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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術36巻11号

2008年10月発行

雑誌目次

病気のはなし

放線菌症

著者: 金川昭啓 ,   国広誠子

ページ範囲:P.1208 - P.1212

サマリー

 放線菌症は嫌気性~微好気性の放線菌属の細菌により引き起こされる感染症で,主に健康な成人に発症することが多い.その臨床病型は口腔顔面頸部,胸部,腹部,骨盤,播種性などに大別され,口腔顔面頸部が全体の約60%を占めている.放線菌はヒトの口腔,咽頭,消化管および女性生殖器などの粘膜に常在し,口腔に最も多い.主要な病原菌は,A ctinomyces israeliiとA. gerencseriaeである.放線菌症の診断は細菌学的になされるべきであるが,多くの場合,臨床的あるいは膿汁や肉芽組織内に菌塊(硫黄顆粒)を病理組織学的に証明することによりなされており,放線菌の分離・同定に基づくことは少ない.放線菌の培養陽性率は10~50%以下と低いが,グラム染色でフィラメント状のグラム陽性桿菌を多数認める菌塊や膿汁を10日~2週間嫌気培養すれば分離される可能性が大である.治療では抗菌薬療法と外科的処置が不可欠である.抗菌薬としては現在でもペニシリン系薬が第一選択薬である.再発傾向が大きいため長期にわたる抗菌薬療法が必要である.

技術講座 生理

―臨床生理検査シリーズ・1―心電図検査の原理・検査法と判読への応用

著者: 土居忠文

ページ範囲:P.1215 - P.1220

はじめに

 心臓は,休みなく働くポンプとして1日に約10万回もの収縮と拡張を繰り返しており,電気的にこれを支えるための特殊な性質が備わっている.心電図検査はその活動電位を記録するものである.心電図は基本的な生理検査の一つとして日常診療の場で頻用されており,循環器系検査が著しく進歩した現代においてもその重要性は一切変わることはない.

 本稿では,心電図検査の基本的事項について述べる.

消化管超音波検査 その2:下部消化管

著者: 中村滋 ,   朝井均

ページ範囲:P.1226 - P.1235

新しい知見

 腹部領域における消化管超音波検査は,歴史的には上腹部消化管の胃癌を中心に研究が進められ,その臨床的地位は十分確立されてきたが,その診断領域は下腹部にも拡大し,大腸のみならず以前なら全く考慮されることがなかった小腸にさえも及んでいるのが現状である.しかも,診断領域は癌を中心とする腫瘍性病変はもちろんのこと,日常臨床で極めて頻繁に遭遇する腸炎などの炎症性疾患にも及んでおり,感染微生物の種類の推定さえも試みられている.したがって,今日では下部消化管の超音波検査は,上腹部での検査と全く同様,なくてはならない必須の画像診断といっても過言ではない.

生化学

―臨床化学応用技術シリーズ・1―臨床化学に必要な応用技術総論

著者: 大澤進

ページ範囲:P.1221 - P.1225

はじめに

 臨床化学検査は検体検査の大部分を占める検査分野である.その種類は多彩で検体提出数も大量である.ほとんどの検査は生化学自動分析装置で測定され,臨床検査技師一人が受け持つ検査項目数も約20項目以上であることから,担当技師が検査法の原理や扱う装置の機構を十分に理解できていないことが多い.

 一方,日常検査における試薬と自動分析装置は一定の技術水準に達していることから,測定上の技術的問題点も特例的な事例を除けば,ほぼ良好である.本シリーズでは臨床化学分析法にかかわる吸光分析の基礎的な原理や技術に関する知識を整理して,若い臨床検査技師が新しい検査法を開発できることを一つの目的にした.また,自らが担当している検査法の原理について理解できること,そして臨床検査技師が新しい生体情報を検査室の現場から発信できる能力を身につけることで本質的な検査室の価値が向上することを期待したい.

疾患と検査値の推移

ファンコニ症候群

著者: 米村克彦 ,   遠藤美樹子 ,   岩倉考政 ,   高橋紘子

ページ範囲:P.1236 - P.1240

ファンコニ症候群とは

 ファンコニ症候群(Fanconi syndrome)とは,腎近位尿細管機能障害により腎性尿糖,低リン血症,低尿酸血症,アミノ酸尿,近位尿細管アシドーシスをきたす症候群である.ファンコニ症候群をきたす病態生理としては,近位尿細管細胞の機能的,あるいは病理的な障害により,ブドウ糖,リン,尿酸,アミノ酸,重炭酸イオンの再吸収が阻害されるため,上記の検査値異常をきたす.これらの物質は,直接的あるいは間接的にナトリウム依存性輸送体によって近位尿細管細胞で再吸収されている.糸球体は障害されていないためにアルブミン尿や尿潜血は陰性である.

