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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術34巻4号

2006年04月発行

雑誌目次

病気のはなし

E型肝炎

著者: 深井健一 ,   横須賀收 ,   小島広成

ページ範囲:P.318 - P.322

サマリー

 E型肝炎はかつて流行性非A非B型肝炎とされていたが,その原因ウイルスであるE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus,HEV)の遺伝子配列が1991年に決定された.HEVはA型肝炎ウイルスと同様に糞口感染形式をとりアジア・アフリカを中心とした発展途上国などの衛生環境の悪い地域に特有の疾患であった.しかし近年,欧米などの非流行地域でも国内発生のE型肝炎が報告され,2001年にはわが国においても海外渡航歴のない急性肝炎患者の血液よりHEVが検出された.その後,飼育ブタやイノシシ,シカなどの野生動物の肉,内臓の摂取後のE型肝炎の発生例が報告され,これらの感染動物を介したヒトへの感染形式をとるzoonosis(人畜共通感染症)として注目されている.

原発性肺癌

著者: 萩原弘一

ページ範囲:P.324 - P.327

サマリー

 肺に発生する悪性腫瘍である原発性肺癌には,腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌,小細胞癌があり,大きく非小細胞癌,小細胞癌に分けられる.扁平上皮癌,小細胞癌は喫煙と密接な関連がある.非小細胞癌は外科手術で完全に切除できた場合には治癒が望めるが,それ以外の場合は化学療法,放射線療法を組み合わせても治療成績は悪く,治癒は望み難い.小細胞癌では,限局型の場合,化学療法,放射線療法の同時施行によりある程度の治癒が望めるようになってきた.非小細胞癌の一部に上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)遺伝子異常が原因となっていると考えられる癌があることがわかり,そのような癌にはイレッサ(R)が著効することが明らかとなりつつある.

技術講座 免疫血清

ラテックス凝集免疫比濁法

著者: 渡辺勝紀

ページ範囲:P.329 - P.335

新しい知見
 ラテックス凝集免疫比濁法(latex agglutination turbidimetric immunoassay,LATIA法)を原理とする検査は,従来専用の分析機器を必要としていたが,近年では生化学自動分析装置への適用が進むことにより,検査数が飛躍的に増大してきた.さらにラテックス試薬製剤化技術の向上に伴い,ナノグラムレベルの検出感度を実現し,酵素免疫法(enzyme immunoassay,EIA法)に迫る高感度化が可能となった.しかし高感度化に伴い,分析装置に起因する検体キャリーオーバーや,検体中のリウマチ因子(rheumatoid factor,RF)や異好性抗体による非特異的な干渉反応といった検査過誤を招きかねない問題も新たに発生している.

血液

血小板凝集能検査

著者: 雨宮憲彦

ページ範囲:P.337 - P.342

新しい知見

 血小板凝集能の測定法は種々あるが,多血小板血漿中の血小板凝集における光透過性の変化を捉える吸光度法が普及している.吸光度法は測定原理が簡単なことから再現性に優れており,血小板機能低下の検索に有用な測定法であるが,血小板機能亢進状態の把握には不適であった.1994年に新しい血小板凝集能検査法として,散乱光を用いた粒子計測法が開発された.粒子計測法はレーザービームを凝集塊に照射し,凝集塊から発生する散乱光強度を検出することで吸光度法では困難だった血小板が10個程度凝集した小凝集塊の検出を可能にした.この検査法は検出感度がより鋭敏になり,種々の動脈血栓性疾患や糖尿病などの血小板機能亢進状態の評価に有用である.

疾患と検査値の推移

慢性骨髄性白血病(CML)

著者: 佐藤優実子 ,   横田浩充 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.347 - P.351

疾患概念

 慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia,CML)は多能性造血幹細胞の異常により,末梢血中に芽球から成熟好中球までの各段階の顆粒球系細胞が増加し,白血球増多症をきたすことを特徴とする疾患である.フィラデルフィア(Philadelphia,Ph)染色体と呼ばれる染色体異常を認めることが特徴である.中年期以降に発症することが多く,臨床経過は極めて特徴的で,脾腫以外は比較的症状に乏しい慢性期を数年経た後,移行期,急性期へと進展して死に至る.

