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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術35巻2号

2007年02月発行

雑誌目次

病気のはなし

中皮腫

著者: 樋野興夫

ページ範囲:P.100 - P.104

サマリー

 アスベストにより誘発される中皮腫は,曝露から発症までの潜伏期間が35年前後と長く,いったん発症したら治療が難しいため,早期発見・早期治療が重要である.しかし,現在一般に用いられている診断法は,断層撮影(CTスキャン)あるいは生検材料による診断で,検出されたときには既に進行していることが多い.簡便で繰り返し検査が可能な中皮腫の血液測定キットは,アスベスト曝露群に対する1次スクリーニング法として有用である.この1次スクリーニング法に高精度化した診断を2次スクリーニングとして加えれば,アスベスト曝露群から早期の中皮腫患者を効率的・高精度に発見する総合的中皮腫早期診断システムを構築することが可能となると考える.

関節リウマチ

著者: 熊谷俊一

ページ範囲:P.106 - P.110

サマリー

 わが国の関節リウマチ(rheumatoid arthritis,RA)患者数は70万人と推察され,進行すると関節障害をもたらす.抗腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor,TNF)-α薬などの生物学的製剤の導入は,「関節変形を防ぎ関節障害を起こさせない」ことを可能としつつあるが,そのためには早期診断早期治療が重要である.RAの診断にはリウマトイド因子(rheumatoid factor,RF)が用いられてきたが,RFは他の膠原病や慢性炎症性疾患でもしばしば陽性となり,特異性が低いことが問題であった.抗シトルリン化ペプチド(cyclic citrullinated peptide,CCP)抗体は保険未収載であるが,特異度が高く診断に有用である.RAでは早期に関節予後を推定することも重要であるが,抗CCP抗体やマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase,MMP)-3が関節破壊のマーカーとして注目されている.RA患者の関節の破壊は発症後2年以内に進行することが多く,そのような症例を見きわめ早期からしっかりと治療することが重要である.

技術講座 生理

眼球運動検査法

著者: 三村治

ページ範囲:P.111 - P.115

新しい知見

 これまでの電気眼振図(electro-nystagmography,ENG)や赤外線光電素子法は電極や光電素子を用いて電気生理学的に眼球運動を記録するものであり,主に水平方向の眼球運動を記録解析するのに適していた.一方,より見たままを再現するビジュアルな記録法としてビデオを用いた記録が用いられるようになり,水平だけでなく垂直方向(場合によっては回旋方向も)の記録が容易にできるようになった.赤外線ビデオ眼球運動記録装置(video oculography,VOG)はこの撮像された画面の主として瞳孔中心を追跡することにより,ENGと同じように位置情報をデジタル信号としてアウトプットするものである.

生化学

small dense LDLの測定

著者: 原克子 ,   朴幸男 ,   髙橋伯夫

ページ範囲:P.117 - P.125

新しい知見

 近年,食生活の偏重や運動不足などが原因で肥満者が急増している.比較的若年者においても肥満が高脂血症の原因として指摘され,ひいてはメタボリックシンドローム(metabolic syndrome,MS)の要因としてクローズアップされている.そのなかでも,低比重リポ蛋白コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol,LDL-C)と動脈硬化に基づく心血管病の発症との因果関係が明らかにされている.最近では,LDLのなかでもサイズが小さく比重の重いsmall dense LDL(sd LDL)が動脈硬化に強く関与するとして注目されている.sd LDLは,トリグリセリド(triglyceride,TG)の増加や,高比重リポ蛋白コレステロール(high-density lipoprotein cholesterol,HDL-C)の低下の病態に一致して増加しており,動脈硬化を惹起する脂質異常の特徴とされている.しかし,sd LDLの測定は超遠心法や電気泳動法によるもので,操作には熟練が必要なうえに,測定に長時間を要し,多量検体処理ができないために検査室ではほとんど行われていなかったが,2004年,平野らによりsd LDLを簡便に測定できる定量法が開発され,自動分析装置での測定が可能となった.

疾患と検査値の推移

前立腺癌

著者: 鈴木和浩

ページ範囲:P.129 - P.134

前立腺癌とは

 前立腺は男性だけにある臓器で,膀胱の下に位置し尿道を取り囲み,栗のような形をしており,後面にはデノビア筋膜を隔てて直腸があり,前面は血管の束と恥骨が存在する.精液の約3分の1を作りだし,前立腺液として精液の一部となる.精巣から主に分泌される男性ホルモンによって機能が維持されており,男性の副性器とされている臓器である.男性ホルモンの存在が前立腺癌には必須であり,両側の精巣の機能のない男性では前立腺癌は発生しないとされている.