オピニオン

「検査の技術」を大切に!

著者: 佐藤尚武

ページ範囲:P.1213 - P.1213

 筆者が就職した当時,生化学検査では既に用手法がほとんど姿を消していたが,細菌検査は基本的にマニュアルで実施されていた.電気泳動なども用手法で,血液像や尿沈渣は鏡検法で実施されており,凝固検査も用手法であった.当時の臨床検査技師はまさに技術職といった印象で,検査技術の高さが一つのステータスになっていた.

 その後,臨床検査は機械化(自動化)やキット化が急速に進み,臨床検査の迅速化,精度や正確度の向上,検体の微量化などに貢献した.これ自体は望ましいことであるが,一方で臨床検査技師がその技術を発揮できる場を奪い,技術職としての要素を低下させたことも事実である.

ワンポイントアドバイス

臨床検査技師としての糖尿病ケアチームへの参画

著者: 坂口恭子

ページ範囲:P.1248 - P.1249

はじめに

 糖尿病治療では医師の指導のもと患者自身が自己管理を行い,合併症などの進展を遅らせることが重要となる.患者支援においては,医師とコメディカルスタッフがチームを組み,各職種の専門性を活かし,互いに連携をとりながら推し進めていく必要がある.

 当院では,2003年に,糖尿病患者の支援を行うため,各職種からの自主的な参加により糖尿病ケアチームを発足させた.その後,コメディカル合同の勉強会などを通じて,意見交換や互いの知識の向上を図り,現在では,院内の糖尿病ケアの標準化と質の向上を目的として活動している.今回,当院糖尿病ケアチーム内での臨床検査技師の活動について紹介する.

私の一推し免疫染色

ナプシンA―原発性肺癌と転移性肺癌の鑑別

著者: 前田昭太郎 ,   片山博徳 ,   岩瀬裕美

ページ範囲:P.1244 - P.1246

はじめに

 ナプシンA(分子量:35.0kDa,等電点:5.29)はHiranoら1)によって,二次元電気泳動法を用いて高分化型肺腺癌組織から見いだされ,N末端部分の合成ペプチドを抗原としてナプシンAに対するモノクローナル抗体として作製された.

 Hiranoら1)は,このナプシンAの肺腫瘍における発現を検討した結果,原発性肺腺癌43例では高分化型12例中12例(100%),中分化型19例中19例(100%),低分化型12例中8例(66.7%)に陽性を示したのに対し,転移性肺腺癌30例では全例に陰性であり,ナプシンAが原発性肺腺癌と転移性肺腺癌の鑑別に極めて有用であることを証明した.

一般検査室から私の一枚

悪役忍者

著者: 猪浦一人

ページ範囲:P.1247 - P.1247

 尿細管上皮細胞はさまざまな形態を示すことは言うまでもない.変化の術を巧みに使い,まさに尿中の忍者細胞である.

 この写真は,乳頭状腎細胞癌の患者尿に見られたものである.一点を中心に有尾状に伸びる尿細管上皮細胞の集塊は,良性細胞で経験することがある.ではこの細胞は良性か?

今月の表紙

肺動脈血栓塞栓症

著者: 信岡祐彦 ,   瀧宮顕彦

ページ範囲:P.1214 - P.1214

 今回は,肺動脈血栓塞栓症の1例を提示する.

【症例の概要】

 44歳の女性.3日前から胸痛とともに歩行時の息切れが出現するようになった.しばらく安静にしていたが症状の改善がみられず,歩行時の息切れ,呼吸困難が増悪してきたため外来を受診した.動脈血液ガス分析では,PaO2:57.1Torr,PaCO2:36.3Torrと低酸素血症を認めた.

