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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術36巻3号

2008年03月発行

雑誌目次

病気のはなし

皮膚癌(悪性黒色腫を除く)

著者: 帆足俊彦

ページ範囲:P.216 - P.220

サマリー

 皮膚にはさまざまな悪性腫瘍が生じる.本稿ではそのうちの有棘細胞癌,基底細胞上皮腫,パジェット病(Paget disease)について解説する.有棘細胞癌は表面に角化を伴う結節で,高齢者の顔面や上肢に好発する.基底細胞上皮腫は顔面に好発する漆黒調の一見ほくろに見える小結節である.パジェット病は外陰部に好発する一見湿疹のように見える紅斑や脱色素斑である.基底細胞上皮腫は転移を起こしにくいが,有棘細胞癌とパジェット病は所属リンパ節転移を起こしやすい.いずれも治療は手術が第一選択となる.早期であれば予後は比較的良好である.進行例では放射線治療や化学療法を併用することになる.

脳梗塞

著者: 鈴木理恵子 ,   峰松一夫

ページ範囲:P.222 - P.227

サマリー

 脳梗塞とは脳動脈が閉塞することにより,その動脈から血液を供給されている脳組織が虚血状態に陥り,不可逆的な壊死状態となることをいう.脳組織の障害部位によってさまざまな神経症状がみられる.脳梗塞自体が生命に影響することは少ないが,半身麻痺などの後遺症を残すことが多い.遺伝子組み換え組織型プラスミノーゲン・アクチベータ(recombinant tissue-type plasminogen activator,rt-PA)の認可などにより治療法は急速に進歩しており,現在最も注目を浴びている疾患の一つである.病歴などから脳梗塞が疑われたら,なるべく早期に診断を確定し,脳梗塞の病型を明らかにし,治療を開始することが重要である.

技術講座 血液

自動血球分析装置におけるヒストグラムの見方

著者: 近藤弘 ,   佐藤陽子 ,   永井豊 ,   巽典之

ページ範囲:P.229 - P.233

新しい知見

 現在市販されている自動血球分析装置は,異常検体や測定上のトラブルが疑われるときに警告メッセージを表示する機能をもち,日常検査ではそれらのメッセージを参照して測定値とともにヒストグラムを判読し,標本を注意深く観察して必要に応じて再検査する.ヒストグラム上には数値データだけではわからない血球動態が反映される.臨床的に出現頻度の高い破砕赤血球,小赤血球,巨大血小板,血小板凝集などではヒストグラムを正しく判読することが,その後の的確かつ迅速な対処を可能にさせる.

微生物

ノロウイルス迅速抗原検査

著者: 田中智之 ,   加藤大介 ,   鎌田公仁夫 ,   三好龍也 ,   内野清子 ,   吉田永祥 ,   田尻仁 ,   奥田真珠美 ,   中山佳子 ,   平山吉朗 ,   北元憲利 ,   武田直和

ページ範囲:P.235 - P.239

新しい知見

 ノロウイルス(Norovirus)の検出方法は,このウイルスが発見された1978年当時は電子顕微鏡,免疫電子顕微鏡が使われていた.その後,回復期患者抗体を用いた放射性免疫測定法(radio immunoassay,RIA),酸素免疫測定法(enzyme immunoassay,EIA)が開発されたが,特異性,感度は低く満足できるものではなかった.2000年にノロウイルス全塩基配列が判明し,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription polymerase chain reaction,RT-PCR)法などの遺伝子診断が可能となった.同時にウイルス様粒子(virus-like particles,VLPs)を免疫源として作製されたモノクローナル抗体を用いた固相酵素免疫検定法(enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)が開発され,2005年11月に厚生労働省からノロウイルス感染症の体外診断用医薬品として承認された.その後,より簡便かつ迅速なイムノクロマトグラフ法(immunochromatography)が開発され,2007年10月に体外診断用医薬品として承認された.測定時間は15分間,検体搬入から約30分間で診断できる.ベッドサイドでの診断が可能で,ノロウイルス感染症の感染拡大防止対策が速やかに構築されるようになった.