 前立腺には大きく分けて二つの部位(ゾーン)が存在する.従来内腺と呼ばれた移行域と,外腺と呼ばれた辺縁域である.この違いは,前立腺肥大症や前立腺癌の発生する部分として重要となる.前立腺肥大症は,移行域が肥大した状態であり,移行域の中央を尿道が貫通しているために,肥大による圧迫症状が出やすく,排尿障害が出現することになる.一方,前立腺癌は,辺縁域に発生することが多く,移行域のみに見られるものは約15%に過ぎない.辺縁域では尿道への影響が出にくく,排尿障害といった症状が早期には出にくいのが特徴となっている.

オピニオン

2006年度診療報酬改定を眺めて

著者: 宮澤幸久

ページ範囲:P.105 - P.105

 2006年度の診療報酬改定から医療費の総額を規定する改定率の決定権が中央社会保険医療協議会(中医協)から内閣に移譲されたが,その改定率は3.16%とこれまでに例を見ない高いマイナス査定となった.このなかで,検体検査実施料においては8~9%もの引き下げが行われている.

 本稿では,検体検査にかかわる今回の診療報酬改定の概要,これらに対する評価と院内検査部,そして検査医学会が今後とるべき対応について,述べてみたい.

ワンポイントアドバイス

感染防止対策のピットフォール

著者: 平澤浩 ,   堤寛

ページ範囲:P.128 - P.128

 日常的に扱われる病理組織,細胞検体は常に作業者に対する感染のリスクを含んでいる.病理検査業務において,想定される感染路を考慮した感染防止対策を行う必要があるが,盲点となるピットフォールが存在する.各施設において,これらに対する配慮が行われているか確認していただければ幸いである.

私の一推し免疫染色

PDGFR

著者: 尾松睦子 ,   長谷川匡

ページ範囲:P.148 - P.149

はじめに

 消化管に発生する間葉系腫瘍のうち,悪性リンパ腫を除いて最も頻度が高いのは,胃腸管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)である.GISTの80~85%においてはc-kit遺伝子の突然変異とc-kit蛋白質(KIT)の発現が腫瘍の発生,進展に関与していることが示されている.一方,5~10%のKIT陰性GISTにおいては,PDGFRα(platelet-derived growth factor receptor α,血小板由来成長因子受容体α)遺伝子の相補的な変異が認められる.さらにKITを介した細胞内情報伝達系を特異的に阻害するメシル酸イマチニブが分子標的薬として用いられ,高い臨床的効果が上げられている.GISTには多彩な組織形態が見られるが,優位な組織パターンにより,紡錘形細胞型,類上皮型あるいは混合型と分類する.頻度としては,紡錘形細胞型が最も多く,次いで混合型,類上皮型の順である.

 今回,混合型の組織像を示し,KITが陰性で,PDGFRα免疫染色によりGISTの病理診断が可能であった症例を経験したので呈示する.

一般検査室から私の一枚

線路は続くよ どこまでも

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.147 - P.147

 β-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン,モノバクタム,カルバペネム系)の長期投与患者の尿に見られたグラム陰性(Gram-negative)桿菌,大腸菌(Escherichia coli)である.

 尿沈渣を観察するようになって遭遇した(デブでながーい)物体.細菌か真菌か,はては細い円柱?しかし,中央の丸いものは一体何???人知れず悩んだものである.尿などの液状検体やブイヨン培地にだけ見られるもので,β-ラクタム系抗菌薬投与によりグラム陰性桿菌が細胞壁の合成阻害を起こし,通常の二分裂増殖ができなくなり伸展増殖するものである.

今月の表紙

慢性骨髄性白血病

著者: 佐藤優実子 ,   東克巳

ページ範囲:P.116 - P.116

 今回は,慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia,CML)を取り上げた.CMLは,慢性骨髄増殖性疾患に位置づけられ,WHO(World Health Organization,世界保健機関)分類ではmyelodysplastic/myeloproliferative disieseに分類される.

