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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術32巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

急性骨髄性白血病

著者: 岸慎治 ,   上田孝典

ページ範囲:P.216 - P.220

病 因

 大半の症例では,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia,AML)の病因は不明であるが,ある種の状況下ではAMLの頻度が増加する.ファンコニー症候群(Fanconi syndrome),ダウン症候群(Down syndrome),ブルーム症候群(Bloom syndrome),毛細血管拡張性運動失調症,重症複合免疫不全などの遺伝的疾患では,AMLが発症しやすい.AMLの発生に最も関連した明らかな病因は高線量放射線の被曝である.その他の発がん物質や低線量被曝,電磁波,喫煙については直接的な原因としての証明はなされていない.化学物質では,ベンゼンの大量曝露が病因となる.他の化学物質については因果関係は不明である.また治療関連白血病(二次性白血病)として抗がん剤および放射線治療の後に発症することも知られており,AMLでの長期生存例増加とともに,注目されている.

 AMLは他の多くのがんと同様に,多段階の遺伝子の異常で発症すると考えられている一方で,その発症に関与する特異的な染色体の転座や欠失がいくつか存在する.近年の分子遺伝学の発展により,再構成の切断点から数多くの腫瘍関連遺伝子が単離され,これら再構成遺伝子による分子生物学的な異常も解明されつつある.AMLでみられる染色体異常と再構成遺伝子の代表的なものとして急性前骨髄球性白血病におけるt(15;17)転座にみられる,15番のPML遺伝子と17番のRARα(レチノイン酸受容体α鎖)遺伝子が融合したPML-RARαキメラ遺伝子がある.産生されるキメラ蛋白は脱アセチル化の阻害により,細胞の転写・分化を阻害し,急性前骨髄球性白血病が発症すると考えられている.ほかに分化型急性骨髄性白血病におけるt(8;21)転座にみられる,8番のETO遺伝子と21番のAML1遺伝子が融合したキメラ遺伝子,好酸球増多を伴う急性骨髄単球性白血病におけるinv(16)と,t(16;16)にみられるCBFβ遺伝子とMYH11遺伝子が融合したキメラ遺伝子などが知られている.

技術講座 一般

―初心者のための尿沈渣検査のコツ 第1回―標本作製法

著者: 長廻範子

ページ範囲:P.223 - P.233

 はじめに

 尿沈渣検査は古くから腎,尿路疾患はもちろん,各種疾患の予後や治療経過および薬剤の副作用など,全身状態の把握にも重要な検査とされてきた.各成分と臨床(病態)との関連が明らかにされている3).作製した1枚の標本を鏡検することで過去の情報のみでなく現在,未来へつながる多くの情報を得ることが可能である.そのために必要な①尿沈渣標本作製手順,②鑑別しやすい染色標本の作製法,を中心に述べる.初期診療の目的である早期発見,予防医学につながる的確な分類をする必要性があると考えている.

生化学

GC/MSおよびHPLCによる薬物・農薬検出法

著者: 松田貴美子 ,   中藤聡子 ,   湊川洋介 ,   山本誠一 ,   通山薫

ページ範囲:P.235 - P.241

 長野サリン事件,地下鉄サリン事件,和歌山毒物カレー事件,新潟アジ化ナトリウム事件および農薬・薬物混入事件など,近年化学物質による中毒災害やテロリズムが発生している.これら中毒事件の対応策として,中毒起因物質分析体制の整備1)の必要性が指摘された.これを受けて当時の厚生省(現在の厚生労働省)により,1998年度に全国の高度救命救急センターおよび救急病院を中心に化学物質分析装置が配備されることになった.

 当院の高度救命救急センターにも8種類の分析機器が装備され,中央検査部の一角に毒劇物解析室が設置され稼動している.本稿では,薬物と農薬の中毒原因物質2,3)についてガスクロマトグラフ質量分析装置(以下「GC/MS」)および高速液体クロマトグラフ分析装置(以下「HPLC」)を使用した検出方法4,5)を解説する.

微生物

輸入真菌症の検査

著者: 亀井克彦

ページ範囲:P.243 - P.246

 はじめに―輸入真菌症とは

 輸入真菌症とは本来わが国には生息していない真菌による真菌症を指す.大部分がコクシジオイデス症,ヒストプラズマ症,パラコクシジオイデス症により占められているが,いずれも近年急速に増加している.ほかにマルネッフェイ型ペニシリウム症,ブラストミセス症なども輸入真菌症に含むことが多い.これらの原因菌は感染力が強く,しばしば健常人にも感染して重篤な真菌症を起こす.いずれも病原体の危険度分類でレベル3に分類されているため,検体の取り扱いには十分な注意が必要である.