病態生理

 CMLで認められるPh染色体は,9番染色体と22番染色体の長腕間の相互転座t(9;22)(q34;q11)の結果生じる(図1-a).CMLではこの転座がその発症に重要な役割を担っていることが証明されている1)

オピニオン

チーム医療への参画―糖尿病療養指導にみる臨床検査技師の役割から

著者: 成宮学

ページ範囲:P.323 - P.323

 昨今,糖尿病は増加の一途をたどり,医療費高沸の大きな原因となっており,糖尿病医療従事者に課せられた責務は大きい.円滑な糖尿病診療を行うには,それに適したスタッフ養成が求められる.CDE(certified diabetes educator,糖尿病療養指導士)制度も定着してきているが,周りのスタッフのCDEに対する理解はいま一つであるとともに,CDEの各職場での具体的な役割についても暗中模索というのが現状であるのかもしれない.そこでチームワーク医療の重要性と糖尿病療養指導における臨床検査技師の役割について考え,CDEの今後の役割を考える材料と意見とを述べさせていただく.

 1 . パラメディカルからコメディカルへ

 糖尿病では他の内科疾患と異なり,食事・運動が基本治療となり,薬物療法はあくまでも補助的なものである.それゆえコメディカルスタッフの役割も異なってくる.他の疾患と異なり糖尿病では,コメディカルスタッフの治療への参加のウエイトがはるかに大きくなる.

ワンポイントアドバイス

同定できない真菌を検出したときの対応(後編)―集落観察法と顕微鏡標本作製法

著者: 西村和子

ページ範囲:P.343 - P.343

 前編では,臨床検体から培養されるカビの菌種同定には分生子,胞子囊胞子などの形態と形成状態の観察が重要で,これら無性胞子をなるべく早く豊富に形成させる培養法について述べた.今回は集落観察法と標本作製法とについて述べる.

 集落の直接鏡検

 顕微鏡標本を作る前に,原因菌種が疑われる集落を観察する.分生子や胞子囊胞子が豊富に産生されている集落であれば,色調,菌糸の組成(菌苔がビロード状,羊毛状,粉状,綿状,クモの巣状など)の組み合わせで,ごく大雑把に菌群を仕分けることができる.実体顕微鏡,ない場合は大型ルーペで集落表面を観察すると,例えばアオカビの場合,円筒形の分生子頭を認めればAspergillus属菌であり病原菌種はA. fumigatus,A. flavus,A. nidulansに限られてくる.この3菌種は菌糸体の構造と色調とが微妙に違うので鑑別できる.分生子頭がばらけていればPenicillium属菌である.

けんさアラカルト IMMULYZEによるACTH迅速測定法・その1

測定原理と相関性を中心に

著者: 岡田和敏

ページ範囲:P.378 - P.379

 副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone, adrenocorticotropin, corticotropin,ACTH)は,39個のアミノ酸から成る分子量約4,500のペプチドホルモンであり,脳下垂体前葉で合成され,副腎皮質に作用して副腎皮質ステロイドの合成分泌を促進する.

 ACTHの分泌調整は,①視床下部室傍核から日内変動を伴い分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出因子(corticotropin-releasing hormon,CRH)と,②副腎から分泌されるコルチゾールによるネガティブフィードバック機構で主に調節されているが,ほかに③身体的,精神的ストレス,④アルギニン-バソプレシン(arginine-vasopressin,AVP),アンギオテンシンⅡ,その他の脳内アミン,ニューロペプチドなどの神経伝達物質がその分泌に影響を与える1)

今月の表紙

急性骨髄性白血病 FAB分類M3,M3 variant

著者: 高橋恵美子 ,   東克巳

ページ範囲:P.328 - P.328

 今回は,FAB分類(French American British classification)M3(急性前骨髄球性白血病:acute promyelocytic leukemia,APL)を取り上げた.M3には前骨髄球に特徴のあるアズール顆粒が豊富にみられるhypergranular promyelocytic leukemiaとほとんど顆粒のみられないM3 variantとがある.WHO分類ではいずれのM3もacute myeloid leukaemia with recurrent cytogenetic abnormalitiesのacute promyelocytic leukemia〔AML with t(15;17)(q22;q12),(PML/RARα)and variant〕となる.頻度は,すべてのAMLの約10~15%を占め,全M3の10~20%がM3 variantであるといわれている.