ラボクイズ

細胞診(体腔液)

著者: 則松良明 ,   香田浩美

ページ範囲:P.1242 - P.1242

9月号の解答と解説

著者: 常名政弘 ,   小池由佳子

ページ範囲:P.1243 - P.1243

復習のページ

血小板減少症の鑑別診断

著者: 影岡武士

ページ範囲:P.1278 - P.1280

[新米医師の奮闘記]

 遠い昔の話になって恐縮するが,私が医学部卒業3年目(1972年)の経験談から入ろう.初めて担当した厳しい白血病患者は急性前骨髄球性白血病,今でいうFAB分類でM3に当たる症例である.患者は49歳,男性,今まで健康であったが入院15日前より特別の誘引なく歯肉出血をきたし,止血が困難であったという.入院時の身体所見は,歯肉出血と四肢皮下いっ血斑を多数認めたがそのほかに異常所見はない.血液所見として,ヘモグロビン(Hb)13.6g/dl,血小板数3.5×104/μl,白血球数10,300/μl,白血球分類では骨髄芽球38%(非定型的白血病細胞21.5%),前骨髄球31%,そのほかわずかな成熟好中球とリンパ球であった.骨髄所見の特徴は,粗大なアズール顆粒で満たされ異型性の強い核をもつ前骨髄球が48.9%を占めていて,診断が確定した.

 出血傾向に関する検査は,出血時間10分以上と著明に延長,プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)と部分トロンボプラスチン時間(partial thromboplastin time,PTT)も延長,フィブリノゲン減少,euglobulin融解時間短縮(線溶能の亢進を示す),血沈1時間5mmと促進がない.当時は播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation,DIC)の診断指標としてフィブリン分解産物(fibrin degradation product,FDP)などが使えなかったので,出血傾向検査を総合的にみて,貧血が目立たないこと,骨髄の巨核球がむしろ増加していること,などを勘案して発病後間もないDICを合併した急性前骨髄球性白血病として治療を開始した.

臨床医からの質問に答える

後天性血友病が疑われたときの検査

著者: 内場光浩 ,   下山治香 ,   山内露子 ,   安東由喜雄

ページ範囲:P.1274 - P.1277

背景

 後天性血友病は,なんらかの原因で凝固第Ⅷ因子に対する自己抗体が形成され,止血反応が抑制される病態である.第Ⅴ因子やフォン・ビルブランド因子(von Willebrand factor)に対する抗体が出現する場合もあるので,これらも含め後天性凝固因子インヒビターとも呼ばれる.多彩な出血症状を呈し,一般に重篤である.稀な疾患であるために医療側の認知が低く,このため診断に至るまで長い時間がかかる場合や,診断に至らない場合も多い.

 しかしながら,近年,認知度の高まりとともに報告数も増えてきており,特に2008年4月に,凝固因子インヒビターのスクリーニング検査(混合試験)が保険適応となったため,今後,この疾患の報告も増えてくると思われる.

 本稿では,われわれが経験した後天性凝固因子インヒビター症例,および鑑別すべき疾患であるループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant,LAC)症例などを提示し,臨床検査上の問題点について述べる.

Laboratory Practice 〈臨床生理●脳波検査のステップアップ・11〉

小児脳波判読(Ⅱ)

著者: 平野嘉子 ,   小國弘量

ページ範囲:P.1250 - P.1256

はじめに

 脳波検査は,中枢神経系の機能を簡便にかつ動的に評価する方法である.小児ではけいれん性疾患の鑑別や意識障害の判定,発達現象の評価目的で施行される.本稿では日常診療で最も多いけいれん性疾患の鑑別と意識障害の判定について述べる.

〈一般〉

空胞変性円柱と不染円柱

著者: 田中佳 ,   芹川富美男 ,   松本正美 ,   中川静代 ,   野島孝之

ページ範囲:P.1257 - P.1261

はじめに

 空胞変性円柱(vacuolar-denatured cast)は尿沈渣検査で検出される円柱の一つであり,基質内に多数の空胞をもつ円柱である(図1).円柱の基質はろう様であることが多く,ステルンハイマー(Sternheimer,S)染色では赤紫色に染まることが多い.糖尿病性腎症〔血清クレアチニン(sCr)が2.0mg/dl前後から〕で出現しやすいことが一般的に認められており1),「尿沈渣検査法2000」(JCCLS GP1-P3)では,“その他の円柱”に分類されている.

