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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術34巻2号

2006年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

膵癌

著者: 中村隆司 ,   目黒敬義 ,   村上一宏 ,   松野正紀

ページ範囲:P.94 - P.98

新しい知見

 CA19-9(carbohydrate antigen 19-9)抗体の認識するエピトープは,ムチン糖蛋白質上の糖鎖構造で,シアリルルイスA構造といわれる四糖の構造であり,糖鎖の末端に位置しその合成には最低4種類の糖転移酵素が関与する.これら酵素の遺伝子解析から成松はCA19-9が膵,大腸,胃の腫瘍マーカーとなるが肝,肺などのマーカーにならない理由を解明した3).4種の酵素の一つが胃腸の器官形成遺伝子で発現が支配され,これ以外の臓器では発現しないためである.またルイス式血液型陰性個体[(a-,b-)]は日本人の十人に一人存在するが,遺伝的点変異で先の4種の最後に作動する酵素FUT3を欠損するためCA19-9値は常に0である.この場合CA19-9の前駆体のDUPAN-2値を測定すべきとされる.

技術講座 生理

初歩から始める心電図のとりかた,読みかた

著者: 國島共之 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.99 - P.105

新しい知見

 ブルガダ症候群(Brugada syndrome)の心電図:ブルガダ症候群の診断根拠となる心電図とは,標準12誘導心電図の右側胸部誘導におけるST上昇を伴う右脚ブロック様波形である.しかし常に認められる変化ではなく,運動負荷・ピルジカイニド薬物負荷が診断を目的に行われるが重篤な不整脈発作が起こりうるので十分な注意とその対策とが必要がある.これに対して,通常のV1~3誘導の記録部位より1肋間上で記録することで,通常の記録位置では認められなかったBrugada症候群特有の心電図変化を明らかにできることがある.失神発作が疑われた症例においては,通常記録に加えて記録する価値がある.

心エコー検査時の注意点

著者: 相川大 ,   渡辺浩之

ページ範囲:P.113 - P.117

新しい知見

経胸壁心エコーで冠動脈をみる:冠動脈血流の分析では,まず血流の向きに注目する.血流が末梢から中枢へ向かう場合,冠動脈閉塞に伴う側副血行路の存在を考える.

 冠動脈狭窄が存在すると主として拡張期血流が障害される.安静時の拡張期収縮期血流速度比(diastolic to systolic velocity ratio,DSVR)の低下は冠動脈狭窄の存在を示唆する.

 薬剤負荷〔ATP(adenosin 5′-triphosphate,アデノシン三リン酸)など〕により最大充血を誘発すると血流速度の増加が記録される.冠血流予備能(coronary flow reserve,CFR)は,安静時に対する最大充血時の冠血流速度比であり,狭心症の非侵襲的評価法として臨床的に受け入れられつつある.

微生物

小児ウイルス感染症の免疫学的検査

著者: 山崎勉

ページ範囲:P.107 - P.112

新しい知見

医療従事者の予防接種とウイルス抗体検査:院内感染に関連する感染症のうちで,予防接種が施行されているものには,麻疹,風疹,水痘,ムンプス,B型肝炎,インフルエンザなどがある.麻疹,風疹,水痘,ムンプスは,小児期に多い感染症であるが,最近は成人の感染症例も目立ち,特に若い医療従事者においては,これらのウイルスに対する抗体保有が十分ではない可能性を念頭に置く必要がある.医療従事者の感染を介して施設内で種々のウイルス感染が流行した場合は,その後の対策に多くの労力と経費とを要する.院内感染対策を目的として,これらのウイルス感染の罹患歴の明らかでない医療従事者に対して,適切な方法による血清抗体を測定することが必要である.

疾患と検査値の推移

心筋梗塞

著者: 説田浩一 ,   清野精彦

ページ範囲:P.121 - P.125

疾患概念・病因

 急性心筋梗塞(acute myocardial infarction,AMI)は,冠動脈内の血栓などによる冠動脈の完全閉塞の持続または冠動脈の末梢血管床の塞栓により,心筋が不可逆的な損傷を受け壊死を起こした状態である.冠動脈完全閉塞により起こるAMIの場合,完全閉塞の状態で6時間経過すると,側副血行路がないときには閉塞した冠動脈の支配領域の心筋はほぼ完全に壊死に陥る.

