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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術33巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

細菌性赤痢

著者: 鴻池菜保 ,   大西健児

ページ範囲:P.100 - P.104

新しい知見

 発展途上国における年少者の死亡が問題となっているShigella flexneri感染症に対するワクチン開発が期待されている.1940年代からS. flexneriに対するワクチンの開発が行われていたものの,実用化には至っていなかった.腸の粘膜上皮細胞への侵入や細胞内での増殖に関わる因子など,S. flexneri感染症の病態生理や感染の防御に宿主の免疫反応が重要な役割を果たしていることが明らかになってきている現在,これらの知見は新たなワクチン開発に大きな影響を与えるであろう.

技術講座 血液

成熟好中球形態―正常と異常の見分けかたを中心に

著者: 丹羽欣正

ページ範囲:P.105 - P.110

新しい知見

 白血球分類は,現在多くの施設で一般的に実施されている.さらに,業務量の増大に伴い,フローサイトメトリーによる自動分類が検査システムの一端を担い,顕微鏡による形態的分類から白血球成分の分析へと変化してきている.しかし,自動白血球分類も現在のところ正常細胞に限られ,未熟好中球の検出および成熟好中球における形態異常の把握は,目視法による観察によって行われている.さらに,人の目に頼らざるを得ない成熟好中球の形態学的観察は,鏡検者の知識,経験により判定が左右され,一定の判定基準設定が要望されてきた.現在までの経過として,標準的判定基準設定を目指した日本臨床衛生検査技師会標準化委員会が推奨法を提案したが,完全なコンセンサスを得るに至らなかった.その後,この事業を確立するべく日本検査血液学会標準化委員会が引き続いて標準化作業に取り組んでいる.

病理

グルタール固定・エポキシ樹脂包埋ブロックを用いた免疫電顕法(矢野・加島法)

著者: 加島健司 ,   矢野信次 ,   駄阿勉 ,   横山繁生

ページ範囲:P.111 - P.114

新しい知見

 エポキシ樹脂包埋ブロックは専ら普通電子顕微鏡(以下,電顕)用であり,post-embedding法による免疫電子顕微鏡(以下,免疫電顕)での観察にはLR WhiteやLowicrylなどの低温重合樹脂が必要であった.エッチング処理などによって,エポキシ樹脂包埋ブロックを用いた免疫電顕での観察も試みられてきたが,十分な結果は得られていない.われわれは,超薄切片に抗原賦活処理を行うことによって,グルタール固定・エポキシ樹脂包埋ブロックを免疫電顕に供することに成功した.本法では,十分な免疫反応とともに,通常型電顕像と遜色ない超微細構造が得られる.さらに,過去に作製された未使用のエポキシ樹脂包埋ブロックにも応用可能である.

疾患と検査値の推移

バセドウ病と妊娠

著者: 𠮷村弘

ページ範囲:P.115 - P.120

バセドウ病とは

 1840年ドイツの医師バセドウ(Basedow)が頻脈,甲状腺腫,眼球突出を伴った4人の若い女性症例を報告した.長い間病因が不明であったが,1958年アダムズ(Adams)が甲状腺刺激物質を発見し,これがIgGであることより,バセドウ病が自己免疫性疾患であることが明らかになった.現在では甲状腺刺激ホルモン(thyroid-stimulating hormone,TSH)リセプター抗体(TRAb)が病因であると考えられている.

性比と発症年齢

 性比はおよそ1:4で女性に多い.初発年齢は20~30歳代であるが,社会の高齢化のためか50歳以上での発症例も増えている.

