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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術31巻3号

2003年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

皮膚筋炎と多発性筋炎―多発性筋炎検査所見を中心に

著者: 荒崎圭介

ページ範囲:P.212 - P.217

新しい知見

 31P-MRS(phosphorus-31 magnetic resonance spectroscopy):最近臨床応用が可能になってきたMR spectroscopy(MRS)は,患者の細胞代謝を生体内で検査できるという画期的検査法である.核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance;NMR)シグナルは,強力な静磁場内で高周波パルス(radiofrequency pulse,RFパルス)に曝された原子核から放出される.プロトン,リンなど異なる核種から最大のNMRシグナルを放出させるRFパルスの周波数は異なっており,この原子核の種類に固有の周波数を共鳴周波数と呼ぶ.また,NMRシグナルソースの核種周囲の環境が異なると,同じ核種であってもそのNMRシグナルが最強となる共鳴周波数が異なることが知られており,これが化学シフト1)と呼ばれる現象である.したがって横軸に周波数,縦軸にNMRシグナル強度をとってある核種から放出されるNMRシグナル強度をプロットすれば化学シフトを表現することができる.生体組織の一定の場所に存在する特定の核種から発生するNMRシグナルを記録し,その化学シフトを利用してその核種が構成するさまざまな物質の量的関係を明らかにする検査法をMRSと呼ぶ.筋細胞のエネルギー代謝を検出するには,この核種に 31Pを用いてMRSを行うとよい2)

皮膚筋炎と多発性筋炎

著者: 加治賢三 ,   五十嵐敦之

ページ範囲:P.220 - P.226

新しい知見

 多発性筋炎(polymyositis;PM)は骨格筋を主体とする全身性の炎症性筋疾患であり,これに特徴的な皮膚症状を伴ったものが皮膚筋炎(dermatomyositis;DM)である.原因については解明されていないが,筋炎特異的自己抗体など認められることから自己免疫的機序が考えられている.筋,皮膚の症状以外にも間質性肺炎,内臓悪性腫瘍なども合併し,その中でも間質性肺炎は難治性病態の1つで治療に苦渋することも多々経験される.

 本稿ではPM/DMの一般的な総論とともに間質性肺炎などに関するKL-6,SP-Dなどの新しい血清マーカーについて若干の説明を加えて説明する.

技術講座 病理

半定量的免疫組織化学染色法(ダコ HercepTest)

著者: 谷洋一

ページ範囲:P.227 - P.231

新しい知見

 免疫組織化学的な病理検査は,病理診断業務の補助的な役割を担うもので,腫瘍の鑑別,原発腫瘍の検索や腫瘍の悪性度の判定などに利用されてきた.基本的には各種抗体を利用して組織標本内の目的とする蛋白の有無を検索する定性的な性格を有するものであったが,近年,新しい乳癌の分子標的治療の選択的な治療法の実施と治療効果を得るためのスクリーニング検査として,乳癌組織標本中に存在する標的分子を半定量的に検索する機能が付加された.

血液

血液普通染色

著者: 大竹順子

ページ範囲:P.233 - P.236

新しい知見

 普通染色は約100年の歴史を経て改良され利用され続けている染色法である.現在,普通染色は用手法はもとより,半自動染色機,標本の塗抹から染色まですべてをする自動機械などがある.用手法で普通染色を実施する場合,同一条件で行っても,試薬のメーカーの違いや染色時の室温などによって染色性が異なるので,各々の施設で条件を設定している.自動機械による染色は用手法の染色液とは異なり,各々の機械に合うように調整されている専用染色液が使われる.いずれにしろ普通染色は用手法や自動機械で良好な染色性を得るために染色条件をそれぞれ微調整する必要がある.

生化学

small dense LDL測定法とその意義

著者: 塚本秀子

ページ範囲:P.237 - P.241

新しい知見

 リポ蛋白中のLDL(low density lipoprotein,低密度リポ蛋白質)は多様性があり,その密度(比重)は,広義には 1.006~1.063 g/ml,粒子サイズは22~28 nmに分布している.このLDLは動脈硬化症との関連が強いため,従来から量的にも問題とされてきた.近年このLDLのなかでも,粒子サイズの小さいかつ比重が大きい小粒子・高密度small dense LDL(sdLDL)の存在が特に動脈硬化との関連で注目されている.すなわちLDLと動脈硬化との関連については量的なものから質的なものへと変化してきた.このsdLDLの存在は冠状動脈疾患の相対的危険度が,有さない人の3倍になることがKraussらにより示された.

