icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

検査と技術36巻5号

2008年05月発行

雑誌目次

病気のはなし

天疱瘡・類天疱瘡

著者: 橋本隆

ページ範囲:P.384 - P.389

サマリー

 自己免疫性水疱症では,表皮の細胞接着装置であるデスモソーム(desmosome)やヘミデスモソーム(hemidesmosome)のさまざまな構成蛋白に反応する自己抗体を示す.多くの疾患があるが,代表的疾患は古典的天疱瘡と水疱性類天疱瘡である.蛍光抗体間接法で,天疱瘡では血中に抗表皮細胞膜抗体が検出され,水疱性類天疱瘡では抗表皮基底膜部抗体が検出される.免疫ブロット法,ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)などで,天疱瘡はデスモソーム蛋白であるデスモグレインに反応し,水疱性類天疱瘡はヘミデスモソーム蛋白であるBP230,BP180に反応する.これらの抗表皮自己抗体は実際に病変を引き起こす病原性をもっている.主要な自己免疫性水疱症の治療法はステロイド内服である.

技術講座 生化学

―臨床化学基礎技術シリーズ―2.分析ツール その1:容量と重量(質量)

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.391 - P.395

はじめに

 臨床化学検査の測定値にかかわらず,定量的分析化学における分析値は“濃度”として表されるのが一般的である.その濃度の表し方には,容量モル濃度,質量モル濃度,質量分率,体積分率,組立単位で表される濃度がある.臨床化学検査での検査値や試薬の濃度表現には,容量モル濃度や組立単位(質量/体積)濃度が使用されることが多い.実際的には表1に示すような単位のほかにμg/ml,ng/ml,pg/mlなどの慣用単位が汎用されている.しかし,将来的には日常診療の場においてもSI単位系への転換を進め,容量モル濃度を用いるのが望ましいとされている.一方,分子量が明確でない成分は1l当たりの質量で表す.その例を総蛋白で示すと7.0g/dlは70.0g/lと表す.

 質量モル濃度や質量分率が使用される頻度は少ないが,浸透圧を表す濃度として質量モル濃度が用いられている.この濃度が臨床化学検査領域で汎用されないのは溶媒である血清や血液の比重が病態により大きく異なる場合があるためと思われる.

血液

異型リンパ球の鑑別法

著者: 鶴田一人 ,   濵﨑典子 ,   上平憲

ページ範囲:P.397 - P.403

新しい知見

 日本検査血液学会標準化委員会20071)はリンパ球と異型リンパ球を下記のように規定している.「“リンパ球”は直径9~16μmで,細胞質は比較的広いものから狭いものまである.色調は淡青色から青色を呈する.なお,アズール顆粒を認める場合がある.核は類円形で,核クロマチンは集塊を形成しクロマチン構造が明らかでない.一方,“異型リンパ球”は直径16μm(赤血球直径のおおよそ2倍程度)以上で細胞質は比較的広い.色調はリンパ球に比較し好塩基性(青色)が強い.なお,アズール顆粒,空胞を認める場合がある.核は類円形,時に変形を呈する.核クロマチンは濃縮しているがリンパ球に近いものからパラクロマチンの認められるものまである.核小体が認められるものもある.なお,判定が困難な場合はリンパ球との相違点を記載する.」

生化学

血清アルブミンの測定法―BCG法から改良BCP法へ

著者: 村本良三

ページ範囲:P.405 - P.409

新しい知見

 血清アルブミンの日常検査法としては,色素結合法であるブロムクレゾールグリーン(bromcresol green,BCG)法とブロムクレゾールパープル(bromcresol purple,BCP)法が代表的である.しかし,両者は必ずしも正確度の高い定量法ではなく,誤差要因が多い.そのような背景から,正確度の高い測定法として改良BCP法が開発された.標準化の動向として現在,日本臨床化学会において常用基準法が,日本臨床検査標準協議会において常用標準物質がほぼ確立されてきている.両者による日常検査法の評価を行ったところ,トレーサビリティ連鎖が確保できる可能性があった測定法は改良BCP法のみであり,今後は同法によって標準化が進むものと考えられる.