検査データを考える

呼吸機能検査

著者: 高橋進 ,   櫻井滋

ページ範囲:P.271 - P.274

 はじめに

 健康診断や手術前検査など,スクリーニング目的の場合を除き,肺機能検査(pulmonary function test,以下「PFT」)は何らかの異常値が得られることを期待して検査がオーダーされる.すなわち,問診や視診,聴診などの診察所見,あるいは胸部X線写真や動脈血液ガス分析など他の検査結果からある程度その患者の病態を推測し,その鑑別のためにPFTを依頼することとなる.したがって,疾患鑑別目的のPFTでは何らかの異常がみられることがほとんどである.しかし,PFTには他の臨床検査と同様,PFT特有の,検査手技自体に起因する見掛け上の異常値が生じるメカニズムが存在する.このメカニズムを知っておかないと検査の異常値が疾患に起因するものか,検査手技に起因するものかについての判断ができない.PFTの異常所見が生じる要因は,①疾患要因(疾患に基づく異常),②被検者要因,③検者要因,④測定機器要因という4要因が想定される.

 本稿では,基本的なPFTとして,換気機能検査を題材に,医師がどのような疾患の鑑別のためにPFTを依頼するのか,鑑別疾患で予想される結果と異なる検査異常がみられた場合,どのように判断すべきかについて述べる.

オピニオン 病理部門の臨床検査技師の今後を考える 第2回

「認定病理検査士」の必要性と問題点―病理担当の臨床検査技師の立場から

著者: 水木惠美子

ページ範囲:P.221 - P.221

 現在病理検査を担当している臨床検査技師の立場から,「認定病理検査士」(「PA」,仮称)制度の必要性と問題点について述べる.さらに,東北地区の病理検査を担当している臨床検査技師へのアンケート結果を紹介し(表),本制度を考えるための材料としたい.

 1 . 認定病理検査士制度の必要性

 1) 医療事故の多発

 医療事故が多発し,病理検査においても事故防止に努めることが責務となってきた.これらの事故を防ぐためには,病理専門の臨床検査技師(以下「技師」)としての自覚と自己管理能力の涵養が必要である.

絵で見る免疫学 基礎編(51)

宿主と病原体の攻防(2) 宿主と細菌の攻防・1

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.250 - P.251

細菌の侵入の手口

 グラム陰性菌とグラム陽性菌の表面構造を図1に示す.細胞質を包んでいるのはともに脂質二重層から成る細胞質膜とペプチドグリカン層である.グラム陰性菌は薄いペプチドグリカン層を挟み外側にも細胞質膜がある.グラム陰性菌のペプチドグリカン層は薄いので,グラム染色で使われるアルコール処理により外膜が損傷し塩基性色素とヨードの結合体が菌体外に出てしまい染色されないのでグラム陰性になる.グラム陽性菌は細胞質膜の外側に厚いペプチドグリカン層を持つので塩基性色素とヨード結合体が菌体内に残り染色されてグラム陽性となる.ペプチドグリカンとは,横糸に相当する糖鎖と縦糸に相当するアミノ酸の鎖すなわちペプチドから成る網目状の層である.菌体の表面には,運動小器官である鞭毛や細菌同士の接合や宿主組織へ取り付くための線毛,リポ多糖体(lipopolysaccharide,LPS),リポタイコ酸,M蛋白質などが備わっている.細胞質にはDNA,RNA,リボソームなどを備えており,適切な栄養分を含む培地であれば独立して分裂と増殖が可能な最小な単細胞生物である.

ワンポイントアドバイス

ISO9001認証取得のポイント 第3回 品質マネジメントシステム構築の実務

著者: 苅谷文雄

ページ範囲:P.264 - P.265

 はじめに

 これまでは,品質および環境ISOに共通するマネジメントシステムの特徴と品質マネジメントシステムの構築に不可欠な作業手順について説明した.

 今回は,それぞれの検査室にふさわしい品質マネジメントシステムを構築するための実務について概説する.