 FAB分類のM3は,骨髄中の病的(白血病性)前骨髄球が30%以上を占める白血病である.病的前骨髄球は,粗大なアズール顆粒を多数持つ異常な前骨髄球で,アズール顆粒のために核と細胞質の境目が不明瞭となることも多い.核は腎臓形,亜鈴形などを示し,faggot cell〔アウエル小体(Auer body)を束状に有する細胞〕を認める.POD(peroxydase,ペルオキシダーゼ)反応もしくはSBB(Sudan black B,ズダン黒B)染色で細胞質一面に強陽性を呈することが特徴である.一方,M3 variantでは,アズール顆粒が細かいことが特徴である.光顕下ではアズール顆粒を認めないものから一部微細顆粒を認めるものが混在するが,Auer小体やfaggot cellが見られる場合がある.骨髄の普通染色では,一見すると単球系を思わせる像を呈するが,鑑別点はPOD反応がM3同様強陽性となる.細胞表面抗原検索では,いずれの場合も顆粒球特異マーカー(CD13,CD33)が陽性,HLA-DRが陰性となることが多い.染色体異常はt(15;17)(q22;q12)を認めることが多く,それに伴いPML/RARα mRNAが発現する.

ラボクイズ

一般検査 3

著者: 吉野一敬

ページ範囲:P.344 - P.344

 髄液検査は一般の病院では少なくなってきています.しかしながら髄膜炎などの症例では非常に大事な検査の一つです.次の症例を見てお答えください.

  問題1 症例1:年齢81歳,男性

 頭痛と手のしびれを訴えました.性状は細胞数5/3/μl,蛋白47mg/dl,糖60mg/dl,クロール124mEq/l,LDH24IU/l.この髄液の状態をお答えください.

3月号の解答と解説

著者: 吉澤梨津好

ページ範囲:P.345 - P.345

【問題1】 解答:④上皮円柱と上皮円柱

解説:本症例に見られる細胞は,図1-a,cともに上皮円柱である.図1-aは弱拡大(100倍)の全体像から円柱であることがわかる.図1-bの強拡大(400倍)からは,顆粒円柱に洋梨・紡錘型の細胞が付着していることがわかる.洋梨・紡錘型の細胞は移行上皮細胞か尿細管上皮細胞かの鑑別が必要であるが,細胞質が非常に薄いこと,細胞質の辺縁が不明瞭なこと,円柱に付着していることなどから尿細管上皮細胞と判別できる.円柱の分類については,「尿沈渣検査法2000」の複合円柱の考えかたによると,硝子円柱または顆粒円柱の基質に細胞成分を3個以上含有または付着している場合は,その細胞成分の円柱としてカウントするとなっているので,図1-aの円柱は上皮円柱に分類できる.図1-cは普段見慣れた円柱とは異なるが,周りに付着している細胞成分は図1-a,b同様に尿細管上皮細胞の洋梨・紡錘型と判別できる.真中の青く染まった部分は,硝子成分か顆粒成分かの判別は難しいが,円柱の基質部分であると思われ,図1-cの成分は図1-aのような円柱を横断面で観察したものと考えられる.

【問題2】 解答:③尿細管上皮細胞と尿細管上皮細胞

解説:本症例に見られる細胞は,図2-a,bともに尿細管上皮細胞である.図2-aは角柱・角錐台型の尿細管上皮細胞の側面像である.この細胞の特徴は,内腔側と基底膜側とがほぼ平行で,核が濃縮状で青色調に,細胞質が赤紫色調に染まることである.図2-bは同じく角柱・角錐台型の尿細管上皮細胞を立体的にみた正面像である.内腔側は明瞭に染まるが,やや広い基底膜側は淡く染まり,細胞質の辺縁は不明瞭である.このような角柱・角錐台型の尿細管上皮細胞は,主に遠位尿細管や集合管由来と考えられている.

