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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術31巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

発作性夜間血色素尿症

著者: 七島勉

ページ範囲:P.92 - P.95

新しい知見

 発作性夜間血色素尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria;PNH)は補体感受性赤血球の存在により補体が活性化した際に血管内溶血を起こし,貧血およびヘモグロビン尿(ないしヘモジデリン尿)を来す後天性の慢性溶血性貧血である.近年,PNHにおける分子および遺伝子レベルでの研究の進歩に伴い,PNHは新しい概念で捉えられるようになった.PNHは造血前駆細胞レベルにおいてphosphatidylinositol glycan-class A(PIG-A)遺伝子の体細胞突然変異が起こることにより,各種血液細胞のglycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー蛋白が複合欠損する後天性のクローナル疾患とされる.PNHにおける補体溶血は,GPIアンカー蛋白に属するCD55およびCD59という補体防御膜蛋白が欠損することに由来する.

技術講座 微生物

肺炎球菌のスライド凝集法による型別法

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.97 - P.102

新しい知見

 肺炎球菌の型別は,本菌種の疫学調査や肺炎球菌ワクチンの有効性を推測するのに不可欠である.肺炎球菌は莢膜抗原の特異性により現在,84の菌型に型別される.型別は以前から莢膜膨化試験が用いられてきた.この方法は被検菌と抗血清とをスライドガラス上で混合し,カバーガラスをかけて1,000倍で鏡検して莢膜膨化を確認する,非常に面倒で時間のかかる方法である.この度,わが国でスライド凝集反応を用いた型別法の血清が市販されるに至った.スライド凝集反応は肉眼で観察でき,簡単に実施できることから,今後,国際的に普及してゆくことが予想される.

免疫

免疫検査法間で測定値が乖離したときの考えかた―腫瘍マーカーを例に

著者: 新井智子 ,   塚田敏彦

ページ範囲:P.103 - P.107

新しい知見

 今日,免疫学的検査法は生体成分の分析定量に欠くことのできない重要な測定法として広く普及している.しかし,複雑な構成成分から成る生体試料を測定すると,しばしば臨床と合致しない異常な測定値に遭遇する.そのような異常測定値を示す検体については,他の測定試薬(できれば異なる抗原または抗体を使用しているもの)による測定,希釈直線性試験,透析処理,異好抗体阻止試験,非働化試験,高速液体クロマトグラフィー(highperformance liquid chromatography;HPLC)による解析など実施可能なあらゆる手段を用いて解析し,結果を臨床に還元する努力が大切である.

オピニオン

臨床検査技師の職域の拡大

著者: 朝山均

ページ範囲:P.96 - P.96

はじめに

 2002年4月,「平成大不況」といわれるがごとく,史上初の診療報酬マイナス改定が実施され,医療界はまさに,未曾有の変革期を迎えている.臨床検査を取り巻く環境もまたしかりである.

 20世紀後半の50年足らずで医療・医学が,科学および技術の急激な進歩により大きく変貌をとげた.臨床検査においても自動分析機器などの普及により多検体,多項目の処理を可能にし,診断・治療に貢献してきたことは論を待たないであろう.しかし,このことが国民皆保険制度,検査出来高払いに伴う医療機関へのアクセスフリー(利便性)を招き医療費増大の一因になったことも事実である.これらを踏まえて政府行政機関は,「聖域なき構造改革」,「規制緩和」のもと「医療費抑制」という大義名分を掲げ,医療機関の存在価値をも含めた在りかたを問うてきた.このような中で検査部そして臨床検査技師も「勝ち残るための策」が必要である.

けんさアラカルト

酵素法による新しいグリコアルブミン測定

著者: 高妻卓司

ページ範囲:P.108 - P.108

はじめに

 グリコアルブミンは過去約2週間の血糖コントロール状態を鋭敏に反映する指標であり,特に糖尿病の治療効果の確認やヘモグロビンA1Cの値が異常になる症例において役立つ指標と言われています1)

