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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術34巻12号

2006年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

胃癌

著者: 福田能啓 ,   富田寿彦 ,   堀和敏 ,   坂上隆

ページ範囲:P.1374 - P.1380

サマリー

 胃癌は,わが国において減少傾向にあるとはいえ,いまだに死亡率の高い重要な疾患である.検診の普及と内視鏡検査の進歩により早期発見が可能となり,内視鏡治療により患者の生活の質(quality of life,QOL)の向上とともに,予後が改善している.胃癌とヘリコバクターピロリ感染との関連性が指摘され,ヘリコバクターピロリ感染の早期発見とその除菌が,胃癌発生のリスクの低減に役立つと考えらる.

痛風と高尿酸血症

著者: 谷口敦夫 ,   山中寿

ページ範囲:P.1381 - P.1386

サマリー

 痛風は,高尿酸血症が長期間持続し,その結果析出した尿酸・尿酸塩が原因となって急性関節炎や腎障害などを生じる疾患である.高尿酸血症は血清尿酸値が7.0mg/dlを超える場合と定義される.わが国では痛風患者は増加しており,痛風の背景にある高尿酸血症は成人男性の約20%に認められる.痛風発作は痛風の最も代表的な症状であるが,このほかにも痛風腎,尿路結石を合併しうる.また,尿酸の沈着とは直接関係しないが,生活習慣病の合併が多い.高尿酸血症も単独で存在することは少なく生活習慣病を合併することが多い.痛風発作は主として非ステロイド抗炎症薬で治療する.高尿酸血症の治療には尿酸降下薬を用いる.

技術講座 生理

心臓ドプラ計測の基礎

著者: 種村正

ページ範囲:P.1387 - P.1392

新しい知見

 左室拡張機能評価にパルスドプラ法による組織ドプラ法が利用されるようになってきた.左室流入血流による評価は正常型と,悪くなる順に弛緩異常型,偽正常型,拘束型に分類される.しかし,拡張機能が正常な正常型と拡張機能低下が進行した偽正常型との判別が困難であった.正常型や弛緩異常型の血流波形(E,A)と僧帽弁輪部速度波形(E′,A′)とは鏡像関係を示すが,偽正常型や拘束型では鏡像関係が失われる.それを利用して両者を判別できる.この方法は簡便で,高価な装置でなくてもできることから日常検査に取り入れる施設が増えている.

一般

精液検査法

著者: 滝賢一 ,   日比初紀

ページ範囲:P.1393 - P.1398

新しい知見

 精液検査では精液量,精子濃度,運動率,奇形率などの検査が一般的に行われている.これらの測定法に関しては世界保健機関(World Health Organization,WHO)の編集,発刊によるマニュアルがあるものの,実際には個々の施設において独自の方法で行われているため,施設間での検査結果を比較することが困難であった.2003年7月に日本泌尿器科学会は,精液検査の標準化を目的とし,WHOマニュアルに準拠した検査手技を具体的に示すガイドラインを作成し,「精液検査標準化ガイドライン」を発刊した.

オピニオン

臨床検査技師の学位取得

著者: 大塚喜人

ページ範囲:P.1404 - P.1404

 そもそも,「学位」とは何だろう? と思われる方がいるのではないでしょうか.私自身,東京の両国にある東京医学技術専門学校臨床検査技師科Ⅱ部を卒業して国家試験に合格した一臨床検査技師ですので,卒業したての頃は「学位」という言葉すら知りませんでした.

 現在,わが国の法令に基づく学位には,短期大学士の学位,学士の学位,修士の学位,専門職学位,博士の学位があります.これらの学位は,高等専門学校または短期大学,四年制大学,大学院修士課程,専門職学位課程,大学院博士課程を修了したものに対して与えられる世界的に認められた学術称号です.ただし,これは法令上のことであり,わが国では学位といえば「博士の学位」のことを指す場合が多いように思います.

ワンポイントアドバイス

感受性ディスクの保管法と CLSI変更点

著者: 松村充 ,   斧康雄

ページ範囲:P.1402 - P.1403

 はじめに

 薬剤感受性検査の目的は,感染症起因病原体に対する抗菌薬治療のための使用抗菌薬選定である.現在薬剤感受性検査に使用されている方法は,近年急速に進んだ自動機器の導入により,微量液体希釈法による最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC)測定が主流であるが,薬剤選択における自由度を持ち,特に機器などの設備を必要としないディスク拡散法も小規模施設をはじめ自動機器のバックアップや追加薬剤などの薬剤感受性検査として多くの施設で使用されている1)

 今回,ディスクの保存方法のポイントおよび,米国臨床検査標準化協会(Clinical and Laboratory Standards Institute,CLSI:旧NCCLS)標準法M2-A9の最新版(2006年)2)を中心にディスク拡散法,薬剤感受性検査の主な変更点について述べる.