復習のページ

血液型と小腸性ALP

著者: 松下誠

ページ範囲:P.390 - P.392

[不思議な現象]

 学生時代に大学の図書館で「血清中の小腸型ALP(alkaline phosphatase,アルカリホスファターゼ)がB型またはO型の分泌型の血液型に依存して出現する」と書かれた参考書をみたことがあります.その当時は,何気なく目にした一文でしたが,実際に就職してアイソザイム検査に従事してみると「ほんとうに不思議な現象があるものだ」と実感したことが思い出されます.今では,臨床検査技師を目指している学生や生化学検査室に勤務している人にとっては,周知の事実です.ちなみに,過去の国家試験においても数回出題され,また臨床化学の教科書や一般読者向けの検査データの解説書などにも同様の説明がなされています.

 ところで,血液型と小腸型ALPとの関連性について調べてみると,それは1960年代にまで遡ることになります1).それにしても,最初にこの事実を報告した人は「なぜALPと血液型との関係を調べたのだろう」,「小腸型ALPが血液型に関連すると考えた根拠はどこにあったのだろう」などとしばしば考えることがあります.過去の論文を読む限りその具体的な根拠は示されていませんが,最初の報告者の創造性や着眼点には敬意を表したいものです.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

放射線取扱主任者

著者: 山﨑章

ページ範囲:P.380 - P.381

はじめに

 放射線や放射性同位元素(radioisotope:同じ原子番号で質量の違うもののうち放射能を持つ同位元素)は医療用具の滅菌やがんの治療などに用いられるだけでなく,食品の保存や半導体の加工,燃料電池,工業製品の透過検査,物質の定性・定量などにも広く利用されています.

 この放射線は人間の五官では感じ取ることができないエネルギー持っており,直接または間接に空気を電離する能力を持っています.その種類はいろいろあり,大まかには粒子線と電磁波とに分けられ,粒子線にはα線,β線,中性子線,重粒子線などが含まれ,一方の電磁波にはレントゲン検査で使用されるX線とガンマ線とがあります.

 核医学(nuclear medicine)と総称される分野では,放射性同位元素を用いて臓器の形態や機能を検査し,病態の診断を行います.具体的には,放射性同位元素を体内に投与し,臓器の形態・機能を画像で直接評価するin vivo検査〔最近ではSPECT(single photon emission computed tomography,単光子放出コンピュータ断層撮像)検査とか,PET(positron emission tomography, 陽電子放射断層撮像)検査などと呼ばれることが多くなりました〕と血中の腫瘍マーカーや内分泌成分の定量分析やDNA分析を行うin vitro検査とに分けられるのが一般的のようです.

 このように放射線や放射性同位元素は日常の生活に根付いた存在になっています.その利用の理念は平和の目的・民主的な運営・自主的・成果の公開をもとに,原子力基本法や放射線障害防止法などの規制を受けながら利用されています.放射線取扱主任者はこの利用の理念を遂行するために意義のある存在と考えています.

どうする?パニック値 生化学

8.血中Ca濃度異常値

著者: 岡田一義 ,   丸山範晃 ,   松本紘一

ページ範囲:P.382 - P.383

 体内には約1kgのカルシウム(Ca)があるが,その99%は骨にヒドロキシアパタイトとして存在し,残りの1%が軟部組織や細胞内外液中に存在する.骨と細胞外液との間では,約500mg/日のCaが骨吸収により骨から細胞外液へ,また骨形成により細胞外液から骨へと移動し,平衡を維持している.Caを多く摂取する人の食事には約1g/日 のCaが含まれ,小腸でそのうち40%が吸収され,大腸で約300mgが分泌されるので,便中には食物中の90%のCaが排泄され,10%の約100mg/日 が腸管から吸収される.血清Ca濃度は約10mg/dlに保たれ,約4mg/dlはアルブミンと(一部グロブリンとも),約1mg/dlはほかのイオン(無機リン,クエン酸など)と結合した形で存在し,残りの約5mg/dlがCaイオンとして存在する.血液中に存在するCaは約1%にすぎないが,種々の生理機能調節に重要な役割を果たしており,血清Caイオン濃度は副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone,PTH)とビタミンDにより一定に制御されている.蛋白結合Ca濃度以外の約6mg/dlが糸球体で濾過され,その99%近くが再吸収され,腸管から吸収された量(約100mg/日)が尿中に排泄されている.