けんさアラカルト

心筋マーカーH-FABPのPOCTの臨床的有用性

著者: 大軽靖彦 ,   竹下仁

ページ範囲:P.284 - P.285

 H-FABPの背景

 心臓由来脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein,H-FABP)は,心筋細胞の細胞質に豊富に存在する分子量15kDaの低分子可溶性蛋白である.心筋が虚血状態に陥った際に速やかに血流中に逸脱することから,急性心筋梗塞をはじめとする心筋傷害の血液生化学的マーカーとして活用されている1)

 本稿ではH-FABPのPOCT(point-of-care testing)である「ラピチェックH-FABP」について原理,臨床性能および使用上の注意点をまとめた.

今月の表紙

百聞は一見に如かず・3 類上皮細胞肉芽腫

著者: 松谷章司

ページ範囲:P.234 - P.234

 類上皮細胞肉芽腫

 炎症性疾患のうち,特殊な肉芽腫形成を伴う炎症を特異性炎と呼び,その代表的な疾患として,結核,サルコイドーシスなどがある.共通した組織変化がこの類上皮細胞肉芽の形成である.

 1 . 結核結節

 結核結節は類上皮細胞の集団を囲むリンパ球浸潤から成り,特徴的なラングハンス巨細胞〔(Langhans giant cell,ラ氏型巨細胞)類上皮細胞化した組織球が合体したものと考えられている)〕が混在する.ある程度のサイズになると中心部に壊死を伴い,時間経過とともに硝子化,線維化が進み,最終的に瘢痕化あるいは石灰沈着をきたす.結核菌染色は一般的に陰性のことが多い.一方,悪性腫瘍に対する治療中や免疫抑制療法中に結核菌が大量に血行中に入り,多臓器に播種して多数の結核結節を形成したものが,粟粒結核である.粟粒大の黄白色結節が種々の臓器に多数認められる.この場合結核菌が組織学的にも証明されることが多い.上記のような背景で発症するため,ツベルクリン反応の陽性率は低いので,診断するにはまず本症を疑うことが大切で,そして喀痰や胃液検査,骨髄穿刺や尿検査などを行い細菌学的,形態学的に証明する必要がある.剖検で初めて認識されることもあるので,病理医はただちに組織標本を作製することになる.診断確定後,院内の感染対策部に連絡し,接触者リストを作り,医療従事者や家族の感染の有無をチェックする必要がある.

Laboratory Practice 病理 細胞像からここまでわかる

乳腺(10) 顆粒細胞腫

著者: 都竹正文 ,   秋山太

ページ範囲:P.252 - P.255

概念および臨床的事項

 顆粒細胞腫(granular cell tumor)は,以前は顆粒細胞性筋芽腫(granular cell myoblastoma)といわれており,最初Abrikossoffが筋芽腫性筋腫(myoblastenmyom)と呼んだ腫瘍である(アブリコソフ腫瘍,Abrikossoff tumor).従来,筋原性が考えられたが,最近は電子顕微鏡(電顕)所見などからシュワン細胞(Schwann cell)起源を考える人が多い.しかし,平滑筋細胞やエナメル上皮(顆粒細胞性エナメル上皮腫,granular cell ameloblastoma)にも同様の顆粒が出現することが知られており,この腫瘍が単一細胞起源でないという人もいる.舌に最も多く,ほかに乳房,外陰,消化管,皮膚,皮下などにも発生する.皮下など軟部のものは胸壁,腹壁など躯幹に多い.乳房や皮下では被包された腫瘍塊(図1,2)を作るが,舌などでは被膜を有しないものが多い.大きさは直径10~20mmのものがほとんどであり,巨大にはならない.

 顆粒細胞腫は原則として良性であるが,軟部に発生したものでは極めて稀に転移を起こすことがある.こういうものを悪性型として区別する.女性での頻度が高く,40mmを超える大きなものが多く,これらは浸潤性で壊死を認めることもある.組織形態は良性例のそれとほぼ同様であるが,N/Cの増加,核の多形性,大型の核小体,分裂像の増加,紡錘形細胞の出現,壊死の存在が挙げられており,このうち3つ以上の所見を認めるものが悪性とみなされる.

