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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術32巻12号

2004年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

循環器領域における動脈硬化症

著者: 重松裕二

ページ範囲:P.1336 - P.1340

新しい知見

 1992年,Fusterらは不安定狭心症,急性心筋梗塞,心臓突然死の多くが病理組織学的に不安定プラークの破裂1,2)あるいはびらんとそれに引き続いて起こる冠状動脈血栓症により発症すると考え,一括して急性冠症候群(acute coronary syndrome,ACS)としてまとめた.プラークの不安定性は粥腫の大きさと成分,線維性被膜の厚さ,粥腫の炎症細胞の浸潤,および被膜の平滑筋細胞数の減少の四つの主要因子によって規定される3)

技術講座 免疫

Lewis式血液型とその抗体

著者: 髙橋順子

ページ範囲:P.1343 - P.1348

新しい知見

 赤血球の表面には多くの血液型抗原が存在する.まだ解明されない血液型抗原も存在するが,2002年の国際輸血学会において,29の血液型抗原システムおよび239抗原が遺伝子解明され認定された.

 糖鎖抗原の合成に関与するフコース転移酵素の遺伝子が次々とクローニングされ,Lewis式血液型の遺伝子背景が解明された.それにより,日本人特有のLewis式抗原が遺伝子変異によることが判明した.本稿では,その現状および検査にかかわる留意点を紹介する.

一般

―初心者のための尿沈渣検査のコツ 第9回―精度管理法

著者: 石山雅大

ページ範囲:P.1349 - P.1353

新しい知見

 尿検査に関しての精度管理は他分野に比べ少し後れをとっている感がある.定量検査である尿蛋白や尿糖であれば生化学検査と同様に実施されていると思われるが,定性検査である試験紙法や今回紹介する尿沈渣検査の精度管理を実施している施設は少ないかもしれない.これは,これまでの今井の報告1)にもあるように尿沈渣検査の統一された精度管理方法が確立されていないことや,市販されたコントロール尿(試料)が数少なく高価であったこと,そして担当する技師の意識がまだまだ低いことが挙げられる.

 本稿では尿沈渣検査の精度管理の問題点を挙げ,それに対しどのような目的で精度管理を実施すればよいかを提案する.さらに精度管理用尿沈渣コントロール試料の作製方法,鏡検による管理方法について紹介する.題に表しているようになるべく簡便な方法で尿沈渣検査の精度管理が実施できる参考となれば幸いである.

病理

通常のパラフィン切片からのRNA抽出およびRT-PCRによる遺伝子発現解析

著者: 稲葉不知之 ,   品川泰弘 ,   山崎龍王 ,   橘昌嗣 ,   川又均 ,   藤盛孝博 ,   深澤一雄 ,   稲葉憲之

ページ範囲:P.1355 - P.1362

新しい知見

 分子生物学の発展は目覚ましく,遺伝子解析は必要な手技の一つとなりつつある.またNCBI(PubMed http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)といったインターネットサイトによって遺伝子群,塩基配列などの情報が容易に手に入る環境が構築されつつある.最近ではポストゲノムと称し,蛋白質にも注目が集まっている.このような環境の中でRNA抽出が一般的に行われ,目標とする遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)により増幅し,遺伝子解析のツールの一つとなりつつあるのは自然の流れといえる.

検査データを考える

ダニアレルゲンと気管支喘息・アトピー性皮膚炎

著者: 小倉由紀子 ,   小倉英郎

ページ範囲:P.1385 - P.1389

 はじめに

 室内アレルゲンとして,猫,犬,小鳥,ハムスターなどの室内ペット,羊毛,羽毛などの寝具,衣類も重要ではあるが,それらはその家庭に存在していなければ,アレルゲンになる可能性は低い.家塵ダニは,そこに住む人間の認識の有無にかかわらず,一般家庭内において,普遍的,かつ多量に繁殖し,気管支喘息やアトピー性皮膚炎患者の室内アレルゲンとして,最も注目されている.

 自然界には何億種ものダニが存在するが,アレルゲンとなるのは,人や動物を刺すダニではない.わが国では,ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus,Dpと略)とコナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae,Dfと略)の二種が,人間の生活する建物内のじゅうたん,畳,寝具などの中でひそやかに繁殖し,吸入抗原・接触抗原となる糞や死骸の破片をまき散らし,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の原因あるいは悪化要因となっている.本稿では,これらの家塵ダニの生態およびアレルギー疾患への関与の実態とダニアレルギーの検査について解説する.