 その病因は,冠動脈内の粥状動脈硬化病変のなかでも薄い線維性被膜に包まれた脆弱で不安定な粥腫(プラーク)が血管内皮傷害や血管壁のストレス,炎症機転などにより破裂して,これが引き金となり周囲に血栓が形成され,急激に冠血管内腔の閉塞をきたすことにより心筋壊死を生じることによる.冠動脈内腔の狭窄が高度の病変部位に発症するとは限らず,むしろ狭窄はもともと軽度でありながら脆弱な不安定プラークが責任病変になることが多い.近年,病理所見および冠動脈内視鏡などを用いた臨床研究1~3)で,従来から知られていた冠動脈内に完全閉塞型赤色血栓(血小板・フィブリノゲン・赤血球より成る)を形成し心電図上ST上昇および異常Q波を生じて貫壁性のAMIに進展するST上昇型AMI以外に,冠動脈内に形成されるのは主に不完全閉塞型白色血栓(主に血小板より成る)だが,破砕したプラークと血栓とが微小塞栓として末梢血管床を閉塞し微小心筋梗塞や微小心筋傷害(minor myocardial damage)を生じて心電図上ST上昇や異常Q波が見られない非ST上昇型AMIがかなりあることが判明した.なお,冠動脈内プラークの破綻・びらんによる血栓形成による冠動脈の閉塞以外に,稀であるが冠動脈れん縮による完全閉塞によりAMIを起こすこともある.

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2005年度第91回,第92回 二級臨床検査士資格認定試験学科筆記試験 問題・解答

ページ範囲:P.171 - P.210

〔微生物学〕

1. バイオハザードとバイオセーフティについて正しいのはどれか.

1. エアロゾル吸入によるバイオハザードの発生は少ない.

2. わが国におけるバイオセーフティレベルは7つに分類される.

3. 一般病院の微生物検査室はバイオセーフティレベル2が多い.

4. バイオハザードには病原微生物の毒素によるものは含まれない.

5. 高圧蒸気滅菌した使用済み培地の廃棄には,バイオハザードマークは不要である.


2. 日本細菌学会のバイオセーフティレベル分類で正しいのはどれか.

1. MRSA―――――――――――――レベル3

2. Shigella sonnei―――――――レベル1

3. Pseudomonas aeruginosa――――レベル3

4. Burkholderia pseudomallei――レベル2

5. Mycobacterium tuberculosis――レベル3

2005年度第26回,第27回 緊急臨床検査士資格認定試験学科筆記試験 問題・解答

ページ範囲:P.211 - P.213

以下の設問に答えなさい.問題は全部で25問あります.答えは解答用紙に記入してください.

1. 尿の色調とその原因で誤った組み合わせはどれか.

 a) 水様~淡黄――希釈尿

 b) 鮮黄(蛍光)――ビタミン剤(B2,B12)

 c) 乳白~白濁――リン酸塩

 d) 暗褐~黒―――ポルフィリン尿

 e) 赤~赤褐―――メラニン尿

1. a,b 2. a,e 3. b,c 4. c,d 5. d,e


2. 尿検査について正しいのはどれか.

 a) ミオグロビン尿は試験紙の潜血(-),尿沈渣の赤血球(+)という乖離を示す.

 b) 試験紙の蛋白はベンス・ジョーンズ蛋白に鋭敏に反応する.

 c) 尿沈渣には早朝第一尿の中間尿が適している.

 d) 変形赤血球は糸球体由来の出血であることが疑われる.

 e) 円柱は尿細管の閉塞があったことを示す所見である.