疾患と検査値の推移

細菌性髄膜炎―血液と髄液での検査値の推移を中心として

著者: 石和田稔彦

ページ範囲:P.412 - P.416

はじめに

 細菌性髄膜炎は,小児全身感染症のなかで最も重篤な疾患の一つであり,化学療法の進歩した現在でも治療に難渋することも多く,後遺症を残す例や不幸にして死に至る例もある.細菌性髄膜炎を的確に診断し,治療することが予後改善につながることから,疾患の特徴と検査値の推移を理解しておくことは重要である.本稿では,細菌性髄膜炎の臨床検査値の推移を中心に概説する.

オピニオン

糖尿病教室と臨床検査技師の役割

著者: 夏目久美子

ページ範囲:P.390 - P.390

 現在,臨床検査技師は検査室の中にいて検査をすることが仕事である,という時代ではなくなってきています.採血業務や迅速検査,診療前検査の充実,検査の説明などを行い,人間性豊かなチームの一員として医療に参加することも臨床検査技師としての役割だと思います.糖尿病教室への参画もその一つであり,読者の方々も「糖尿病の検査」や「血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose,SMBG)について」などのテーマで教室を担当されていることと思います.

 では,皆さんの糖尿病教室は「セルフマネージメント教育」に貢献できていますか? 検査の話といっても,「HbA1cは6.5%未満を目指しましょう」とか「コレステロールは200mg/dl未満にしましょう」ということだけを伝える場ではありません.糖尿病では「教育=治療」といわれています.しかし,糖尿病はとても病状を自覚しにくい疾患であるため,知識を伝達するだけの「講義型教育」や療養方法を提案するだけの「支援型教育」では,なかなか長続きしない結果に終わってきました.

ワンポイント・アドバイス

頸動脈計測法―IMTの測定法

著者: 永野恵子 ,   長束一行

ページ範囲:P.420 - P.421

はじめに

 Bモード上で総頸動脈(common carotid artery,CCA)を長軸で描出すると,血管内腔に一層の膜様に見える部分がある.これが内膜中膜複合体(intima-media thickness,IMT)である(図1).頸動脈のIMTは,短時間でほぼ対象者全員の測定が可能な非侵襲的検査であるという点から,大規模疫学臨床試験に好んで用いられ,早期動脈硬化の指標として注目されている.IMTは全身の動脈硬化の程度を評価するうえで重要な指標であり,さまざまな大規模臨床試験により脳梗塞を含めた心血管疾患発症との関連が報告されている1~3).その指標として各学会によってさまざまな計測法が提唱されており,本稿では用語の整理を含めそれらを解説する.

 IMTは加齢,高血圧症,高脂血症,糖尿病によって肥厚するが,1.0mm以下を正常,1.1mm以上を異常肥厚と診断する.

私の一推し免疫染色

α-インヒビン染色

著者: 松本俊治 ,   藤井博昭 ,   荻島大貴

ページ範囲:P.418 - P.419

症例

 57歳の女性.画像診断で膵腫瘍の胃壁浸潤が疑われ内視鏡検査が行われた.胃内に,やや隆起し中央に潰瘍形成を伴う腫瘍が認められ,腫瘍部から生検がなされた.腫瘍の組織像は,細胞質が高円柱状で淡明な腫瘍細胞が軽度の細胞異型を伴い索状構造を主体に増生する所見を示した(図1-a,b).通常の膵癌とは組織像が異なり,4年前に卵巣のセルトリ・ライディッヒ細胞腫で卵巣切除術が行われていたことから,卵巣腫瘍転移を疑い,前回手術された卵巣腫瘍との比較検討とα-インヒビン染色(Oxford Bio-Innovation Ltd., Oxfordshire, UK)(1:20:熱処理にて抗原賦活化)を行った.

 卵巣腫瘍は中分化型のセルトリ・ライディッヒ細胞腫で腫瘍細胞はα-インヒビン染色陽性を示した(図2-a~c).胃腫瘍は卵巣腫瘍と類似する組織像を示し,また胃腫瘍細胞もα-インヒビン染色陽性を示した(図1-c).

