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雑誌目次

雑誌文献

検査と技術36巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

病気のはなし

急性膵炎

著者: 八島陽子 ,   伊佐山浩通 ,   八木岡浩 ,   有住俊彦 ,   外川修 ,   松原三郎 ,   平野賢二 ,   笹平直樹 ,   辻野武 ,   多田稔 ,   小俣政男

ページ範囲:P.782 - P.787

サマリー

 急性膵炎の診断基準は,①腹痛,②膵酵素の上昇,③画像上の異常の3項目のうち二つを満たすものである(厚生労働省基準).急性膵炎と診断したら,速やかに厚生労働省の研究班の定めた判定基準に従って重症度判定を行い,重症度に応じた適切な治療を開始する必要がある.重症膵炎は「腹部の熱傷」に例えられるように全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome,SIRS)の病態であり,初期治療は大量輸液による循環動態確保が第一となり,集中治療室での管理を必要とするとも多く,いまだに致死率の高い病態である.急性期の多臓器不全および膵壊死の二つが重症化にかかわる重要な因子である.膵壊死から仮性嚢胞を生じた場合の長期管理も今後の課題である.一方,軽症急性膵炎の多くは短期間の入院で回復し社会復帰可能である.アルコールが原因の場合再発を繰り返すこともある.

技術講座 生化学

―臨床化学基礎技術シリーズ―6.分析ツール その5:吸光度

著者: 関口光夫

ページ範囲:P.789 - P.798

はじめに

 吸光度は吸光光度分析法,原子吸光光度分析法の定量信号である.その吸光度は定量物質の濃度に比例する電気信号である.本稿では臨床化学領域で最も汎用されている吸光光度分析法を中心に取り上げる.また,関連した内容として,光度計の構造と性能,スペクトルの基礎,吸光度の正確さ,分析化学に用いる速度分析と反応次数の基礎,吸光度計測によるpKaの測定などについて解説したい.

生理

サーモグラフィ:熱画像検査法

著者: 三浦純子

ページ範囲:P.799 - P.804

新しい知見

 サーモグラフィ(thermography)による皮膚温測定とメタボリックシンドロームの関係:厚生労働省により,2008年4月から特定健診の実施が義務づけられた.その目的は,メタボリックシンドロームを減らし,肥満と密接な関係にある糖尿病,高血圧症,高脂血症などの生活習慣病を予防するためである.生活習慣病は動脈硬化の促進因子であるが,なかでも糖尿病は細い動脈だけでなく,太い動脈も障害されることが多く,閉塞性動脈硬化症の合併率が高い疾患である.また,それら循環障害に関連して足趾や足底部に潰瘍・壊死が発生する患者が近年増加している.潰瘍・壊死の原因が血管の障害にあるため,皮膚表面の循環状態を知るとともに,その原因血管の状態を把握することが求められる機会が増えている.将来,ますますその傾向は強くなると思われる.

消化管超音波検査 その1:上腹部消化管

著者: 中村滋 ,   朝井均

ページ範囲:P.805 - P.812

新しい知見

 腹部超音波検査は当初,肝臓や胆道あるいは腎臓といった,いわゆる実質臓器を主要な対象臓器としており,消化管についてはガスの存在などもあり避けられる傾向にあった.しかし,その後の超音波診断装置の目覚しい発展と超音波診断学の劇的な変化により,最近では一般病院ではもちろんのこと,人間ドックなど一般の検診部門の超音波検査領域でも,腹部スクリーニングに膀胱周辺の下腹部臓器はもちろん消化管を含めた超音波検査を実施する施設が増えている.したがって現在では,消化管を語らずして腹部超音波検査とはいえないようになりつつあるのが実情である.

疾患と検査値の推移

副甲状腺機能亢進症

著者: 竹内靖博

ページ範囲:P.813 - P.818

副甲状腺機能亢進症とは

 副甲状腺機能亢進症は原発性と続発性に大別される.原発性は副甲状腺の異常により副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone,PTH)の自律的な過剰分泌がもたらされる疾患である.続発性は腎不全による場合とそれ以外の場合とに分けられる.続発性副甲状腺機能亢進症は,主に腎不全や透析との関連で検討される病態であり,本稿では原発性副甲状腺機能亢進症(primary hyperparathyroidism,PHPT)を中心に概説する.

