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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術35巻9号

2007年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

リヒター症候群

著者: 鈴木裕子 ,   堀江良一

ページ範囲:P.822 - P.826

サマリー

 慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia,CLL)は,低悪性度成熟B細胞腫瘍の一つである.CLLは,欧米では65歳以上の白血病の40%を占め,1年に10万人当たり3人の発症がみられるが,わが国では20~30分の1以下と稀である.CLL細胞の形態は,通常のリンパ球とは見分けがつかない.定義上は,大きさが赤血球の2倍以下の成熟した小型リンパ球で,細胞質に乏しく,核クロマチンが凝集し,核小体は見られない.CLLの約10%に経過の早いリンパ腫へと変化するものがあり,報告者の名前にちなんでリヒター症候群(Richter's syndrome,RS)と呼ばれる.一般に,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫へと変化することが多いが,ホジキンリンパ腫(Hodgkin's lymphoma,HL)へと変化するものもある.RSの場合,それぞれの組織型に応じた治療が選択されるが,治療への反応が悪く通常1年以内に死亡する例が多い.化学療法での治療強度を上げても,寛解率の上昇にはつながらないとされる.治療後に部分寛解以上になったときに,造血幹細胞移植を行うことが最も長期生存が望めると報告されているが,わが国でのまとまった報告はない.

甲状腺機能低下症

著者: 向笠浩司 ,   吉村弘 ,   伊藤公一

ページ範囲:P.828 - P.831

サマリー

 甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの作用低下によって引き起こされる疾患であるが,その多くは慢性甲状腺炎によるものである.慢性甲状腺炎は女性に多く,加齢とともに増加する.代謝低下の症状をきたすが,甲状腺腫が診断のきっかけになることが多い.検査所見は甲状腺自己抗体が高率に陽性となる.治療の基本は甲状腺ホルモンの補充であるが,無痛性甲状腺炎,悪性リンパ腫の発症に注意する必要がある.

技術講座 病理

管状臓器の断端迅速診断標本作製の工夫

著者: 高平雅和

ページ範囲:P.833 - P.836

新しい知見

 迅速診断標本作製については近年,クリオスタット,替刃,包埋剤などの改良により以前は作製が困難だった検体でも,比較的容易かつ短時間に薄切標本ができるようになった1~5).しかし,特に管状臓器の断端の迅速診断標本については,いまだ多くの施設で苦労しているようである.当院では凍結を2回に分けて行うことにより良好な薄切標本を作製している.本稿では特に凍結時と薄切時の技術的なコツを中心に解説する.

一般

ギムザ染色による髄液細胞の見方

著者: 伊瀬恵子

ページ範囲:P.837 - P.842

新しい知見

 「髄液検査法2002」1)では,細胞は単核球(リンパ球,単球,組織球)と多核球(好中球,好酸球)に分類されるとしている.中枢神経系の病態,特に髄膜炎診断において,リンパ球優位か好中球優位かを判断することは,ウイルス性か細菌性かを診断するために必須の検査であり,迅速性という面からみても,フックス・ローゼンタル(Fuchs-Rosenthal)計算盤法(以下,計算盤法)は意義の高い検査法である.しかし,疾患によっては髄液中に腫瘍細胞を認める場合や,病態期により多種多様な細胞を認めることがある.サムソン染色液のフクシン色素単染色による計算盤法は,詳細に細胞を形態観察することには限界があり,髄液中の細胞塗抹標本を作製し,ギムザ系染色法による細胞観察が重要となる.

