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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術36巻12号

2008年11月発行

雑誌目次

病気のはなし

腎不全(慢性腎不全を中心に)

著者: 上田志朗

ページ範囲:P.1304 - P.1310

サマリー

 腎機能低下,すなわち腎不全をその進行速度から分類すると,急性腎不全と慢性腎不全とがある.いずれの場合も糸球体濾過量(glomerular filtration rate,GFR)が低下し尿素,クレアチニン(creatinine,Cr),尿素窒素(blood urea nitrogen,BUN)などの含窒素物質の尿中への排出や体液の恒常性維持に支障が起きる.一般に急性腎不全は急激に発症し回復の可能性があり,慢性腎不全は糖尿病性腎症,慢性糸球体腎炎,良性腎硬化症,多発性囊胞腎などの慢性進行性腎疾患でみられる病態で非可逆性である.急性腎不全では単一ネフロン当たりのGFR低下が,慢性腎不全では機能できるネフロン数の減少が特徴である.慢性腎不全に関連して,慢性腎臓病(chronic kidney disease,CKD)という概念が提唱され,早期に腎疾患を発見・治療をすることの重要性が強調されている.CKDの早期発見の有力な手がかりとして,蛋白尿の検出をはじめとした検尿と,血清クレアチニン(serum Cr,SCr)から年齢・性別を考慮して推定糸球体濾過量(estimated GFR,eGFR)を算出することが推奨されている.今後,検査室によるeGFRの算出と報告が期待されている.CKDを発見できるかどうかは臨床検査技師に大きく依存するようになった.また急速なCrの上昇やカリウム,カルシウムなどの電解質異常も臨床検査技師によって緊急報告されることで医療の質が高められることを強調したい.

技術講座 生理

―臨床生理検査シリーズ・2―心電図検査:臨床編(不整脈の判読法)

著者: 土居忠文

ページ範囲:P.1311 - P.1315

新しい知見

 トルサードドポアンツ〔torsade(s) de pointes,TdP〕とは,1960年代後半から,フランスを中心に注目されるようになった心室頻拍の一種で,QRS波がその振幅と極性を軸としてねじれるように変化する特徴を示す.QRS波が刻々と変化する多形成の心室頻拍の一つでQT時間の延長を伴って発生する.多くは数秒から数十秒でサイクル長が進行性に延長しTdPは自然停止するが,TdPを繰り返したり,心室細動に移行し突然死することもある.

生化学

―臨床化学応用技術シリーズ・2―分析理論ツール その1:発色検出系

著者: 大澤進

ページ範囲:P.1317 - P.1323

はじめに

 臨床化学検査では生体成分を定量検出する場合,古くからなんらかの発色反応系に導き,分光光度計で測定を行う.現在では分光光度計を組み込んだ生化学自動分析装置によって自動測定されている.生体成分の定量や酵素活性の測定には種々の検出系が用いられ,その発色には主に化学反応,酵素-化学反応,そして免疫-酵素-化学反応を共役させた検出系が利用されている.本稿では可視光および紫外部での検出系を取り上げ,その原理,特徴や利用方法について解説する.

病理

分子標的治療に関連した免疫組織化学解析技術

著者: 谷洋一

ページ範囲:P.1325 - P.1330

新しい知見

 分子標的治療とは,癌細胞の増殖にかかわる蛋白分子を標的とした最新の治療法である.他の抗癌剤に比較して副作用が少なく,また従来の治療法が効かない癌にも驚くほどの高い治療効果を発揮している.分子標的治療薬はHER2を標的にした乳癌の治療薬ハーセプチン(R)に代表されるモノクローナル抗体(ヒト化抗体,キメラ抗体)を使用した抗体薬と1),KITを標的とした消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor,GIST)の治療薬であるグリベック(R)のような細胞シグナル伝達活性を抑制する小分子チロシンキナーゼ阻害薬に大別される2).分子標的治療の効果を予測するために,治療前に患者腫瘍組織中に存在する標的分子を免疫組織化学的に解析することが必要とされる3)

疾患と検査値の推移

ABO不適合造血幹細胞移植―血液型関連を中心として

著者: 岸野光司

ページ範囲:P.1331 - P.1336

はじめに

 造血幹細胞移植は,白血病などの腫瘍性血液疾患や重症再生不良性貧血を含めた難治性造血器疾患における根治的治療法として行われている.ドナーからの造血幹細胞移植の際は,主要組織適合抗原(major histocompatibility complex,MHC)であるヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen,HLA)の一致が生着に最も重要であり,拒絶,移植片対宿主病(graft-versus-host disease,GVHD)などの移植免疫反応へも大きく影響している1).しかし,レシピエントとドナーのABO式血液型の適合は,造血幹細胞生着には関係していない.