オピニオン

ISO15189認定取得雑感

著者: 宇治義則

ページ範囲:P.788 - P.788

 検査室の管理運営には品質管理,コスト管理,リスク管理,知識管理に加え第三者による位置評価(ベンチマーク,bench mark)が重要である.総合的な品質管理による検査室の品質保証には徹底した作業の標準化と文書化,誰が行ってもそのとおりに作業することによる保証,徹底した記録(ロギング,loging),そして,これらのシステマティックな管理,すなわち,PDCA(Plan,Do,Check,Action)サイクルの確立が必要である.しかし,指南書なしにこれらのシステムを構築するのは非常に難しい.2003年に発行されたISO15189「臨床検査室―質と適合能力に対する特定要求事項」は,検査室の品質の保証と管理・運営に関する国際規格であり,検査室管理運営のガイドラインとして非常に優れている.筆者は,2007年4月に富山大学附属病院検査部に赴任後,直ちに本国際規格認定取得のための準備を開始し,2008年7月に認定を取得した.

 ISO15189の認定取得には相応な費用と時間が必要となるが,幸い筆者の施設では病院長の理解を得ることができ,赴任早々の4月10日に検査部長の取得宣言(キックオフ,kick off)がなされ,準備を開始した.準備作業のなかで職員の検査業務に対する意識に日々変化がみられ,さまざまな改善からわれわれが目標にしている「高度先進医療を担う大学病院検査部として“あたりまえのことが,あたりまえにできる”」検査部の構築に一歩一歩近づいている.

ワンポイントアドバイス

Brugada型心電図の診断

著者: 速水紀幸

ページ範囲:P.825 - P.825

■Brugada症候群

 心エコー・冠動脈造影検査・運動負荷で異常を認めないが,安静時に特徴のある心電図を呈し,突然心室細動を起こして死亡する症例を,1992年にBrugadaら1)が報告した.現在,これはBrugada症候群と呼ばれており,特発性心室細動の一つに分類されている.患者は圧倒的に男性が多く(女性の10倍),30~50歳代が大部分を占める.突然死は夜間に多い.わが国で,かねて“ポックリ病”や“青壮年急死症候群”と呼ばれた症例の多くがBrugada症候群だと考えられる.東アジアに多く,一部でナトリウムチャネルの遺伝子異常も判明している.薬剤やカテーテルアブレーションは無効で,治療は植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator,ICD)のみである.

私の一推し免疫染色

CD56

著者: 村田哲也

ページ範囲:P.822 - P.823

はじめに

 CD56は別名をneural cell adhesion molecule(NCAM)といい,神経系接着因子として知られているが,神経系以外でも血液系腫瘍の免疫染色で有用なマーカーでもある.当院ではCD56はニチレイの希釈モノクローナル(クローン1B6)抗体,染色はDAKO社のEnVisionTMを使用し,抗体の反応時などにはサーモフィッシャーサイエンティフィック社のシーケンザを用いている.

 本稿ではCD56の免疫染色が有用な疾患を三つ挙げよう.それは鼻型の節外性NK/T細胞性リンパ腫(extranodal natural killer/T-cell lympho-ma,nasal type)と多発性骨髄腫,そして神経内分泌系腫瘍である.

一般検査室から私の一枚

活動するアカントアメーバの栄養型

著者: 久野豊 ,   中村文子

ページ範囲:P.824 - P.824

 60℃で1時間熱処理した大腸菌を1.5%の寒天培地に塗布し,眼科から提出された角膜擦過物を接種して25℃で1週間培養した.大腸菌を餌として,アカントアメーバの栄養型が培地上を移動した軌跡を顕微鏡で観察することができた.黒い点が栄養型である.左側の高倍率の写真では,アカントポディアと呼ばれる棘状の偽足が確認できる.

 自由生活性のアカントアメーバは,土壌,淡水や冷房の冷却水などに広く棲息し,コンタクトレンズの常用者にアメーバ性角膜炎を引き起こすことがある.

