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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術34巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

病気のはなし

妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)

著者: 永井洋子

ページ範囲:P.6 - P.11

新しい知見

 妊婦の三大死因の一つであり産科領域で非常に重要な疾患である“妊娠中毒症”(toxemia of pregnancy)は,わが国で長年使い慣れてきたその名称を妊娠高血圧症候群(pregnancy induced hypertension,PIH)と変え,その定義,診断基準,分類も大きく変わった.高血圧,蛋白尿,浮腫の三つを同等の重みで取り扱う立場から,蛋白尿のみ,浮腫のみのものは診断基準から除外し,高血圧がこの疾患の主体であるという立場に変え,諸外国に通じる普遍的な分類になったと考えられる(表1)1)

前立腺癌

著者: 中村真樹 ,   亀山周二

ページ範囲:P.12 - P.16

新しい知見

 前立腺小線源治療(ブラキセラピー):長さ4.5mm,直径0.8mmのチタンカプセルにヨウ素125が充塡された密封小線源を,超音波ガイド下に前立腺に30~50本刺入し組織内照射を行う治療法である.わが国においては2003年9月より治療が実施されており,2005年2月現在,全国26施設で実施され,1,040人が治療を受けている.米国では前立腺癌患者の約半数が小線源治療を受けており,2002年には58,000件実施されている.前立腺を三次元的に解析して刺入部位を決定することで適切な線量計画を立てられるため,より高い線量を,周囲への副作用を少なく照射できることが長所である.適応は比較的早期の前立腺癌に限られている.

技術講座 病理

ティッシュマイクロアレイパラフィンブロック作製の工夫

著者: 矢澤卓也 ,   池田雅一 ,   北村均

ページ範囲:P.17 - P.21

新しい知見

 1枚のパラフィン切片内に,多数の微小な組織が整然と配列されている未染色標本を常備しておくと,新しい抗体などのスクリーニング用切片,コントロール用切片として大変便利である.その利点は1回の染色で多数の組織を同一条件下で処理できること,観察時に組織間の移動がスムーズで比較を行いやすいこと,試薬などの節約ができることなどが挙げられる.このような切片を得るためのティッシュマイクロアレイパラフィンブロックは,集めたブロックから市販されている専用の機器を使用して作製するのが一般的と思われるが,このような専用の機器がない場合でも,身近な器具を工夫して低コストで自作することができる.

免疫血清

補体価と補体成分の検査

著者: 今福裕司

ページ範囲:P.23 - P.27

新しい知見

 補体に関する新しい知見として臨床検査関連のものと,基礎研究のものとに分けることができよう.臨床検査関連としては,例えばSLE(systemic lupus erythematosus,全身性エリテマトーデス)の活動性マーカーとしての網状赤血球上C4d測定の有用性について報告が最近なされている1).今日,補体関連成分の多くが測定可能であるが,日常臨床検査では従来からのCH50,C3,C4で十分であると考えられる.また基礎研究の知見は多く,例えば最近X線結晶構造解析によりC3およびC3cの立体構造が明らかにされ,そこから種々の構造機能関連の知見がもたらされた2).補体3経路のなかでも最も新しく発見されたレクチン経路についても多くの知見が集積されつつある3)

一般

尿中好酸球の見かたとその臨床的意義

著者: 宿谷賢一 ,   田中雅美 ,   下澤達雄

ページ範囲:P.29 - P.33

新しい知見

 腎・泌尿器系の炎症性疾患では,尿中白血球の増加はよく認められ,詳細に白血球分画を確認することは病態解析の手がかりになり臨床的意義も大きい.

 近年,尿沈渣検査で直接的に尿中好酸球を染色することが可能になり,また,尿沈渣検査法2000(JCCLS GP1-P3)の発刊により尿沈渣鏡検の技術の向上も加わり,日常検査において尿中好酸球が容易に検出されるようになりつつある.