1. a,b,c 2. a,b,e 3. a,d,e 4. b,c,d 5. c,d,e

オピニオン

尿試験紙のJCCLS勧告

著者: 伊藤機一

ページ範囲:P.106 - P.106

 JCCLS(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards,日本臨床検査標準協議会)は産官学よりなる臨床検査の標準化を目的として設立されたわが国の代表的機関である.1985年に発足(初代会長:小酒井望博士)し,2005年に20周年を迎え,同年4月には特定非営利活動法人(NPO)化を達成,(財)日本適合性協会(JAB)との協力体制の下,各種標準化作業などが鋭意進められている.現会長(8代目)は渡辺清明博士(国際医療福祉大学教授)で,特に専門委員会活動についてはいっそうの強化策のもと,実績の確保を図ることを命題としている.JCCLS尿検査標準化委員会は2005年現在,①尿沈渣検査法検討作業部会(丸茂健部会長),②尿試験紙法検討作業部会(筆者部会長),③尿総蛋白測定法検討作業部会(青木芳和部会長)の3部会があり,厚生労働省,日本医師会,日本臨床検査医学会,日本臨床衛生検査技師会,日本腎臓学会,日本泌尿器科学会,日本小児腎臓病学会,日本臨床化学会など10団体・8学会より専門委員の派遣を受け,さらに技師有志で構成された実行部隊によるボランティア的協力を得て,標準化の作業は着実に進んでいる.

 JCCLSにおける尿検査標準化の歩み

 JCCLSと尿検査標準化とのつながりは比較的古い.日臨技一般検査研究班が1980年代末,診療機関ごとにまちまちであった尿沈渣検査法の標準化案を作成し,これをわが国における標準法として検討・承認されたいとする要望がJCCLSに提示され,第一次尿沈渣検査法専門委員会(河合忠委員長)活動が1991年に発足したことに始まる.2000年4月には待望の「JCCLS尿沈渣検査法指針GP1-P3」(通称Yellow Book)を発刊するまでに成果を遂げた.一方,尿試験紙の標準化については1995年秋,日本臨床病理学会総会で折田義正大阪大学教授を座長に尿試験紙法標準化のad hoc委員会が開催されたことに始まる.開催理由は,わが国では約10社が試験紙を販売しているが,尿蛋白・糖・潜血の三大試験紙のうち後二者の1+の濃度表示がばらばらで臨床・健診(検診)の現場で混乱をきたしており,早急に手を打つべき必要があることにあった.例えば,尿糖の1+は50~250mg/dlまで5倍もの濃度のひらきがあり,単位記載法もmg/dl,g/l,%と3種類もあり,潜血試験紙も濃度,表示法にバラツキが大きかった(蛋白は幸いにも全メーカー1+=30mg/dlと統一).JCCLSでは1997年,尿試験紙測定法検討委員会(第1弾)を発足,年複数回に及ぶ委員会の決議を経て2001年7月,「JCCLS尿試験紙検査法提案指針GP3-P1」を発刊した.しかし内容といえば正しい採尿法,試験紙の正しい保管・使用法,偽陽性・偽陰性対策といった教科書的記載にとどまり,標準化からは程遠く,内外からの不満と叱責の声が少なくなかった.

ワンポイントアドバイス

ヒューマンエラー防止を目指して―時系列事象関連図によるインシデント事例分析

著者: 庄子由美

ページ範囲:P.126 - P.127

 医療におけるリスクマネジメントは「人間はエラーを起こす」ということを前提にそのエラーが事故へつながらないようにマネジメントする一連のプロセスである.そのためには,なぜエラーが起こったのかを分析し対策に結びつけることが重要である.ヒューマンエラーは,もともと人間が持っている生理的・認知的あるいは心理的特性がエラーを引き起こしやすい環境によって誘発されたものであり,原因ではなく結果であるということができる.このような見かたがヒューマンエラー防止対策の立案に必要である.

 インシデント事例分析方法はいくつか種類があるが,今回は河野龍太郎氏〔東京電力(株)技術開発研究所〕が提唱している時系列事象関連図法『Medical SAFER』を紹介する1).時系列事象関連図は,縦軸に時間,横軸に関係者・物・システムなどをとり,事実を時系列に並べて整理する方法で,事実関係を正しく把握し,事故の構造を知ることができる.事故の構造は二つである.①事象の連鎖:事故に至るまでにはいろいろなトラブルやヒューマンエラーが発生していて,それらが鎖のようにつながっているという特徴がある.②背後要因の存在:それぞれのトラブルやヒューマンエラーといった事象の背後にはそれぞれを引き起こす「背後要因」がいくつかあり,さらに背後要因の背後要因,そのまた背後要因というように多重な要因が存在している.事故の構造に基づき,①事象の連鎖をどこかで断ち切れば,最終事象である事故には至らない.②背後要因は他の類似事象においても同様に存在している.の2点に着目して対策を立案していくことが必要である.対策立案時には,ヒューマンエラー対策の思考手順(①やめる,②できないようにする,③わかりやすくする,④やりやすくする,⑤知覚させる,⑥予測させる,⑦安全優先の判断をさせる,⑧能力を持たせる,⑨自分でエラーを発見させる,⑩エラーを検出する,⑪エラーに備える)に則り,実行可能性を無視して可能な限り多く挙げる.その後に現実的な制約条件を考慮し実行する対策を決定する.