今月の表紙

感染性心内膜炎

著者: 信岡祐彦 ,   鈴木健吾

ページ範囲:P.819 - P.819

 今回は,感染性心内膜炎の1例を提示する.


【症例の概要】

 症例は42歳の男性.1か月前から発熱あり,近医で上気道炎と診断された.抗菌薬,消炎鎮痛薬の内服治療を受けたが改善せず,38℃台の発熱が続くため当院外来を受診した.胸部の聴診で心尖部に収縮期逆流性雑音を聴取した.また,血液検査では白血球数:10,200/mm3,C反応性蛋白質(C-reactive protein,CRP):4.69mg/dlと炎症所見を認めた.

ラボクイズ

血液

著者: 常名政弘 ,   小池由佳子

ページ範囲:P.820 - P.820

8月号の解答と解説

著者: 香田浩美 ,   則松良明

ページ範囲:P.821 - P.821

復習のページ

ベンス-ジョーンズ蛋白の検出とその意義

著者: 島田舞 ,   大竹皓子

ページ範囲:P.854 - P.857

[ベンス-ジョーンズ蛋白の発見]

 ベンス-ジョーンズ蛋白(Bence Jones protein,BJP)が骨髄腫患者の尿中に高頻度に検出される単クローン性(monoclonal,M)の免疫グロブリン(immunoglobulin,Ig)の軽鎖(light chain,L鎖)であることは周知のことであるが,BJPに関する歴史を遡ってみると,その発見は1844年に始まる.

 イギリスの医師William Macintyreが胸痛の患者の尿が高比重で異常であることに気付き,この尿をロンドンの法医学者Dr. Henry Bence Jonesに送り解析を依頼した.Dr. Henry Bence Jonesは異常成分の化学的な分析を執拗に行い,1845年にこの成分がアルブミン様の物質であること,異なったpHと温度で奇妙な熱凝固性を示すことを見いだした.その尿は弱酸性条件下の40~58℃の範囲で沈降反応を示し,さらに温度を上げ煮沸すると沈降物は溶解し,これを冷却すると再び沈降物を生じることを報告した.この異常成分は彼の個人名をとってBJPと命名されたが,その後,Macintyreは骨の病変部に形質細胞の存在を認め,1850年にベンス-ジョーンズ型骨髄腫として発表した.

学会印象記 第57回日本医学検査学会

生理検査における標準化を考える

著者: 片山雅史

ページ範囲:P.873 - P.873

 第57回日本医学検査学会が2008年5月30,31日に北海道札幌市にて開催された.私は一般演題の発表と座長を担当するため,北海道から遠く離れた九州の熊本県からの参加だった.羽田で飛行機を乗り継ぎ新千歳空港までが約3時間,そこから札幌市内まで電車で1時間弱を要し,自宅からホテルへ到着するのに5時間ほどかかった.およそ1,500kmの移動の影響は大きく,気温差も相当なものであったが,前日までの熊本が気温30℃を超す暑さだったため,ひんやりとした風が大変心地よかった.

 到着したその夜は日本臨床検査技師会の関連団体「日本神経生理検査研究会」が主催する講演会に参加し,「スーパードクター」としてテレビでも有名な先生のお話を拝聴し,講演会後の「すすきの」も満喫できて有意義な時間を過ごすことができた.しかし,どうしても聴きたかったシンポジウムが翌日午前中に組まれていたこともあり,ほどほどの時間での切り上げを余儀なくされた.

直面する問題や疑問に真摯に向き合うことの大切さ

著者: 芝原裕和

ページ範囲:P.874 - P.874

 前回の札幌学会から早15年,時の過ぎゆく速さを感じつつ2回目の札幌である.魅力多い北海道での学会に再度参加できるとは幸運である.この幸運をものにすべく気合十分で参加したが,なぜか寒さが身にしみる.年のせいかと思ったが平年よりも低温であったそうである.