疾患と検査値の推移

薬剤性肝障害

著者: 富澤稔 ,   横須賀收

ページ範囲:P.843 - P.847

はじめに

 体内に投与された薬剤は,肝細胞の小胞体に存在するチトクロームP450によって水酸化され,続いてグルクロン酸抱合に代表される反応によって水溶性が高まり,体外へ排泄される.チトクロームP450によって活性型になる薬剤も存在し,最初の薬剤は薬物前駆物質と呼ばれる.薬剤性肝障害とは,薬剤が原因となる肝障害であり,消化器内科ではしばしば遭遇する疾患の一つである.薬剤性肝障害は,発症機序に基づき,薬剤中毒性肝障害と薬剤過敏性肝障害に大別される.薬剤中毒性肝障害は,薬物が代謝されて生じる活性代謝産物が直接作用して発症し,用量依存性で,個体差はなく,肝障害を予測可能である.薬剤過敏性肝障害は,薬剤の代謝産物がハプテン(hapten)となり,抗原として作用し,アレルギー反応を惹起する.薬剤過敏性肝障害は,投与量とは無関係で,過敏反応を起こす個体にのみ発症し,予知は困難である.薬物性肝障害患者の50~70%が薬を服用してから30日以内,90%が60日以内に発症する.

 薬剤性肝障害は,後述のごとく,肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,混合型に分類される.肝細胞障害型はウィルス性急性肝炎に類似する.胆汁うっ滞型は毛細胆管内に胆汁栓,肝細胞内に色素沈着がみられる.混合型は肝細胞障害型と胆汁うっ滞型の混合である.特殊な薬剤性肝障害として,ステロイド,テトラサイクリンによる脂肪肝が挙げられる.原因となる薬剤は,医療機関から処方される薬剤に限らず,感冒薬に代表される市販薬,さらには民間薬,サプリメント,果ては痩せ薬のような外国の薬剤まで幅広い.サプリメントでは,成分表によると肝障害をきたす成分が含まれているとは思えないものも多い.しかし,添加物,生産過程で他の薬剤の混入などの可能性もある.薬剤中毒性肝障害ではmitomycin,actinomycin D,6-mercaptopurine,5-fluorouracilが挙げられる.過敏性肝障害は,acetylsalicylic acid,isoniazid,indomethacinが挙げられる.肝炎型を惹起するのは,ethanbuthol,tolbutamide,halothane,6-mercaptopurine,rifampicinが,胆汁うっ滞型はallopurinol,chlorpromazine,estradiol,griseofulvinが,混合型はteststerone,sulfonamide,thiouracilが,それぞれ挙げられる.

 1999年に日本肝臓学会西部会によって薬剤性肝障害に関するアンケート調査が行われ,2,561例が解析された1).66.9%が臨床症状,12.1%が薬剤によるリンパ球幼若化試験(drug-induced lymphocyte stimulation test,DLST),0.9%が再投与,0.2%が皮膚試験によって診断された.薬剤性肝障害の65%では,初発症状を認める.その内訳は,全身倦怠感,黄疸,食思不振,悪心・嘔吐などである.偶然血液検査で肝機能障害を指摘され,自覚症状が全く認められない症例も多い.

オピニオン

「知的」検査技師のすすめ!

著者: 安東由喜雄

ページ範囲:P.827 - P.827

 筆者が開業医向けの某月刊誌に「開業医のための遺伝性疾患」を連載し始めて足掛け6年の歳月が流れた.連載を始めた当初は,テーマの選定に力が入り時間を要したが,映画には遺伝性疾患,遺伝子に結びつくテーマも少なくないため,それを機軸に書いていくことにした.1年くらいで終わる連載であろうと思っていたが,しばらく経つとこうしたテーマのなかに自分の人生観を絡め三千数百文字をちりばめるのはこのうえない楽しみとなっていった.面白いもので,忙しいときほど,日常の仕事を放り出して,連載を書きたくなる.

 言うまでもなく,今や大学は改革の嵐に大きく揺さぶられ続け青息吐息の状態にある.医学部は教員の定数削減で研究力の弱体化が懸念され,医学部附属病院でも高度先進医療より利潤追求が優先されるようになり医療の質の劣化が心配され始めている.一方,教育は今までの講義中心の押し売り型から全員参加型の実習形式が求められ,これは学生の理解力を上げ,考える医師を育てるためには大変良いことだとは思うのだが,教員の負担はさらに重くなり,授業に振り回されるような状況が起こり始めている.このような状況のなかで医学部のスタッフの多くが余裕をもてなくなり,無力感が漂い始めているかに見える.しかし,筆者はこうしたときこそユニークな発想と,心にゆとりをもつように心がけなければならないと考え,休みの日には意識して映画を見るようにしている.