 近年,糖尿病性腎症による腎不全が増加していることもあり,空胞変性円柱は決して稀少な円柱ではなく日常業務でも散見される円柱である.ただし,糖尿病性腎症に特異的な所見ではなく他のネフローゼ症候群や腎炎でも見られることがある2)

 その成因についてはこれまで,脂肪円柱から脂肪成分が抜け落ちて形成されるのではないか,あるいは空胞化した尿細管上皮細胞に由来するのではないか,などと考えられてきた.事実,空胞変性円柱は背景に脂肪円柱や卵円形脂肪体を伴うことが多い.また,空胞化した尿細管上皮細胞を認めることもある.しかし,いずれも証拠はなく基本的には不明であった.

〈病理●液状処理細胞診検査の新しい試み・2〉

子宮頸部

著者: 照井仁美 ,   進伸幸

ページ範囲:P.1262 - P.1265

はじめに

 液状処理細胞診検査は細胞診検体から採取された細胞を専用の保存液を用いて標本作製する方法(thinlayer cytology)で,細胞変性が少なく診断精度が向上すると言われている.婦人科領域においても従来の直接塗抹法に代わりこの方法が導入されてきている.近年,米国においては婦人科細胞診検査の80%以上が液状細胞診になり,従来法より高い精度を示したとの報告もある1).この新しい標本作製法によって作製されたシンレイヤー(thinlayer)標本がわが国においても臨床で使用されるようになってきている.現在使用されている液状細胞診システムには,ThinPrep(R)システム(オリンパス)とSurePathTM法(医学生物学研究所)があり,両方法とも子宮頸部における細胞処理法として1996年に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration,FDA)の承認を得ている.

 本稿では,われわれが使用経験を有するシンレイヤー標本の作製法の一つであるThinPrep(R)システムの有用性と将来について概説する2,3)

〈微生物●内部精度管理・2〉

培養(分離・同定)検査の内部精度管理

著者: 木下承晧

ページ範囲:P.1266 - P.1269

はじめに

 検査の標準化および施設間差をなくす取り組みが,検体検査分野では広がりをみせている.わが国では規定されていないが,米国の臨床検査室改善法(The Clinical Laboratory Improvement Amendments,CLIA)は1992年に検査室開設について法律を制定し,そのなかで品質管理(quality control,QC)基準を規定している.

 微生物検査の内部精度管理(internal quality control,IQC)は,結果の再現性と継続性を保証し,安価で評価方法が簡素なことが重要となる.現状では,微生物検査室の少ない人数,予算のなかで精度管理を行わざるを得ない.本稿では機器・プロセス管理を含めて,よりよい培養検査の対応を示す.

〈診療支援〉

オートプシー・イメージングの現状

著者: 清水一範 ,   本村真理 ,   江澤英史

ページ範囲:P.1270 - P.1273

はじめに

 オートプシー・イメージング(autopsy imaging,Ai)とは,大きな意味で死体画像診を示す.死体にCT(computed tomography),MRI(magnetic resonance imaging)などの画像診断装置で検索を行い,その後解剖が行われた場合には,その解剖情報と併せ死体から総合的により多くの医学情報を引き出すことを目的とした検査方法である.Aiは死亡時医学検索の一構成要素であり,その検索方法をAi(非侵襲性)→解剖(侵襲性)と序列化し系統化することに大いなる意義がある.

 近年,時津風部屋力士死亡事件などで異状死における死因解明システムの不備が社会問題となり,死因解明におけるAiの有効性が期待されている.本稿ではAiの現状について述べる.

けんさ質問箱

新生児の交差適合試験について

著者: 曽根伸治

ページ範囲:P.1282 - P.1283

Q.新生児の交差適合試験について

 新生児(未熟児)に新鮮凍結血漿を投与する場合の交差適合試験について教えてください.(郡山市 H.N.生)

 

A.曽根伸治

はじめに

 この質問については,まず交差適合試験の意義を説明し,次に成人とは異なる新生児に対する検査および新生児への輸血について解説をします.

