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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術35巻12号

2007年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

精巣腫瘍(セミノーマ)

著者: 椎木一彦 ,   島田誠

ページ範囲:P.1328 - P.1332

サマリー

 精巣腫瘍とは精巣を発生母地とする腫瘍性病変の総称であるが,そのなかでもセミノーマを含む胚細胞腫瘍がその中心である.そのほとんどは悪性であり,20~40歳という若年層に好発するという点で非常に重要な疾患である.一方,たとえ転移を有する進行癌であっても適切な治療により完治に導くことのできる数少ない悪性腫瘍であるという面でも正しい知識が必要とされる.組織型により臨床的にはセミノーマと非セミノーマに分類して治療方針の決定や経過観察,予後推定に役立てている.いずれの組織型であっても進行癌に対する治療の中心は精巣摘出手術後の化学療法であり,これに放射線療法や転移巣の外科的切除を組み合わせた集学的治療が行われ,これにより特にセミノーマに関しては高い治癒率が得られている.なお,全体の約5%を占める非胚細胞性の精巣腫瘍としてはテストステロン産生細胞に由来するライディッヒ細胞腫や精子形成に関与する細胞の腫瘍化したセルトリ細胞腫があり,これらの多くは良性である.また,高齢者に発生するものとして悪性リンパ腫が臨床的に重要である.

ネフローゼ症候群

著者: 武田之彦 ,   富野康日己

ページ範囲:P.1334 - P.1338

サマリー

 ネフローゼ症候群とは,腎臓で血液から尿が生成される際に,濾過フィルターとしての役割を担っている毛細血管の塊である糸球体の障害により,持続的で高度な蛋白尿と,それに続発する低蛋白(アルブミン)血症,高コレステロール血症,浮腫の出現,などの一連の病態をいう.ネフローゼ症候群は糸球体腎炎などの原発性と糖尿病や膠原病,悪性腫瘍などの全身性疾患に続発する二次性のものがあり,原疾患によって経過や治療法,予後は異なる.

技術講座 血液

血液ガス(pH,pCO2,pO2)の測定原理

著者: 池田寿夫

ページ範囲:P.1339 - P.1342

新しい知見

 最近の血液ガス分析は,血液ガス分析項目〔pH,二酸化炭素分圧(partial pressure of carbon dioxide,pCO2),酸素分圧(partial pressure of oxygen,pO2)〕に加え電解質項目(Na,K,Cl,Ca),代謝項目(グルコース,ラクテート),ヘモグロビン関連項目〔ヘモグロビン(hemoglobin,Hb),一酸化炭素ヘモグロビン(carbon monoxide hemoglobin,COHb)など,メトヘモグロビン(methemoglobin,Met-Hb),酸素飽和度(oxygen saturation,sO2)など〕と多項目化しているのが現状である.さらにクレアチニン,Mgなども追加されている.また,電極1本ごとの基本的な測定原理は変更せず,一つのベースに他項目の電極を形成する技術が発達して数本の電極が1カセットタイプになり,装置自体も小型化され,POCT(point of care testing)での仕様に適応してきている.

病理

サイトケラチンのタイプと染色性

著者: 弓納持勉 ,   石井喜雄 ,   中澤久美子 ,   大野四季音

ページ範囲:P.1343 - P.1347

新しい知見

 サイトケラチン(cytokeratin,CK.単にケラチンとも言い,本文中ではケラチンを用いる)は上皮性のマーカーとして最も広範に用いられている抗体で,現在では20種類のサブタイプが明らかにされている.これまでは単なる上皮性のマーカーとして用いられてきたが,それぞれの特性を理解することにより細胞の特徴や腫瘍の良悪性および原発巣を推測することが可能である.