今月の表紙

急性リンパ性白血病 FAB分類 L1

著者: 田邉久美子 ,   東克巳

ページ範囲:P.1399 - P.1399

 今回は,FAB分類(French American British classification)のL1を取り上げた.FAB分類では,急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia,ALL)をL1,L2,L3の3群に分類している.FAB分類のL1は,WHO分類ではprecursor B-and T-cell neoplasmasに該当する.

 FAB分類でのALLの診断は,骨髄塗抹標本における芽球が全骨髄有核細胞から非造血細胞(リンパ球,形質細胞,肥満細胞,マクロファージ)および赤芽球を除外したNEC(nonerythroid cell:bone marrow cells excluding erythblasts)の30%以上で,POD(peroxydase,ペルオキシダーゼ)反応もしくはズダン・黒B(sudan black B)染色で陽性芽球が3%未満の場合にALLと診断される.また,L1,L2の鑑別には,形態学的に困難なところがあり,特徴のあるL3を除きscoring systemを用いてきた.しかしALLにおける従来の形態学的診断の意義は薄れており,臨床上は,免疫学的表現型や遺伝子学的所見が予後に関与するため重要である.

ラボクイズ

膵疾患 1

著者: 渡辺伸一郎

ページ範囲:P.1400 - P.1400

 症例:36歳,男性.

 約1週間前,上腹部痛が出現,しだいに増強し,眼球結膜の黄染を認めたため,来院した.

 体温37.4℃,血圧148/92mmHg,脈拍102/分,整.貧血なく,軽度の黄疸を認める.腹部は全体に膨隆し,腹水を認め,上腹部に圧痛と筋性防御を認めた.

 臨床検査成績を表1および表2に示した.

10月号の解答と解説

著者: 大田喜孝

ページ範囲:P.1401 - P.1401

【問題1】 解答:④真菌性髄膜炎(クリプトコッカス髄膜炎)

解説:真菌性髄膜炎はクリプトコッカス(Cryptococcus neoformans)によるものが群を抜いて高頻度である.これはクリプトコッカスが中枢神経系に高い親和性を持つためと考えられている.クリプトコッカス髄膜炎の多くは日和見感染や,抗生剤,ステロイド,免疫抑制剤の大量投与によって生じる免疫能低下の合併症として発症し,約半数が白血病,AIDS(acquired immunodeficiency syndrome,後天性免疫不全症候群),重症糖尿病,膠原病などの重篤な基礎疾患を有する.

 今回の症例はギラン-バレー症候群(Guillain-Barré syndrome)に併発した例であり,大量のステロイド投与がさらにクリプトコッカス髄膜炎を助長させたものと考えられる.髄液では細菌性髄膜炎と同様に蛋白質の上昇と糖の低下とを同時に認めることが多く,本症例のように大型菌体を多数認め,さらに特徴とされる厚い莢膜や出芽形態を認める場合は計算盤上の観察からでも比較的容易に推定がつく.また,本症例では髄液のLDとCKとがともに上昇しており,意識レベルの低下を認めることから,感染層が脳組織にも波及している可能性が示唆される.

復習のページ

髄液細胞の単位はなぜ分母が3か?

著者: 保科ひづる

ページ範囲:P.1439 - P.1441

 当直時間帯救急にて発熱,頭痛,嘔吐の患者さんが搬送され,髄液が提出されるというように髄液検査は緊急性があり,普段担当されていない方,誰もが携わる検査です.そのうち細胞数算定は,中枢神経系感染症(髄膜炎,脳炎)の診断を左右する重要な検査項目になります.現在は機械化もされつつありますが,まだまだ現場では用手法で,計算盤を使用して細胞数を数え報告しています.

[突然の髄液検査,計算盤は何を使うの?]

 では計算盤の種類と特徴を挙げましょう.

 ざっと挙げても,トーマ(Thoma),ビュルケル-チュルク(Burker-Turk),改良ノイバウエル(Neubauer),フックス-ローゼンタル(Fuchs-Rosenthal),エオジノフィルカウンター,バクテリアカウンター,ナジェット(Nageotte)チェンバー,マクラー(Makler)カウントチェンバーなどたくさんあります.