オピニオン

臨床検査技師の生涯教育

著者: 脇田智恵子

ページ範囲:P.121 - P.121

今日,臨床検査は量的・質的に著しい拡大を呈している.これに伴う,臨床検査技師(以下,検査技師)の業務の多様化は周知のごとくである.この結果,検査技師の知識・技能の質的向上は臨床の現場および社会的にも要求されている.専門職種としての知識・技術を高めるため,自らの意思により日々研鑽を積むことは臨床検査を担う者として当然のこととして個々の検査技師が考えていることであろう.資質の向上のための組織的な援助として日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)の生涯教育研修制度が1992年4月に発足した.施行期間を経て1995年4月から本格実施に移行し,1998年9月からは,一般教育研修課程と専門教育研修課程(管理運営課程・精度管理課程・遺伝子検査課程)の2課程となり同時に日臨技総合情報システム(Japanese Association of Medical Technologists Information System,以下,JAMTIS)構築により利便性に富んだ運用がなされている.

 教育研修の教科(カリキュラム)は,①基礎一般教科「A教科」,②基礎専門教科「B教科」,③臨床専門教科「C教科」,の3教科で構成されている.研修方式は「会場研修」と「自宅研修」の2とおりに区分され,自宅研修は「自己申告書」の提出を必要とする.研修成果と履修の到達度を客観的に評価するために研修対象および研修方式別の点数設定があり,1サイクル(3年間)で100点以上の履修点数を取得した日臨技会員に修了証書が発行される.この点数の内訳は A教科(15点以上)+B教科(25点以上)+C教科(60点以上)=合計100点以上 となっており,また,各教科のバランスが必須であると定義されている.専門教育研修課程の履修資格は一般教育研修課程を1サイクル以上修了した者とされ,一般教育研修課程の並行履修が義務となっている.生涯教育の基本が「自己研鑽」であることは当然であり,生涯教育の必要性を啓蒙するうえでは組織的援助制度といえる.修了証書発行の是非を論ずるわけではない.むしろ客観的な平等評価として認知度は高いと考える.しかしながら,修了証書獲得に対して何も評価されていない現状を鑑みると単なる自己認識の領域を脱していないのではないだろうかと思える.履修点数獲得の一例として,日本臨床細胞学会認定資格である細胞検査士の場合,4年間の履修点数の到達度が次期の資格更新に大きなウェイトを占めている.学会参加,発表,研修会出席,セミナー参加,論文投稿などそれぞれの積極的な参加による履修制度が大きな柱となっている.輸血認定技師,超音波認定技師なども類似の履修制度を有している.

絵で見る免疫学 基礎編62

免疫記憶細胞(2) 記憶T細胞の素顔

著者: 高木淳 ,   玉井一

ページ範囲:P.124 - P.125

犯人の捜査は犯人の特徴や住処などが記されている指名手配書を基にして彼が最も立ち寄りそうな場所から始めるであろう.記憶細胞の捜索は難航しなかなかその正体を見破ることができなかった.初感染により誘導された感作リンパ球が二回目の感染が起こるまで長寿を保っていることはよく知られていた.例えばワクチン投与による血清抗体価の持続時間から天然痘75年,はしか65年,黄熱病75年,ポリオ40年の間抗原の再感作なしにその抗体が維持されるという現象から記憶細胞の存在は推定されていたが,ナイーブT細胞,細胞障害性T細胞と記憶T細胞とを明確に区別することができなかった.

記憶 T細胞の素顔

 現在ナイーブT細胞,細胞障害性T細胞と記憶T細胞の素顔の解明はどこまで進んだのであろうか.最近CD45と呼ばれる細胞内に信号を送るレセプターの発現の有無が素顔の解明に大きな手がかりとなった.CD45にはRA型とRO型とがあり,ナイーブT細胞はRA型で,TCR(T cell receptor,T細胞受容体)から離れて発現されているが,細胞障害性T細胞と記憶T細胞とはTCRに凝集した形と機能が異なるRO型を持っており,TCRのシグナル伝達がされやすくなっている(図-b).したがって,ナイーブT細胞の区別はできるが,細胞障害性T細胞と記憶T細胞はともにCD45のRO型を発現しているので両者を区別することができなかった.