ワンポイントアドバイス

専門家への質問の仕方

著者: 西功 ,   浅利誠志

ページ範囲:P.850 - P.850

 業務中に遭遇する異常な検査結果や珍しい染色像の正体が,技師会や研究会などの仲間内では解決できないとき,われわれが関連事項に造詣の深い専門家からの助言によって受ける恩恵は計り知れない.近年,インターネットにより多くの情報が容易に入手でき,情報交換の手段としてメールが汎用されているが,専門家の先生方に教えを請う以上,質問者には質疑応答に関する「質問者エチケット:心構えと準備」が必要である.


■質問事項に対する心構え

 難問に遭遇した場合,直ちに専門家に解答を求めるのではなく,専門書,医学雑誌,インターネットなどにより,自分で問題について調べ,自分なりの解答を準備しておくことが重要である.医学関連の英文献は「Pub-Med(http://www.pubmed.gov)」,和文献ならば「医中誌WEB:有料(http://www.jamas.gr.jp)」などのWEBサイトで検索できる.また,多くの大学図書館が学外者の利用を認めており,必要な文献のコピーも入手可能である.これらの手段により,質問事項に関する知識を補うと同時に,質疑応答に備え自分の考えをまとめておくことがエチケットである.

私の一推し免疫染色

メラノサイト系病変の検出にはMART-1/Melan-Aが一番!

著者: 泉美貴

ページ範囲:P.852 - P.853

症 例

 症例:34歳,男性.

 現病歴:時期は不明だが,右下腿に発赤が生じた.

 現症:右下腿の伸側に,6.0×6.0mm大で押すと退色する紅斑がある.自覚症状はない.臨床診断は“紅斑”であった.

 組織像:なだらかなドーム状の隆起性病変である.表皮は,表皮突起が菲薄化し軽度に萎縮する以外には著変はない.真皮浅層に周囲との境界のやや不明瞭な結節が存在する(図1).細胞は紡錘形ないし多稜形で,両染性の細胞質を有している.クロマチンは繊細だが,核小体が比較的明瞭で,核異型もかなり強い.細胞は胞巣状ないし,一部は不明瞭ながら腺管を形成する傾向を示す.癌の転移を最も疑い,免疫染色を施行した.

 免疫染色:細胞はサイトケラチン(cytokeratin,CK:AE1/AE3)が陰性,S-100蛋白とvimentinが陽性であった.MART-1抗体とHMB-45を追加したところ,前者でびまん性に陽性(図3),後者で弱陽性(図4)であった.

 診断名:スピッツ母斑(Spitz's nevus),真皮内型.

一般検査室から私の一枚

回虫の腸管造影

著者: 野崎司

ページ範囲:P.851 - P.851

 大腸透視検査(注腸X線検査)で偶然発見された回虫の虫体である.写真をよく観察してみると,腸管内の回虫も造影剤が気に入ったのか,これを飲んだようである.この写真のお気に入りは,ヒトの腸管が造影されていると同時におなかのなかにいた虫の腸管も造影されているところである.写真を見たときに,東海大学の内視鏡は「ムシ」の腸管も造影できるとは!? と感動したものである.

今月の表紙

有毛細胞白血病:hairy cell leukemia(HCL)

著者: 髙橋恵美子 ,   東克巳

ページ範囲:P.832 - P.832

 今回は,有毛細胞白血病(hairy cell leukemia,HCL)を取り上げた.HCLはFAB分類(French-American-British classification)ではB細胞性のなかの有毛細胞白血病(HCL)に分類され,さらにa. 定型的(typical),b. 非定型的(variant)に細分類されている.WHO(World Health Organization,世界保健機関)分類では,リンパ系腫瘍の成熟型B細胞性腫瘍(mature B-cell neoplasms)のなかに分類されている.

