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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術32巻7号

2004年07月発行

雑誌目次

病気のはなし

アミロイドーシス

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.600 - P.607

はじめに

アミロイドーシスの診断の手順について,全身性アミロイドーシスと限局性アミロイドーシスとに分けて,臨床的,組織学的,血液生化学的手法を中心に述べる.アミロイドーシスは比較的稀な疾患と考えられがちであるが,本症の可能性のある疾患について本稿で述べる手順で診断できるケースも少なくない.臨床所見を踏まえた総合的診断が不可欠な疾患である.

技術講座 一般

―初心者のための尿沈渣検査のコツ 第5回―上皮細胞の見かた―悪性を中心に

著者: 岡田茂治 ,   松岡優 ,   猪浦一人

ページ範囲:P.609 - P.617

新しい知見

 ステルンハイマー染色変法(S染色変法)は広く尿沈渣成分の観察に用いられ,優れたアトラスや症例報告など豊富な学術的資産がある.しかし中心的メーカーのアルシアンブルー8GX色素が製造中止となり,最もシェアーの大きかった染色試薬が発売中止になる事態となった.自家調整に切り替えようとしても前記在庫色素は高騰化し購入できず,現在継続市販されている他のメーカー染色液は微妙な染色性の違いが指摘されている.

 さらに2004年度の診療報酬改訂では尿沈渣顕微鏡検査も外来再診料に含まれることになり,一般検査室運営面において厳しい状況に直面している.

 しかしどんな状況下にあっても,患者のQOL(quality of life)の立場から腎尿路系悪性細胞の早期発見は極めて重要であることに変わりはない.スクリーニング検査としての尿沈渣検査の役割と必要性を再認識し,実践できる努力を続けていかなければならない.

生理

生理機能検査における感染予防対策

著者: 大久典子 ,   佐藤淳子 ,   藤田雅史

ページ範囲:P.619 - P.622

新しい知見

 感染管理の意義は広く世界的に認知されているが,患者の血液や体液を使用しない生理機能検査に関しては院内感染の意識が低いと考えられる.しかしながら,最近では生理機能検査の超音波検査で使用するゼリーを原因としたMSSA(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)膿皮症がアウトブレイクした報告などがあり,スタンダードプリコーションに基づいた感染管理が必須である.

微生物

インフルエンザウイルスの検査法

著者: 山本剛 ,   吉田文 ,   中元理絵 ,   阪下哲司

ページ範囲:P.623 - P.631

新しい知見

 今シーズン,われわれは高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza,HPAI)により震撼させられた.2003年の11月に改正された感染症新法で,HPAIは新四類に分類された全数把握の報告対象となった感染症である.従来から,今まで検査対象となってきたインフルエンザウイルスはヒト型で主に呼吸器感染症を起こし,乳幼児から高齢者まで幅の広い年齢層で罹患する.特に乳幼児や高齢者が罹患した場合は重症化することもあり,しばしば致命的になることもある.

 さらに,現在は隔地域的な散発例としての流行であるが,新種のインフルエンザウイルスが世界中で大流行し,ヒトに感染を起こすことになれば,危機的な状態となることは免れないであろう.臨床検査室も従来のヒトインフルエンザウイルスのみならず新種のインフルエンザウイルスの診断と,院内感染対策に貢献できることに努力していくべきである.

検査データを考える

一過性に認められる高アルカリホスファターゼ血症

著者: 星野忠

ページ範囲:P.643 - P.647

 はじめに

 血清アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP;EC3.1.3.1)活性は,骨疾患,肝胆道系疾患などで上昇することが知られているが,年齢,性別,血液型の違いにより活性値が異なるので活性値上昇の判定には注意が必要である.特に,小児期は骨の成長とともに骨型ALP(ALP3)活性が上昇するため,1歳から思春期までは成人の3~4倍,思春期のピークでは約4~6倍にも達する1).しかし,時に成人基準値上限の30倍にも達する原因不明の異常高値例を経験することがある.そしてこれらの症例のほとんどが乳幼児であり,ALP活性の上昇が一過性であることに注目したPosenら2)は,これらの症例を1つの症候群としてとらえ,乳児期における一過性の高ALP血症(transient hyperphosphatasemia of infancy,THI)という概念を提唱した.その後,この現象は乳幼児以外でも観察され,現在ではより広い概念としてtransient hyperphosphatasemia(TH)と呼ばれている3)

