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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術31巻6号

2003年06月発行

雑誌目次

病気のはなし

女性不妊

著者: 佐藤孝道

ページ範囲:P.478 - P.485

新しい知見

 10年ほど前まで,「不妊症」は臨床検査技師にとっては最も縁遠い領域であった.しかし,生殖補助医療技術(Assisted Reproductive Technology;ART)の飛躍的発展が,生殖医療専門技術者を確立された職種(エンブリオロジスト)として創出した.エンブリオロジストは,特殊な技能と創造性,研究能力を必要とする胚を取り扱う専門職である.そして,多くの臨床検査技師がエンブリオロジストとして活躍するようになった.エンブリオロジストを目指す人たちにとっても,あるいは,不妊治療にかかわる検査を担当する人たちにとっても本論文がその夢を刺激する一助となれば幸いである.

技術講座 生理

末梢静脈の超音波検査

著者: 中村道明 ,   百田美保 ,   金子織江

ページ範囲:P.487 - P.493

新しい知見

 末梢(四肢)静脈疾患を対象とした超音波検査は,血管外科領域では広く臨床応用されている.その背景には簡便性,非侵襲性だけでなく最近の超音波診断装置の目覚しい画質向上が挙げられる.深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)の画像診断では,超音波検査が第一選択のスクリーニング検査になっている.DVTは肺動脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群など)のみならず,心房中隔の卵円孔開存による奇異性脳梗塞の原因としても注目されている.静脈弁不全では一次性静脈瘤の診断や治療法(結紮術併用硬化療法,選択的ストリッピング術)の選択に不可欠である.

免疫

抗ENA抗体の測定法

著者: 酒井寛

ページ範囲:P.495 - P.499

新しい知見

 抗ENA抗体は非ヒストン核蛋白質群に対する抗体で,種および臓器特異性を持たず,特異性の異なる種々の抗体群が知られており,特定の疾患あるいは臨床症状との間に関連性があり,病型分類や予後の推定などの点から診断の補助として利用されている.従来,二重免疫拡散法で測定されていたが,遺伝子工学の進歩により自己抗原の入手が可能となりELISA法(enzyme linked immunosorbe assay,酵素免疫吸着測定法)が普及している.自己抗体の産生機序は未だ不明な点が多いが,自己抗原に対するT細胞の反応するエピトープおよびV領域遺伝子の解析が将来の課題である.

オピニオン

こんな検査室があるといい―臨床からの要望

著者: 川上康

ページ範囲:P.486 - P.486

 ■環境の変化―検査室と生活習慣病

 高齢化や経済不況の影響で,検査室においても経営を考慮した医療が求められ何かと世知辛い今日この頃です.こうした検査室を取り巻く環境の変化と最近話題になっている生活習慣病には共通する点があると思います.

 生活習慣病について述べますと,日本人の食事内容が欧米でみられるような高カロリー,高脂肪食へと変化し,さらに運動量の低下が加わった結果,エネルギー収支は摂取過剰となり体内にエネルギーが蓄積するようになりました.体内へのエネルギー蓄積によって,欧米型生活習慣には適応しにくい遺伝的素因を持つ人々においては,糖代謝や脂質代謝の異常,さらに高血圧が生じます.生活習慣病になりやすい遺伝素因というと悪い遺伝子のようにも思いがちですが,飢餓が日常的であった時代や,もしも将来食糧不足が訪れた場合には,逆に生命維持にとって有利な遺伝子となります.こうした環境の変化の中で変わらず大切なことは,エネルギーを必要なだけ摂取し余分には摂らないことであり,遺伝子の問題は普遍的なものではありません.

絵で見る免疫学 基礎編 42

血液型抗原(5)―赤血球の凝集反応とその条件

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.500 - P.501

感作と凝集

 輸血する前に施行される適合試験には赤血球の凝集反応が用いられる.赤血球の表面で抗原抗体反応が起こることを感作といい,凝集とは結合した抗体が近接する赤血球上に存在する同じ抗原にも結合して抗原抗体結合物の集団を作ることである(図1).