 ここではsdLDLの簡便かつ確実な測定法について紹介する.

オピニオン

検査室の課題を考える―診療との接点と自動分析装置担当技師の専門性

著者: 山本慶和

ページ範囲:P.218 - P.218

 自動分析装置,検査試薬およびシステムの性能向上により,迅速,診察前検査は日常的となり,外来診療ではその日の検査結果に基づく診療が定着してきた.迅速,正確なデータの提供は臨床検査の大きな目標の1つであり,まさにそれが実現したといえる.その意味でわれわれは新たな業務展開を進める時期と考えなくてはならない.今後も臨床検査は発展することは間違いないことはいずれもが認めているが,病院における検査部の存続は大変危ぶまれている.それは何故か,どう対処すべきか.診療との接点と自動分析装置担当技師の専門性から考えてみたい.

  診療との接点

 これまで検査室は文字どおり検査部内で検査データを提供することに専念してきた.そのため診療側からみると,わかり難く,いわゆるブラックボックスと捉えられている.これを解いていくには院内でさまざまな接点を持つことが重要と考えている.その基本的考えは診療の歯車となり,診療に欠かせない部門を目指すことである.その接点として当院臨床病理部では,①検査相談室(主に検体検査に対する)を設け,待たせない,検査データについては検査室が責任を持つ,苦情にはその場へ出向くなどの対応,②看護部との定例協議会で業務改善を図り,院内へのカンファレンス・各種委員会へも積極的に参加,③チーム医療としてIVH(intravenous hyperalimentation,経中心静脈高カロリー輸液療法),ICT(infection control team),糖尿病教育,乳腺カンファレンス,アレルギー談話会,病棟担当技師などの専門性を活かした活動,④情報の発信としてCPニュース,検査手引きの発行,などを実践している.このような多角的な接点の中で臨床検査技師として培ってきた,技術,知識,客観的評価能力といった専門性を発揮することが,評価と信頼を得るものと考える.

絵で見る免疫学 基礎編 39

血液型抗原(2)―赤血球膜の構造/ABH抗原

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.252 - P.253

膜蛋白質

 赤血球膜の蛋白質は脂質二重層の中にはめ込まれ,疎水性の蛋白質は脂質二重層の疎水性部分に,親水性の蛋白質は水と接する膜の内側と外側に局在し,Na-Kポンプや,H2OとHCO3が自由に往来できる通路(anion channel)やブドウ糖が赤血球内に入る通路を作っている.赤血球膜内側はスペクトリン(spectrin)と呼ばれる蛋白質の骨組みで補強されている.スペクトリンは分子量20万Daでα鎖とβ鎖から成り,互いによじれあってコイル状をなし,筋肉のミオシン(myosin)のように収縮性に富んだ六角の網目を形成して脂質二重層を裏打ちし,自在性に富んだ赤血球の球状形態を保っている(図1).


遺伝形質,表現型,遺伝子型

 親から子へと予測可能な様式で受け継がれる目や髪の色などを遺伝形質という.遺伝において,目に見えたり実測できる性質を表現型(phenotype)と呼ぶ.遺伝子によっては目の色や髪の色などのようにいくつかの異なる表現型が決められる場合があり,これを対立遺伝子(allele)という.表現型を作り出している遺伝子的因子を遺伝子型(genotype)と呼ぶ.ABO式血液型には4種類の表現型すなわちA,B,ABおよびO型がある.ABO式血液型は,第9番染色体上の長腕に位置し,1遺伝子座に3対立遺伝子(A,B,O)が存在する.両親から1つずつの遺伝子を受け取るため,各人3種類の遺伝子のうち2つを持っている.その遺伝子型すなわち,形質を表す遺伝構成は,AA,AO,BB,BO,ABそしてOOである.遺伝子AとBは遺伝子Oに対して優勢であるため,図2に示すような表現型を出現させる.