どうする?パニック値 血液

12. 骨髄像の異常

著者: 松尾収二

ページ範囲:P.1442 - P.1444

 骨髄像は形態検査なのでパニック値という表現は使えないが,速報しなければならない形態所見は存在する.骨髄検査の前に臨床症状や末梢血液検査で異常が予測できていることも多いが,それでも骨髄検査の速報は速やかな診断や治療方針の決定につながることは多い.もちろん予想しなかった所見がみられたときの速報の有用性は何をかいわんやである.以下,どのような所見がパニック値に相当し,どのような対応が必要か概説する.

当院の基準

 大まかには以下の基準が挙げられるが,検査目的に応じて臨機応変に対応すべきである.例えば不明熱などで診断に苦慮している場合は骨髄像のいかんにかかわらず速報すべきである.

連載 失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

薄切に起因するアーティファクト―過伸展

著者: 廣井禎之 ,   冨永晋 ,   河合俊明

ページ範囲:P.1408 - P.1411

 パラフィンブロックに比し組織標本が大きく,かつ形も歪んでいる.鏡検すると組織がバラバラになっており組織構築の観察が不可能である(図1,2).このような現象は“過伸展”と呼ばれる.過伸展はいわゆるパラフィンの組織への浸透不良,脂質の溶解したパラフィンを包埋に用いたとき,薄切した切片を浮かべる水面に油が浮いていたときや伸展温度の不適切などの原因により引き起こされる.また,脂肪成分の多い組織にみられることが多い.

過伸展とは

 薄切された切片には必ずなんらかの変形・収縮が見られる.これは薄切のメカニズム,すなわち刃物の中心線がある角度をなし,その上面に切片が変形しながら出てくる切断法のためであり,現段階では回避できない物理現象である.

臨床医からの質問に答える

高カロリー輸液とビタミン B1欠乏

著者: 橋詰直孝 ,   本三保子 ,   五十嵐紘美

ページ範囲:P.1405 - P.1407

 背景

 1967年Dudrickら1)により開発された中心静脈からの高カロリー輸液(total parenteral nutrition,TPN)は,経口・経腸では十分な栄養摂取ができない患者および外科領域における術後患者の治療成績を著しく向上させた.TPN治療が開発されてから30数年になるが,現在,わが国において常時4~5万人以上の患者がTPNを受けているともいわれている.しかし現在,TPNが導入された初期の頃には予想できなかった種々の合併症が報告されるようになった.

 TPN施行時における乳酸アシドーシスの最初の報告は,1975年のBlennow2)によるもので,14歳の少年にビタミンB1を添加しないTPNを14か月間行ったところ,ビタミンB1欠乏症であるウェルニッケ脳症(Wernicke encephalopathy)とアシドーシスとを併発していた.その後,内外におけるTPN施行時の乳酸アシドーシスの報告は増加し,しかもこのなかには死亡例が含まれていることが報じられた.事態を重くみた旧厚生省は1991年に,TPN中の重篤なアシドーシスの発現に関する緊急安全性情報を配布し注意を喚起した.当初,その原因は輸液成分にあるのではないかとされたが,症例が蓄積し,そのなかにはビタミンB1を投与することで軽快する例が報じられたことから,これら一連の症例の元凶はビタミンB1の欠乏にあったことが判明した.これを受けて1997年には,TPN中のビタミンB1投与に重点を置いた緊急安全性情報が改めて配布されている.

 TPN施行時のアシドーシスの報告数3)は1994年をピークに少なくなっているが,今日でも散見される.

Laboratory Practice 生化学

ALPアイソザイムの自動解析システム

著者: 石川仁子

ページ範囲:P.1412 - P.1414

 はじめに

 アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase,ALP)アイソザイム検査は,ALP総活性の上昇時にその由来が肝胆道系疾患によるものなのか,骨代謝異常によるものなのかを判定するのに役立つ.また,高分子Ⅰ型の存在,およびビリルビン正常の際の肝内占拠性病変(space occupaying lesion)(肝内SOL)を意味するものとして臨床的有用性も高い.しかし,ALPは泳動パターンがLDのようにきれいな5分画をせず,むしろ判読に熟練を必要とするため,判読者によって評価基準はまちまちであり主観的なものとなっていると思われる.そこで以下に示す目標を立て,ALPアイソザイムの判定論理を作成することを試みた.