生化学 これからの臨床協力業務事例集

糖尿病教室 その1 糖尿病チーム医療への取り組み

著者: 佐藤伊都子 ,   直本拓己 ,   荒木智奈美 ,   楠木まり ,   岡野好江 ,   五百蔵守 ,   向井正彦 ,   熊谷俊一

ページ範囲:P.256 - P.258

参画への経緯

 筆者は糖尿病療養指導士制度の発足を契機に,入院患者対象の糖尿病教室に2000年9月より参加し始め,回を重ねるうちに一部の講義を担当するようになった.また,糖尿病教室の後に行われる入院患者カンファレンスでは,検査データから疑問を持った入院患者の症例を積極的にカンファレンス希望症例として提出し,検査データからだけでは把握できない患者の病態や治療方針などを学んだ.こうした準備期間を経て,筆者を含めて5名の臨床検査技師が療養指導に携わりながら,糖尿病療養指導士の資格を取得した.2002年4月より糖尿病クリティカルパスも稼働し,糖尿病教育目的の入院患者を対象に医師,看護師,薬剤師,栄養士とともに糖尿病チーム医療の一員として参画している.

生理 超音波像の読みかた

胆嚢 胆石,胆嚢炎,ポリープ

著者: 杉浦信之 ,   高梨秀樹

ページ範囲:P.259 - P.263

 超音波検査は胆道系疾患においてスクリーニングから精密検査までその威力を発揮しており,カラードプラ法(color Doppler method),超音波内視鏡,細径超音波,超音波造影剤などといった超音波検査を応用した検査手技の発達とあいまって,存在診断から確定診断まで欠くことのできない検査法である.最近はtissue harmonic imaging(THI)により方位分解能が向上し,多重エコーやサイドローブなどが抑えられた画像が得られている.特に,体表に近い胆嚢底部の描出などには非常に有用である1)

 本稿においては胆嚢疾患の超音波像を解説し他の画像との比較について述べる.

トピックス

ハイブリッドキャプチャー法による性感染症のDNA診断法

著者: 中手洋

ページ範囲:P.291 - P.293

 はじめに

 近年,若年層におけるクラミジア,淋菌などの性感染症の蔓延が社会的にも問題となっている.また,人にがんを引き起こすウイルスとしてC型肝炎ウイルス,EBウイルス(Epstein-Barr virus)などが知られているが,性行為に伴うヒトパピローマウイルス(human papilloma virus,HPV)の感染も子宮頸癌の原因ウイルスとして注目されている.

 今回,米国ダイジーン社で開発された新規なDNA診断法であるハイブリッドキャプチャー(hybrid capture,HC)法による細菌,ウイルスなどのDNA検出について,その原理,特徴と臨床応用をHPVの海外での臨床データを主体に紹介したい.

プロインスリンの測定意義

著者: 野間桂 ,   中谷中 ,   寺村義和 ,   森下芳孝 ,   ,   登勉

ページ範囲:P.293 - P.295

 はじめに

 プロインスリン(proinsulin)はインスリン(insulin)A鎖,インスリンB鎖およびCペプチド(C-peptide)を含むプレホルモンとして膵β細胞で合成された後,図1に示すように,2つの経路のいずれかによりインスリンとCペプチドになる.経路①では65番目と66番目とのアミノ酸の間が先に切断され,経路②では32番目と33番目とのアミノ酸の間が先に切断される.大部分が経路②を経てインスリンとCペプチドになるとされている1).これらのプロセッシング異常による異常プロインスリン症や異常インスリン症,さらにβ細胞自体に異常をきたすインスリノーマなどで血中プロインスリンが上昇することが知られている.また,2型糖尿病では血中インスリン濃度に比し,プロインスリン濃度が高いことが知られており,糖尿病発症や予後の予測因子としても有用ではないかと考えられている.

プロテオーム解析と二次元電気泳動

著者: 真鍋敬

ページ範囲:P.296 - P.297

 はじめに

 「ゲノム解析」は,ある生物種のDNA塩基配列をすべて明らかにすることによって,その生物の遺伝情報全体を解明しようとする研究の方向を意味する.しかし,当然のことながら全塩基配列が決定されても,その情報だけでは,実際に生体内で機能している蛋白質の立体構造や,リボソームのような複合体の構造などを予測することはできない.
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 「プロテオーム解析」とは,ある生物個体について,すべての蛋白質や蛋白質複合体の構造と機能を明らかにすることによって,生物機能の全体像を解明しようとする研究の方向を意味する1).ここでは,プロテオーム解析と二次元電気泳動とのかかわりについて,簡単に紹介する.