オピニオン 病理部門の臨床検査技師の今後を考える 第6回(最終回)

病理医と病理担当の検査技師との関係

著者: 所嘉朗

ページ範囲:P.1341 - P.1341

 病理医と病理担当の検査技師(以下,病理担当技師)の関係について,中規模の県立病院に勤務する病理,細胞診担当技師の立場から,その現状と問題点,およびこれからの技師像について過去に行ったアンケートの集計結果と筆者自身の経験を踏まえて考えてみた.

 1997年5月,名古屋市で開催された第46回日本臨床衛生検査学会において病理検査研究班はパネルディスカッション「これからの病理検査の展望」を企画した.その資料作成の目的で会員の勤務施設に協力を依頼し,115項目と広汎にわたるアンケート調査1)を実施した.840部のアンケートを配布して644施設から回答があった(回収率76.7%).集計結果から,大学病院や病理部として独立している施設での人員,設備,システム,業務内容などの状況に比し,常勤病理医が1人または非常勤で対応している中小の施設(475施設,73.8%)では担当技師も1~2名程度のところが多く労働環境は決してよいとはいえず,また,機械の整備やシステム化が遅れ,先端技術の導入も少ないなど設備やシステムは対照的であった.これらの中小の施設では,病理医が不在時の迅速検査,解剖や切り出しなどへの病理担当技師の対応が常に問題点となっていて,病理検査業務の内容や範囲の曖昧さが浮き彫りになった.業務内容には,標本作製に関することはもちろん最新技術の習得,臨床医や病理医との情報伝達や診断の助言など,基礎的な技術から診断業務に関することまで幅広く取り上げられていた.これに対して病理担当技師からの要望,将来像として,遺伝子診断など先端技術の習得,病理診断への関与(診断補助,標本スクリーニングなど表現はまちまち)など,幅広い業務関与のできるヒストテクノロジスト(当時の名称,仮称)への期待が出ていた.ただし,この時はヒストテクノロジストの認定制度の要望はあったものの業務範囲や責任などの具体化した資料に乏しく,また,深く論議はされなかった.

絵で見る免疫学 基礎編(59)

宿主とウイルスの攻防(5) インフルエンザウイルス その1

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.1366 - P.1367

 毎年冬になるとかぜが流行する.以前はたかがかぜといわれていたが最近は事情が違う.インフルエンザとたかがといわれるかぜとは症状は似ているものの,原因が異なるからである.普通のかぜはライノウイルス(rhinovirus),コロナウイルス(coronavirus),アデノウイルス(adenovirus)などが気道に局所的に感染するのでその病状も軽い.一方,オルトミクスウイルス科に属するインフルエンザウイルス(influenza virus)の凶悪なものは気道のみならず脳を含む全身に感染し肺炎などの合併症を起こしやすい.

 インフルエンザウイルスには,A型,B型,C型の3種類があり毎年のように流行するのはA型とB型である.しかし,B型ウイルスは大流行を発生しない.A型ウイルスに比べウイルスの変異が少なく,また,ヒト以外の感染が確認されていないこともその一因である.C型ウイルスはその変異もB型ウイルスに比べさらに少なく感染はあまりみられない.毎年のように流行して社会的な問題を巻き起こしているのがA型ウイルスである.その理由は,ウイルスの変異が激しく,さらに多くの動物がウイルスに感染しこれを媒介するからである.

けんさアラカルト

AGE その2 免疫学的測定法

著者: 川野克己

ページ範囲:P.1408 - P.1410

 はじめに

 前稿(2004年10月号,1312~1314ページ),でも述べたように,現在,血中にAGE(advanced glycation end products,糖化反応最終産物)化蛋白質が存在することは,広く受け入れられている.1990年代前半においては,血中にAGE化蛋白質が存在するか否かについての議論が,日本メイラード反応研究会や日本糖尿病学会などでされていた.

 当時,免疫組織染色法により,糖尿病性腎症患者の糸球体などの組織にAGEが存在することは既に知られていた.しかしAGEの生成には,長い期間を要すると考えられていたため,生体内では,組織基底膜などの代謝の遅い部位にしか存在せず,血漿蛋白質のように代謝の早い蛋白質はAGE化されるまでに至らない,との見解があった.また,AGE化蛋白質は,マクロファージ,血管内皮およびクッパー細胞(Kupffer cell)などに速やかに取り込まれ分解されることが,in vitroの培養系,あるいはラットを用いた実験1)からわかっており,その点もAGE化蛋白質が血中に存在しないとする否定的な見解につながった.