ラボクイズ

尿沈渣 2

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.254 - P.254

症 例:35歳,男性.定期検診で蛋白尿を指摘されていたが放置していた.むくみと血尿で近医を受診,腎機能低下のため腎臓内科を紹介され入院となる.表に外来受診時の検査所見を示した.

 問題1 図1-a,bの矢印で示した尿中成分で正しいのはどれか.

 ① 酵母様真菌

 ② 均一赤血球

 ③ 変形赤血球

 ④ ビスケット型シュウ酸カルシウム

 ⑤ 性腺分泌物

2月号の解答と解説

著者: 東克巳

ページ範囲:P.255 - P.255

【問題1】 解答:(4) b,c,d

解説:EBV(Epstain-Barr virus)感染ではその経過中にウイルスに対するさまざまな抗体を産生することが知られている.図に病床期とそれぞれの抗体の出現時期を示した.

検査データを考える

尿中低分子蛋白

著者: 伊藤喜久

ページ範囲:P.263 - P.267

低分子蛋白とは

 低分子蛋白(low molecular weight protein)は通常尿中に存在し,分子量が5万以下,あるいは6万7,000(アルブミンの分子量)未満で,血清由来の蛋白を指す.これはβ2-ミクログロブリン(β2-m)を発見したスウェーデンのBergga°rdらの定義による1)

 低分子蛋白が発見された当初はすべて血清由来と考えられていたが,精漿,浸潤細胞由来など局所で産生され尿中に混入あるいは血中から尿中へ直接移行する低分子の成分が多く存在しており,本来の定義づけが極めて曖昧なものとなっている.したがって,現段階では腎尿細管に関連して生理,病的状態で尿中に排泄増加する分子量1~5万の血清由来の蛋白質群と定義づけるのが妥当であると筆者は考えている.

私の必要な検査/要らない検査

脂質検査―臨床医の立場から

著者: 稲津明広 ,   馬渕宏

ページ範囲:P.271 - P.274

日常診療上,リポ蛋白表現型

( WHO, Fredrickson 分類)

診断に最低限必要な検査項目

 健康診断や一般初診時に12時間以上の空腹時採血を行い,血清脂質の表現型分類を行う.高脂血症のみならず,低脂血症や低LDL-C(low density lipoprotein cholestrol)血症にも注意する.

  1 . コレステロール

  2 . トリグリセリド(中性脂肪)

  3 . HDL-コレステロール(high density lipoprotein;HDL-C) 低HDL-C血症<40mg/dlを同定するとともに,LDL-Cの計算が可能となる.

 低HDL-C血症<40mg/dlを同定するとともに,LDL-Cの計算が可能となる.

脂質検査―臨床検査医の立場から

著者: 久保信彦

ページ範囲:P.274 - P.279

はじめに

 今日,大部分の臨床化学検査室では血清脂質が測定される.動脈硬化の危険因子の1つとして血清脂質を評価することが日常業務として重要である.昨今,国内で統一した脂質の基準値が勧告されているが,脂質の臨床検査値を多施設間で共有するうえで,測定上,解消されるべき課題が多数ある.例えば,施設間差(同一検体を各々の施設で測定した際の測定値間の差異)は最小限である必要があるし,そのほかの測定値間差を生む要因を排除する必要がある.最近の測定法の精度の向上は目覚ましい.酵素法の普及により総コレステロール(total cholesterol;TC)や中性脂肪(triglyceride;TG)といった臨床上重要な脂質項目の測定の誤差変動は以前と比較して著しく小さくなった.そのような背景を踏まえて,以下に脂質に関して臨床検査医の立場から必要な検査,要らない検査について述べる.

けんさ質問箱Q&A

結核菌同定検査における発色濃度増加への対応

著者: 黒田俊吉

ページ範囲:P.280 - P.281

Q 結核菌同定検査における発色濃度増加への対応

結核菌同定検査の硝酸還元試験は35°C,2時間反応後,試薬を添加し濃赤色に発色したものを陽性と判定しますが,試薬添加直後淡赤色に発色したので陰性と判定しました.ところがそれを,室温に一晩放置したところ赤色が濃くなりました.試薬添加から判定までの時間は決まっているのでしょうか.また,どうして濃くなったのでしょうか.教えてください.(日高郡 K. S. 生)


A 質問の内容から基本的にはVirtanenが1960年に発表した方法1)での硝酸塩還元試験の結果と思われます.

