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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術31巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

トキソプラズマ症

著者: 牧岡朝夫

ページ範囲:P.302 - P.305

新しい知見

 寄生原虫トキソプラズマによる感染は不顕性感染が多いが,時に先天性感染により中枢神経系の重篤な症状を呈する.後天性感染ではリンパ節炎と網脈絡膜炎とが代表的な症状である.近年,AIDS(acquired immunodeficiency syndrome,後天性免疫不全症候群)に合併して脳炎を起こす日和見感染症として注目され,WHOにより再興感染症の指定を受けている.虫体の検出は困難な場合が多く,抗体検出のための血清反応の実施が必須である.今後,増加が予想される免疫抑制療法を伴う臓器移植などの免疫不全状態を来す場合に注意が必要である.

技術講座 輸血

抗グロブリン試験

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.307 - P.312

新しい知見

 自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia;AIHA)や新生児溶血性疾患(hemolytic disease of newborn;HDN)などの診断,血漿分画製剤や薬物による免疫性溶血性障害の診断に用いられる直接抗グロブリン試験1)は,生体内で既に抗体によって感作された赤血球を検出するのに有用である.また,間接抗グロブリン試験は,弱いD抗原(weak D)の検出,血清中の遊離の抗赤血球抗体(不完全抗体)を検出,ある種の血液型の判定などに利用される検査法の1つである.

生理

自動聴性脳幹反応を用いた新生児聴覚検査

著者: 山本敬一 ,   管沼徹 ,   原田誠

ページ範囲:P.313 - P.315

新しい知見

 近年,わが国において先天性難聴児の早期発見を目的に新生児聴覚検査を行う施設が増加している.

 新生児聴覚検査法には,自動聴性脳幹反応(automated auditory brainstem response,以下自動ABR)と,耳音響放射(otoacoustic emissions;OAE)の2種類が実用化されている.どちらも検査は簡便に行うことが可能で検査結果は自動的に解析されるが,OAEは自動ABRに比べ検査の疑陽性率(正常者を有病者と判定する割合)が高い.一般にスクリーニング検査で疑陽性率が高いことは,被検者(この場合新生児の両親)に不要の不安を与えることであり,新生児聴覚検査法には自動ABRが望ましいと考える.

 現在,わが国で自動ABRの測定機器は,既に約600台が販売され,年間20万名に新生児聴覚検査を行っている.

病理

術中迅速診断における特殊染色法

著者: 篠田宏 ,   岡安勲

ページ範囲:P.317 - P.325

新しい知見

 近年の術中迅速診断は,通常摘出検体,穿刺・吸引,擦過検体のほか,縮小手術および温存療法などに付随した術中迅速検体などにより年々増加傾向にある.したがって,現在の病理検査における術中迅速は,迅速組織診断,迅速細胞診断,または両者の併用で術中迅速診断報告がされている.

 迅速組織診断にはヘマトキシリン・エオジン染色(hemaloxylin-eosin stain;HE stain),迅速細胞診断にはパパニコロウ染色(Papanicolaou stain)が主に用いられているが,必要に応じて迅速特殊染色,迅速免疫組織化学染色が術中迅速診断に併用され,より確度の高い報告がされている.

オピニオン

検査部(室)に求められているもの

著者: 保嶋実

ページ範囲:P.306 - P.306

 検査部(室)(以降検査部と略す)の業務そして管理に直接かかわるようになってから8年が過ぎようとしている.昨年はいわゆる国立大学附属病院のマネジメント改革の提言の対応に追われるなかで,今までに経験したことのない挫折感と何ともやり切れない気分を味わった.それは提言の中で突きつけられた検査部に対する認識と評価によりもたらされたものである.その内容についてももちろん今もって承服し難いものであるが,とりわけ一番の衝撃は,身内少なくとも理解者と考えていた病院指導部の集まりから出されたということであった.この内容はやはり国立大学附属病院の検査部に限定されたものでなく,医療機関の指導部から現在のすべての検査部の在りように向けられたものとして捉える必要があるように思う.そのような観点から検査部の視点で,今後の進むべき方向について私見を述べてみたい.