疾患と検査値の推移

全身性エリテマトーデスの診療における臨床検査の意義

著者: 池田啓

ページ範囲:P.1348 - P.1353

はじめに

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,SLE)は多様な症状および臓器病変を特徴とする全身性自己免疫性疾患である.わが国では人口10万人に対して7~8人の発症率であり,10代後半より40代の女性に好発する.病因は明らかではないが,複数の遺伝的素因にさまざまな要因(日光,ウイルス感染,ホルモン,ストレス,薬剤など)が加わり発症すると考えられている.近年型インターフェロンとSLEの病態とのかかわりが明らかにされ1~3),複雑なSLEの病態が徐々に解明されつつある.

 SLEの発症様式および臓器病変は多岐にわたり,症状は無症候性のものから痙攣といった劇的な発症様式をとるものまで,臓器病変は特異病変を示さず発熱などの全身症状のみのものから急速に多臓器不全をきたすものまでさまざまである.典型例では発熱,惓怠感といった全身症状に加え,皮膚,粘膜,関節症状を呈し,好発する臓器病変としては血液,腎,中枢神経,漿膜などが挙げられる.迅速な診断および適切な治療を行うためには,これらの多彩な病態の把握が必要であり,そのためには詳細な問診,身体所見に加えてさまざまな他覚的検査を組み合わせることが重要である.免疫異常がその病態に大きくかかわっているSLEでは,特に適切な血液検査の施行が診断に必須であり,また治療による修飾,感染症などの合併症を除外し,その病勢を正確に評価するためには,経時的な血液尿検査の施行,解読が必要とされる.

オピニオン

臨床検査に明るい未来を―検査技師の第二期黄金時代の到来!?

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.1333 - P.1333

 最近,臨床検査技師(以下,検査技師)の需要が増えている,と感じるのは著者だけだろうか?筆者の勤務する大学病院の中央検査部では,毎年正式職員若干名のほかに,任期付き職員や臨時職員を募集している.正式職員は毎年倍率が20~30倍と難関だが,任期付き職員は内定を出した者のなかから辞退者が出たのには驚いた.また,中途退職者の補充としての臨時職員を募集しても全く応募がない.数年前はこのようなことはありえなかった.何かが変わっていると感じるのだ.

 これは,団塊世代の大量退職や少子化も一因と考えられ,検査技師のみに限らない現象かもしれないが,筆者はそれだけが原因ではないと考えている.それは,特に地方で問題となっている医師不足・看護師不足と深く関係しているのではないだろうか.

ワンポイントアドバイス

卵円形脂肪体と脂肪化したマクロファージの鑑別法

著者: 川辺民昭

ページ範囲:P.1356 - P.1356

 卵円形脂肪体(oval fat body,OFB)はネフローゼ症候群などの高蛋白尿を示す腎疾患患者尿にみられる脂肪顆粒細胞であるが,一方,尿中にはOFB以外の脂肪顆粒細胞も出現する.前立腺マッサージ後などに認められる脂肪を貪食したマクロファージは,細胞質内に脂肪顆粒が充満しOFBと類似の細胞像を示す.図においてaはOFB,bはマクロファージとすべき細胞であるが,その違いがどこにあるのか,鑑別のポイントについて述べる.


■OFBの定義と判定の現状

 OFBはネフローゼ症候群診断基準の参考所見に挙げられており,臨床的意義の高い尿沈渣成分である.したがって有意義な報告を行うためには,尿中脂肪顆粒細胞のなかでもネフローゼ症候群などの腎疾患に出現するものをOFBと限定する必要がある.

私の一推し免疫染色

B細胞リンパ増殖異常症におけるEBNA2免疫染色―加齢性EBV関連B細胞リンパ増殖異常症を中心として

著者: 下山芳江 ,   中村栄男

ページ範囲:P.1358 - P.1360

はじめに

 加齢性エプスタイン・バーウイルス(Epstein-Barr virus,EBV)関連B細胞リンパ増殖異常症は,2003年に提唱された比較的新しい疾患概念である.明らかな免疫不全の既往のない高齢者に発生し,その疾患スペクトラムには反応性のものから明らかに腫瘍性のものまで多様な病型が含まれる.加齢に伴う免疫機能の低下に起因する免疫不全関連リンパ増殖異常症と目される.今後,類例のない高齢化社会に向かうわが国において患者の急速な増加が予測され,本疾患の認識は重要である.その診断に際してEBNA2(EBV nuclear antigen2)免疫染色は,免疫機能不全を把握するうえで重要であり,診断に有意である.