疾患と検査値の推移

ARDS(急性呼吸促迫症候群)

著者: 立石順久 ,   平澤博之 ,   松田兼一

ページ範囲:P.37 - P.42

疾患概念

 急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome,ARDS)は重症肺炎や敗血症,外傷など種々の侵襲の結果生じ,肺の急性炎症と毛細血管の透過性亢進とによる肺水腫を特徴とする症候群である.診断基準としては1994年にAmerican-European Consensus Conferenceにおいて発表された定義(表1)1)が広く用いられている.また,前記の条件のうち動脈血酸素分圧/吸入酸素濃度(Pao2/FIo2,P/F)比を300以下と緩やかにしたものを急性肺障害(acute lung injury,ALI)と定義し,ARDSはそのなかでもP/F比200以下と低酸素血症の程度が重篤なものと認識されるようになった.日本呼吸療法医学会の報告2)ではわが国での発症頻度は1.7人/10万人/年程度,死亡率は61.3%とされており,いまだ治療困難な病態である.

病 態

 侵襲に対して生体は防御反応として炎症反応を呈する.マクロファージなどの免疫担当細胞はサイトカインをはじめとするメディエーターを産生するが,これらが過剰となり血中に吸収され全身をめぐると,炎症は局所にとどまらずに全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)を引き起こす.ARDSも同様に過剰な炎症の結果発症すると考えられている.ARDSを引き起こすきっかけとなる侵襲は大きく分けて肺そのものに対する直接的侵襲と,全身の炎症が肺に波及した間接的侵襲とに分けられる(表2).いずれの場合でも,過剰産生されたTNF(tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子)-α,IL(interleukin,インターロイキン)-1βなどの炎症性サイトカインの刺激によって活性化されたマクロファージなどから産生される,IL-8をはじめとする好中球活性化作用を持つメディエーターが,好中球の肺への集積と肺毛細血管内皮細胞への接着とを引き起こし,そこで放出される蛋白分解酵素や活性酸素などが肺胞上皮細胞や肺毛細血管内皮細胞の障害を進行させる.これにより,当初は肺血管透過性の亢進から肺間質の浮腫と肺胞の虚脱とが起こる.肺障害の高度な症例ではこのとき,病理学的には硝子膜形成を特徴とするびまん性肺胞障害を呈する.このような状態が遷延すると肺の線維化が起こり,不可逆的となる.

オピニオン

臨床検査技師の未来像

著者: 杉島節夫

ページ範囲:P.22 - P.22

 現在の社会は,機械化,自動化,コンピューター化さらにはロボット化と,とどまるところを知らない発展を遂げている.臨床検査業務も,臨床検査技師法が施行された昭和40年代から50年代の当時には,ほとんどの検査が用手法で行われていた.しかし,現在ではその当時には考えもつかなかった自動分析装置による検査業務の自動化,各種検査機器の高性能化,さらにはコンピューター化によるオーダリング・システム,ペーパーレス化,電子カルテの導入など,この数年すさまじいほどの勢いで進歩している.

 また,近年は少子高齢社会,情報社会,多文化共生社会の到来で医療を取り巻く環境は厳しく,医療行政においても経済不況よる税収の不足と高齢化による医療費の増加などを背景に,医療保険の自己負担の増額,保険点数の再三の見直し,検診業務の縮小さらには大学病院をはじめとした特定機能病院でのDPC(diagnostic procedure combination,診断群分類包括評価制度)が始まり,医療費抑制の波は徐々に一般医療機関へも波及していくと思われる.

ワンポイントアドバイス

―ISO15189認定登録のポイント・5 第5回―ISO15189認定登録に必要なこと(その4)(全5回)

著者: 苅谷文雄

ページ範囲:P.66 - P.67

 前回までは,「ISO15189認定登録に必要なこと」として,特に品質マネジメントシステム構築の考えかた,文書,記録の整備,要員の力量評価に焦点を当てて説明した.

 本シリーズの最終回として,品質マネジメントシステムの運用,あるいは検査業務を遂行するうえで不具合が生じた場合の処置のポイントについて説明する.