 本稿では検査側から臨床医に対してTHの可能性があることを報告できるための検査法について,われわれが経験したTH症例4)を紹介する中で解説したい.

オピニオン 病理部門の臨床検査技師の今後を考える 第4回

教育現場からの病理部門への期待

著者: 前田環

ページ範囲:P.608 - P.608

 筆者は衛生技術科で臨床病態学や臨地実習を担当している立場から,まず教育現場の実情について述べます.18歳人口の減少によって進学は一般に容易となり,臨床検査技師養成機関として望ましい学力の学生確保が困難になってきています.教育課程においては,国家試験受験資格に必要な臨地実習の縮小や中断・中止を余儀なくされています.これは医療費抑制に対応して病院検査部門のブランチ化や技師数削減が進んだ結果で,就職問題にも直結しています.

 一方,国家試験の合格率は表のように低下しています.最近の国家試験問題では「2つ選べ」といった設問が増加し,より正確な知識が要求されています.また,細胞診の画像問題,筋電図・心電図の読み取り,症例の検査結果から次に行うべき検査を問うなど「考えさせる」問題が重視され国家試験は難しくなってきています.検査の進歩に伴い臨床検査技師に専門職として,高度な知識と技術が要求されているあらわれですが,機械化によって専門知識なしでも作業が可能な部門で給与の高い臨床検査技師の雇用が敬遠されるという皮肉な現実もあります.しかも難問化した国家試験に合格しても就職は順調と言えません.先輩たちの就職活動の様子を聞き,進路に不安を感じる学生は少なくありません.また,臨地実習で検査の自動化を見て臨床検査技師という職業の将来に疑問を持つ学生もいます.したがって「学生の学習意欲をいかに高めるか」は教育現場の大きな課題です.そのためには学生が臨床検査は生きがいにできる仕事であるという認識を持つことが必要でしょう.具体的に説明しようとすると,病理医でもある私としては専門である病理について話すことになります.病理部門でも自動染色機などが出現はしましたが,その染色結果は専門の臨床検査技師でなくては判定できません.病理解剖の介助や標本薄切,細胞診検査など機械化は難しい作業も多数あります.そして学生たちもまた生理・微生物とともに病理部門の仕事には大きな期待を抱いています.

絵で見る免疫学 基礎編(55)

宿主とウイルスの攻防(3) 宿主の免疫機構による対ウイルス防衛

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.634 - P.635

 生体防衛の最初のバリアーである体表面を突破したウイルスに対してはマクロファージや樹状細胞などの食細胞が対応し,ウイルス感染細胞はインターフェロン(interferon,IFN)α/βを産生し近隣の細胞に抗ウイルス作用を誘導する.また,NK細胞(natural killer cell)は非特異的に感染細胞を破壊する.しかし,これらの自然免疫系だけではウイルスの完全除去には至らない.獲得免疫系が誘導され,細胞傷害性T細胞が活性化されて初めてウイルスは除去される(図1).

自然免疫機構による抗ウイルス作用

 ウイルスを貪食するのは主に樹状細胞である.細菌は鞭毛,リポタイコ酸,M蛋白質,リポ多糖体,シアル酸,マンノースなど多くの共通構造を持っており,マクロファージはこれら物質に対するレセプターを持っているのでこれを介して貪食する(第32巻第3号参照).しかし,ウイルスにはこのような共通構造がないのでマクロファージはあまり貪食できない.樹状細胞は周囲に存在する細菌やウイルスを大量の液体とともに飲み込むマクロピノサイトーシスによって取り込んでいる.