一般検査室から私の一枚

ある日

著者: 吉田恵三子

ページ範囲:P.417 - P.417

 “♪♪♪♪ ある日,(ある日)検査室で,(検査室で)クマさんに,(クマさんに)出会った,(出会った)花咲く検査室のな~か クマさんにで・あ・っ・た.♪♪♪♪”

 忙しいルーチンの合間に遭遇した細胞です.大食細胞で,白血球を貪食しています.

今月の表紙

エブスタイン奇形

著者: 信岡祐彦

ページ範囲:P.396 - P.396

 今回はエブスタイン(Ebstein)奇形の1例を提示する.

 【症例の概要】

 症例は52歳の女性.小児期に心房中隔欠損症の手術歴がある.10年前ごろより,動悸があり循環器内科外来を受診.心臓超音波検査で三尖弁付着部位の異常を認め,エブスタイン奇形と診断された.胸部X線写真では心胸郭比55%と心拡大を認め,心電図所見は心房細動であった.

ラボクイズ

血液

著者: 常名政弘 ,   金子誠 ,   小池由佳子

ページ範囲:P.410 - P.410

4月号の解答と解説

著者: 則松良明 ,   香田浩美 ,   原田美香

ページ範囲:P.411 - P.411

臨床医からの質問に答える

臨床症状と合わない血清CA19-9高値

著者: 二木亜希子 ,   山口ひろ子

ページ範囲:P.450 - P.451

背景

 糖鎖抗原(carbohydrate antigen,CA)19-9はヒト結腸・直腸癌培養株をマウスに免疫して得られた抗体NS19-9と反応する抗原である.その構造は型糖鎖抗原を基本骨格とする血液型抗原Leaの糖鎖の末端にシアル酸が結合したもので,血中ではムチン型糖蛋白として存在している1,2).CA19-9は当初,大腸癌を含む消化器癌の腫瘍マーカーとしての応用が期待されていたが,膵癌,胆囊癌,胆管癌の大部分で著しい高値を示し,大腸癌などより測定値,陽性率も高いことから膵・胆道系の腫瘍マーカーとして応用されている.

 CA19-9の偽高値の一つに,胃粘膜保護剤スクラルファートの服用があることが報告されている.これは慢性胃炎・消化性潰瘍の治療を目的とした服用により胃粘膜を保護することで,CA19-9が胃粘膜の毛細血管を介して血中に逆流するため一過性に高値を示すとされている3)

Laboratory Practice 〈生化学〉

新しい血清蛋白分画用セルロースアセテート膜 「セレカ®-VSP」

著者: 大竹皓子

ページ範囲:P.422 - P.429

はじめに

 血清蛋白分画検査は血清蛋白異常症のスクリーニングに有用な検査で,日常検査ではセルロースアセテート(cellulose acetate,CA)膜のセパラックス-SP(以下,SP膜;富士フイルム株式会社)を支持体とする全自動電気泳動法が汎用されてきた.このSP膜の製造がアドバンテック東洋株式会社に業務移管され,SP膜はセレカ®-VSP膜となって2007年10月から市販された.従来膜と新しい膜とはほぼ同等の一般的性状が確保されたが,CA膜の変更が日常検査で用いるさまざまな検体に影響がないかどうか,研究会が発足して検討がなされた.本稿ではそれらのデータについて示すが,はじめにCA膜と電気泳動のかかわりについても少し触れたい.

〈血液〉

可溶性フィブリンモノマー複合体の測定試薬の特性

著者: 家子正裕

ページ範囲:P.430 - P.433

はじめに

 近年,わが国においても血栓症の増加が指摘されている.血栓症はその診断が遅れると致命的になるため,早期診断による早期治療が重要である.血栓症の診断には病理診断や造影CTなどの画像診断が用いられるが,診断時には既に血栓症状が出現していることも多い.そこで,血栓形成をより早期に反映する検査として血栓マーカーが用いられる.血栓形成過程を考えれば,最も血栓に近いマーカーはフィブリンモノマー(fibrin monomer,FM)または可溶性フィブリン(soluble fibrin,SF)であろう.近年,わが国において3種類の新たなSFおよびFM複合体(fibrin monomer complex,FMC)の測定試薬が開発され,臨床応用が期待されている.しかし,測定値に試薬間差が生じ解釈に混乱を招く場合も少なくない.FMおよびSFの血中存在様式や血中動態が不明であることが混乱の原因の一つと思われる.本稿では,推定されるFM,SFの存在様式に基づき,SFおよびFMC各試薬での測定値の意味を解説したい.