 HCLは腫瘍細胞の細胞辺縁に毛髪様に細胞質の突起を多数出している特徴的な形態を示す白血病である.この突起は位相差顕微鏡や走査顕微鏡によって最もよく観察され,診断にも重要となる.欧米では全白血病の2~6%に見られ,発症時平均年齢は約50歳で,80%以上が男性である.しかし,わが国では欧米に比べ頻度がはるかに低く,非定型的(variant)が大部分を占める.定型的(typical)では,著明な脾腫と汎血球減少症が最大の特徴で,末梢血中の有毛細胞(hairy cell,HC)は20%以下である.またリンパ節の腫大を伴うことは少ない.しかしながらわが国に多い非定型的(variant)では白血球の増加があり,その大部分がHCである.ほかの末梢血所見では赤血球や血小板の減少は軽度であることが多い.

ラボクイズ

微生物

著者: 今西麻樹子

ページ範囲:P.848 - P.848

8月号の解答と解説

著者: 小黒博之 ,   永尾暢夫

ページ範囲:P.849 - P.849

復習のページ

釣菌のポイント

著者: 紺泰枝

ページ範囲:P.888 - P.890

[自動機器による測定]

 近年,細菌の同定および薬剤感受性検査は自動機器を用いて行う施設が多い.当院でもマイクロスキャンWalk-Away(W/A,デイドベーリング)を使用して,分離培地から直接,集落をプロンプト法により釣菌し,W/Aにセットしている.同時に血液寒天培地を8分割して,白金線で釣菌した集落を純培養している.これは自動機器による測定ではコンタミネーションのチェックができないため,菌株の保存を兼ねて行っている.

 稀ではあるが,W/Aでは比較的高い同定確率で菌種名が得られているが,純培養の平板では2菌種が混在していることがある.このような現象は自動機器は数値同定のため,汚染による多少の性状の違いが生じても,同定には影響しなかったためである.

臨床検査フロンティア 検査技術を生かせる新しい職種

認定臨床微生物検査技師

著者: 高木妙子

ページ範囲:P.886 - P.887

はじめに

 臨床検査技師を対象とした認定臨床微生物検査技師制度が日本臨床衛生検査技師会,日本臨床微生物学会,日本臨床検査医学会および日本臨床病理同学院の4団体支援のもとに発足し,2001年から実施されている.

 本制度は“臨床微生物学と感染症検査法の進歩に呼応して,これらに関連する臨床検査の健全な発展普及を促し,有能な認定臨床微生物検査技師の養成を図り,より良質な医療を国民に提供すること”を目的としている.つまり,検査技師の社会的な地位の向上を目的としたものではなく,あくまで国民に向けた一つの制度といえる.

 近年,さまざまな感染症が大きな問題となっており,医療における微生物検査の重要性が高まっている.これに対応して次々に開発される最新の技術を含めた微生物検査を的確に行い,その健全な発展普及を促すための専門技師制度として,微生物の検出・診断のみならず,抗菌薬選定,感染防止対策などにおいても大きな役割を果たすことが期待されている.

失敗から学び磨く検査技術―臨床化学編

尿糖および尿ケトン体がいずれも強陽性の検査結果の報告には要注意―捨てられた尿ケトン体陽性の尿

著者: 油野友二

ページ範囲:P.854 - P.857

 “尿検査のパニック値”―このような視点で尿ケトン体陽性時の考え方と行動について考えてみたい.その背景にはこんなエピソードがあった.

 “検尿の検体で浸透圧と電解質をお願いします”こんな臨床からの追加検査の依頼があったが,このとき,既に一般検査室では尿は廃棄されていた.よくある光景かもしれないが,追加依頼の可能性を尿検査担当者は予見できなかったのであろうか.担当者はこの検体は尿糖と尿ケトン体が陽性であるが,日頃よくある検体で問題ないと思ったとのことである.本当によくある例なのか.今一度考えてみたい.

臨床医からの質問に答える

院内感染対策としての除菌処置と,除菌後に生じる生物学的活性低下菌について

著者: 大森智弘 ,   山口秀樹

ページ範囲:P.882 - P.885

はじめに

 近年,微生物検査技師は,院内感染対策チーム(infection control team,ICT)に参加し,病院全体の感染対策に活動の場を広げることとなった.その役割は感染源や感染経路の調査,院内環境汚染の程度,保菌者の調査などが主体となる.本稿ではICT活動を通じて経験した新生児集中治療室(neonatal intensive care unit,NICU)でのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)の菌検出状況の推移と,除菌後に菌同定に及ぼす影響について考察する.