今月の表紙

百聞は一見に如かず・7 播種性血管内凝固(DIC)

著者: 松谷章司

ページ範囲:P.657 - P.657

 悪性腫瘍や重篤な感染症の際に組織因子の血中流入や血管内皮細胞障害が起こると,血管内で凝固系因子が過度に活性化され,全身の細小血管内に微小血栓が形成される.この結果,局所組織や臓器に微小な虚血性傷害をもたらすと同時に,血小板や凝固因子の著減による凝固能低下(消費性凝固障害,consumption coagulopathy)と二次的線溶亢進による著明な出血傾向を生ずるという複雑な病態に発展する.このような状態で検査すると,血小板数やフィブリノゲンの著減,フィブリノゲン/フィブリン分解関連産物の増加が認められるのは周知のとおりである.ただちに基礎疾患に対する治療とともに抗凝固療法による血栓溶解および血小板輸血による出血傾向対策という相矛盾したような治療が開始される.

 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation,DIC)に随伴して高頻度に認められるものに糸球体血栓症(glomerular thrombosis)があり,病理解剖時に認められるDICの証拠となる.生前に臨床診断がつき,上記の処置がなされると発見できないことが多く,末期に急速に進行したDICで,特に未治療の場合に高頻度に認められる.時に広範な尿細管壊死や腎皮質壊死を伴う場合がある.血小板減少(thrombocytopenia)とは一般に末梢血中の血小板数が10万/μl以下になることを指す.血小板数が5万~10万/μl程度の軽度減少状態では自覚症状が乏しいが,3万/μl以下になると皮膚に出血斑が出現し,粘膜出血(鼻出血,歯肉出血,血尿,女性の月経過多など)が認められる.さらに1万/μl以下の高度の減少では,致死的な消化管出血や脳出血などをもたらす.

学会印象記 第53回日本医学検査学会

臨床検査技師にできる何かを見つけるために

著者: 清水祐治

ページ範囲:P.682 - P.682

 第53回日本医学検査学会が5月13日から3日間,富山県富山市で開催されました.今回の学会では特に運営管理,さらにサブテーマにもなっている「Information Technology」に関連したIT特別企画(症例検討会,R-CPC)を中心に幅広く参加しました.

 また,北海道臨床衛生検査技師会は10地区会に区分けされており,この各地区会が持ち回りで北海道医学検査学会をお手伝いする仕組みになっており,小樽地区会では来年,第81回北海道医学検査学会が開催されるため,少しでも参考にしたいと思い,今学会に参加しました.

富山学会の印象を“ひらめき”に

著者: 柴田宏

ページ範囲:P.683 - P.683

 第53回日本医学検査学会が2004年5月14日(金)と15日(土)の2日にわたり富山市で開催された.富山を訪れるのは5回目くらいであろうか.最初は27年くらい前に雲ノ平への登山の途中で立ち寄った.ランプの高天原山荘や河原の温泉に浸かったことや岩魚の骨酒の記憶が甦る.その後も立山・剣への登山(現在の私の体型をご存知の方には想像できないかもしれないが)やアルペンルート観光,電気泳動学会発表でも訪れた.今回は出雲市から約8時間電車に揺られて5月11日から富山入りし,旧国立大学病院の会議で法人化後の大学病院検査部の運営について意見交換を行った.明るい話題が少なくややブルーな気分から学会がスタートした感じであった.