複数コロニーを混ぜて培養してもかまわないのか

著者: 小松方 ,   相原雅典

ページ範囲:P.282 - P.283

Q 複数コロニーを混ぜて培養してもかまわないのか

某誌には同一と思われる集落であっても,複数集落を混ぜて同定検査を行ってはならないと書かれています.別の菌種である可能性もあるからです.ところが,感受性検査のディスク拡散法でNCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards,米国臨床検査標準委員会)の菌液調製手順には同じ菌種と考えられる集落3~5個を選んで摂取すると書かれています.これは矛盾していないでしょうか.どう考えればよいのでしょうか.教えてください.(仙台市 M. K. 生)

A 同定検査と感受性検査の釣菌に関する考えかたを以下に示しました.

けんさアラカルト

日本糖尿病療養指導士の役割

著者: 大橋初美

ページ範囲:P.284 - P.285

はじめに

 現在糖尿病患者数は世界的増加傾向にあり,1999年のWHO(World Health Organization,世界保健機関)の調査では1億3千万人といわれ,近い将来地球上から伝染病と飢餓さらには戦乱といった因子が減少した後は糖尿病が人々の健康を脅かす大きな原因になるとWHOならびにIDF(Iternational Diabetes Federation Foundation,国際糖尿病連合)は解析しています.日本も例外ではなく糖尿病患者数は700万人に上り年々増加しています.この原因はわが国の環境因子の変化といわれています.脂肪摂取量の増加という食生活の変化と運動量の低下が2型糖尿病を誘発し,さらに,日本は世界でも有数の高齢化社会であることから,今後さらに糖尿病患者が増加することは疑う余地がありません.このような背景から日本糖尿病学会は1989年に糖尿病認定医制度を立ち上げましたが,現在の認定医師数2,400名では圧倒的に不足で,また,その後も合併症を併発あるいは増悪させる患者は増加の一途をたどり,新たな対策が待たれました.そこでこの現状から日本糖尿病療養指導士を育成する気運が高まり,米国CDE(certified diabetes educator,糖尿病療養指導士)の概念を基に,看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士を受験資格対象者とし,日本糖尿病療養指導士が第1回,2回の認定試験によって2002年現在6,379名誕生しています.

Laboratory Practice 病理:細胞像からここまでわかる

体腔液(3) 転移性癌

著者: 堀内啓 ,   牛島友則 ,   松谷章司

ページ範囲:P.242 - P.247

はじめに

 腹腔,胸腔などの体腔に液体が貯留する状態は腔水症と呼ばれる.この原因は,心不全や腎不全,肝硬変などの非腫瘍性疾患による場合と,腫瘍の体腔への転移による場合がある.両者の鑑別には,細胞診による悪性細胞の検出が決め手となる.

 体腔へ転移する頻度が高い腫瘍を,小児と成人で男女別にまとめたのが,表である.小児では,胸腔・腹腔とも白血病・リンパ腫などの血液疾患と,小円形細胞腫瘍の頻度が高いが,成人では,腹腔では消化器癌や卵巣癌,胸腔では肺癌の頻度が高い.

 体腔液中の腫瘍細胞は,もはやその由来した臓器を離れており,原発巣の細胞とは形態が異なってくる.体腔液中に浮遊して存在する腫瘍細胞は培養液中と同じような状態であり,多くの腫瘍細胞は類円形になる.したがって,本来の細胞形態学的特徴が不明瞭となる場合が稀ではない.

 あらゆる腫瘍が体腔へ転移する可能性を持っており,そのすべてを述べることは,本稿では不可能である.したがって,頻度の高い腫瘍,鑑別診断上重要と考えられる腫瘍について記述する.

血液:骨髄塗抹標本の見かた

FAB分類 [2]MDSに見られる形態異常―2)赤芽球系の異常

著者: 清水長子

ページ範囲:P.248 - P.251

はじめに

 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS)は,造血幹細胞を源に発するクローン性疾患で,無効造血と血球形態異常を特徴とする疾患である.