けんさアラカルト

ダイレクトシーケンスによるHCV遺伝子型同定法

著者: 内藤勝人

ページ範囲:P.148 - P.149

 C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV)は約9.5kbのプラス鎖RNAをゲノムとするウイルスであり,HCV感染の半数以上は持続感染し,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌の70%以上が起因している1).C型肝炎の治療法はインターフェロン(INF)療法が一般的であるが,最近は,INFとリバビリンとの併用療法が施行されつつあり,その効果にはHCV量および遺伝子型が関与し,特に遺伝子型は肝障害の重症度と関連性がある2).なお,表のごとく従来からHCV遺伝子型の分類が各研究者から報告されているが,現在ではSimmondsらの分類が統一呼称として用いられている3).その判別法としては種々の方法があるが,本稿では各種HCV遺伝子型同定法の特性およびダイレクトシーケンスによるHCV遺伝子型同定法(以下,ダイレクトシーケンス法)の概要とその有用性について概説する.

 各種HCV遺伝子型同定法の特性

 HCV遺伝子型同定法は,わが国では岡本らにより確立した方法が標準的方法であり,スマイテストHCVジェノタイプ(特殊免疫研究所)として市販されている4).本キットはHCV陽性血清から抽出したHCV-RNAを使用し,各遺伝子型(Ⅰ~Ⅳ)共通のCORE領域の1部(272bp)を逆転写反応させ,その増幅DNAを鋳型として,各ジェノタイプ特異的プライマーを使用し,nested-PCR(polymerase chain reaction,ポリメラーゼ連鎖反応)法によりDNA増幅を行い,得られた電気泳動パターンによりHCV遺伝子型を判定するものである.利点としてはnested-PCR法を用いることで検出感度に優れている点であるが,反面,特異性に難がある.

今月の表紙

急性骨髄性白血病FAB分類M1

著者: 高橋恵美子 ,   東克巳

ページ範囲:P.120 - P.120

 今回は,FAB分類のM1(myeloblastic leukemia without maturation)を取り上げた.FAB分類のM1はWHO分類では骨髄系悪性新生物分類の中のⅣAcute myeloid not otherwise categorizedのAML without maturationとなる

 FAB分類のM1は,骨髄中の芽球〔typeⅠおよびtypeⅡ:少数のアズール顆粒やアウエル小体(Auer body)を認める〕が全骨髄有核細胞から非造血細胞(リンパ球,形質細胞,肥満細胞,マクロファージ)および赤芽球を除外したNEC(nonerythroid cell: bone marrow cells excluding erythblasts)の90%以上で,また前骨髄球以降の成熟顆粒球は10%未満である.さらに,芽球のPOD(peroxydase,ペルオキシダーゼ)反応もしくはSBB(Sudan black B,ズダン黒B)染色の陽性率,3%以上が条件とされている.細胞表面抗原検索では,顆粒球特異マーカーとされているCD13,CD33が陽性のことが多く,CD34陽性の例も見られる.特徴的な染色体やキメラ遺伝子異常は認められない.頻度は,すべてのAMLの約20~25%を占めるといわれている.

ラボクイズ

末梢血液像3

著者: 秋山利行

ページ範囲:P.118 - P.118

症例:33歳,女性.

 頸部,腋窩リンパ節の腫脹(小豆~小指頭大)に気づいて某院を受診し,精査・治療のため当院に紹介され入院となった.その時点の検査所見を表に,末梢血液像を図(600倍,1,000倍)に示した.傷病名は慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia,CLL),非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma,NHL),貧血などであった.

  問題1 血液細胞形態像から考えられるものは次のうちどれか.

