が基準範囲を超えて存在する病的状態である.両者は同時に,あるいは互いに独立して,腎尿路,泌尿器を主に,全身性の生理・病的状態において認められる.ここでは,蛋白尿と血尿とを便宜上分けるが,適宜関連性を示しながら解説する.

27.尿路感染症―STD性尿道炎を含む

著者: 上原慎也 ,   公文裕巳

ページ範囲:P.1109 - P.1114

 はじめに

 高度高齢化社会を迎え保険医療体制の限界を越えつつある現在,医療の分野においてもコスト意識は重要であり,検査や治療手段における経済効率が問題となっている.

 疾患群別定額払い制度(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System;DRG/PPS)は,こうした社会情勢のなかで生まれた,医療費の削減を主目的とした医療費支払い制度であり,いわゆる「マルメ」の支払い方法である.この制度では,実際に必要とした額にかかわらず一定の診断名や病態に対し一定の報酬が支払われる.そのため実際のコストが低いほど利益は大きくなり,医療内容は圧縮傾向となる.

 出来高払い制度下では自由に行われてきた各種検査は,DRG/PPS導入により制限される方向になるであろう.本稿では,欧米の診断治療ガイドラインを踏まえながら,DRG/PPS導入を考慮した尿路感染症およびSTD(sexually transmitted disease,性行為感染症)性尿道炎の診断治療に必要な検査について考察した.

28.原発性ネフローゼ症候群

著者: 土井俊夫

ページ範囲:P.1115 - P.1117

 はじめに

 ネフローゼ症候群はむくみで気づかれることがもちろん最も多いが,むくみを伴わないときもあり注意を要する.糸球体病変のため大量の血漿蛋白が濾過されて尿中に排泄される病態で,次の診断基準に基づく.①1日3.5g以上の持続性蛋白尿,②低蛋白血症(6.0g/dl以下)または低アルブミン血症(3.0g/dl以下),③高コレステロール血症(250mg/dl以上),④浮腫の4点である.このうち①蛋白尿および,②低蛋白血症は必須条件である.

 ネフローゼ症候群の病態像は図に示すように,大量の蛋白尿の漏出による高度の低蛋白血症と,これに伴って出現する浮腫,高脂血症,血液凝固能異常などである.このネフローゼ症候群は後に述べるようないろいろな組織病変を示し,各組織病変により全く予後,治療法は異なる.したがって,その基礎知識を有することは病態解析,治療法決定には必須である.

 ネフローゼ症候群を来す原因疾患を表に示す.

29.慢性腎不全

著者: 高橋利和 ,   土井俊夫

ページ範囲:P.1118 - P.1120

 はじめに

 慢性腎不全とは慢性に進行する腎機能不全であり,非可逆性に進行する.しかし腎不全が進行しても自覚症状がはっきりしない場合もあり,患者への腎不全の病態の説明が必須である.また緊急対処が必要な場合もあり,患者の理解が必要である.

 慢性腎不全になる病態や重症度はその原疾患に左右される.その原因疾患として慢性腎炎,糖尿病性腎症,多発性囊胞腎,腎硬化症などがあり,近年,糖尿病性腎症による腎不全が急速に増加している.また慢性腎不全になる患者の高齢化も特徴的である.これらの腎障害の進行は原疾患とは関連なく二次性の進行悪化因子による.それは高血圧症,糸球体高血圧症,糸球体肥大症,腎内リン酸カルシウム沈着,プロスタグランディン合成亢進,高脂血症,代謝性アシドーシス,蛋白尿などである.

 腎臓はいろいろな機能を営んでおり(表1),腎不全はその腎機能が低下・廃絶した状態である.腎不全には急性腎不全と慢性腎不全がある.急性腎不全は腎不全に至る経過が急速で,原則的には可逆性であり,慢性腎不全は経過が緩徐で不可逆性である.

30.前立腺疾患

著者: 伊藤一人 ,   山中英壽

ページ範囲:P.1121 - P.1128

 はじめに

 前立腺疾患は,主要診断群の腎・尿路系疾患および男性生殖器系疾患に含まれ,前立腺肥大症,前立腺悪性疾患,男性生殖器炎症性疾患に分類されている1).それらの前立腺疾患について系統的な診断法を確立することは,医療の質の保持・コストの削減の両立のために非常に重要である.前立腺疾患の場合,各疾患を疑ういくつかの主訴が共通していることから,前立腺疾患内での鑑別診断のための検査,また前立腺以外の尿路系疾患を鑑別するための検査がまず必要になる.

 今回,確定診断に至るまで,最低限必要な検査について,各疾患別にまとめを行う.また鑑別診断中の検査所見によっては,他の前立腺・その他の尿路系の主要診断群の合併・移行を早く的確に行う必要がある.今回,他の疾患の合併ないし他の疾患群への移行を考慮すべき検査所見と,精査すべき疾患の関係について,いくつかの典型例を示す.また,各疾患の確定診断後の治療前,治療中,経過観察時に必要な検査項目・検査頻度についてまとめを行う.

31.卵巣癌およびその他の子宮付属器の悪性新生物

著者: 坂元秀樹

ページ範囲:P.1129 - P.1132

 はじめに

 卵巣癌の化学療法中のカルテで,毎日CBC(complete blood count)が施行されているのをみたことがある.しかし包括医療の環境下では,このような過剰な検査は許されない.換言すれば網羅的に「念のためにあれもやる,これもやっておく」という訳にはゆかない時代が到来した.もちろん診断的検査は異なった種類の検査の組み合わせを増せば増すほど精度は上がる.しかし最終的には組織診断に結果を委ねるわけで,包括医療の環境下では正確な状況把握による,当を得た最小限度の検査の実施により治療計画の最適化を図らなければならない.