〈微生物〉

ニューモシスチス肺炎の迅速診断

著者: 後藤美江子 ,   高橋孝

ページ範囲:P.434 - P.438

はじめに

 ニューモシスチス肺炎(pneumocystis pneumonia,PCP)は,HIV(human immunodefiency virus)感染症,血液疾患,自己免疫疾患,臓器移植後といった免疫不全を背景として発生する,代表的な日和見呼吸器感染症である.病態は比較的急速に悪化し,早期診断・早期治療が予後を大きく左右する.本稿ではPCPの原因微生物であるPneumocystis jirovecii(P. jirovecii)の名称の変化,症例提示による臨床的な特徴1),および自施設の直接塗抹標本を用いた迅速検出法について記述する.

〈臨床生理●脳波検査のステップアップ・6〉

脳波賦活法

著者: 渡辺修久 ,   中山和男 ,   吉永治美

ページ範囲:P.439 - P.444

はじめに

 臨床脳波検査は被検者の脳波を覚醒安静閉眼状態で約30分間記録するのが基本である.しかし,この記録だけでは十分な情報を得ることは多くの場合困難である.そこで,安静状態でははっきりしない異常を明らかにしたり,軽度にしかみられない異常を顕在化させるために,脳になんらかの刺激を与えることを脳波の賦活法と呼ぶ.日常検査として用いる賦活法は開閉眼,閃光刺激,過呼吸,睡眠が一般的であり,そのほか図形刺激,音刺激,断眠賦活,薬物賦活などもある.本稿では一般的な四つの賦活法について,目的,方法,検査のポイントを中心に述べ,最後に筆者らが実際にその有用性,安全性を検討した特別な賦活法(段階別光刺激法)について紹介する1~3)

〈一般〉

便潜血定量測定のピットフォール

著者: 今福裕司 ,   鈴木律子

ページ範囲:P.445 - P.448

はじめに

 便潜血検査は歴史の古い検査の一つであるが,現在も頻用されている検査項目である.特に大腸癌検診では,この検査のほかに無侵襲的なスクリーニングの方法が現存しないことから,広く用いられている.便潜血測定の便のサンプリングについては,尿と同じように患者に採取してもらう場合が大部分であり,医療従事者によるサンプリングに比較して,落とし穴(ピットフォール)が潜んでいる可能性は高いであろう1~3).そのため患者に適切に採便してもらうための教育が必要である.まず,これらの問題について考察してみたい.また,便潜血反応も定量化の時代を迎えつつある.当院でも定性法から定量法への移行に際して,若干の検討を行ったのでこれを報告したい.

けんさ質問箱

“しわ”にならない病理組織標本の作製の仕方

著者: 阿部寛 ,   五十嵐功 ,   小林良光

ページ範囲:P.452 - P.453

Q.“しわ”にならない病理組織標本の作製の仕方

 病理組織標本がしわになります.しわができないようにするためには,どうしたらよいでしょうか.腸や血管でしわになることが多いと思います.(東京都 I.K.生)


A.阿部 寛・五十嵐功・小林良光

はじめに

 病理組織標本を作製する際には,顕微鏡観察の支障となるさまざまなアーティファクト(人工産物)が発生します.それらアーティファクトの多くは発生原因が明らかであり,標本作製時の注意や作製方法の工夫によって防止することが可能です.病理組織標本にみられる“しわ”もアーティファクトの一つです.本稿では,日常汎用される病理組織標本作製法(ホルマリン固定,パラフィン包埋による方法)を対象に,しわを誘発する基本的な原因を述べ関連する操作について解説するとともに,しわを防止あるいは改善するための対策を紹介します.