ワンポイントアドバイス

簡単な髄液細胞塗抹標本作製法とそのコツ

著者: 保科ひづる

ページ範囲:P.160 - P.160

サムソン液(Samson solution)による計算盤を用いた細胞分類は限界があり熟練を要しますが,髄液細胞塗抹標本を作製することで細胞の確認や観察がしやすく,鑑別や診断の補助となります.今回紹介する方法は,サイトスピンやオートスメアなどの特殊な集細胞機器を用いることもなく,尿沈渣と同様に遠心することにより,髄液の集細胞塗抹標本を作製することができます.作製した標本は固定法により,ライト-ギムザ染色(Wright-Giemsa stain),メイ-ギムザ染色(May-Giemsa stain),ペルオキシダーゼ染色などいろいろな染色が可能です.また,不要になった髄液上清に少量の血液(白血球)を入れ,練習してみるとよいでしょう.

 注 意

 標本作製は検体提出後直ちに行うこと.

けんさアラカルト

―異常値となるメカニズム 1.酵素検査異常値とアノマリーの事例・2―ALP結合免疫グロブリン

著者: 堀井康司

ページ範囲:P.150 - P.151

血清アイソザイム分析中に認められる異常活性には酵素結合性免疫グロブリンによるものが少なからず存在する.この異常の原因は自己の酵素と結合する異常な免疫グロブリンであり,酵素の異常ではない.このことは酵素との結合を乖離させた免疫グロブリンに他人の酵素を添加して結合が復活することから証明される.

 結合する酵素には多くのものが知られており,今回取り上げるアルカリ性フォスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)結合免疫グロブリンもその一つである.

血漿中セロトニン測定

著者: 廣渡祐史 ,   原克子 ,   髙橋伯夫

ページ範囲:P.152 - P.153

はじめに

 日本人の死因の第一位は悪性新生物(がん)である.そして,「動脈硬化性疾患」である心疾患と脳血管疾患が,第二位,第三位と続き,この二疾病を合わせるとがんを抜いて第一位となる.動脈硬化は血管の病気であり,高コレステロール血症,糖尿病,高血圧などの状態が持続すると,それとともに発症および進展すると考えられている.

 動脈硬化では血管内皮細胞に障害が生じる.血管内皮の障害部位では,血管内皮細胞が剝離しコラーゲンが露出することにより,血小板が活性化されα顆粒および濃染顆粒から種々の血液凝固促進因子が放出される.これらの血小板から放出される物質の血液中濃度は,動脈硬化性疾患の病態把握に有用な情報を与えてくれると考えられる.α顆粒から放出される血小板第4因子,βトロンボグロブリンについては,検査方法が確立されているが,安定した測定値を得るためには煩雑な採血手技が必要なことから,臨床の現場で幅広く使用されるに至っていない.

 われわれは,濃染顆粒から放出されるセロトニンについて,採血法,測定法を検討し,安定的に測定できる手法を開発した1).そして,動脈硬化性疾患の代表的存在である冠動脈疾患患者において,乏血小板血漿(platelet-poor plasma,以下,単に血漿と記述する.)のセロトニン値を検討した1,2).その結果を紹介する.

今月の表紙

百聞は一見に如かず・14 筋肉のはなし

著者: 松谷章司

ページ範囲:P.149 - P.149

運動不足から筋肉の衰えを最近感じています.元プロ野球選手だったOBが集まって野球をしているのを見るにつけ,ごくわずかな現役顔負けの選手を除くと,かつてのヒーローの面影ないプレー,ほとんどビヤ樽化した体形,人間こうも変わるものかと驚かされます.スポーツ選手でさえあれだから,あまり鍛えることのなかった一般人が中年を過ぎて多少(?)体形変化してもまあ許される範囲ではないだろうかと慰めています.さて,余談はそれまでとして,本号は骨格筋を組織学的に眺めてみましょう.

 骨格筋線維には,ご存じのとおり横紋が存在します.この横紋を構成する要素は筋原線維(myofibril)の暗く見えるA帯(anisotropic band)と明るく見えるI帯(isotropic band)とから成り,A帯の中央はやや明るく,H帯(Hensen's stripe)と呼ばれ,その中央にはM線(Mittelsheibe)があります.I帯の中央にはZ線(Zwischenscheibe)があります.I帯は筋が収縮すると消失し,弛緩すると広がって見えます.