 検査部の業務の原点は,診療のニーズに即応した検査を迅速にしかも経済効率よく実施し,得られた良質の検査情報をまた迅速にしかもタイムリーに提供することによる診療支援である.このような基本的診療支援に加えて各々の診療施設の設立の目的や目標さらにその課せられた任務に応じた機能の分担が検査部にも求められるのは当然のことであろう.私の所属する地方国立大学附属病院の検査部を例にとれば,医師,臨床検査技師などを目指す学生を中心とした医療系各分野学生の臨床検査教育を担当するのは当然のことと考えて実践している.また,併存する検査領域を専門とする講座の教官や研究者と一体となって,特定機能病院としての高度先進医療を担う検査法の研究開発やその実践のための業務を行うことも極めて当たり前のこととして行っている.さらに地方にあっては地域医療の中核基幹病院として救急医療を担い,24時間の緊急検査体制などの構築も必須となる.このような観点からすると言葉は多少不穏当となるが,国立大学附属病院のマネジメント改革に関する提言ははなはだ不備で,国立大学附属病院検査部に特に求められている機能についての視点が全く欠落しているといわざるを得ない.

ラボクイズ

心電図 1

著者: 大家辰彦 ,   犀川哲典

ページ範囲:P.326 - P.326

 症例:症例46歳,男性.20年前に健診で心電図異常を指摘されたが無症状のため経過観察していた.健診時の心電図を図1に示す.2000年8月頃より労作時に3,4時間持続する動悸を自覚するようになったため近医を受診した.動悸時の心電図を図2に示す.同院でベラパミル静注により図1と同様の心電図となり症状は消失した.

 問題1 図1の心電図の診断はどれか.

 ① 完全左脚ブロック

 ② 完全右脚ブロック

 ③ 心室補充調律

 ④ WPWv症候群(Wolff-Parkinson-Whiteusyndrome)

 ⑤ 心室内伝導障害

3月号の解答と解説

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.327 - P.327

【問題1】 解答:(3) 変形赤血球

解説:本症例は活動性IgA腎症の重症型で,入院時のIgAは425mg/dlと高値を示し腎機能も低下していた.腎生検では糸球体のメサンギウムの硬化変化および線維性半月体の形成があり,IgAの蛍光抗体法で蛍光を確認した.さらにネフローゼ症候群を呈している稀な例である(図1a~c).尿沈では,顆粒円柱,硝子円柱,上皮円柱,脂肪円柱など多彩な円柱が認められた.

 【問題1】に見られる赤血球は,通常見られる赤血球とは形態が異なる.これらは変形赤血球と呼ばれ糸球体由来が示唆される.図2に示したようにドーナツ状,ねじれ状,標的状,断片状など多彩な形態を示し,さらに大小不同を呈する.変形赤血球は,尿ができる過程で血液中の老廃物を選択的に排泄し,必要な物質を尿細管で再吸収する時用いられている浸透圧の濃度勾配差により生じる.また,変形赤血球は非常に壊れやすいため,時間経過やSternheimer(S)染色法では,ゴースト状を呈することがある.

絵で見る免疫学 基礎編 40

血液型抗原(3)―ABO式血液型

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.328 - P.329

ABO 式血液型

 ABO式血液型とは,Landsteiner(1900年)が6人の赤血球浮遊液と血清との組み合わせをいろいろ変えて両者を混合し,その凝集を観察して発見したものである.赤血球膜にA型物質を持つ表現型をA型,B型物質を持つ表現型をB型といい,A型の人の血清にはB型物質と反応して赤血球を凝集させる抗体を,B型の人の血清にはA型物質と反応して赤血球を凝集させる抗体を有する.B型の人の血清で赤血球凝集反応を行いそれが凝集(陽性)すればA型,A型の人の血清で赤血球凝集が起こればB型としてよい.B型の人の血清を抗A血清,A型の人のそれを抗B血清と呼ぶ.抗A,抗Bの双方の血清に赤血球が凝集すればAB型,いずれにも凝集しなければO型(凝集ゼロの意味)という.AB型の人の血清はA型,B型の血球を凝集しない.O型の人の血清はA型,B型の血球を凝集する.さらに,O型を正しく証明するためには,抗H抗体の使用が必要である.