 さて,今回の学会参加には大事な使命があった.2年後の2006年5月19日(金)・20日(土)にはわが(社)島根県臨床衛生検査技師会担当で島根県松江市において第55回日本医学検査学会(島根学会)を開催することが決まっている.しかもこの私が実行委員長である.そのための情報収集・視察を行わなければならないのだ.前日の総会,ナイトセミナー,および夜は富山の旨いもの視察から始まり,学会1日目午前中は学会展示会場に行き,島根学会の下瀬学会長らとともに各業者へ2年後の展示協力のお願いと,今回の展示ブースの感想を聞きつつ島根の展示会場のアピールも忘れずに行った.午後も会場視察と懇親会へ.懇親会では大勢の参加者で身動きできないくらいであったが同じ大学の先輩・後輩や元日臨技会長の下杉先生らと久しぶりにお話しでき,島根学会への協力をお願いできた.2日目も各会場の視察に明け暮れ,学会発表は自分の施設の演者の発表も十分に聞くことができなかった.比較的ゆっくり聴講できたのは学会前夜のイブニングセミナー「ヨーロッパにおけるPOCT検査」であった.POCT(point of care testing)の普及は各国の医療制度と無関係ではなく,ヨーロッパの状況は日本と類似して米国ほどは普及していない.また,フランスでは患者様にメリットのあることが証明されないと使用できないとの法的規制もあるそうである.POCT普及の背景は病院経営と関連しており,欧州でも病院検査室が圧縮されている状況がある.血液ガスや尿検査,凝固検査についてPOCTの有用性が高いとの話もあったが,試薬代が高価,検査記録の欠如=請求がされていない,余分な検査(臨床医の多くは検査室のデータを信頼しており,POCTを行いつつ検査室にも依頼をするなど二重検査の可能性がある),熟練度(検体の品質については臨床検査技師がベスト),病院システムとの接続により連続した記録が必要などの問題点についても講演された.POCTの試薬や機器は臨床検査技師が責任を持ってメンテナンスやコーディネートする必要性のあることや私の思っていた問題点が確認できたことは有意義であった.ひとつ残念なのは同時通訳の方が「臨床検査技師」を「technician」と訳していたことで,われわれは「technologist」であるといいたかった.これら業者主催のイブニング・ランチョン・モーニングの各セミナーはどこも盛況であり,島根学会でも多くの業者にセミナーを開催していただけるようにしたい.

何か新しい話題を求めて

著者: 井戸田篤

ページ範囲:P.684 - P.684

 2004年5月14日,15日の2日間,第53回日本医学検査学会が富山市内で開催されました.城址公園を取り囲む形の,五つの会場と展示会場との全六会場で行われ,都市中心部でありながら会場間の移動にはつねに公園の新緑を眺めながら徒歩移動できる好立地でした.

 今回,学会参加の目的は遺伝子検査一般演題の口演発表でしたが,発表は2日目ということもあり,自由に行動可能な1日目の目的を何か新しい話題を探すこととしました.しかし,会場選びには相当迷いました.メインテーマ「変貌する医学への貢献」を掲げるシンポジウムへ行くべきかどうか.独立行政法人化,病院機能評価,日臨技第3次マスタープラン,検査データの共有化,チーム医療などとても濃厚な内容です.しかし同じ時間帯には別会場でシンポジウム「血液細胞の判定基準について」やパネルディスカッション「腸管感染症検査の標準化」もあります.会場選択に苦慮しながらも,結局抄録だけではわからない一般演題を選択しました.行き先は管理運営の口演です.臨床検査技師を中心とした医療情報室の管理運営,臨床検査技師の採血業務,検査部門主体の院内検査対策,糖尿病療養指導など,いずれもチーム医療にかかわる臨床検査技師についての報告が目立ちました.また聴衆者の年齢が比較的若い方も多く,チーム医療だけで独立させてもよいのではと思いました.

多くの演題から多くを得られた

著者: 仲宗根勇

ページ範囲:P.685 - P.685

 5月,初夏の沖縄から羽田まで2時間半,羽田から富山空港まで1時間半の空の旅で,午後に沖縄を発ち,残雪の残る立山連峰を見ることもできず富山空港に着いたのは午後9時前であった.現在,臨床検査の分野では多くの専門学会があって各地で開催されており,臨床検査技師の多くはそれぞれの専門学会に参加していると思われる.筆者も臨床微生物が専門であるため,専門学会には毎年参加しているものの,臨床衛生検査学会での報告や参加は十年ぶりである.この項では第53回日本医学検査に参加し,印象に残った演題を紹介したい.