 EBV関連リンパ腫あるいはリンパ増殖病変には,しばしば患者背景に免疫機能異常・不全の介在が示唆され,病理学的に節外病変が多く反応性要素に比較的富むなど,いくつかの特徴が指摘される.反応性のものから腫瘍性のものまで疾患スペクトラムが幅広く,腫瘍性か反応性かが必ずしも定かではない境界領域病変を包含する.発生には,個体レベルでの遺伝的素因や免疫状態に加え社会・環境要因が複雑に関与する.また,EBV関連リンパ腫は,WHO(World Health Organization,世界保健機関)リンパ腫分類1)ではB細胞リンパ腫,T細胞リンパ腫,NK(natural killer)細胞リンパ腫,ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma),免疫不全関連リンパ増殖異常症の各項目に認められる.したがって,個々の症例がこれらのいずれに相当するかが,しばしば問題となる.本稿では,最近急速に問題となりつつある加齢性EBV関連リンパ増殖症とEBNA2免疫染色について解説する.

一般検査室から私の一枚

尿沈渣は「宝」の山だ!ヒトポリオーマウイルス感染細胞(ステルンハイマー染色)

著者: 古市佳也

ページ範囲:P.1357 - P.1357

 1985年(今から22年前)のことです.5歳男児の尿沈渣にN/C比の増大した細胞を孤立散在性に認めました.核形が類円形で核内構造がスリガラス状であることから,ウイルス感染を疑いました.当時の尿沈渣の教科書には,こうした細胞の解説や写真はありませんでした.免疫染色で核内のウイルス抗原,電子顕微鏡で核内のウイルス粒子などを証明し,ヒトポリオーマウイルス感染細胞と同定しました.この症例を契機に1年間にわたり尿沈渣におけるヒトポリオーマウイルス感染細胞の出現頻度や疾患との関連などを調査し,初めて原著論文を書き国際学会に発表しました.今では「尿沈渣検査法2000」に上皮細胞類の成分の一つとして記載されています.尿沈渣には,まだ私たちが気付かない重要な成分が隠されています.これらの宝物を一つでも多く掘り出せるように,基礎生理学や解剖学などの基礎学力を高め,一例一例の尿沈渣標本を愛し心を込めて鏡検していきたいと思います.

今月の表紙

成人T細胞白血病:adult T-cell leukemia/lymphoma(ATLL)

著者: 常名政弘 ,   東克巳

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 今回は成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia/lymphoma,ATLL)を取り上げた.

 ATLLはレトロウィルスの一種のヒトT細胞白血病ウィルスタイプ型(human T-cell leukemia virus type,HTLV-)のhelper-T細胞(CD4)への感染により発症する.現在わが国には100万人以上のキャリアが存在し,長い潜伏期間を経て毎年600~700人程度の患者が発症している.

ラボクイズ

輸血5

著者: 小黒博之 ,   永尾暢夫

ページ範囲:P.1354 - P.1354

10月号の解答と解説

著者: 喜舎場智之

ページ範囲:P.1355 - P.1355

復習のページ

LDアイソザイム検査にて1本余分のバンド出現

著者: 石川仁子

ページ範囲:P.1388 - P.1389

[LDアイソザイム1型,2型の間に過剰バンド?]