Laboratory Practice 生理 超音波像の読みかた

産科―心奇形を含む胎児奇形

著者: 湊川靖之 ,   名取道也 ,   左合治彦 ,   林聡

ページ範囲:P.128 - P.134

はじめに

 近年少子化が進むなか,胎児診断に対する社会の関心が高くなってきている.また,一部の疾患では胎児治療が行われ,胎児が治療対象として認識されるようになり,疾患の早期発見と正確な診断が求められるようになってきた.一方,最近の超音波診断装置の進歩は,分解能の高い画像を提供し,またドップラー法(Doppler method)による血流診断においても低流速域の血流の評価を可能にした.これらの進歩により,より詳細な胎児情報が得られるようになり,胎児超音波検査は胎児疾患の診断・管理になくてはならない技術となっている.しかし,胎児の超音波検査を行うに当たっては,胎児の解剖や生理,母体との位置関係などを理解し,超音波装置の適切な条件設定が必要である.

 本稿では,胎児超音波検査における,頭部・心臓・腹部の基本的な見方と,早期発見することにより胎児治療または新生児期の早期治療が可能なことから,これだけは発見したい先天性疾患を超音波画像とMRIとを合わせて解説する.

生化学 自動分析装置での検査データの質を上げるためのポイント

データからわかる装置の不具合とその対処のしかた

著者: 石田浩二

ページ範囲:P.135 - P.139

はじめに

 現在,診療前検査・緊急検査などで臨床検査結果を迅速に報告することが要求されてきているが,検査データの信頼性を高めることも大変重要である.そのために,それぞれの施設でいかに迅速にデータチェックを行い,再検査でデータを確認するかの工夫を行っている1).そこで異常データ発見のためのデータチェックから,装置の不具合による異常データを見つけだし,その影響となる装置の不具合の原因追求をどのように行い,対処したらよいかなどについて,筆者の経験から紹介する.

トピックス

糖尿病と歯周病

著者: 西村英紀

ページ範囲:P.171 - P.172

はじめに

 歯周病は糖尿病の第六番目の合併症としてとらえられている1).一方,われわれは逆にこうして発症した歯周病がsub-clinical rangeの慢性炎症としてインスリン感受性の低下をきたし,結果的に糖尿病の血糖コントロールに悪影響を及ぼすことを明らかにした2).いいかえるならば,糖尿病を発症した患者に対する効果的な歯周病治療は,糖尿病の管理の一環として非常に重要であるととらえることができる.ここでは,筆者らが糖尿病患者の歯周治療に際して,用いている臨床検査項目について概説する.

難治がんの早期診断マーカーの探索

著者: 本田一文 ,   山田哲司

ページ範囲:P.172 - P.174

はじめに

 進行がんの治療は現在利用可能な医療技術をもってしても治癒困難な場合は少なくない.高感度で高特異度を有する検出方法を用いて微小がんを発見し,早期に治療を開始する以外には,予後の改善に大きな期待が持てないのが現状である.そのためには,多数の被検者を効率よく非侵襲的にスクリーニングできる診断マーカーの開発が急務である.近年,バイオテクノロジーの基礎研究領域において急速な技術革新がなされ,蛋白質を全体としてとらえて研究するプロテオミクス技術が診断マーカーの探索法として注目を集めるようになってきた.プロテインチップと質量分析装置を組み合わせたSELDI-TOF-MS(surface-enhanced laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrometry,表面エンハンス型レーザー脱イオン化質量分析法)で得られた質量データを,機械学習アルゴリズムを用いて解析することにより,一見特異性がないように思われる血漿・血清中に含まれる蛋白質・ペプチドの数値データからも早期がんが高い判別率で診断できるという報告がなされている1)

 本稿ではSELDI-TOF-MSの原理,MSデータからのマーカー探索法,臨床検査への応用について述べる.

失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

検体採取に起因するアーティファクト―異物の混入

著者: 末吉徳芳

ページ範囲:P.154 - P.159

いったいこれは何なのだろう.初めて見るものばかりだが,新種の病原体だろうか.それとも…….