私の必要な検査/要らない検査

腎機能検査―臨床医の立場から

著者: 坂爪実 ,   下条文武

ページ範囲:P.109 - P.111

 必要な検査

 1. 糸球体濾過量(GFR:glomerular filtration rate)測定

 ヒトのGFRは1分間に約100mlである.つまり,1 日(24時間=1,440分)で1440×100ml,約150lの血漿が濾過されていることになる.尿として実際排出される量は約1.5l程度であるから,尿量の100倍の血漿が糸球体から濾過されている.この糸球体濾過液は尿細管を通過するうちに水,ナトリウムを中心に生体の恒常性維持に必要な物質は再吸収され,最終的に尿として100分の1だけが体外に排出されている.このように十分の血漿量が糸球体から濾過されないと,生体にとって不要の代謝産物は完全に排泄することができなくなる.さまざまな腎疾患による糸球体病変の進展の程度,糸球体濾過能の障害度を把握し,治療法の選択,あるいは治療効果の判定などのためにGFRの測定が必要である.また,腎を主な排泄経路とする薬物を使用する際には,このGFRの値に応じて使用量を決定しなければならない.腎機能障害が進行しGFRが低下して30ml/min以下になると,食欲低下,吐き気,浮腫,貧血などの尿毒症症状を呈するようになる.この病態が腎不全である.

 一般検査で知り得る腎機能の指標として血清のクレアチニン値があるが,図1に示すように,GFRが50ml/min以下,時に30ml/min以下にならないと異常値を示さない.クレアチニンが上昇したときには既にGFRは50%以下に低下しているのである.そのため正確な腎機能を知るために,GFR測定は臨床的に非常に重要な腎機能検査である.

 GFRの測定法2)としては,1 )内因性物質による腎クリアランス法,2 )外因性物質による腎クリアランス法,の2つがある.

腎機能検査―検査医の立場から

著者: 矢内充

ページ範囲:P.111 - P.114

はじめに―腎機能の評価

 腎臓の機能は,体液,特に細胞外液量と組成の調節,老廃物の排泄,ホルモンの産生と代謝,酸塩基平衡の調節など,大変広い範囲にわたっている.血漿中に溶け込んでいる老廃物の排泄は,通常糸球体からの濾過により行われ,ごく一部の物質が尿細管より排泄される.一方,体液の調節は,ほとんどは尿細管が主役となって,再吸収および分泌が行われ,さらに尿の濃縮も行われる.腎臓はそのほか,内分泌器官として,レニン,エリスロポエチン,ビタミンD3の活性化,プロスタグランジンの産生にかかわっている.

 進行性の腎障害を有する患者を診療していくに当たり,その進展を正確に把握することが最も重要である.そのため,腎機能検査としては,腎血流量,糸球体濾過機能,尿細管機能について正確かつ簡便に評価する必要がある.これらの分野に含まれる,いわゆる腎機能検査と呼ばれる検査項目にはさまざまなものが含まれている(表).腎疾患をみた際に腎機能を把握するために各検査を必ず行わなくてはならない,というわけではないが,腎臓関連の疾患をみた場合,診断,経過観察,治療を行うに当たりこれらの分野いずれかの検査が必要となる.しかしながら,複雑な検査方法,患者さんに過分な負担を与える検査,測定技術などで結果にかなりのばらつきが認められる検査など,問題を含む検査も少なくない.

 本稿においては,現状で筆者が考える,必要な検査,要らない検査について概説してくことにする.ただし,筆者の「要らない検査」と判断した検査が,医療機関の規模や機能などによって,その判断が変わってくることがありうる,ということに留意いただきたい.また,健康診断などで日常的に行われる,いわゆる腎疾患のスクリーニングのために行われる検査については絶対的に必要な検査であるため,紙面の都合上省略させていただいた.

検査データを考える

異型リンパ球

著者: 通山薫

ページ範囲:P.119 - P.123

はじめに

 血液像に親しむようになってから十数年経つが,いまだに悩ましいのが今回の主題の異型リンパ球である.名称からして誤解を招きやすいが,実際リンパ系腫瘍細胞との鑑別に苦慮することが少なくない.本稿では症例を呈示してさまざまな異型リンパ球に接していただき,さらに日本臨床衛生検査技師会の検査標準化案を紹介しながら,異型リンパ球の判定とその意義について述べる.

ラボクイズ

血液検査 3

著者: 東克巳

ページ範囲:P.124 - P.124

 症例:22歳,女性.2001年11月10日ころより左頸部リンパ節腫大に気付いた.近医で抗生剤の投薬を受けたが,同年11月15日後より38℃台の弛張熱を来し,全身倦怠感・頻回の嘔吐・咽頭痛が出現したため,当院耳鼻科受診.その後内科へ転科となり精査加療目的で当日入院となった.入院時は,血圧130/80,脈拍72/分,体温38.0℃,呼吸数35/分,意識清明.口蓋扁桃は発赤腫脹し,咽頭の狭窄が見られる.リンパ節は両頸部に2~3個ずつ拇指頭大に腫脹し,弾性軟,移動性は保たれている.両鼠径部にも2~3個ずつ触れる.しかし,腋窩では触れない.また,肝脾も触れない.