 臨床化学の一般演題を可能な限り拝聴した.まず,私の発表内容は日本臨床検査技師会(以下,日臨技)と日本臨床検査標準協議会が中心となって進めている国家的事業,臨床検査データ標準化事業における地域データの標準化(パッチワーク方式)を成功させるために,地域基幹施設に課せられた目標値設定と許容範囲設定について,“不確かさ”という概念を当てはめることは可能かどうかの検証を行った.

原点に返り,もうひと工夫の必要性

著者: 堀雅子

ページ範囲:P.875 - P.875

 私にとって二十数年ぶりの北海道であった.以前は船での家族旅行だったが,今回は空路を利用した.降り立った新千歳空港から札幌までの景色は,薄黄緑色の若葉が風になびいていて,とても清々しい気分にさせてくれた.カラフルな花たちがそこかしこに咲き,わたしの身勝手な想像によると「ようこそ北海道へ,待っていたよ!」と出迎えてくれた.

 学会初日はすばらしい天気に恵まれ,凛とした朝の空気がやや肌寒かったもののJTBのパンフレットどおりの空の青さと白色のホテルのすばらしい景観が見られた.最初に聞きたかった発表がメイン会場の札幌コンベンションセンターでなかったので,即,バスでの移動となった.もう一つの会場であるアクセスサッポロまでは20分で到着した.シャトルバスは15分間隔で運行され,利便性はあるものの往復の時間を考慮すると,ややもったいない気がした.740題もの一般演題数ではさすがの大都市札幌でも1か所に集中できなかったのはいたしかたないところか.

学会に参加して感じたこと

著者: 山本晶子

ページ範囲:P.876 - P.876

 今回私は,北海道で開催された第57回日本医学検査学会に,演題発表をするために参加しました.日本医学検査学会への参加は,今回で3回目ですが,初めて発表したときには大勢の人前で発表できるか不安で,どちらかというと発表することに対して消極的でした.しかし,実際に参加してみると,他施設からの発表や講演によって新しい知識を得たり,日頃の疑問解決の糸口が見つかったりすることへの充実感と,臨床検査技師として自信をもって意欲的に活動している人達が集まった活気のある雰囲気に,また参加したいという思いを抱くようになりました.特に,今回の開催地は九州に住む私にとって憧れの地である北海道だったこともあり,ぜひ,参加したいと思っていました.

 実際に北海道に到着すると,まずその寒さに驚き,美味しいお寿司に舞い上がり,とうとう北海道に来たのだと,翌日の発表に向けて緊張感が高まっていきました.発表は,初日早朝のセッションで少し緊張しましたが,自分の発表が済んだ後はゆっくりと他施設の発表や講演を聴くことができました.

臨床医からの質問に答える

尿中の潜血反応と尿沈渣赤血球の結果が不一致の場合はどのように考えるべきか?

著者: 森田嘉一

ページ範囲:P.858 - P.860

はじめに

 尿定性検査はスクリーニング検査として広く行われている.近年ではメタボリックシンドローム予防のための特定健診が始まり,生活習慣病の予防や早期発見のための検査項目にもなっており,尿検査の重要性はより大きくなってきている.また,糖尿病などによる慢性腎障害(chronic kidney disease,CKD)に高血圧が加わることで腎障害が増悪することが大規模研究で明らかになっており,尿蛋白や尿糖検査とともに尿潜血,沈渣赤血球検査は腎機能の状態把握や治療評価のためにより重要な検査になってきている1)

Laboratory Practice 〈微生物●内部精度管理・1〉

塗抹検査の内部精度管理

著者: 中村文子

ページ範囲:P.827 - P.832

はじめに

 塗抹検査の有用性については今や語るまでもなく,迅速かつ的確な感染症診断に欠かすことのできない検査法である.近年,POCT(point-of-care testing)や遺伝子解析技術を駆使した起因微生物検出法1)が導入されているが,塗抹検査ほど安価で簡便なうえ,広範囲の微生物を識別できる検査法はない2,3)

 塗抹検査の欠点を唯一挙げるとすれば,「経験と熟練を要す」ことであろう.①検査材料の品質,②塗抹標本の作製,③染色,④標本観察の一連の作業は,いずれも成績を左右する要因となる.したがって,感染症診断を担う検査室ではこれらが正しく実施されているか,技術的エラーはないかを日頃からチェックする体制を整えておかねばならない.