Laboratory Practice 〈臨床生理●呼吸機能検査のステップアップ・5〉

在宅医療における呼吸機能検査

著者: 諏訪部章

ページ範囲:P.858 - P.864

はじめに

 近年,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmorary disease, COPD)や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)などの増加は著しく,その医療の主体は病院から在宅医療へシフトしている.主な在宅呼吸療法と対象となる呼吸器疾患を表1に示した.その病状評価・治療効果の判定のための呼吸機能検査も院内検査から在宅検査へとシフトし,さまざまな機器が開発され市販されている.本稿では,パルスオキシメータ,ピークフローメータ,携帯型スパイロメータ,SAS簡易モニタの四つを取り上げて紹介し,その運用例と注意点について述べる(表2).

〈血液●採血の現況と問題点・3〉

採血と末梢神経損傷

著者: 高山真一郎 ,   杉本義久 ,   岡崎真人

ページ範囲:P.865 - P.868

はじめに

 採血や点滴などによる末梢神経損傷は日常的に頻発するが,その多くは数日から数週間で軽快する.しかしながら時には疼痛・知覚障害などが長期間持続し,後遺症や補償問題などが生じることがある.さらに軽微な損傷をきっかけに,頑固な神経因性疼痛を引き起こす難治例も稀ではない.針刺しによる末梢神経損傷の原因は,注射針による機械的損傷と注入薬剤による化学的損傷とに分けられるが,長期間持続する末梢神経障害では採血や静脈注射が原因となっていることも少なくない1,2).本稿ではその予防について検討し,さらに観血的治療の経験から注射針による末梢神経損傷の病態,治療について考察する.

〈病理●癌取扱い規約の解説と問題点・9〉

前立腺癌取扱い規約

著者: 寺戸雄一 ,   坂本穆彦

ページ範囲:P.869 - P.873

はじめに

 前立腺癌は西欧諸国では男性の悪性新生物における死亡原因の上位である.わが国においては死亡原因における前立腺癌の順位は下位ではあるが,2001年に直腸S状部および直腸の癌を抜き,肺癌,肝および肝内胆管の癌,胃癌,結腸癌(前述直腸癌を含まず),膵癌,食道癌に次ぐ7番目となっている1).また,その増加率は高く,発生に食生活やそのほかの生活様式が関与するとされている.前立腺癌はそれらが欧米化しているわが国において,近い将来死亡原因の高位になることが予測されている.

 前立腺癌の診断の確定には通常前立腺針生検組織診が行われる.前立腺特異抗原(prostate specific antigen,PSA)によるスクリーニングの結果,ハイリスクグループには前立腺針生検が施行されるが,その件数はますます増加していくと予想される.

 「前立腺癌取扱い規約」の最新版は2001年4月刊行の第3版2)である.癌の組織分類法は,初版(1985年)からWHO(World Health Organization,世界保健機関)分類に準拠した高・中・低の分化度を用いている.WHO分類では2002年刊行の第2版3)までは,「前立腺癌取扱い規約」のもととなった分化度分類を用いていたが,2004年刊行の最新版4)ではGleason分類(Gleason grading system)を用いるように提唱しており,分化度分類については既に記載されていない.なおWHO分類は第2版までは前立腺単独で刊行されていたが,最新版では“Tumours of the Urinary System and Male Genital Organs”の一項目として収められている.

 「前立腺癌取扱い規約」第3版が刊行された2001年当時,既にGleason分類は事実上の世界標準であったため,「前立腺癌取扱い規約」にも第2版では掲載していなかったGleason分類についての解説も記載されている.しかし,当時のWHO分類を尊重し分化度分類を主として記述している.「事実上の世界標準」と記載した理由は,当時の英文論文では既にGleason分類による記述が標準的であったこと,診療の現場においてGleason分類が導入されつつあったこと,真の意味での世界標準とされるWHO分類では分化度分類を採用していたことにある.