トピックス

血尿診断ガイドライン

著者: 油野友二 ,   伊藤機一

ページ範囲:P.454 - P.457

■ガイドラインの目的と誕生までの足跡

 血尿に関するガイドラインの重要な目的は,健康診断などで見いだされる尿潜血反応陽性者の診療指針の作成にある.血尿診断ガイドライン検討委員会(表1)は,2002年に第1回委員会が開催され,当初は日本泌尿器科学会,日本腎臓学会,日本小児腎臓学会の3学会による検討が行われた.第2回委員会より日本臨床検査医学会から伊藤機一先生が参画され,同席上で尿検査の現状を周知している臨床検査技師の参画が望ましいとの提案と委員へ『尿沈渣検査法2000』1)の配布がなされた.その結果,これまでにあまり例をみない,臨床での診断ガイドライン作成に臨床検査技師の正委員として参画が実現した.その後,4年間で8回の委員会が開催され,その過程で日本臨床検査標準協議会(Japanese Committee for Clinical Laboratory Standards,JCCLS)による尿試験紙標準化2)による尿潜血反応(1+)の国内統一の内容,尿沈渣検査による尿中赤血球数算定の課題などが検査の立場から報告された.これらのことにより,血尿診断において最も重要なその定義と基準について,臨床検査の現状に合致したガイドラインの誕生に寄与できたと考える.

大腸癌腫瘍マーカーとしての尿中N1,N12-ジアセチルスペルミン

著者: 川喜田正夫 ,   平松恭子

ページ範囲:P.457 - P.459

はじめに

 複数のアミノ基をもつアルキルアミンをまとめてポリアミンと呼ぶ.ヒトの体内にはプトレッシン,カダベリン,スペルミジン,スペルミンの4種類とそのアセチル体があるが,尿中には,アセチルプトレッシン,アセチルカダベリン,N1-およびN8-アセチルスペルミジンの4種類のモノアセチルポリアミンが主として排泄される1).ポリアミンは増殖の盛んな組織で活発に代謝されていること,合成欠損細胞では外からの添加が増殖に不可欠であること,合成の律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素を強制発現させることで細胞の癌化が起こること,などから一種の細胞増殖因子と考えられており,既に1970年ごろから癌患者では尿中ポリアミン排泄量が増加することが指摘されてきた2).しかし,1990年代に入ると,尿中モノアセチルポリアミンは癌でないのに高値を示す偽陽性者や,癌であるのに上昇しない偽陰性者が多く,実用的な腫瘍マーカーとしては役に立たないという評価が定着するようになった3)

 1990年代の初頭,われわれは高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography,HPLC)によるポリアミンの一斉分画分析法を確立して尿中ポリアミン成分の分析を進め,その過程で新規のポリアミン成分N1,N12-ジアセチルスペルミン(N1,N12-diacetylspermine,DiAcSpm)を見いだした.DiAcSpmは尿中ポリアミンのなかでは最も微量の成分の一つであるが,それまで知られていたモノアセチルポリアミンと比較して格段に癌の陽性検出率が高く,新規の腫瘍マーカーとして有望であると考えられたため,われわれはこの尿中DiAcSpmを検査項目として確立し,その普及を図りたいと考えた.そして,DiAcSpm特異抗体を作成して酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay,ELISA)による簡便なDiAcSpm測定系を作り4),1990年代後半から,大腸癌を中心に尿中DiAcSpmの腫瘍マーカーとしての特性についての本格的な研究を進めてきた5)

血液形態診断におけるバーチャルスライドシステムの応用

著者: 三ツ橋雄之

ページ範囲:P.459 - P.461

はじめに

 血液疾患の診断には形態学的検査が欠かせない.現在では細胞表面マーカー検査や遺伝子検査・染色体検査などさまざまな臨床検査が日常診療に用いられるようになり,血液疾患の診断にそれぞれ重要な役割を果たしているが,末梢血塗抹標本および骨髄塗抹標本による細胞形態の評価はいまだに血液疾患の診断には不可欠である.しかし,形態学的検査には経験が必要であるため比較的専門性が高く,また観察には標本と顕微鏡が必要であるため,時間や場所の制約も少なくない.これらは形態学的検査には不可避な問題であると考えられるが,血液形態検査のもつ情報が他の検査情報に比べて有効に活用されにくい状況を作り出している可能性があると思われる.バーチャルスライドシステムはこのような血液形態検査の現状を変える可能性をもつシステムであると考えられる.