 本稿では,主にグラム染色標本について,臨床へ有用な塗抹検査報告をするために必要な内部精度管理のあり方を解説する.

〈病理●液状処理細胞診検査の新しい試み・1〉

総論と子宮体部

著者: 則松良明 ,   香田浩美 ,   能登原憲司

ページ範囲:P.833 - P.835

はじめに

 婦人科細胞診検体は通常臨床医が検体を採取し,臨床の現場でスライドガラスに塗抹固定をしたうえで,検査室へ提出される(以下,従来法).しかしながら,従来法では採取時~塗抹固定の工程で不適標本が20%程度あるとの報告もある1)

 液状処理細胞診(liquid based cytology,以下LBC法)とは採取した細胞を直接アルコールベースの固定液中に入れ,固定を完了してから塗抹する方法である.さらにLBCのなかでも標本作製時に薄層(シンレイヤー,thin layer)塗抹をして,標本を作製する方法が世界で広がりをみせている.わが国でもSurePathTM法〔BD社,米国/代理店:(株)医学生物学研究所〕とThinPrep(R)法〔ホロジック社,米国/代理店:(株)オリンパス〕の2法がLBC法による薄層塗抹法として紹介がされている2).どちらも一長一短があるが,本稿では以下,わが国で最も普及しているBD社のSurePathTM法を中心に述べることとする.

〈臨床生理●脳波検査のステップアップ・10〉

小児脳波判読(Ⅰ)

著者: 平野嘉子 ,   小國弘量

ページ範囲:P.836 - P.841

はじめに

 脳波検査は,中枢神経系の機能を簡便にかつ動的に評価する方法であり,小児では特に発作性疾患の鑑別や意識障害の判定,発達現象の評価目的で施行される.特に小児期は痙攣を起こす頻度が高く,日常診療においてはその鑑別診断の目的で本検査を施行することが多い.また,意識障害については,急性髄膜脳炎,脳症をはじめとするさまざまな疾患に合併する意識の水準,変容を客観的に判定するために用いられる.また,脳波の発達は,脳の形態的発達に相関し,脳の発達的変化の速度や部位的特徴を反映するため,各個人の段階的な発達的変化を評価するために施行される場合もある.

〈生化学〉

BNP検査とNT-proBNP検査の使い分け

著者: 米田孝司 ,   佐藤清

ページ範囲:P.842 - P.847

はじめに

 虚血性心疾患慢性期の再梗塞や梗塞後の狭心症については心筋逸脱蛋白のミオグロビン,遊離脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein,H-FABP),CK(creatine kinase)-MB(myoglobin)活性,CK-MB蛋白量,トロポニンT(troponin T,TnT),トロポニンI(troponin I,TnI)により診断される.しかし,壁ストレスや心肥大により高値を示し,心不全の病態把握として日常的に測定されつつあるヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide,BNP)やヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(N-terminal-proBNP,NT-proBNP)においても無痛性の心筋虚血状態が続くような外来患者への適用が考えられている.

 心筋マーカーとして,ミオグロビンとH-FABP,CK-MB活性とCK-MB蛋白量,TnTとTnIという非常に似た項目の使い分けは非常に難しい問題を残している.当然,BNP検査とNT-proBNP検査という検査項目も採血後の安定性や試料または検査方法などの測定・運用側からみた使い分け,心臓ホルモン的な作用をもつBNPと活性作用をもたないNT-proBNPの臨床側からみた使い分けは非常に難しい.それらを理解するためには,それぞれの臨床検査データを正確に出すための知識と技法を知る必要がある.今回,BNP測定として幅広く使用されている自動分析装置シリーズAIA(東ソー)とNT-proBNP測定として保険適用になった自動分析装置ECLusys(R)2010(ロシュ・ダイアグノスティクス)によるこれらの項目の違いを説明しながら,手技的問題,読み方の問題,検査に必要な基礎知識を紹介する.