 表に検査所見と図1,2に末梢血標本で見られた細胞を示した.

1月号の解答と解説

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.125 - P.125

【問題1】 解答:②ビリルビン結晶

解説:老化赤血球に由来する非抱合型ビリルビンは,血液中ではアルブミンと結合して肝細胞に取り込まれグルクロン酸抱合を受けて抱合型ビリルビンとなり胆管へ排泄される.腎糸球体では,非抱合型ビリルビンおよびアルブミンと共有結合しているビリルビンは基底膜を通過できないため,尿中には抱合型ビリルビンだけが認められる.本症例は,膵臓癌により胆道系に閉塞が起こり,ビリルビンが腸管に排泄されず血中に逆流し,腎臓を経て尿中に排泄されたと思われる.

 問題1に示したビリルビン結晶は,黄褐色の針状で酸性~中性の尿で出現し,KOH,クロロホルム,アセトンで溶解するので確認に利用する.尿の外観は,黄色~黄褐色を呈しており,尿中ビリルビンが陽性であることが多い.また,類似した薬剤結晶(ダンスロン,トスキサシン)の鑑別のため化学的性状に注意し,ビリルビン定性検査であるロジン(Rosin)のヨードチンキ法などで確認する必要がある.尿沈渣の特徴としてビリルビン色素で黄染された細胞を多く認める.ステルンハイマー〔Sternheimer(S)〕染色法ではビリルビン色素の黄色が重なるため通常の染色態度と異なるので注意する必要がある.

絵で見る免疫学 基礎編 38

血液型抗原(1) 赤血球膜の構造

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.126 - P.127

 赤血球膜は蛋白質,脂質,炭水化物からできている.ABO式,Lewis(Le)式,P式血液型抗原は糖鎖であり,Rh(Fy)式,Kdd(Jk)式血液型の抗原は蛋白質である.その他の抗原は糖脂質と蛋白質とで構成されている.本論の血液型抗原の前に赤血球膜の構造について簡単に述べる.

けんさ質問箱Q&A

抗凝固剤の使い分け

著者: 武内恵

ページ範囲:P.143 - P.146

Q抗凝固剤の使い分け

末梢血検査における抗凝固剤EDTA-Na,EDTA-Kの使い分けを教えてください.また,全血球(CBC)測定に使われているEDTA-KをホルモンACTHの測定時に使っても構わないのでしょうか.

(美方郡 Y.Y.生)

A

はじめに

 末梢血液検査は全身状態の把握や種々疾患の経過観察などの目的で診療科を問わず,広く実施されている基本的な検査の1つです.的確な検査結果を得るためには目的とする検査に適した抗凝固剤を選択することが重要です.なぜならば,抗凝固剤の選択を誤れば測定結果が全く信頼性を失ってしまう事態が発生しかねないからです.

 ご質問のEDTA(ethylenediaminetetraacetic acid,エチレンジアミン四酢酸)は血液中の種々の成分に与える影響が少ないことから,末梢血液検査に広く用いられている抗凝固剤です.

抗グロブリン試験における単一特異抗血清と多特異抗血清の使い分け

著者: 佐々木正照 ,   渡辺直樹

ページ範囲:P.146 - P.148

Q抗グロブリン試験における単一特異抗血清と多特異抗血清の使い分け

血清検査での抗ヒトグロブリン血清での単一特異血清と多特異血清の使い分けを教えてください.

(鶴岡市 H.N.生)

A

はじめに

 抗グロブリン試薬には,免疫グロブリン(主にIgG)と補体成分(主にC3bおよびC3d)の両者に対する抗体を含んだ“多特異性”のものと,抗IgG,抗補体,抗IgMや抗IgA抗体など“単一特異性”のものとがあります.ただし,抗IgMや抗IgA抗体は赤血球の検査用試薬として認可されていません.

 抗グロブリン試薬を上手に使い分けるためには,各試薬の特徴を十分に理解する必要があります.