 本稿ではレシピエントとドナーとの間にABO式血液型の不一致が認められるABO不適合同種造血幹細胞移植にかかわる血液型関連を中心に述べる.

オピニオン

嫌気性菌と嫌気性菌感染症検査―現状の問題点と将来展望

著者: 三鴨廣繁

ページ範囲:P.1316 - P.1316

■嫌気性菌と嫌気性培養

 嫌気性菌は,酸素が発育に有害である細菌である.偏性嫌気性菌は,酸素分子を20%以上含む空気中では全く発育しない細菌のことで,通性嫌気性菌は酸素に抵抗性を獲得したため大気中でもある程度は増殖できるようになった細菌である.嫌気性培養には,原則として酸素のない環境を作ることが必要である.好気性培養は酸素濃度21%という大気中の酸素分圧に相当する環境で,炭酸ガス培養は酸素濃度15%という肺胞内の酸素分圧に相当する環境で,微好気性培養は酸素濃度5%という静脈内の酸素分圧に相当する環境で,嫌気性培養は酸素濃度<1%という歯肉溝・手術創などの酸素分圧に相当する環境で実施される.

ワンポイントアドバイス

新国際計量用語集による標準に関する用語とその意味

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.1337 - P.1339

 臨床検査で用いる標準および標準物質についての用語とその意味については,今後は国際計量用語集(international vocabulary of basic and general terms in metrology,略称:VIM)1)に基づき図2)に示すような計量学的トレーサビリティ体系として扱われることになった.このVIM第3版の訳語については,現在日本工業規格(Japanese Industrial Standard,JIS)として準備中であるので,本稿では仮訳を示す.また,臨床検査に用いる標準物質に関する用語については,ISO175113)が一般に適用されているので,これらの比較表を表2)に示す.

私の一推し免疫染色

D2-40

著者: 新井栄一

ページ範囲:P.1342 - P.1344

はじめに

 D2-40はリンパ管内皮細胞に対して,ホルマリン固定パラフィン包埋材料においても有効なマーカーとして注目され,さまざまな病理の場において使用されている.D2-40はポドプラニンに対するマウスモノクロナール抗体の一つで,ほかにNZ-1(Aggrus)などのクローンが知られている.陽性となるのは細胞膜で,血管内皮細胞とは基本的に反応しないため.リンパ管の同定に極めて有用である1,2)(図1).

一般検査室から私の一枚

計算盤からおたまじゃくし

著者: 大田喜孝

ページ範囲:P.1345 - P.1345

 新生児の髄液中に奇妙なおたまじゃくし様細胞が出現した.

 おたまじゃくしの正体は小脳皮質のプルキンエ(Purkinje)細胞である.樹状突起を伸ばす細胞は60μm以上はあろうか.プルキンエ細胞の周囲には小脳分子層の小組織片やリンパ球様の顆粒層細胞までが見てとれ,見事なまでに小脳組織そのものを反映している.20数年前の顕微鏡写真であるが,すべての条件が揃ってこそ初めて撮影できる貴重な一枚である.

今月の表紙

肥大型閉塞性心筋症

著者: 信岡祐彦 ,   瀧宮顕彦

ページ範囲:P.1324 - P.1324

 今回は肥大型閉塞性心筋症の1例を提示する.

【症例の概要】

 症例は59歳の男性.労作時の息切れを主訴に近医を受診したところ,収縮期雑音と心電図異常を指摘され,紹介受診した.胸部X線写真では,心胸郭比57%と心拡大を認めた.

ラボクイズ

血液

著者: 常名政弘 ,   小池由佳子

ページ範囲:P.1340 - P.1340

10月号の解答と解説

著者: 則松良明 ,   香田浩美

ページ範囲:P.1341 - P.1341

復習のページ

酵素アノマリーとは

著者: 藤田清貴

ページ範囲:P.1369 - P.1372

[酵素アノマリーの名称の由来は?]