 1. 赤血球の陽イオンバリア

 赤血球はその膜上に多く存在するシアル酸のカルボキシル基によって生理食塩液中ではマイナスに帯電している.生理食塩液中のNaClは解離してNaとClになっており,陽イオンは赤血球の陰イオンに引かれて,赤血球表面に集まり密度の高い陽イオンのバリアを形成している.この陽イオンのバリアをゼータ電位(ζ-potential)という.赤血球同士が近づくと陽イオンのバリア同士が反発し合い,一定の距離(35nm)以内に近づくことができない(図2).凝集を起こすイムノグロブリンクラスは,IgA,IgGとIgMである.IgGは分子量が小さく,2つのFabが最大に開いても25nmなので,バリアを突破することができないため凝集が起こりにくい.IgMの直径は約35nmなので陽イオンのバリアを突破でき,10~12個のFabを持つので近接する赤血球と結合して容易に凝集を起こす(図3).一度抗体が赤血球に結合すると,陽イオンのバリアが小さくなり,赤血球同士が近づき引き続き感作および凝集は促進する.

ラボクイズ

細胞診 5

著者: 仲徹

ページ範囲:P.502 - P.502

 問題1 症例:51歳,女性.子宮癌検診で卵巣腫瘍と筋腫を指摘された.主症状は下腹部重量感.CA-125 327 U/ml(正常35未満).図1,2の材料は卵巣の捺印細胞診,パパニコロウ染色(Papanicolaou stain,対物40倍)である.

 考えられるものは何か.

5月号の解答と解説

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.503 - P.503

【問題1】 解答:④空胞円柱

 本症例は,2型糖尿病と診断されたが予後が悪く糖尿病腎症に移行し,糖尿病性網膜症を併発している.一般的に糖尿病は,罹患期間が長期に及び種々の合併症を呈しやすいのでしっかりとした血糖コントロールが必要になる.進行性に推移しネフローゼ症候群を呈し腎不全に至る場合も多く,腎透析を受ける患者の1/3は糖尿病腎症によるものといわれている.

 【問題1】に見られる円柱は空胞円柱と呼ばれ円柱内に大小の空胞が認められる.重度の糖尿病腎症で多く見られる.シュテルンハイマー染色(Sternheimer stain,S染色)では,赤紫色や青紫色に染色される.また空胞円柱は,血清クレアチニン値の上昇で出現頻度は高くなる傾向にあり,本例でも血清クレアチニン値は2.08mg/dlと高値であった.

検査データを考える

免疫グロブリンの異常

著者: 井本真由美

ページ範囲:P.513 - P.518

 はじめに

 日常検査に携わっているなかで,不可解な症例に遭遇することが稀にある.今回,特に免疫グロブリン異常に関してわれわれが経験した症例の解析方法を示し,今後の臨床検査に生かしていただければ幸いである.

私の必要な検査/要らない検査

膵機能検査―臨床医の立場から

著者: 西野隆義 ,   小山祐康 ,   渡辺伸一郎

ページ範囲:P.519 - P.522

 はじめに

 膵臓の機能診断法には,外分泌機能検査法と内分泌機能検査法があり,外分泌機能検査は,有管法と無管法に分類される.有管法は膵液採取チューブあるいは十二指腸鏡を用いて膵液を十二指腸液あるいは純粋膵液として直接採取し,外分泌能を評価する.一方,無管法は血液,尿,糞便あるいは呼気を用いて膵外分泌能を間接的に評価するものである.

 本稿では,現時点において必要と考えられる検査について詳述し,併せて現時点において必要性が低い(施設によっては必要かもしれないが)検査についてふれる.

膵機能検査―検査医の立場から

著者: 三宅一德

ページ範囲:P.523 - P.526

 はじめに

 膵は多様な外分泌消化酵素や内分泌ホルモンを持ち,その測定は膵疾患の指標として期待され,多くの臨床検査が開発されてきた.別項で取り扱われている腫瘍マーカーや内分泌検査を除くと,現在日常検査として実施される膵疾患関連検査は10項目程度であるが,近年これにほぼ匹敵する数の新しい膵特異的検査の臨床的有用性が報告されている.