けんさアラカルト

タイにおけるHIV感染とAIDSの現状・対策―Advanced Epidemiology and HIV/AIDS Training Course for Japanese and ASEAN Medical Expert, February 2 - 27,2004に参加して

著者: 中島康仁

ページ範囲:P.74 - P.76

はじめに

「第15回国際エイズ会議」が「Access for ALL万人へのアクセス」をテーマとして2004年7月11日(日)から7月16日(土)までの6日間,タイ国はバンコクで開催された.この会議の模様は多くの新聞やさまざまなメディアで日本にも紹介された.タイはアジアで初めて大規模なHIV(human immunodeficiency virus,ヒト免疫不全ウイルス)感染流行を経験しており,比較的早期に感染拡大を抑えることに成功している.そのタイ国に筆者は2004年2月2日~27日まで国際厚生事業団(Japan International Corporation of Welfare Services,JICWELS)が主催する国際保健医療協力派遣専門家研修疫学・HIV/AIDS(acquired immunodeficiency syndrome,後天性免疫不全症候群)分野コースに参加し,HIV/AIDSの感染状況・対策について研修を受ける機会を得た.この研修からタイのAIDS対策を振り返り日本のHIV/AIDS感染対策について考えてみたい.

今月の表紙

急性骨髄性白血病FAB分類M0

著者: 東克巳

ページ範囲:P.28 - P.28

 急性白血病分類の一つにFAB(French American British)分類がある.FAB分類は当初,どこの施設でも実施可能な普通染色と簡単な細胞化学染色を主体に細胞形態を重視した分類方法であった.しかしながら,FAB分類でも細胞形態だけから造血器腫瘍を正確に分類することには限度があるとされ,細胞表面抗原や電子顕微鏡検索による手法を取り入れ分類する方法へと変遷した.

 造血器腫瘍細胞に対する検索は分子生物学の発展とともに加速度的に進歩した.また,現在,その治療には分子標的治療が行われるようになり,腫瘍細胞の正確で詳細なキャラクターの把握が要求されてきている.

ラボクイズ

尿沈渣9

著者: 吉澤梨津好

ページ範囲:P.34 - P.34

問題1 症例1:62歳,女性

 高血圧,高脂血症のため外来で経過観察中に図1-a,bの細胞成分を認めた.表1は図1-a,bの成分を検出した際の尿検査結果である.

 図1-a,bに示す尿沈渣成分は何か?

2005年12月号の解答と解説

著者: 吉野一敬

ページ範囲:P.35 - P.35

【問題1】 解答:(4)結核性肺炎の膿胸

解説:結核菌膿胸による胸水です.ただこれは結核菌による乾酪壊死を覆っていた膜が破れその内容が貯留した胸水に溶け出したものなので,白血球など炎症細胞はほとんどありません.写真ではよくわかりませんが乾酪壊死部分が溶け出してきたようなオカラ様の沈澱物があるのが特徴です.もちろんこの胸水の沈渣をチール-ネルゼン染色(Ziehl-Neelsen stain)することで抗酸菌が染色されました.液状の検体として検査室に提出される検体で結核菌が検出されるものは少ないのですが胸水は例外的に結核菌検出の可能性が大きいのです.白濁~茶色に濁った胸水が検体として提出されてきた場合は結核菌検出の可能性があることを常に頭に入れておかなければなりません(図1,2).

どうする?パニック値 血液

7.赤血球形態異常

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.68 - P.69

 赤血球形態の異常のうち,治療を急ぐ本当の意味でのパニック値に相当する代表的なものは破砕赤血球である.しかし本稿では診断や病態把握に特異性が高く有益な赤血球形態も,医師に強いインパクトを与えるため速報の対象とした.

当院の基準

 以下の形態は速報の対象となりうる.当院では赤血球形態について明確に基準を設け速報しているものはないが,以下の1 . の破砕赤血球は速報することが多い.いずれの形態異常もCBC(complete blood count,全血球計算),場合により凝固検査,生化学的検査を合わせて報告する.

検査室の安全管理・10

生体試料の取り扱いと倫理 その1 血液・尿

著者: 池田斉

ページ範囲:P.59 - P.61

はじめに

 本シリーズは,「検査室の安全管理」というタイトルのもとで,複数の著者により執筆されている.主眼とするところは,近年定められたISO 15190(臨床検査室の安全に対する要求事項)に向けて,今後どのように対処すべきかということであろう.筆者に与えられたテーマは「生体試料の取り扱いと倫理」である.前半では,主として血液検体の採取から,分析,廃棄までの過程における注意点について述べる.資料としては,現在われわれの病院で実際に使用されているマニュアル1),および,文献として掲げた,「臨床検査の安全対策の実態と指針作成に関する研究.平成15年度―平成16年度総合研究報告書(渡辺清明編).厚生労働省科学研究費補助金医療技術評価総合研究事業.2005」を参考にした.後半では,検査終了後の検体(残余検体)を業務,教育,研究のために使用する場合の考えかた,倫理について,日本臨床検査医学会倫理委員会の見解を中心に述べることとする.