 ①アイソザイムパターン判読の支援システムを構築する.

 ②従来までのエビデンスを活用した判定基準に準ずる(飯野,菰田らの報告,われわれの判定基準).

 ③原理・理論とアイソザイムパターン,その意義を理解するためのツールとしても活用するためにヒトの論理的思想に沿ったフローチャートとする.

 ④考えられる病態とその鑑別診断の参考となる検査項目を列挙する形で報告する.

 ⑤フリーコメントとして,解析者の判定を加える.

診療支援

急性冠症候群における来院時リスク評価

著者: 北川文彦 ,   石井潤一 ,   松浦久乃 ,   大島久二

ページ範囲:P.1416 - P.1418

 はじめに

 急性心筋梗塞(acute myocardial infarction,AMI),不安定狭心症および虚血性心臓突然死は,急性冠症候群(acute coronary syndrome,ACS)に包括される.ACS診療において最も注意すべき事は,突然死やAMI発症のリスクが高い“高リスクACS”つまり心筋トロポニン(troponin,Tn)が上昇しているACSを見逃さないことである.本稿では,ACSの来院時リスク評価における心筋マーカー測定の有用性をTnと心筋型脂肪酸結合蛋白質(Heart-type Fatty acid-binding protein,H-FABP)を中心に述べる.

検査じょうほう室 生理 心電図の読みかた・11

ECGセルフチェック(1)―不整脈編

著者: 南家俊彦 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.1420 - P.1425

 これまで10回にわたって心電図を読むための基本から臨床現場における不整脈まで勉強してきました.これからの2回は,心電図の理解度に関するセルフチェック,心電図の演習,日常臨床における指針として役立ててください.

ケース1から学ぶ(図1)

 1 . 本心電図の所見

 ①基本調律のP波リズムより早期に出現する不整脈がある.

 ②QRS波は,正常なものと同一なものが多い(心室内変行伝導があればQRS波も変形する).

 ③しばしばQRS波の前にP波を伴う.

 ④早期に出現したP波は正常なP波と形状が異なる.

微生物 感染症検査の迅速化・7

遺伝子検査

著者: 長坂陽子

ページ範囲:P.1426 - P.1428

 はじめに

 近年,イムノクロマトグラフィー1)やPCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)のような検査法が,感染症迅速診断を目的として応用され,今後の新しい検査ツールとしてさらなる可能性を秘めた方法となりつつある.このうち,PCRは抗酸菌の検出を中心に検査室に導入されたが,高価な機器や試薬,あるいは特別な技術が必要といった印象が根づいており,現在もなお一部の施設でのみ採用されているにすぎない.しかし,最近では,試薬の微量化や量産化が進み,in-houseで反応系を構築すれば比較的安価で購入可能となった.

 今回は最新の遺伝子検査法をピックアップし,近い将来臨床検査へ応用が可能と思われる方法について整理する.

生化学 腫瘍マーカー・9

絨毛癌マーカー hCG・SP1を中心に

著者: 八杉利治 ,   久具宏司 ,   武谷雄二

ページ範囲:P.1429 - P.1431

hCGの特性と測定

 ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin,hCG)は,分子量約36,700の,主に胎盤(絨毛)から産生される糖蛋白質であり,絨毛性疾患の腫瘍マーカーとしては最も重要である.hCGは92個のアミノ酸残基から成るα-サブユニットと145個のアミノ酸残基から成るβ-サブユニットとの非共有結合によるヘテロダイマーである.hCGのα-サブユニットは,下垂体由来の黄体化ホルモン(luteinizing hormone,LH)や卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone,FSH)のα-サブユニットとその配列がほぼ共通であり,hCGの生物活性を有しているのはβ-サブユニットであるが,それもLHのβ-サブユニットと多くの部分で共通の配列を有している.このようにhCGはLHと類似した構造を持ち,LH受容体に結合してLHに類似した生物活性を発揮する.

 hCGβ-サブユニットをコードする6個の遺伝子は,第19番染色体上にLHβ-サブユニットの遺伝子とともに遺伝子群として存在しており,hCGβ-サブユニットはLHβ-サブユニットから分化したものと推定されている1).hCGβ-サブユニットは113位のアミノ酸まではLHβ-サブユニットとほぼ共通だが,それよりC末端側には32個の特異的なアミノ酸残基が付加しており,全アミノ酸残基数もLHβ-サブユニットより24個多い145個である.このC末端の32個のアミノ酸残基をhCGβ-カルボキシル末端ペプチド(hCGβ-carboxyl terminal peptide,hCGβ-CTP)と呼び,この部分に対する抗体が近年の精密な測定に用いられている.このhCGβ-CTPが付加されることにより,hCGはLHよりも分子量・親水性が増し,生物学的半減期が延長して生物活性の向上につながると考えられている.ちなみにhCGの血中半減期は約24時間で,LHの2時間に比べるとはるかに長いのである.