 LD(lactate dehydrogenase,乳酸脱水素酵素)アイソザイム(isozyme)の検査は,電気泳動法によって行われている数少ないマニュアル検査の一つである.数年前,LDアイソザイム検査をしていたとき,通常は五つに泳動されるはずのバンドが6本認められた.図に示すように1本余分にちょうどLD1型とLD2型の間にかなりはっきりと過剰バンドとして出現していた.何だろう,これは?いわゆるアノマリー像であり,最も出現頻度の高いのは免疫グロブリンとの結合であることは知っていたが,それまでに経験したパターンとは大きく異なっていた.実際,免疫固定法や免役交流法を行ったが,それら免疫グロブリンの抗体では検出されなかった.そこで,「過剰バンドは何か」を解明するために実験を開始した.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

第2種ME技術者

著者: 佐藤尚

ページ範囲:P.1390 - P.1391

はじめに

 私は臨床検査技師の養成学校卒業後,大学の麻酔学研究室に就職し,養成学校や病院実習で使用経験のない医療機器・測定機器を使用して業務を行っていました.これらの機器を実際に手術室で使用しているところを見る機会があり,それらの機器を臨床工学技士が操作しているのを見て業務としてたいへん興味をもち,夜間2年間の臨床工学技士の養成学校(臨床検査技師,看護師,放射線技師などを対象とした短期間の養成コース)へ入学しました.その1年次に,勉強の一環として自分の実力を知るために,第2種ME技術実力検定試験を受験し取得しました.臨床工学技士免許取得後,クリニカルエンジニア部に所属し,現在は心臓血管手術時の人工心肺装置などの操作・保守点検やIABP(intra aortic balloon pumping,大動脈内バルーンパンピング)・PCPS(percutaneous cardiopulmonary support,経皮的心肺補助法)などの補助循環装置の操作・保守点検と心臓カテーテル業務を主業務として働いています.

失敗から学び磨く検査技術―臨床化学編

溶血とインスリン測定

著者: 平野哲夫

ページ範囲:P.1361 - P.1363

 なぜ溶血するのだろうか?検体は患者からいただく貴重な試料であり検査室で精密かつ正確な分析をしても,採取したサンプルが不適切な場合は,正しい臨床的評価はできない.検査をするうえで検体が溶血する原因を知っておくことが重要である.溶血は体内および体外溶血に分けられる.


溶血についての知識

1 . 体内溶血の要因とは?

 体内で生じる溶血の原因は,①先天性遺伝的素因(赤血球膜の異常,酵素異常,ヘモグロビン異常)による溶血,②後天性素因としては赤血球に対する自己抗体,蛇毒や赤血球破砕症候群,発作性夜間血色素尿症などに起因する溶血が挙げられる.

臨床医からの質問に答える

血小板機能検査依頼時の注意点

著者: 金子誠 ,   菅野信子

ページ範囲:P.1382 - P.1386

はじめに

 血小板は止血機構の中心を担う血液細胞である.その役割としては,(1)血管傷害部位へ粘着して活性化する,(2)顆粒内容物を放出して新たな血小板を活性化する,(3)活性化した血小板が凝集して止血する,が挙げられる.このように血小板には,粘着・放出・凝集の三つの大きな機能があり,これら機能を検査する方法には表1に示すものが知られている.そのなかでも特に重要な項目,注意事項などについて概説する.

Laboratory Practice 〈診療支援〉

都立病院の公社化に伴う新規採用者教育について

著者: 長谷川勝美

ページ範囲:P.1365 - P.1367

はじめに

 東京都は,2001年12月に都立病院改革マスタープランを策定した.これに伴い,2004年度に大久保病院,2005年度は多摩老人医療センター(現・多摩北部医療センター),2006年度には荏原病院が順次公社化され,現在は5病院を東京都保健医療公社が運営している.

 公社への移管は,従来から勤務している職員が都の派遣職員として残り,公社採用の固有職員を教育し,全業務を3年間で引き継ぐ予定で進んでいる.

 本稿では,移管開始後の1年をふり返り,われわれが新規採用者に行った教育について,問題点や成果をまとめた.また,教育中に新人たち中心に作り上げた「当直サポートシステム」についても紹介する.

臨床検査システムを用いた業務管理と診療支援

著者: 山本京子

ページ範囲:P.1368 - P.1371

はじめに

 医療分野における情報技術の利用は,医療の「質」の保持,業務の効率化,ヒューマンエラー防止面で電子カルテの推進とともに不可欠となってきた.