 無効造血とは,造血細胞が骨髄中で正常な成熟過程を経る以前に破壊されてしまう状態であり,汎血球減少と多彩な形態学的異形成(dysplastic change)を特徴とする.血球3系統に量的,質的異常を来しMDSの診断の大きな根拠となる.表1にMDSの病型分類を示す.本稿では赤芽球系の異常について症例を交えて解説したい.

トピックス

EDTA塩血漿でのALP測定

著者: 今福裕司 ,   羽田良子 ,   目黒サキ子 ,   佐藤豊二 ,   吉田浩

ページ範囲:P.287 - P.289

はじめに

 EDTA(ethylene diamine tetra acetatic acid,エチレンジアミン四酢酸)塩血漿を検体として用いると,EDTAの影響により多くの生化学項目において異常値を呈することは常識的に知られている.われわれは採血の過程においてEDTAが血清に混入する事例を経験し,それを機にEDTAの日常検査項目への影響について再検討を行った.そのなかで,酵素系ではALPが最も影響を受けることを確認し,その機序を明らかにすべく種々検討を行った.

電子カルテと臨床検査システム

著者: 山川憲文

ページ範囲:P.289 - P.291

はじめに

 1999年,規制緩和によってカルテの電子媒体での保存が認められ,これをきっかけに各医療施設では急速に医療情報の電子化が進み,病院内における情報管理は変化した.部門システムとしての臨床検査でも当然のことながらこの変化による改革が起こっている.検査システムが電子カルテとどのように連携しているのか,その現状とシステム導入後の検査室のあるべき姿などを臨床検査部門の立場から考えてみる.

抗菌薬使用の新ガイドライン―「抗菌薬使用の手引き」について

著者: 二木芳人

ページ範囲:P.291 - P.293

はじめに

 抗菌薬は感染症治療の主役を演ずる治療薬であり,現在では抗細菌性抗菌薬として実に150種類以上の誘導体がわが国で臨床応用されている.これらを適正に選択し,正しく使用すれば,多くの感染症が比較的容易に治療できるはずだが,現実には感染症の治療に苦慮することも少なくない.その理由としては,1つには各種の新しい耐性菌が増えていること,次に,それにもかかわらずそれに対応する新薬の開発が遅れていること,そして今1つは臨床医による抗菌薬の選択や使用が必ずしも適正ではない場合が多いことなどが挙げられる.最近では医療の標準化やevidence-based medicine(EBM)などが強く医療現場で求められるようにもなっており,感染症の分野においても同様の要求に応え,かつ適正な抗菌薬療法を示すためにも,各種の抗菌薬使用のためのガイドラインや手引きが新しく公表されている.本稿では,その中から日本感染症学会と日本化学療法学会が作成した抗菌薬使用の手引き(図,以下手引き)について,その概要を解説する.

ワンポイントアドバイス

付箋紙を利用した糖尿病教室

著者: 小谷和彦 ,   坂根直樹 ,   平井由香 ,   小坂妙子 ,   下村登規夫 ,   小田貢 ,   猪川嗣朗

ページ範囲:P.219 - P.219

はじめに

 検査技師が糖尿病教室にかかわる機会が増えつつある1,2).例えば○○検査の基準値は××で……と,対患者知識伝達・患者傾聴型(レクチャー方式)の検査指導を行っている医療機関は多い.しかし,その効果の限界が知られるようになり,参加・体験型の検査指導が発案されつつある3,4).この実例として,本稿では検査技師が企画している付箋紙を用いた糖尿病教室(原案は坂根4) による)を紹介する.

検査じょうほう室 管理運営:よりよい管理運営を目指して

PDAを使った透析業務支援システム

著者: 川口和紀

ページ範囲:P.256 - P.257

はじめに

 血液透析というのは簡単にいえば腎臓の機能が悪くなった患者さんに人工腎臓を使って血液をきれいにする=浄化するという治療法です.今日この治療法が確立されたことにより,慢性腎不全の患者さんでも週2~3回,1回当たり3~5時間の透析を受けなければならないこと以外は健常な人と同様な生活を送っていただけるようになっています.私たち藤田保健衛生大学病院の腎センターは血液透析をはじめ血漿交換や血液吸着などさまざまな血液浄化療法を行っております.ベッド数 27床の比較的小規模の透析室ですが,この小さな腎センターからさまざまな情報が患者さんや医療スタッフに提供できる環境ができ始めています.