HDL-CおよびLDL-C測定の直接法における反応特異性

著者: 杉内博幸

ページ範囲:P.848 - P.852

はじめに

 高密度リポ蛋白質コレステロール(high density lipoprotein cholesterol,HDL-C),低密度リポ蛋白質コレステロール(low density lipoprotein cholesterol,LDL-C)は,動脈硬化性疾患の早期発見や治療効果確認の目的で,集団検診や病院において広く測定されている.測定法としては,十数年前から沈殿法に代わって直接法が世界的に普及している.

 この直接法は,現在,検査薬メーカー6社から原理の異なる試薬(表1)が市販されているが,測定値は健常人血清では一致するが,採血から長時間を経過した血清や特殊リポ蛋白質〔アポリポ蛋白質E(アポE)リッチHDL,リポ蛋白質X(lipoprotein X,LpX)など〕では,メーカー間差が大きいことが指摘されている.本稿では,これらのリポ蛋白質に対する直接法の反応性について概説する.

けんさ質問箱

尿素呼気試験と抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体の相関

著者: 棚橋仁 ,   兒玉雅明 ,   沖本忠義 ,   村上和成 ,   藤岡利生

ページ範囲:P.861 - P.862

Q.尿素呼気試験と抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体の相関

ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断検査で,尿素呼気試験と抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体の相関はあるのでしょうか?尿素呼気試験では,プロトンポンプ阻害剤などの薬剤内服中は偽陰性になる可能性があるといわれていますが,抗ヘリコバクター・ピロリIgG抗体も同じようなことがいえるのでしょうか?(大分市 F.S.生)

 

A.棚橋 仁・兒玉雅明・沖本忠義・村上和成・藤岡利生

はじめに

 ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染が胃炎,胃・十二指腸潰瘍,胃癌,胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病などの多種の疾患と関連していることが明らかとなり,その感染診断の重要性が増してきています.

無症状の病原性大腸菌が検出された場合

著者: 寺嶋淳

ページ範囲:P.862 - P.864

Q.無症状の病原性大腸菌が検出された場合

栄養科職員の定期的な便の細菌検査で,無症状であるにもかかわらず病原性大腸菌が検出された場合の対応と報告の仕方について教えてください.(東京都 F.I.生)


A.寺嶋 淳

はじめに

 「病原性大腸菌」といってもいくつかの種類があり,便から検出された病原性大腸菌の種類によって対応が異なってきます.そこでまず大腸菌にはどのような種類があり,それらをどのように分類しているのかを簡単に説明します.

 大腸菌はヒトや動物の腸管内常在菌の一つですので,健康人の糞便からも大腸菌は分離されます.ただし,大腸菌のなかには病原因子を獲得し,ヒトに下痢を惹起させるような病原性をもつ大腸菌も存在します.これらは下痢原性大腸菌と呼ばれ,それぞれの大腸菌の特徴的な発症機序や保有する病原因子によって主に下記のごとく分類することができます.ここでは混乱を避けるためにこれらの下痢原性大腸菌を病原性大腸菌と呼ぶことにします.

トピックス

リゾホスファチジン酸とオートタキシン

著者: 中村和宏 ,   矢冨裕

ページ範囲:P.866 - P.868

はじめに

 エイコサノイドを代表とする脂質メディエーターが,各種組織(細胞)で種々の(病態)生理学的作用を発揮することは多くの研究成果が示すところである.現在もこの基礎研究は盛んに行われているが,それと比較して,その測定の臨床検査への応用に関しては今後の発展を待つ部分が多い.筆者らはこの未開拓の領域に取り組んでおり,特にリゾリン脂質性メディエーターであるスフィンゴシン1-リン酸とリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid,LPA)に注目している.本稿では後者のLPAとその産生酵素のオートタキシン(autotaxin,ATX)について解説する.

結核診断法の進歩

著者: 前倉亮治 ,   田栗貴博

ページ範囲:P.869 - P.872

 過去10年間で結核診療とそれを取り巻く環境は,大きく変化・進歩してきている.具体的には,遺伝子を使った診断法の確立,液体培地の導入,新しい治療戦略である直接監視下短期化学療法(directly observed therapy short course,DOTS)の開始,退院基準の作成,さらに結核予防法から感染症法への取り扱う法律の変更などである.