 われわれは当初より,臨床検査としての立場からAGEに注目し取り組んだこともあり,いち早く血中AGEの免疫学的測定法を開発するに至った.本稿では,ELISA測定法開発までの経緯を中心に述べる.

今月の表紙

百聞は一見に如かず・11 奇形腫(teratoma)の不思議

著者: 松谷章司

ページ範囲:P.1363 - P.1363

 卵巣の術中迅速診断や手術標本で腫瘍の良性あるいは悪性を判定していると,この奇形腫であった場合,多少ホッとします(手術をせざるを得なかった患者さんは気の毒ではありますが……).なぜなら,卵巣を温存した根治切除がなされることが多く,追加治療の必要がないからです.

 ここで,奇形腫についてちょっと解説しましょう.

Laboratory Practice 生化学 これからの臨床協力業務事例集

栄養サポートチーム(NST) その3 栄養アセスメント蛋白質測定の退院判断基準の設定のしかたの例

著者: 望月照次 ,   田口和三

ページ範囲:P.1368 - P.1369

 国民医療費の抑制策により医療機関における医療収入が年々低下し,収入減に対する医療経費の削減は重要な課題となる.特に入院日数の延長は医薬品,医療材料,看護師など人件費,消耗品などの経費が増加し病院経営に多大な影響を与える.そこで,医療経費削減策の一つに入院日数の短縮がある.入院患者の早期退院を図るには退院後の患者が日常生活に支障をきたさない良好な栄養状態を客観的判断できる科学的根拠,すなわちEBM(evidence-based medicine)に基づく退院の判断基準が必要である.血漿中の栄養アセスメント蛋白質濃度の測定は退院の判断基準の一つとして期待できる.栄養アセスメント蛋白質の種類と特徴1)を表に示した.


栄養アセスメント蛋白質測定の意義

 栄養アセスメント蛋白質測定の意義は,(1)患者の栄養状態の客観的把握,(2)栄養状態改善の判断と治療指針の確立,(3)EBMに基づく退院の判断基準,(4)早期退院の促進(平均在院日数の短縮),(5)医療経費の削減(病院・患者の経済的負担の軽減)などが挙げられる.患者の栄養状態の客観的把握と治療指針の確立には栄養アセスメント蛋白質の測定は有用である.

生理 超音波像の読みかた

陰嚢内臓器

著者: 澤村良勝

ページ範囲:P.1370 - P.1377

陰嚢内病変の画像診断法

 陰嚢内病変の画像診断法としては,超音波検査,RIシンチスキャン法,血管造影法,X線CTスキャン法,MRIなどが採用されてきた.

 RIシンチスキャン法は,一時期,精索静脈瘤や精巣回転症の診断に用いられてきたが,精索静脈瘤はその対象が男性不妊症患者であることや精巣回転症では好発年齢が思春期以前の若年層であることから,造精臓器への影響の懸念より,超音波検査法が確立された現在ではほとんど用いられることはない.血管造影法やCTスキャン法もX線被曝の問題から陰嚢内病変それ自体への診断に用いられることはごく稀である.MRIは被曝の心配もなく明瞭な陰嚢内の画像を得られることから優れた診断法ではあるが,スクリーニング検査法としての地位は低く,精巣腫瘍などの特殊な疾患にのみ応用されているのが現状である.

トピックス

肺動脈血栓塞栓症と突然死

著者: 一杉正仁

ページ範囲:P.1415 - P.1417

 ■突然死とは

 突然死とは,一般に疾患の発症から24時間以内の予期せぬ死亡と定義される.予期しない死亡とは,既往症があり,なんらかの治療を継続している人が死亡する場合と,健康であると確信している人が死亡する場合を含む.病院到着時に心肺停止状態であった突然死388例を検討した東京都監察医務院の報告によると,その死因として心・血管系疾患が72.6%を占め,肺動脈血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism,以下,PTEと略)は0.6%であった1)

 突然死例に対する死因の究明には,剖検による正確な診断が不可欠である.しかし,わが国では,制度的な問題から,突然死例に対する剖検が行われているのは一部の地域にすぎない.すなわち,実際はPTEによる突然死であっても,非剖検例では心疾患による突然死と診断されている例が少なからず存在している.