 日常検査で酵素活性異常が認められた場合は,病態およびその原因を探るため電気泳動法によるアイソザイム分析が行われる.その際,病態を反映しない活性異常を示す例では,時としてある分画の欠損,過剰分画の出現,移動度の異なる分画などの異常パターンが観察される.頻度的に最も多いのは酵素結合性免疫グロブリン(enzyme linked immunoglobulins)である.酵素結合性免疫グロブリンでは酵素蛋白の側に異常がないにもかかわらず,免疫グロブリンと結合することで酵素蛋白の電気移動度が変化し,あたかも酵素異常のように観察されることから,酵素アノマリー(anomaly:異常なものの意)の名称が付された.

 しかし,電気泳動分析で,ザイモグラム上観察される異常分画すべてを酵素アノマリーと呼ぶことが多いため,遺伝的変異酵素などとの鑑別が必要となる.遺伝的変異酵素については文献1を参照していただくとして,ここでは酵素結合性免疫グロブリンについて述べる.

臨床医からの質問に答える

緊急検査としてのDダイマー検査

著者: 神谷優美子 ,   沖田政義

ページ範囲:P.1373 - P.1376

はじめに

 安定化フィブリンのプラスミン分解産物がDダイマーの総称で,生体内の血栓がプラスミンにより溶解されたときにDダイマーが生成される(二次線溶).

 Dダイマーは以下の機序で生成される.
①血管内損傷部位で凝固系が作動すると,トロンビンが産生される.
②トロンビンがフィブリンに働き,フィブリノゲンがフィブリンモノマーになる.
③フィブリンモノマーが互いに重合しフィブリンポリマーになる.そこに第因子が作用して安定化フィブリンができて,血液の流れを妨げる.
④血流をスムーズにするためにはプラスミンが重要である.そのプラスミンによって分解されたフィブリンは,ポリマー構造を有する集合体(X-オリゴマー)を形成する.

 この集合体の中には高分子から中間分子,低分子までさまざまな分画としてDダイマーが存在することが知られている(図1).このことから,Dダイマーは“架橋化されたフィブリンの分解産物”という意味でXDP(cross-linked fibrin degradation products)とも呼ばれている.

Laboratory Practice 〈臨床生理●脳波検査のステップアップ・12〉

脳波検査時のワンポイント

著者: 小林昌弘

ページ範囲:P.1346 - P.1349

はじめに

 通常の脳波検査の現場には臨床医や脳波判読医が立ち合う場合はほとんどなく,測定者が記録した脳波波形を見て判読が行われる.この脳波検査時になんらかの誤りや,不備などがあると誤った脳波判読,判読困難という状況になりかねない.本稿のテーマである脳波検査時のワンポイントとして,実際に脳波検査を行うもの(臨床検査技師)の立場から脳波検査時の正確な電極の装着と,適切なアーチファクトへの対応を中心に述べたい.

〈病理●液状処理細胞診検査の新しい試み・3〉

尿細胞診におけるシンレイヤー法の有用性―フィルター法との比較

著者: 佐藤正和 ,   有安早苗

ページ範囲:P.1350 - P.1353

はじめに

 近年,細胞診において液状処理細胞診(liquid based cytology,LBC)が注目され婦人科領域をはじめとしたいろいろな分野でその有用性が報告されている.LBCは,材料の液状化処理を基本とし,従来はスライドガラスに直接塗抹していた材料を,いったん細胞保存液(固定液)に細胞を浮遊させたのち,スライドガラスに薄層面(シンレイヤー;thin layer)になるよう塗抹する方法である.

 しかし,今回のテーマである尿や胸水,腹水などは元来が液状の検体であり,いかに細胞形態を損なわず,またはがれないようにガラスに貼り付けるかが最重要課題であった.特に低蛋白である尿や髄液においては,さまざまな検討がなされてきた.

 現在の尿検体処理の主な方法として遠心沈査塗抹法,遠心直接塗抹(オートスメア法,サイトスピン法),2回遠心法(細胞保存液添加法),フィルター法などがあるが,われわれはこれまでの検討結果から集細胞性と形態保持性の点を考慮して尿細胞診にはフィルター法を採用してきた.