 演題番号329「メタロβ-ラクタマーゼ産生緑膿菌の検出状況について」,演題番号330「当院におけるメタロβ-ラクタマーゼ産生菌の臨床的検討」,演題番号331「当院で検出されたメタロβ-ラクタマーゼ産生Klebsiella pneumoniae」は3題とも,分離検出された場合には患者治療および院内伝播が問題となる菌種であるが,報告施設によって分離頻度の大きな差が印象に残る報告であった.また演題330,331ではP seu-domonas aeruginosa以外の菌種においてもメタロβ-ラクタマーゼ産生菌が分離されている報告がなされており,われわれの病院ではP. aeruginosa以外の菌種についてはメタロβ-ラクタマーゼ産性確認試験は実施していなかったため大変参考になった.演題番号333「当院において分離された多剤耐性緑膿菌についての検討」では多剤耐性株の色素産性株と非産性株とではクローンが異なったとの報告であり,初代分離平板の観察が重要であることが再認識された.

Laboratory Practice 生理 超音波像の読みかた

脾臓 良悪性疾患

著者: 井利雅信

ページ範囲:P.636 - P.639

 脾臓はそれ自体が病気の主体となることは比較的少ない.しかし,逆に全身の一部に異常があれば,なんらかの反応を示し,脾腫大などの所見がその異常を発見する手がかりとなることも多い.ただし,脾腫がないかぎり,通常は全体の2/3程度しか描出されず,小病変は見落とされる可能性がある.以下に脾臓の良性疾患および悪性疾患について述べる.

良性疾患

 1 . 脾腫(図1)

 脾臓は,通常100gの重量で,さまざまな病態に応じてその大きさが変化する.表に示すごとく脾腫をきたす疾患には種々のものがあり,巨大脾腫を示すものには,バンチ脾(Banti's spleen),慢性骨髄性白血病などがある.

生化学 これからの臨床協力業務事例集

クリティカルパス その1 クリティカルパスへの臨床検査技師の参画―糖尿病教育入院を例として

著者: 宮城景正 ,   手登根稔 ,   小森誠嗣 ,   石川和夫

ページ範囲:P.640 - P.642

 はじめに

 激変する医療環境のなか,特に臨床検査の分野においては以前よりも増して病院検査室のアウトソーシング化の話が聞かれるようになってきた.今,病院検査室の臨床検査技師は,生き残りをかけて病院に必要とされる検査室の構築,すなわちチーム医療の一員として,他の医療スタッフから認知されることが重要と考える.一方,クリティカルパス(critical path,CP)は病院経営の効率化や医療費の適正化のみならず,チーム医療の推進,医療の質の向上を目的に急速に普及しつつある.それ故に,われわれが生き残るひとつの手段として,このCPへの積極的な参画が必要ではなかろうか.

 当院臨床検査部は,1993年より病棟派遣臨床検査技師(病棟派遣技師)を設立し,チーム医療の一環として積極的に取り組んできた1).そのなかの業務の一つとしてCPへの参画が挙げられる.ここでは,当院臨床検査部が積極的に取り組んできた,CPに基づいた糖尿病教育入院への参画を例として取り上げてみたい.

復習のページ

抗酸菌染色

著者: 久保勢津子

ページ範囲:P.658 - P.660

 はじめに

 抗酸菌染色には,一般的に広く実施されているチール-ネールゼン法(Ziehl-Neelsen method)やキニヨン法(Kinyoun method),蛍光法があります.塩基性フクシンで赤色に染色される菌は抗酸菌と呼ばれ,Mycobacterium,Nocardia,Rhodococcusなどが含まれます.なかでもMycobacterium tuberculosis(結核菌)は肺結核などを引き起こし臨床上重要で,喀痰の抗酸菌染色でそれらしいと判明したとたん,排菌中ということで他の人への感染の危険性から,また入院中であれば院内感染を起こすと大騒ぎとなることも珍しいことではないのです.それだけに簡単,迅速なこの検査は検査室にとっても大変有益な検査と考えられています.