 当院の基準:8.8~10.8mg/dl.

連載 失敗から学び磨く検査技術 病理標本作製法

組織凍結の際に生じるアーティファクト―迅速標本作製時の組織障害 コンタミネーション/気泡跡/固定不良/乾燥/染色不良/傷

著者: 吉村忍

ページ範囲:P.352 - P.357

 迅速標本作製中によく見られる事例だが,どうしてこういうことが起こるのだろうか.

 図1は切片の裏に薄切片の伸ばし作業時に使用する小筆の毛が混入している標本で,図2は明らかに他の切片の一部が載っている標本である.両者とも明らかなコンタミネーションの標本である.他の検体が混入するような作業は誤診の原因ともなりかねない重大なアーティファクトであり,厳重な注意を払う必要がある.

臨床医からの質問に答える

血栓止血系の分子マーカーの使い分けについて質問された

著者: 島津千里

ページ範囲:P.384 - P.389

 血栓止血系マーカーは播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)診断基準の補助診断項目に採用されており,DICの診断や治療効果・予後判定に有用である.近年,膝・股関節置換術後など術後合併症として深部静脈血栓症/肺塞栓症(以下,血栓症)の増加に関連して,2004年には関連学会より“深部静脈血栓症/肺塞栓症予防ガイドライン”が作成された.死因の上位を占める心筋梗塞や脳梗塞などは動脈硬化を基盤として,血管壁の炎症性変化,細胞増殖などに起因する血栓形成とともに発症する.血管内皮細胞傷害・活性化の程度を知ることは重要であり,血栓症発症のリスクや予知,抗血栓療法のモニターとしての有用性も期待される.

 生体内では凝固・線溶活性化の結果,トロンビン,プラスミンが生成されるとただちに阻止因子との複合体が形成される.血中では阻止因子のほうがはるかに多量に存在するため,複合体の定量は血管内での凝固・線溶活性化の程度を知る指標となる.トロンビン生成の過剰を捉える凝固系,プラスミン生成の過剰を捉える線溶系ならびに血管内皮細胞活性化・障害の各種マーカーのバランスにより血栓傾向を把握できる1)

Laboratory Practice 管理

―臨床検査室の構造改革―検査業務の見直し・2

著者: 相原雅典

ページ範囲:P.358 - P.361

包括医療時代の病院内検査室の運営

 1 . 今後の医療を展望する

 2004年から医療機関にDPC(Diagnosis Procedure Combination,一日定額払い制度)が導入され始めた.しかし現状のDPCは,各医療機関の過去の実績を踏まえ,収益が保証されるように計算されるシステムがとられている.しかしこのような,いかにも中途半端な制度が包括医療の最終目標とは到底考えられない.国はこれまでも新しい政策,特に国民に負担を強いる政策を実施する前に必ずアメをなめさせる政策を採っており,その意味からも現状のDPCはアメであり,数年後にはムチの政策〔多分,日本型DRG/PPS:Diagnosis Related Group(疾患別診断群)/Prospective Payment System(包括支払い方式)〕が導入されると考えるべきであろう.例えば,MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染対策を全医療機関に実施させるに当たり5点のMRSA管理加算を与えたが,その後多くの医療機関で感染対策が機能し始めたとみるや管理加算を廃止し,逆に感染対策に熱心ではない施設から-5点の管理減算を取り立てる策を採ったことは記憶に新しい.

 日本型DRG/PPSがどのような形となるのかわからないが,診断のための疾患分類は既にでき上がっているし,疾患別に必要な経費や入院日数もDPCの経験でおおよそ掴めたに違いない.全体の流れは確実に厳しい包括化に進んでおり,保険の国家管理を民間へ移行する準備も着々と進められている.米国型の医療体系を米国型の保険制度で賄う時代が,間近に迫っていると考えざるをえない.