 臨床検査領域では,情報技術は重要な業務ツールとして早くから利用されてきたが,現場のニーズに対応した業務分析ツールは存在していないように思われる.

 当院では,2006年5月の電子カルテシステム導入時に臨床検査システムを更新し,その情報を有効的に活用して業務分析を行い,常に患者中心の医療が提供できる業務管理画面を構築した1).本稿では,その利用の実際を紹介する.

〈輸血●ヒト由来抗血清からモノクローナル抗体に・2〉

ABO血液型検査―事例を中心とした問題点・留意点

著者: 矢部隆一

ページ範囲:P.1372 - P.1377

はじめに

 ABO血液型では“自己のもつ抗原とは反応しない抗体が必ず存在する”ので,異型血球の輸血は重篤な輸血副作用を引き起こす.このため輸血検査ではABO血液型検査は最も重要な検査である.今回この執筆にあたり筆者が経験した多くの事例からABO血液型の決定にあたり,その問題点や留意点を紹介する.

〈血液●採血の現況と問題点・5〉

院内感染対策からみた採血

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.1378 - P.1381

はじめに

 採血に関する院内感染対策上の問題は,採血の際の消毒法,採血手技により被採血者に生じる感染,および針刺し事故を含め採血手技によって生じる職業感染などである.本稿では,これらについて概説する.

けんさ質問箱

血糖管に用いるNaFについて

著者: 菊池春人

ページ範囲:P.1392 - P.1394

Q.血糖管に用いる NaFについて

NaF(フッ化ナトリウム)の解糖阻止効果は採血後2時間過ぎてから現れると本に書いてありましたが,それではどのような処理をすると最もよいでしょうか.当院では外注のため採血後遠心のみで血漿分離はせずに遠心した状態で出しています.当日,集配に間に合わなかったときは冷蔵庫に入れておき翌日出していますが,①遠心しないほうがよいのか,②血漿分離して保存したほうがよいのか,教えてください.(東京都 Y.M.生)


A.菊池春人

はじめに

 まず,「血糖管」,「解糖」という言葉のなかの「糖」という言葉ですが,現在では通常グルコース(ブドウ糖)だけを指し,血糖=血漿中グルコースと同義に使われていて,本項で考えるのはグルコースについてであることを念のため確認しておきたいと思います.一方,英語での医学用語では通常blood(plasma)glucoseであり,blood sugarという言葉はあまり用いられていません.日本語でも本来血中(血漿中)グルコースとしてこのことを明確にしておいたほうがよいと思われますので,本項でも基本的には「グルコース」という言葉を用いることとします.

トピックス

短時間MPHA(M-MPHA)法の紹介

著者: 柿沼幸利

ページ範囲:P.1395 - P.1397

はじめに

 血液の細胞成分である血小板には,ABO,HLA(human leukocyte antigen,ヒト白血球型抗原),HPA(human platelet antigen,血小板特異抗原)などの抗原が存在する.輸血や妊娠によってこれらに対する同種抗体が産生されると,血小板輸血不応答や同種免疫性新生児血小板減少症などの原因となる.また,血小板膜上の糖蛋白を認識する自己抗体は特発性血小板減少性紫斑病等の自己免疫性疾患に関与する.抗血小板抗体の検出法には,蛍光抗体法(platelet suspension immunofluorescence test,PSIFT),MAIPA(monoclonal antibody immobilization of platelet antigen)法,MPHA(mixed passive haemagglutination)法などがあるが,わが国での抗血小板抗体スクリーニングにはMPHA法がよく用いられている.本稿では,MPHA法の短時間化法であるM-MPHA(magnetic-mixed passive haemagglutination)法について紹介する.

リネゾリドのMRSAへの適応拡大

著者: 西谷肇

ページ範囲:P.1397 - P.1399

 リネゾリド(ザイボックス(R))はオキサゾリジノン系の薬剤であり,従来バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant Enterococci,VRE)にのみ使用が認められていたが,昨年の春よりメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)感染症への適応が拡大され抗VRE,抗MRSA薬として承認されている.抗菌スペクトラムはバンコマイシン(vancomycin,VCM),テイコプラニンと同様にグラム陽性菌に効力があるがグラム陰性菌には効果がない.注射薬と経口薬がある.