 しかし,教科書や先輩から習ったとおりに実施しても,検査材料の多様な品質,その検査にかかわるいろいろな要素から検査診断に誤った結果を与えていることもあるようです.検査に慣れたらもう一度「自己流の変法」になっていないか再確認してください.ここでは代表的なチール-ネールゼン染色を日常行っていて遭遇した出来事を紹介します.

トピックス

新たなRA特異的自己抗体―抗CCP抗体

著者: 石原康

ページ範囲:P.677 - P.678

 はじめに

 関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)は人口の1%程度の罹患率とされ,全身性の自己免疫疾患のうち最も患者数の多い疾患である.日本国内では約60~70万人の患者がいると推定されている.近年,メソトレキセートなどの抗リウマチ薬に加え,抗TNFα抗体などの生物製剤が開発されRAの進行を抑制することが可能になってきた.RAの関節破壊は発症初期から進行し始めるとされ,いかに早期にRAを診断して適切な治療を開始できるかが重要である.

 RAの診断は米国リウマチ学会の診断基準(表1)に沿って行われ,血清学的な指標としてリウマチ因子(rheumatoid factor,RF)が含まれている.RFはRA患者の7割程度に検出されるが,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,SLE)などRA以外の疾患でも陽性を示すことが多い.このためRAの鑑別診断に際しての有用性は高いとはいえない.今回紹介する抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide,以下,抗CCP抗体)は,RFと同等の臨床的感度を持ちながらRAに対する高い疾患特異性を示す新たな血清学的マーカーとして注目されている自己抗体である.

耐熱性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼの発見とD-マンノース測定への応用

著者: 西矢芳昭 ,   田村範子 ,   田村具博

ページ範囲:P.679 - P.681

 はじめに

 近年,DNA配列決定方法の進歩とともにゲノムプロジェクトが加速的に進行した.その結果として,細菌を筆頭とする種々の生物の全ゲノム配列が既に決定されている(細菌―約150,始原菌―約20,真核生物―約30).これらの配列データはデータベースとして公開されており,インターネットを介して参照できるため,酵素開発に積極的に応用しなくてはもったいない.DNA配列データベースは,まさに宝の山といえる.膨大な量の機能未知蛋白質遺伝子が掲載されており,その中には新しい反応を触媒する酵素,従来とはかなり特性の異なる酵素が数多く含まれるはずである.さらには,診断用酵素として実用的なものも少なくないと予想される.

 従来の診断用酵素の開発は,以下の流れ(スクリーニング法)で行われてきた.

 (1)自然界の生物から有用酵素をスクリーニングする.

 (2)酵素特性を調べ,診断薬への応用を検討する.

 (3)遺伝子工学技術により生産性を上げる.

それに対し,新たな開発の流れとして以下の方法〔バーチャルスクリーニング法,virtual screening(VS)法〕が選択できるようになった.

 (1)データベースを解析して有用酵素の候補を選択する.

 (2)遺伝子工学技術により蛋白質を生産し,特性を調べる.

 (3)診断薬への応用を検討する.

いうまでもなく,VS法では,データベース上の膨大な機能未知蛋白質の中からどのように候補を選択するかがポイントとなる.