 (1)肝組織の切れ込み中に存在する網目状の異物は(図1)?

 (2)肝脈管中の異物は肝臓の目(図2)?

 (3)組織断端に細胞がへばり着いているが……(図3)?

どうする?パニック値 生化学

1.血中グルコース濃度異常値

著者: 竹越一博 ,   飯塚儀明

ページ範囲:P.126 - P.127

当院の基準

 70~110mg/dl(空腹時)

 1 . 生理的変動

 早朝空腹時の血中グルコース濃度(血糖値)は,測定法や検体の種類によって基準値が異なるが,男女ともに70~110mg/dlである.食後の血中グルコース濃度は食事の内容・量および運動の影響を受けるために明確な基準はないが,160mg/dlを超えることはない.明け方から食事を摂取しなくても一過性の血中グルコース濃度上昇がみられることがある.これは暁現象と呼ばれ,血中グルコース濃度上昇作用を有するホルモンの分泌によると考えられ生理的な現象である.新生児は低く30mg/dlまでは正常とされる.高齢者では血中グルコース濃度はやや上昇する.

 2 . 検体採取条件

 静脈血と動脈血では空腹時の差は少ないが,食後やグルコース負荷後は後者が10~20mg/dl高い.毛細管血(耳朶・指先)は動脈血に近い値を示す.

検査じょうほう室 生理:超音波検査のステップアップ

肝臓

著者: 来住野修

ページ範囲:P.140 - P.145

近年,超音波検査においてドプラ法(Doppler method)の発展に伴いその診断能は向上してきている.従来のBモード法では判断に苦慮した血管性病変の診断や腫瘍の鑑別診断や肝細胞癌の治療効果判定などにも利用されている.したがって腹部領域においても症例によっては,カラードプラ法(color Doppler method)やパワードプラ法(power Doppler method)を用いた検査は当然行わなければならない.ドプラ表示も一見スイッチ1つ押せば的確な血流情報が得られるように思えるが,われわれ検査者の技量・知識の有無により,得られる画像には大きな違いが生じてしまう.

 今回は,肝臓領域で行われるドプラ検査を中心にドプラ法の使用方法について述べる.一般的に,カラードプラを検査に併用する場合は,検査画像内に管腔像が観察されたときに,血管か胆管かを鑑別したい場合から,静脈瘤をはじめとする血管性病変や,腫瘤が存在したときに,その鑑別を目的として血流状態を観察することなどが多い.

血液:自動血球分析装置のフラッグ処理で困ったこと

装置オペレーターが注意すべきフラッグ

著者: 権藤和美 ,   田中由美子

ページ範囲:P.146 - P.148

はじめに

 当院では2003年12月より,XE-Alpha(XE-2100,SP-100),SISシステム(Sysmex社)を用いて末梢血検査を行っている.

 自動血球分析装置は現在も,非血小板粒子の混入や血小板凝集による血小板数の信頼性,異常細胞検出に関し問題点が多い1~3).当院ではこれら問題点の対策としてシステムを活用し検査誤報告防止に努めている.しかしフラッグが検体に起因するのではなく,測定装置の異常に起因して出現した場合,血液像を確認しても異常の原因が見いだせないことがある.このような場合,結果報告の遅延だけでなく誤報告につながることがあるため,早期発見と対応とが重要である.

 今回,約1年間の使用経験から,装置異常早期発見のためにオペレーターが注意すべきフラッグについて述べる.

臨床検査技師のための実践医療データベース論

第2章 データベース演習環境の構築―データベースサーバー編

著者: 片岡浩巳

ページ範囲:P.161 - P.166

はじめに

 「パソコンで使えるデータベースは?」と聞かれると,多くの人がAccessと答えるだろう.Windows95の発売以来,AccessがOffice製品にバンドルされたため,一般ユーザにもデータベースアプリケーションをパーソナルで活用する環境が整い普及し始めた.しかし,最近,Office製品にAccessがバンドルされてないバージョンがパソコンに標準搭載されることが多くなり,Accessが使える環境を持ったユーザが少なくなっている.このことが,一般ユーザでデータベースを使いこなせる人材が育成されない一因と考えられる.具体的には,Microsoft Office Personal EditionとMicrosoft Office Standard EditionにはAccessは付属しておらず,Microsoft Office Professional Editionにだけ付属しているため,購入時にどのアプリケーションプログラムが付属しているのか気がつかないユーザが多いようである.