 承認されたMRSA感染症の適応症は,敗血症,深在性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷および手術創などの二次感染,肺炎,肺膿瘍,膿胸である.

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)と寿命

著者: 榎本美佳 ,   今泉勉

ページ範囲:P.1399 - P.1401

はじめに

 現在,わが国の平均寿命は82歳(男性78.6歳,女性85.5歳)で世界一であり,2006年度の人口において65歳以上が占める割合は20.8%となり,未曾有の超高齢化社会を迎えようとしている.2006年の人口動態統計月報年計の概況によると,加齢により組織や器官が衰えることで発症する悪性新生物(30.4%)・心疾患(15.9%)・脳血管疾患(11.1%)が原因で日本人の約60%が亡くなっている.

 老化のプロセスを病気の一つとして捉え,健康で長生きする方法を発見することが医学界の課題となっており,老化の早期発見から治療を目指す専門クリニックが開設されるなど抗加齢医学の研究が進んできている.“老化”とは加齢に伴い身体および精神の機能や器官が低下する過程を示すが,老化は体内のさまざまなホルモンの変化によって制御されていると考えられ,ホルモンの環境変化が注目されている.そのホルモンの一つがデヒドロエピアンドロステロン(dehydroepiandrosterone,DHEA)である.

学会印象記 日本臨床検査自動化学会第39回大会

検査結果を人類の財産とするために

著者: 千葉信行

ページ範囲:P.1402 - P.1402

 今回,本誌編集部から「ベンダの立場から自由に書いてください」と依頼があったので恐縮ながら寄稿させていただくこととした.


〈一般演題 標準化〉

 私自身がかかわっているIHE(Integrating the Healthcare Enterprise:医療連携のための情報統合化プロジェクト)関連の演題が7演題あった.昨年も発表を行ったが,聴講者も格段に増え,質問も活発にあり,IHEが認知されつつあるのを感じた.

さらなる飛躍のために

著者: 増戸梨恵

ページ範囲:P.1403 - P.1403

 日本臨床検査自動化学会第39回大会が,千葉大学大学院野村文夫教授の下,2007年9月26日から3日間にわたりパシフィコ横浜・会議センターにて開催されました.メインテーマは「検査室からの挑戦―創造と変革を求めて」です.私は入職4年目ですが,このメインテーマの視点で新たな局面を迎えている臨床検査を考えながら,学会に参加しました.

 初日,例年にない厳しい残暑がようやくおさまり,秋の気配が感じられるようになりました.私は学会と同時に開催されている機器展示の見学に行きました.日常業務に関連する免疫および生化学機器,搬送システム,そして臨床検査技師に認められている医行為の一つであり特例業務である採血に関連する最新機器を中心に,先輩の臨床検査技師とともに展示ブースを回りました.各ブースでは丁寧な説明を受け,日頃使用していて気になる点や疑問点についてもご回答いただきとても充実した日となりました.

学会参加から得られる最新情報

著者: 増川敦子

ページ範囲:P.1404 - P.1404

 8月の茹だるような暑さから,朝夕に涼しさと爽やかさが加わった9月26日~28日に日本臨床検査自動化学会第39回大会が開催された.横浜での開催のため,26日の技術セミナーを皮切りに毎日通うことにした.通勤ラッシュに縁のない者にとっては,横浜駅の人波に躊躇し,流れに遅れないよう進みながらも,大観覧車が見えたときには安堵感と同時に1日の始まりを感じた.今大会のテーマ「検査室からの挑戦―創造と変革を求めて」のもと最新情報と自分が関与する遺伝子検査の情報を得ることを参加目的にした.