疾患と検査値の推移

クッシング症候群とコルチゾール

著者: 小田桐恵美

ページ範囲:P.240 - P.245

概念

 クッシング(Cushing)症候群はグルココルチコイド,特にコルチゾールの慢性過剰によって引き起こされる病態である.副腎から分泌されるコルチゾールは下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone,ACTH)の支配を受け,ACTHは視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone,CRH)の支配を受ける.コルチゾール-ACTH-CRHの間にはネガティブフィードバック(negative feedback)機構が働いているため,コルチゾール過剰状態ではACTH,CRHは抑制される(図1).クッシング症候群は,①下垂体ACTH産生腺腫(クッシング病),②副腎コルチゾール産生腺腫,③異所性ACTH産生腫瘍,④医原性(グルココルチコイド過剰投与),などにより引き起こされるために鑑別診断が必要となる.鑑別診断で行われる負荷試験はコルチゾール-ACTH-CRHのネガティブフィードバック機構を応用したものが多い1,2)

オピニオン

臨床検査技師の医療を通しての社会貢献

著者: 飯田悦夫

ページ範囲:P.221 - P.221

 以下の文章は筆者が15年前に愛知県検査技師会の研究会で講演した際の抄録原稿である.


 『現在の技術革新のテンポからみて,21世紀の初頭にはリニア新幹線,飛行機などの交通手段の整備がかなり進む.加えて,テレビ電話,FAX,パソコン通信など情報伝達メディアの進歩に伴い,空間的な距離感がますます短縮化され,人々の活動範囲が一段と広がっていくことが予想される.必然的に医療機関を受診する選択肢の自由度も現在よりさらに高まっていくであろう.すなわち,それまでは通院時間の関係で近医しか受診できなかったのが,自分の希望する遠方の医療機関をも受診する機会が十分に与えられるようになるであろう.

ワンポイントアドバイス

臨床検査技師の感染対策―2. ワクチンによる感染対策

著者: 森屋恭爾

ページ範囲:P.248 - P.249

■問題

1. あなたは自分の麻疹,水痘,風疹,流行性耳下腺炎,B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus,HBV)に対する抗体の有無をご存じですか.

2. A~C型肝炎ウイルス(HAV,HBV,HCV)およびヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,HIV)の各ウイルスが混入した血液が付着した針を刺したときの感染が成立する割合をご存じですか.


 感染症対策においてワクチン摂種は極めて重要である.また,感染症に接することが不可避な医療従事者においては,自己を感染症から守り,また自身が周囲のスタッフおよび患者に感染症をもたらさないためにも極めて重要な事項である.

私の一推し免疫染色

HNF-1β

著者: 安田政実 ,   町田知久 ,   大金直樹

ページ範囲:P.250 - P.251

はじめに

 Hepatocyte nuclear factor(HNF)-1βは,その名のとおり肝臓で発現する蛋白であり,アルブミンの産生やα-フェトプロテインなどの転写因子として機能することが知られている.これに加えて,昨今,DNA microarrayによる解析から卵巣明細胞腺癌において有意に高い発現を示すことが明らかにされ,組織化学に応用される抗体が開発されるに至っている.既に複数の施設から,この抗体が組織切片のみならず細胞診標本でも有用である旨の報告がなされている.本稿では,特異性の点で信頼度が高いHNF-1βの染色態度を紹介すると同時に,例外があることにも言及する.

一般検査室から私の一枚

尿沈渣中に認められた悪性黒色腫細胞

著者: 川辺民昭

ページ範囲:P.252 - P.252

 悪性黒色腫(メラノーマ)は黒褐色の皮膚病変として四肢などに生じる悪性度の高い腫瘍ですが,種々の臓器にも稀に発生することがあります.本例は60代男性の尿道に生じた極めて稀な症例で,この写真はその尿沈渣中に出現した悪性黒色腫細胞を捉えた珍しい一枚です.稀少症例に遭遇する機会はめったにないので,記録に残すことの大切さを感じた一枚でした.

 腫瘍細胞は,孤立散在性および上皮様結合を示す集団として出現し,核腫大と著明な核小体が認められました.悪性黒色腫の特徴である茶褐色のメラニン顆粒を確認するため,無染色にて撮影を行っています.

今月の表紙

左室壁在血栓

著者: 信岡祐彦

ページ範囲:P.228 - P.228

 今回は拡張型心筋症に合併した左室壁在血栓の1例を提示する.