Laboratory Practice 病理:細胞像からここまでわかる

乳腺(5)―特殊型乳癌:浸潤性小葉癌

著者: 都竹正文 ,   秋山太

ページ範囲:P.128 - P.131

 特殊型乳癌:浸潤性小葉癌

 乳癌取扱い規約(改訂第14版,2000年9月)では,乳腺腫瘍の組織学的分類(表,2002年7月号参照)では,Ⅰ. 上皮性腫瘍はA. 良性腫瘍,B. 悪性腫瘍に分類され,さらにⅡ. 結合織性および上皮性混合腫瘍,Ⅲ. 非上皮性腫瘍,Ⅳ. 分類不能腫瘍,Ⅴ. 乳腺症,Ⅵ. 腫瘍様病変に分類されている.悪性腫瘍は1. 非浸潤癌,2. 浸潤癌,3. Paget病に分類されている.1. 非浸潤癌はa. 非浸潤性乳管癌とb. 非浸潤性小葉癌に細分類されている.2. 浸潤癌はa. 浸潤性乳管癌とb. 特殊型に分類され,浸潤性乳管癌は,さらにa1. 乳頭腺管癌,a2. 充実腺管癌,a3. 硬癌に亜分類されている.b. 特殊型はb1. 粘液癌,b2. 髄様癌,b3. 浸潤性小葉癌,b4. 腺様嚢胞癌,b5. 扁平上皮癌,b6. 紡錘細胞癌,b7. アポクリン癌,b8. 骨・軟骨化生を伴う癌,b9. 管状癌,b10. 分泌癌,b11. その他に亜分類されている.悪性腫瘍のうち,非浸潤癌,湿潤癌の発生頻度は非浸潤癌約10%,浸潤癌90%の割合である.浸潤癌のうち,浸潤性乳管癌の発生頻度は乳癌全体の約80%で,乳頭腺管癌約20%,充実腺管癌約20%,硬癌約40%で1:1:2の関係である.特殊型は乳癌全体の約10%で,粘液癌約4%,浸潤性小葉癌約4%,その他全部合わせて約2%と極めて少数である.

 今回は特殊型乳癌の浸潤性小葉癌を取り上げ解説する.

血液:骨髄塗抹標本の見かた

FAB分類 [2]MDSに見られる形態異常―1)顆粒球系の異常

著者: 西村敏治

ページ範囲:P.132 - P.134

 形態学的所見(図1,2)

 骨髄は正形成,赤芽球系の細胞が乏しく多くは顆粒系の細胞である.円形核の細胞が多数見られ杆状核球や分葉核球は少数で,顆粒球系の成熟抑制と判断される.形態的には(核)クロマチンが強く濃縮した細胞や核形の異常がある.また,細胞質は無色・透明で顆粒形成が減少した細胞が見られる.

 このような形態学的所見を呈する疾患

 骨髄が正形成ないし過形成で明らかな形態異常を呈する代表的疾患は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)である.MDSは最も未分化な造血細胞である多能性造血幹細胞の異常による後天的な造血異常である.骨髄あるいは末梢血には細胞の量的異常や質的異常が見られる1)

トピックス

ホモシステインと冠動脈硬化

著者: 髙橋伯夫

ページ範囲:P.149 - P.151

 動脈硬化症に関係する検査指標としてホモシステイン(homocysteine;Hcy)が注目を集めている.Hcyは動脈硬化の原因なのか結果なのかが論争されてきたが,現在では,その血管内皮細胞傷害作用,血管平滑筋細胞増殖作用,血管壁での凝固促進活性などから積極的な動脈硬化の促進因子で血栓形成に直接関与する独立した危険因子であることが明らかにされている.

 Brattstromら1)が1984年に高Hcy血症が脳血管障害の危険因子であると報告して以来注目を集め,数多くの動脈硬化と関係する研究成果が発表されている.Medlineでhomocysteineとatherosclerosisとをキーワードにして文献検索すると既に833もの論文が出版されている.脳梗塞,心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症,深部静脈血栓症と血中Hcy濃度とが有意の関係を有し,独立した危険因子であることが統計学的に証明されている(図1).また,Ⅱ型糖尿病患者では血中Hcy濃度は非糖尿病群より低値ながら,より強い動脈硬化危険因子であるともされており,他の危険因子と相乗作用を示す可能性が指摘されている.特に,一過性脳虚血発作や脳梗塞患者でHcyとの関係を検討したわが国での研究成果では血中Hcy濃度が高値群では対照群と比較して5.8倍のリスク増大を認めている2)

抗VRE抗菌薬

著者: 宮崎修一

ページ範囲:P.151 - P.153

 リネゾリド(linezolid),quinupuristin/dalfopristinがvancomycin-resistant Enterococcus faeciumを適応菌種とした抗VRE抗菌薬である.また,現在開発中のテトラサイクリン系のtigecyclineも抗VRE作用を示すので,これら抗菌薬の特徴の概要を述べる.