 CMLは,多能性造血幹細胞の異常により,末梢血中に芽球から成熟好中球までの各段階の顆粒球系細胞が増加し,白血球増多症をきたす疾患である.白血球数は,一般的に10,000~50,000/μlであることが多いが,時に数十万/μlになることもある.好塩基球の増加(3%以上)を伴うのも特徴で,好中球アルカリフォスファターゼ(neutrophil alkaline phosphatase,NAP)活性は極めて低値を示す.骨髄血では,有核細胞数が著増し,細胞密度の上昇が観察される.これは主に,顆粒球の著明な過形成であり,顆粒球と赤芽球の比率(myeloid/erythroid ratio,M/E比)は10~50対1以上と著明な高値となる.顆粒球系の好中球は各成熟段階のものがほぼ正常の比率で増加し,一方,好塩基球や好酸球が正常の比率より増加していることが特徴である.また,骨髄巨核球も増加していることが多い.慢性期の芽球比率は通常5%以下にとどまるが,急性転化とともにその比率は上昇し,30%を超えるようになる.

ラボクイズ

輸血2

著者: 小黒博之 ,   永尾暢夫

ページ範囲:P.126 - P.126

1月号の解答と解説

著者: 喜舎場智之

ページ範囲:P.127 - P.127

復習のページ

医療現場(検査室)における減菌法

著者: 山中喜代治 ,   亘秀夫

ページ範囲:P.170 - P.171

[現実は違った]

 今,医療現場では滅菌作業がなくなりつつあります.これまでは,施設内の滅菌機材器具類の供給と汚染物の滅菌は中央化され,専門技術を習得した専任職員がその作業に従事していました.しかし最近では,委託専門業者による一括処理システムに変わり,定期的に滅菌機材器具が供給されています.この現象は検査室においても同様であり,検査済み血液や汚染物は専用容器に収め外部業者に滅菌処理を委託し,微生物検査で利用する各種培地や感受性検査用培地などは生培地やマイクロプレート製品として供給されています.それゆえに,微生物検査業務に従事する新人技師は,粉末培地調整や血液寒天培地作製を経験することなく,学校教育との違いに戸惑うことになります.しかし,サプライ中止など突然のアクシデント対応のためにも各種滅菌法と作業手順は熟知しておくべきでしょう.

臨床医からの質問に答える

血小板輸血の際のトリガー値

著者: 羽藤高明

ページ範囲:P.166 - P.168

■背 景

 血小板輸血は,血小板減少症に対する補充療法であり,強力な癌化学療法や移植医療を安全に遂行できるようにするための支持療法として行われることが多い.血小板数がどのくらいまで減少すれば血小板輸血を開始すべきなのかについては臨床上重要な指標となっていて,この数値をトリガー値と呼んでいる.血小板輸血のトリガー値は,これまで半ば慣習的に決められていたが,近年,質の高い無作為対照試験が複数実施され,エビデンスに基づいた基準が明確になった.これを踏まえて,2005年に厚生労働省(以下,厚労省)より通達された輸血ガイドラインは新たな基準に改訂されている.本稿では,トリガー値設定の科学的根拠とトリガー輸血を実施するうえでの問題点および注意点について述べる.

Laboratory Practice 〈生化学〉

血液ガスの測定値の信頼性確保のための標準物質の使い方

著者: 福永壽晴

ページ範囲:P.136 - P.139

はじめに

 血液ガスの測定は種々の測定装置があるにもかかわらず,世界中でほぼ同様の正常値や判断基準が用いられている.例えば,正常値は動脈血pH:7.4±0.05,動脈血二酸化炭素分圧(paCO2):40±5mmHg,動脈血酸素分圧(paO2):80~100mmHgが使用されている1).また,安静時室内空気吸入下でのpaO2が60mmHg以下であれば呼吸不全と診断され,paO2が60mmHg以上にするために推奨される初回の酸素流量はpaO2が50~35mmHgまで5mmHgごとに設定されている2).さらに,paCO2が45mmHgを超えていれば二酸化炭素の蓄積ありと判断され,複雑な酸塩基平衡障害の診断・治療においても世界中ほぼ同じ判断基準が用いられている3)