 文献的なものを含め,主要な膵疾患検査項目を表に示した.これらの検査項目は病態診断上の意義が類似する項目が多く,適切な医学的根拠に基づいて整理,選択する必要がある.特に,検査室の立場からみると,膵疾患スクリーニング検査には多くの問題点が指摘できる1,2).ここでは,非侵襲的なスクリーニング検査を中心として,測定技術上の問題を含め,検査室の立場から各検査の必要性について述べてみたい.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

体外受精コーディネーター

著者: 縄公美

ページ範囲:P.532 - P.533

 はじめに

 不妊治療を受ける,または受けようと思っている方々は多かれ少なかれ疑問や不安を抱えています.その疑問や不安は治療のことだけではなく自分自身のこと(夫,両親,親戚,仕事,ご近所,社会,自分の未来像など)であることが多いように思います.ほかの疾患でもそうであるが,不妊治療も“ゴールの見えないマラソンである”とよく喩えられます.ゴールが見えないということはそれだけ不安な要素が多いということ.また治療を続けるうちに患者さんは幾度となく岐路に立たされることがあります.そういう不安に押し潰されそうになったときや判断に迷ったときに相談できる存在の1つが不妊カウンセラー(体外受精コーディネーター)なのです.私はエンブリオロジストですからラボにいることが多く,看護師に比べ患者さん本人と接することは少ないのですが,直接あるいは電話で精子の状態や卵子の発育を伝える際に事務的な対応ではなく心の通った対応をしていきたいと考えカウンセラーの資格を取得しました.

復習のページ

医療人-患者関係ことはじめ

著者: 中尾克枝 ,   小谷和彦 ,   安木義博

ページ範囲:P.534 - P.535

[患者さんとともに]

 「緊張しないでリラックスしていてください」,「息を止めてください」,「思いっきり息を吐いてください」,「どうですか,苦しくないですか」などと患者さんに問いかけながら生理機能検査は日々進みます.時には,そんな検査用のお約束言葉のやりとりばかりではなく,思わず会話が弾むことだってあります.その内容は,病棟でのできごとや医療に関わらない社会的話題,そして家族の話であったりします.検査を反復する患者さんとは顔見知りになり,病状も気になってくるものです.患者さんとの協同なくして検査結果がうまく得られないことだってあります.このように,生理機能検査では患者さんと接する機会が多く,患者さんとともに泣いて笑ってという場面もある世界です.

 学生時代に実習した生理検査の現場がそれゆえに楽しそうで,生理検査部門への就業を志願した人もいるかもしれません.生理検査部門での活躍を夢見て,学生時代から患者さんと会話するシミュレーションを余念なくやってきた若人もいることでしょう.そうはいいながらも,就職して初めて生理検査を実施してみて,患者さんに接すること自体が,正直,“怖い”と感じたような経験はありませんか? ポータブル心電図をとり終えて,病室を出るとき,付き添いの家人に「どうかお大事に」といった矢先に当の患者さんが亡くなられたと聴き,かけた一言が無意味に思えてくるような体験もそのうち出てくるに違いありません.初学時には,思わず,生理検査の現場で繰りひろげられる人間的なドラマに臆してしまうといったことになりがちです.

Laboratory Practice 血液:骨髄塗抹標本の見かた

FAB分類 [4]M0,M1

著者: 野木岐実子 ,   島津千里

ページ範囲:P.506 - P.508

 急性白血病の分類は広くFAB分類が用いられている.この分類は1976年に提唱され,その後改定追加がなされたもので,細胞形態とミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxydase;MPO)染色などの細胞化学所見を基本としている.

 芽球のMPO陽性率3%以上をAML,3%未満をALLと診断する.さらにAMLのM0,M5a,M6,M7ではMPO陽性率が3%未満であるため,MPO以外の補助診断が必要となる.

病理:細胞像からここまでわかる

乳腺(7) 乳管内乳頭腫

著者: 都竹正文 ,   秋山太

ページ範囲:P.509 - P.512

 概念および臨床的事項

 乳管内乳頭腫(intraductal papilloma;IDP)は乳腺発生の代表的な良性腫瘍である.この腫瘍は拡張した乳管壁から血管結合組織より成る茎が突出して樹枝状に伸び,その表面が筋上皮細胞と上皮細胞との2層構造でおおわれた乳管内の増殖性病変である.乳頭に近い大きい乳管に見られる病変はしばしば嚢胞状に拡張するので嚢胞内乳頭腫(intracystic papilloma;ICP)と呼ばれる.したがって,嚢胞内乳頭腫は基本的には乳管内乳頭腫の変化したものである.通常,単発性で血性分泌物や腫瘤触知を主訴とする.肉眼的に観察されるような大きさの乳管内乳頭腫は孤立性乳頭腫とも呼ばれている.一方,末梢の小葉間乳管に至るまでの小乳管にしばしばみられる末梢乳管の乳頭腫は,小さく顕微鏡的に観察され,多発性乳頭腫(multiple papilloma)としてみられることが多い.このように末梢部にみられる乳頭腫は癌に合併してみられたり,上皮過形成(epithelial hyperplasia)を伴うことが多く,通常は乳腺症あるいは線維嚢胞症として腫瘤を形成する病変群の1つの所見として観察されることが多い.しかし,これらの病変のうちで,血管結合織性の茎を持たない乳管上皮の過形成は乳管乳頭腫症(duct papillomatosis)と呼ばれ乳管内乳頭腫と混同されやすいが,両者は明確に区別するべきである.