【症例の概要】

 症例は47歳の女性.4か月前頃より,労作時の息切れがあった.症状は徐々に増悪し下腿浮腫も出現してきたため,外来を受診した.身体所見では心尖部に音と収縮期雑音を聴取し,下腿に著明な浮腫を認めた.胸部X線写真では心胸郭比71%の心拡大と肺うっ血像,両側胸水の貯留を認めた.

ラボクイズ

尿沈渣

著者: 山下美香

ページ範囲:P.246 - P.246

2月号の解答と解説

著者: 升秀夫

ページ範囲:P.247 - P.247

復習のページ

呼吸機能検査(1)―ベネディクト・ロス型スパイロメーターから多機能呼吸機能検査装置になって

著者: 安部信行

ページ範囲:P.280 - P.282

[エピソード]

 筆者が呼吸機能検査をはじめた頃は,ベネディクト・ロス型スパイロメーターを用いていました.蒸留水を装置に満たしたのち記録紙にペンを上下に合わせ調整するのが朝の日課でした.記録は回転式になっておりスイッチで速度を切り替え記録するものです.今日では自動化された多機能呼吸機能検査装置や電子スパイロメーターが用いられ,従来の装置より格段に操作性がよくなり効率よく検査ができるようになりました.しかし,呼吸機能検査は患者さんの協力による最大の努力を必要とするばかりでなく,検者の手技も熟練が必要であることは今も変わりません.

失敗から学び磨く検査技術―臨床化学編

酸性尿でのβ2-マイクログロブリン測定

著者: 松田ふき子

ページ範囲:P.254 - P.256

近位尿細管機能検査としての尿中β2-マイクログロブリン測定

 尿中β2-マイクログロブリン(β2-microglobulin,β2-M)は,分子量11,800ダルトンの低分子蛋白で,糸球体基底膜を容易に通過するが,その後近位尿細管で約95%が再吸収されて異化される.そのため通常は尿中へはわずかにしか排泄されない.尿細管が障害されて再吸収能力が低下すると尿中へのβ2-Mの排泄が増加する.糸球体機能が低下する場合も二次的に尿細管機能が障害されることが多く,β2-Mの尿中への排泄が増加する.

 血中のβ2-M濃度が4.5mg/dl以上の高値となる場合も,尿細管での再吸収能力を超えるため尿中へのβ2-Mの排泄が増加する1).β2-Mは有核細胞膜表面に存在し,組織結合抗原であるHLA(human leukocyte antigen)クラス抗原のL鎖として免疫応答の役割を担っているが2),悪性腫瘍や自己免疫疾患などで細胞の増加や破壊が亢進すると血中濃度が増加する.そのため尿細管機能障害がなくても尿中への排泄が増える.また,腎血流量の低下に伴い異化が低下する場合も血中濃度が増加し,尿中へのβ2-M排泄が増加する3)

臨床医からの質問に答える

HIV抗体検査の非特異反応

著者: 上田一仁

ページ範囲:P.276 - P.279

はじめに

 近年,検査の迅速化や高感度化が進むなか,抗原抗体反応における非特異反応が臨床の現場で問題になる場合が少なくない1).特に,感染症検査では,社会的問題にまで発展する可能性があり,その結果の解釈には慎重さを要する.患者に直接結果を伝える立場にある臨床医が「陽性かもしれない」と安易に発言することは避けなければならない.なかでも,わが国で増加しているヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus,HIV)感染症に対する検査では,結果に対する十分な理解が要求される2).今回,HIV抗体検査(HIV抗原/抗体検査)について,当院での報告様式例を紹介し,臨床医にどのように報告すべきかを述べる.

Laboratory Practice 〈臨床生理●脳波検査のステップアップ・4〉

脳波の導出法:原理と局在決定

著者: 前川敏彦 ,   飛松省三

ページ範囲:P.257 - P.262

はじめに

 脳波は他の静的な画像検査(CT,MRI,SPECT)では得られない,患者の時々刻々と変わる機能変化をダイナミックに捉えることができ,意識障害やてんかんの診断に特に有力な検査である.しかし,横軸に時間,縦軸に信号変化を表記する方法は画像を見慣れている近年の臨床医には厄介な存在である.一般臨床医に脳波が役に立つと思わせるには,わかりやすさが必要である.わかりやすい脳波を示すためには,記録する臨床検査技師の知識と技量が問われる.言い換えると,アーチファクトの少ない記録をすると同時に,適当な刺激を被検者に与える(あるいは与えない)ことにより,脳波検査の得意とする「機能変化を捉える能力」を最大限に引き出すことが要求される(図1). 脳波導出法の原理を理解することは脳波判読の基礎につながるため,本稿ではその要点を概説する.