血管再生治療

著者: 川本篤彦

ページ範囲:P.1417 - P.1419

 ■血管新生と血管発生

 成体における生理的な現象(性周期に伴う子宮内膜増殖など)および病理的な現象(創傷治癒,腫瘍発育,増殖性網膜症など)に血管形成が重要であることは,従来からよく知られており,成体での血管形成のメカニズムは,血管新生(angiogenesis)という概念で説明されてきた.すなわち,既存の成熟(分化)した血管内皮細胞が増殖・遊走することで新たな血管が形成されるという概念である.これに対して,胎児の発生過程においては,未分化な血管の幹細胞・前駆細胞が存在し,これらの細胞が未分化なまま局所に辿り着き,増殖・分化することで新たな血管を形成することが知られていた.この胎生期における血管形成のメカニズムは,血管発生(vasculogenesis)と呼ばれ,成体ではこのメカニズムが失われていると考えられていた.

 ところが,1997年に浅原ら1)が成人の末梢血中にも血管の幹細胞ともいうべき血管内皮前駆細胞が存在することを発見し,従来の概念は覆された.すなわち,成体においてもvasculogenesisのメカニズムは残っており,従来からの概念であるangiogenesisのメカニズムと協同して新しい血管が形成されていることが明らかになった.

ビオチン結合IgG

著者: 福井徹

ページ範囲:P.1419 - P.1421

 ■ビタミンとしてのビオチン

 ビオチンは水溶性ビタミンの一種で,ヒトにおいては4種類のカルボキシラーゼの補酵素として,糖新生,TCAサイクル(tricarboxylic acid cycle,トリカルボン酸回路)の中間体の供給,脂肪酸の炭素鎖伸長,ロイシン分解に重要な役割を果たしている.

 ビオチンは通常食物から摂取される.ビオチンは食品中ではほとんどが蛋白質と結合しており,腸内での蛋白分解を経て遊離した形で吸収される.しかし,生卵白が存在すると卵白中のアビジンにビオチンが結合し,腸からの吸収が妨げられる.これは「卵白障害(egg-white injury)」として知られており,食品中の物質により欠乏症を招くという点で他のビタミンにはない特徴がある.

失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

固定時に生ずるアーティファクト 長期固定による染色性の変化

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.1390 - P.1393

 図1は腎臓のヘマトキシリン-エオジン染色(hematoxylin-eosin stain,以下HE染色)で,糸球体と尿細管上皮とを示している.核の染色性は消失し,細胞内の微細構造が完全に潰れて全体に厚く均一に染まって見え,自家融解によるものとは明らかに異なる組織の荒れも目立っている.本来なら尿細管上皮は多数の変成したミトコンドリアが顆粒状に存在するため細顆粒状の形態をとっていなければならない.

 図2は腎臓のマッソントリクローム染色(Masson-trichrome stain)だが,色調が極端に青に傾いたカラーバランスの取れていない標本である.いずれも著明なアーティファクトを示す像である.

染色の際に生じるアーティファクト 染色液濾過不良によって沈着する色素の結晶/脱パラフィン不足による染色ムラ/封入時における気泡の混入

著者: 末吉徳芳

ページ範囲:P.1394 - P.1398

 こんな標本ができてしまったことはないだろうか.

 (1)まるで汚しているとしかいいようのない,特殊染色標本の上に群がる赤い色素結晶(図1).

 (2)ズダン染色で色素の結晶が沈着している見苦しい標本(図2).

 (3)小腸粘膜絨毛が直線状に不染の状態であるが,面出し不足か,それとも……(図3).

 (4)暗いしみが付いてしまった標本(図4).

検査じょうほう室 生理:見落としがちな大切なこと

腹部超音波検査による胃潰瘍像の描出とその工夫

著者: 越後宗郎 ,   小谷和彦

ページ範囲:P.1378 - P.1381

 はじめに

 「上腹部痛」を愁訴とする受診者に対しては腹部超音波検査(abdominal ultrasonic test以下,USと略)で肝・胆・膵などを広くスクリーニングし,それらの臓器に異常のない場合には胃十二指腸内視鏡検査(gastrointenstinal fiberscopy,以下GIFと略)を行うといった手順で検査が進められることが多い.この場合,GIFは,胃潰瘍などの検索を主たる目的としている.GIF前のスクリーニングUSでは,胃や十二指腸の病態への言及は必ずしも期待されていないことが通例である.しかし,この検査の流れに少しばかり「ちょっと待った」と言いたい.