一般:一般検査のミステリー

寄生虫かウドンか

著者: 安部祐史

ページ範囲:P.258 - P.259

はじめに

 2002年1月,病棟から寄生虫らしいものが出たから見てほしいとの依頼がありました.腸して排泄された便の中に紐状の白いものが出たということです.

 検査室に届いた物体はウドンそっくりで乳白色の紐状,直径が5~10mm,長さが50cmと10cmの2つの断片でした.触ってみると腰の強い讃岐ウドンかお餅のようで弾力がありました(図1).これ,ウドンじゃないの?と持ってきた看護師さんに聞いたのですが,患者さんはウドンや餅は食べていませんとのことでした.

 寄生虫病の診断のための糞便検査を行う場合に,人体には寄生しないはずの他動物の寄生虫類や,ときにはやミミズのような生物体,そしてウドンなど麺類,もやしといった食物残が提出される場合もあります.

生化学:おさえておきたい生化学の知識

胚細胞腫と髄液中胎盤型アルカリホスファターゼ(PLAP)

著者: 渡辺伸一郎 ,   菊野晃 ,   久保長生 ,   菰田二一 ,   佐藤豊二

ページ範囲:P.260 - P.262

はじめに

 胚細胞性腫瘍(germ cell tumor)は胎生期に出現する原始胚細胞が成熟し,胚細胞になるまでのある時期に発生すると考えられる腫瘍群で,性腺,後腹膜,縦隔あるいは頭蓋内に発生する.

 頭蓋内胚細胞性腫瘍は,松果体部,トルコ鞍上部や基底核部に好発し,化学・放射線療法に感受性の高い胚細胞腫(germinoma)と感受性の低い非胚細胞腫(non-germinomatous germ cell tumor)の2つに大別され,非胚細胞腫には胎児性癌(embryonal carcinoma),卵黄囊腫瘍(yolk sac tumor),絨毛癌(choriocarcinoma),奇形腫(teratoma)およびこれらの混合性腫瘍(mixed tumor)が含まれる.

 胚細胞腫は化学・放射線療法に著効を示し,化学・放射線併用療法の10年生存率は90%以上で,外科的手術を必要としない.胚細胞腫の確定診断には髄液細胞診や手術時の摘出標本の病理組織検査が主として用いられてきたが,患者に対する侵襲も大きい.

 胎盤型アルカリホスファターゼ(placental alkaline phosphatase;PLAP)は耐熱性で,L-フェニールアラニンにより阻害を受けるアルカリホスファターゼ(ALP)・アイソザイムの1つで,Regan isozymeなど種々の腫瘍においてPLAPと酵素学的にも免疫学的にも区別のできないALPが産生されていることが古くから知られている.また,PLAPが頭蓋内胚細胞腫の腫瘍マーカーとして有用との報告も認められる1,2)が,未だその測定はルーチン化されていない.

 PLAPを腫瘍マーカーとして,頭蓋内胚細胞腫の術前診断ができれば,手術を行わずに化学・放射線療法を第一選択とすることができるため,その臨床的意義は高いと考えられる.

 最近,筆者らは頭蓋内胚細胞腫の腫瘍マーカーとしてモノクローナル抗体を用いた特異性の高い髄液中PLAP測定用のEIA(enzyme immunoassay,酸素免疫測定法)を開発し3),若干の知見を得たので報告する.

二級臨床病理技術士実技試験のポイント

病理学

著者: 根本則道

ページ範囲:P.268 - P.270

はじめに

 二級臨床検査技術士資格認定試験(以下,二級試験)は日本臨床検査医学会ならびに日本臨床病理同学院の共催で執り行われている.本試験は①微生物学(寄生虫学を含む),②病理学,③臨床化学,④血液学,⑤血清学,⑥循環生理学,⑦神経生理学,⑧呼吸生理学の8つの専門領域について試験科目が設定されている.受験資格としては既に臨床検査技師国家試験に合格し,登録されている者については上記のうち,1科目の受験資格がある.しかし,衛生検査技師の有資格者ならびに4年生大学・学部を卒業した者で2年以上にわたる医学関係施設に職を有するものについては,8科目のうち微生物学,病理学,臨床化学ならびに血清学のうち1科目の受験が認められている.