 当然,血液ガスの測定値は精確(正確で精密)であることが前提となるが,はたしてそうであろうか.血液ガス測定装置では全血を直接電極に接触させて測定するため,血液のマトリクスの影響や測定回路および電極膜の汚れによる誤差が避けられない.測定値の精確さを評価する方法としては“血液pH測定用の実用基準法”4)と“血液pCO2,pO2測定用標準トノメトリーの実用基準法”5)を国際臨床化学連合(International Federation of Clinical Chemistry,IFCC)が規定しているが,これらを日常臨床の場で実施するには専用装置と複雑な操作および多大な時間を要する点で現実的でない.また,日常用いられている血液ガス測定用の精度管理物質(水溶液)も電極に対する応答特性やマトリクス効果が全血とは異なるため精密さの評価はできるが,正確さの評価には使用できない.そのため,簡単な操作で精確さの評価ができる実試料標準物質が望まれていた.

 血液ガス測定用常用標準物質(以下,標準物質)は以上のような状況からFECTEFスタンダードレファレンスセンターと日本臨床化学会血液ガス・電解質専門委員会で開発されたものであり,ヒト血液と類似した性状を有し“表示値”と“不確かさの大きさ”が示されており,これらは上位の標準値に対してトレーサブルであり,精確さの評価ができる6,7)

〈診療支援〉

後方診療支援システムの構築

著者: 米川修 ,   谷脇寛子 ,   鈴木雅之 ,   浅野正宏 ,   溝口壱

ページ範囲:P.140 - P.142

はじめに

 医療の目的は患者の抱える問題を改善し,患者のQOL(quality of life,生活の質)を向上させることであり,その過程に占める検査の重要性は周知のことである.しかしながら,検査室に勤務する人間が自分たちの仕事のアウトカム,つまり,患者,あるいは利用する医師に還元できているか,についての意識・認識の低いのが現状といえよう.このような姿勢が患者,医師,あるいは事務から実績とは異なる検査室の評価をもたらした要因になったともいえる.

 検査における分析のレベルが十分臨床側の要求を満たしている今,解析面でのコンサルテーションの機能を充実させることが,利用者,つまり,患者ならびに医師へのサービスになることからも検査室の急務である.

 われわれは検査室の正当な評価とさらなる発展を図るべく,検査データを通した解析面での医師,患者への貢献を目的とした新たな試みを開始したので,その活動を報告することで読者の参考に供しつつご批判を仰ぎたい.

〈病理●癌取扱い規約の解説と問題点・2〉

「大腸癌取扱い規約」の主な改正点

著者: 八尾隆史

ページ範囲:P.143 - P.146

はじめに

 大腸癌の進行度分類は世界的にはUICC(Union Internationale Contre le Cancer,国際対癌連合)のTNM分類が用いられており,わが国の大腸癌取扱い規約の分類法とは特にリンパ節転移と進行度における相違があった.

 わが国の大腸癌取扱い規約の概念を損なうことなく,TNMとの整合性を図る必要があった.今回の改訂では,略語,記号,組織分類など記載法は消化管癌である食道,胃,大腸との統一を図ることも念頭に置き,共通する部分は統一するようにしてきた.例えば,記載法の原則として深達度など小文字で表記していたものを大文字に変更したり,臨床所見(clinical findings),術中所見(surgical findings),病理所見(pathological findings),総合所見(final findings)をそれらの頭文字c,s,p,fを付けて記載するなど,胃癌の規約に準ずるようになった.逆に,剝離断端(ewからRMへ)や内視鏡切除水平断端(従来の大腸ではm-ceがLMでなくHMへ)などが胃癌の規約にもない記号に変更されたのは,略語の元となる英語表現を再検討した結果,慣習的に用いられていた用語が必ずしも適切でなかったためである.さらに,断端の判定など(+),(-)としていたものが(+)は1,(-)は0,不明なものはXとされた点もマイナーチェンジである.ly,vも1,0のみに変更することが討論されたが,これまでと同様に0~3の段階評価が採用された.

 以下,今回の改訂で変更された要点について解説するが,誌面が限られているので,詳細は規約を読んでいただきたい.

検査じょうほう室 〈一般検査●変な検体〉

尿中変形細菌の“こぶ”って

著者: 樋口まり子

ページ範囲:P.150 - P.151

 尿沈渣を鏡検していて,細くて長い紐状の物体を観ることはありませんか?何だろう?真菌かな?それにしては細すぎる.おまけに,よく観察すると,中央部にあたかも紐を結んだかのような“こぶ”を認める場合もある.周辺には細菌や白血球,また,好中球の裸核も認められ,尿路感染症が継続していることが推察される.