 大きな乳管,特に乳頭直下の乳管内乳頭腫は2~3mmから2~3cmの大きさになるが,腫瘍の大小にかかわらず,乳頭血性分泌物を主訴とする.大きな乳管内乳頭腫や嚢胞内乳頭腫は乳腺内腫瘤として触知されることも多いが超音波検査で発見されることもある.治療としては,これらの大きな孤立性乳頭腫は腫瘤切除が行われる.発生年齢は40~50歳の中年にみられるが,高齢者の場合,上皮過形成や癌を合併することが多いといわれている.特に,末梢乳管に発生する多発性乳管内乳頭腫は癌発生のリスク病変としての報告がみられ,これらは異型を伴う上皮過形成と合併することが多いことから前癌性病変としてとらえ,注意深く経過観察する必要がある.一般に乳管内乳頭腫と癌の関係については,大きな乳管で孤立性のものより,末梢乳管で多発するもののほうが癌化の危険性が高いと考えられている.

トピックス

尿中ソルビトール測定の意義

著者: 藤田孝

ページ範囲:P.537 - P.538

 はじめに

 糖尿病では,血糖コントロールが悪いと糖尿病性神経障害をはじめとする各種の合併症が誘発されてくることはよく知られている.この合併症誘発の原因の1つとして「浸透圧仮説」が唱えられ,糖代謝異常時にポリオール代謝が果たす役割が重要であると注目されてきた.この仮説は,持続的な高血糖によりアルドース還元酵素(aldose reductase;AR)の活性が上昇し,グルコースからのソルビトール産生が亢進されて細胞内にソルビトールが蓄積する結果,合併症が誘発されるというものであると報告されている1).そのため現在では,手・足の知覚異常に対する改善薬としてAR阻害剤が開発され,糖尿病性神経障害の進展阻止に対して一定の成果を挙げている.

 従来よりわれわれはポリオール代謝に注目し,血中ソルビトール濃度の測定法を開発2)し,その有用性について報告する3)とともに,尿中ソルビトール測定の有用性についても検討を行ってきた.

輸血検査の標準化

著者: 川島博信

ページ範囲:P.538 - P.540

 はじめに

 安全な輸血を行うためには,まず検査技師が24時間体制で,輸血検査を正確に,また確実に実施することが不可欠である.近年検査技師による24時間検査体制が急速に整いつつあるが,まだ多くの施設で,特に夜間に他の医療従事者(ほとんどが医師と思われる)が検査を行っているのが実態であろう.一方,検査技師であれば,安全かと問われると,夜間はほとんどの施設で輸血検査の経験の乏しい技師が,対応せざるをえない状況である.したがって,輸血医療事故,特に重篤な結果をもたらすABO型不適合輸血を防止するために,早急な輸血検査の標準化が望まれる.

 2002年度の第31回福岡県医師会精度管理調査と同年の九州臨床検査精度管理研究会の成績を中心として,輸血検査の現状と標準化の必要性について解説する.

男性の更年期

著者: 伊藤直樹 ,   塚本泰司

ページ範囲:P.540 - P.542

 ■男性に更年期はあるのか?

 男性では女性と違い加齢に伴う性ホルモンの低下は個人差はあるものの急激なものではなく,「更年期」とは無縁とされてきた.しかし,高齢化社会が急速に進行するに伴い,高齢者のquality of life(QOL)の向上に目が向けられ,男性ホルモン低下に起因する諸症状の存在がクローズアップされてきた.テストステロン(testosterone)低下で示される生化学的異常と,それに基づく症状・所見から成る症候群に対して,欧米では男性更年期ではなく,androgen decline in the aging male(ADAM)あるいはpartial androgen deficiency of aging male(PADAM)という診断名が用いられている.