 2日目は聴講や機器・試薬展示の見学が十分可能であった.特別講演は「糖鎖研究3大基盤ツールの開発―新たな糖鎖バイオマーカー発見に向けて」であったが,その題から臨床検査にどのように関与してくるのか想像ができず聴講した.講演は糖鎖研究がポストゲノム研究として現在どの程度進んで,今何ができるかについて進められた.糖鎖研究はヒト糖鎖遺伝子の発見・確認を行いデータベース化し,ライブラリーに整備している.構造解析には質量分析装置(以下,MS)とレクチンを利用した2法が開発されていた.MSの糖鎖構造解析は標準糖鎖構造の段階的な壊れ方のパタンをデータベース化し,ヒトの構造は95%まで解析可能となっている.例として血小板凝集性には1糖鎖(52番目のスレオニンに結合)が関与し,この糖鎖分子がなくなると血小板凝集活性がなくなることや,ノロウイルスがどの糖鎖と結合し感染に関与するのか研究中であることが紹介され,なじみの項目名だけに興味深かった.MSとデータベースの利用は誰にでも,短時間で,微量蛋白量での解析が可能であることが利点と述べられたが,研究色が強く新薬開発のターゲット分子の同定への利用に有用と感じた.

検査室からの挑戦

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.1405 - P.1405

 日本臨床検査自動化学会第39回大会は,「検査室からの挑戦―創造と変革を求めて」を大会テーマとして,野村文夫大会長(千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学)の下,9月26日~28日,パシフィコ横浜で開催された.特別講演,シンポジウム~,技術セミナー,機器・試薬セミナー,ランチョンセミナーそしてサテライトセミナーと,それぞれ臨床検査の最先端の話題を網羅したプログラムが組まれ,一般演題はすべて口演により339題が発表された.学会参加者は2,304人,展示会場入場者は7,550人(事務局発表)と大変盛会であった.

 本学会では臨床検査の自動化に関連した多岐にわたるトピックスと新しい分析機器の情報が紹介される.なかでも遺伝子関連検査,POCT(point of care-testing),メタボリックシンドロームなどに関するものには多くの聴衆が集まり,ランチョンセミナーも同様で,これらの検査に対して非常に関心の高いことが窺われた.

コーヒーブレイク

みんな仲良く,輪になって

著者: 安達桂子

ページ範囲:P.1387 - P.1387

 臨床検査を行ううえで,医療チームのコミュニケーションが重要であることは言うまでもありません.特に,医師とのかかわりは検査技師の仕事に大きく影響します.たぶん多くの技師が親しみを込めて医師にニックネームをつけたり,勝手にランク付けしたりして,より身近な存在にしているのではないでしょうか.当直のときにオーダーがフルコースの先生,検体(患者)を呼ぶ先生,せっかちな先生……今日の当直医師は誰?と一喜一憂したりして.さらに当直医と技師の組み合わせもあります.以前の当直で,業務が非常に忙しく,気が付いたら夜が明けていました.そして朝には当直のK医師と顔を合わせてお互いに「お疲れ様」と.この一言がとてもうれしいのです.でもこの組み合わせをK医師はとてもいやがっていましたが.

 30年位前に病理医と大喧嘩したことがあります.結局,上司が間に入ってことが収まりましたが,お互いに患者のことを考えての真剣な喧嘩.その後はとても仲良くなって仕事も円滑に進むようになりました.ここで学んだことは「よく話し合う」ということです.でも医師のなかには30分以上の電話攻撃や一方的な依頼で技師を困らせていることもあります.

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あとがき

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.1406 - P.1406

 今年も早くも残りわずかで師走となりました.自己紹介が遅くなりましたが,今年度より新たに本雑誌の編集員を務めていますので,どうぞよろしくお願いいたします.

 大学病院や大病院の臨床検査は厳しい時代になり,ISO15189など臨床検査の国際規格の認証を得ることで検査結果に付加価値をつける努力が多くの施設で行われています.本号の“オピニオン”では検査技師の第二期黄金時代の到来と言える明るい話を載せています.これからの検査技師は,従来型の検査室に閉じこもって検査をしているだけではなく,広く臨床現場に出て患者に接することに活躍の場があり,臨床検査の現場も変貌していくのではないでしょうか.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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