1月号の解答と解説

著者: 吉澤梨津好

ページ範囲:P.119 - P.119

【問題1】 解答:⑤異型細胞(悪性疑い)

解説:本症例に見られる細胞は異型細胞(扁平上皮癌細胞)である.形態的には線維型の尿細管上皮細胞との鑑別が必要である.鑑別点は図1に示すとおりであるが,クロマチンの増量に関しては,核の染まりにくいものも多いので,染色に十分に時間をかけるなどの注意が必要である.

 この症例は受診時に,偶然扁平上皮癌細胞を検出したものである.異常細胞として臨床側に報告した結果,ただちに婦人科,泌尿器科へ紹介となり,子宮頸癌,膀胱浸潤なしと診断された.

どうする?パニック値 生化学

7.血中Na濃度異常値

著者: 阿部雅紀 ,   海津嘉蔵

ページ範囲:P.154 - P.155

 Na(ナトリウム)は細胞外液中の陽イオンの90%を占め,血漿浸透圧の主な決定因子である.血清Na濃度の異常は血漿浸透圧の異常であり,なんらかの水代謝障害が存在することを意味する.血漿浸透圧=2×Na+(グルコース/18)+(尿素窒素/2.8)であり,グルコースと尿素窒素が正常範囲であれば血清Naの異常は多くの場合,血漿浸透圧の異常を示す病態と一致する.

 Na摂取は主にNaClの形で経口摂取されるか輸液による.Na排泄はアルドステロンや心房性Na利尿ペプチド(atrial natriuretic peptide,ANP)により調節されている.正常では,血漿浸透圧の上昇があれば,視床下部のosmoreceptorが感受して口渇感が生じ,同時に下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone,ADH)分泌が増加し,尿を濃縮することにより水排泄量を減少させる.逆に血漿浸透圧が低下した場合はその逆を作用させ調節を行う.

検査室の安全管理・11

生体試料の取り扱いと倫理 その2 組織・細胞診

著者: 井藤久雄

ページ範囲:P.133 - P.136

 病理学は医療の精度管理のみならず,医学研究の促進,医学教育において重要な役割を果たしている1).病理部門には細胞診断,生検あるいは手術や病理解剖から得られた検体が保管されている.病理医は高い職業倫理観とプロフェッショナルとしての高度な業務遂行能力とを発揮し,これら病理検体を整理・保管し,適切利用に供する責務を有している.他方,近年の医療倫理観の変容に従って,医学研究に関する各種指針やガイドラインが提示されている(表1)2~6).さらに,2005年4月1日には個人情報保護法が施行された.病理部門に保管されている組織検体の取り扱いに関しては現場を担当するすべての医療者が適切な認識を共有する必要がある.同時に一般社会に対して広くアピールし,利用目的や業務内容を理解していただく必要がある.

日本病理学会倫理委員会の活動

(表2)

 日本病理学会は2000年,病理検体を学術研究・医学教育に使用することについて肯定的見解を提示した.ただし,検体由来者の承諾・同意を必要とした.

連載 失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

組織凍結の際に生じるアーティファクト―標本のひび割れ/折れ曲がり/伸展不足/挫滅/メス傷

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.137 - P.141

 組織を凍結しての標本作製で,このように,ズタズタになってしまったり,ち切れてしまったりしたものをよくみかける.凍結するために生じたアーティファクトらしいのだが…….

 図1,2は凍結ミクロトームによる薄切時に切片が折れて割れた状態の標本で,図1は腫瘍組織,図2は凝血部分である.いずれも支持組織の弱い柔らかな組織で,薄切に際しての至適温度よりはるかに低温の状態で薄切したため生じた強度のアーティファクト像である.

臨床医からの質問に答える

酵素アノマリーのコメントについて質問された

著者: 渡邊弘子 ,   前川真人

ページ範囲:P.150 - P.153

背 景

 電気泳動法によるアイソザイム分析において,分画の欠損,異常分画の出現,テーリングの出現など通常では観察されないアイソザイムパターンを酵素アノマリーと呼んでいる.アノマリーには酵素と他の物質との結合,遺伝性変異,腫瘍産生酵素などがあるが,本稿では酵素-免疫グロブリン複合体に焦点を合わせて説明する.