コーヒーブレイク

整理収納をちょこっと科学する―第5回:心残り度を分析する

著者: 本多弘美

ページ範囲:P.404 - P.404

 前回,「めったに使わない」グループの整理方法として,迷う理由を次の六つに分けて考える方法を紹介しました.

 1 . 使用頻度:よく使うのか,あまり使わないのか

 2 . 使用感:使い心地,使い勝手がよい・悪い

 3 . 鮮度(流行):まだ使えるのかどうか

 4 . 入手経路:入手時の思い入れがあるか,ないか

 5 . 将来性:今後使う見込みがあるか

 6 . 心残り度:自分自身のモノに対する気持ち

 今回は,このなかの「心残り度」にスポットを当てて,さらに考えてみます.「迷う理由が分析できて考え方もわかったのだけど,心残り度が強いものばかりが残って,結局どうしたらよいのかわからない」という声が聞かれます.

検査技師生活22年を振り返って(その1)

著者: 中村佐和子

ページ範囲:P.449 - P.449

 この度,コーヒーブレイクに執筆のご指名をいただきました中村佐和子と申します.多数の方々が目を通される本誌に私ごときが原稿なんて,とても恐れ多いのですがチャレンジ精神のみでお引き受けしてしまいました.思えば高等学校卒業後,臨床検査技師を目指して3年間勉学に励み(?)臨床検査の道に入って早22年が経ちました.表題のごとく振り返ってみても大したことは何もできず,いつも周りの皆様に助けていただいたことばかり思い出されますが,簡単に職歴を書いてみます.

 1985年4月1日,大阪府吹田市にある国立循環器病センターに就職し,検査技師生活をスタートしました.検体検査を行う臨床検査部に配属され,2人の同期技師と約35名の先輩技師とともに約5年間勤務しました.業務は免疫血清・輸血検査を主として,日直の緊急検査や5年目には細胞診の勉強もさせてもらいました.当時は臨床検査も花形職種で,新試薬・自動分析機が次々と開発され,導入を検討する機会も多数あったように思います.周囲の人も私も夜遅くまで(時には午前様も)実験や勉強をさせていただいたことを思い出します.院内発表会や海外文献の抄読会,院外の学会発表や投稿も経験できました.大変でしたが今思えば当時の職場の皆様や環境に改めて感謝しています.ただ,体調を崩して長期の休暇を取らざるを得なくなったときはとても辛かったです.周囲への迷惑や復帰のことなど学生時代にはなかった心配ごとでした.この件も職場の方をはじめ,検査技師学校時代の教官であった恩師に助けていただき,乗り越えることができました.

--------------------

第54回臨床検査技師国家試験―解答速報

ページ範囲:P.462 - P.462

あとがき

著者: 手島伸一

ページ範囲:P.464 - P.464

 本号には第54回臨床検査技師国家試験の解答速報が,来月号には解説が掲載されます.本誌を手にされて,3月までの試験に苦しめられたころを懐かしんでおられる新人技師さんも多いことでしょう.晴れて国試に合格し医療人となったことに安堵せず,ますます研鑽して欲しいものです.以前に当院の若い技師に「勤務時間外にももっと勉強するように!」と説いたところ,時間外の仕事はもってのほか,「先生はどうして時間外に遅くまで仕事をなさるのですか? 時間外手当が目的ですか? お部屋が狭くご家族から遅く帰るよう強要されているのですか? 教授を目指しているのですか?」と真顔で問われて返答に窮したことがあります.

 本号では“病気のはなし”で「天疱瘡・類天疱瘡」を取り上げました.本疾患が難治性の水疱性の皮膚疾患だとは私たちも知っていますが,改めて組織像,蛍光抗体法,生化学検査の重要性を知ることができます.“技術講座”では血液と生化学を取り上げました.「異型リンパ球」は日常よく耳にしますが,じっくり読んで形態的規定の大切さを理解できました.“疾患と検査値の推移”の「細菌性髄膜炎」では培養での注意点と,治療に伴っての血液一般,凝固・線溶系,生化学検査の推移を知ることの大切さを教わります.そのほか読み応えのある内容が満載です.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?