SARSの迅速検査法―LAMP法を用いた検査

著者: 峰川晴美 ,   納富継宣

ページ範囲:P.297 - P.299

 2002年11月,中国広東省における重篤な非定型肺炎の流行に端を発し,世界各地で猛威を振るい多数の患者と死者を出したSARS(severe acute respiratory syndrome,重症急性呼吸器症候群)は原因不明の感染症として世界中を震撼させた.原因となる病原体は約3万塩基のゲノムサイズを持つプラスの1本鎖RNAで,世界保健機関(World Health Organization,WHO)により新型のコロナウイルスとして「SARSコロナウイルス」と名付けられた.その後2003年7月に流行の終息が宣言されたが,発生起源を含めSARSに関する医学的,科学的解明はこれからであり,再度の流行に備えて対策を準備しておく必要がある.

 SARSコロナウイルス感染の検査法として,ウイルス分離は精度が高いが,手間,時間がかかり,またウイルス抗体検査は抗体産生までに時間がかかる難点があり迅速診断向きではない.従来のPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)法1)ではアッセイ時間,手間の問題があり,またリアルタイムPCR法では高価な蛍光測定装置を必要とする.

 そこで現場で簡易に検査可能でかつ感度,特異性ともに高い特徴を兼ね備えたLAMP法がSARSコロナウイルスの検出に威力を発揮するものと判断して,迅速診断キットの開発に着手した.

失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

固定時に生ずるアーティファクト 1) 薬物障害 (3) 各種消毒薬

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.286 - P.290

各種消毒薬浸漬によるアーティファクト

 図1,2はいずれも採取した生の状態でクレゾール石鹸液に漬けた後,ホルマリン固定を行い標本作製を行った肝臓である.現在ではあまりみられなくなったが,皮膚生検実施時に器具を消毒するためクレゾール石鹸液を用い水洗不良のため薬品火傷の状態になる事例が報告される事例があった.図1は薬品火傷のため脱水状態となり濃縮・萎縮したヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像で,図2はマッソン三重染色(Masson-trichrome stain)で皮膜のカラーバランスが完全に崩れたアーティファクト像である.現在ではクレゾール石鹸による器具消毒が行われることはないが,他の消毒薬で行われていることには変わりはない.現在用いられている消毒薬を中心に各種消毒薬の薬物障害による変化を知っておく必要もある.

検査じょうほう室 生化学 おさえておきたい生化学の基礎知識

抗リウマチ剤とケトン体偽陽性 その1 ケトン体と糖尿病

著者: 樋口まり子

ページ範囲:P.276 - P.277

 尿ケトン体検査の三大困りごと.

1 . ケトン体って何? 正体は?

2 . 目的は何? 結果をどう判断するの?

3 . 判定に悩む!(偽反応が多い!)

 尿定性試験の中でケトン体は,糖や蛋白などに比べて検査の意味が多彩であるため,曖昧なまま見過ごしてしまいがちである.本稿では今回,ケトン体について糖尿病との関係を中心にわかりやすく解説し,次回,薬剤干渉とその1つである「リマチル(R)に起因する尿ケトン体偽陽」について述べる.

血液 血液染色のコツ

普通染色

著者: 田中由美子 ,   権藤和美

ページ範囲:P.278 - P.282

 はじめに

 末梢血塗抹標本で観察される所見には,各血球数の異常,白血球分画の異常,幼若細胞の出現の有無,異型リンパ球や異常細胞の出現の有無,各血球の形態異常,各血球の凝集の有無など,診断上有益なさまざまな情報を提供する簡便かつ迅速な日常検査である.なかでも白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍では,確定診断の情報を提供するうえで細胞判読が重要となる.

 末梢血・骨髄での塗抹標本の観察には,適切に塗抹された標本が前提であり,細胞判読がしやすい染色標本であること,細胞判読者が正しい細胞判定のできることが重要である.

 われわれは日常の末梢血検査で塗抹標本を作製し,普通染色後,細胞分類を行っているが,現在,用手法に代わり塗抹標本の作製・染色までの工程が自動化された自動塗抹標本作製・染色装置が多くの施設で導入され日常検査に用いられている.

 今回は,普通染色の方法やコツを述べるとともに自動塗抹染色装置での普通染色法についても紹介する.

ラボクイズ

血液検査[3]

著者: 牟田正一

ページ範囲:P.248 - P.248

 症 例:55歳,男性.ネフローゼ症候群を発症し,近医でプレドニゾロンで治療中ステロイドの副作用による精神症状を発症し,当院精神科入院となった.プレドニゾロン減量で精神症状は改善した.前医入院時より肝にSOL(space occupying lesion,占拠性病変)が指摘されており,精査目的で内科転科となった.HCV陽性でC型慢性肝炎と診断され,経過観察中に急激な血小板減少がみられた.その時の検査所見を表に,末梢血液像を図に示した.