 ABO式血液型の表現系は,図1に示すように赤血球の抗原の検査の“オモテ試験”と血清中の抗体の検査の“ウラ試験”の両方を用いて判定される.

検査データを考える

肝胆道系酵素と血清IgM高値の慢性肝障害例―原発性胆汁性肝硬変のデータ解説

著者: 柴田実

ページ範囲:P.337 - P.341

はじめに

 慢性肝障害の診断は臨床症状,肝機能検査,血清学的検査(ウイルスマーカー,自己抗体など),画像検査,肝組織検査などを総合して行う.今回は肝胆道系酵素と血清IgM高値を示す肝疾患の診断の進めかたおよびその疾患の解説を行う.

私の必要な検査/要らない検査

内分泌検査 1.甲状腺・副甲状腺機能検査―臨床医の立場から

著者: 紫芝良昌

ページ範囲:P.343 - P.347

検査の発達

 臨床のどの領域でもそうであるように,検査法の発達・改良も大変な速度で進んでいる.先発した検査のうちでは,とうに不要となってきた検査もたくさんあり,それを整理してゆかなければ効率的な診断には至らないし,患者の負担も大変である.ある検査が不要となるには,以下の3つの理由のどれかによる.すなわち,①より合理的な検査法が普及した,②臨床上の知識の進化から不要と考えられるようになった,③理諭上必要であるが手技的に複雑であつたり,精度がよくないなどの理由で使用されなくなったなどである.これらの事情の背景をある程度は知ることが正しい検査の選択に必要である.

甲状腺領域

 図は,ある検査会社が主として開業を中心とした小規模医療機関向けに作成している甲状腺検査の伝票である.歴史的,化石的な検査から最新の検査まですべて羅列してある.すべてを選択すると2,530点にもなってしまう.適切なものを選ぶとなると,ある程度甲状腺の診療に知識と経験とがないと困難である.

内分泌検査 1.甲状腺・副甲状腺機能検査―検査医の立場から

著者: 家入蒼生夫 ,   沼部敦司

ページ範囲:P.348 - P.353

甲状腺

 甲状腺は,頸部で体表近く位置するので形状の変化を容易に認知でき,またその産生するホルモンがヨウ素(I)という特異な元素を持ち放射性ヨード(131I,125I,123Iなど)によるホルモンの動態追跡が容易であったので,内分泌学研究者にとり蠱惑的な存在となり,甲状腺学の発展を促進させた.

 甲状腺の検査を理解するには,甲状腺ホルモンの合成・分泌・代謝過程および調節機構などの理解が必要である1)が,ここでは触れない.表1に甲状腺に関する検査を目的ごとに分類し,その基準値を示し,要・不要を述べる.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

治験コーディネーター

著者: 樋田久美子

ページ範囲:P.354 - P.355

はじめに

 私は現在,臨床検査技師の治験コーディネーターとして働いており,2002年9月で3年になります.治験コーディネーターとは,一般にはCRCと呼ばれていて,Clinical Research Coordinatorの略です.欧米ではかなり古くからSC(study coordinator)やRN(research nurse)として,主として看護師さんがその任を担ってきたようです.

 日本では薬の開発ということで薬剤師,そして患者様と接するということで看護師がCRCに取り組んできました.しかし実際の業務内容は特にどの職種が適しているとはいえず,全く新しい職種と考えたほうがよいかもしれません.

 新薬開発には,治験とか臨床試験と呼ばれる段階があって,実際に患者様に未承認の薬を試していただいて,そのデータを集積し厚生労働省に提出し認可されて,ようやく薬として一般の患者様にも使っていただくことができるようになります.