 われわれは,1997年に枯草菌全ゲノム配列が決定された後,その配列解析からグリシンオキシダーゼという新規診断用酵素を1998年に発見することができた1).VS法による診断用酵素の開発をさらに押し進めるため,現在,われわれは好熱好酸性始原菌Thermoplasma acidophilumを対象とした実用的酵素の探索を実施している.T. acidophilumは全ゲノム配列が決定され2),ゲノムサイズは1.56×106塩基対,1,509個の推定遺伝子から成り,データベース上で検索可能である.また,中等度に好熱性で,生育適温は55~60°Cなので,細菌のBacillus stearothermophilusなどと同様に診断用酵素の給源としてふさわしいと思われた.なお,生育pHは0.5~4だが,菌体内は中性付近に保たれており,菌体内酵素であれば特性的に問題はない.

 本稿では,VS法によりT. acidophilumから新たに発見した耐熱性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼと,その臨床検査への応用の可能性について述べる.

失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

固定時に生ずるアーティファクト 固定不良による内部と辺縁部の染色性の違い

著者: 阿部仁

ページ範囲:P.662 - P.665

 摘出された臓器は自家融解を避けるためできるだけ早く固定液に浸漬すべきである.図1は小脳のヘマトキシリン-エオジン染色(hemato-xyline-eosin stain,HE染色)で,摘出後すぐに20%ホルマリン液で固定した.それにもかかわらず,内部の顆粒層では核が自己融解による変性で泡沫状となりヘマトキシリンに染色されていない(図1-a).一方,辺縁部の顆粒層では核の染色も良好である(図1-b).なぜこのような染色性の違いが生ずるのだろうか.脳のような大きな臓器にだけ染色性の違いが生ずるのだろうか.考えられる原因についてさまざまな実例を挙げて説明する.

考えられる原因

 1 . 臓器に割を入れないで丸ごと固定液中に放置した場合

染色法各論 鍍銀染色

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.666 - P.668

標本は好銀線維染色として用いられている渡辺の鍍銀染色標本である.図1は組織が割れた状態で間隙が平行に多数見られる.図2は膠原線維と細網線維との色分けができていない標本である.いずれもアーティファクトの見られる不良標本である.

考えられる原因

 1 . 薄切不良

 ブロックを冷やして薄切する処理はパラフィンの硬度を増加させ薄切効率を上げるために行われる.3μm程度の切片厚では問題はないが,支持組織を観察するような6~8μmの厚い切片が必要となる場合にはブロックを冷やした状態のまま薄切を行うと硬度が増した分もろくなり,ミクロトーム刃と平行に亀裂が生じ,伸展・貼り付けすると間隙となって観察される(図1).

検査じょうほう室 血液 血液染色のコツ

エステラーゼ染色

著者: 阿南建一

ページ範囲:P.648 - P.653

 はじめに

 エステラーゼ(esterase,EST)は各種エステルを水解する酵素であり,それを応用したEST染色は用いる基質により非特異的エステラーゼ(non specific esterase,N-EST)と特異的エステラーゼ(specific esterase,S-EST)とに分けられる.N-ESTはブチレート(butyrate)やアセテート(acetate)のような比較的短鎖のエステルを好んで水解するものであり,一方S-ESTはナフトールASDクロロアセテート(naphthol AS-D chloroacetate,N-ASDCA)などの長鎖のエステルを水解する酵素である.

生化学:おさえておきたい生化学の知識

尿アルブミンの保存容器への非特異吸着とその解決への試み

著者: 原文子 ,   芝紀代子

ページ範囲:P.654 - P.656

 はじめに

 尿中微量蛋白質は糖尿病性腎症の早期診断や病態の把握,指標として日常検査で測定されるようになった.また,保存条件により測定値が影響を受け,短期間であれば4°C,長期にわたる場合は,-80°Cが安定であることも知られている.これまでわれわれは尿中微量アルブミンを中心に,保存条件による保存用チューブ内面への吸着について明らかにし,吸着を回避する手段について開発を進めている研究室やメーカーとも共同研究を進めてきた.

 今回,蛋白質無吸着処理,および未処理保存用チューブを用いて,患者尿検体におけるアルブミン量とチューブ内面へのアルブミン吸着量とを比較したところ,蛋白質無吸着処理チューブの効果が特に低濃度において明らかであることが推察されたので紹介する.