 一方,データベース教育でAccessを利用するのはお薦めできない.Accessのグラフィックユーザインターフェイスを用いたクエリ(データベースへの質問)の作成法に慣れてしまうと,複雑なクエリを組むことができなくなってしまう問題がある.Accessのクエリ画面から「SQLビュー」を使って,SQL(Structured Query Language)で問い合わせを記述することもできるが,インタラクティブに操作するには使いにくい面がある.また,AccessのSQLはプログラミング上の正規表現ではない,いわゆる「方言」が強く,バージョンの互換性にも不安がある.

 今回は,Accessのような有料のソフトを利用せず,無料のソフトを利用して演習環境を構築する方法について解説する.パソコンを使って安価にデータベースを利用する方法は多数あり,本稿で紹介するMSDEやPostgreSQLなどが代表的な選択枝である.少し勉強すれば安価にデータベースの演習環境を整えることができる.本稿では,データベースのエンジン部分にMSDE(Microsoft Data Engine)を用い,SQLのユーザインターフェースとして,CSE(Common SQL Environment)を利用することにした.

 なお,データベースソフトには,IBM社のDB2,Microsoft社のSQL Server,Oracle社のOracleなどがある.また,ファイルメーカー社のFileMaker Proも多く利用され,非常に使いやすいソフトであるが,データベースとしての制約が不十分なため,今回の主題のデータベースを学ぶという目的にはお薦めできない.

ラボクイズ

尿沈渣 7

著者: 中島哲也 ,   増永純夫 ,   内藤愼二

ページ範囲:P.122 - P.122

症 例:5歳,女性(表1)

  問題1 この検査データを踏まえて,図1の細胞は下記のうちの何であるか.

 ①尿細管上皮細胞

 ②扁平上皮細胞

 ③移行上皮細胞

 ④卵円形脂肪体

 ⑤異型細胞

1月号の解答と解説

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.123 - P.123

【問題1】 解答:④ウエステルマン肺吸虫

解説:ウエステルマン肺吸虫の第一中間宿主はカワニナやカワザンショウガイ(図1)である.カワザンショウガイは河口の汽水域に生息する5mmに満たない小さな巻貝である.カワニナには多くの種類がありウエステルマン肺吸虫の中間宿主として,どのカワニナが重要であるかの研究報告は少ない.むしろ,ゲンジボタル幼虫の餌としての知名度が高い.

 都市近郊の河川整備に伴いカワニナをはじめ淡水貝類が移植され,ヘイケボタルやゲンジボタルの復活を試みる地域が増えている.ニホンカワニナ(図2)の生息域だった所に茨城県からヒタチチリメンカワニナが移植されるなど,本来の生態系を考慮しないことが多い.海から近い河川ではモクズガニの復活に力を注ぎ他河川から移植する地域もある.第二中間宿のモクズガニやザリガニは食に供されていた時代が長かった.昭和30年代,静岡県狩野川流域はモクズガニを常食する家庭が多く,ウエステルマン肺吸虫患者が多かった記録が残されている.汽水域が化学物質汚染のない水圏環境だった時代,ウエステルマン肺吸虫の終宿主のヒトは,イタチ,イノシシ,タヌキとともに自然に溶け込んでいたようである.