 CRCは,その前の段階の治験に参加していただく患者様に対して,大まかにいえばサポートしていく仕事ということになります.治験は第相,第相,第相と三段階に分かれており,第相は健康人を対象に行われるため,実施施設も限られています.一般病院で行われるのは,第相,第相で,患者様を対象に至適用量を決めたり,効果や安全性に問題がないかを検証します.また,既に市販されている薬についても,市販後臨床試験といって,本来の治験と同じように実施される場合もあります.

復習のページ

調製直後のグルコース水溶液で,理論値よりかなりの低値が出現―糖の構造と異性体―α・β異性体―が物語る

著者: 勝田祐年

ページ範囲:P.356 - P.357

[面白い実験データとの遭遇]

 ルーチン検査でグルコースをヘキソキナーゼ(hexokinase;HK)法(多項目生化学自動分析装置)と酵素電極法(グルコース専用測定装置)との二方法で測定していた.これらのうち,GOD(glucoseoxidase,グルコースオキシダーゼ)酵素電極法を原理とする測定装置が機器更新された.更新に伴う基礎的検討時,とんでもない事態に遭遇した.

 検量線の直線性の検定時,グルコースの粉末を量,精製水に溶解し,1,000mg/dl溶液を調製した.この原液を10段階希釈し,測定したところ,表に示すように,原液で450mg/dl程度の値しか得られなかったのだ.検証のためヘキソキナーゼ法で同時測定した値はほぼ理論値が得られたのに,だ.そして,調整したグルコース溶液の時間経過とともにGOD電極法の値は理論値と一致するようになったのだ.

けんさアラカルト

糖尿病のチーム医療に参加する検査技師

著者: 小谷和彦 ,   坂根直樹 ,   下村登規夫 ,   猪川嗣朗

ページ範囲:P.360 - P.361

検査技師の役割

 糖尿病診療では患者教育や生活指導の治療効果は大きく,旧くから多職種がそれに携わるチーム医療体制が採られてきた.昨今の諸背景1,2) から,糖尿病教育への検査技師の参加は徐々に増え,これは検査技師の新たな職域の方向性とみなされつつある.現時点で考え得る検査技師の守備範囲と役割の例を表に示した.

 特に自己測定機器の使用法・管理法・手技の説明は,今まではあまりしてこなかったが,機器の開発・改良の評価を検査部門が担当してきた経緯から,検査技師の業務に含めていこうという意見3) が近年多い.また,低血糖や極端な高血糖の値を得た場合の対処法といった療養面についての概説も範疇とされはじめている.こうした治療的対応に関しては糖尿病診療チームで回答を統一して用意しておくことが望まれる.患者のみならず診療チーム内の他職種に検査の最新情報を説示したり,質問や依頼に応答したりしていくことも,コミュニケーションと検査の専門性・役割分担の確立には欠かせない.

Laboratory Practice 病理:細胞像からここまでわかる

乳腺(6) パジェット病

著者: 都竹正文 ,   秋山太

ページ範囲:P.330 - P.333

概念および臨床的事項

 乳癌取扱い規約(改定第14版,2000年9月)では,乳腺腫瘍の組織学的分類(表,2002年7月号参照)では,. 上皮性腫瘍はA. 良性腫瘍,B. 悪性腫瘍に分類され,さらに. 結合織性および上皮性混合腫瘍,. 非上皮性腫瘍,. 分類不能腫瘍,. 乳腺症,. 腫瘍様病変に分類されている.悪性腫瘍は1 . 非浸潤癌,2 . 浸潤癌,3 . Paget病に分類されている.

 パジェット病(Paget's disease)は臨床的には乳頭部の湿疹様皮膚病変を示し,組織学的には乳管癌細胞の乳頭表皮への進展を特徴とする乳癌の一型である.本症が癌と関係あることを初めて記載したのはSir James Pagetであり1874年に報告している.これがパジェット病の名の由来とされている.