 ■テストステロンの生理作用と加齢に伴う変化

 テストステロンは脳,筋,骨,精巣,前立腺,陰茎,心血管系などに作用する.血中テストステロンの約65%は性ホルモン結合グロブリン(sex hormone-binding globulin;SHBG)に結合しており,約35%がアルブミンと結合,1~2%が遊離テストステロンの状態となっている.SHBGに結合していないものが生物学的活性を有するbioavailable testosteroneである.

ワンポイントアドバイス

大規模病院でのPoint-of-Care Testing運用

著者: 坂本秀生

ページ範囲:P.504 - P.505

 はじめに

 検体を採取したその場で検査結果が得られる即時性からPoint-of-Care Testing(POCT)を組織的に運用している施設をアメリカでは多く見受ける.マサチューセッツ州・ボストン市のマサチューセッツ総合病院(Massachusettsu Generalu Hospital;MGH)でもPOCT機器を積極的に導入しており,POCTを効果的に行う具体例として紹介する.

今月の表紙

腹部超音波像(悪性腎臓・副腎腫瘍)

著者: 永江学

ページ範囲:P.512 - P.512

 【解説】 図1,2は41歳男性の超音波像である.肉眼的血尿が一時認められ,その後また認められるようになり本院受診となった.右腎臓下極に内部エコー不均一で被膜外に突出するような腫瘤像が認められる.また,図2では腎静脈内に浸潤している腫瘍像が認められる.本例は充実性腫瘤性腎疾患のうちで頻度の高い腎細胞癌の超音波像である.本疾患では,有用な腫瘍マーカーが確立していないので,超音波検査は最も簡便な検査法である.超音波像の特徴は,腫瘍は腎実質に比べて高・低エコーの混合像として見られ,腎被膜外に突出するように発育することが多い.また,嚢胞壁や多房性腎嚢胞に合併することがあるので,壁内の血流を観察することも大切である.

 図3は72歳男性の超音波像である.糖尿病で内科受診中,貧血が認められ上腹部超音波検査を施行したときに認められた右腎臓の超音波像である.中心部エコーの解離が認められ,内部に腎実質と等エコーの充実性腫瘍像が認められる.腎盂癌の超音波像である.本疾患の超音波像の特徴は,中心部エコーの解離を認め,その内部に腎実質エコーと同等または低エコーの腫瘤像が認められ,周囲との境界は比較的明瞭なことが多い.鑑別すべき疾患として,凝血塊,腎癌,ベルタン柱(Bertin's column)が挙げられる.

けんさ質問箱Q&A

剖検室の換気法

著者: 川又亨

ページ範囲:P.527 - P.530

Q剖検室の換気法

剖検室は換気の難しい場所に位置することが多いですが,その換気はどのようにすればよいでしょうか.剖検者の安全対策も含め,特に注意しなければならないことなどを教えてください.

(岐阜市 A.O.生)

A

 はじめに

 生検,剖検時における感染は,不明病原体に曝されることになるため,通常の微生物取り扱い時に予想される実験ミスに起因する感染とは,基本的に大きく異なる.よって,最大限の感染防止対策が必要となる.感染防止は,メスや注射針による損傷防止,着衣・手袋などのガウンテクニック,作業後の滅菌・清掃などによりなされなければならない.また,作業によっては多量のエアロゾルの発生があるため,室内の換気も感染防止には重要な要素である.

輸血,妊娠と赤血球抗体

著者: 大戸斉 ,   前原光江

ページ範囲:P.530 - P.531

Q輸血,妊娠と赤血球抗体

赤血球不規則抗体の免疫抗体で妊娠では産生されにくく,輸血で産生されることの多い抗体があるでしょうか.また,この2つの産生機序はどのように違うのでしょうか,教えてください.

(新潟県羽茂町 E.K.生)

A

 はじめに

 輸血や妊娠によって自己には存在しない同種抗原を免疫的に認識して反応することを,同種免疫といいます.同種免疫反応にも細胞性免疫と液性免疫との両者が関与しますが,赤血球抗原には,後者のほうがよく解明され,主に関与しています.分解された赤血球抗原は樹状細胞などの抗原提示細胞に提示され,ヘルパー Tリンパ球の補助を受け,Bリンパ球が活性化され,形質細胞に分化し,体液中に免疫グロブリンを産生します.これが免疫抗体です.抗体産生に影響を及ぼす要素には,侵入する抗原の種類・量,侵入経路,宿主の個体差などがあります.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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