 問題1 図の赤血球形態から次のうちどれが考えられるか.

 ①標的赤血球

 ②涙滴赤血球

 ③破砕赤血球

 ④楕円赤血球

 ⑤有蕀赤血球

2月号の解答と解説

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.249 - P.249

【問題1】 解答:⑤異型細胞(悪性疑い)

解説:本例は尿沈渣に,核とN/C比の増大,核小体の肥大,核形不整を伴った悪性を疑う異型細胞を認めた症例である.細胞診検査で精査したところグレード2~3の移行上皮癌であった.組織診断は,膀胱癌である.移行上皮癌細胞は尿中に出現する尿路系悪性細胞のうち最も高い頻度で認められる.ほかに尿沈渣に認められる悪性細胞として扁平上皮癌や腺癌細胞がある.形態学的特徴は,図に示したように核の増大,N/C比の増大,細胞形不整,クロマチン増量,核小体の肥大と数の増加,核形不整,核縁の肥厚,細胞集塊の出現などである.ステルンハイマー(Sternheimer stain)染色を行ったほうが核内構造が鮮明にわかる.一般検査領域での尿沈渣の報告は,細胞診で確認後悪性を疑う異型細胞とし,細胞の情報をコメントとして付記するよう「尿沈渣検査法2000」では指導している,1)

けんさ質問箱Q&A

定量測定でなくてはわからないほどのHBs抗原検体の感染性は

著者: 小池和彦

ページ範囲:P.266 - P.268

Q 定量測定でなくてはわからないほどの HBs抗原検体の感染性は

イムノクロマトグラフィによるHBs抗原測定は検出に限界がありますが定量測定でなくてはわからないほどのHBs抗原の感染性はどの程度あるのでしょうか.当検査室ではすべてを定量測定できないため気がかりです.どのように対処すればよいのかも併せて教えてください.(本吉郡 M. S.生)

A 小池 和彦 こいけ かずひこ*

 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV)の病院感染は,医療従事者にとって重大な脅威です.ウイルス量の多い,HBe抗原陽性の患者血液の経皮的曝露では,少なくとも30%の感染の危険性があります1).多いものでは1ml中に1013個のHBV粒子が存在することから,ごく少量の血液の針刺しでも感染が成立することがあるとされています.チンパンジーを用いた検討では,HBe抗原陽性の血液は10-8まで希釈しても感染が成立しています2)

尿中C-ペプチドの随時尿での測定の可否とその意義

著者: 田港朝彦

ページ範囲:P.268 - P.269

Q 尿中 C-ペプチドの随時尿での測定の可否とその意義

尿中C-ペプチド(C-peptide immunoreactivity,CPR)の検査依頼がありますが,24時間蓄尿のできない患者さんもいます.随時尿でクレアチニンを同時に測定し,比率でみる簡便法があるそうですがその具体的な方法と基準値とを教えてください.(福岡県行岡市 M. Y.生)

A 田港 朝彦 たみなと ともひこ*

 C-ペプチドはインスリンの副産物で,血中濃度と変動はインスリン分泌状態を反映しており,血中C-ペプチドはあたかもインスリンの影のように動くといえる.

コーヒーブレイク

私の春の楽しみ

著者: 古山幸雄

ページ範囲:P.275 - P.275

 毎年,私は春一番が吹くと長靴を履いて家の近くの崖々のポイントに向かって車を走らせるのです.トランクには鋸と鎌,植木鉢を載せています.いったい何をするのでしょうか.

 宝石のような美しい羽を持ち,実物を手にして眺めるとその羽の輝きは神々しく,川辺のプリンスとも,バードウォッチングの女王ともいわれている,カワセミ(翡翠)の巣作りへの協力,そのためのいつもの私のスタイルです.カワセミは砂地の,オーバーハングした崖に1月以上もかけて直径5cm,深さ30cmほどの横穴を掘りその奥に直径10cmほどの丸い部屋を作ります.そこに,6個ほどの卵を生んで雛を育てます.このとき,最大の敵はアオダイショウやシマヘビです.崖の蔦や小枝を伝って巣穴にやってくるのです.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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