 新たな技法であるシンレイヤー法のこの分野における最も注目すべき点は,細胞保持性と再現性にある.そこで同一検体からシンレイヤー法(SurePathTM法;TriPath製)とフィルター法(フィルカップ法:タイホー工業製)で作製した標本の集細胞性,形態保持性,操作性を中心に比較検討した結果をもとに尿細胞診におけるシンレイヤー法の有用性について述べる2)

〈緊急検査〉

救命救急での薬毒物中毒検査

著者: 福田篤久 ,   久保田芽里 ,   石田浩美 ,   桶野芳樹

ページ範囲:P.1354 - P.1357

病院検査室で行う薬毒物検査の目的

 救命救急領域で実施される薬毒物検査は,その性格上,薬毒物の種類や量など不明瞭な点が多く,希薄な情報量のなかから判断するには困難を要する.また,病院検査室の立場から考えてみても,血液や尿から中毒起因物質を特定することは,はなはだ困難なことである.したがって,中毒起因物質が混在している可能性がある現物そのものを試料として検査することが理想的であるが,この理想的な試料が入手できたとしても,その分析に時間を費やしていたのでは患者にとって不幸な結果を招くこともある.さらに,適切な治療は一刻も早く開始されなければならない.

 言うまでもなく,これらの薬毒物から患者を救う第一のアプローチは,いかに早く中毒起因物質を特定し,臨床現場にその情報を提供できるかにある.また,このような立場で行う薬毒物検査は,事件解明のための検査ではなく,あくまでも患者救命のための検査でなくてはならず,臨床現場に直結する情報の提供が必須である.要するに,この目的を満たすことが可能であれば時間のかかる定量試験よりも,迅速に行うことのできる定性試験の重要性は高く,陽性・陰性のいずれの結果にせよ臨床現場にとって有力な情報になることは疑いないと考えている1~3)

〈輸血〉

血液ウイルス感染症

著者: 浅井隆善

ページ範囲:P.1358 - P.1361

はじめに

 輸血はヒト由来の血液を用いるために,免疫反応や感染症のリスクを秘めている.特に,ウイルス感染は輸血副作用の主な原因であったが,最近数十年の間に幾多の対策が講じられ,大幅な改善が認められてきている.本稿では,最近の輸血ウイルス検査について述べる.

〈微生物●内部精度管理・3〉

抗菌薬感受性試験の内部精度管理

著者: 加藤貴代子 ,   小松方

ページ範囲:P.1362 - P.1368

はじめに

 現在,公にされている抗菌薬感受性試験の内部精度管理手法は,米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI;旧NCCLS)1,2)や日本化学療法学会3)によって公開され,ほとんどの検査室がこれに準拠して実施している.

 この管理手法は使用する培地性能や抗菌薬の抗菌活性を米国のAmerican Type Culture Collection(ATCC(R))から供給される標準菌株を用いて確認するものであり,感受性試験で得られる結果値〔阻止円径や最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration,MIC),感性や耐性の判定値〕の精密性と正確性を管理するものである.抗菌薬感受性試験はこの精度管理手法に基づいて成績が保証されるが,広い視点で捉えると感受性試験の精度管理はこの範疇のみで論じられるべきではない.つまり以下のようなことを念頭において管理されるべきであると考える(表1).

 抗菌薬感受性試験は患者の感染症の原因となる,いわゆる「起炎菌」を分離培養法によって抽出するところから始まる.まずはじめに検体が検査に適した良質な検体(感染を示唆する多核白血球の存在など)であるかを吟味する.検体中には「起炎菌」のみならず,常在菌や環境中細菌などが混在しているため,これらを除外しながら「起炎菌」を絞り込む.次に,「起炎菌」に対する感受性試験の結果値が,抗菌薬療法の効果を真に反映した成績となるかを吟味して報告する.

 以上,それぞれの過程が精密かつ正確に行われるためには,CLSIが示す内部精度管理手法だけでは達成できない.つまり,感染症病原体診断と抗菌化学療法の精密性と正確性を検査値をもって保証できる内部精度管理体制を確立する必要がある.

 本稿では,一般的な内部精度管理手法に加え,いまだ標準化された指針はないが,今後あるべき新しい抗菌薬感受性試験の内部精度管理の概念を解説したい.