血液:骨髄塗抹標本の見かた

FAB分類 [2]MDSに見られる形態異常―3)巨核球

著者: 黒山祥文 ,   大畑雅彦

ページ範囲:P.334 - P.336

形態学的所見

 図1-aでは,やや好塩基性が残る単核の巨核球が1視野に相当数認められる.表に示す検査データでは,血小板数が7.6×104/μlで骨髄中の巨核球数(1,922/μl)との間には,明らかな乖離が存在する(無効造血の所見).さらに注目すべきは,細胞質にはアズール顆粒が認められるまで成熟傾向を示すが,核の分葉は全く見られない点である.また中央には,成熟好中球の2倍程度の微小巨核球(矢印)(micromegakaryocyte,以下 m-megと略)も存在している.図1-bでは,円形の核が個々に分離した,いわゆる円形(分離)多核巨核球が認められる.

 今回は,巨核球系細胞に種々の形態異常が観察された症例を提示し,そのアプローチを考察する.

トピックス

Myco-Dot法

著者: 前倉亮治

ページ範囲:P.375 - P.376

はじめに

 1890年にツベルクリン皮膚反応(以下,ツ反)細胞性免疫がKochにより報告されたわずか8年後の1898年には,凝集反応を用いて結核菌に対する血清抗体(体液性免疫)の存在が報告された.しかし,脂質に富み多様な成分により構成された細胞壁を持つ結核菌に対する特異抗原を調整することは,困難を極めた.1972年に酵素抗体法(ELISA)が開発され,抗体検出感度が高くまた再現性も改善されたことにより,数多くの血清診断法が報告されてきた(表1).ここでは,抗酸菌(結核菌)に特異的な多糖体菌体成分lipoarabinomannan(LAM)を抗原とする血清診断法(Myco-Dot法)の役割について紹介する.

病理検査室における試薬のリサイクル

著者: 野畑真奈美 ,   伊藤誠

ページ範囲:P.376 - P.378

はじめに

 地球環境保全問題は,21世紀の世界共通課題である.産業界では2000年6月に施行された循環型社会形成推進基本法* の要請に応えるべく,技術を結集して,新たなリサイクル技術の提供と開発を通して社会に貢献している.最近では医療機関でもようやく環境保全の認識が芽吹きつつある.特に病理検査室では大量に使用する有機溶媒や毒劇物の適正な管理の必要性を感じている施設も多い.本稿では病理検査室における試薬のリサイクルについて紹介する.

ソフトイオン化質量分析による異常ヘモグロビン症の同定

著者: 宮﨑彩子

ページ範囲:P.378 - P.381

質量分析計とは?

 質量分析計は,試料をイオン化して質量を測定する装置である.質量分析計を用いると,試料中にどのような質量を持つ物質が存在しているか(分子量の測定),それはどのような構造をしたものか(フラグメントによる構造解析),どのような割合で存在するか(イオン量による定量)を知ることができる.

  イオン化と分析計の種類

 質量分析計はイオン化部と分析部とから成っている.イオン化の方法とイオン化した物質の分離・検出の方法とは各々数種類あり,測定する試料に最適なイオン化法と分離装置との組み合わせを選んで使用する.

今月の表紙

腎臓超音波像(良性)

著者: 永江学

ページ範囲:P.305 - P.305

 図1は58歳女性の超音波像である.右腎像上極に内部無エコーで辺縁平滑な腫瘤像が認められる.本例は囊胞性腎疾患のうち最も頻度の高い単純性腎囊胞の超音波像である.この疾患では,囊胞は単発や多発であるが多発でも数えられる程度の数である.また,両腎に多発することもある.

 図2は36歳女性の超音波像である.写真は左腎臓の超音波像であるが,両側ともに同様の超音波像が得られている.中心部エコー像は不明瞭で,腎臓の構造は大小無数の囊胞病変に占められている.囊胞腎の超音波像である.囊胞腎は遺伝性疾患であり,幼児型(常染色体劣性遺伝)と成人型(常染色体優性遺伝)とに分けられる.両側腎に見られ,他臓器(肝臓,脾臓,膵臓,肺臓など)にも囊胞を合併することが多い.