 アノマリーの原因として頻度的に最も多いのは酵素-免疫グロブリン複合体で,電気泳動が行われているほとんどすべての酵素に存在する.免疫グロブリンが酵素活性に関係のない部位に結合すると,酵素の生物学的半減期が免疫グロブリンの半減期と同様に長くなるなど,酵素の代謝がなんらかの理由で遅延するために血液中の酵素活性が高値となる.失活因子の大部分も免疫グロブリンで,活性の発現部位への結合によって酵素活性を阻害すると考えられている.したがって,臨床像と合致しない酵素活性の異常から,電気泳動によるアイソザイム分析を行って発見されることが多い.CK(creatin kinase,クレアチンキナーゼ)では免疫阻害法を用いたCK-MB活性値の異常が発端となることもある.酵素-免疫グロブリン複合体の同定法には酵素免疫電気泳動法,免疫固定法,免疫混合法,免疫電気向流法などがある1)

Laboratory Practice 血液:末梢血血液像における鑑別困難な血球・2

異型リンパ球

著者: 常名政弘 ,   東克巳

ページ範囲:P.128 - P.132

はじめに

 末梢血液像で鑑別困難な血球の一つとして異型リンパ球が挙げられる.リンパ球は抗原刺激を受けると核小体を発現してリボゾームRNAを合成し細胞が大きくなって細胞分裂を行い,サイトカインや免疫グロブリンを産生する1).また刺激を受けたリンパ球は普通染色で大型の塩基性の強い異型リンパ球として観察される.しかし末梢血液像に見られるリンパ球はさまざまな形態を示し,正常なものから典型的な異型リンパ球として観察され,どこまでを異型リンパ球とするのか判別困難な場合も少なくない.一方,末梢血液像に出現するリンパ系細胞には悪性リンパ腫などの腫瘍細胞も認められ,これらを鑑別することも非常に重要である.また末梢血液像を観察するうえで塗抹標本作製上の諸条件による影響や患者の年齢なども考慮する必要がある2~5)

 今回は異型リンパ球鑑別のポイントについて紹介する.

検査じょうほう室 生理 心電図の読みかた・2

心電図の判読順序と正常心電図―P波,QRS波,T波,ST部分,PQ時間,QT時間

著者: 南家俊彦 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.142 - P.146

 近年の心電計にはマイクロコンピュータが搭載され,得られた心電図は自動解析されることが多くなっている.本稿では心電図の自動解析時に行われる自動解析の流れ(アルゴリズム)を参考にして,臨床現場でもスムーズに見逃すことがなく心電図の判読を行えるようにしたい,そのために必要な事項を解説する.

解析の手順に沿って

 マイコン心電計の自動解析の流れは,①QRS波の検出→②QRS波の分析→③P波の検出→④P波の分析→⑤P波,QRS波,T波,ST部分,PQ時間,QT時間の計測→⑥リズム解析の手順で行われる(図1).

けんさ質問箱Q&A

ヘパリン採血におけるアルブミン測定でフィブリノゲン値分だけ高値に出る理由は

著者: 村本良三

ページ範囲:P.156 - P.158

栄養科から,「アルブミンが他院の患者データに比してよすぎる」との指摘がありました.アルブミンは,至急検体として対応しヘパリン採血の検体でBCG法で測定しています.ヘパリン採血ではフィブリノゲン値分だけアルブミンが高値に出たのですが,その理由は何なのか教えてください.(茂原市 S.H.生)

 はじめに

 まず,血清アルブミン測定法について整理すると,現在用いられている日常検査法はブロムクレゾールグリーン(bromcresol green,BCG)法,ブロムクレゾールパープル(bromcresol purple,BCP)法およびBCP改良法の三法である.三法のうち採用率の最も高いのがBCG法であり,約9割の施設で用いられている.しかし,BCG法はアルブミンのみならずグロブリン分画,特に急性相反応蛋白質とも反応する問題点があり1,2),特異性に欠ける測定法である.また,BCP法はグロブリン分画とはほとんど反応しないもののアルブミン中の還元型と酸化型とで反応性が異なり,後者は前者に比べて反応性が高い3).BCP法におけるこの反応差の解消を目的に最近開発されたのがBCP改良法4,5)であり,現在最も正確度が高い日常検査法とされている.また,BCP改良法は二試薬系が市販されており,検体盲検を差し引けることから乳びなどの共存物質の影響がないことも特長となっている.