 この間,結核の罹患率は10万人当たり20~30人程度に減少したが,非結核性抗酸菌症は増加傾向にある.かつて喀痰塗抹抗酸菌陽性であれば,肺結核として命令入所し化学療法を開始していたが,今や塗抹抗酸菌陽性の約半数が非結核性抗酸菌であることから結核迅速診断の重要性が高まっている.また,多剤耐性結核菌が一般の肺結核患者へ感染するとの報告があり,多剤耐性結核患者は陰圧病棟へ収容する必要性から耐性結核菌の迅速な診断も重要となっている.

コーヒーブレイク

整理収納をちょこっと科学する―第9回:「IN-STOCK-OUT」の流れで考える―「STOCK」のテクニック

著者: 本多弘美

ページ範囲:P.826 - P.826

 前回は「STOCK」の分け方についての話でした.今回は「STOCK」するためのテクニックについて紹介します.

 「STOCK」の次のポイントは,適量を見極めたあと,収納するものをグループ分けし,使いやすく立体的に配置していくことです.例えばシンクの下,押入れやクローゼットなどの場合は,同じ収納スペースですが,サイズが違ったり,パイプや棚があったりで,一見違う収納スペースに見えますが,空間をXYZの座標軸と捉えれば,各収納スペースはサイズの違う箱としてみることができます.部屋全体も大きな箱とみなし,巨大収納容器とすることもできます.

地域での勉強会から―素晴らしい言語「手話」

著者: 馬場弘美

ページ範囲:P.853 - P.853

 現在,日本臨床衛生検査技師会では,生涯教育の一環として,各地で教養講座を開催しています.先日のいわきでの「手話教室」は大変よい経験になりました.

 みなさんは,耳の聞こえない(聴覚障害の)患者さんが来院された場合には,どのように対応していますか?社会福祉士の方が手話通訳として随伴される場合もあると思いますが,そうでない場合,筆談や身振り手振りでなんとかコミュニケーションをとろうとしていると思います.そのような対応は時間も掛かりますし,とても大変なことと思いがちでしょう.でも,実は聴覚障害者の方のほうがもっと不安で大変な思いをしているに違いありません.

自分史のキーワード―その2 オンラインによる迅速診療支援システム

著者: 江川重信

ページ範囲:P.865 - P.865

 自分史のなかで一番苦労し,知恵を絞ったと思うのはオンラインによる迅速診療支援システムである.

 病院経営改革計画に沿って病院に老年内科外来が開設された.開設されるに当たり,検査機能を有機的に活用するため,オンラインによる迅速診療支援システムを構築することになった.

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あとがき

著者: 永江学

ページ範囲:P.878 - P.878

 いまいち,盛り上がりに欠ける北京オリンピックが開催されますが,皆様はどのように観戦されますか?本誌はいつものごとく,各領域の論文などが掲載されておりオリンピックより面白いものではないかと自負しております.本年の夏も温暖化の影響で暑い日が続くと思います.アルコール分解酵素をもたない小生にはわかりませんが,ビールが美味しい季節なのでしょう.しかし,飲みすぎには注意してください.“病気のはなし”の急性膵炎を読んでいただければわかりますが,その原因のなかでアルコール性が多いそうです.一読してからビールをお飲みになってはいかがでしょうか?“技術講座”では,読者からの要望が比較的多い消化管超音波検査についてわかりやすく解説しております.スキルアップのためにも是非お読みいただければと思います.そのほかにも,情報が満載されておりますので手軽にお読みいただければと思います.

 女性にとって夏の日差し(紫外線)は,しみの原因として嫌われておりますし,遺伝子を傷つけるともいわれております.しかし,近年紫外線によるビタミンD生成が,免疫力を高め,癌発生などを抑えるとの報告が出ています.当然,長時間紫外線を浴びることは体によくありませんが,昼休みの短時間に日光に当たることはよいことだと思います.日光は生活リズムの調整やセロトニン合成促進により気分をリラックスさせてくれます.本誌を持って外の木陰で読めば,検査室で読む時よりは頭に入るかもしれません.

基本情報

検査と技術

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1375

印刷版ISSN 0301-2611

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