連載 失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

組織凍結の際に生じるアーティファクト―氷晶形成による組織の空胞化

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.62 - P.65

 こんなにたくさん穴のあいたような標本ができてしまった.

 図1,2は同一肝臓組織の凍結切片ヘマトキシリン-エオジン像である.図1は細胞質の強度な破壊による空胞化,核の偏在など組織自体の判別もできない状態の標本である.図2は正常な肝組織は認められるが不自然な不定形巨大空胞化の目立つ像である.いずれも標本としてはアーティファクトの強い問題のある標本である.どうしてこうなったのだろうか.

臨床医からの質問に答える

「血糖自己測定値が検査室での血糖値と合わない」と質問された

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.70 - P.73

 血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose,SMBG)に用いる測定器などの簡易血糖測定器は,測定が簡便なことから緊急時や輸液などの処置施行時に使用する事例がある.しかしこれは大変危険なことである.このことが臨床上問題となり,厚生労働省から安全性情報〔医薬品・医療用具等安全性情報No.206(2004年10月)〕も出されている1)

 図1はSMBG測定値に与えるマルトースの影響を調べた例である.一部の測定器で正誤差が生じる.このような現象は,輸液に用いられるマルトースやイコデキストリン以外に,負荷試験に用いられるガラクトースやキシロースなどを含んだ検体でも正誤差を生じる2)

Laboratory Practice 診療支援

次世代の統合的新臨床検査システム

著者: 中町祐司 ,   今西孝充 ,   林富士夫

ページ範囲:P.44 - P.47

はじめに

 高齢化や少子化などの社会情勢の変化に伴い,医療の質の向上と医療費の削減が強く要求されている.一方,臨床検査においては「速く,安く,正確に」が常に要求され,また検査項目の種類も医学の進歩に伴い多岐にわたるようになった.このような背景のもと,正確な検査結果を迅速に報告し,診療をよりいっそう支援するとともに経済性を考慮し人員の効率化を図る必要がある.これらを行うには検査システムの充実は必須である.

 われわれは1993年度に臨床検査システムを構築した1).今回,さらに検査部全体の効率化を図り,高度先進医療など診療科のニーズに対応すること,24時間迅速検査を行い患者サービスに貢献することなどを目的として,搬送ライン(laboratory automation system,LAS,IDS製)や自動分析装置メーカーおよび当院医療情報部の協力を得て,東芝住電医療情報システムズと検査部情報システム(Laboratory Information System,LIS)を共同開発した.本稿ではこのシステムを紹介する.

血液:末梢血血液像における鑑別困難な血球・1

芽球

著者: 東克巳

ページ範囲:P.48 - P.52

はじめに

 末梢血血液像(血液像)に必要な血液量はわずか5μlである.わずか5μlの血液から得られる情報にはどのようなものがあるだろうか.適切な標本から得られる情報には,おおよその白血球数や血小板数,あるいは赤血球形態の観察より貧血状態,破砕赤血球観察より血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)の推測などがある.また,血液像は白血病細胞検出による造血器腫瘍やマラリア検出による寄生虫感染症など診断と直結する情報を提供してくれる.わずか5μlの血液から得られるこの情報を的確に把握するにはかなりの経験と知識とが必要である.

 塗抹標本上の幼若細胞あるいは芽球の鑑別・検出は造血器腫瘍を含む血液疾患にとって最も重要で意義深い.しかし,最近は血液腫瘍内科など専門診療科に限らず種々の診療科で抗がん剤投与時の好中球減少に伴う予防投与としてG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor,顆粒球コロニー刺激因子)などのサイトカイン療法が行われるようになり末梢血標本に幼若細胞あるいは芽球の出現頻度が高くなってきている.