 一方,試料には従来から血清が用いられてきたが,前処理時間の短縮を目的に緊急検査にヘパリン採血を行っている施設も少なくない.しかし,あまり認識されていないが,ヘパリン血漿を用いたアルブミン測定には問題が多い.今回の質問にあるように,フィブリノゲン値分だけ高値に測定されることが実際に起こる.正確に述べると,フィブリノゲン値分だけ試薬メーカーによっては高値に出る試薬がある.

 今回の質問について結論から先に述べると,BCG法におけるフィブリノゲンとの交差反応,それに加えてフィブリノゲンとの反応による混濁形成が要因である.本稿では,実験データを基にヘパリン血漿を試料とする際の問題点について解説する.

ティッシュハーモニックの原理と長所短所は?

著者: 椎名毅

ページ範囲:P.158 - P.160

超音波機器のティッシュハーモニックとはどのような原理の手法ですか.その長所短所も併せて教えてください.(さいたま市 M.M.生)

 ティッシュハーモニックイメージングとは

 生体内における超音波の伝搬や反射の特性が線形である場合は,送信された超音波パルスと対象からの反射波(エコー信号)との周波数帯域は同じです.しかし,伝搬や反射特性が非線形である場合,反射波には,送信パルスに含まれる周波数帯域の成分(基本波)のほかに,その2倍,3倍といった高調波(ハーモニックス)が発生します.この高調波を利用して生体内の形態や機能を画像化する手法がハーモニックイメージングです.このハーモニックイメージングは,コントラスト剤の散乱特性の非線形性を利用するコントラストハーモニックイメージングと,組織内を伝搬する際の非線形性を利用するティッシュハーモニックイメージングとに分かれます.

トピックス

vWF切断酵素

著者: 金子誠

ページ範囲:P.161 - P.164

はじめに

 これまで不明とされていた血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura,TTP)の発症機序が,最近,明らかになってきた.その発症原因として大きな関与が指摘されていたvon Willebrand因子(vWF)切断酵素が,2001年に単離・同定された.この酵素は,ADAMTSファミリー(a disintegrin-like domain, and metalloprotease, with thrombospondin type 1 motif)に属する亜鉛型メタロプロテアーゼとしてADAMTS13と命名された1~4).ADAMTS13はvWFのA2ドメインに存在するTyr842-Met843間のペプチド結合を特異的に切断するが,なんらかの原因によりADAMTS13の欠損,機能不全が惹き起こされると,vWFが切断されなくなり,超高分子量vWFマルチマー〔ultra-large(or “unusually large”)vWF,ULvWF〕が出現する.ADAMTS13の制御が破綻し,血漿中にULvWFが出現したことによる血小板血栓形成の過剰促進が,TTPの発症要因と考えられている.現在のところ,ADAMTS13活性のみでは,この病態を完全に説明できない症例も多々存在しうるが,ADAMTS13活性測定およびそのインヒビター測定をすることが,診断はもとより治療効果予測にも有用である5)

特異免疫に基づいた結核感染診断(QFT-2G法)

著者: 原田登之 ,   樋口一恵

ページ範囲:P.164 - P.166

はじめに

 結核菌に感染した場合,大多数の人は発症に至らない潜在性結核感染となる.現在,世界人口の約三分の一がこの潜在性結核感染者と見積もられており,発症した際には感染源となりうる.したがって先進国においては結核に対する有効な対策の一つとして,潜在性結核感染者を早期に見いだし,発病を防ぐために予防内服を行うことが実施されている.潜在性結核感染の診断には,従来唯一ツベルクリン反応(ツ反)が世界的に使用されてきた.しかし,ツ反に用いるPPD(purified protein derivative of tuberculin,精製ツベルクリン蛋白質)は加熱滅菌した結核菌培養濾液から部分精製した結核菌抗原の混合物であり,そのほとんどのものがBCG(bacillus Calmette-Guérin,カルメット-ゲラン桿菌)や非結核性抗酸菌の抗原と高い類似性を持つため,BCG接種あるいは非結核性抗酸菌感染によってもツ反が陽性になる場合がある.ツ反はこの低特異性という欠点を持つため,BCG接種が広範に実施されている日本において結核感染診断をツ反で正確に行うことは非常に困難であった.しかし最近,ツ反の持つ欠点を克服する新たな結核感染診断法QuantiFERON(R) TB-2G(QFT-2G)が開発された.