生化学

便ヘモグロビンは大腸がんの指標となりうるか ?

著者: 東塚伸一 ,   神野勉

ページ範囲:P.1432 - P.1434

 はじめに

 便ヘモグロビンの測定方法には化学法と免疫法とが存在するが,大腸がんのスクリーニングには食事制限が不要で,感度・特異度に優れている免疫法が用いられる.

 免疫法による便中のヘモグロビンの測定は,免疫便潜血検査,便中ヘモグロビン検査,さらには定量法の場合に便中ヘモグロビン精密測定など,さまざまな名称で表現されているが,本稿では便ヘモグロビン検査〔以下,便hemoglobin(Hb)検査〕とする.

 近年,食生活の欧米化,特に動物性脂肪の摂取量の増加など1)により,大腸がんの罹患率は年々増加しており,1999年度の患者調査によると,結腸がんおよび直腸がんを併せると226,000人(男126,000人,女90,000人)2),また2004年度の人口動態統計によると大腸がんによる死亡者数は40,037人で,前年度に続き1,000人以上の増加となっている3).そのような背景のなか,便Hb検査をスクリーニング手法とした大腸がん検診は,自治体が実施する地域検診をはじめ,各種健康診断にも組み込まれるなど積極的に実施されており,その効果は厚生労働省の研究班報告4)により証明されている(しかしながら,受診率は依然として低く,早期発見・早期治療による医療費の抑制,死亡率の低下には至っていない).

 このように便Hb検査が,大腸がん発見に効果を発揮しているなら,“大腸がんの指標”,つまり大腸がんのマーカー的な役割が果たせないか?との考えかたもできなくはない.

 今回,大腸がん検診で発見された大腸がんや各種疾患の便Hb検査結果を基に検証してみたい.

病理

病理組織標本におけるグラム染色法の特徴―菌体の染色と形態観察におけるテイラー法の有用性

著者: 辻井麻里 ,   和田龍一 ,   中田ゆかり ,   小林正和 ,   山崎彩子 ,   成田純子 ,   八木橋操六

ページ範囲:P.1435 - P.1438

 はじめに

 グラム染色(Gram stain)は細菌の分類や,感染症の起炎菌を同定するうえで基本となる重要な染色法である.グラム染色は細菌検査において多用されるのはもちろんのこと,病理検査においても感染症の診断や細菌種の推定のための重要な染色法のひとつとなっている.

 病理検査で用いられるグラム染色には種々の変法があるが,細菌検査における塗抹標本のグラム染色と比較すると,組織切片上ではコロニー内の細菌が重なるため形態の把握が困難であったり,安定した分別結果が得られない場合がある.また,組織背景色とグラム陰性菌とが同系色となり,コントラストが不明瞭で見分けがつきにくいといった問題がある.このため,病理組織標本上で感染症の診断や起炎菌の推定をするためには,病理検査で用いられるグラム染色の種々の方法の特徴を理解する必要がある.

 本稿では,病理検査で用いられるマッカラム-グッドパスチャー法(MacCallum-Goodpasture method,以下M-G法)1,2),グラム-ツォルト法(Gram-Twort method,以下G-T法)3)とテイラー法(Taylor method)4)の三つのグラム染色法を比較し,染色や診断における留意点についてまとめた.

けんさ質問箱Q&A

クリオスタットで大きな臓器を大量に薄切するには ?

著者: 阿部仁

ページ範囲:P.1445 - P.1450

乳腺の手術材料が行われた際,断端をクリオスタットで作っていますが,数が多く時間がかかってしまいます.クリオスタットで大きな臓器を大量に薄切できるよい方法があったら教えてください.(岐阜市 A.O.生)

 はじめに

 近年,医学の進歩とともに,術中迅速診断の果たす役割は大変重要になっており,主病変の良性・悪性の判定,組織型の決定,切除断端における腫瘍の有無やリンパ節転移の有無の確認など年々利用頻度は高まっている.特に,乳房温存手術やセンチネルリンパ節の導入により脂肪の豊富な組織や一検体で複数組織が提出される機会が多くなっているが,現在,誰でも簡単に大きな臓器や脂肪の豊富な組織を薄切できる方法はないのが現状である.本稿では,当施設で行っている凍結標本作製法のポイントを紹介するので参考にしていただきたい.