 本稿で取り上げる疾患は原発性の卵巣悪性腫瘍,卵管癌,腹膜癌であるが頻度的には卵巣癌が最も重要であるうえ,臨床的な取り扱いや進行期分類も同様であるので,以下卵巣癌を中心に考える.

 卵巣癌の検査を治療経過の時間軸に沿って考えると,①診断に必要な検査,②進行状態の把握に必要な検査,③術前検査,④術中検査,⑤補助療法に関連する検査,⑥フォローアップ検査,⑦再発の診断にかかわる検査と分けられる(表1).

32.貧血

著者: 通山薫

ページ範囲:P.1133 - P.1136

 貧血は日常診療の中でたびたび遭遇する症候の1つである.病因は極めて多岐にわたり,それ自体が主疾患である場合もあれば,他の疾患に続発する,もしくは併存症として見つかる場合も多い.そのため貧血をめぐる検査・診断のプロセスは複雑化しがちだが,本稿では包括医療制度への対応に鑑み,貧血の一般的な診療に向けてなるべく効率的なアプローチを前提として,貧血の臨床検査の進めかたを述べてみたい.

33.慢性白血病

著者: 奈良信雄

ページ範囲:P.1137 - P.1143

 はじめに

 慢性白血病には,慢性骨髄性白血病(chronic myelocytic leukemia;CML)と慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia;CLL)の2つの病型がある.欧米に多いCLLはわが国には少なく,慢性白血病としてはCMLが大多数を占めている.

34.悪性リンパ腫

著者: 上平憲

ページ範囲:P.1144 - P.1147

 はじめに

 本年4月から7月にかけて特定機能病院では,日本版DRG/PPS方式(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System)といわれるDPC(Diagnosis Procedure Combination)診療報酬支払いシステムが始まる.

 保険制度がいかように変化しようが,医療(ここでは悪性リンパ腫)における臨床検査の役割・評価が一定していれば出来高払いでも定額払いでも臨床検査の実務のスタンスが変わるはずがない.しかし,現実にはわれわれ自身が,個々の臨床検査の医療に対する貢献度や有用性・価値の評価を具体的に示せないためにそのことに反論できないことも現実である.

 従来,臨床検査の有用性や価値は,diagnostic validityとして感度・特異度・予測値・効率性などの指標で論じられてきたが,患者側から考えれば誰しも病気にならないか不幸にして病気になってしまえば,原因の如何にかかわらず,また病態の如何にかかわらずただ最終的に治ればよいはずである.すなわち,アウトカムが問題であり,最優先されるべきであろう.期待されるアウトカムとは,患者にとっては満足度(治癒),病院にとっては在院日数の短縮(低コスト)である.

 DPC診療下では両者にとってこのようなアウトカムに貢献できる臨床検査が求められていることを意味している.したがって,病気の原因や診断,病態をむやみやたらに過剰なまでの精密性を追求することなく,治療に直結するすなわちアウトカムに直結する臨床検査が今後は「価値ある検査」となる.すなわち,therapeuticsとdiagnosticsとの統合に貢献する検査ともいえよう.悪性リンパ腫の臨床検査では,特にこのマインドが必要と思われる.

35.多発性骨髄腫および免疫増殖性新生物

著者: 影岡武士

ページ範囲:P.1148 - P.1153

 はじめに

 多発性骨髄腫(骨髄腫)は各種の治療法の試みにもかかわらず現在も致死的な形質細胞の悪性増殖性疾患である.骨髄腫は高齢者の疾患としてその発生率には人種的な相違があり,人口10万人当たりアメリカ白人は4人,アメリカ黒人は8人である.一方,わが国の骨髄腫による死亡率(対人口10万人)は1998年には2.3人となっていて,65歳以上ではこの20年間で約3倍に増加しており,高齢化社会を反映して今後も増加傾向は続くものと考えられる.

 多発性骨髄腫および免疫増殖性新生物に共通する所見は,血清または尿中に単クローン性免疫グロブリン異常症(monoclonal gammopathy,M蛋白血症)を示すことにある.

 本稿はM蛋白血症の所見を規準に疾患を分類し,多発性骨髄腫を中心としてそれらの鑑別診断,病態把握,治療効果の判定に必要な検査について要約する.

36.出血性疾患

著者: 川合陽子

ページ範囲:P.1154 - P.1163

 はじめに

 出血性疾患とは,血管,血小板,凝固因子・抗凝固因子,線溶因子・線溶阻止因子などの先天的・後天的に起こる量的質的異常によって引き起こされる出血傾向または止血困難を呈する疾患である.包括医療が進むと,臨床検査を効率よく選択し,診断や治療に反映する医療戦略を模索することにより医療経済が効率化されるといわれる一方,粗悪診療や過少検査が危惧されている.しかし,出血性疾患では,出血が頭蓋内などの致死的な部位に出現する場合や,出血が止まらず大量出血を起こすと,致命的となる.臨床医は出血症状が出現してからではなく,出血傾向の出現・増悪を予知して治療を優先しないと,取り返しのつかないこととなる.そのためにはできるだけ出血傾向の鑑別をするための臨床検査を効率よく施行することが大切である.

 本稿では,出血性疾患の患者における臨床検査の進めかたについて概説する.出血性疾患は多岐に渡り,疾患により検査の項目や検査回数などは異なるので,包括医療として扱われる点で,問題と思われる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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