Laboratory Practice 〈病理●液状処理細胞診検査の新しい試み・4〉
穿刺細胞診(乳腺,甲状腺,肺)
著者:
平紀代美
,
山城勝重
ページ範囲:P.1432 - P.1436
はじめに
液状処理細胞診(liquid-based cytology,LBC)は米国を中心に,婦人科検体をはじめ多くの検体に利用されてきている1~11).LBCにはいくつかの方法が開発されているが,Hologic社のThinPrep(R)法は塗抹用の機器によって,フィルターを使用して細胞を収集し逆転写するものである.BD-TriPath社の(現在日本では医学生物研究所から販売されているが,将来的に日本ベクトンディッキンソンからの販売となる予定)SurePathTM法や,CytoRichTM Preservative Fluidという固定液を用いたシンレイヤー(thinlayer)法は,専用のPreCoat Slidesを使用し荷電を利用して細胞を吸着し強力な接着剤で細胞の脱落を防ぐ方法である.このBD-TriPath社の2法は自動塗抹染色装置によって多量の検体を処理することも可能であるが,大型機器を購入せずとも用手法で対応することもできる.また,これらHologic社とBD-TriPath社の方法はそれぞれ固定液,塗抹方法が異なるため,細胞所見などに若干の違いが見られる6,12).
穿刺吸引細胞診断は乳腺をはじめ種々の臓器を対象に広く行われるようになってきているが,反面,常に良好な標本を得ることが難しいということも事実である.塗抹標本のみでは,穿刺を行う術者によって穿刺・塗抹技能が大きく異なるため常に一定レベルの標本を期待できないことも多い.
また,細胞検査士自身が穿刺現場に常に参加することも穿刺吸引検体が多い場合はなかなか難しい.さらに,従来法による塗抹標本のみでは,穿刺針内(特に針の根元)の細胞残存が避けられないといった問題もある.
当検査室ではCytoRichTM RED Preservative Fluidを用いたシンレイヤー法を多くの非婦人科検体へ応用しており,その一つとして上記の問題を解決することを目的に穿刺吸引細胞診断へも使用している.LBCは細胞保存性に優れ極めて効率よく細胞を収集できる方法であり,塗抹標本と併用することによって細胞診断に大きな効果が得られるものである.しかしながら適正に標本作製が行われなければ十分な効力を発揮できないため,適切な処理を行うことが重要であり,またその細胞像の特徴を把握して診断することが必要である.
本稿では,乳腺をはじめ穿刺吸引細胞診断へのLBCの応用についてその方法の要点と,細胞判定において重要な点を中心に述べていきたい.