 血液検査室で塗抹標本を利用する検査は血液像検査以外に骨髄塗抹標本検査,すなわち骨髄像検査がある.骨髄像検査は造血器疾患など精査を目的に依頼されてくるので目標が絞りやすい.しかし,血液像検査は骨髄像検査のように情報が多いなかでの検査とは異なるため熟練を要する.血液像検査は骨髄像検査と同等,あるいはそれ以上の経験と知識とが必要である.

 本稿では日常,末梢血血液像検査を観察していて鑑別困難な血球に遭遇した場合の観察方法などを解説する.これからシリーズでこの企画を進めるが,第一回は「芽球」を取り上げた.

検査じょうほう室 生理 心電図の読みかた・1

心電図を読むための基礎知識

著者: 國島友之

ページ範囲:P.53 - P.58

心電図(electrocardiography,ECG)の基本

 心電図とは心臓が興奮するとき(活動時)に生じる電気変化に時間的変化を加えて記録する検査法です.心電図にはいくつかの“振れ”(電気信号の電位の変化)があります.この振れが正確に把握できるかどうかが,その後の心電図の判読や学習には絶対的に必要です.

 まず,基本となる波形とは,P波,QRS波,T波,U波です.そしてこれらの間をPQ時間(間隔),QT時間(間隔),RR時間(間隔),ST部分,TP部分といいます(図1).

けんさ質問箱Q&A

臨床検査技師に疥癬の皮膚採取は行えるのか?

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.77 - P.78

疥癬の検査で,臨床検査技師は病巣の皮膚採取を行ってもよいのでしょうか.もし,よいとすればどのような方法で行えばよいでしょうか.(東京都 M.K.生)

 はじめに

 疥癬はヒゼンダニが皮膚に感染して起こる疾患であり,診断を確定するためには患部からダニの虫体や抜け殻および卵を検出することが必要となる.疥癬は病院や養護老人施設などに入所していた老人が持ち込むことが多く,感染は直接的な接触によるものと,寝具などを介して起こるものおよびノルウェイ疥癬患者からの感染1)がある.集団で感染することも多く,早期診断と適切な治療とが求められる.

 前述のごとく疥癬には通常単に“疥癬”と呼ばれるものと“ノルウェイ疥癬”と呼ばれるものとがあり,前者は主に胸腹部に散発する小丘疹形成を,後者は角質増殖病変を特徴2)とする.

輸血検査の精度管理は

著者: 佐藤千秋 ,   山田攻 ,   池淵研二

ページ範囲:P.78 - P.79

院内輸血マニュアルの作成に当たって,輸血の精度管理は何をどの程度まで行えばよいでしょうか.例えばサーベイや試薬の温度や期限,また凝集素値の測定は必要でしょうか.また,恒温槽や遠心機など機器の保守はどのように行うのがよいでしょうか.(横手市 Y.K.生)

 はじめに

 日常検査で使用する試薬が細菌汚染されていたり,劣化していることに気づかずに使用することは,検査結果の誤判定要因になりうる.また,検査機器の誤作動は検査結果に悪影響を及ぼす.したがって,試薬と機器との精度管理を日々実施することは大切である.

 本稿では埼玉医科大学病院で実施している輸血の精度管理のうち,検査試薬と機器(輸血血液専用保冷庫も含む)との部分について述べる.

トピックス

AGEsとアルツハイマー病

著者: 武田章敬 ,   祖父江元

ページ範囲:P.81 - P.82

 グルコースなどの還元糖は蛋白質との非酵素的な反応により,シッフ塩基(Schiff base)となり,次にケトースの誘導体に変換〔アマドリ転位(Amadori rearrangement)〕されて,安定なアマドリ化合物となる.(日常の臨床の場で糖尿病の血糖コントロールの指標として測定されているヘモグロビンA1cはこのアマドリ化合物に相当する.)その後,一連の脱水,縮合,環状化,酸化,断片化反応を経て,最終的に茶色,蛍光,分子架橋などの特徴を有する後期反応生成物(advanced glycation end products,AGEs)が形成される.AGEsは多様な構造を有する物質の一群であり,これまでにpentosidine,pyrraline,imidazolone,carboxymethyllysine(CML),crossline,methylglyoxal-lysine dimmer(MOLD),glyoxal-lysine dimmer(GOLD)などが同定されている.