トピックス

心筋梗塞と炎症

著者: 原克子 ,   朴幸男 ,   正木浩哉 ,   髙橋伯夫

ページ範囲:P.1284 - P.1287

■心筋梗塞の成因と病態

 心筋梗塞は,冠動脈硬化による閉塞性血栓による動脈管腔の狭窄により引き起こされ,その病理は,動脈の内側に粥状(アテローム性)の隆起病変(プラーク)が形成される粥状動脈硬化である.従来は,長い時間をかけて成長したプラークにより管腔内の狭窄度合いが増して閉塞することによって心筋梗塞が引き起こされると考えられていた.しかし,現在では狭窄の程度が軽くても,ゲル状のコレステロールエステルに富み,炎症性細胞が多く薄い線維性被膜に包まれた柔らかな不安定プラークが,血管内皮傷害や血管壁のずり応力ストレス,炎症の進展などによって破裂し,それを契機に血小板凝集,フィブリン沈着などで血栓が形成され,冠動脈内腔が閉ざされるケースも多いことが明らかになっている.この血栓により完全閉塞を生じた場合はST上昇型心筋梗塞,不完全閉塞の場合は非ST上昇型心筋梗塞,または不安定狭心症となる場合が多い.近年では,心臓突然死も含めてこれらを急性冠症候群(acute coronary syndrome,ACS)1)と称している.

 粥状動脈硬化プラーク形成は,好発部位に単球の接着が起こり血管内皮細胞上に発現した接着分子を介して内膜内に浸潤・蓄積する.また,低比重リポ蛋白(low density lipoprotein,LDL)などのリポ蛋白も動脈壁内へ侵入し,アンジオテンシンをはじめとする脈管作動性物質などを介して酸化ストレスにより酸化変性を受け,酸化LDLとなり,単球由来のマクロファージの活性化を招く.酸化LDLは,マクロファージ細胞表面に発現するスカベンジャー受容体により細胞内に際限なく取り込まれて,マクロファージは泡沫細胞となる.その過程で炎症性サイトカインや成長因子の産生・放出により血管平滑筋細胞の形質転換をもたらして,収縮型から分泌型として内膜への遊走と増殖を引き起こし,催炎症作用,催血栓作用などに誘導することがプラークの進行や破綻に寄与している2)

肺癌の原因遺伝子

著者: 間野博行

ページ範囲:P.1288 - P.1290

はじめに

 肺癌は欧米およびわが国で癌死数の第1位を占める予後不良の疾患である.わが国だけでも年間6万人以上,また米国でも年間16万人ほどの患者が肺癌によって亡くなっている.肺癌は早期に発見することが困難なため,根治が期待できる外科手術が行える症例は極めて稀である.しかも旧来の抗癌剤による化学療法では延命効果が少なく,病因に基づいた新しい肺癌の治療法開発が待たれていた.

 近年,肺癌の一部の症例に上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor,EGFR)遺伝子の活性型変異が生じていることが報告され,しかもEGFR変異を有する症例の一部に対してEGFRのチロシンキナーゼ活性を阻害するゲフィチニブ(gefitinib)およびエルロチニブ(erlotinib)が有効なことが明らかになった1).こうして肺癌にも分子標的療法の時代がついに訪れたのである.ただし,早期診断の面については,変異EGFRの検出は必ずしも適切な標的分子とは言えない.EGFR変異は多くの場合相同染色体の片方にのみ生じている.例えば,喀痰内に6%の肺癌細胞が存在するとしても,そのなかの片方のアレルのみ変異EGFRがあるわけであるから,喀痰全体からは3%の変異EGFRを検出しなくてはいけない.例えば,一般的なSangerシークエンサーを用いると,3%しか存在しない変異EGFRシグナルは,他の正常細胞内に存在するEGFR由来シグナルに紛れてしまい検出困難である.すなわち「配列異常」遺伝子を微量検体から同定することは困難な命題なのである.

 さらにEGFR変異はアジア人,若年女性,非喫煙者に多く発症しており2),他の症例がどのような活性型癌遺伝子を有しているのかは全く不明であった.そこでわれわれは「機能スクリーニング」法を新たに開発することで肺癌の原因追及を試みた.

コーヒーブレイク

検体検査高度自動化の功罪

著者: 戸塚実

ページ範囲:P.1241 - P.1241

 病院検査部検体検査部門は近代的工場の様相を呈する時代になった.高速処理自動分析装置にデータ処理のコンピュータシステム.30年前には想像もできなかった.単位時間に処理できる検体数は飛躍的に増加し,今や「診断前検査」はできて当たり前の時代になりつつある.外来患者が前回の検査結果を聞くためだけに病院を訪れることは激減したに違いない.まさに検体検査高度自動化の「功」である.そもそも,標記のテーマをいただいたが,検体検査高度自動化に「功」はあっても,本来「罪」などあるのだろうか.「罪」があるとすれば,それは検体検査高度自動化を適切に利用できない私たち医療関係者側にあるのかもしれない.