 ■各抗菌薬の作用機序

 リネゾリドはオキサゾリジノン系抗菌薬であり,その基本構造を図1に示す.この抗菌薬は各種抗菌薬耐性菌を含むグラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示すが,グラム陰性菌に対しては抗菌活性が認められない.その作用機序は,50Sリボソームに結合することにより50Sと30Sリボソームの複合体形成(70Sリボソーム)を阻止し,細菌細胞の蛋白合成が阻害される.また,その作用の特異性から,他の蛋白合成阻害薬との間に交叉耐性は生じないといわれている.

栄養評価と入院日数

著者: 高木康

ページ範囲:P.153 - P.155

 栄養管理はすべての疾患治療の共通かつ基本的な管理であり,欧米では1970年代からその重要性が論じられてきた1).しかし,わが国の医療では治療そのものが重要視され,栄養管理をはじめとする直接治療の周辺事項は軽視される傾向にあった.ところが,栄養管理・療法による治療効果の向上と合理化,栄養障害による合併症の予防による医療費の削減の考えが広まり,さらには在院日数短縮における栄養管理の有用性が論じられるようになった.

 ■栄養評価

 1. 栄養評価の意義

 病院における栄養評価の意義としては,①栄養障害の有無とその程度,②栄養療法の適応の判定と効果判定,③栄養管理法の修正と適正化,および④手術症例の予後や退院の客観的評価,などが挙げられる.これらを評価する指標としては,主観的評価法と客観的評価法とがあるが,従来は医師の主観的な評価に頼っており,患者の病状と医師の考え・印象とにより栄養療法が行われてきた.しかし,客観的に患者の栄養状態を把握して効率的な医療を行う必要性に迫られ,栄養指標2)が提唱された.

ワンポイントアドバイス

検査室にもフレックスタイムを

著者: 中江健市 ,   山口逸弘 ,   秋山利行

ページ範囲:P.116 - P.117

はじめに

 フレックスタイムとは一般的に“一定期間における総労働時間をあらかじめ定め,労働者はその枠内で価値観やライフスタイルに合わせ,始業および終業の時刻を自主的に決定して働く制度で,その生活と業務の調和を図りながら,効率的に働くことができるもの”とされている.

 今回,当検査部が導入した制度は決して各技師が自由に勤務時間を設定するものではないが,厳しい医療環境の中で新たな投資を必要とせず,如何に効率的に良質で精度が高く,かつ経済性の高い検査室を運営し,患者サービスの向上や臨床支援に貢献できるかを技師が一体となり思考錯誤を繰り返した結果である.7時出勤・早朝検体収集を主とするフレックスタイム制が先の課題の解決に大きな効果があり,臨床からも高評価を得られたので紹介する.

検査じょうほう室 微生物:ステップアップにいかす微生物の知識

病院感染菌の報告法

著者: 柄沢利子 ,   小野恵美

ページ範囲:P.136 - P.139

はじめに

 院内感染による事例はここ数年,テレビや新聞などで多く取り上げられるようになった.病院内感染の起因細菌の発生状況は細菌検査室でいち早く把握することができ,それを迅速に担当医師,感染症科医師や感染管理看護師長などに連絡することにより院内のアウトブレイクを未然に防ぐことができる.院内感染菌の報告について中規模病院と大学病院で現在実施されているそれぞれの方法を述べる.

生理:システム化の波に乗ってゆこう

生理機能検査におけるペーパーレス化

著者: 五味ヒサ子 ,   矢澤直行

ページ範囲:P.140 - P.142

 暗中模索

 「横浜市の港北ニュータウンに二十一世紀をリードする新病院を造る,そのために電子カルテシステムを導入して病院内のすべての業務をペーパーレスで行います.」そんな計画を具体的に聞いた1998年当初,生理機能検査に関してはオーダリングが進められていたものの,全項目について検査オーダから報告までをペーパーレスで行うなど,どこの施設でも行われていませんでした.苦悩の準備段階を経て,昭和大学横浜市北部病院は2001年4月に無事開院し,2年目を迎えることができました.ここでこれまでを振り返って,不安いっぱいの手探りで始めた準備段階から,実際に運用されている現在に至るまでの経過を紹介します.