検査センター悲話・秘話・疲話

■第10話■医の倫理と商いの倫理

著者: ラボ検査研究会

ページ範囲:P.316 - P.316

■第10話■ 医の倫理と商いの倫理

 検査センターは,正式には登録衛生検査所と呼ばれ,医療機関などが検体検査を外部委託する場所として認知されてきました.医療機関にとって,検査センターは検査を受けてくれたうえに正確で迅速な結果の報告をしてくれて,時には検査関連の診療に必要な情報を提供してくれる,よきパートナーである,という認識も広まってきているのは事実です.

 しかし,いまだに検査センターを侮蔑的に検査屋さんと呼び,検査を出してやる,さっさと結果を返せというような医療機関があるのも事実です.

ワンポイントアドバイス

脂肪塞栓とその検査法

著者: 油野友二

ページ範囲:P.358 - P.359

はじめに

 尿中脂肪滴を見てほしい.こんな依頼が飛び込んでくることがある.依頼元は尿検査とはあまり縁のない整形外科や救急部の場合が多く,時には先生が尿と一緒に飛び込んで来られることもあると聞く.では臨床の先生は尿中脂肪滴の有無からどのような情報を得ようとされているのか.脂肪塞栓症候群の鑑別のためと思われるが,検査部ではあまり知られていないこの点について考えてみたい.

検査じょうほう室 一般:一般検査のミステリー

尿中にマーロックス®を認めた例

著者: 野崎司 ,   伊藤機一

ページ範囲:P.362 - P.364

はじめに

 尿は腎臓で血液を濾過して生成され,尿管を通って膀胱に一時蓄えられ,さらに尿道を通って体外に排泄される.尿沈検査は,この腎・尿路系から出現する血球や上皮細胞などの有形成分を観察し,腎・尿路系疾患の診断や治療に役立てる検査である.尿沈成分は,健常人の場合,生理的な変動により限られた成分をごく少量認めるにすぎないが,疾病状態においてはその数が増えたり,通常見られない成分(癌細胞や異常結晶など)が見られたりする.

 本稿では出血性膀胱炎の治療中にマーロックス®を使用した症例について報告する.

病理:進歩する染色法

免疫組織化学の染色態度が乳癌の治療方針を決定する?― HER2蛋白とは

著者: 広井禎之 ,   大屋智裕

ページ範囲:P.365 - P.367

はじめに

 2001年6月,癌治療薬trastuzumab(商品名Herceptin)が保険収載された.本薬剤はいわゆる分子標的療法剤であり,あらかじめ標的が特定できている分子に直接作用して抗腫瘍効果を現すのが特徴である.そして乳癌におけるHerceptin投与対象例の選択には抗HER2蛋白抗体を用いた免疫染色が行われている.

 本稿ではこのHER2蛋白および抗HER抗体を用いた免疫組織化学について解説する.

微生物:ステップアップにいかす微生物の知識

微生物検査における安全対策

著者: 小林寅喆

ページ範囲:P.368 - P.370

はじめに

 “痛っ,指切っちゃったよ”“大丈夫?”“うん,大丈夫.そこのアル(コール)綿取ってくれる?”……よくある検査室の日常である.しかし,その後とんでもない事態へと急転する.

 その3日後.“あれ? Aさんは?”“何か,風邪引いて熱が出たらしく,今日は休むって.旅行帰りでそのまま出勤だから,疲れていたんだろうね.”そのお昼休み.“大変 大変 Aさんが風邪薬飲んで寝ていても熱が下がらなくて入院してしまったよ.”“Aさんの血液培養ボトル濁っているよ”入院する前,熱が下がらないAさんは,採血そして自分で血液培養を行っていた.血液培養ボトルから,Salmonella Typhiが分離され,入院先の病院に伝えたところ,病院において実施した血液培養からも同一菌種が分離され,チフスと診断された.

 当時パルスフィールドゲル電気泳動法(pulse field gel electrophoresis;PFGE)などの遺伝子学的手法が普及していなかったため,確定はできなかったが,Aさんの血液および指切傷の原因となった割れたTSIチューブからの当該菌の生化学的性状と薬剤感受性パターンとは完全に一致していた.