 現行の「前立腺癌取扱い規約」の記述方法とは若干ずれが生じてしまうが,既にGleason分類がわが国においても標準的な分類法になっていると思われ,またGleason分類が実際の診療現場で利用されていることを考え合わせ,本稿においても組織分類法はGleason分類について主に記述する.なお「前立腺癌取扱い規約」第3版に掲載されているWHO分類は,既に最新版では記述が削除されているので,本稿では記載しない.

 なお,境界病変,治療効果判定については誌面の制約もあり割愛させていただく.

検査じょうほう室 〈血液〉

電気抵抗法における血小板粒度分布異常の検討

著者: 小木曽美紀 ,   大岩佳代 ,   松浦久乃 ,   椎野由裕 ,   秋山秀彦 ,   勝田逸郎 ,   恵美宣彦 ,   大島久二

ページ範囲:P.874 - P.878

はじめに

 自動血球分析装置の高機能化に伴って,短時間で多くの解析データが出力されるようになった.しかし,従来の装置で測定されていた血球数および赤血球指数以外の項目については,その測定原理と有用性が完全に把握されておらず,多くの検査室では測定値が有効利用されていないのが現状である.特に,血小板数を電気抵抗法で測定している装置では,血球容積で赤血球と血小板とを弁別しているため,MCV(mean corpuscular volume,平均赤血球容積)値の低い小球性赤血球および破砕赤血球の影響を受けやすく,血小板の粒度分布が異常となることが既に報告されている1).今回,シスメックス社製XE-2100において,血小板粒度分布異常のフラッグが出現し,血小板粒度分布情報であるPDW(platelet distribution width,血小板分布幅),MPV(mean platelet volume,平均血小板容積),P-LCR(platelet-large cell ratio,大型血小板比率)が測定不能であった症例を集計し,そのメカニズムと原疾患を検討した.

〈微生物〉

わが国におけるE型肝炎

著者: 矢野公士

ページ範囲:P.879 - P.881

はじめに

 E型肝炎は従来,先進国には常在せず,もっぱら発展途上国からの輸入感染症と捉えられてきたが,1997年に米国で海外渡航歴のない患者が報告された.2001年,わが国でも海外渡航歴のない症例からわが国固有と考えられる株(JRA-1株)が報告された1).その後,この日本株は次々と発見され(図1),これまで原因不明とされてきた急性肝炎の一部はE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus,HEV)によって引き起こされていることがわかり,近年にわかに注目されている.また,HEVは肝炎ウイルスとしては唯一,人獣共通感染症であり,一部の獣類がHEVを保有していることが明らかになっており,これは対策を講じるうえで極めて重要である.

けんさ質問箱

厚みのある細胞診標本を上手に撮影するコツは?

著者: 二村聡 ,   小畠勝己

ページ範囲:P.891 - P.894

Q.厚みのある細胞診標本を上手に撮影するコツは?

厚みのある細胞診標本を顕微鏡下で撮影しても満足できる写真を得ることができません.上手に撮影するコツを教えてください.(札幌市Y.K.生)


A.二村聡・小畠勝己

はじめに

 光学顕微鏡(以下,顕微鏡)を用いた診断業務に従事している者は,その基本操作を正確に理解し,その性能を余すところなく活用できなければなりません.これは検鏡により得られた情報を臨床側に伝達することを使命としている以上,当然の帰結といえます.日々,臨床側に細胞診断報告書という文書情報を介して細胞診断名と所見を提供していますが,臨床病理カンファレンスで画像情報を介して診断に至る細胞所見を示説する機会も少なくありません.