 実は,US実施時におけるちょっとした工夫で,胃や十二指腸の拡張,浮腫,壁の伸展性を評価でき,潰瘍像をも明瞭に指摘できるのだ.これはとりもなおさず,引き続き行われるGIF施行医に際して,胃十二指腸潰瘍の存在や重症度などを事前の情報として伝達できるということを意味する.GIF施行医は,これを参考にして入念に検査することができ,大変有益な情報になるだろう.また,GIFは苦痛を伴う検査である.仮にGIFをしたくないと受診者からいわれたときに,上腹部痛の診断に際して,「胃や十二指腸のことは検査しないと全くわからない」と説明するのと,「USで見た限り何かの所見が疑われる」というのとでは,その後の検査の流れも変わってくると思われる.さらに,胃周囲への炎症の波及などはGIFではわからない.この病状についてはUSによる診断能のほうが優れている.当然,以後の治療の決定にも影響してくる.

 今日ではUSで,消化管病変は検出できるようになりつつある1,2).本稿では,特に胃潰瘍を取り上げ,その描出の経験や臨床的貢献の様子を示しつつ,説得力のある病像の検出のための工夫について述べたい.

微生物 ステップアップに生かす微生物の知識

微生物染色法の基礎知識 その2 各種グラム染色法の特徴

著者: 小栗豊子

ページ範囲:P.1382 - P.1384

 (前項の続き)

 微生物染色法の基礎知識「その1」では色素の一般的な性質,グラム染色(Gram stain)の原理,グラム染色法の種類について解説した.

 本稿では各種グラム染色法の特徴について解説する.


グラム陽性菌の染色,増強剤と媒染剤

 ハッカーの変法(modified Hucker Gram stain),石炭酸フクシン法,コペロフ(Kopeloff)の方法はいずれもクリスタル紫を用いる方法である.ハッカーの変法,石炭酸フクシン法はクリスタル紫液に増強剤としてシュウ酸アンモニウムを添加するが,コペロフの方法ではシュウ酸アンモニウムは添加せず,その代わりに5%炭酸水素ナトリウムの水溶液を用いる.これらの三つの方法はいずれも媒染剤としてヨウ素が使用されている.

ラボクイズ

フローサイトメトリー[1]

著者: 東克巳

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 症 例:34歳,男性.

 1週間前から微熱があり,近医で抗生剤の投薬を受けた.しかし,咽頭痛が出現したため,当院耳鼻科受診.その後精査加療目的にて当日入院となった.入院時は,血圧138/82,脈拍76/分,体温38.4°C,呼吸数37/分,意識清明.口蓋扁桃は発赤腫脹し,咽頭の狭窄が見られる.リンパ節は両頸部,両鼠径部に3~4個ずつ拇指頭大に腫脹し,弾性軟,移動性は保たれている.しかし,腋窩,肝脾も触れない.

 ただちに緊急検査が行われ,末梢血血算では,白血球数13,800/μl,赤血球数520万/μl,ヘモグロビン15.9g/dl,血小板数20.6万/μlであった.血液像検査では正常リンパ球が4%,種々の異型リンパ球が48%見られた.血液化学検査では,AST256IU/l,ALT346IU/l,LDH2,186IU/l,γ-GPT833IU/l,CRP 1.5mg/dlで,異型リンパ球の出現をみたため,リンパ球領域の細胞表面マーカーを検査した結果,図に示すような結果であった.

10月号の解答と解説

著者: 深津俊明

ページ範囲:P.1365 - P.1365

【問題1】 解答:(5),【問題2】 解答:(5)

解説:プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)は被検血漿にCa2+と組織トロンボプラスチンを加えてフィブリンが形成されるまでの時間を測定する外因系凝固因子活性のスクリーニング検査で,フィブリノゲン(Ⅰ),プロトロンビン(Ⅱ),Ⅴ,Ⅶ,Ⅹ因子の凝固活性の影響を受ける.PTの値は試薬間,ロット間,機種間に差があるため施設間のデータは比較できない.そこで,PT試薬の一次国際標準品を定め,各種の試薬のロットごとにその標準品に対する力価の係数(international sensitivity index,ISI)を設定し,その値で被検血漿の対照との比(prothrombin ratio,PR)を補正する方法がPT-INR(international normalized ratio)である(INR=PRISI).一方,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,APTT)は被検血漿にCa2+とリン脂質,さらにカオリンなどの接触因子活性化剤を添加し,フィブリンが形成されるまでの時間を測定する内因系凝固因子活性(Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹ,ⅩⅠ,ⅩⅡ)のスクリーニング検査である.