血液:末梢血血液像における鑑別困難な血球・4

赤血球とその異常

著者: 増田亜希子 ,   東克巳

ページ範囲:P.362 - P.366

はじめに

 赤血球の形態をしっかり観察することで,貧血その他の病態の診断において,重要な情報を得ることができる.赤血球の形態異常は一目でわかるものが多く,その意味で“鑑別困難な”ものは少ない.しかし,それぞれの形態異常の原因が何であるか,どのような病態が背景にあるかを知ることで,より有用な検査情報を提供できると考えられる.本稿では,それぞれの形態異常を生じる病態にポイントを置いて解説する.

検査じょうほう室 生化学 腫瘍マーカー・2

前立腺腫瘍マーカー―PSA・PAPを中心に

著者: 武内巧

ページ範囲:P.368 - P.369

PSAとは

 PSA(prostate-specific antigen,前立腺特異抗原)は前立腺上皮細胞で産生される糖蛋白質である.PSA遺伝子のプロモーター領域にはARE(androgen response element,アンドロジェン反応部分)が存在し,androgen/androgen receptor複合体がそこに結合して転写因子として作用してPSAを男性ホルモン依存性に前立腺上皮細胞に発現させる.血中PSAは前立腺癌のよい腫瘍マーカーとして利用され,前立腺癌の検出や前立腺癌治療後のフォローアップに威力を発揮している.一般には血中PSAは4ng/ml以上を異常とされている.一般に50歳以上の男性では年1回のPSA測定と前立腺の触診とが推奨される.

 米国ではPSAによる前立腺癌のスクリーニングが1989年に導入され,米国白人では早くも1992年には前立腺癌死亡率が減少に転じたと報告されている1).しかしながらPSAは前立腺癌以外の前立腺肥大症,前立腺炎といった前立腺疾患においても上昇するため,PSA高値の男性に対して前立腺生検を行った場合に偽陽性が多くみられる.また前立腺癌は緩徐に増殖するものが多いため,PSAが正常範囲であっても前立腺癌が存在する偽陰性も多々みられる.偽陰性を減らすためにPSAのカットオフ値を2.5ないし3.0ng/mlに下げるという考えもあるが,これは前立腺生検の陽性率を下げ,無意味な生検を増やしたり,あるいは生命を脅かすことのない無意味な(insignificant)前立腺癌を検出して手術療法や放射線療法を行うといった無駄な医療につながる可能性がある.

生理 心電図の読みかた・4

虚血性心疾患

著者: 國島友之 ,   三宅良彦

ページ範囲:P.370 - P.374

心電図(electrocardiography,ECG)の基本

 心電図は,体表面から簡便に,いつでも,どこでも,侵襲を加えずに刺激発生や伝導異常および心筋障害の程度を知ることができ,循環器領域の診断には欠くことができません.

 しかし,安静時心電図のみでは不整脈や虚血性心疾患の診断に悩む症例も少なくなく,病歴から虚血性心疾患が疑われた場合には,発作時の心電図記録を行い,さらに運動や薬物を用いた負荷心電図,長時間心電図,心臓超音波検査,心臓核医学検査などを組み合わせることでより正確な診断が可能となります.虚血性心疾患の確定診断には冠動脈造影検査が現在必要不可欠となっていますが,標準12誘導心電図から如何に虚血性心疾患を想像することができるかが最も重要となります.

生化学 おさえておきたい生化学の知識

食後血糖値測定の意義

著者: 富永真琴

ページ範囲:P.375 - P.377

はじめに

 検査値を解釈する場合,食事や運動の影響といった生理的変動要因を考慮しなければならないことがある.血糖値はまさにそのような検査項目の代表である.これら生理的変動を受ける検査項目については解釈を単純化するため,早朝,安静,空腹時の採血が奨められてきた.このことは検査に関するすべての教科書の最初に書かれてあり,疑問を差し挟む人などいなかった.しかし,最近,心血管疾患(虚血性心疾患プラス脳卒中)との関係で食後血糖値が注目されている.

 本稿では,なぜ,空腹時血糖値ではだめなのかを解説し,また,そこから今後の検査の在りかたも考察してみたい.