〈病理●内部精度管理・3〉

免疫染色の精度管理

著者: 鈴木舞 ,   鴨志田伸吾

ページ範囲:P.263 - P.266

はじめに

 近年,ルーチン業務における免疫染色依頼件数の伸びに加え,入手できる抗体の種類の飛躍的な増加に伴い,確定診断や治療法の選択に対する免疫染色の貢献度が高まっている.それゆえに,免疫染色の精度管理および標準化の重要性がますます強調されてきている.本稿では,免疫染色の内部精度管理,再現性や正確性の高い染色結果を得るためのノウハウについて言及する.

〈微生物〉

MRSAの保菌調査

著者: 大塚喜人

ページ範囲:P.267 - P.269

はじめに

 病院感染の発症は,一般的に見られるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus,MRSA)や緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)によって起こる場合,感染源となる感染発症患者,保菌者,病院環境などから,経口感染,接触感染,飛沫感染などによって,易感染性患者などに伝播・拡大する.

 MRSA感染症は外界から感染する外因性感染が主であったが,近年では市中の保菌者も多くみられるようになったため,時にMRSA保菌調査が必要なことがある.

〈生化学〉

酵素法による肝性リパーゼ(HTGL)活性の測定方法

著者: 今村茂行

ページ範囲:P.270 - P.272

はじめに

 リパーゼはトリグリセリド(triglyceride,TG)に作用し遊離脂肪酸を生成する酵素であり,微生物,動植物に広く存在し脂質代謝に重要な役割を果たしている.高等動物においてよく知られているリパーゼとしては食物から摂取した脂肪を加水分解する膵臓由来の消化酵素としてのリパーゼ(pancreatic lipase,PLP),カイロミクロン,超低密度リポ蛋白質(very low density lipoprotein,VLDL),中間密度リポ蛋白質(intermediate density lipoprotein,IDL),低密度リポ蛋白質(low density lipoprotein,LDL),高密度リポ蛋白質(high density lipoprotein,HDL)などのリポ蛋白質の代謝に重要な役割を果たしている肝性トリアシルグリセロールリパーゼ(hepatic triacylglycerol lipase,HTGL),リポプロテインリパーゼ(lipoprotein lipase,LPL)が知られている.そのほかにホルモン感受性リパーゼや最近発見された内皮性リパーゼ(EL)など1)がある.

 これらのリパーゼ活性を測定する際にはTGを基質とすることが多い.活性が比較的高いPLPの場合には基質から生成される脂肪酸にアルカリ滴定法(またはpHスタット法)を用いることでもリパーゼ活性を測定できる(ただし活性測定の再現性・精度は不十分)が,血清または血漿中で活性が低いHTGL活性やLPL活性の場合にはラジオアイソトープで標識したTGを基質として用いる方法が使われている.この方法は操作が煩雑でありまた特別な施設を要するために日常の臨床検査には不向きである.基質のTGを水溶液中で使うためにはあらかじめポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol,PVA)やアラビアゴム(gum arabic)などの水溶性高分子化合物を添加し超音波処理あるいは高速ホモゲナイザーなど物理的な手段によりエマルジョンとして分散させる必要がある.これら物理的な基質調製条件は基質調製の再現性に乏しいため安定した活性値が得られにくいという問題があった.目標として,①基質調製に特別な物理的な手法を用いずに容易に安定した基質を調製できること,②リパーゼの反応生成物を酵素的に検出できること,③汎用の生化学自動分析機器に適応できること,などを掲げ肝性リパーゼ活性測定系の構築を試みた.なお,①~③の条件を満たす膵由来リパーゼ試薬は既に実用化されている2,3)が,この試薬は膵由来リパーゼの活性測定条件に最適化されておりHTGL活性やLPL活性を測定することはできなかった.本稿では,膵由来リパーゼと同一のリパーゼ基質を用い膵由来リパーゼ活性の影響を受けないHTGLの活性測定試薬について紹介する.