 AGEsは糖尿病合併症(糖尿病網膜症,糖尿病腎症,糖尿病神経障害)との関連で研究が行われてきた.近年AGEsは糖尿病ばかりでなく動脈硬化,慢性腎不全,関節リウマチといったさまざまな病態に関与するとともに,加齢とともに皮膚や血管のコラーゲン組織,レンズ,神経細胞などに蓄積することが知られ,AGEsの蓄積の原因として高血糖のほかに酸化的ストレスの関与が重要視されるようになった.

最近の急性肺血栓塞栓症の診断アプローチ

著者: 中村真潮 ,   加藤崇明

ページ範囲:P.82 - P.85

はじめに

 米国では年間約20万例が急性肺血栓塞栓症(以下,肺塞栓症)と診断され,うち5万人が死亡するとされる.これに対し,わが国の肺塞栓症の臨床診断数は年間28~32例/100万人と推計され,欧米の約25分の1である.しかし,連続剖検例の検討では,欧米では30~64%に肺塞栓症を認めるのに対し,わが国でも11~24%に認められると報告され,臨床診断頻度ほどの差はみられない.これらは,わが国での肺塞栓症の臨床診断率が極めて低いことをも示す結果である.

 肺塞栓症の死亡率は高く,ショックとなった重症例の死亡率は18~33%に上る.なかでも早期に診断されなかった場合の死亡率は91%と非常に高率だが,一方で適切に診断されれば死亡率は19%に抑えられる1).さらに,遠隔期の死亡率はわずか0.5%である2).このように,肺塞栓症は急性期をコントロールすれば予後は比較的良好であるため,早期の的確な診断が非常に重要な疾患である.しかし,急性心筋梗塞のような簡便なスクリーニング法がないことが,診断率が低く死亡率も依然高い大きな原因である.

 肺塞栓症の診断に関するガイドラインは,海外のいくつかの学会から提唱されている3,4).しかし,発達機器や費用の違いもあるため,わが国の実情に即した診断手順が必要である.特に,わが国では画像診断機器の整備が進んでいるため,欧米各国よりもむしろ進んだ診断手順を取り入れている部分もある(表1)5~7)

 本稿では,わが国の実情に照らし合わせた最近の肺塞栓症の診断アプローチについて解説する.

個人情報保護法 日臨技個人情報保護ガイドライン

著者: 朝山均

ページ範囲:P.85 - P.87

はじめに

 情報とは,「あることがらについてのしらせ」,「判断を下したり行動を起こしたりするために必要な,種種の媒体を介しての知識」(広辞苑,第5版より)とある.ただ,この熟語として「情報機関」,「情報網」,「極秘情報」,「情報操作」,「情報処理」などをみるとなにやら秘密めいた意味合いがあり,暗号化なる言葉が出てくるともはや昔日の「スパイ合戦」を思い起こさせネガティブな感がある.しかし近年,情報科学・情報通信技術の発展により,電子化された情報を地球規模ネットワークを介して大量かつ迅速に処理することが可能となり,また,情報公開制度なるものも唱えられ情報の氾濫,過多の時代になった.このことは上述と反対方向にあり個人の情報といえども簡単に漏出する機会が生じたわけである.

 このため,政府は,高度情報通信社会推進本部〔現情報通信技術(IT)戦略本部〕の下に基本方針として,電子商取引などの推進のための環境整備の一環として,個人情報の保護について,民間による自主的取り組みを促進するとともに,法律による規制も視野に入れた検討を行い(1998年11月),翌1999年にアクションプランを決定,個人情報保護検討部会を設置し中間報告を経て2000年1月に個人情報保護法制化専門委員会が開催され,「個人情報保護基本法制に関する大綱」を決定した.

 その後,2004年に「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」が設置(厚生労働省)され,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が提出された.

 社団法人日本臨床衛生検査技師会(日臨技)は,これらを踏まえ臨床検査部,臨床検査技師として,かつ医療人としての立場から「日臨技個人情報保護ガイドライン」を作成した.ここに概略を述べる.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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