 準備期間

 1. 病院の仕組みって

 開院の1年半前から,医療情報部主導で生理機能検査システムのワーキンググループを作り,毎週検討会を行いました.メンバーはわれわれ臨床検査技師のほか,医師,看護師,事務職員,システムエンジニア(以下SE)で構成されました.検査が依頼されてから報告されるまで,そして,会計情報の流れなどシステム化をすることによって滞りのない一連の流れを作らなければなりません.緊急時,診察前検査の報告タイミング,医師が判読する場所やタイミングなど,ひとつひとつの検査結果がどのように利用されているか改めて認識することになりました.

二級臨床病理技術士実技試験のポイント

神経生理学

著者: 野澤胤美

ページ範囲:P.156 - P.157

 はじめに

 二級臨床病理技術士認定試験(神経生理学)は毎年7月の最後の土曜日,日曜日の2日間にかけて行われます.第一日目の午前中は筆記試験が行われます.第二日目は午前,午後にかけて実技試験と口頭試験が行われます.これまでは筆記試験の合格者のみが二日目の実技試験と口頭試験を受ける資格がありましたが,近年は合格判定は筆記試験と実技試験,口頭試験の結果の総合判定となりました.

 近年,医用工学の進歩と高度医療技術の発展に伴い医療の専門化と細分化とが進みました.神経生理関係の検査においてもその傾向が顕著で,一昔前とは比較できないほど進歩しました.その結果,検査技師にも高度の知識と技術が要求されるようになってきております.しかし神経生理関係の検査設備およびその指導者には医療機関の間に格差が大きいことが明らかになってきました.設備の不十分な施設では検査技師は新しい技術の習得が不可能に近い状態にあります.また大学病院などでは,筋電図検査,大脳誘発電位検査などの検査は各診療科の医師が行い,検査技師が関与できないこともあります.一部の医療機関では検査部内で一定期間のローテイションが行われるために神経生理検査の技術を十分に習得できないこともみられます.これらの困難な事情を克服して,自ら他の医療機関に出向いて研修を終えてから試験を受ける受験生もみられます.しかし中には学校を卒業して1年未満で受験する検査技師もみられますが,十分な知識と技術を習得するには医療現場で2年から3年の経験は必要です.

 試験は前述のように筆記,実技,口頭試験が行われますが,試験委員は精神科,小児科,脳神経外科,神経内科,医用工学の専門家により構成されています.出題範囲は基礎から臨床にわたりますが,検査技師学校で教わった知識を基にして出題されますので,教科書を再度読み返して知識の整理をしておくことをお勧めします.教科書は検査技師として必要な知識が簡潔に記述されており,知識の整理には有用と思われます.過去の問題を参考に知識を整理するのもよい方法と思います.

 次に筆記試験,実技試験,口頭試験の要点について述べます.

今月の表紙

胆囊超音波像

著者: 永江学

ページ範囲:P.158 - P.158

 図1,2は53歳男性の胆囊超音波像である.人間ドックを受診して認められた所見である.胆囊頸部付近に半円形でその後方に音響陰影を認める高エコー像が認められる.図2は四ばいになってもらい,腹壁より探触子を当てて得られた像で,胆石の移動が確認される.胆石症の診断は,超音波検査が最も得意とする検査法の1つであり,高い診断率を示す検査法である.検査時に注意すべき点は,胆囊頸部では十二指腸球部,胆囊底部では大腸の影響を受けることがあるので,胆囊内腔が十分に描出されるように走査を行うことで,胆石を認めた場合には,必ず体位変換を行い胆石後方部に腫瘤性病変(特に胆囊癌)がないことを確認することも重要である.

 結石の組成を超音波像からある程度推定することが可能である.純コレステロール石では結石エコーの後方に淡いエコー像が特異的に認められる.混合石では接面形成があるものでは類推が可能である.ビリルビンカルシウム石では結石後方の音響陰影がやや弱い傾向がある.黒色色素石は複数の数mm小結石として認められる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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