〈血液〉

PT正常でAPTT延長の症例に遭遇した場合にどうするか

著者: 小宮山豊 ,   吉賀正亨 ,   髙橋伯夫

ページ範囲:P.273 - P.275

はじめに

 プロトロンビン時間(prothrombin time,PT)正常で活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time,APTT)延長の症例は,典型例としては,先天性で血友病およびその類縁疾患(血友病AとB,von Willebrand病・第因子,第因子,プレカリクレイン,高分子キニノゲン欠乏/異常症),後天性で抗凝固因子抗体〔インヒビター,循環抗凝血素,抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody symdrome,APS)による自己抗体〕および投与薬剤の影響などである1)

 ただし,血液凝固因子異常症全国調査2002年度の報告によると,血友病およびその類縁疾患の大部分である血友病AとBの患者数は,血友病Aが3,841人(男性3,821人,女性20人),血友病Bが842人(男性838人,女性4人)であり,von Willebrand病も血友病に次いで相当数あるが,他の異常は極めて少ない.したがって先天性要因のなかで最も多い血友病でも,その発症頻度は男性1万人に対し,0.8~1人であり,さらにその多くは血液専門医のもとで治療を受けているため,一般の病院で先天性血友病症例に遭遇する可能性は少ない.

 では,臨床検査部で遭遇するPT正常,APTT延長にはどのような症例が含まれるか.検体採取(サンプリング)異常を除外しなければならないのは当然であるが,基礎疾患,治療などさまざまな要因で予期せぬAPTT延長は起こりうる.本稿では,凝固時間検査の特性に触れ,検査部からの情報提供が重要な意味をもつ,特に後天性の比較的特殊な疾患を中心に,後天性血友病およびAPSなどにおける検査診断について解説する.

けんさ質問箱

超音波検査での腎動脈狭窄の計測ポイント

著者: 大平未佳 ,   阿部倫明

ページ範囲:P.283 - P.285

Q.超音波検査での腎動脈狭窄の計測ポイント

高血圧の原因の一つといわれている腎動脈狭窄の計測の仕方のポイントを教えてください.(東京都 M.K.生)

 

A.大平未佳・阿部倫明

はじめに

 腎血管性高血圧症の診断にはCT(computed tomography)やMRI(magnetic resonance imaging),腎動脈造影などの画像検査がありますが,その一つとして,腎動脈超音波検査が注目されています1,2).超音波検査は造影剤を使わずに血流速度が測定でき,被曝の心配もなく繰り返し簡便に行うことができる検査です.本稿では,超音波ドプラ法を用いて腎動脈血流速度を測定し,腎臓の血行動態や腎動脈狭窄を評価するポイントを説明します.

トピックス

LDLコレステロール測定用血清標準物質

著者: 桑克彦

ページ範囲:P.287 - P.290

 本年4月から実施される特定健康診査(特定健診),いわゆるメタボリックシンドローム健康診査では,低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein-cholesterol,LDL-C)は直接法での測定によることになっています.そのためには測定の精確さの基準となる血清標準物質の設定が必要です.

 今回,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization,NEDO)による臨床検査用標準物質の研究開発の一環として,高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein-cholesterol,HDL-C)およびLDL-C測定用標準物質検討グループ(J1WG)のなかで,LDL-C測定用血清標準物質を設定したので,その概要を示します.

産科領域の自己血輸血について―適応と現状

著者: 渡辺典芳

ページ範囲:P.290 - P.292

はじめに

 急性の産科大量出血に対応するためには,輸血療法は必須の治療となりえます.しかし,分娩時の出血の問題点としては,①いつ発生するかわからない,②事前に出血のリスクがないとしていた場合でも輸血の可能性がある,③輸血所要量としては大量であり時間的緊急性も高い,といったことがあります.通常分娩に伴う輸血は決して高い頻度で起こるわけではなく1~2%とされています.