 今回の質問は,細胞診標本の“実践的な写真撮影法”に関するものです.結論から申し上げると,厚みのある細胞集塊の写真を美しく撮影することは至難の業です.ルチーンの検鏡下では少々厚い細胞集塊であっても,光量を上げたり,コンデンサー上下動ハンドルを操作したり,開口絞り環を開放または絞ることによって細胞集塊の内部や辺縁を観察し,それなりに評価することが可能です.しかし,厚みのある細胞集塊を見た目どおりに撮影するのは容易ではありません.これを低倍率で撮影すると,だいたい図1-a,bのような写真に仕上がります.見た目どおりに撮影できないのでいらだつことさえありますが,少しでも理想的な写真を撮影するためのコツを顕微鏡の基本操作を踏まえながら解説します.なお,近年の写真システムは銀塩からデジタルへと予想をはるかに超えるスピードで置き換えられつつあります.この点を配慮し,本稿ではデジタルカメラで撮影した写真のみを掲載しました.

トピックス

糖尿病性乳腺症の画像と病理

著者: 小柳紀子 ,   梅村しのぶ

ページ範囲:P.895 - P.896

はじめに

 糖尿病性乳腺症(diabetic mastopathy)は,1984年にSolerらによって“Fibrous disease of the breast, thyroiditis, and cheiroarthropathy in type I diabetes mellitus”として報告された1).病理組織学的にはfibrous diseaseあるいはlymphocytic mastitisと診断される病変が,糖尿病に関連して出現した場合につけられる呼称である.本病変をトピックスとして紹介する意義は,単に糖尿病に合併する稀な病態というよりは,むしろ超音波所見上,癌との鑑別を有し,過剰診療を避けるために,知っておくべき病変として紹介するものである.

HCVコア抗原測定法の評価と厚生労働省ガイドライン

著者: 西川洋子 ,   入汐弘美

ページ範囲:P.896 - P.901

はじめに

 国内のC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus,HCV)感染者は150~190万人と推定されている.感染により8割がキャリア化し,その多くが慢性肝炎から肝癌へと移行する.肝癌の約75%はHCV感染によるものである.HCV感染を可能な限り初期に検出し診断を行い,治療によってウイルスを排除できるなら肝癌への進展も抑制できる.このため厚生労働省は2002年から「C型肝炎等緊急総合対策」の一環として,老人保健法による住民検診を始めた.これは40歳から5歳刻みで70歳までの節目あるいは節目外検診でHCV抗体をはじめとする血中の肝炎ウイルス検査を行うものである.2003年にはHCV抗原が追加され,図1のようなHCV検診の流れとなった.HCV抗原を測定するHCVコア抗原検査は簡便に低コストでHCVウイルス量を測定できるため,現在臨床検査の現場で注目されている1).また,HCV抗原はC型肝炎治療の標準化ガイドラインにもHCV RNAとともに掲載されている.すなわちインターフェロン(interferon,IFN)療法はウイルス量により異なるため,ガイドラインではこの高あるいは低ウイルス量の判別にHCVコア抗原検査が用いられている.本稿では,HCVコア抗原検査を中心に住民検診の流れ,HCV RNAとの関係,標準化ガイドラインへの適応について解説する.

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あとがき

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.902 - P.902

 連日の猛暑で関東地方では観測史上最高気温が記録され,新潟中越沖地震による原発事故も加わり東京電力の供給電力は限界に達しているとのことです.火力発電所と水力発電所はフル稼働のようです.地球温暖化の危機を伝えるニュースが連日飛びかっています.あまりの暑さに久しぶりに故郷の北国に里帰りしましたが,故郷近くの車窓からは,海岸線上に銀色に浮かび上がった2機の原発が異様に威圧的にみえました.3号機の建設が静かに急ピッチで行われているようでした.温暖化の回避のためには原発は不可欠なのでしょうか.

 今月号の“病気のはなし”は「リヒター症候群」と「甲状腺機能低下症」をお届けします.リヒター症候群は慢性リンパ性白血病が進行の速い悪性リンパ腫へと変化するものを言いますが,診断には表面マーカーの検索が重要で,診断が確定すると化学療法,分子標的療法,骨髄移植などの治療が行われます.甲状腺機能低下症の多くは橋本慢性甲状腺炎によるもので,従来は代謝低下と甲状腺の形態学的所見をもとに診断がなされてきましたが,今日では自己免疫疾患としての抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体や抗サイログロブリン抗体が診断に有用とのことです.1900年代前半に報告された二つの疾患の新しい診断法と治療がわかりやすく解説されています.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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