けんさ質問箱

甲状腺穿刺細胞診における不適正検体の見極めと予防策

著者: 廣川満良 ,   柳瀬友佳里

ページ範囲:P.1377 - P.1380

Q.甲状腺穿刺細胞診における不適正検体の見極めと予防策

 甲状腺の穿刺細胞診においては,施行医に付いて技師である私たちが検体処理を行っています.その際,検体を針から吹き出したときに細胞が採取できているかどうかをその場で判断してほしいと言われるのですが,それは可能なのでしょうか.どのように不適正検体かどうかを判断すればよろしいでしょうか.(岐阜 A.T.生)

 

A.廣川満良・柳瀬友佳里

はじめに

 穿刺吸引細胞診の手技は比較的簡単であるにもかかわらず,甲状腺では不適正検体が多くて困っているという話をしばしば耳にする.質問の内容は不適正検体の見極めについてであり,そのような背景があるものと思われるが,不適正検体の予防策を知っておくことも重要であるので,両者について解説する.

トピックス

カプセル内視鏡を用いた消化管検査

著者: 松橋信行

ページ範囲:P.1381 - P.1383

はじめに

 カプセル内視鏡の登場を耳にしたとき,これで映画「ミクロの決死圏」が本当に半ば現実のものとなったとしみじみ感じたものだった.今やそれから8年が経ち,カプセル内視鏡は世界中で日常診療として広く使われている.わが国でも昨年ようやく保険診療の対象となった.しかし,まだ技術的問題やコストの課題などがあり,どこでもやっているという検査ではない.一方,世界ではカプセル内視鏡の適応疾患もどんどん拡大しており,その臨床的位置づけは急速に変貌しつつある.本稿では,2008年時点のわが国ならびに世界におけるカプセル内視鏡検査の現況を示すとともに,わが国で実際に行われているカプセル内視鏡検査の実際を垣間見てみる.

ノンコーディングRNAの可能性

著者: 齋藤力 ,   林崎良英

ページ範囲:P.1383 - P.1385

■はじめに―Non-coding RNA worldの発見

 ヒトゲノムプロジェクトによるゲノムDNAの塩基配列の決定およびアノテーションによって,遺伝子の総数は22,287と推定された1)が,ゲノムDNA中で蛋白質がコードされている領域はわずか2%以下であることが示された.一方で,マウスおよびヒトでの大規模cDNA(complementary DNA)解析がFANTOM(Functional Annomation of Mouse)1,2,3プロジェクトによって行われ,延べ151,047種類の転写産物の解析から,ゲノム全体の72%以上の領域からRNAが転写されていることが示され,転写産物のうち50%以上は蛋白質をコードしていないRNA(non-protein coding RNA,ncRNA)であることが示された2).さらに,Affymetrix社のGingerasのグループは,ゲノムタイリングアレイチップを用いたヒト21番,22番染色体の転写産物の網羅的解析から,同様に約60%の転写産物はncRNAであることを示した.

 このようにncRNAは転写産物のなかで大きな割合を占め,その機能が近年明らかになってきた.本稿では,ncRNAおよびその疾病とのかかわり,臨床検査や創薬に向けた取り組みの概略を述べる.詳細な解説は,栃谷らによる総説3)や,特集「RNA研究の新知見と医療応用への展望」を参照していただきたい4)

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あとがき

著者: 高木康

ページ範囲:P.1386 - P.1386

 わが国の陰暦での月の呼称は実に味わい深いものがあります.10月は「神無月」で,11月は「霜月」,そして12月は「極月,師走」です.11月の「霜月」は文字どおり「霜が降りる月」ですが,「神帰月」,「神楽月」とも呼ばれているそうです.10月に出雲に出かけた神様が地元にお帰りになり,各地では神様をお迎えして収穫祭や秋祭りが行われるためです.そういえば11月23日の「勤労感謝の日」は,昔は「五穀豊穣を感謝する収穫祭」でしたし,米国でも11月の第4木曜日には「Thanksgiving Day」があります.北半球の温帯から亜寒帯で同じような収穫,神様に感謝する風習があるのは興味深いものがあります.「モッタイナイ」が世界語になりつつある昨今,神様からの恵みに感謝することをもう一度考えてみるのもよいかもしれません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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