 しかし,事前に多量出血が予測される場合には十分量の血液の確保が必要となります.このような場合には自己血輸血を選択するメリットがあります.また,血液型が稀な場合(例:Rh陰性)や,他人の血液に対して異常反応を示す抗体(不規則抗体)を保有している患者の血液確保も,安全性のためには考慮してよいでしょう.

 自己血輸血のマニュアル・ガイドラインとしては,厚生労働省より「自己血輸血:採血及び保管管理マニュアル」1),日本輸血学会より「自己血輸血ガイドライン改定案」2)が提示されていますが,適応患者の項目において妊産婦に関する詳しい言及はされていないことが現在の大きな問題点です.

 現在,当センターでは3年前より産科領域での自己血輸血の安全性の検討を行っています.本稿では自験例の結果をご紹介しつつ産科領域の自己血輸血につきお示しします.

コーヒーブレイク

整理収納をちょこっと科学する―第3回:「迷うもの」の使用頻度を数字で表わす

著者: 本多弘美

ページ範囲:P.234 - P.234

 前回は「いる」,「いらない」の判断が5秒でできないものは,「迷うもの」としてとっておいてもよいことにしました.しかし,判断に迷うものすべてをとっておくと膨大な量になってします.量が多くなると,こんなに迷うものがあってはいけない.捨てなければと思ってしまいます.「使わないなら捨てなさい」,「迷ったら捨てなさい」そんな声まで,どこからともなく聞こえくるのではないでしょうか?

 しかし,迷うものはたくさんあってもよいのです.大切なのは,「明らかにいらないもの」と「迷うもの」を,はっきり分離させることなのです.量は問題ではありません.

実習生がやってきた

著者: 関根智紀

ページ範囲:P.253 - P.253

 今年,当院に臨床検査技師を目指す大学生が病院実習にやってきた.学生の病院実習は,神聖な学校教育の一環であるが,なぜか自分と同じ職業を目指す若者が来るというだけで胸の高まりを感じた.

 実習の初日,そこには礼儀作法を教え込まれてきた初々しい姿があった.当初,私は教えるという優位な立場で実習生をみたとき,基礎知識がない,積極性に欠ける,目的意識が希薄,病院実習の意味を知っているのか,という少し見下した気持ちを抱いたが,それはすぐに間違いであることに気づいた.実習生の一日は早くて長い.先輩よりも早く検査室に来て,検査の準備をして,足が麻痺するほど立ちんぼで受講.そして検査に同席するときは「学生が付きます」と言われ,掃除までして,これで最後に半人前扱い.これでは少しかわいそうかなと思いきや,実習生から出てきた言葉は「病院実習は楽しい」であった.何故,と問い返すと,「学校の講義と学校実習で学んだことが病院という現場でどのように応用されて実践されているのかがわかった」,「患者さんに接して初めてその責務を強く感じた」と返ってきた.世間では,「最近の若者は……」と悪く言われるなかで,私の前にいるこの実習生たちは明確な目的をもってきている.その姿に共感を覚えると同時に目の前に展開する“教育”に対する責任を痛感した.

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あとがき

著者: 菅野治重

ページ範囲:P.294 - P.294

 今年は東京も厳しい寒さの冬となりました.インフルエンザも昨年に比べて少なく,このまま流行が終息してくれれば幸いです.また,流行を繰り返しているノロウイルス胃腸炎も昨年より少ないようです.ノロウイルスは牡蠣が原因とされてきましたが,現在流行しているG/4株は牡蠣からの分離は少なく,主にヒト→ヒト感染によって流行していると考えられます.ノロウイルスは人間以外の動物には感染せず,培養細胞でも増殖しません.このため現在は培養も感染モデルも不可能なため診断は遺伝子検査が中心でした.しかし,臨床の現場ではもっと迅速で簡便なノロウイルスの検出法が渇望されています.本号の“技術講座”ではノロウイルスの免疫学的検査法を解説していただきました.ノロウイルスが疑われる患者さんの取り扱いでは多くの医療機関が苦慮していると思います.嘔吐が強いので一見重症にみえますが,ほとんどは発症から2~3日で嘔吐や下痢などの症状は消失します.吐物を誤嚥して肺炎を併発した例などを除いて重篤になることは極めて稀です.このため患者さんに十分病気の説明を行い,できるだけ入院させず,外来で補液などの処置を行って帰宅させることが病院感染対策上重要です.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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