 APTTとPTとの著明な延長がみられた場合,(1)点滴ラインからの採血や部分的に凝固したサンプルなどの血液採取時の問題(分析前誤差),(2)播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)や肝硬変,劇症肝炎などの高度肝傷害,(3)循環抗凝血素などの凝固インヒビターの存在,(4)ヘパリンやワルファリンなど抗凝固剤の投与(ワルファリンは主にPT延長を,ヘパリンは主にAPTT延長をきたす),(5)ビタミンK欠乏,(6)APTT,PTに共通するⅩ,Ⅴ因子,プロトロンビン(Ⅱ),フィブリノゲン(Ⅰ)の先天性凝固因子欠損症,などが考えられる.

形態検査結果デジタル処理の臨床応用・4

内視鏡検査業務のシステム化

著者: 橋本庄太 ,   國井重男 ,   和田大介

ページ範囲:P.1399 - P.1407

 はじめに

 内視鏡検査業務におけるシステム化は電子内視鏡の登場以降,画像ファイリングを中心に飛躍的に広まってきている.しかし,検査業務サポートにかかわるシステム化は検体検査や放射線検査と比べてかなり遅れている.

 実際にオーダリングシステムが導入されている病院でも内視鏡検査オーダまでは導入されていない場合が多く,予約はシステム管理とするが,依頼は医師が依頼票へ記載する必要があるといった状況が発生している.また,検査室内では画像ファイリングシステムによって画像は蓄積管理されていても,前回検査レポートの準備,実施情報管理,会計情報伝達,レポート作成は手作業で行われている場合が多いといった状況である.このように内視鏡検査は人件費の高い医師,看護師が中心になって実施されるため,病院経営上はもっと効率化を進めるべき業務であるが,他検査に比べてシステム化がかなり遅れているのが実態である.さらにシステム化が遅れている別の要因は,内視鏡検査に携わるスタッフにとって利用しやすい業務支援システムが存在しなかったという点や,検体検査や放射線検査など実施件数の非常に多い業務への投資を先に進めた点にある.

 今回は内視鏡検査業務の具体的な課題とシステム化のコンセプト,システム導入時の課題とを紹介し,これから内視鏡検査に関するシステム導入を検討する方の参考に供したい.

けんさ質問箱Q&A

クレアチニンクリアランス測定で昼食前でなく夕方・朝に採血する場合は

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.1411 - P.1412

24時間クレアチニンクリアランスを測定するのに,通常の昼食前でなく夕方や朝に採血するのでもよいでしょうか.夕方や朝採血する場合にはどのような影響があるでしょうか,教えてください.(大分県中津市 F. S.生)


 まずご質問の内容からすると,クレアチニンクリアランス(creatinine clearance,以下Ccr)を短時間法でなく24時間蓄尿法で実施している場合と判断されますので,24時間蓄尿法に限って考えていきます.実は,24時間蓄尿法の採血時間については,ご質問の昼食前以外の記載も多くなされています.早朝空腹時1)あるいは蓄尿終了時(特に日内の時間の限定なし)2)としているものがその例です.筆者としては,実際上は特に限定しなくてもよいのでは(蓄尿期間中いつでもよい)と考えていますが,以下それぞれの採血時間が示されている背景を説明していきながらその理由を示します.

心筋梗塞患者の心電図電極の位置は

著者: 原武史

ページ範囲:P.1413 - P.1414

標準12誘導の電極の位置は,心筋梗塞を起こしている場合などは特に重要です.しかし体型もさまざまであるためV4,V5,V6はどこに着けるべきか迷うことがあります.貼付位置を決めるポイントを教えてください.(千葉市 T. K.生)

 

 心電図検査は,簡便であり患者さんに対する負担も少なく何度も施行されます.しかし電極の位置のずれが波形を変化させてしまい,心電図の判読を難しくしてしまうことがあります.四肢誘導は,左右上下の付け間違いがないように付ければ問題はありませんが,胸部誘導は,ずれやすく注意を要します.質問にもあったように,V4~V6の位置がずれやすいので,いくつかポイントを示します.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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