 二級臨床検査技術士資格認定の目的は,当該専門領域の検査技術についての標準化,すなわち,わが国における標準的な医療機関ないし医療関連領域施設の臨床検査部(科)ならびに病理部(科)における日常業務を迅速かつ正確に遂行し,提出された検体について医療情報として提供できる結果を出すことができるか否かを判定することにある.病理に関しては病理医が病理組織診断をするうえで支障ない標本を作製できる能力を有するか否かが問われる.したがって,病理二級試験で問われる内容はきわめて日常的な標本作製に関することに限定されている.

今月の表紙

肝臓超音波像

著者: 永江学

ページ範囲:P.285 - P.285

【解説】 図1は60歳男性の肝臓超音波像である.患者はC型肝炎から肝硬変へと進展した症例で定期的に超音波検査を行っていた.肝臓内(右葉前上区域)に大きさは約3cmで辺縁低エコー帯を示す腫瘤が認められる.腫瘍内部は比較的均一でありモザイクパターンは示してはいない.また,後方エコーの増強や外側陰影も認められない.図2は同一症例のパワードプラ像およびドプラ波形である.腫瘍内に拍動性を示す血流が認められ肝細胞癌と診断された.わが国では原発性肝癌のうち約96%が肝細胞癌であり,そのうち約93%が肝炎ウイルスに成因していると言われている.そのために,ハイリスク群では定期的な超音波検査が極めて有効である.1.5cm以下の小さな肝細胞癌では,再生結節,腺腫様過形成,血管腫などとの鑑別が問題となる.

 図3は82歳女性の肝臓超音波像である.食欲不振にて来院し,内視鏡検査で胃癌が発見され転移の有無について検査が依頼された.肝臓内(右葉後上区域)に周囲肝臓エコーより輝度の高い腫瘍が認められる.腫瘍内部は不整で複数の腫瘍結節が集合して塊状を呈する所見(cluster sign)が認められる.胃癌からの肝転移像である.

書評

―日本臨床薬理学会認定 CRCのための研修ガイドライン準拠―CRCテキストブック

著者: 岩井富美恵

ページ範囲:P.294 - P.294

 治験とは,新薬の製造や輸入の承認を受ける資料として厚生労働省へ提出するためにする臨床試験である.治験は,治験依頼者が医療機関と契約することによって医療機関で実施される.冶験を実施する際には,“新GCP(good clinical practice)”の遵守が薬事法により規定されている.このことから,治験は通常の医療業務とは区別された業務であることがわかる.研究的要素を含み,治験に参加する薬ボランティアに対する配慮,治験に際して生じる健康被害補償などは,通常の医療とは異なった面である.

 CRCはclinical research coordinatorの略語である.CRCが特に治験を支援して働く場合は,治験コーディネーターと称されている.CRCは依頼者,治験責任(分担)医師,薬ボランティアの間に入って治験の円滑なる実施をサポートする必要から生まれた職種である.実際に治験を実施するうえでの問題点は,多岐にわたっており,CRCの質が治験の質を決定するとまでいわれている.CRCは現在のところ国家資格でもなんでもない.だれでもなることができる.機会さえあれば.各医療機関でのCRCの雇用形態は一様ではない.CRCとしては,主に薬剤師,看護師,臨床検査技師が業務にかかわっているが専門職種に限定されているわけではない.日本病院薬剤師会や日本看護協会では既に数年前より,独自のCRCの養成研修会を重ねており,文部科学省,厚生労働省もCRCの養成研修会を開催してきている.日本臨床衛生検査技師会でも2002年6月に第1回の研修会が開かれた.CRCとして現在治験業務に従事している人はなんらかの研修会を受講しており,他施設の治験業務の見学などで自己研に励んでいる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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