けんさ質問箱Q&A

スクリーニング検査でAPTTのみが軽度延長している理由は

著者: 新井盛大

ページ範囲:P.167 - P.169

術前検査でPT(prothrombin time,プロトロンビン時間),APTT(activated partial thromboplastin,活性化部分トロンボプラスチン時間)を測定したときに稀にAPTTのみが正常40~45秒と,軽度延長する例があります.これにはどのようなことが考えられるのでしょうか,教えてください.(郡山市 A.Y.生)

基準値

 APTT検査は標準化されていないので,試薬メーカーやロットの違いにより測定秒数は変動します.標準血漿の基準対照値は30秒前後(25~35秒)のことが多く,おおよその基準範囲は,対照値±25%(30秒のときには22.5~37.5秒)となります.したがって,質問のようにPTが基準範囲でAPTTが40秒以上の場合には,表1のような疾患・病態を念頭において検査を進める必要があります.

尿中脂肪球は上清にあるのでは

著者: 油野友二

ページ範囲:P.169 - P.170

尿沈渣に関する成書では「沈渣物に染色液を加えて鏡検する」とあります.しかし「脂肪」球ですからどうしても沈渣ではなく,上清に混じっていると思ってしまいます.どうして沈渣で鏡検するのでしょうか.併せて脂肪球を上手に見つける方法があれば教えてください.(東大阪市 K.F.生)

尿中脂肪球とは

 尿中脂肪球とは,一般的に大小不同の球状で光屈折の見られる油滴状の成分を示す.尿中で脂肪滴の出現を認める場合としては,高蛋白尿と低蛋白血症とをきたしたときに卵円形脂肪体とともに観察されることが最も多いと考える.このような状態を臨床症候分類ではネフローゼ症候群と呼ぶ.ネフローゼ症候群などで見られる卵円形脂肪体や脂肪球の生成機序は,次のように考えられる.糸球体での血漿蛋白質の透過性亢進によりアルブミンが糸球体を通過するときに,血清中のリポ蛋白質(ネフローゼ症候群では高脂血症を多くは伴うが)も基底膜を通過し一部は尿細管で再吸収される.再吸収されたリポ蛋白質は尿細管上皮細胞中で代謝され,コレステロールやコレステロールエステルが生成されて脂肪球として細胞に沈着し,これが細胞から放出された場合に脂肪球となり,この細胞が脱落したものが卵円形脂肪体であると考えられている1).また大食細胞が脂肪球を貪食し卵円形脂肪体類似の形態を示し,その周囲に脂肪球を認める場合もある.

コーヒーブレイク

二度と同じものは得られない

著者: 山中喜代治

ページ範囲:P.175 - P.175

ある微生物関連の研究論文を発表した著者に対し,他の研究者がその研究に使った菌株の分与依頼をしました.すぐに返事が届きましたが,その文面には「ご依頼の菌はもうありませんが,同じ菌が今でも分離されていますので,後日送ります.」とあったそうです.この手紙を読んだ研究者はすごく驚き,嘆きました.おわかりのように,大切な菌株を保存していなかったことでせっかくの研究を裏付ける証拠をなくしていること,そしてそれ以上に菌株の意味を理解していなかったことで嘆いたものと推察されます.

 「菌株」とは,一匹の細胞から分化し原則的に親細胞と同じ遺伝形質を備えた子孫の集団であり,他と区別するための表示(番号など)を付けた培養物を継代または保存した状態をいいます.つまり菌株には菌種名,分離年月日,患者,検体種類,分離者,研究歴などの由来が附随します.したがってその培養物は分離培地(一般的には検査材料を直接培養する培地を指します)平板上の独立集落から釣菌して純粋に養い育てたものであり,仮に同一菌種で親細胞が同じであろうと推察できる集落が,同じ平板上に見られたとしても,分離培地上の集落はすべて異なるものとみなします.もちろん,分離培地平板上に1種類と思われる集落が多数出現した場合や血液など本来無菌の体液からの分離集落では,その親細胞は同一である可能性は高いわけですが,体内での増殖状態を直接見ているわけではなく,混乱を避けるために原則としてこのような定義を設けています.ですから,同じ検体種類であったとしても異なる時間に分離したものは当然同一培養物とはいえないことになり,ましてや化学療法の過程で起こる菌株の変化を考えると,同一菌株の再分離などあろうわけがありません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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