 冒頭から恐怖をあおるシーンであるが,実際にあった話である.

 感染症の検体を取り扱う微生物検査従事者は常に感染というリスクに曝されている.特に扱う臨床検体はまさに感染症を引き起こしている患者からの材料で,その中に含まれる病原体は実験などで用いる病原体に比べ,感染力(virulence)は比較にならないほど強い.また,それらを扱う検査員の健康状態(疲労)によっては,さらに危険な状況となる.いくら検査員個人が気を付けていても,偶発的な事故は起こってしまうものである.これらのリスクを科学的根拠に基づいたシステムとして最小限に抑えようとするのがbiohazard and safetyの概念である.

けんさ質問箱Q&A

酵素名(AST,ALT)の変遷

著者: 小川善資

ページ範囲:P.371 - P.372

Q 酵素名(AST,ALT)の変遷

GOTがASTに,GPTがALTに変わっています.どうして変わったのでしょうか,臨床的な意味があるのでしょうか.(千葉県茂原市 Y. K. 生)


A GOTと呼ばれていた酵素をASTと,GPTと呼ばれていた酵素をALTと呼ぶようにしただけです.このため,測定の臨床的意義に変わりはありません.どうして,同じ酵素なのに,呼びかたを変えるのでしょうか.この点について少し説明させていただきます.

老人病院での疥癬感染対策

著者: 安達桂子

ページ範囲:P.372 - P.374

Q 老人病院での疥癬感染対策

老人病院で疥癬が拡がり職員も感染しました.病室に心電図検査に出向くこともありますが,どのように感染を予防すればいいのか教えてください.(東京 N. I. 生)


A 疥癬の流行

 疥癬はヒトカイセン虫(ヒゼンダニ)が皮膚に寄生して起こる伝染性の皮膚病です.1950年頃には貧困による栄養状態や衛生状態の悪化,雑魚寝などで大流行することが知られていましたが,今回の流行は1975年に始まり,老人病院や老人ホームなどの老人施設を中心とした,老人とその介護者に発症がみられ,増化傾向にあるため問題となっています.疥癬の定着には以下の要因が挙げられます.

二級臨床病理技術士実技試験のポイント

微生物学

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.382 - P.383

 最近の厳しい医療の経済状況を反映して臨床検査を取り巻く状況にも厳しいものがある.特に臨床検査の外注化の嵐は病院検査室の存続に多大な影響を与えている.微生物学検査は病院内で患者条件を十分に考慮して行うべき検査であるにもかかわらず,主に経済性の問題から,他の領域の臨床検査と同様に安易に外注化される傾向にある.

 微生物学検査を担当する検査技師には長年にわたる技術的研戡と,感染症に関する幅広い知識とが要求される.最近の感染症は新しい病原体の登場や院内感染対策など,大きな変貌を遂げており,このような新しい課題に微生物学検査を対応させていくことは容易ではない.

学会印象記 第49回日本臨床検査医学会総会

大阪から発信されたエネルギー

著者: 宮西節子

ページ範囲:P.384 - P.384

 第49回日本臨床検査医学会総会は2002年11月22~24日,グランキューブ大阪(大阪国際会議場)で行われた.

 今回の学会はいつになく心待ちにしていた講演があった.ノーベル章を受賞された田中耕一氏が朝日新聞に掲載されたとき,コメントされたのが総会長の清水章大阪医科大学病態検査学教授であったことから,総会長講演を大変期待していた.その記事で清水先生はこの分野の第一人者であることを再認識した.

初めてのポスター発表

著者: 藤田勝嘉

ページ範囲:P.385 - P.385

 7月中旬,臨床検査メーリングリストで第49回日本臨床検査医学会総会の演題募集の案内がありました.私自身,この学会で発表してみたいという気持ちと,会場が大阪であるということもあり頑張って応募してみました.演題採択の通知が来たときは大変嬉しかったです.

 学会は,2002年11月22~24日の3日間,グランキューブ大阪(大阪国際会議場)で開催されました.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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