脳波検査に必要な感染対策は ?

著者: 高嶋浩一

ページ範囲:P.1450 - P.1452

私の勤務する病院では,MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)陽性患者の脳波検査は,病室に脳波計を運び込んで実施しています.しかし,CT検査などでは病室に機器を運び込めないため,病室での検査はしていません.脳波検査でも人工呼吸器などを装着していない場合は,検査室に移動してもらいたいところです.MRSA陽性患者に限らず,B型やC型肝炎患者などの場合は,どこまで病室内で検査するべきでしょうか? 検査実施上の注意点も併せてご教示ください.(横浜市 E.S.生)

 主治医が病室での脳波検査を依頼する場合は,①生命維持装置を装着している重症例,②痰の吸引などの看護処置が頻繁に必要な状態,③患者が不穏で看視が必要な状況,④無菌室のような特殊病室に入っている,⑤特殊な感染症により患者を隔離している,などの理由が考えられる.

トピックス

Clostridium difficile toxin Bの検査

著者: 福田砂織

ページ範囲:P.1453 - P.1455

 はじめに

 抗菌薬や抗癌剤が投与された後に発症する下痢症(抗生物質起因性下痢,antibiotic-associated diarrhea,AAD)は,投与された薬剤により腸内フローラが撹乱され,健常な消化管内では劣勢な微生物が増殖することが主な原因である.原因となる微生物は,Clostridium difficileをはじめ,Staphylococcus aureus,エンテロトキシン産生性Clostridium perfringens,およびCandida albicansなどが報告されている.

 AADの主要な原因菌であるC. difficileは偏性嫌気性グラム陽性(Gram-positive)の芽胞形成桿菌で栄養型は酸素に触れると死滅しやすい.病原因子は腸管毒素toxin Aとその100~1,000倍強い細胞毒性をもつtoxin Bとがあり,軽度下痢症から重篤な偽膜性腸炎までさまざまな病態をとる.また,芽胞形成菌のため乾燥に強く,各種消毒剤にも耐性であるため,接触による院内感染の原因となりやすい.しかし,C. difficile関連腸炎(Clostridium difficile-associated diarrhea,CDAD)の検査は,重要性の認識不足や嫌気性菌を取り扱う設備や経費などの面から実施している施設は限られている.このためわが国における感染の実態はいまだ把握されていない.

 本稿ではtoxin Bを中心に解説する.

Cdk5

著者: 富澤一仁

ページ範囲:P.1455 - P.1458

 Cdk5とは

 サイクリン依存性キナーゼ5(cyclin-dependent kinase5,Cdk5)は,1992~1994年にかけて三つの研究グループがそれぞれ別の目的で発見したセリン-スレオニン指向性リン酸化酵素である.一つは,増殖能を持たない神経細胞においてCdc2(cell division cycle2)活性を有する酵素として精製・同定された1,2).もう一つは,サイクリン依存性キナーゼのファミリー遺伝子としてクローニングされた3).さらに,アルツハイマー病(Alzheimer disease)脳において見られる神経原線維変化は,細胞骨格蛋白質の一種であるタウ蛋白質が異常にリン酸化されたものであることが知られているが,タウ蛋白質をリン酸化する酵素として同定された4)

 結晶解析より,Cdk5の構造はサイクリン依存性リン酸化酵素と近似していることが判明している5).しかし,サイクリン依存性リン酸化酵素が,サイクリンと結合し活性化するのに対し,Cdk5は,p35あるいはp39と呼ばれる活性化因子と結合することにより活性化される2,6)(図1).また,サイクリンが増殖細胞にのみ強く発現しているのに対し,p35とp39とは,増殖能を有さない神経細胞で強く発現している.そのため,Cdk5の高い活性は,神経細胞において認められる2,6).最近,膵β細胞において,高いCdk5活性が存在し,同酵素がインスリン分泌を制御していることが明らかになった7).Cdk5が2型糖尿病治療の標的分子として重要であることが示され,Cdk5の新しい生理機能として注目されている.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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