 この紐状の物体は抗生物質の細胞壁合成障害によって生ずるフィラメント型変形細菌であり,β-ラクタム系抗生物質の長期投与後に出現することがあるといわれている.

〈生化学〉

HPLC法でのヘモグロビンF分画の有用性

著者: 和田玲子

ページ範囲:P.152 - P.154

はじめに

 HbA1cは日常検査のなかで高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography,HPLC)法による測定が広く用いられています.HPLC法によって得られるクロマトグラムにはHbA1c分画のほかに,HbF分画などが含まれていることから,血液疾患との関連性が注目されています1)

〈生理●デジタル脳波計の記録のポイント・2〉

誘導法と電極増幅器の故障を見つける方法

著者: 末永和栄 ,   土田誠一 ,   秋山秀知

ページ範囲:P.155 - P.157

はじめに

 誘導の選択やフィルタのon・offもすべて演算で行うところがアナログ脳波計とは似て非なるところである.そのため波形データがどのように保存されて,どのように処理されるのかを知る必要がある.さらに日常の脳波検査で見逃されるおそれがある電極増幅器の故障の確認方法を述べる.

〈微生物〉

孵卵器と冷蔵庫の温度管理

著者: 高野操

ページ範囲:P.158 - P.161

はじめに

 微生物検査において,培養温度や試薬の保管温度を適正に維持管理することは,検査精度を保つ基本事項として重要である.微生物の発育は培養環境や時間に大きく左右されるため,条件を一定に保つ必要がある.また,抗菌剤入りの選択分離培地や薬剤感受性ディスク,診断用免疫血清などは,温度管理の不備により力価が低下するため,厳密な保管条件が要求される.臨床検査室おける国際規格ISO151891)や病院機能評価基準などでも,検査機器の保守点検や精度管理,およびこれらの記録を保管することが要求されている.微生物検査で使用される基本的な機器である孵卵器と冷蔵庫の温度管理は,精度を保証するうえで極めて大切な事項である.

〈診療支援〉

遺伝学的検査に関する注意点

著者: 涌井敬子 ,   福嶋義光

ページ範囲:P.162 - P.165

はじめに

 ヒトゲノム・遺伝子解析研究の進展により,2003年にはヒトのもつ約30億塩基対の塩基配列の一次構造が決定された.原因不明であったさまざまな疾患の責任遺伝子や発症のメカニズムが分子レベルで次々に明らかにされ,責任遺伝子の明らかになった単一遺伝子疾患については遺伝子診断が新たな臨床診断法として診療に用いられつつあり,さらに原因に基づく病態の解明や治療へ向けての研究が進められている.

 近年では稀な遺伝性疾患だけでなく,誰にでもなじみのある,高血圧,糖尿病,心筋梗塞などの多因子遺伝疾患や癌も,個々人の遺伝要因が関与していることが明らかになってきた.さらに,一部の治療薬については,個々人の遺伝子多型と薬物反応性の関連が証明され,効果・副作用の判定や適切な投与量決定のために遺伝学的検査が用いられようとしている.あらゆる健康の問題に遺伝要因が関係しているということで,将来は個々人の薬物反応性・疾患感受性などの,いわゆる体質の違いを考慮に入れたオーダーメイド医療が導入され,遺伝学的検査の役割がますます大きくなることが予想される.

 本稿では“遺伝学的検査”についての定義と,実施に際して求められる注意点やその理由などを正確に理解していただければ幸いである.

けんさ質問箱

禁煙治療のためにできる検査部門の診療支援は?

著者: 中村清一

ページ範囲:P.172 - P.174

Q禁煙治療のためにできる検査部門の診療支援は?

2006年度の診療報酬改訂でニコチン依存症管理料が新設され,ニコチンパッチが保険適用されました.対象患者の検査について,どういう患者が対象となるのか,呼気一酸化炭素濃度の測定法,また,禁煙治療のための手引きなどがありましたら教えてください.(東京都 M.A.生)

 

A中村清一

■ニコチン代替療法の登場

 最近の禁煙治療の流れは,1994年7月にニコチンガムが,医師指示薬として登場したことから始まった.それまではごく一部の医療関係者たちが禁煙カウンセリングを中心に行っていた禁煙治療が,自費診療での出発であったが,臨床的に効果が認められたニコチン代替療法のニコチンガムが使用できることで,全国に禁煙外来が開設されていった.1999年5月にはニコチンパッチがやはりニコチン代替療法のもう一つの医師指示薬として登場し,処方できる製品が増えた.そして2001年9月にニコチンガムが一般薬となり,医師の処方せんがなくても薬局でも購入できるようになった.