けんさ質問箱Q&A

G-CSF産生腫瘍とは

著者: 髙倉裕一 ,   橋本直明 ,   岸田由起子

ページ範囲:P.393 - P.394

G-CSF産生腫瘍とはどういうものですか,教えてください.また,どのような検査をするのでしょうか,併せて教えてください.(名古屋市 T.K.生) 

  G-CSF(granuloyte colony-stimulating factor,顆粒球コロニー刺激因子)とは

 単球,マクロファージ,線維芽細胞などが主な産生細胞の糖蛋白質で,顆粒球系造血に作用し顆粒球の増殖,分化を刺激し成熟好中球を骨髄から末梢血に動員し機能を亢進するなどの作用を持つ.血中G-CSF濃度は感染症や血液疾患において高値を示すほか,ある種の悪性腫瘍でも高値を示すことが知られている.現在では精製され治療薬として利用されており,抗癌剤使用時の顆粒球減少時には必要不可欠な存在となっている.

心エコー検査の緊急性は?

著者: 小川章夫 ,   増田喜一

ページ範囲:P.394 - P.396

例えば急性心筋梗塞(acute myocardial infarction,AMI)や大動脈解離であれば緊急性の高いことがわかります.ほかにも,心エコー検査で急を要する疾患とその症状があれば教えてください.(尼崎市 M.I.生)

 はじめに

 急性心筋梗塞,大動脈解離以外にも心エコー検査で急を要する疾患は数多くあります.そのうち代表的な疾患を表に示します.これらの疾患は急激に器質的異常や機能的異常が発症し心ポンプ機能が維持できなくなるため,心拍出量が低下し,肺うっ血などの症状が強く出現してきます.心エコー検査でこれらの疾患を認めたときは病態を把握できしだい主治医に連絡し,迅速に治療を開始する必要があります.

 本稿では日常検査においてしばしば遭遇し,右心系に存在すれば肺梗塞,左心系に存在すれば脳梗塞などを発症する危険性が高い心腔内血栓を取り上げ,血栓検出率を高くするコツなどについて解説します.

トピックス

涙の蛋白質とシェーグレン症候群―プロテオミクス技術を用いた非侵襲的診断法の開発

著者: 友杉直久 ,   北川和子

ページ範囲:P.397 - P.399

はじめに

 シェーグレン症候群(Sjögren's syndrome,以下SS)は,リンパ球や形質細胞が涙腺,唾液腺,耳下腺などの外分泌腺に浸潤し,腺組織が破壊され,腺機能が低下する慢性の自己免疫性炎症性疾患である1).この炎症反応は腎,肺,肝,消化管,神経系にも認められることがあり,SSは全身性疾患として捉えられている.

 このSSの診断は,ドライアイ,口渇,唾液腺や涙腺へのリンパ球浸潤,SS-AやSS-Bに対する抗体,さらにローズベンガル試験で示される角膜上皮の破壊など,多様な所見を総合してなされる2).このような診断基準の問題点は,SSの診断が確定した病期には,既にリンパ球浸潤により腺組織が破壊されていることである.涙腺では,生検を繰り返し組織を得ることは困難であるため,SSの初期の病像や涙液低下の詳細な機序は不明のままである.このような観点から,SSの発症因子を指標とした,正確で非侵襲的な診断法の開発が現在期待されている.

 これに対しわれわれは,プロテオーム研究における新しい質量解析技術であるsurface enhanced laser desorption/ionization time of flight mass spectrometry(SELDI-TOF-MS)を利用して,涙腺の病態を直接的に反映していると推測される涙液の蛋白質成分のうちから,疾患に特異的なバイオマーカーを見いだし,それらに基づいた非侵襲的診断法を確立した.

 本稿ではプロテオーム研究の背景と,その臨床への応用を概説する.

成人の百日咳

著者: 岡田賢司

ページ範囲:P.399 - P.402

成人の百日咳とは

 百日咳は小児だけの病気ではない.成人の百日咳にも少しずつ関心が集まっている.図1に1990年からの福岡地区での百日咳患者の年齢分布を示す.成人の場合,百日咳と診断されず乳幼児への感染源となっていることが問題である1,2)

 全米31大学で百日咳菌が分離された学生の報告では,咳の持続が平均21日間あり90%が連続性の咳をしていたが,百日咳を疑われなかった.臨床診断は,39%が上気道炎,48%が気管支炎,16%がその他,であった3)

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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