ラボクイズ

寄生虫[1]

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.632 - P.632

問題1 症例1:53歳,男性

 図1の寄生虫卵は,中国南部で会社経営に従事していた53歳の男性が日本に一時帰国し,人間ドック受診時に採取した糞便から検出された.糞便検査はMGL法(406th Medical General Laboratory method)で,検出された虫卵の数が少なくEPG(eggs per gram)値は得られなかった.エコーでは胆嚢ポリープが認められ,問診票には空腹時に腹部の痛みがあると記載があるが,ほかに特記すべき症状や病歴はない.

 この寄生虫は下記のどれか.

 (1)横川吸虫

 (2)肝吸虫

 (3)日本海裂頭条虫卵

 (4)肝蛭

 (5)有害異形吸虫

6月号の解答と解説

著者: 牟田正一

ページ範囲:P.633 - P.633

【問題1】 解答:(3)c,d

 問題の図には球状赤血球と大型の多染性赤血球の出現が見られ大小不同症を呈している.大型多染性赤血球は網赤血球に相当し赤血球の造血亢進が考えられ溶血性貧血が示唆される.

 球状赤血球とはロマノフスキー染色(Romanowsky stain)標本では中心淡明部を欠き厚みは増しているが,直径は減少しており,小円形状で全体がヘモグロビン(Hb)の色調に濃染している赤血球である.正常赤血球と比較すると表面積/体積比が減少しているのでMCHC(mean corpuscular hemoglobin concentration,平均赤血球ヘモグロビン濃度)が高く高色素性のことが多い.このような赤血球は変形能が悪く,浸透圧抵抗も低下しているので脾臓内の髄索やさらに狭い内皮細胞間隙を通過するのに長時間を要するか,あるいは脱出できず,髄索内でマクロファージに貪食され血管外溶血が起こる.

けんさ質問箱Q&A

内因性インスリン分泌能の指標としてのCPRとは

著者: 原納優

ページ範囲:P.670 - P.671

Q内因性インスリン分泌能の指標としての CPRとは

本誌vol.30,no.4の「糖尿病」(病気のはなし-原納論文)で「CPRは内因性インスリン分泌能の指標」とあります.このCPRについて意義,測定法などを教えてください.(長野市 K. A.生)

A原納 優 はらのう ゆたか*2

 CPR(C-peptide immunoreactivity,免疫活性Cペプタイド)はインスリンが分泌される過程で,まず合成されるプロインスリンから,C-ペプタイド(connecting peptide)が外れ,インスリンが生成される.血糖が上昇し,インスリンが分泌されるが,その際インスリンとC-ペプタイドとが1:1の比率で分泌される.

放射線大量被曝による放射線障害の所見とその検出法は

著者: 篠塚明

ページ範囲:P.671 - P.676

Q曝による放射線障害の所見とその検出法は

放射線の大量被曝により急性の放射線障害を生じたときの症状と検査所見を教えてください.また,軽微な放射線障害を検出できるスクリーニング検査があれば教えてください.(仙台市 H. S.生)

A篠塚 明 しのづか あきら*

 はじめに

 放射線大量被曝は原子炉事故などで発生することが多く,死亡例も多く報告されている.1986年に起こった旧ソヴィエト連邦のチェルノブイリ原発事故は有名であり,また1999年9月に発生した茨城県東海村の核燃料加工施設JCOでの臨界事故による従業員の大量被曝はまだ記憶に新しいところである.この事故ではわが国で初めて2名の死亡者が出ている.しかし,このような大事故でなくても放射線発生装置や密封RI線源の取り扱いミスなどによる局所の大量被曝事故はときどき発生している.

 放射線被曝は全身被曝と局所被曝,1回大量被曝と長期間持続被曝でその影響は大きく異なる.ここでは紙面の関係から,主に1回大量全身被曝による身体的障害所見と放射線障害の検出法とについて簡単に解説する.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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