 2006年4月にニコチン依存管理料が保険適用になり,6月からニコチンパッチ製剤も保険適用になった.そのため今までの自費診療であったハードルが取り除かれ,保険診療としてできるようになった.これから多くの喫煙者が訪れ禁煙されていくことが期待されている.今回の保険適用の対象者や診察の流れなどを概説する.

遠心分離の条件で尿沈渣のデータに差が出るのでしょうか?

著者: 吉澤梨津好

ページ範囲:P.174 - P.176

Q遠心分離の条件で尿沈渣のデータに差が出るのでしょうか?

以前,外来での至急検査で,尿沈渣のデータには2,000rpm2分間と1,500rpm5分間とではさほど差がないという記事を雑誌で読みました.ところが,私の病院では大きな差が出ています.何が考えられるのか,教えてください.(横浜市 A.B.生)

 

A吉澤梨津好

 尿沈渣検査の遠心分離条件に関するご質問ですが,遠心条件は遠心器の大きさ(半径)によって回転数が同じでも遠心力は異なります1).ご質問の回転数1,500rpmは尿沈渣標準化法の500Gを指すと思われ,2,000rpmは当検査室では760Gに相当することから,遠心分離条件を500G,5分間と760G,2分間に設定し,任意の43検体(浸透圧128~968mOsm/kg・H2O)を用い簡単な実験を行いました.なお沈渣成分の算定には,客観的で正確なデータを得るため全自動尿中有形成分分析装置UF-100(シスメックス社,以下分析装置)を用いました.

トピックス

網膜血管の足場を作るスイッチ蛋白質Tlx

著者: 植村明嘉

ページ範囲:P.177 - P.178

■網膜疾患における血管新生

 網膜は脳と同じく中枢神経系の一部であり,さまざまな神経細胞が活発に活動している.このため酸素需要度が高く,血管が網の目のように張り巡らされており,なんらかの原因で血流が途絶えると低酸素状態となり,新たな血管を作るよう働きかけることが知られている.

 糖尿病網膜症や未熟児網膜症では,網膜血管の閉塞に伴う虚血・低酸素に引き続いて血管新生がみられるが,こうした新生血管は虚血部位の網膜に向かわず,網膜外に逸脱して伸長することが多い.このため,網膜虚血が改善されないばかりか,新生血管からの出血や増殖組織による牽引性網膜剝離のため,重篤な視力障害をきたす.眼科臨床においては,こうした疾患群に対しレーザー光凝固が日常的に行われている.これは,虚血網膜を熱凝固によって死滅させ,酸素需要度を相対的に低下させることで新生血管を退縮させることを目的としている.このほか,最近では血管新生阻害剤の投与による薬剤療法も注目を集めている.しかし,網膜虚血の根本的な改善策としては,新生血管を網膜内に伸長するよう誘導し,血流の再開が得られることが望ましい.

マイコプラズマのマクロライド耐性

著者: 荻田純子

ページ範囲:P.178 - P.179

はじめに

 肺炎マイコプラズマは市中気管支肺感染症の主要な起炎菌であり,成人の市中感染の5~9%を占め,小児市中感染症では10~20%,特に6歳以上では6割を超える1)との報告がある.かつては4年周期での流行が繰り返されてきたが,現在ではその周期性が崩れてきており,日常的な感染症となっている.

 マイコプラズマは自己増殖する最小の病原微生物であり,細胞壁を欠くことが最大の特徴である.細胞壁を持たないためβ-ラクタム系抗菌薬は無効であり蛋白質合成阻害作用のあるマクロライド系,テトラサイクリン系およびニューキノロン系抗菌薬が選択される.小児においては副作用の問題からマクロライド系薬が第一選択となる.近年,このマクロライド系薬に対して耐性のマイコプラズマが報告されており,その動向が注目されている.