 家電の進歩は目覚ましい.携帯電話も然りである.自慢ではないが,家電や携帯電話の機能を100%生かすことなど私にとって夢のような話である.下手をすれば「らくらくホンにしたら?」などといじめられるが,私の年代で最新の携帯電話を完全に使いこなせる人がいるのだろうか.携帯電話を日々研究し,最良のものを生み出す努力を否定する気はさらさらない.問題なのは「最新」の言葉に弱いわれわれ消費者にあるのだろう.もちろん,商品の購入は個人の資財でまかなわれるのだから,一般的な視野で見れば私がとやかく言う資格があるはずもない(大きな視野で見ると,大量消費そのものが私たちの住む世界を脅かしているというのも事実のようであるが).しかし,医療となると話は別である.国民皆保険のわが国における医療は相互扶助が原則にある.お互いに無駄をなくしていかなければシステムは崩壊する.

整理収納をちょこっと科学する―第10回:それは,あらゆる問題解決に通じる

著者: 本多弘美

ページ範囲:P.1281 - P.1281

 整理収納の悩みを解決する方法をさまざまな角度から紹介してきました.

 これらの方法は実体験に基づいて,自分で考えながら導き出してきたものです.ここに至る過程を振り返りますと,いつも「なぜ,なぜ」と問いかけてきたように思います.「なぜ散らかるのか」「なぜ使いにくいのか」「なぜ捨てられないのか」など,自分自身に,そしてアドバイスをするお宅でも,問い続けてきました.そうしますと,次第に自分にとって本当に必要なものが判断できるようになり,大切なものが見えてくるのです.捨てるシーンでは,問いを投げ続けるだけで,自ら答えを出せることがよくありました.「なぜ,なぜ」の疑問に自分で答えていくことは,自分と向き合って見つめ直すことにつながっていき,自分で考えるという力も身につきます.この「なぜ,なぜ」の問いかけは,問題解決の手法として企業でも注目を浴びています.さらに次の解決のステップは,現状確認をして原因を探り,対策を立て,予防法を考えることです.これは,病気の診断や治療の流れも同じであり,検査業務におけるトラブルの対応策も同じだという話も初回にしました.

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臨床検査技師学校・養成所一覧

ページ範囲:P.1293 - P.1297

あとがき

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.1298 - P.1298

 生活習慣病についての話題が豊富な昨今ですが,フランスにおける疫学研究で面白い報告がありました.それは中年期でHDL-Cの濃度が低いと記憶力の低下や高齢期の認知症につながるということです.これは脂質と短期言語記憶との関係を調べた研究で,HDL-C低値(40mg/dl以下)では,高値(60mg/dl以上)に比べて,記憶障害になっている傾向が強いことが示されています.これは認知症の強いリスク因子であるアポリポ蛋白Eε4(アポE4)遺伝子の有無からは独立していました.HDL-C濃度が低いことは,後期中年期での記憶力低下のリスク因子であるらしいことが今回わかったということです.また,HDL-C低値は認知症のリスク因子でもある可能性も示唆されたということです.HDL-Cと認知症との正確な因果関係はまだ不明ですが,HDL-Cがβアミロイドの形成を防止することや,HDL-Cがアテローム性動脈硬化や血管損傷に作用したり,抗炎症性・抗酸化作用を介したりすることで,記憶に影響を与えることが考えられるとしています.

 話題になっています特定健康診査ですが,HDL-CとLDL-Cの測定は直接法で行うことから,これらの測定試薬の需要が約150%の増加になっているようです.このうちLDL-Cの測定試薬間差が大きな問題になっていますが,血清標準物質の設定がキーになり,反応性評価による試薬の選別が行われています.例えば先般開催されたセミナー(2008年筑波臨床化学セミナー)では,健診者990名の血清(採血後6時間以内)での一斉分析結果と,各試薬の反応特性結果から,試薬は広義のLDLグループと狭義のLDLグループに分けられ,それぞれのグループによって主として健診のみ,健診と脂質異常症の治療のモニターという使い方に大別され,現状で目的に合った試薬の選択が必要になります.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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