 本稿では,このツ反の欠点を克服するQFT-2Gについて述べる.

学会印象記 第52回日本臨床検査医学会総会

再び注目される脂質代謝,リポ蛋白質代謝

著者: 宍野宏治

ページ範囲:P.167 - P.167

 第52回日本臨床検査医学会総会が2005年11月17日から20日まで福岡市の福岡国際会議場で行われた.メインテーマは「明日の検査をめざして」であった.その根底にある理念としては①日常業務を適切に行うこと,②将来へ向けての新しい検査法の開発にあるとのことであった.この理念は私自身が常日頃から臨床検査への取り組み姿勢としているものと正に同一のものであり,我が意を得たりと,学会参加への胸の高まりを大いに感じて参加させていただくことにした.

 また,どのような学会においても,参加する際には,もちろん先端的な内容に越したことはないのであるが,どのような内容の演題でもいいから少しでもオリジナリティのある演題を準備して参加するようにと先輩からよく教示されたものである.それを律儀に守り通してはや20数年の歳月が経った.筆者なりに最先端の研究発表をと心掛けてきたつもりであり,さらに発表することにより,それらの内容をまとめて学術雑誌に投稿をする動機付けともなってきた.すなわち臨床検査医学会総会と臨床化学会年会とのいずれかに毎年演題発表をするのが,何時しか筆者のライフワークの一つになっていた.また,何時しか,このテーマは動脈硬化につながる脂質代謝と糖尿病関連となっていた.今回の私の演題発表もそれに準じた内容の糖化LDL関連についての報告をすることにした.

幅広い話題からおおいに吸収できた

著者: 梅木一美

ページ範囲:P.168 - P.168

 今回の日本臨床検査医学会総会(総会長 濱崎直孝先生・九州大学医学部臨床検査医学)は日本臨床化学会との共催で「明日の検査をめざして」をテーマに特別講演をはじめ,シンポジウムなどのプログラムと一般演題528題で構成されていました.学会を準備し運営された先生方のご苦労がしのばれます.私の注目したシンポジウムを中心に紹介します.

【免疫血清検査】 近年,関節リウマチ(RA)は発症後早期に抗リウマチ薬や生物製剤で治療することにより高い治療効果が得られるようになってきました.これに伴い,早期のRAをより効率的に診断できる検査法が望まれており,その一つとして高い特異性と感度とを有する抗環状シトルリン化抗体(抗CCP抗体)が注目されています.さらに抗CCP抗体はMMP-3との組み合わせにより予後予測に有用であり,臨床検査への早期導入が期待されています(大田俊行先生).一方,リウマチ因子測定試薬には試薬間差があり,早急に試薬間差の是正,標準品の値付けの標準化が必要と指摘されています(今福裕司先生).また抗核抗体に関する全国的な調査の結果,蛍光顕微鏡によるばらつきの是正,コントロール血清,判別法の統一が必須であると報告されています.基準値は現在多くの施設で20~40倍希釈がカットオフ値ですが,臨床的には160倍が妥当と思われ,今後の検討課題として提案されています(赤星透先生).

医療制度改革の中で

著者: 山崎美智子

ページ範囲:P.169 - P.169

 福岡は8か月ぶりでした.3月に参加した福岡での研修会の途中で震度6弱の地震に遭い,帰りのバスの中からは道路の液状化現象やガラスが飛び散ったビルが見られ,空港のガラスも所々破損していたことをまだ鮮明に憶えています.そういうわけで少し怖々向かった福岡でしたが,一日目は少し雨模様だったものの翌日からは気持ちのよいお天気でした.

 一日目は,会場へ着いてすぐにシンポジウム「チーム医療と検査技師の役割」に参加しました.糖尿病チーム医療における役割,感染防止対策チーム(ICT)における役割,栄養サポートチーム(NST)における臨床検査技師の役割,治験チームのコーディネーション,外来・病棟支援における検査部の役割,と興味深い内容でした.チーム医療への参画という点では,薬剤師・栄養士に較べ出遅れている感のある臨床検査技師ですが,それぞれの施設の特性を活かしながら試行錯誤を繰り返しておられることがよくわかりました.今後,各施設の取り組みが全国的な広がりを持ち,専門の知識と技術とを持った臨床検査技師の存在が管理加算でも評価されていくことが望まれます.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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