コーヒーブレイク

あの頃…その後 Part2

著者: 大西崇規

ページ範囲:P.135 - P.135

 「こんどの新人はいろいろと勝手に変えていく」と顰蹙を買いながらもやはり改革は必要と信じ鏡検方法や依頼伝票を変更していった.といっても当時は,PC もMS-DOS が主流(?)でありワープロソフトは一太郎Ver.3,表計算ソフトはロータス1-2-3を使っていた.PC もNEC9801F を使っていた.今から思えば電卓にキーボードとモニターとを付けたようなもの.FD も5インチの2DD を使っていた.FD スロットルも二つ付いており,システムディスクと辞書ディスクとを入れて使っていた.作成した文書を保存するときは,辞書ディスクとデータディスクとを入れ替えて保存していた(ホントだよ).

 今なら伝票類のレイアウトなどは簡単にPC で作成できるが,当時は方眼用紙とものさしとを使い手書きで行っていた.そんな作業をする傍ら,知識に対する欲求も芽生え,技師会の講習会,講演会にもできる限り出席した.独身であり時間も好きに使えたので仕事の後は,自由であった.もちろん一般検査関係のものに参加していたが,ほかには病理・細胞診関係や臨床化学関係のものにも参加した.しかし,仕事が終わった後や土曜日の午後からの勉強は睡魔との闘いであった.よく負けた.

食品の衛生管理 4―定量と定性・その2

著者: 奥田俊郎

ページ範囲:P.176 - P.176

 野菜の生菌数を測定(定量)していて,気づいたことがあります.それは標準寒天培地に生えたコロニーは,野菜によって異なることでした.早速菌の同定(定性)を始めました.そこでいくつか面白いことを見つけました.一つは,大まかに野菜の分類の科ごとで正常細菌叢が違うこと.二つは,同じ野菜でもその生育の良し悪しによって,若干菌叢が変化すること.

 前者には,非常に学問的な興味を抱きました.私どもの野菜作りは水耕栽培です.土耕栽培ではありません.ですから土壌微生物の関与は,比較的少ないはずです.しかも栽培を始めるに際しては,種子消毒を行っています.この段階で細菌はほとんど検出されません.それにもかかわらず,発芽してから約1~2週間でほぼ正常細菌叢は形成されます.これは種子の原産国や栽培場所の違いに,まったく関係がありません.具体的にいえば,アメリカ産種子やイタリア産種子を,わが国の北海道や関東,九州で栽培しても,その正常細菌叢は同じということです.この正常細菌叢を形成する細菌の起源はどこなのか.まったくわかりません.

あとがき

著者: 矢冨裕

ページ範囲:P.222 - P.222

 本来ですと,まだまだ寒い2月のはずですが,どうも,暖冬のせいか,ピンと来ない今日この頃です.臨床検査を取り巻く環境も天候同様,暖かければよいのですが,残念ながら,こちらは,ますます厳しくなりそうです.ただ,厳しいのは,決して,検査の世界だけではなく,世の中全体がそのようです.厳しさの切り口は多々あると思いますが,現在は,評価されなくてはいけない時代ということがあると思います.実際に良い検査・良い医療を行っていても,客観的な評価を受けないと存在意義が高められません.患者さまを中心とする医療サービス利用者の保護,医療提供側の説明責任のため等々,評価が益々強化されていくのは,ある意味,現在の社会情勢では仕方ないと思われます.その際,評価の基準が大変重要になるわけですが,徐々ですが確実に整備されつつあると感じます.(単なる例ですが)個人のレベルでは,各種認定技師・認定医資格,検査部門・病院レベルでは,ISOや病院機能評価等々でしょうか.このあたりの重要性や具体的情報も,適宜,本誌でもご提供できていると感じております.

 さて,本号では,“病気のはなし”においては,まず,「中皮腫」が取り上げられています.アスベストを原因とする本症に関しては,大きな社会問題となったことは周知の通りです.本論文におきましても,医学的側面とともに社会的側面が的確に語られています.また,「関節リウマチ」はいわゆる慢性疾患の代表でありますが,その概念が変わりつつあります.本論文では,検査による早期診断,そしてそれに基づく早期治療の重要性がダイナミックに語られています.また,技術講座においては,生理検査から眼球運動検査法,検体(生化学)検査からはsmall dense LDLの測定が取り上げられています.ともに,検査技術の進歩が余すところなく語られております.他にも,天候同様ホットな役に立つ記事が満載されております.ぜひ,ご一読下さい.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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